後半シリアスっぽいものになりました。
どうも、訓練も始まり忙しくなってきた楔です。最近は海に出ての訓練もするようになりました。
「主砲、撃ぇっ!」
『キャノン砲!!』
主砲から放たれた砲弾は、的の脇を掠めて水柱を生み出す。あと少しだ。
「夾叉! 次ッ!」
『よっこらあ゛あ゛あ゛あ゛!!』
再び発射された砲弾は寒い朝の空気を切り裂くように飛んで行き、的に直撃した。
「よし、いいですよ。その調子で次いってみましょうか」
「はいっ」
『いっといで!』
これが俺の日常である。神通さんの訓練はなんだかんだで凄いと思う。確かにメチャメチャきつい事もあるが、その分実力も上がっていくのが実感できるのだ。成果が出てくるのが自分で分かるとやる気もでるというものである。ただしドラムマラソンはもう勘弁してつかぁさい。
しかし、日常というものは大切である反面とても脆いものだ。ほんの少しでも異物が入り込めば簡単に崩れ去ってしまう。そして今日はその異物が近海で現れたらしい。
《鎮守府近海に敵深海棲艦が確認されました。出撃命令を受けた艦娘は出撃してください。編成は暁、響、雷、電、楔の五隻です。繰り返します、…》
…え、マジ? 実戦投入? マジで言ってんのか
「初出撃ですね。訓練の成果を存分に発揮してくださいね?」
「は、はいっ!」
『構わん! Let`s go!』
こうなったらやるしかあるまい。ちゃっちゃと倒してしまいましょうかね。
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「敵艦は駆逐4、軽巡1の計5隻だ。他の深海棲艦は確認されていないが、警戒を怠るなよ」
「準備が出来次第出撃したまえ!」
「分かったわ!」「
その一言で一気に空気が張り詰める。これが俺の初めて実戦。俺はこの世界に来て初めて命を賭けて海に降り立つ。人類の制海権奪還を目指す戦いの第一歩を俺も踏み出すのだ。
「駆逐艦"楔"、出撃っ!」
海を暫く進むと、電探に反応が現れた。二時の方向だ。
「敵艦発見、戦闘用意! 単縦陣よっ!」
旗艦を任された暁の掛け声とともに戦闘態勢に入る。遠くで深海棲艦が蠢いているのが見える。実際に見るとやはりグロテスクだ。しかもデカイ。あれが自分たちの成れの果てかもしれないと思うとぞくりとしてしまう。でも、不思議と怖くはなかった。
「先手を打つわよ! 主砲、撃ぇー!」
暁の号令を皮切りにズドォン、ズドォンと重い音が響き、砲弾が敵に吸い込まれていく。しかし、もちろん敵もこちらに気づき応戦してくる。お互いの砲弾が交錯して、辺りはあっという間に炎と水の柱に包まれた。
「当たってっ!」
『強く当たってみぃ!!』
ドォッと空気が震える。発射された砲弾はそのままイ級に突き刺さり爆発する。強く当たったようだ。しかしそれを喜んでいる暇は無い。敵はまだ残っているのだから、私たちを
「楔ちゃん、そこっ!」
指差される先には中破したホ級がぐったりとしている。体はところどころ崩れ、もう碌な戦闘能力を残していないようだ。魚雷で仕留められる絶好のチャンスだろう。
「魚雷、発射!」
『全てはチャンスだべ!』
勢い良く飛び出した魚雷は細く白い軌跡を残しながら直進し、ホ級の体を粉々に砕いた。そのままホ級は苦悶の声すら上げずに水底へと消えていった。
「ホ級撃沈!」
「ナイスゥ!」
やったぜ。結果は味方艦は小破すら無し、深海棲艦は全部撃沈。完全勝利だ。初めての出撃でもきちんと行動できたし、これなら神通さん怒られることもないだろう。テンションあがってきた。
こうして初めての実戦は大勝利で幕を閉じたのだった。
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「はい、艤装の調子は良好みたいです」
「…そうか」
そう応える提督の目は海を見つめている。しかしその目の奥に隠された物を推し量ることはできない。そして私はある質問をした。
「提督」
「なんだ?」
提督は依然として海を見つめたままだ。
「あの娘は何者なんですか?」
「…どういう意味だ」
「…艦娘と深海棲艦は言わば表裏一体の存在で、本来相容れないものです。艦娘は艦娘の技術を扱い、深海棲艦は深海棲艦の技術を扱います。なのに―――なぜ彼女は深海棲艦の技術を扱うことができるのですか?」
「…」
提督の目がぴくりと動いた。
「艦娘は艦娘であるかぎり艤装しか扱えないはずなのに…、彼女は…一体"何"なのですか?」
すると提督はゆっくりとこちらを向き、私の質問に答えた。
「"楔"だ」
「くさび…?」
「人類と深海棲艦の間に打ち込まれた彼女は、二つをつなぎ合わせる"楔"となるのか、それとも二つに割ってしまう"楔"となるのか…、どちらなんだろうね?」
私は、提督の質問に答えられなかった。
今回も読んでくださりありがとうございました!
次の展開どーしよっかな。
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微妙に文章が変わりました。