仮面ライダーフォーゼ~IS学園キターッ!~   作:龍騎鯖威武

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第33話「星・座・勢・揃」

 

 

サジタリウスが覚醒した。

「オオオォォ…!!」

どうやら、宇月の意思は消えているらしい。声は紫苑がレオに変化したときと同様、低い男の声になっていた。

「星の力に飲まれたか…!?」

サジタリウスは左手を翳し、弓状の武器「ギルガメッシュ」を展開しながら一夏達に構える。

「ハァァァァァァ…!!!」

弦を引くような動作を行なった途端、ギルガメッシュの周りに凄まじい量のコズミックエナジーが集まっていく。

「ゼイッ!!!」

バシュッ!!!!

弦を離し、数えきれないほどの矢を放った。

ドッガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァッ!!!!!

「うわああああああああああああああああああああああああああぁっ!!!!!?」

その威力は絶大で、レオに並んでいる…いや、超えているかもしれない。

全員、直撃はしなかったのだが、近くに矢が刺さっただけで凄まじいダメージを受けたのだから。

「これが…サジタリウスの力…」

紫苑は疲労困憊で肩を庇いながら、ヴァルゴと共に、サジタリウスの戦いを見つめる。

「君の力と並ぶほどだね、紫苑君。流石は射手座の使徒…そして」

 

「流石は私の息子だ」

 

彼女にも母としての心が残っているのだ。

ある意味、最後の使徒が息子であって良かったと思っている。

これで心置きなく、最後の役目も果たせるだろう。

「紫苑君、サジタリウス、行こう。オフューカスを迎えるために!」

ヴァルゴはロディアを叩きつけ、レオとサジタリウスのみを別の場所まで転移させた。

「宇月を返せ!」

一夏は身体中の痛みに耐えながら立ち上がり、必死に叫ぶ。

それに対し、ヴァルゴは涼しい様子で答える。

「返す?…宇月は私の息子だ。君達に譲った覚えはない」

確かにヴァルゴは宇月の母である美咲だ。親子とは本来、共にあるべきもの。

それでも…。

「違う…今のあんたは、宇月を息子として見ていないっ!!」

「いいえ、あの子は私の息子。今も愛情は変わらない」

スイッチを切り、美咲の姿へと戻る。

ふと、シャルロットを見つめ、思い出したかのように言う。

「愛情と言えば…シャルロット・デュノア、君は愛情に気付けなかったのだね」

「え…?」

 

 

 

「紫苑君はね…君達と敵対しながらも、君達を何度も守ろうとしていた」

 

 

 

「紫苑が…?」

「やっぱりか…」

シャルロットは意味が理解できないのに対し、礼は察しがついたように呟く。

「レオは、とてつもない力を持っていながら、おれ達を何度も逃がした。おそらく…彼におれ達を消すつもりがなかったんだな」

「そう。私は何度もフォーゼとメテオを破壊しようと企てていたのだがね」

美咲の口から、紫苑が行ってきた事が語られる。

 

 

 

あれは、シャルロットと礼がIS学園に転校してきて間もない頃。

紫苑はシャルロットに心を開きつつあり、それでいて好意を寄せ始めていた。

だが…彼はホロスコープス最強のレオ。

そしてシャルロットは仮面ライダー部。

対照的な位置に属していたがために、想いは伝えられないと覚悟していた。

しかし…それでも彼女を…彼女がいる居場所を守りたいと思っていた。

 

「レオ、状況は由々しき事態だ。君に動いてもらいたい」

「まさか…」

「仮面ライダー部を…潰して欲しいのだ」

ヴァルゴは無感情を装って伝えた。本当は息子を傷つけたくはなかったが、目的のためには止むを得ない。

レオも肯定すると思っていた。

が…。

「お待ち下さい。彼等はホロスコープス覚醒へのカンフル剤となるはずです。もう暫く、様子を見るべきです」

落ち着いたように喋っていたが、その心に焦りがあったことをヴァルゴは見抜いていた。

そのときから、レオへの信頼はなくしたのだ。

「…然るべき時は、動いてもらうよ」

 

 

 

「実際に戦ったときも、何度も潰せと命じたのに、君達を潰さなかった」

言われて見れば、彼は凄まじい力で圧倒しながらも、仲間を取り返しのつかないところまで追い詰める事はしなかった。

「…ボクらを守ってくれていた…?」

「今頃気付いても手遅れだ。今の紫苑君は、完全にレオ・ゾディアーツとして戦うことを決意している。君達を本気で倒そうとしている」

美咲は勝ち誇ったように言い切り、再びヴァルゴに変化した。

「君達には、もう私を止める事は出来ない。この世界が大きく変化する様を見届けると良い」

彼女も紫苑達の後を追うように、ロディアを地面に叩きつけて姿を消した。

 

その後、一夏達はラビットハッチに戻ってきていた。

全員が傷だらけであり、山田と千冬が必死に応急処置を施している。

その間に戦いの結果や宇月がどうなったかも知らされた。

「城茂君がサジタリウスだったんですか…」「あの馬鹿者…スイッチの魔力に見せられたか…!」

この学園を何度も守ってきていた仮面ライダーの一人、しかもこの仮面ライダー部の一番の希望となっていた彼が、自分達の最大の敵になってしまったのだ。

「元に戻る方法は…ないんでしょうか…?」

「星の力に宇月が勝って、あいつが意識を取り戻すか、サジタリウスの意識をおれ達が破壊するかのどちらか。いずれにせよ、今の状況でどうにかなることじゃありません」

こちらの戦力は著しく減ってしまった。

 

仮面ライダーフォーゼがいないのだ。

 

専用機のISが6機とメテオストームでは、敵のヴァルゴ、レオ、サジタリウスの誰か一人にでも敵うことはできない。

「どうすればいいのよ…!」

鈴音が頭を抱える。

もう手立てがない。ヴァルゴの目的が果たされるのを、黙ってみているしかないのだろうか…。

しかし一人だけ、あきらめていない者がいた。

「まだ…終わってないよ」

シャルロットだった。

「紫苑は…まだ優しい心が残ってる。それが分かったから」

「そんなこと言っても、紫苑は完全にホロスコープス側に着いてしまったんだぞ…?」

箒の言葉にシャルロット以外の全員が俯いた。

紫苑は、宇月達を彼の出来る限りのやり方で守っていた。それに気付かず敵として戦い、彼は完全にレオ・ゾディアーツとして戦うことを決めてしまったのだ。

「大丈夫。ボクが…証明してみせる!」

シャルロットは強く宣言し、痛む身体に無理を言わせながら、ラビットハッチを飛び出した。

「まて、シャルロッ…くうっ!」

礼は立ち上がろうとしたが、今のメンバーの中で一番ダメージが大きく、身体が言う事を聞かない。

「礼は休んでいてくれ。おれが行く」「わたくしも!」

一夏とセシリアがシャルロットの後を追うことにした。

 

サジタリウスは、ヴァルゴの前でじっと立ち尽くしている。

まるで、電池が切れた人形のようだ。

「宇月…貴方の意思で私と共に戦ってくれないのが、残念だよ」

彼に向かって言うのだが、反応はない。戦うとき以外は全く動こうとしないのだ。

なぜ、彼がヴァルゴに付き従ったのか。

それは簡単な理由だ。

 

息子だからである。

 

彼の中にある母親への想いが、サジタリウスの意思に反映され、ヴァルゴに従っているのだ。

ただ、それは明確な意思があるのではなく、サジタリウス自身の意思に宇月の心が侵食している…というべきか。

「レオ、君は再び仮面ライダー部と交戦しなさい。フォーゼがいない今の状況ならば、簡単だろう」

「はい」

今まで、何かと断る理由を言っていたレオだったが、今回は迷いなく頷く。

本気で仮面ライダー部…そしてシャルロットと決別したのだ。

踵を返し、レオは姿を消した。

配置されている3人を除いた9つのホロスコープススイッチを見つめるヴァルゴ。

「まもなく準備は整う。この世界を…変化させる」

 

シャルロットが紫苑を探し回っていたとき…。

「オレを探しているのか?」

唐突に背後から聞こえる声。振り返るとレオが歩いてきていた。

「紫苑…」

「その名で呼ぶな。オレはレオ・ゾディアーツだ」

ツメを振りかざし、ゆっくりと迫ってくる。

だが、シャルロットは戦おうとも逃げようともしなかった。

ただ、彼を抱きしめた。

「ごめんね…気付いてあげられなかった。…紫苑がどんな想いでボクらと戦っていたのか…ボクらを守ってくれていたのか…」

「…だからどうした。今更気付いても手遅れだ。そのこともヴァルゴ様から聞かなければ、知る由もなかっただろう」

彼女の言葉を鼻で笑い、レオは再び右腕に力を込める。

「そうだよ。ボク達が悪いの…。それなのに…ボクは君を倒すなんて言って…本当にひどいよね…」

「懺悔のつもりか?そんなモノに付き合う気は…」

レオが痺れを切らし、ツメを振り下ろそうとするが…。

 

シャルロットは彼に口づけをした。

 

レオの時は口にあたる部分が分からない。だが、彼女は紫苑のときに口にあたる部分であったところに口づけをした。

「…何のマネだ!?」

「あの時、ちゃんと返事をしていれば良かったよね。ボク、紫苑のことが好きだよ」

その言葉に、レオは動揺した。首を左右に振りながらシャルロットから数歩離れる。

「何故だ…どうして、今頃…!?」

いつものレオの様子が変わる。

「あのとき、紫苑のお父さんのことを解決してから返事をしたかった。だから待ってて欲しかった。でも、紫苑は時間が残されてなかったんだね」

「煩い…オレは…ホロスコープスなんだ。これが、本当のオレなんだ!!!」

頭を抱え、膝をつくレオ。

後悔しているのだろう。彼女の気持ちがそう考えていたとは思っていなかった。

「君がどんな姿をしていても良い。でも…コレだけは変わらない。君は人間だよ。…優しい人間だよ」

優しく微笑んでレオを見つめるシャルロット。

一方のレオは頭を振り続け、否定する。

「違う…」

「違わないよ」

自分の鈍く光る銀色の腕を見つめ、レオは叫び続ける。

「オレはもう人間じゃないんだよォッ!!!!!」

「人間だよ」

シャルロットはその手を握り、自身の胸に当てて目を閉じた。

「やめろ…やめろやめろやめろ!!!!!」

必死に振り払おうとするが、その力はシャルロットでさえ押さえる事のできる、弱々しいものであった。

「大丈夫…紫苑はボクの居場所になってくれたから…。今度はボクが紫苑の居場所になる」

だから、その大きな手を強く抱きしめる。

「頼むからやめてくれ…オレを…これ以上惑わせるな…。オレはオマエ達の最大の障壁。最強のホロスコープス、レオ・ゾディアーツだ!!!!!」

「違うよ。君は…紫苑なんだよ」

シャルロットの愛情全てを、紫苑であるレオに伝える。

それを感じてか、レオは少しの間、大人しくなった。体の震えを残しつつ。

だが…。

「うるさいッ…今頃になってェ!!!!!」

「うわぁっ!」

錯乱しつつ、レオはシャルロットを突き飛ばし、咆える。

「グワアアアアアアアアアアアアアアアアアァッ!!!!!」

 

「…ここまで毒されては、ホロスコープスに君を置くのは危険だね」

 

その声と共に、ヴァルゴがロディアをもって現れた。

「ヴァルゴ…宇月のお母さん…」「ヴァルゴ様ッ…!?」

「君は答えを決めたつもりだったろうが、完全ではなかったようだね」

ヴァルゴの言葉にレオは必死に否定する。それはかなりの焦りを伴う様子だった。

「違います…オレは!!!!」

 

「ならば、今ここでシャルロット・デュノアを始末しなさい」

 

「な…!?」

それは、ヴァルゴにとってはレオが敵か味方かを見極める判別。

そして、レオにとっては、想い人を取るか、自分の居場所を取るかの究極の選択だ。

その決断は彼にのみ下される。だから、ヴァルゴもシャルロットもただ見つめるだけでしかない。

「オレは…」

両手に作り出したツメを見つめ…。

「オレはッ!!!!!」

シャルロットを睨んだ。

「紫苑…」

どうやら、レオは自分の居場所を選んだらしい。

再び、ゆっくりと近付いてくるレオ。もう、説得は通じないだろう。

せめて最後に…。

「ごめんね、紫苑。ボクの所為だ…」

彼に対する、謝罪を述べて目を閉じた。

そこへ…。

 

<LIMIT-BREAKE>

 

「メテオストームパニッシャァァァァァァァァァァァッ!!!!!」

「…!?」

何処からか、コズミックエナジーを蓄えたストームトッパーがレオを目掛けて発射された。

ドガアアアアアアアアアアアアアアァッ!!!!!

だが、レオには通じない。簡単に弾かれてしまった。

そこにメテオスターに跨ったメテオSと白式を纏った一夏がやってきた。

「おれ達の仲間を…シャルロットを傷つけさせない。同じ仲間だった紫苑、おまえにはっ!!」

「キサマ等ァッ…!!!!!」

邪魔をされたレオは怒り心頭で、一夏とメテオSに襲い掛かった。

「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオォッ!!!!!」

「紫苑、やめてっ!!」

シャルロットの呼びかけも通じず、レオは攻撃を止める事はない。

ドガアアアアアアアアアァッ!!!!!

「ぐあああああああああああぁっ!?」「うわああああああぁっ!!」

レオは高速移動で2人に攻撃を仕掛けた。避けることは出来ない。

もうこの2人では、勝つどころか、食い止める事もできないのだ。

「レオ、君は彼等に構うな。彼等は、私の息子が相手をする。来い、サジタリウス!」

ヴァルゴが呼ぶと闇が現れ、その中からサジタリウスがゆっくりと歩いてきた。

「…宇月!」

「オオォォォォォォ…!!!」

サジタリウスは何にも反応せず、ただ歩き続けている。ヴァルゴの…母の言葉に従うのみだ。

「宇月、正気にもどれよ!みんな、おまえを待ってるんだぞ!?」

「オオォォォォ…!!」

一夏がサジタリウスの肩を掴んで必死に説得するも、全く反応がない。

ただ、呼吸から生まれる声を発しているだけだ。

ギルガメッシュを展開し、一夏を殴り飛ばす。

ガッ!!!

「ぐっ!?」

メテオSのところまで追いやられ、サジタリウスを再び凝視したときには…。

コズミックエナジーの矢が放たれようとしていた。

「ハアアァッ!!!」

一直線の矢は、阻むものなく、向かっている。

それを…。

「一夏っ!」

メテオSが身を挺して一夏を守った。

ドシュッ!!!!!

「ぐあっ!?」

ドガアアアアアアアアアァッ!!!!!

矢はメテオSの体を貫通し、地面に突き刺さった瞬間、大爆発を引き起こした。

メテオSの大ダメージと引き換えに、一夏を守る事はできた。

「礼っ!」

変身が解け、地面に倒れる礼、その胸からはおびただしい量の出血がみられる。

おそらく致命傷だろう。

このままでは、礼の命が危ない。

「一夏…。宇月を…呼び戻してくれ。あいつを呼び戻せるのは…おまえらだけだ…」

「バカ言うな!おまえが一番、付き合いが長いんだろう!?」

「今のおれじゃ…だめだ…頼む…」

小さな声を必死に絞り出した後、礼の体が動かなくなった。

「礼…?おい、礼っ!」

どうやら、気絶したらしい。だが、長い間このままにしておけば、本当に死んでしまう。

残された方法は…。

「礼…借りるぜ」

礼の腰からメテオドライバーを剥ぎ取る。

「一夏、まさか!?」

シャルロットもその行動に想像がついた。

立ち上がった一夏は、腰にメテオドライバーを装着する。

<METEOR-READY?>

「変身っ!」

いつも礼が行なっているように、操作を行い、身体中を青いコズミックエナジーが纏う。

 

 

 

その姿は仮面ライダーメテオだ。

 

 

 

「ほう…メテオは変身者を選別する事はないのか。フォーゼと同じだな」

ヴァルゴもその状況に意外そうな様子で呟いた。

「はああああああああああぁっ!!」

メテオは、サジタリウスとレオに立ち向かっていく。

だが…。

ドガァッ!

「キサマがメテオになったところで、状況は変わらんッ!!!」

ドゴオオオオォッ!!!!!

「うわあああああああああぁっ!!!」

全く、効き目がなかった。レオにあっさりと弾き飛ばされ、次にサジタリウスが矢を放とうとする。

「オオォォォォォォ…!!!」

「宇月っ!!!もうやめてよ!!!!」

シャルロットがメテオを庇うように立ち塞がり、両手を広げるも、サジタリウスはやめようとはしない。

「セアァッ!!!!」

バシュッ!!!

再び、脅威の矢が放たれる。

目を力いっぱい閉じる。

「シャルッ!!!」

懐かしい声が聞こえ…。

ドッ!!!!

矢が何かを突き刺す音がした。だがシャルロットもメテオも痛みを感じない。

その矢が射たのは…。

 

「紫苑…?」

 

そう、紫苑であるレオだった。

その腹部には矢が突き刺さり、背中から少し顔を見せている。

「グオアァ…何故だァ…!!!??」

本人にも、その行動が理解できなかった。ただ、突発的に彼女を庇ったのだ。

そのために力を失ったのか、レオは紫苑の姿に戻り膝をつく。

「うぅぐ…あがぁ…!」

腹を押さえ、必死に痛みに耐えている。押さえている手の間からは出血が見られる。

「紫苑!」

シャルロットもとっさに紫苑に近付く。

「ひどい怪我…早く医務室に行こう!」

「や、やめて…」

「やめないよ!紫苑はボクらを庇ってくれたでしょう!?」

紫苑に肩を貸し、礼を抱え上げた一夏と共に医務室へ急ごうとする。

それを赦すまいと、サジタリウスがギルガメッシュを構えるが…。

「サジタリウス、もう良い。フンッ!!!」

ヴァルゴがロディアを叩きつけると…。

「紫苑っ!?」

彼女とサジタリウス、そしてシャルロットに肩を借りていた紫苑も姿を消した。

「くそ…とりあえず、礼を運ぼう!」

一夏に促され、礼を病院まで連れて行った。

 

その後…。

「ムンッ!」

レオはLアクエリアスに変化し、癒しの水で自身の傷を癒し、元のレオに戻った。

「…」

だが、この後のことを考えると気が重い。

とっさに体が動いたとは言え、シャルロットを…敵を庇ったのだ。

ヴァルゴからはどんな仕打ちが待っているか分からない。

そう考えているうちに、背後からヴァルゴが近付いてきた。

「レオ。何故、彼女を庇った…?」

想定できた言葉をかけられた。

「それは…グゥッ!?」

なんとか返事を言おうとした瞬間、体が痛み始めた。

それは今までの比ではない。まるで体がバラバラに砕かれるような痛みだ。

地面に這い蹲り、もがき苦しむレオ。

「遂に来たね」

それが理解できていたかのように冷たく呟くヴァルゴ。

「ウガァッ!?ゴォァアアアァ!?な、何が…!?」

今まで、レオに変化しているときに体がここまで傷みに苛まれる事はなかった。

だが、ヴァルゴの口から告げられたのは…。

「レオ、君は確かにホロスコープス最強の「獅子座の使徒」だ。だが、それは君だけの話」

「グゥッ…!…まさか!?」

 

「君の母親の身体が「獅子座の運命」を拒絶しているのだよ」

 

レオである紫苑は、身体の半分が母親の肉体である。その体は獅子座の運命を持っていたわけではない。

運命を持たない身体にホロスコープスの度重なる変身をした際に起こるのは…。

「…いや、レオ・ゾディアーツの持つ、強力過ぎる負のコズミックエナジーが、君の母親の肉体を破壊しようとしていると言ったほうが的確かな?」

拒絶反応。母親の身体がレオ・ゾディアーツの力によって破壊されようとしているのだ。

「な、何故だ…!?」

ヴァルゴはそれを知っていた。何故、黙っていたのか…。

「サジタリウスが手に入った今、君は用なしだ。レオスイッチを置いて去れ」

その言葉で、レオは絶望した。

 

遂に、ホロスコープスとしても居場所を失ったのだ。

 

それを受け入れられないレオは、頭を抱え…。

「嘘だ…嘘だアアアアアアアアアアアアアアアアアアァッ!!!!!」

拒絶の意志を見せてヴァルゴに襲い掛かった。

ドガアアアアアアアアアアァッ!!!!!

「ウッ!?」

しかし、その一撃をサジタリウスが防御した。

「オオオオオオォッ!!!!」

ドゴオオオオォッ!

「ガハアァッ!?」

逆に反撃され、体の痛みやサジタリウスから受けたダメージで苦しむ。

「何故だ…馬鹿な…!?」

頭の中で自問自答を繰り返しながら、レオは走り去った。

彼を追おうとサジタリウスは歩くが…。

「待て、私が行こう」

ヴァルゴはそう言って、レオを追おうとするが、あることに気付く。

 

「レオ…SOLUを奪ったか!?」

 

病院で礼は手術を受けている。

矢が貫通した事で臓器に穴が開いてしまい、かなり危険な状態であるとの事だ。

仮面ライダー部のメンバーも連絡を受けて待合室に集まった。

「礼…」

ラウラは扉の前でずっと立ち尽くしている。彼の惨状を聞き、心配しているのだ。

箒がラウラの肩に手を置く

「あいつだって仮面ライダーだ。きっと大丈夫。ラウラが信じなくて、誰が信じるんだ?」

「すまない、箒…」

彼女の言葉で、ラウラは少しだけ表情が柔らかくなる。

「じゃあ…やっぱり、紫苑さんは…」

「ボクと一夏を庇ってくれた。だから、まだ紫苑は優しいままなんだよ!」

セシリアを始め、他のメンバーにレオ…紫苑がやった事を伝える。

彼はまだ紫苑である。そう信じたい。

「あいつらがもう一度、おれ達と戦ってくれたら…」

一夏はメテオドライバーとフォーゼドライバーを見つめる。

今は、暫定的に一夏がメテオとして戦うことになった。だが、コズミックエナジーとの相性が悪いのか、メテオストームスイッチは使えない。通常形態のみでの戦いだ。

本来の装着者の2人はまともに戦えない。彼等がいたからこそ、ここまで戦えた。

「一夏、もう一度…紫苑を探そう。きっと…分かり合えるから」

「…あぁ」

宇月が愛用していたマッシグラーに乗り、エンジンをとどろかせる。

 

程なくして、紫苑は見つかった。

彼は身体中に近くで見つけたような、古びた大きい布で体をくるんでいる。

「うあぁ…痛いぃ…!あぐぁ…!」

身体中の痛みに苦しみ、地面に倒れてもがいていた。

「紫苑!大丈夫!?」

メテオスターから飛び降りたシャルロットは、紫苑を抱き上げる。

「ぐぅ…!あ、あれ…シャル…?」

朦朧とした意識の中で、心を開きかけていた少女の顔が映る。

その顔を見た瞬間、紫苑の目から涙が溢れ出した。

「ごめんね…。ボクが…ちゃんと気付いてあげられてたら…」

「シャルぅ…あぁ…」

シャルロットに優しく抱きしめられ、紫苑は泣きじゃくりながら彼女の体に触れる。

「大丈夫だよ。今度こそ、ボクが守ってあげる」

彼女に触れた紫苑の手を見て、一夏は絶句した。

 

人間の手とは思えないほど、肥大化し、脈打っている。

 

どう見ても危険な状況だ。

<METEOR-READY?>

「離れろ、シャルロット」

一夏はメテオに変身しつつ、シャルロットに促す。

その姿を戦う意思と見て、彼女は必死にメテオを止める。

「一夏、やめて!紫苑は苦しんでるんだよ!?」

「分かってる!おれも紫苑を助けたいんだ!」

そう言って、シャルロットを引き剥がす。

「あ…あぁ…!」

大切なモノを奪われた子供のような仕草で、シャルロットに手を伸ばす紫苑。

「紫苑、スイッチを捨てろ。今ならまだ間に合うかもしれない!」

必死に説得する。

 

「…プッ…。ウアハハハハハハハハハハハ!!!」

 

その途端、紫苑は嗤う。彼にとって、一夏の言葉は滑稽だったのだろうか。

「紫苑…!?」

「絶対に嫌だよ!スイッチを捨てて、また存在価値のない人間に逆戻りしろって言うの!?いや、人間以下の…誰からも非難されて拒絶される、本当のクズになれって言うのかよオオオオオオオオオオオオオオオオォ!!!!!!」

ドゴオオオオオオオオオオオオォ!

「うわあああああああぁっ!」

絶叫すると、彼の体から凄まじいコズミックエナジーが放たれ、メテオを吹き飛ばしてしまった。

シャルロットを見つめる。その頬に涙を伝わせながら。

「僕は沢山なくした…。家族も、自分の体も、ホロスコープスとしての居場所も…!僕に残されたのは…シャルだけだ…」

「紫苑…」

焦点の合わない目で、左手を伸ばす。

「シャル…シャルゥ…」

何度も想い人の名前を呼びながら一歩一歩、近付く。その間にも、布の中で紫苑の肉体が肥大化していく。

その異様な光景に…。

「い、いや…!」

シャルロットは後ずさりした。

そして、紫苑の体がレオに変化していく。

「くっ…」

このままでは、彼女の身に危険が及ぶ。

やむを得ず、メテオはベルトのスイッチを操作した。

<METEOR-ON READY?><METEOR LIMIT-BREAKE>

メテオストライクを発動し、レオに攻撃を放った。

「はあああああああぁっ…たああああああああああああああぁっ!」

ドガアアアアアアアアアアアアァッ!!!

「グワアアアアアアアアアアァッ!!!!!」

今のレオはここまで弱っているのだ。通常形態のメテオの攻撃にすら悲鳴を上げて地面を転がり、紫苑の姿に戻る。

「し、紫苑!」

「うっ…ぐっ…」

紫苑は意識を手放したわけではなく、苦悶の表情を浮かべながら必死に起き上がろうとしている。シャルロットは彼に近付こうとするが…。

「しお…!?」

バリッ…!

右腕を覆っていた布が質量に耐え切れず、引き裂かれる。

 

 

 

その腕は皮膚が裂け、血に塗れたレオの右腕。そして様々な神経、筋繊維が肥大化していた。

 

 

 

そのグロテスクな形に、2人は息を呑んだ。

紫苑は最早、人間の状態ですら星の力に浸食されている。

「グギギィ…!!グギャアアアアアアアアアアアアアアアアアァッ!!!!!」

人とは思えない雄叫びをあげた瞬間、右腕を中心に紫苑の身体が膨れ上がっていく。

巨大な肉塊となり、辺り一帯に人間の体の内部にあるはずの異臭がシャルロットの鼻を突く。メテオはマスク越しのため、その臭いを感じる事はなかった。

「紫苑っ!!」

「アグギガガアアアアアアアァァァァッ!!!!!ゲガアアアアアアアアアアアァァッ!!!!!」

完全に星の力に飲み込まれてしまった。

「ジャルゥ…!!ダズゲデエェェ…!!!」

最後に残った紫苑の意思なのだろうか、シャルロットに助けを求めている。

「紫苑が助けを呼んでる!」

シャルロットはその声を聞き、ISを展開した。

「よせ、シャルロット!死ぬぞ!」

「紫苑は助けて欲しいんだよ!放っておけない!」

メテオの制止も聞かず、シャルロットは「紫苑であったモノ」に向かう。

「…くそぉっ!」

その行動を見て、メテオも半ばヤケクソで彼女の後に続く。

「紫苑!聞こえる!?」

「ダズゲデェェ…!!グルジィィ…!!ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァッ!!!!!」

どうやら、シャルロットの声は届かないらしい。

苦痛で何も聞こえないのだ。

…いや、すでに聴覚は失っているのかもしれない。

そこに、箒、セシリア、鈴音、ラウラもやってくる。紅椿のコズミックエナジーの探索機能で探し出したのだ。

「なんだ、これは!?」「…紫苑さんですの!?」「こんなことに…!」「信じられない…!」

その異様な光景に4人全員が、驚愕した。

「紫苑を助けて!お願い!」

「グギガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァッ!!!!!」

紫苑であったモノは、巨大な腕を振り回している。

攻撃の意思はない。ただ、苦痛から逃れたいだけなのだ。

しかし、その攻撃が…。

ドガアアアアアアアアアァッ!!!

「うわああああぁっ!」

シャルロットにぶつかる。

さらに…。

「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァッ!!!!!」

体の中にあるコズミックエナジーを放出するために、エネルギー波を放ち続ける。

ドガアアアアァッ!!!ゴオオオオオオオォッ!!!

「くううぅっ!?」「きゃああああああぁっ!」

その流れ弾が箒や鈴音を襲った。

<LIMIT-BREAKE LIMIT-BREAKE><OK>

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおぉっ!!!!!」

ドガガガガガガガガガガガガガガガガァッ!!!!!

メテオはなんとか、その暴動を止めるべくスターライトシャワーを放つ。

だが、全く効き目がない。

いや正確に言えば、スターライトシャワー以上の苦痛が彼の脳を支配しており、その攻撃を気にする暇などないのだ。

「どうする…!?」

必死に策をめぐらせていたとき…。

 

 

 

「消えろォッ!!!!!」

 

 

 

女性の声が聞こえる。ヴァルゴのものだ。

そして、上空に巨大なダークネヴュラが生まれ、紫苑であったモノを吸い込んでいた。

だが…。

バリバリィッ!!!!!

「何だと!?」

紫苑であったモノのコズミックエナジーが巨大すぎて、ダークネヴュラが歪んでいる。

簡単に言えば、容量不足だ。

そして…。

 

 

 

裾迫理雄、尾坂夏樹、八木鳴介、居可弐式の4人がダークネヴュラから弾き出された。

 

 

 

「グワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァッ!!!!!」

それと交換に紫苑であったモノは、ダークネヴュラに飲み込まれてしまった。

「あいつら!?」

とっさに箒達が彼等を受け止める。

意識は無いが、死んでいるわけではないようだ。

「レオ…まさか、ここまでエナジーが高まっていたとは…!」

ダークネヴュラを消し、ヴァルゴは呟いていた。

シャルロットは手に何かを感じ、それを見つめると…。

「これ…!」

 

レオスイッチとSOLUスイッチが収まっていた。

 

「それを渡せ…!」

鬼気迫る勢いで、ヴァルゴはシャルロットに近付いてくる。

「…逃げるぞ!」

メテオは青い発光体となり、シャルロットを連れ去っていった。

ほかの仮面ライダー部のメンバーも後に続く。

「逃がさん…!」

ロディアを叩きつけ、先回りをしようとするが…。

シュゥゥゥ…!

「…エナジー切れか!?」

巨大なダークネヴュラを呼び出したため、ヴァルゴには負のコズミックエナジーが残されていなかった。

結果的に、彼等を逃してしまう事になった。

 

 

 

 

 

続く…。

 

 

 

 

 

 

 

次回…。

 

                           そうか…白石がレオだったのか…

 

お願い!元に戻す方法を教えて!

 

                            ゆりこ!

 

宇月…心の中でサジタリウスと戦ってるよ

 

                             紫苑!君の居場所は、ここにある!

 

戻ってきてえええぇっ!!!!!

 

 

 

第34話「獅・子・優・心」

 

 

 





キャスト

織斑一夏=仮面ライダーメテオ

篠ノ之箒
セシリア・オルコット
鳳鈴音

辻永礼=仮面ライダーメテオ
ラウラ・ボーデヴィッヒ
布仏本音
シャルロット・デュノア

織斑千冬
山田真耶

八木鳴介
許可弐式
裾迫理雄
尾坂夏樹

白石紫苑=レオ・ゾディアーツ

城茂宇月=サジタリウス・ゾディアーツ

城茂美咲=ヴァルゴ・ゾディアーツ



如何でしたか?
紫苑には、物語でいろいろ引っ張ってた微妙な伏線を回収してもらいました。
ネヴュられた4人をどうするかや、SOLUのことなど…。
さらにさらに、今回で急に決めた事ですが、一夏がメテオに変身です!
初期設定の使いまわし(?)と言いますか…。
一応、次回まで仮面ライダーとしての宇月と礼には見せ場なしなので、次回までは一夏がメテオです。状況によってはフォーゼになるかも…?
次回で、レオの話には決着がつきます!そのあとは遂にヴァルゴとの戦いです!
お楽しみに!

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