こいよ、魔法なんか捨ててかかって来い!
『鈴』
夕日に照らされる公園とはかくも儚く感じてしまうのは何でだろうかねぇ。
あっと、いきなり変なことを言って申し訳ない。毎度の如く鈴です。
あの温泉の日から幾日も経ち、その間もいつものようにジュエルシードの探索を行っておりました。
けどこれまたいつものように見つからずじまいで心が折れそうだと呟いてた矢先、ジュエルシードの反応があった。
現場はさっき言ったこの公園。俺たち五人は現場に駆けつけたと同時にフェイト達とも遭遇。ジュエルシードの発動体を撃退して、現在はジュエルシードを挟んで、フェイト達と睨めっこの途中ってわけでして。
「数日振りだね? フェイトちゃん」
「高町…なのは」
「なのはでいいよ」
「…そう」
「それでね、今からこのジュエルシードを賭けて戦うんだろうけどその前に教えて。ジュエルシードを集める理由」
「……」
「今回はダンマリはだめだよ? 以前は私たちが勝ったんだから約束どおりに話して」
なのはの言葉に苦虫を噛み潰したような表情を浮かべるフェイト。まぁ仕方ない。前回はそういう取り決めだったしね。
俺は引き分けだったと考えているけど、なのは達や向こうはそう思ってはいないだろうからな。
「私はある人のために集めてる。そしてその人は言った。障害は取り除けとも。その人のためなら私は……何でもする」
構えるフェイトに狼形態のアルフ。そしてその周囲に武器を持った見たことのない鎧姿が3体現れる。新たな戦力の投入に驚きはしたがみんなも慣れたもの、すぐにデバイスを構える。そんな中、俺はフェイトに少し違和感を感じていた。
なんというか……追い詰められてるような印象を受ける。この数日の間に何かあったんだろうか?
とにかく前回と違い、今回は向こうも数を揃えている。戦争は数だよ兄貴とはよく言ったものだ。気を引き締めないとな。
そして戦闘に突入する俺たちだが、今回は思いもよらぬ結果がもたらされた。
◆ ◆ ◆
それは戦闘が開始してすぐだ。
アリサがフェイトと接近戦を繰り広げようと一気にフェイトに突っ込む。俺はそれに合わせて援護と威嚇のつもりで【射撃】を放つ。
すると何ということでしょう。互いがぶつかり合うと思った瞬間、2人の間にいきなり1人の少年が現れたのだ。
【射 撃】 の 射 線 上 に!!
「ストップ! 時空管理局執務官、クロノ・ハラオウンだ! これ以上の――」
「しょうねぇぇぇぇん! 避けてぇぇ! 超避けてえぇぇぇぇっ!」
「…えっ?」
……うん。フェイトへの威嚇のつもりで撃った【射撃】が突如現れた謎の少年に直撃してしまったのだ。
だ、だって仕方ないじゃないか! まさかいきなり現れるなんて! そう、これは事故! 決して悪意や作為があったわけじゃないんだからね! 飛び出し注意!!
少年は当たり所が悪かったのか気絶してしまい、俺はパニックに。みんなは呆然としている中、いち早く我にかえったフェイトたちはジュエルシードを掻っ攫ってそのまま逃走。
後に残ったのは「衛生兵を呼べー!」とか叫びまくってる俺(錯乱中)と気絶した少年。あたふたしてる3人娘に必死に「落ち着いて!」と走り回るユーノの姿とすんごいカオスな空間あった。
結局その場はいきなり空間に出現した謎のモニター(?)に映った、これまた謎の女性に宥められることで落ち着きを取り戻すのであった。
◆ ◆ ◆
それから俺たちは復活した少年に連れられ、巡航艦『アースラ』という艦に乗ることになった。これから俺たちはこの艦の艦長と話をすることになっている。それまでにいろいろと事情を聞いた。
この少年は時空管理局執務官であること。今回は次元震の調査で赴いたこと。その際、危険な戦闘行為を行う俺たちを止めようとして、撃ち落された(この時、すんごい睨まれた)
……何だよ。謝ったんだからいいだろ。むしろ飛び出してきたそっちが悪いじゃないか。
時空管理局という組織については俺たちは以前、ユーノから話を聞いていた。簡単に纏めると、いくつもの次元世界を管理する警察と裁判所だとか。
それって組織としてどうなんだ?ってのが俺の感想だ。ぶっちゃけ素直に信用すれば痛い目をみそうだと感じた。なにより先生は時空管理局についてあまりいい顔をしなかったのも覚えている。
3人娘はこの珍しい光景に上京したてのおのぼりさんみたいに、あちこちに視線を飛ばしている。特にすずかの興味津々ぶりは凄い。
「ふあぁ、すごいね~」
「ほんと。B級映画のワンシーンで使われそうな所ね」
「そうですね……鈴君? どうしたんです?」
「……ファンタジーじゃなくてSFだったでござるの巻」
杖と称した精密機械の塊のデバイスに続いて今度は艦ですか。もうこれ魔法の名を借りた科学だよ。これだったらデバイス無しで魔法の使える俺の方がまだ魔法使いっぽいよ。
とかなんとかしている間に艦長室に到着。そして室内を見た俺たちは唖然とした。
盆栽・ししおどし・畳とか日本文化詰め込みすぎって言いたくなる部屋。そして中央に正座しているさっきのモニターの2、30代の女性。成程、艦長だったのか……とりあえずは。
「日本人に謝ってください」
「はい?」
これだけは言っておきたかった。
「『アースラ』へようこそ。艦長のリンディ・ハラオウンです」
「僕も改めて自己紹介しよう。時空管理局執務官、クロノ・ハラオウンだ」
同じだ。親子か?
「高町なのはです」
「アリサ・バニングスです」
「月村すずかです」
「ユーノ・スクライアです」
「秋月鈴」
紹介も終わって対話と称した事情聴取が始まった。
お互いがそれぞれの情報を提示する。
「以上が事の経緯の全てです」
「成程。1人でやろうとするその気概、立派だわ。だけど…」
「無謀だ」
ユーノの説明が終わった途端にこの言葉。先生の時と同じだな。それを思い出しているのか、ユーノも複雑な表情をしている。
そんなユーノを置いといて俺はジュエルシード、並びにロストロギアについて思考を移した。
次元干渉型のエネルギー結晶体…それがジュエルシードの正体。他の世界にも影響を与える次元震、果ては崩壊させる次元断層を引き起こす可能性を秘めた代物。
最悪である。危険だとは思っていたが、
これは認識を改めざるをえないな。こんな事なら先生に手を貸してもらうんだったよ。しかも俺たちは2つも壊してるんだよな。それが切欠で大災害を引き起こしたかもしれないとか、今までは運が良すぎだ。
「これより、ロストロギア『ジュエルシード』の回収については時空管理局が全権を持ちます」
「君たちは今回の事は忘れて元通りの生活に戻るべきだ」
「待ちなさいよ! それじゃ納得できないわ!」
「君たち民間人の出る幕じゃないんだ」
喰ってかかるアリサをクロノは切って捨てる。なのはもすずかも同じなようで納得いかないって顔をしている。
「まぁ急に言われても気持ちの整理も出来ないでしょう。一度家に帰って、みんなで話し合うといいわ。その上で改めてお話ししましょう」
リンディさんはそう言って締めくくるが、その言葉に俺は違和感を抱いた。だから迷わず口に出してしまった。
「何かおかしくないですか?」
「鈴君?」
「鈴?」
「おかしい…とは?」
「民間人がでる幕じゃないんだったら話し合う必要はないじゃないですか。問答無用で強制退去が普通ですよね?」
「そうね」
「……もしかして……俺たちを誘導しようとしてました?」
「……」
「なんて事を言うんだ君は!?」
クロノが険しい顔でこちらを睨むがそれどころじゃない。リンディさんは艦長という役職に就いてるんだ。政治的立場での腹芸ができても不思議じゃない。
「ぶっちゃけ、俺たちは厚意で探索を手伝った。イコールお人好し。現に今もなのは達はあなたの決定に納得してないしな。そんなお人好しは今回の件を見過ごせない」
「……」
「そんな使える人材である俺達にあなたは立場からか協力してくれとは言えない。ならこちらから協力させようとした……とか考えすぎでしょうか?」
そうすれば身柄は向こうのものになり、あれこれ命令もできるようになるしな。
気がつけば室内は異様な静寂に包まれていた。なのはもアリサもすずかもユーノも真剣な表情を向こうに向ける。リンディさんは真っ直ぐにこちらを見つめている。俺はそれを真っ向から受け止める。
やがてリンディさんは小さく溜め息を吐いた。
「…ふぅ、その通りです」
「艦長!?」
「正直、このロストロギアをまともに封印できるのは、私かクロノしかいません。他にも集めている輩が居る以上、コトは迅速に行わなければなりません。戦力は一人でも多いほうがいいですからね」
「やけにあっさりと白状しましたね」
「下手に隠して信用を失うよりはという結論よ」
「その言葉、一応は信用します」
どうやらこの人自身はある程度信用しても大丈夫な人らしい。俺は腹芸は得意じゃないからどの辺まで信用していいかわからないけど。
「では協力でどうでしょう?」
「協力?」
「はい、こちらが与えるのは戦力と確保したジュエルシード。そちらはジュエルシードの位置特定と下手な詮索や命令はしないということです。そちらにとっても、悪い話ではないと思いますが?」
「……何だか最後の一文に凄くイラッときたぞ」
おおう、オーメルの仲介術のウザさは次元を越えても健在のようだ。
まぁとにかく、向こうは戦力とロストロギアの両方が手に入る上に、損することは全くと言っていいほど無い。取引としての天秤は釣り合っていないが、元々報酬とかを期待してやってたことではないのでこちらも損得は気にならない。要はジュエルシードを何とかしたいだけだ。
「で、どうでしょう?」
「いいわ。それで手を打ちましょう」
交渉成立っと。
「勝手に話を進めてしまったけどみんなもそれでいいか?」
「うん、いいよ」
「別にかまわないわよ」
「はい」
「僕もそれでいいよ」
「というわけなんで今後、よろしくおねがいします」
当面はこれでいいけど後は……フェイトの問題だよなぁ。フェイトの言った『ある人』ってのがねぇ。誰だか知らないけどよほど大切な人らしい。
向こうからこちらは障害認定されちゃってるし……どうしよう?
◆ ◆ ◆
『アースラ』のブリッジにて。
「すごいよクロノ君。さっきの戦闘で検出したんだけど、なのはちゃんとすずかちゃん、それとあの黒の女の子に至ってはAAAランク。アリサちゃんはAランク程だけど最大出力値はSに届きそうな勢い。それにこのユーノ君も中々に優秀だよ」
「管理外世界でこれほどの魔導師が居るとはな……」
「それと気になったんだけど…」
「何かあったの、エイミィ?」
「この鈴って子の数値なんだけど…Eなの」
「はぁ? それはおかしい。この映像だけで見れば彼の魔法はAA以上のものだ。とてもEランクの扱えるものじゃない」
「で、でも彼の魔法は私達でも見たことの無いものなんだよ。ということは…」
「彼の魔法は僕達のものより遥かに優れている未知の魔法……」
「それについて彼に聞いてみたりした?」
「したよ。そうしたら…」
『あれは日本に古代より伝わりし一子相伝の秘術――陰陽術です』
「だってさ」
「…それって嘘なんじゃ?」
「ああ、嘘だろうね。でももう下手な詮索はできない。全く、腹立たしいよ」
「どこで覚えたんだろう?」
「さあね」
「あ、あとね。彼とアリサちゃんの魔力の波長や質がほとんど一緒なのよ」
「……不可解だらけだ」
「本当に何者なんだろうね?」
たいしたワケがあるわけでもないのに伏線っぽく締める。