事はあっさり解決した。
本来対深海棲艦用に造られた機械―その名も『敵艦こわれる』というらしい―が工廠で暴走し、鎮守府を一気に汚染してしまったというのが事の顛末だったようだ。結局その機械は電の砲撃で壊し無理やり止めた。今は無残にも後ろでぶすぶすと黒煙を吐くスクラップと化している。クリスマスと勘違いさせられただけだったからよかったが、使い方次第で大惨事も十分考えられただろう。まったく、明石はとことん意味のわからないものを造るものだ。
「うぅ、申し訳ないでず…まさか暴走するとは…」
「などと供述しており…なのです」
「ひーん…」
というわけでここからは成り行きを現行犯で捕まった明石の供述に基づく再現ビデオ風に観ていただこう。はい、よーいスタート。
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「ふぅー、これであらかた艤装修理は終わりかね」
そう呟きながら一息つく艦娘が一人。彼女は夕張、小柄な体ではるかに大きな艤装を装着させるというコンセプトの元設計された画期的な艦である。最近はよく明石のお手伝いとして工廠に来ては、機械を弄り回したり日用品などの開発をしている。
「ゆーぅばりさーん!」
「はーい!」
休憩しようと思ったがそうはいかなかった。仕方が無いので明石が呼ぶほうに向かう。
「夕張さんはよ来てホラ! ホラホラホラホラホラホラ」
「はいはい今向かってますって!」
明石はやけにハイテンションだ。一体何をどうしたというのか…と思っていると、明石の後ろになにやら大きい機械の様なものが鎮座している。白く塗られた巨大な台座に卵のような丸い物体の左右に腕のような煙突の様な物が付いており、後ろは同じような煙突の様な物が大量に付いていた。
「夕張さん夕張さん、すんごいものができましたよ!」
「どう見てもコス○クリーナーDなんですがそれは…」
「まぁまぁ、今回はほんとにすごいですから! …聞きたい? 聞きたい?」
「はぁ…何がすごいんですか」
明石から放たれる聞いてほしいオーラが全開すぎて正直面倒くさい。つーかこれ造ってる暇あるなら兵装の修理手伝えよ。ずっと私一人でやってたってことじゃないか。どうせ碌でもないものなのだろう。
「ふっふっふ、これはですね…。なんと、特定の相手を"今日はクリスマスだ"と勘違いさせることができる装置なんです!」
「解体しますね」
「あああああ!! 待って! 話を聞いて!」
ほんとに碌でも無かった。人のことを馬鹿にするのもいい加減にしてほしい。
「こっちが兵装の整備しているときになにやってるんですか艤装の開発はどうしたんですか新装備の研究はどうなってるんですか!」
「まあまあ、えい」
そう私を宥めながら装置を起動しやがった。ブオォォォォオという機械独特の機動音が鳴りはじめる。
「ちょっと!? 勝手に起動しないでくださいよ! もぉぉお、今日はクリスマスなのにまた変なことばかりしてぇ…」
ん?
「ちょ、今私なんでクリスマスって…?」
「成功みたいですね、これがこの『敵艦こわれる』の力です! 」
「『敵艦壊れる』? 何ですかそのネーミングは!?」
「『敵艦こわれる』です、間違えないでください! これを敵棲地に向けて発動し、クリスマス気分になっているところを強襲すれば…! 勝利間違いなしですよ!!」
「『敵艦壊れる』でも『敵艦こわれる』でも一緒でしょうよ!」
「何をいいますか夕張さん! 兵器の名前ってものすごく重要なんですよ? あなたは零戦五二型と零戦二二型が同じだと言うんですか? 全然違いますよ!?」
「そんな極端な話持ち込んできてどうするんですか! 漢字か平仮名かがそんなに重要なんですか!?」
「重要ですよ!! 漢字か平仮名かで見る人の印象その他諸々変わるものです!!」
「ぬううう!!」
「ふううう!!」
いつの間にかよくわからない張り合いになってしまった。今から思えばどっちでもよかった気もしないでもない。が、そのときは必死になっていた。
「あなたとは決着をつけないといけないようですね…勝負です!!」
そう明石が言って手をバッと伸ばしたとき、その手がコス○クリーナーDに直撃した。
「いだぁッ!!」
結構な勢いだったのか、明石は手を押さえて涙目になりながら蹲ってしまった。かなり大きな音も鳴ったし、よっぽど痛かったのだろう。
【敵艦こわれる、指定範囲:本機より半径500m、起動します…。繰り返します、敵艦こわれる、指定範囲:本機より半径500m、起動します…。】
「えっ、ちょっと…やばいんじゃない、これ」
「あっ、あばばば、停止停止…あっボタン操作できん」
「んなアホな!?」
さっき殴りつけたときに一部が壊れてしまったのか機械を止めることができない。
「いかん、危ない危ない危ない危ない…あっ」
次の瞬間、機械から光が溢れ鎮守府を覆った。
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いかがだっただろうか。細菌などではなかったが、パンデミック説は案外正解だったかもしれない。汚染された艦娘たちも少しづつ正気を取り戻してきていようだ。一時はとんでもないことになるかと思ったのだが、結局はしょうもない喧嘩が原因の実にしょうもない出来事として幕を閉じたのだった。
「でも…さ、せっかくここまでパーティーの用意もしちゃったし?」
「おっきいクリスマスツリーもあるし?」
「衣装もクリスマス仕様だし?」
「「「…ちょっと早いけどクリスマスパーティー、続行でいいよね!」」」
さて、ちょっとどころか大分早いクリスマスを祝おうじゃないか。
ちょっとどころか大分遅いクリスマス話の投稿でした。
今回も読んでくださりありがとうございました!