魔法少女リリカルなのは~ご近所の魔法使い~   作:イッツウ

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今更の通達なのですが、この作品に関しての疑問などございましたら遠慮なくどうぞ。

可能な限りお答えします。


12・温泉を……?

『鈴』

 

 

 どうもー! 

 秋月鈴です!

 ……うん。

 このテンションは無いわ。自分でやっておいて何だけど舌噛みたくなった。まぁ許してほしい。

 

 さてと、世間は連休に突入。その連休中はなんと温泉で過ごすのだ。元々これは高町家の恒例行事なのだが高町家と親睦を深めるようになってからは秋月家も参加するようになった。

 だが今回のこの旅行には高町家、月村家、秋月家、アリサ、ユーノという大所帯で旅館まで車三台動かしての大移動。それぞれが車で楽しく談笑中。先生も機嫌良さそうに鼻唄歌いながら運転している。旅行って目的地に着くまでの道中でも楽しく思えるから不思議だ。

 今回の旅行は本当に助かった。今までのジュエルシード騒動でまともに休めた事がほとんど無かったからな。今まで本っっっ当にいろいろあったから2泊3日、旅行中くらいは素直に羽を伸ばすぞ。

 これってジュエルシード出現フラグにならないよな?

 

 

 

 

 

 少々山奥の旅館に到着し、さっそく荷物を持って部屋まで移動する。俺たち秋月家は3人分の荷物なので少量ですむが、他は荷物がかさばって大変そうだ。

 

「へぇ~、これが日本の旅館か~」

 

 ユーノは旅館が初めてなのだろう、あちこちに眼を遣りながら歩く。

 今回のユーノはフェレット状態ではなく、ちゃんとした人間状態だ。最初は宿泊費もかからないフェレットでいいと主張していたが、先生が『おまえも人間ならちゃんと楽しめ』とユーノの主張を断る。その心遣いをユーノは素直に受け取って今に至る。

 

「ねえ鈴。なんで日本の旅館は卓球場があるの?」

「さあ?」

 

 なんでだろうね?

 

 

 

 

 

「はぁ……生き返るぅ~」

「本当。気持ちいいね」

 

 風呂場は俺とユーノの2人だけ。他の客も居ないのでまるで貸切のように寛げれるのでもう最高としか言いようが無い。士郎さんと恭也さんは後から入るとの事。

 

「以前のお茶会と時といい、休暇らしい休暇はほとんど潰れたからなぁ。ほんと至福のときだよ」

「それについてはごめん。僕のせいで」

「別に皮肉のつもりで言ったわけじゃないって。おまえのせいじゃないし気にしすぎだ」

「でも…」

「それにその話は終わったろ? だから何時までも引き摺るな」

「…うん。ありがとう」

「じゃあこの話は終わりだ。今日は存分に楽しめ。なんだったら背中流してやろうか?」

「はは、遠慮しとくよ。そうだ、鈴ってさぁ…」

「うん?」

「蓮さんとどう知り合ったの? 保護者って言うのは知ってるけど」

「ああ、それか」

 

 ユーノの問いにかつての『鈴』になる前の……ほとんどが欠けてしまった記憶をなんとか思い起こす。

 

「別にたいしたもんじゃないぞ? 俺の本当の母親と先生が友人同士でな。母さんが死んだ後に俺を引き取ったのが先生だったって話さ」

「えっ? ってことは鈴の両親は…」

「とっくにこの世には居ないさ。父さんも母さんより先に亡くなった」

「…ごめん。気軽に聞く話じゃなかったかな?」

「いや、本当に気にしてないぞ」

 

 『鈴』になる前、『■■■』だった頃の話しだしな。正直、この体になる前の記憶は随所随所が欠けていて『■■■』だったころの出来事はもう他人事のような感じなのだ。

 『■■■』は禁術指定されている先生の魔法の失敗で魂は砕けバラバラになった。それを先生の手により魂の一部を新たな肉体に移して甦った。だがさすがに先生も失われた魂の復元まではできず、『■■■』は記憶や経験の大半を失くしたままだ。

 そうして新たに蘇ったのが俺という存在。

 一部の魔法や経験、記憶は覚えていたがそれも本当に少し。だからこそ、当初自分は『■■■』だと実感できなかった。

 先生から『■■■』の事を聞いて、思い出そうとしたこともあったけど俺の場合は記憶喪失ではなく、魂の破損による記憶破損。思い出すことは無いだとさ。

 それなら『鈴』として新たに生きていくとして今ここにいるのが自分なのだ。ちなみに『鈴』の名前は先生がつけてくれた。

 

 俺はこの事実を今のところ誰にも話すつもりは無い。必要の無いことだと思ってるから。

 

「鈴?」

「とりあえずはそのぐらいかな? 次はユーノのことを話してくれよ」

「えっ?」

「俺だけ話すのは不公平だ。次はユーノの番だ」

「うん、そうだね。じゃあ何を話そっか?」

「ユーノの一族とか育った環境とか教えてくれよ」

「いいよ。僕の一族はね…」

 

 それから俺たちはのぼせる一歩手前まで、お互いのことを話しまくった。家では話せなかった事も温泉で気が緩んだのか、気軽にぶっちゃけることができた。

 

 ただ、ほとんど無くなった遠い記憶を想うとすこしだけ物悲しくなった。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

『すずか』

 

 

 お風呂を堪能した私となのはちゃん、アリサちゃんは一足先にあがります。いつも家では1人で入っているお風呂も、みんなと入るんで楽しくなっちゃってついつい長風呂しちゃった。その後、鈴君に念話で話してみたけど鈴君はまだユーノ君と入浴中。仲良さそうでなによりです。

 

「お風呂も入りましたし、これからどうしようか?」

「う~ん、卓球場があるから行ってみたいかな?」

「なのはは…お土産を見てみたい」

「何言ってんのよ。温泉といったら卓球、これは決まりなのよ! いや、もはや伝統よ!」

「「その理屈はおかしい」」

 

 これからの予定を話し合っていたら前の方から声をかけられました。

 

「はぁ~い、おチビちゃん達♪」

 

 その声につられ、見てみると見たことの無い女性がいました。年齢は20歳くらいのグラマラスで野性味を感じる魅力的な女性です。

 …体の一部を見て、うらやましいと思ってしまったのは内緒。

 その女性は私たちをじろじろと見渡し、なのはちゃんを見据えるとニヤリと小さく笑みを浮かべる。その様子に私たちは怪訝な表情を浮かべるも、女性は気にせずに話し始めます。

 

「この前は世話になったねぇ」

「この前って?」

「そういや、あの黒髪のガキはいないのかい? 会ったら、ぶん殴ってやろうかと思ったんだけど」

「あの…あなたは…?」

「おや? 一戦交えた相手も覚えれないのかい?」

「それって…まさか!?」

 

 女性の言葉に思い当たったのか、なのはちゃんは胸元のレイジングハートを握り締める。よくわかってない私とアリサちゃん。

 

「なのは、誰なの? この人」

「…この前話した鈴君を襲ったあの子の仲間」

「「!?」」

 

 なのはちゃんの言葉に私はクロスを握り締める。隣でアリサちゃんも同じようにグローリーを右手に掴んでいつでもセットできるように構えている。

 なのはちゃんから聞いた話では狼の姿だったと言いますが、蓮さんの話ではその狼は使い魔。人の姿にもなれると教えてもらいました。恐らく目の前の女性はその狼が人となった姿なんでしょう。

 女性はそんな私たちに臆する様子も無く、相変わらずニヤニヤと笑みを浮かべる。

 

「一つ忠告しとくよ」

 

 その言葉を吐くや否や女性の小馬鹿にしたような薄ら笑いの笑みから一転、獰猛な笑みを浮かべる。さらには女性からプレッシャーが放たれる。そのプレッシャーに私たちの体を強張らせる程でした。

 

 

「ガキ共は大人しくしてな。それでも立ち塞がる気なら……容赦しないよ」

 

 

 その言葉と込められる殺気と本気の覚悟に中てられて思わず頷いてしまいそうになりますが……。

 

「だ、誰が! あたし達だって引く気は無いのよ!」

 

 そんな殺気に飲まれそうになりながらもアリサちゃんは精一杯の気力を振り絞り、虚勢でありながら抵抗をする。そのアリサちゃんの姿に私となのはちゃんは続くようにして声をあげる。

 

「わ、私だって引く気はないの!」

「私もです」

「そうかい。だったらここで潰してあげようかねぇ」

 

 私たちの言葉を聞いた女性は、ゆっくりを手をこちらに向ける。

 

「こらこら、子供を苛めるもんじゃないぞ」

 

 私たちの後ろからの声にその手を止める。その声に振り向けば、女性に負けない位の魅力を醸し出す浴衣姿の蓮さんがいた。お風呂から上がったばかりだからか、仄かに赤みのかかった顔やうなじはとても扇情的で思わず見惚れてしまいそうです。

 

「アンタは?」

「この子達の引率者さ」

「…ふん!」

 

 女性は腕を下ろし、私たちの横を通り過ぎて行く。その後姿を私たちはただ見送るだけでした。

 

「大丈夫か?」

「は、はい。ありがとうございます」

「少し怖かったです」

「……ねぇ、蓮さん」

「ん?」

 

 不意になのはちゃんは蓮さんに尋ねる。

 

「私たちはあの人と…あの子とも戦うことになるんですよね?」

「そうだな……戦いたくないのか?」

「…はい」

「そうか…」

 

 その様子には小さくため息を吐く蓮さん。

 

「甘えるなよ、なのは」

「!?」

「おまえは話をしたいと言ってるけど、それは通じないだろうな。言葉だけでどうにかなるほど、魔法の世界は甘くもないし、優しくない」

「で、でも…」

「だから…一度、お前の想いをぶつけろ。そのうえで話をしてみろ。つらいだろうがそうすれば届くかも知れんぞ?」

「……」

「まぁ個人的にはなのはのその尊い気持ちを応援するけどな」

「えっ?」

 

「私もどちらかというと甘ちゃんと呼ばれる部類なんだ。さて、私はもう行くよ。すまなかったな、きついことを言って」

 

 そう言って、軽く手を振って去っていく蓮さん。その姿にさっきまでの尖ったようなものは無く、いつもの蓮さんのソレでした。

 見送った後、隣を見るとなのはちゃんは眼を閉じ、俯いていました。その胸中にどんな想いが渦巻いているか、今の私には窺い知れませんでした。

 

「なのは」

 

「なのはちゃん」

 

「…うん、そうだね…うん!」

 

 そしてなのはちゃんは何かを決めたようです。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

『鈴』

 

 

 風呂から出た俺はユーノと別れ、火照った体を冷まそうと思い、1人で旅館の外の森の中を散歩していたわけだが。

 

「……」

「……」

 

 先日の金髪少女にデバイスを突きつけられていた。簡単な話、エンカウントしたってだけなんだけどな。

 

「君がここにいるって事は…この付近にジュエルシードがあるんだね?」

「…答える必要はない」

 

 OK。その答えだけで十分だ。つまりあるんだね? 

 

「……orz」

「…えっ?」

 

 地面に手をつき、膝をつき項垂れた。少女はそんな俺のいきなりの行動に戸惑いの声を漏らしたような気がしたけど構ってられない。

 

「……」

「え~と…」

「……」

「…あ、あの?」

「……でだよ」

「えっ?」

「何でだよおおおぉぉぉぉぉ!!!」

「ひぅっ!?」

 

 うがぁぁっ!と立ち上がり、とりあえず近くの木に八つ当たりする。

 

「今! 連休中だぞ! 俺は! 今日は! 温泉旅行に! 来たんだぞ! 空気読めや! ジュエルシード!」

 

 八つ当たりでがむしゃらに殴られた木は真ん中からへし折れる。どうやら無意識のうちに【強化】してしまったようだ。

 だがが俺の鬱憤は晴れる事はない。そこにこちらを怯えた表情で見ている少女を見つけ思わず駆け寄り、その肩を掴む。

 

「あんたもあんただぁ! 何で今日に限って見つけたジュエルシードが此処のなんだよ! せめて日にちをずらして見つけてくれよぉ! そうすれば俺はジュエルシードの存在に気付かず、ゆっくりと連休を楽しめたのにぃ!」

「ぁぅ、ぁぅ、その…ごめ…ん…なさい」

「謝っても、もう遅いわぁぁぁ!」

「う、うわぁぁぁぁん」

 

 

 

 

 

「ひ、ひぐ…えぐ…えぇぇん」

「マジでごめんなさい」

 

 俺の八つ当たりをモロに受けた少女は本気で泣いてしまって、その姿にやっと冷静さを取り戻した俺は土下座を実行。八つ当たりで少女泣かすって俺ってマジで最低の鬼畜野郎だ。超猛省。

 

「ほ、ほ~ら嬢ちゃん。ラムネあげるから泣き止みな」

「ぇぐ…えぅ…ラム…ネ?」

 

 よし食いついた! 喉を潤すつもりで売店で買った物だけどまさかこんな場面で役に立つとは。

 

「そう、ラムネ。冷たくて、甘くて、古今東西、老若男女に愛されている清涼飲料水!」

 

 ちょっと誇張が過ぎたかもしれないがこの際どうでもいい。とりあえず泣き止んでもらうのを優先しよう。

 さっそくラムネの蓋であるビー玉を押し込む。ポンッ!という独特の音に少女がビクッ!って怯える姿がちょっと可愛いかった。

 

「ほい、溝にビー玉を引っ掛けて飲んでくれ」

「あ、ありがとう…」

 

 両手で受け取り、ゆっくり飲み始める少女。コクコクッと飲む姿は小動物系を思わせ、やっぱり可愛かった。

 

「あ、初めて飲んだけど…おいしい」

「お気に召したようでなにより」

 

 とりあえず泣き止んでくれた事に安堵し、もう一本のラムネに手をつける。ビー玉を押し込み、さっそく一口。

 うん、うまい。少女の方も静かに飲み続けている。

 

「……」

「……」

 

 ……………何?この空間。

 

「あ、あの」

「んあ?」

「さっきはごめんなさい。いきなり武器を向けたりして…」

「え、ああ、いや…お互い対立してるんだから仕方ないって。それに謝るのは俺の方なんだって」

「いいえ、それでもやっぱりこっちが―」

「いや、それこそ俺のほうが―」

「―! ――!?」

「―!?」

 

 ……………だから何?この空間。

 

 

 

 とりあえずあのままだと無限ループに陥りそうだったので、強制的に打ち切って別の話題に移る。

 

「…でね、ジュエルシードって本当に危険なんだ。だから俺たちはそれを回収して、然るべき所に引き渡す予定で居るの。だからそちらが持っている分をこちらに渡してくれないかな?」

 

「それは…できません」

「ですよねー」

 

 当たり前だが却下されたので、これ以上の催促は止める。渡してくれたらラッキー程度にしか考えてなかったから別に痛くもなんとも無いけどね。

 

「えっと、それだけですか?」

「何が?」

「いえ、もっと催促してくるものかと」

「あぁ、君も何かの理由があって集めてるんだろ? 俺は別に警察でも管理局員でもないから無理強いはしないよ。それに俺はどちらかと言うと監督役みたいなものだしね」

「監督役?」

「そ。元々集めると言ったのはなのは達……この前、君に立ち塞がった他の四人なんだけど、あいつらって何処かで無茶をするような性格なんだ。だから成る丈無茶をさせないようにする監督役が俺」

「そうですか」

 

 それっきり、また会話が途切れる。散歩のつもりが思った以上に時間が経ってしまったので、これを契機にして旅館に戻るとするため立ち上げる。その様子を察した少女も立ち上がる。

 

「最後に頼みがあるんだけど」

「?」

「君が以前、打ち負かした子…なのはっていうんだけど、その子が君と話してみたいって言うんだ」

「はい」

「その子がもし戦いたくない、話をしようっていうんだったら……無視して遠慮なく戦ってあげてくれないかな?」

「えっ?」

「なのはのその気持ちは尊いものだし、尊重すべきなんだけど…それではいつか必ず足をすくわれる。だからなのはには知ってほしいんだ。言葉だけじゃない、決意や覚悟を示す場面を」

「…監督役はそれでいいんですか?」

「本音はダメだけど……なのはは魔法に関わりすぎたからね。今更、引き返すことはないだろう。だったらいっその事、知ってほしいんだ」

 

 その点、アリサやすずかは大丈夫だ。アリサは大会社の令嬢、すずかは夜の一族っていう立場があるからその辺はある程度わかってるからな。

 

「わかった。私にも譲れないものがある。だから…遠慮はしない」

 

 さて、どうなるかな?

 

 




主人公の設定がうまく説明できてるのか心配になりますね。

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