「大規模作戦が発令されるって?」
「うん、司令官に電文があったんだって。遠征報告のときに聞いたんだ」
大規模作戦。俺たちがイベント海域と呼んでいたやつだ。E-○という複数の作戦を遂行するのだが、通常と違い鬼・姫・水鬼といった強力な深海棲艦も現れる非常に高難易度な奴だ。
「響はそういう作戦に参加したことはある?」
「いや、まだ無いよ。そもそもここが出来たのは一つ前の作戦の後だったからね」
うむ、だろうな。俺が提督として着任したのもその頃だ。
「へぇ…。」
まあ俺はここに来て日も浅いから出撃も無いだろうけど、イベント時の空気にも慣れておかないとな。ここ最近はずっと赤城さんの対空訓練と神通さんの演習続きだったし、ユニットちゃんの手入れもしないとなぁ。そんなことを考えながら最近すっかり気に入ってしまった焼き鯖を口に放り込んだ。
響の言ったとおりやはり作戦が発動されるようで、俺たちは広い会議室のような場所に集められた。今日は別の鎮守府に出張していた艦も戻ってきているようで、かなりの大人数になっている。
「随分数が多いんだねぇ…」
「普段ほかの鎮守府に向かっている艦娘も集まってきているからね。宿舎の部屋もギリギリじゃないかな」
そんなにか。やるじゃないか、
しばらくすると司令官がやってきた。皆は姿勢を正し敬礼をする。そして司令官の話に耳を傾けた。
「明日より、"第十一号作戦"が発令される。今回はその作戦の説明をするために皆を集めた」
やっぱりか。第十一号作戦は俺にとってもに初めての作戦だった。当時は丙で全部クリアしたが、この戦力を見るに敵勢力は甲相当と見ていいだろう。ゲームでの作戦内容はたしかE-1,2,3,4が主作戦で、E-5,6が拡張作戦だったはず。そして現れる敵は…
「まず最初に、E-1として主作戦に先立ち、軽巡と駆逐艦で編成された水雷戦隊による作戦海域の威力偵察を実施する。」
ほうほう。E-1とかは作戦識別名のような扱いなんだな。
「その後E-1で得られた偵察状況を元に連合艦隊を編成しカレー洋海域の制海権を奪還する。これがE-2だ。そして、主目標であるリランカ島攻略作戦として精強な連合艦隊を出撃、同島周辺の敵を排除する。これの支援として、ベーグル湾の通商破壊戦も展開し、巡洋艦などを基幹とした艦隊で敵海上補給路を叩く。これをそれぞれE-4、E-3とする。追加の作戦が発動した場合は追って説明する」
淡々と作戦の説明がされていく。すげぇめっちゃ真面目じゃん俺。やるときはやる男なのだ、もっとほめてもいいのよ? 幸い作戦内容もゲームと同じみたいだ。作戦後は新艦娘も着任するのだろうか。気になるかも!
「…無いようだな。今後質問があれば聞いてもらって構わない。では編成を発表しよう」
そう言って紙を手に取る
「E-1には軽巡洋艦球磨、阿武隈、五十鈴、駆逐艦雷、電、楔の六隻。E-2は航空戦艦伊勢、日向、扶桑、軽空母祥鳳、瑞鳳、重巡洋艦妙高、羽黒、軽巡洋艦神通、重雷装巡洋艦大井、北上、駆逐艦暁、響の十二隻で出撃してもらう。いいな? E-3には戦艦榛名、霧島、重巡洋艦妙高、羽黒、軽空母千代田、重雷装巡洋艦北上の六隻。E-4には戦艦長門、陸奥、金剛、正規空母赤城、加賀、雲龍、装甲空母大鳳、重巡洋艦鳥海、摩耶、軽巡洋艦神通、駆逐艦暁、響の十二隻だ。編成についての質問はあるか?」
どうやら俺はE-1への出撃らしい。編成案を聞いてこの鎮守府には結構な戦力が揃っていると改めて感じる。神通さんや赤城さんはもちろん、その他の皆だって俺より高い錬度を持っているだろう。だからこそ、俺は疑問だった。
「司令官!」
「なんだ、楔」
「あの…どうしてここに着任したばかりの私が出撃なんでしょうか?」
素直に質問をぶつける。
「…私が問題ないと判断したからだ。君たちなら問題無いと思っただけだ」
違うか? と司令官が問いかける。その目は私に期待をしているように見えた。
ただ、その眼が見据える先はとても、とても遠いもののように感じた。
「作戦開始は明日だ。各自、作戦に備えろ。以上だ」
そう告げて
「ふーっ、ついに大規模作戦ね! みんな、がんばるわよ!」
「明日の出撃、初めての大規模作戦で緊張するのです…。」
「大丈夫よ、私がいるじゃない!」
「ハラショー…」
六駆の皆はやる気十分みたいだ。
明日が楽しみだなぁ。
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提督による作戦説明が終了した頃。
「何を考えているのだ、提督は…!?」
長門は憤慨していた。提督の編成がどうしても理解できなかったからだ。いくら偵察任務とはいえ、強力な深海棲艦の多数出没する場所に出撃するのだ。そんな場所へ新人を送り込むなど、わざわざ殺されにいくような物。そんな無謀な作戦を艦娘として、そしてビッグ7として認めるわけにはいかない。だから長門は去っていこうとする提督に詰め寄った。
「提督ッ!!」
「…長門か、どうした」
長門が怒鳴るように呼びかけると、提督はゆっくりとこちらを振り向く。その表情は不気味なほど落ち着いたものだった。まるですべてを見透かされているような気分になる。
「あの編成は何だ!? いくら偵察任務だとはいえあんな新人をいきなり大規模作戦に送り込むなど…何を考えているのだ! 他にも錬度が高い駆逐は複数いるはずだろう!」
そう、実際にこの鎮守府には
私が納得するまで問い詰める、そんな気迫を込めて質問を投げかけた。しかし、提督は涼しい顔だ。
「それは楔本人にも話しただろう。問題ないと判断したからだと」
「それが理解できんのだ! そもそもなぜ彼女を…ッ」
直後に、提督の眼が変わった。その眼で見つめられた途端、背筋に寒気が走った。
…何だ。何なのだその眼は。その瞳の内側で一体何を考えているんだ。その眼は一体何処を視ているんだ。
「…いいか長門、"楔"はそのままでは物を割ることも繋げることもできない。"楔"を打ち込むには何が必要だと思う?」
そう静かに言って提督は歩いていった。
去っていく提督を引き止められずに見つめていると、自分の手が微かに震えてることに気づいた。震えている? この私が? …あぁ、久しいな、こんな感覚は。その震えが深海棲艦打倒の鍵を見つけた喜びなのか、得体の知れない未知の存在への恐れなのかは分からなかったが、長門はその久しぶりの感覚を握り締め次の作戦へと気持ちを切り替えた。こんなところでぐずぐず悩んでいる暇は無い。私は『長門』なのだから。
47連敗を経て大和がやってきました。
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微妙に文章が変わりました。