『鈴』
「クッ!?」
咄嗟に機体のブーストを吹かし、迫り来るミサイルの雨を紙一重でかわす。
だが、まだだ!
相手はそんな俺の動きなど読んで当たり前のような猛者。このままでは必ず遠距離からの攻撃で追い詰められる。
だからこのまま前進あるのみ!!
「切り裂く……止めてみろ!」
残り少ないブースト残量の全てを使い切る覚悟で奴に突っ込む。幸い俺の機体はスピードには自信がある。一気に間合いを詰めるには問題なし。
「くらえ!」
左腕のブレードで奴を仕留めようとしたが…。
「何だと!?」
奴は肩の大型グレネードランチャーを地面に向けて撃ち、自身が損傷することも厭わず、巻き起こした爆風でこちらの突進を防ぎやがった!
おまけに奴はその爆風に紛れて高速で移動し、俺の視界から姿を消す。
「ど、何処に……あっ!」
奴の姿を探すためその場で立ち続けたのがいけなかった。気がつけば背後から奴はすれ違いざまにブレードでこちらに止めをさした。
機体のあちこちから炎を吹き出し、最後に一際大きな爆発を放ち動かなくなる俺の機体。今この瞬間、勝負は決したのだ。
LOSE
「ば、ばかな……これが俺の最後だというのか」
俺は力なくコントローラーを床に落とす。テレビ画面に写るLOSEの文字がやけに哀愁漂う。負けたことに悔しくなり、負け犬の遠吠えだとわかりつつも2P側の相手に吠える。
ゲーム機から伸びる2P側のコードの先には……。
「狙ったか! レイハさん!」
《誰であろうと…私を超えることなど不可能です》
なのはの頼もしき相棒、レイジングハートですが何か?
今日は日曜日。全国の小学生たちが諸手を上げてヒャッハー!する休校日。小学生の大半は『遊ぶ』に選択肢を割り当てるだろう。俺も例外ではなく、本日はなのはにアリサにすずかの3人がウチに遊びに来てます。それに加えてユーノと今日は先生もいるのだから大所帯だ。
……最近この三人娘の誰か1人がウチに高確率で居るような気がするが気のせいにしておこう。だから部屋の一室に3人分のお泊りセットが常備してあったり、洗面所にある色とりどりの歯ブラシも気のせいだ!
それは置いといて……実はウチはゲームの種類がかなり豊富なのだ。先生がかなりのゲーマーで、今使ってるプレステはもちろん、セガサターンにドリームキャスト、スーパーファミコン、初代ファミコンまで現役という(押入れの中にはゲームギアとかバーチャルボーイ等、まだ色々あるそうな)
そして、エロゲーやネトゲにまで手を出すという……廃人ですねわかります。
最初はユーノ相手に遊んでたのだが横から見ていた3人娘が触発されたのか、勝負を挑んできた。それをことごとく返り討ちしていくと悔しかったのか、なのはがレイハさんに泣きついのだ。
「うわ~ん!? レイジングハート~、なんとかしてぇ」
《そう言われましても私にはどうしようも…》
「ふむ、だったら私が遊びで作ったこの対戦ケーブルを使ってみるか? 繋げればデバイスAIとも対戦できるようになるぞ」
《えっ?》
「いや、昔デバイス相手に対戦できないかなぁと思って作った代物だ。使ってみるか?」
《お願いします! マスターの仇は私がとります!》
「あの、レイジングハート?」
「レイハさん。たとえあなたが相手でも……向かって来るというのなら容赦はしない!」
《鈴殿、心苦しくはありますが、マスターが討たれたとあっては私とて黙ってはいられません! マスターの仇をとらせていただきます!》
「私が死んだみたいになってる!」
「何? あの茶番」
「あはは……私のクロスもあんな風になっちゃうのかな?」
《ご冗談を》
「僕もレイジングハートがあんな風になるとは思わなかったよ」
「鈴ったら何でレイジングハートとあんなに仲がいいのよ?」
「鈴曰く、『抱き枕の心をわかってくれたから』だってさ」
「「どうことなの?」」
そんな経緯を経て、レイハさんと対戦することになった。最初の方は俺が勝っていたのだが相手は高度な演算能力を有するデバイス。徐々に苦戦するようになり、当たり前だが最終的には俺の負け越しとなった。
途中からレイハさんの様子がおかしくなっていった気がする。インテリジェントデバイスだから学習するのはわかるけどさ。
3戦目
《修正プログラム 最終レベル》
4戦目
《全システム チェック終了》
5戦目
《戦闘モード 起動 ターゲット確認 排除開始》
どこかで聞いたような台詞であり、5戦目にはもうコテンパンにやられてしまったのだ。やっぱり高性能デバイスにゲームで勝負は無理だった。
「さすがレイジングハート、ありがと!」
《マスターの仇をとる……それが私の使命》
「ちっくしょぉぉぉぉぉ!!」
◆ ◆ ◆
「悪いなアリサ、買い物に付き合ってもらって」
「いいわよ別に。今日はご馳走してもらうわけだし」
今の時刻はお昼を過ぎた頃。先生の提案でもうこのまま3人娘も夕食を一緒にするということになったので材料の買い出しに出かけた俺とアリサ。さすがにご馳走してもらうだけでは悪いからとアリサが率先して手伝ってくれたのだ。
一応、他のみんなも手伝うつもりだったらしいが2人いれば十分だったので断った。
「それで今夜は何を作るつもりなの?」
「そうだなぁ……人数も多いし、シチューとかどうだ?」
「ん、文句なし。あんたの料理っておいしいから楽しみにしておくわ」
「おっと、だったらお姫様のために腕によりをかけて作らせていただきます」
「なっ!? お姫様って……」
えぇと……じゃがいも、にんじんはあったけど量が少ないから結局は買い足さないとな。鶏肉もだ。今日はホワイトソースから作るから……ん?
「アリサ、どした~? 置いていくぞ?」
「お姫様……お姫様……って、あ…ま、待ちなさいよ!」
どうしたんだ?
「お?」
「どうしたのよ?」
「あれ」
俺の指差した方向、道路を挟んだ向こうには男の子と女の子がいた。2人並んで歩き、互いに話しながら時折笑顔を浮かべ、幸せそうに歩く少年少女の姿があった。
「……リア充爆発しろ」
「何か言った?」
「い、いや。あの男のほうの格好に覚えがあって…」
「ああ、なのはのお父さんのサッカーチームのユニフォームね。女の子の方もあの男の子といる姿を良く見るわね」
「士郎さんの……ああ、そう言えば今日試合だったっけ?」
思い出した。士郎さんがコーチのサッカーチームが試合があるから見学に来ないかと以前誘われたんだった。気が向かなかったから丁重に断ったんだけどね。それに行ったらあの人、執拗に俺をチームに入れようとするだろう。勘弁してくれ。
「それにしても仲良さそうな2人ね」
「試合が終わった帰り道に二人でデートとか……リア充爆発しろ」
「だから何言ってんのよアンタ?」
そんなくだらない遣り取りをしていると男の子のほうがポケットを弄り、女の子に何かを渡そうとしている姿が見受けられた。
「あれか。給料三ヶ月で『結婚してください』とかか? リア充ばk」
「あんた、そろそろ静かにしないとデバイスで叩き斬るわよ?」
「スイマセンゴメンナサイモウイイマセン」
やっぱりくだらない遣り取りしている内に男の子がポケットから出した物は、青くとても綺麗な宝石のような石で俺たちも見慣れた――
「「って、ジュエルシード!?」」
おいおい。偶然にしたってこんな場面で見つけるとかありえん。プレゼントにするには物騒すぎるぞ。たしかに何も知らなければ綺麗な石だが。
……ジュエルシードから強力な魔力の反応? まさか!?
「おい!! そいつから手を離せ!!」
急に魔力反応を感じとった俺は2人に向かって叫ぶが間に合わず、男の子の手の中のジュエルシードは強烈な光を発した。
「クソッ!」
「グローリー! 起きて!」
《了解》
その光景はとても悲惨なものだ。
まず眼に留まるのはとてつもなく巨大な1本の大樹がジュエルシードの発動箇所から天に向かって伸びていた。その幹から分かれた枝は背の高い建物をなぎ倒し、未だに成長を続ける根は道路を割り、地面を蹂躙し続けている。
大樹が意思を持っているが如く、街を侵食していっている。
俺は街の被害を最小限にしようと咄嗟に結界を展開。アリサが俺たちを護るようプロテクションを展開したおかげで俺たちは無事。
「これは…半端じゃねえなぁ」
そう呟いた俺は隣のアリサを見遣る。
動きを阻害しないように覆われた白銀に輝く胸当てにブーツ。腰から足元までを覆う魔力保護が施された布地。右手はフィンガーレスグローブ。左手には紋様が刻まれた大きな手甲。長い髪を軽く押し上げるように装着された鉢金。
さらに右手に持つはアリサの体型には不釣合いな巨大なハルバード型のアームドデバイス「グローリー」の存在。
ベルカ式バリアジャケット『騎士甲冑』を纏うアリサの姿はまさしく神話などに登場するような戦乙女を連想させる。
「アリサ、起きてしまったことを何時までも悔いてもしょうがない。今は早く解決するように行動するべきだ」
「……わかってるわよ」
「…そうか」
その後、俺たちは樹木から大きく離れたビルの屋上に避難し、この事態を察知したなのはとすずか、フェレット姿のユーノと合流した。2人ともバリアジャケットを纏ってすでに準備万端の様子。
「おまたせ、2人とも」
「大丈夫ですか?」
「ああ。もっとも、街は大惨事な上にこの植物、まだ成長を続けてる」
そう、まだ成長しているのだ。このまま成長し続ければ俺が咄嗟に張った結界を内側からを突き破って現実世界に被害を出すだろう。
「ユーノにすずか。早速で悪いんだが、結界を張り直してくれ。そして今回は2人とも結界の維持に努めてくれ」
「わかった」
「わかりました」
俺の言葉にユーノとすずかは魔法を発動させる。
「封時結界!」
「クロス、結界の再構築を」
《承知。結界発動》
二人の結界が発動し、今までの急場凌ぎのものよりもしっかりした結界が張られる。とりあえずはこれで大丈夫だろう。
「それでどうするつもりなの?」
「やっぱり、こういうときは遠距離がセオリーだろ。というわけでなのは、あの大樹に向かって砲撃。あそこがジュエルシードの発動点だ」
「うん、レイジングハート!」
《了解》
なのはがレイハさんを樹木に向けて魔力のチャージを開始する。前回の時と同様、なのはの砲撃で強引に封印を考えていた時だった。
「っ!? みんな跳んで!!」
ユーノの叫びが響き渡る。なのははチャージを中断。ユーノもなのはの肩にしがみつく。俺たちは考えるより先に飛行魔法を使いその場から上空に飛ぶ。
「……げっ」
さっきまで俺たちの居たビルが幾重もの植物の根によって飲み込まれていったのだ。ユーノの警告が無かったらと思うとゾッとする。
「あ、危なかった」
「でも今のって…」
《はい。あの根はマスターのチャージした魔力に反応しました。よってチャージを必要とする大出力の砲撃の行使は狙われるでしょう》
なんてこったい。なら俺の遠距離攻撃魔法もダメか。
すずかとユーノは結界の維持になのはの砲撃は恰好の的。となるとあの根や枝を突っ切って大樹に接近してジュエルシードの封印か。
「俺とアリサであの大樹に近づいみる。アリサ、ジュエルシードの封印頼めるか?」
「わかった。絶対に封印してみせるわ」
「あまり気負いすぎるなよ。いざとなって力が入りすぎると失敗してしまうからな」
「心配いらないわ。大丈夫だから」
だといいけどな。
「というわけで俺とアリサで近づいて封印をする。なのはは2人の護衛をしててくれ」
矢継ぎ早に告げると俺とアリサは大樹に向かう。
「このぉぉぉっ!」
「【斬撃】!」
大樹に向かって突き進んでいる俺たちだが思った以上にキツイ。自身の危機を察知しているのか、無数の根が触手のように襲い掛かってきてそのたびにアリサがグローリーを振るい、俺も魔法で根を切り落とす。もうすぐで辿り着くんだが俺はともかくアリサが思った以上にダメージを負っておる。なんかかなり必死になっているというか…少し、危ういか?
「っと、到着したか…」
大樹の元に到着する。近くで見るとこの大樹の巨大さに圧倒されそうになる。ジュエルシードはどんな願いに反応してこんな大樹になったんだ?
「要救助者、はっけ~んっと」
上のほうを見上げると、枝と枝に守られるように寄り添うあの2人がいた。意識が無いのかピクリともしないが救助する身としてはやり易い。
2人をゆっくりと抱えるとある事に気がつく。
「ジュエルシードを持っていない?」
そう。あるはずのジュエルシードが無いのだ。ということはジュエルシードは持ち主の手を離れて発動していると言うことか?
まさか暴走してる?
そんな予感を感じた時、空気を読んだかのように大量の樹の根が再び襲い掛かってきた。
咄嗟にその一波をかわして、すぐに保護した2人を封時結界の外に転送して身軽になり、次々と襲い掛かってくる根をかわしながらアリサに伝える。
「アリサ! ジュエルシードが暴走している! 恐らくこの大樹の中だ!」
「大樹の中ってどこなのよ!?」
「今から探査して位置を特定する! それまでこの場をもたせてくれ!」
「早くしなさいよ!」
アリサの叫びを耳に大樹に触れ、魔力の流れを感じる。
何処だ?
…何処だ?
……あった!?
「中央だ! この大樹の中のほぼ中央!」
「わかったわ!」
アリサはグローリーを構え、大樹に切りかかる――が。
「硬っ!? 刃が通らないわよ!」
「ちゃんとデバイスに魔力を通せ! 【衝撃】!!」
大樹の幹に全力で拳を叩きつける。
「って、マジで硬っ!?」
おい、【衝撃】で軽く陥没する程度かよ。これじゃあなのはの砲撃でも通用したかどうか。
だがどうする? 【衝撃】以上の威力の魔法だとちょっとしたチャージが必要になる。チャージするとなると根が一気に来てチャージどころじゃない。
そんな思考を加速させていた俺の耳に聞こえてくる。
「何で!? 何でダメなのよ!」
見ればアリサは何かに取り憑かれたように樹木に向かってグローリーを振るう。しかしどう見てもダメージが通ってない。
当たり前だ。今のグローリーにはうまく魔力が伝わっていない。それではただの武器としての威力しか発揮できない。デバイスとして使わなければ。
「アリサ落ち着け! ちゃんと魔力を通して…」
「通してるわよ! でもダメなのよ!?」
あのバカ、熱くなりすぎだ。
グローリーは使いこなせれば攻撃力はデバイスの中でもダントツ。もしかしたらこの大樹にダメージを与えることもできるかもしれないが、今のアリサは頭に血が上って使い方を忘れてやがる。
おまけに大樹に集中しすぎて周囲の警戒が疎かになってやがる。さっきから何回、アリサのフォローに回ったと思ってやがる。
…仕方ない。
「すまん!」
「何よ! って、うわ!?」
アリサを抱きかかえて一旦上空に退避する。さて、説教なんてガラじゃないんだが…。
「ちょっと何するのよ!? まだっ」
怒りに染まる顔に平手打ちをかます。
「っ!?」
「何で叩かれたか頭のいいアリサならわかるよな?」
「……」
「何を焦ってるのか知らんがこれで頭も冷えただろ?」
「…うん」
「だったらこれ以上は言わない。うまくやろうな?」
「…うん、ごめん」
「俺よりもグローリーに謝っておけ」
その言葉を最後に俺は一足先に再び大樹の元へ急降下。
やっぱ説教って苦手だわ、俺。
◆ ◆ ◆
『アリサ』
「ねえ、グローリー?」
《はい》
「あたし…焦ってたんだ」
《……》
「すずかは初めてでもちゃんと封印できて、なのはなんて2回も成功させてるのよ」
《……》
「なのにあたしはまだ何もしてない。すずかはともかく、あの運動音痴のなのはに負けたくなかったの」
《アリサ様》
「バカよねあたし。ジュエルシード集めは競争なんかじゃない。もっと真剣なものなのにね」
あたしの眼下では鈴が襲い掛かる根を避けながら大樹に攻撃を繰り出している姿が見えた。その表情はあたしの時みたいな焦りなどはなく、ただただ真剣だった。
普通、あの場面はもっと説教するところでしょうが。それをこっちの心を読んだ上で最低限の忠告だけで済ませるなんて。
「グローリー」
《はい》
「ごめんね。あんな扱い方して」
《私はデバイスであり道具。そのような……》
「いいえ、あなたはあたしのパートナーであり仲間。異論は認めないわ」
《…もったいなきお言葉》
「バカなパートナーだけど……お願い、力を貸して!」
《おまかせをっ!》
その言葉と共に、グローリーの刃が淡い光を放つ。
光を帯びた刃は少しずつ発する光を強くしていって、刃から溢れる魔力が大気を震わせる。
やがて刃を覆った魔力の刃は強烈な光を発しながら形成する。
より鋭く、巨大な刃…
斧へと。
「それじゃあ行くわよ!」
《いつでも!》
上空から大樹に向かって一気に直滑降。グローリーに持てる魔力の全てを注ぎながらあたしはグングンと迫る大樹に刃を振り下ろす。
途中で幾本かの根が襲い掛かってきたけど鈴が全て切り落とす。
ナイスアシスト!
「おぉりゃああぁぁぁぁぁ!!」
さっきまでまったく通らなかった刃が嘘のように大樹を真っ二つに切り裂く。あれだけ巨大だった大樹はあたしの刃によって綺麗に両断され、左右に分かれながら崩れ落ちて淡い光となって消えていった。
「なぁ…」
「何よ?」
「やっぱりこの態勢やめよう」
「疲れたんじゃなかったの?」
「いや、だからって膝枕はちょっと…」
とあるビルの屋上で鈴はあたしの膝の上に頭を置いてその身を横たえている。俗に言う膝枕ね。
鈴は今回、かなり魔力を消耗したみたいで戦いが終わった途端、この場に崩れた。少し休めば戻ると言うんでその間だけこうしているというわけ。
最初は抵抗してたけど、動くのも億劫なのか弱々しい抵抗だったから無理矢理こうするとやがて諦めて、大人しくなった。
「それにしてもどうしようかしらね?」
「……封印できなかった事か?」
「うん」
今回の事件。結果、私はジュエルシードの封印はできなかった。
というのもあの大樹が消えた後、見つけたジュエルシードは二つになっていた。『真っ二つ』になっていた。
どうやらあの一撃は思った以上の破壊力があって、大樹もろとも斬ってしまったみたい。まさに想定外の出来事。結果は封印じゃなくて破壊。
ユーノ、ごめんね。
「ねぇ…」
「うん?」
「ありがとね」
「……なんの」
「次からはもっとうまくやるわ」
「…おう。がんば…れ」
「…鈴?」
見ると鈴は瞼を閉じて静かな寝息を立てていた。よっぽど消耗してたんだなと思いながら前髪を掻き分けるようにゆっくりと撫でる。
今回はいろいろと鈴に助けてもらった。うまくはやれなかったけど今回のことをバネに次回からがんばろう。あたしは心に決める。
「これは……今回のお礼よ」
安らかに眠る鈴の額に――
あたしは静かに口づけをした。
◆ ◆ ◆
『なのは』
「……アリサちゃん」
見たくない光景があった。
眠ってる鈴君。身を曲げ、鈴君にキスをするアリサちゃん。
やがて顔を上げたアリサちゃんは顔を真っ赤にしてたけどその表情は笑ってる。
知らず知らずのうちに内唇を噛んでいた。口の中を切ったからか、僅かな鉄の味がする事に驚いて私は力を緩める。
「鈴君の隣は……なのはのモノだよ…」
これ以上二人を見ていられなくなり、私はその場を離れる。
胸の奥から沸き立つ黒い感情に気付かない振りをしながら。
※ちょっと設定
『グローリー』
ハルバード型のアームドデバイス。インテリジェントほどではないが、アームドデバイスとしては優秀なAIを搭載。攻撃力特化型の性能で魔力を纏わせれば『戦斧』『突撃槍』の形態をとり、『斬る』『突く』の攻撃を特化させる事が可能。本来ならカートリッジシステムも搭載していたが……?
『クロス』
十字架のような形状のインテリジェントデバイス。攻撃・防御・補助と万能性に優れた性能を持つ。得手も不得手もない万能型。
【斬撃】
魔力による不可視の刃を形成し、対象を斬る攻撃魔法。切れ味は抜群だが現界時間は一瞬で射程も短い。よって打ち合いは不可。