ヴァルゴの前にレオが現れた。
「何だい、レオ?」
「…報告があります」
「最後の十二使徒…射手座の運命を持つ者を見つけました」
「なに…!?」
その言葉に、さすがのヴァルゴも表情が変わっただろう。
「一体誰だ…?」
「そのことで交換条件があります」
ふと、レオがはじめてヴァルゴに自身の意見を述べた。
「交換条件…?」
「オレはある迷いをもっています。その答えを見つけたとき、その感情に従いたい。もし貴女が…オレの答え次第で、ホロスコープスを抜けても咎めないと約束するならば…お教えします」
レオはホロスコープススイッチを握り締めて言い放つ。
ヴァルゴは顎に手を当てて悩む。
実際、レオは不信感を抱いてはいたが自分の配下の中で最強の戦力である。フォーゼがコズミックに到達したこの状況で、レオを失うのは痛手かもしれない。
だが…それは絶対というわけではない。仮にそうなったとしても、彼の戦力と引き換えにサジタリウスが手に入るなら…。
「レオスイッチは置いていってもらう。それだけを守るならば構わない」
「…ありがとうございます」
千冬が怪我を負った状態で学園に帰ってきた。
報告を聞き、医務室で一夏をはじめ、仮面ライダー部の面々がやってきた
「千冬姉!なにがあったんだよ!?」
「織斑先生と呼べ…。レオにやられた…。彼の説得を試みたが…ダメだった」
つまり、勇士に説得したというわけだ。
「そんな…織斑先生まで…」
紫苑は自責の念に駆られ、頭を抱えてしゃがみこんだ。
「紫苑…おまえは悪くない」
宇月がそう言うが…。
「僕のせいだよ…。僕が助からなかったら、お父さんもゾディアーツになったりしなかったんだ…」
塞ぎ込む紫苑を見て…。
「…多分、おまえが助からなくても、変わらなかったと思う」
一夏がふと、こぼした。
「一夏君…?」
「昔は紫苑も愛されてたんだろ?仮に紫苑が助からず、お母さんが助かっても…おまえのお父さんはお母さんを憎んだ筈だ。それだけ…愛情が深かったんだ」
ふと、もしもの場合…所謂「IF」を考えてみた。
もし、茉那が自分を犠牲にしなければ…紫苑が死んでしまっていたら…。
おそらく、紫苑と茉那の立場が入れ替わっただけに過ぎず、同様に勇士はゾディアーツになったのだろう。
「…あの男には、まだ心が残っているようにも感じる」
礼が小さく呟く。
「心…?」
「憎しみに囚われているが…今まで、何度もおれ達に襲い掛かり、その度におれ達は危機に晒された。だが、奴は絶対に誰も殺さなかった。邪魔者であるおれ達を…。それどころか、致命傷も負わせていない。まだ…最後の良心が残っている」
確証はないが…それでもその言葉を信じたい。
誰もがそう思った。
次の日。
紫苑は墓地へ訪れていた。その後をシャルロットがこっそり着いてきている。
「紫苑…」
彼は小さい花を供える。
「ごめんね、お母さん。花束も買うお金がなくて…」
その背後に…。
「漸く逢えたな、紫苑」
勇士がゆっくりと歩み寄ってきていた。
「お父さん…!」
「茉那を殺した罪…ここで償うが良い!」
そう言って、スイッチを押した。
「紫苑っ!」
シャルロットがとっさに飛び出す。
「シャル…どうしてここに!?」
紫苑が驚く間も、勇士の体はみるみる黒い霧に包まれ…。
タウラス・ゾディアーツになった。
「…え?」
「チッ…シャルロット・デュノアか!」
毒づくタウラス。シャルロットは頭が混乱していた。
「どういうこと…!?あなたは…レオ・ゾディアーツじゃ…!」
「まさか、ここで気付かれるとはな…。昨日と今日、学園を襲撃したレオ・ゾディアーツは、私が幻で姿を変えていた」
つまり彼はレオではなく、本物のレオのスイッチャーは別に居る。
「じゃあ…本物のレオは一体…!」
「それは私も知らない。そして、君は永遠に知ることはない」
グアンナを振りかざし、金色のオーラを発した。
「シャルっ!」「きゃっ!」
とっさに紫苑が抱えて避けたため、魂を抜かれる事はなかった。
「セシリアを元に戻して!」「そうだよ、お父さん!セシリアさんは関係ない!」
「関係ないとは限らん。フォーゼやメテオの支援者である時点で、邪魔者に変わりはない。いずれ、君達全員の魂を抜いてやる!」
彼の暗い感情は留まるところを知らない。止められないのかもしれない。
それを感じてか、紫苑はシャルロットを庇うように立つ。
「…シャル、逃げて。僕が決着をつける」
「でも…相手はホロスコープスなんだよ!?」
「良いから逃げろぉっ!!!!!」
「っ!」
どうやら、本気らしい。表情が激情しているときと似ている。
「…親子だけで、終わらせたいんだ。これ以上…みんなに迷惑をかけたくない」
「紫苑…」
「お願い…シャル…」
迷った末、シャルロットは紫苑を抱きしめてこう言った。
「…無茶はしないでね」
「うん。出来るだけ」
それだけ言葉を交わしたのち、シャルロットは走り去った。
「…親殺しのくせに、恋心を抱いたのか?」
「それだけ、僕も変わったんだ。お父さんには…僕の大切な友達を傷つけさせない」
そう言って、紫苑は誰にも見せたことのないような表情を見せた。
それは怒りとも悲しみとも、ましてや笑顔でもない。
無表情だ。
それをみたタウラスは、心の底から言われようのない…「恐怖」を感じた。
「な、なんだ…!?」
そしてISではなく、ポケットからあるモノを取り出した。
それは…。
数分後。
「グアアアアァッ!?」
タウラスは地面に叩きつけられていた。傍らには破壊されたグアンナもある。
「まさか…どういうことだ!?」
「…」
目の前には無傷で立ち尽くしている紫苑がいる。無表情のまま、じっとタウラスを見ている。
…どこか、哀れんでいるようにも感じられた。
「多分、終わらないんだろうね。どっちか死ぬまで」
「なんだと…!?」
「終わろうか。ここで、お母さんも見てると思うから」
ゆっくりと歩いてくる紫苑。
今まで、目の前の息子は殺したいほど憎い相手だった。そう考えていたはずのタウラスは…。
「ウゥ…!?」
その息子に恐怖を抱いていた。
「ウワアアアアアアアアアアアアアアアアアアァッ!!!」
屈辱も何も感じなかった。ただ、目の前の恐怖から逃げ出したかった。
その一心でタウラスは走り去る。
「…お父さん」
紫苑は特に追おうとはせず、その姿を見送った。
数時間後、ラビットハッチ内。
そこで、タウラスについてシャルロットが説明をしていた。
あれからセシリアはグアンナを破壊した事で正気に戻っている。
「まさか…紫苑さんのお父様がタウラスだったとは…」
「うん。だから、レオのスイッチャーは別に居るみたいなんだよ」
「そういうことか…あのとき、リブラをみたのは…」
シャルロットの説明を聞いて、礼は納得した。
先日、レオが学園に襲撃に来たとき、その横で見た「あるもの」とはリブラのことだ。
おそらく、そのリブラこそレオがリブラスイッチを使って変身したもの。
「なんで、紫苑を置いてきたんだよ!?」
「ボク、紫苑を信じたかったの!」
「そりゃあ、おれ達も信じたいけどよ…!」
宇月は頭を抱える。
彼を信じたいのは確かだが、相手はホロスコープス。危険にも程がある。
それでも、信じたいとシャルロットは願った。
「でも…なんでいまさら、そんなミスリードを…?」
鈴音の疑問に、一夏が予測を言う。
「それは分からない…。考えられるなら、カモフラージュ。つまり、おれ達の近くにレオは潜んでいるのかもしれない…」
わざわざ、スイッチャーをミスリードさせる理由は、それくらいなものだろう。
「この学園に…いるのか…」
不安そうにラウラが呟く。なにしろ、スコーピオンのときも危機感が募っていたが、今回はその比ではない。相手はコズミックステイツでもほぼ同等のレオだ。
以前は宇月と礼はスイッチャーの可能性がある人物を仲間であっても疑っていたが…。
今回は違う。
「みんな、レオには気をつけろ。タウラスもだ。特に紫苑は狙われやすいから、もどってきた時は、みんなで固まるようにしておこう!」
宇月も礼も完全に仮面ライダー部の全員を信じている。
その日の夜。
シャルロットは部屋で紫苑の帰りを待っていた。
そして、扉が開く音がする。
「シャル…」
現れたのは、顔を赤くしている紫苑だ。見たところ、外傷はない。
「紫苑…!大丈夫だった!?」
「うん、平気。お父さんと決着は着けられなかったけど…」
安堵したシャルロットは、紫苑と一緒に椅子に座る。
向かい合って、少しの沈黙が流れた。
「し、紫苑…?」
いつもと様子が違う。顔が赤く、すっと落ち着きなくモジモジしている。
「…これで…決めよう」
独り言なのか、ボソリと呟いた後、紫苑はシャルロットをじっと見つめ、口を開いた。
「ごめんね…。僕なんかが、こんな感情を持っちゃいけないって思ってたのに…」
「君の事…好きになっちゃったんだ…」
彼女も薄々感じてはいたが、紫苑はシャルロットに好意を寄せるようになったのだ。
しかし、ここで告白を受けるなど、思っても見なかった。
「それだけじゃない。君とずっと一緒に居たいって思うようになったんだ…。この気持ちを…抑えられない…」
「紫苑が…ボクのことを…」
正直な気持ちで言うと、とても嬉しかった。彼が本当に心を開いてくれたのかもしれない。
「本当に嬉しいよ、ボクを好きになってくれて…」
だが…その気持ちには応えることは出来ない。少なくとも「今」は。
「でも…今はその気持ちに応えられないよ…」
紫苑は俯いた。
彼の周りを取り巻く苦しみを完全に取り払いたい。それが終わってから、その言葉についての返事をしたかった。
その判断が…悲劇の始まりになるとも知らずに。
「だけど…!」
「わかった、ありがとう。決心がついたよ」
シャルロットが続きを言う前に、紫苑は自身の言葉で遮った。
俯いていた顔を上げた紫苑は、優しい微笑みを浮かべたまま泣いていた。
そして、次に紡がれる言葉は…。
「…この学園を潰す」
「え…?」
「本当に、ありがとう、今まで。次に会った時は…完全に「敵」だね」
そう言い終った後に立ち上がり、部屋から出て走り去ろうとした。
「な、何を言ってるの、紫苑!?」
とっさに追いかけ、右手をつかむ。
だが…。
「…離して」
「ダメだよ!今の紫苑は、お父さんに…!」
「離せッ!!!!!」
「きゃあっ!?」
シャルロットは突き飛ばされ、紫苑を見失ってしまった。
「ま、待ってよ!」
後を追うも、彼の姿は見つけられなかった。
数分後。
ラビットハッチに全員が集められた。集まったのはシャルロットの言葉でだ。
「紫苑が帰ってきた!?」
「うん!でも、どこかに行って…追いかけたけど、見失ったの!」
「大変だよぉ…白石君、危ないかもしれない!」
本音もさすがに事の重大さを理解しているのか、あたふたと慌てている。
「とにかく、全員で探すぞ!一夏、箒、セシリア、本音は学園の中!おれと礼、鈴音、ラウラは外!シャルロットは山田先生と一緒に紫苑の行き場所に心当たりのあるところを探してくれ!」
各自、それぞれの場所の捜索を始める。
学園内を捜索している一夏。
「紫苑!何処だぁっ!」
3階や男子しかいけない場所などを重点的に探すが、見つからない。
「出て来い!」
箒は2階や、見つかりにくいような場所を中心に捜索を続けている。
「一人での行動は危ないですわよ!」
セシリアは1階や特別教室などを探す。
「出てきてよぉ!」
校庭を探すのは本音。
4人の捜索結果、彼は何処にもいない。
シャルロットと山田は、茉那の墓のある墓地に来ていた。
「紫苑が来るところは…ここくらいしか、思いつかないんです…」
だが、紫苑の姿は無い。代わりに現れたのは…。
「また来たか…」
勇士だった。
「勇士さん、どうしても紫苑と分かり合ってくれないのですか!?」
シャルロットが切実に訴える。勇士は拳を握り、静かに告げた。
「…仮に私が歩み寄っても、紫苑が歩み寄る事はない」
「どういう意味ですか…?」
その言葉の意味を山田が問う。
「君達は…本当に分からないのか?本当に、紫苑の正体を気付けなかったのか?」
勇士の質問での返事は、何か焦りがあるように見えた。
「白石君の…正体?」
「ここまで気付かなかったということは…あいつは、全てに心を閉ざしてしまっているのか…」
独り言のように呟く勇士。
「どうやら私の家族は、何もかも終わってしまったようだな」
「そんなことない!」
彼の諦めきった発言に、シャルロットが叫んだ。
「紫苑は泣いているんだよ。何もかも終わって諦めていたなら、泣いたりしない!」
「…そう思っているのなら、君は紫苑の本当の心を知らない」
そう言って、タウラススイッチを押して姿を消した。
「一体、どういう…」
「とにかく、白石君を探しましょう!」
2人は再び、紫苑の捜索を開始した。
宇月と礼、鈴音、ラウラの三手に別れ、学園外を探し続ける。
そこへ…。
「フンッ!!!」
ドガアアアァッ!!!
「うおぉ!?」
タウラスが奇襲を仕掛けてきた。
「フォーゼにメテオ…貴様達は余計な事をしないで貰おうか!?」
「余計はそっちだ!そこを退け!」
宇月と礼はドライバーを装着する。
<METEOR-READY?>
スイッチを起動させる2人にタウラスが呟く。
<3>
「倒せるか?私を…」
<2>
「倒せる!絆の力をナメるな!」
<1>
「行くぞ、宇月!」
「「変身!」」
フォーゼBSとメテオに変身し、タウラスに立ち向かっていった。
<COSMIC-ON><METEOR-STORM><METEOR-ON READY?>
基本形態ではラチがあかない。フォーゼCSとメテオSにステイツチェンジし、戦況の変化を求める。
<ROCKET-ON><FIRE-ON>
バリズンソードにロケットの突発力とファイヤーの炎を纏い、突撃した。
ドガアアアアアアアァッ!!!!!
「ヌオオオオオオオオオオオオオオオォッ!?」
さすがにコズミックの力は強大で、タウラスといえどその攻撃を防ぐ事は出来なかった。
「オオオオォ…アタアアアアアアアアァッ!!!」
メテオストームシャフトを振り回し、追い討ちをかけるメテオS。
ドガアァッ!!ズガアアアアァッ!!
「ガッ!?グアアアアアァッ!」
怯んでいたところを狙われたため、成す術なく吹き飛ばされるタウラス。
そこへ…。
「礼、宇月、ダメだ!見つからない!」
ラウラがやってきた。ISを纏っている事から様々な場所を探しつくしたのだろう。
「バカ、来るな!」
メテオSが叫ぶ。その意味は…。
「…盾になってもらおうか?」
タウラスの能力にあった。グアンナを振りかざし、ラウラに金色のオーラを浴びせる。
「なっ…しまった!?」
気付いても、もう遅い。ラウラは魂を抜かれタウラスの従僕となってしまった。
「やれ」
ドガアアアアアアアァッ!
「くっそ!」
<GYRO-ON><SHIELD-ON>
ジャイロモジュールに、シールドの防御を加え、ラウラの攻撃全てを防御する。
難なく防ぐ事は出来るが、ラウラを盾にされているため、反撃に移れない。
「どうすれば…!」
ラウラを傷つけず、かつ戦況を覆す何か良い方法を必死に考える。
だが、彼等では全く思いつかなかった。
そのとき…。
ガッ!!!
「…な!?」
突如、タウラスは地面に膝をつく。その手にはグアンナがない。
盗んだのは…レオだった。
「…オマエは用済みだ。フォーゼとメテオに潰されるが良い」
バキィッ!
グアンナを破壊し、そのまま去っていくレオ。
「う…うぅ…意識が…」
ラウラは正気に戻った。
「ま、まて!何故、私を…!?」
必死に呼びかけるが、全く反応しない。
「答えろ、レオ!いや、し…」
ドスッ!!!
最後の言葉を紡ぐ前に、レオのツメがタウラスの腹を抉っていた。
高速移動を使い、タウラスの懐まで入り込んだのだ。
「ウ…ガァ…!?」
「黙れ」
そういうと、姿を消した。
地面に倒れるタウラス。フォーゼCS、メテオS、ラウラはじっとそれを見つめた。
「ヌゥッ…!まだだァ…!まだ死ねんッ!!!!」
最後の力を振り絞り、タウラスは身体中から赤黒い霧を噴出した。
「ヌオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォッ!!!!!」
「…超新星に覚醒しかけている…!?」
自身の窮地から、その力を手にしたのだろう。
「このままじゃ、星の意志に飲まれるけど…あの状態でリミットブレイクしても…」
レオに致命傷を負わせられたタウラスに強力な衝撃を与えてしまえば、スイッチャーの勇士の命に関わるかもしれない。
ふと、メテオSが歩み出る。
「おまえ達には背負わせない。おれがやる」
「礼、おまえ!?」「待て、礼!」
<LIMIT-BREAKE>
「ウウウゥ…!!!!!」
タウラスは我を忘れて、メテオSに突進する。
メテオSは彼が走り寄ってくる間、ずっと悩み続けた。下手をすれば彼を殺してしまう事になる。
「ウオオオオオオオオオオオオオオオォッ!!!!!」
しかし、タウラスは確実に迫ってくる。
「礼、お願いだから、やめてくれ!」
ラウラは必死につかみかかり、止めようとする。フォーゼCSは拳を握り、俯いたままだ。
だが…。
「ラウラ、退け!」
ドンッ!
「うっ!?」
<OK>
「メテオストームパニッシャァァァッァァァァァァァァッ!!!!!」
ドガアアアアアアアアアアアアアアアアアァッ!!!!!
「グワアアアアアアアアアアアアアアアアアァッ!!!」
ストームトッパーはタウラスに命中。ギリギリと彼の体に食い込んでいく…。
ドゴオオオオオオオオオォッ!!!!!
大爆発を引き起こした。
煙が晴れた場所には、地面に倒れた勇士がいた。その手の横にはタウラススイッチもある。
駆け寄って、メテオSは勇士の安否を確認する。
「成功だ…!」「え…?」
メテオSの言葉にラウラはきょとんとした。
彼の能力の特徴は「エネルギーの吸収」。その力でタウラスの負のコズミックエナジーを吸収しつくしたのだ。
確かに大爆発は引き起こされたが、スイッチャーへのダメージは最小限にとどめられたはず。つまり勇士の命には別状がない。
これはフォーゼCSですらこなせない業なのだ。
「よかった…」
ラウラは安堵した。彼が人を殺めてしまうかもしれないと不安だったのだ。
そこへ…。
「さて…遂に残る使徒も一人になった」
ヴァルゴが現れ、スイッチを回収する。
「ヴァルゴ…!」
「そして…その残る最後の使徒…サジタリウスも間もなく見つかる。君達に私達を止める事は出来ない。ましてや今のレオでさえね」
小さく呟き、早々に姿を消した。
「レオでさえ…?」
確かに、レオは強い。だが今更、それを強調する必要はないはず。ヴァルゴの言葉の裏にある真意とは一体、なんなのだろうか…。
「とりあえず、勇士さんを病院に運ぼう!」
まずは彼の安全を確保してからだ。
彼等とは場所を探していた鈴音。
ふと…。
「…ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォッ!!!!!」
「今のは…ライオン怪人!?」
嫌な予感がして、咆哮のした場所へ向かう。
そこには…。
「グワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァッ!!!!!」
空に浮かぶ獅子座に向かって、ありったけの雄叫びをあげるレオ。
どこか、悲しみを込めているように感じた。
いつものような、狂気や威圧は感じられない…悲嘆のようなものだ。
姿が見えないように、鈴音は物陰に隠れてその様子を窺う。
「答えは決まったかい、レオ?」
程なくしてヴァルゴが現れ、彼の元へ近付いていく。気付いたようでレオは雄叫びをあげるのをやめた。
レオの肩に手を置き、小さく呟いた。
「いや…紫苑君」
その言葉と共に、レオはスイッチを切り…
白石紫苑の姿に変わった。
「う、うそ…!?」
鈴音はそれを見て、動揺する。
紫苑はヴァルゴの方を向き、涙を拭って言った。
「はい、僕はここで戦います。あそこにあると思っていた僕の居場所は…ありませんでした。此処だけが…僕の居場所ですから…」
「城茂美咲様」
「宇月のお母さんが…!?」
遂にヴァルゴも正体を明かした。スイッチを切ったその姿は髪の長い細身の女性。
ヴァルゴこそ宇月の母、城茂美咲なのだ。
「…紫苑君」
「分かっています」
美咲の言葉に頷き、視線を変える。
その視線は、鈴音の瞳を捉えた。
「あっ…!?」
見つかった。
紫苑はゆっくりと近付いてくる。
生存本能が、鈴音の脳に「逃げろ」「逃げなければ殺される」と信号を送る。
それは自然なものであった。
鈴音はその本能に従い、必死に逃げた。
彼を探しているとか、そういうことも頭から捨て去って。
「鈴音さん。何をしてるの?」
だが、逃げる方向の先に紫苑は現れた。
おそらく、レオの高速移動か、ヴァルゴの空間転移によるものだろう。
「あ…あぁ…」
「とうとう見たんだね」
そう呟く紫苑の表情は、感情がないように見える。能面のような表情に、鈴音は凄まじい恐怖を感じる。
だが…同時に別の感情も抱いていた。
「あたしは…どうしても信じられない。紫苑が悪いやつには見えないの…。きっと…なにか理由があるんでしょ!?」
彼が完全な敵とは思えなかった。スイッチを切った直後、彼は涙を流していた。そのことが鈴音の心に引っかかっていたのだ。
紫苑もその言葉を聞いて、俯いた。
「僕が悪い奴に見えないか…嬉しいよ…。でも…」
そして顔を上げるが…。
「勘違いするな」
上げた顔の表情は先程と変わらない、感情がないような無表情だった。
レオスイッチを押し、レオに変化する。
「どうして…どうしてよぉっ!?」
鈴音は必死に呼びかけるが、それも虚しく…。
「ウオオオオオオォッ!!!!!」
次の瞬間、彼女は意識を失い、血だらけで倒れていた。
「鳳鈴音…」
彼女の始末を終え、再び紫苑の姿に戻った。
その惨状に、ヴァルゴも少しながら驚いている。
「どうやら、本気のようだね。今まで、ここまで惨い事をしなかった君が…」
「…はい」
倒れ伏した彼女を見下ろし、次にヴァルゴを見つめる。
「約束です、射手座の運命を持つ者を教えします」
「遂に…最後の使徒が…」
ヴァルゴの心待ちにしていた最後の使徒。
「射手座は…」
その運命を持つ者は…。
続く。
次回!
あの者がサジタリウスか…!
レオは特殊だ。
星の意思に飲まれながらも、自我を保っている。
母さん…!?
逢いたかったよ、宇月
憎いだろう…ISが
第32話「射・手・覚・醒」
青春スイッチ・オン!
キャスト
城茂宇月=仮面ライダーフォーゼ
織斑一夏
篠ノ之箒
セシリア・オルコット
鳳鈴音
辻永礼=仮面ライダーメテオ
ラウラ・ボーデヴィッヒ
布仏本音
シャルロット・デュノア
織斑千冬
山田真耶
白石勇士=タウラス・ゾディアーツ
白石紫苑=レオ・ゾディアーツ
城茂美咲=ヴァルゴ・ゾディアーツ
如何でしたか?
勇士がレオだと騙されましたでしょうか…?そうであれば、大成功ですが…。
実はアナグラムでお気づきの方もいらっしゃるでしょうが…
白石勇士→しらいしゆ「うし」→うし→タウラス
白石紫苑→しらいししおん→苗字の一文字を除いて並び替え→(し)らいおん・しし→レオ
という事でした。ちなみにヴァルゴにアナグラムはありません。
今回で、ヴァルゴとレオの本当のスイッチャーも遂に判明…宇月の母と紫苑です。
2人は仮面ライダーに近しい人物達で、実は仮面ライダー部の行動は全て目に見えていたのです。
次回こそは、サジタリウスが覚醒します!
意外な人物かも。…一応、サジタリウスもアナグラム(?)ありです。
お楽しみに!