駆逐艦「楔」、出撃……って誰さ   作:たんしぼ

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既存のキャラクターにはもともとのファンが存在するわけですよ
だから既存キャラクターをうっかりいじめ過ぎたらそのキャラのファンに怒られるわけです
つまりなにが言いたいかといいますとね
自分の生み出したキャラはいじめてもそんなに怒られないですね


あの娘誰だ? 十二人目

妖精さんたちの忙しそうに走り回る音と、金属がぶつかり合う音が絶え間なく響く工廠。そこに、流れるような白銀の髪をたなびかせて駆ける少女が一人、駆け込んだ。

 

「ぶはっ…はぁ、はぁ…」

執務室からここまでそれほど遠いわけではないが、何せ全力疾走してきたので軽くバテてしまった。艤装を装着していない艦娘は、鍛えているとはいえ年相応の力しか出ないのだ。

息を整えつつ見渡すと、工廠妖精さんたちが何事か何事かとあたふたしている。普段工廠に全力で駆け込んでくる奴などいないだろうから、びっくりするもの仕方が無いだろう。ちょっと悪いことをしてしまった。

 

「す、すまない…驚かせてしまったね」

としゃがんで謝る。いえいえそんな私たちは大丈夫ですよ、と言っている気がした。すると、とててててと妖精さんのうち何人かがこちらに近寄ってきて顔をうかがってくる。そんなに急いで何か御用ですか? と言いたそうだ。

 

「あ、ああ。明石さんにちょっと用事ができちゃってね。それでここに来たんだ」

と言うと、今度は妖精さんは困ったような顔をした。そして明石の頭を模したカツラのようなものを頭にかぶった。

 

「…?」

意味が良く分からず見つめていると、今度はそのヅラ妖精さんが身体をいっぱいいっぱい使ってジェスチャーのようなものを始めた。何を伝えたいのか読み取ってみる。

 

「うん…? 私は明石?、で…。今は居ない、かな?」

こんぐらっちゅれーしょんず! とS勝利したときのアレを高らかと掲げるヅラ妖精さん。どうやら正解だったらしい。

 

「そうか、居ないか…すまない、ほかをあたるとしよう」

そう言って腰を上げようとすると、ちょっと待ってーちょっと待ってーオネエサンとでも言うかのようにこちらを引き止める。何だ何だと思っていたら、別の妖精さんがどでかいフリップのようなものをえっちらおっちらと持ってきた。

 

『いまはあかしさんはいません。でもわたしたちあなたがきたりゆうわかります』

 

「え…?」

ロリコン達との話を聞いていたのだろうか。もしくは明石さんかもしれない。

 

『ふだんはあかしさんにとめられるけどいまあかしさんいません』

 

『なのであなたにとくべつにいいものみせます』

 

「いいもの…? じゃあ見せてもらおうかな」

 

『よくぞいった』

 

『ではついてくるのです』

そう書かれたフリップを掲げてヅラ妖精さんたちは工廠の奥によったよったと進んでいく。というか重いならフリップをやめればいいのに。

 

『ここはゆずれません』

 

「そ、そうかい…、気をつけなよ」

妖精さんがそれでいいのなら別に止めはしないのだが…。

妖精さんに連れられて少し奥に進んでいくと、すこしまってくださいと指示が入る。そして妖精さんが何やら棚をごそごそして、二つのやたら大きな箱を取り出し目の前に置いた。

 

『これをみせてあげようとおもいます』

 

『まずはみぎのやつあけてみてください』

 

「ん、じゃあ右を…。重いなこれ、は…!?」

さっそく妙に重い右の箱を開封する。中には黒い艤装のようなものが詰められていた。黒光りする金属で造られた砲のようなもので、後ろの機関部分とコードで接続するようだ。その形はなんとなく何かを連想させた。

 

「これは…何かに似ているような」

 

『じゅうじゅんリきゅうっぽくつくったやつです』

 

「ああ、どこかで見たと思ったら…」

なるほど合点して改めて黒い艤装を眺める。たしかにそれっぽい感じに造られている様だ、と思い手にとって眺めていると、何やら刻印が入っているのを見つけた。

 

『そのこくいんはなんてかいてありますか?』

と妖精さんがにやにやしながら尋ねてくるのでその刻印を読んでみる。

 

「えっと、きゅうじゅうさんA……ッ!? ここに"93:A"と書かれてる!」

 

『それはこーどきゅうさんでつくられたしさくひんAがたです』

 

『すてるのももったいないのでのこしといたやつです』

 

「ということはこっちは…ッ」

こちらの箱に"93:A"が入っているのなら、もう一つの箱にはきっと…

 

「…あれ、軽い。しかも誰かが一度空けている…、空箱か?」

…と思ったのだが軽い。一応開けてみるが、やはり中には艤装は入っておらず、紙切れが一枚入っているのみである。

 

「…なんだ、こちらは何も無いのかい?」

 

『あるじゃないですか、かみが』

 

「こんな紙に一体何があるっていうんだい…」

さすがにこれには肩透かしを食らった気分だ。妖精は気まぐれだというが、本当にその通りなのかもしれない。

 

『よんでみたらこんなかみっていったことをこうかいするでやんす』

 

「ふん…」

まあ読んでやるか、と期待せずに入っていた紙切れに目を通す。その紙には…。

 

「93、B…!!」

 

『ほらね、みてよかったでしょ?』

妖精さんも得意げである。これはしてやられた。しかしそれどころではない。ついに、ついに目的に大きく近づくことができるかもしれない、そのことが重要なのだ。だが一つ疑問も生まれた。

 

「こいつはどうして箱だけなんだい?」

あの時の資料によると、この二つの艤装の計画は破綻し白紙にもどったはずだ。ならその艤装は残されているか廃棄されるか、何らかの処分をするはずである。箱だけ残って中身はからっぽ、というのはいささか不自然に思えたのだ。

ところが、質問しても妖精さんたちはこちらから目をそらしたままである。そして、しばらくしてフリップを掲げた。

 

『さいきんやっとてきおうできるかんむすがかんせいしました』

「なんだって?」

白紙になったはずなのに新たな艦娘が現れたというのか。つまり計画が倒れた後も何者かが諦めずに研究していたということになる。

 

『でもどうしてもぎそうにのまれるふぐあいはかいしょうできませんでした』

 

『ふだんはだいじょうぶですが、もししんかいせいかんにちかづきすぎたらすぐにのまれてしまいます』

 

『のまれたかんむすはしんかいのちからにてきおうできなければころすしかなくなります』

 

『でもてきおうできればとってもつよくなります』

 

「馬鹿な、そんな不完全なものを装備させたのか…!?」

 

『すべてはあきらめのわるいおとこのじょうしのしじです』

 

『すべてはとってもつよいかんむすのため』

なんということだ。大本営にとって私達はただの使い捨ての兵器に過ぎないことは分かっているが、だからと言ってここまで非人道的な兵器が許されるはずが無い。こんな忌々しいものを放っておく訳にはいかない。司令官に直接話をつけるために踵を返そうとしたその時。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『でももうおそいでしょう』

妖精さんが唐突にフリップを掲げる。もうおそい、とはどういうことだ。

 

『おそらくすでにかんむすはぎそうにのまれてしまっているとおもいます』

 

「何故? どうしてそんなことがお前達に分かるんだ?」

 

『そのきゅうさんびーをそうびしたかんむすはいまうみのなかにいるからです』

 

どうして司令官は彼女を重用するのか。

どうして司令官は彼女に期待するのか。

どうして司令官は彼女を出撃させたのか。

そして、どうして私は彼女が根本的に私たちと違うと感じたのか。

全てはこの計画と繋がっていた。もっと早く気づくべきだったのだ。

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

「何かあったのかしら? 確か今日は遠征任務があると言われていたはずなんだけど…」

私たちは遠征部隊としてこの鎮守府に所属している。今日も遠征任務があると言われていたので、出撃ドックで通達を待っていたのだが…。

 

「遅いですねぇ、姉さん」

隣では巻雲がぷくーっとむくれている。ぱたぱたする袖と眼鏡がかわいらしい我が妹だ。

 

「悪い、遅くなったか?」

提督がこっちに小走りでやって来た。いつもは秘書艦の響さんが通達に来てくれるのだが、今日は提督本人が出向いてくれたようだ。

 

「今日は提督が来たんだな、どったの?」

長波が提督に質問する。男勝りな性格で、何とも不思議な髪色をしたかわいらしい我が妹だ。

 

「ああ、用が有ってな。…ちょっと宿題を出してきた」

 

「宿題ぃ? 執務じゃなくて?」

 

「宿題だ。まあそれは置いといて遠征頼んだぞ。いつもの船団護衛だ」

 

「フフフフッ…分かりました」

後ろのほうで不敵な笑みを浮かべているのは早霜。ちょっと暗いがかわいらしい我が妹だ。というかよく考えたらみんなかわいらしい妹だ。

 

「いつも助かるよ。お前らは鎮守府の要の一つだからな、期待しているぞ。…それじゃ、幸運を祈る」

 

「はい、提督。それじゃあ…駆逐艦夕雲、本気で行くわ!」

私は夕雲。主力オブ主力の夕雲型一番艦である。

 

 

 




響はしばらくお休み、夕雲編スタートでございます。
あと夕雲の話をこちらに移設しました。

今回も読んでくださりありがとうございました!

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