駆逐艦「楔」、出撃……って誰さ   作:たんしぼ

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「もしかして嫌だった? …ごめん。」
ちがうんや時雨。クリスマスの格好をするのは別にかまわない。
でもまだ早いと思うの。


お前誰だ? 五人目

突然だが皆さんは"赤城"という航空母艦をご存知だろうか。赤城とは、かつて大日本帝国海軍に所属した航空母艦で、太平洋戦争初期の重要な海戦において機動部隊の旗艦として活躍した名軍艦だ。艦娘になってからもその力は引き継がれており、多くの艦載機と高い錬度で深海棲艦を瞬く間に倒してしまう鎮守府の要となっている。そう聞いていた。そんな赤城(一航戦の誇り)が、朝早くに釣りをしながら寝ている。

 

どうも、楔です。対空訓練は赤城が担当するということなので、事前に挨拶しておこうかと思ったのだが…どうしようこれ。釣りをしながら爆睡中とは。とりあえず声をかけてみるが反応が無い。用意している釣竿は本格的なもので、遠くで浮きがぷかぷかと波に揺られている。既に何匹か釣っていたようで、バケツの中で魚がゆったりと泳いでいた。食べるのだろうか。

『構わん! 起きろ!』とユニットちゃんも呼びかけるが…駄目みたいですね。

しかしゲーム内画像ではなく、こうして生で見るとやはり美しい。なんというか、凛とした雰囲気があるというか。強い女性を象徴しているような姿だった。爆睡してるけど。

ずいぶん気持ちよさそうに寝ているし、仕方ないね。後で出直そうか。

 

「赤城さんに何か御用かしら」

いつぞやの教官(神通)のように後ろから唐突に声を掛けられて振り向くと、そこにいたのは加賀だった。彼女もまた、大日本帝国海軍の主力として赤城とともに活躍していた航空母艦である。ちなみに彼女は戦艦を改造した空母で、戦艦のまま完成すれば41cm砲を5基載せるはずだったのだそうだ。最も当時の資金的には無理な話だったらしいが。

 

「あ、加賀さん。こんにちは」

 

「何かあるなら私から伝えておくけれど…。」

 

「いえ、今日の対空訓練を赤城さんにしていただくことになったので挨拶に来たんですが…寝てますね」

 

「いい心がけね。そういうことなら言っておくわ」

 

「はい、ありがとうございます。では…」

そう言って俺はその場を後にした。

 

 

 

「…さて、私も用事があるんだったわね。赤城さん、起きて。もう六時ですよ」

 

「…んにゅ、もうそんな時間ですか。ありがとう加賀さん、行きましょう」

竿を抱えた眠そうな赤城を連れて、加賀も歩き出すのだった。もうすぐ食事の時間になる。急がなければ。

 

――――――――――――――――――――――――

 

「これより、対空訓練を開始します。訓練内容は説明したとおり、私が発艦させた訓練用の機体を撃墜してもらいます。準備はいいですね?」

 

「いつでもいけます!」

 

「では、いきますね…。」

その一言とともに、赤城の周りの空気が一気に張り詰めるのを感じる。全身を使って弓を引き絞るその様子は、思わず訓練であることも忘れて見惚れてしまうほど綺麗だった。そこから放たれた一本の矢は彼女の高い錬度を表すように鋭く真っ直ぐに空へと翔ける。

すごいなぁ、と思った。

矢はしばらく飛んだ後、三機の飛行機に分裂した。あれを撃墜していくのが今回の訓練なので、こちらも艤装を空へと構える。

 

「いくよ、撃ぇッ!」

『ほむらああああ!!』

飛行機たちは連続して発射した砲弾を軽やかに躱していく。むぅ、難しいな。

 

「闇雲に発射するのではなくしっかり狙いをつけて、敵機をよく見なさい!」

 

「はいっ!」

気を取り直して、今度は狙いを定めるように落ち着いて連射する。しかし、やはり敵機はするりするりとこちらの砲弾をすり抜けて飛翔する。しばらく撃ち続けて、やっと一機に砲弾が直撃し爆ぜた。『上手にモロタwww』ユニットちゃんは相変わらずのハイテンションだ。

 

「その調子です、残り二機も撃墜してください」

航空機撃墜もなかなか大変だ。しかし、より深海棲艦に侵食された海域には空母級の個体ももちろん存在する。それ故にこの訓練を欠くことはできないのだ。

 

「次いきます、撃ぇッ!」

『行くぞオラァ!!』

やっとの思いで三機撃墜する。

 

「次いきますよ…ッ! 次は機銃も追加です!」

新たに三機おかわりだ。再び放たれた敵機たちは一斉にこちらへ飛んできて、機銃を発射してくる。慣れない機銃に対応しきれず弾丸を浴びてしまう。訓練用とはいえ痛い。

 

「うきゃぁッ!?」

『痛いよ適当になっちゃう( ´;ω;)』

 

「そんなんじゃ甘いですよ! 機銃にもしっかり対応できるようにならないと」

 

「ッ…、はいっ!」

次々に迫ってくる敵機を捌いていく。機銃があると無いとでは対応の難しさがずいぶん違うし、その上実戦では敵の砲弾や魚雷まで回避しなければならないのだからたまらない。自分にはまだまだ錬度が足りないということを改めて思い知らされた気分だ。

 

「撃ぇッ!」

『赤ちゃんゴルァ!』

とにかく今は目の前で飛び回る敵機を撃墜するしかない。錬度を手っ取り早く上げる近道なんてない、だからがんばろう。そんなささやかな決意に答えるように、やたらとハイテンションな連装砲が火を噴いた。『キャノン砲ッ!!』頼もしい奴である。




2000字ピッタリ。ちなみに三人目も2000字ピッタリだったりする。
今回も読んでくださりありがとうございました!
次回は長くなるかも。


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