学校の敷地を少し出たところ。
宇月だった白いスーツ「フォーゼ」は、ファイティングポーズを取って構える。
この姿は「ベースステイツ」。フォーゼの基本となる形態だ。
「これは…ISなのか?」
箒の質問に、フォーゼBSは首を振る。もちろん、リンクスから目は外さない。
「違う。これは「コズミックエナジーの結晶」。さぁ来い、リンクス!」
「アンタもアタシの邪魔をするのね!?」
リンクスは右手のツメをこすりながら、女性らしい声で、フォーゼBSに襲い掛かる。
「ふん!とあぁっ!」
ドガアァ!
そのツメを避けたフォーゼBSは、思い切り殴り飛ばす。
「うっし!これで…」
<ROCKET-ON>
右端の橙色のスイッチを押し、右手にロケットモジュールが装備される。
「武装が転送された!?」
「それもちょっと違う。コズミックエナジーで生成してるんだよ」
そう言うとロケットモジュールは勢い良く噴射し、フォーゼBSの身体ごとリンクスに突進していった。
「ロケットパァァァァァンチ!」
ドガアアアアアアアアアアアァ!
「キャアアアアアァ!」
その威力は強大で、リンクスの身体を近くの壁にめり込ませるほどだった。
「次は…」
そう言いながらロケットスイッチをオフにして、新しいスイッチを使おうとした瞬間…。
「ムン!」
ドガァ!
「うおぁ!?」
何者かに蹴られ、地面を転がるフォーゼ。その方向を見ると…。
「あれも…ゾディアーツなのか?」
一夏が呟きながら、目の前の新たな怪人を見つめている。
それは金色の刺繍のあるクロークを身に包み、不敵に立ち尽くす怪人。頭は蠍を髣髴させるような形になっていた。
そのゾディアーツを見たフォーゼは、一気に声色が変わる。
「蠍座の使徒…ホロスコープス…!バカな、覚醒していたのか!?」
そう「スコーピオン・ゾディアーツ」だ。
「…早く行け。ここは私に任せろ」
「あ…ありがとうございます、スコーピオン様!」
スコーピオンはリンクスを逃がし、クロークを脱ぐ。
身体から黒い霧のようなオーラと蠍座の光が現れる。どことなく威嚇しているような雰囲気だ。
「なんか…やばそうだな」「さっきのゾディアーツとは、全てにおいて違う気がするぞ…」
フォーゼBSを見守る一夏と箒は、心配になる。
「おまえ…正体は誰だ!?」
「知りたければ、私に勝つが良い」
スコーピオンも簡単には口を割らない。彼もファイティングポーズをとって、フォーゼBSに対抗しようとする。
「やるしかないか…!」
<RAUNCHER-ON><RADER-ON>
次は青いスイッチと黒いスイッチをオンにさせ、右足にランチャーモジュールを、左手にレーダーモジュールを装備する。
レーダーの役割は標的のロックオン。ランチャーにホーミング機能を付加するのだ。
「ロックオン!いけぇ!」
ズドドドドドドドォ!
5つほどのミサイルが発射され、スコーピオンに向かっていく…。
「ヌンッ!ゼェアァ!」
「…!?」
しかし、なんと彼はホーミングつきのミサイルを一つ残らず避け、逆にフォーゼBSの懐に入り込む。
「オオオオオオオオオオォ!」
ドガアアアァ!
「ぐあああぁ!?」
至近距離から強力な蹴りをお見舞いされ、かなりの距離を吹き飛ばされる。
さらに、ランチャーの流れ弾が一夏たちに向かう。
「やべっ!箒、こっち来い!」「うっ!?」
一夏はとっさに箒を抱きかかえて、ミサイルを避ける。
ドゴオオオオオオオオォ!
「一夏、箒っ!」
間一髪で、大事には至らなかったようだ。
しかし、フォーゼBSを身ながらスコーピオンは嘲笑するように言う。
「君の作戦で仲間が傷ついたようだな。それでもフォーゼか?」
「おまえっ!」
<CHAINSAW―ON><SPIKE―ON>
フォーゼBSは右足にチェーンソーモジュール、左足にスパイクモジュールを装備し、蹴り主体の戦法を取る。
「うおおおりゃああぁ!」
「蹴りで私に挑むとは…愚かな。セェアアアァ!」
ドガッ!ガギィ!
「ぐっ!?うわあああぁ!」
全く歯が立たない。それどころか、更に劣勢を強いられた。
「くそ…せめて「10番」か「20番」が使えたら…!」
「さて…君達に色々、知ってもらおうと思う。我々は「ゾディアーツ」。人間を超えた存在。そしてこのIS学園を潰すために活動しているというわけだ。学校の関係者にも是非、報告してくれたまえ。では、また逢おう」
そう言って、スコーピオンは黒い霧を呼び出して消滅した。おそらく逃げたのだろう。
「この学園初戦からホロスコープス相手とは…先が思いやられる」
そう言いながら、フォーゼBSは変身を解除する。
その姿は宇月に戻っていた。
「宇月、詳しく知りたい」
箒が詰め寄る。もう、言い逃れは出来ないだろう。
「…分かったよ」
宇月は2人をラビットハッチに案内した。
「まさか…月面に通じてるとは…」
「フォーゼのことは説明するけど、他言無用で頼むな」
そう言って、広い部屋の椅子に座る。
「ここはラビットハッチ、おれの両親がコズミックエナジーの開発を行なっていた月面研究室。ゲートスイッチって物を使って、クローゼットから時空を捻じ曲げてここに繋いでる。システム自体は機能しているものの、今は殆ど廃墟」
「コズミックエナジー…それに城茂って苗字…。まさか君は「城茂吾朗」と「城茂三咲」の一人息子…?」
「そう。篠ノ之って苗字からして、箒は「篠ノ之束」の妹さんってわけか」
「…認めたくないけどな」
2人は納得の言ったような様子だが、一夏はついて来れていない。
「あのさ、一般人にも分かるように説明してくれよ」
「おれの父さんである吾朗は、人間が宇宙へ旅立つための可能性として、コズミックエナジーの研究をしていて、さっきの「フォーゼ」に最初に変身した人物。母の三咲は元IS使い。多分、一夏のお姉さんの千冬先生や、箒のお姉さんの束さんとも、馴染み深いはず」
つまり、彼はIS使いとコズミックエナジーの権威、両方のエキスパートの息子であるのだ。
「じゃあ、宇月がISに乗れるのは…やっぱお母さんの血…?」
一夏の質問に対して首を振り、フォーゼドライバーからロケットスイッチを取り出して説明する。
「違う。おれはフォーゼに変身して、コズミックエナジーを多く使うアストロスイッチをつかうから、身体にエナジーが溜まってる。その力で肉体を無理矢理、ISに適性化させてるんだよ。つまりフォーゼに変身しなかったらISにも乗れないわけ」
一夏にもなんとなく分かった。
「じゃあ、フォーゼって言うのは…」
「本来は肉体にコズミックエナジーを循環させるための実験スーツ。ゾディアーツの発生が確認されてから、研究室に残ってたコズミックエナジー兵器の試作品、アストロスイッチを同調させられるように改造して、戦闘用スーツにした」
次に気になるのは、先ほどの怪人「ゾディアーツ」。
「ゾディアーツってのはなんだ?」
「ゾディアーツは人間が「ゾディアーツスイッチ」を使って「負」のコズミックエナジーで超進化した生命体。当然、誰か使っているはず。あのホロスコープスもね」
そういえば、ホロスコープスという単語も気になる。
「…あぁ。ホロスコープスって言うのは、ゾディアーツの進化系。誕生月の星座の運命にある人間が覚醒する、選ばれた存在。父さんの記録によると首領は乙女座の「ヴァルゴ」。その他に獅子座の「レオ」、天秤座の「リブラ」が覚醒していて、おれの目で見たのはさっきの「スコーピオン」と、今は彼等を裏切っている牡羊座の「アリエス」。全部で5体覚醒している」
一通りの説明が終わると、宇月は溜息をついて一夏と箒を見る。
「さ、説明も終わったし、知ったからには協力してもらう」
「はぁ!?」「私達が?」
宇月の突然の申し出に困惑する2人。
「当たり前だろう。何事もギブ&テイク、秘密を教えるには見返りが必要だろ。まさか秘密を知ったのに、知らんふりするつもりだったのかよ?」
「い、いや…それは…」「でも、わたし達になにが…」
確かに宇月の言葉は筋が通っている。だが2人はコズミックエナジーのことなど、名前くらいしか知らないようなものだ。原理などは無知。
「スイッチ調整やフォーゼに変身しろなんて言わないけど、スイッチャー探しをして欲しい。さっきのリンクスの正体を探って欲しいのさ。あわよくばホロスコープスのスイッチャーも見つけて欲しいけど、彼等はそう簡単に正体がわかんないだろうなぁ…。やってくれるよな?」
少しの間、沈黙があったが…。
「乗りかかった船だ。付き合うぜ、宇月」「…わたしもやろう」
「マジか!?よっしゃ、助かる!さっそく作戦会議だ!」
「「いきなり!?」」
そのころ、紫苑は自室で夜空を見つめている。彼も1人部屋なのだ。
「…はぁ」
力の無い溜息。どうやら憂鬱らしい。
突如、ドアからノックが聞こえる。
「織斑だ、入る」「どうぞ」
現れたのは、千冬だ。
「白石。どうやら初日早々、裾迫に殴られたようだな」
「…は、はい」
彼女の雰囲気的になぐさめに来たようではないらしい。目つきは鋭いまま淡々と言う。
「たしかに内容からして裾迫が一方的に悪い。それに私のことに関して、君がとばっちりを受けたと聞いた。そのことは謝る。問題は…それを自分の力で何とかしなかったところだ。織斑、篠ノ之、城茂に頼ったらしいな。この学園ではISを乗りこなせるようにすることが目的だが、同時に精神面やコミュニケーション力を培うことも学園の目的でもある。ある程度なら問題を起こしても構わん。だが、自分に降りかかった災難くらい自分で解決しろ」
「あの…一ついいですか?」
なんだと尋ねる千冬に対して、星空を見つめながら答える紫苑。人が少ないからか、日中のような緊張は見られない。
「僕は頼ってないです…。だって、織斑君達から僕を助けてくれたんです。それに僕、仮に3人が助けてくれなくても良かったんです」
「どういう意味だ?」
さらに聞く千冬。振り返った紫苑の表情は悲しい笑顔だった。
「僕は…「クズの塊」ですから。何されても仕方が無いんです」
「本気で思ってるのか?」
「織斑先生位の素晴らしい先生なら、担任している生徒の記録くらい目を通してるでしょう?…特に男のIS使いである僕なんかは…」
その言葉を聞いて、千冬は言い返せなくなった。
「…でも正直に言うと、織斑君の行動は嬉しかったです。だから、頑張ってみようと思ってます。どこまで出来るかは…分かりませんけど」
「…そうか」
千冬はそれだけ言って、部屋を出ていった。再び夜空を見つめる紫苑。
「…僕もこの夜空みたいに、綺麗な存在になりたいよ…」
次の日。
「あぁあ、またあの鉄仮面女の説教染みた授業受けるのかよ、めんどくせぇ…」
そう言いながら、席でふんぞり返っている理雄。相変わらず、紫苑は彼に怯えながらも予習を始めていた。
「がんばらないと…」
そんなクラスの中で、一人の女子生徒に箒が声をかけた。
昨日、千冬の登場でかなりの声援を送っていた者だ。
「ちょっといいか?」「何?」
呼び出した屋上には、宇月と一夏が居た。
「あ…織斑君!」
一夏は千冬の弟。彼女の考えから彼と仲良くなれば、千冬とも親睦が深められるはず。
しかし、口を開いた一夏の言葉は…。
「おまえ…リンクスだな?」「え…?」
そう、彼女をリンクスのスイッチャーとして予測した。
「昨日言っていた「邪魔」っていうのは、強さを見せ付けるため。その理由は千冬姉だろ。千冬姉に強さを見せ付ければ、気を引くことが出来ると思って…」
「そ、そんなの理由に…」
そう言いながら、右手のツメをこする。それを宇月は見逃さなかった。
「それ、リンクスもやってたぞ。動機があって癖も一緒。もう言い逃れは出来ないな」
「…やっぱり邪魔するのね」
そう言いながら、取り出したのはゾディアーツスイッチ。
<LAST ONE>
その音声が鳴り、形状が変化する。
「なんだ…?」「ラストワン…!やめろ、押すな!」
女生徒は構わず、スイッチを押した。
その瞬間、リンクスと女生徒の2つに身体が分離した。
「あたしは強くなるの…もっと!」
「止められなかったか…。一夏、箒。その娘の肉体を守ってくれ!」
「わかった!」「一夏、こっちに!」
フォーゼドライバーを装着した宇月は、スイッチを押して構える。
<3><2><1>
「変身っ!」
レバーを押すと、オーラが宇月を纏い、フォーゼBSに変える。
「はあっ!…行くぞリンクス!」
「邪魔しないでって言ってるでしょ!?」
2人は同時に駆け出すが、その姿を見ている女性が居た。山田である。
彼女は授業を抜けている4人が気になって探していた途中だった。
「あれって…まさか!」
「どらああぁ!」
ドガアアアアアアァ!
「ウアアァ!」
戦況はフォーゼBSが優勢。もともと、通常のゾディアーツ程度なら何度も戦ってきたので、問題なく戦える。
「お次はこれだ!」
<HOPPING-ON><MAGICHAND-ON>
右手にマジックハンドモジュール、左足にホッピングモジュールを装備して、バッタのように跳ねながら、マジックハンドで叩きつける。
バゴオオオォ!
「クウウウゥ!」
動きが変則的なので、攻撃に集中できずダメージを受ける一方だ。
「よっしゃ、これで…!」
<ROCKET-ON><DRILL-ON>
右手にロケットモジュール、左足にドリルモジュールを装備し、空を飛ぶ。
更にレバーを押して…。
<ROCKET DRILL LIMIT-BREAKE>
「トドメだ!ロケットドリルキィィィィィック!!」
ドガアアアアアアアアアアアァ!
フォーゼの必殺技「リミットブレイク」。アストロスイッチのコズミックエナジーを極限にまで引き出した大技である。
リンクスは溜まらず爆発し、その中からゾディアーツスイッチが現れた。
それをキャッチし、スイッチをオフにする。
スイッチは途端に霧状になって消えた。ゾディアーツの生態活動が終わったのだ。
「一件落着…!」
倒れていた女生徒はうっすらと目を開ける。スイッチがオフになったことが理由だ。
「一夏、目を覚ましたぞ!」「大丈夫か?」
「あぁ…あたし、負けちゃったんだね」
残念そうに言うが、どこか晴れ晴れしてるようにも見えた。
そこにフォーゼBSが歩いてくる。
「なら、これから勝てるようにすればいい。人間の力でな。人は誰でも可能性がある。その可能性を可能にできるかどうかは、自分次第だ」
女生徒の肩に手を置いて、マスクの奥で笑うフォーゼBS。
「ありがとう…白いロケットさん」「フォーゼです…」
その一部始終を見ていた山田は…。
「か…仮面ライダー…!?」
「仮面ライダー?」「って言うか山田先生、いつから!?」
「えっと…城茂君が能美さんと戦い始めたところから…」
「殆ど見てたのかよ…」
教師は生徒を守る事が使命なのに…。
「あ…ごめんなさい…」
「まぁ、仕方ないけど。それより、仮面ライダーって…」
一夏の質問に対して、山田は手にあるファイルをゴソゴソと漁る。
「こ、これ!」
山田が取り出したのは、数枚の資料。
「正体不明の「仮面ライダー」について」
そう書いており、写真には「緑の仮面に赤いマフラーをした戦士」「頭が赤い鳥、腕が黄色い虎、足が緑のバッタを模した戦士」「マゼンタの戦士」「龍の紋章が額にある赤い戦士」のぼやけた写真がある。とっさに撮影したもののようだ。
「この学園でも会議の内容に上がってるの。この世界の悪に人知れず立ち向かう正体不明の人物達…それが「仮面ライダー」って…。まさか、この学園にも…」
「仮面…ライダー…」
そして…。
「これからも、みんなで力を合わせてゾディアーツ事件を解決しよう!」
宇月はラビットハッチで張り切る…のだが…。
「で…これは?」
ラビットハッチの壁にフォーゼの頭をデフォルメした絵柄と「仮面ライダー部」と書かれたタペストリーが張られていた。
「部活だよ部活。なんでもやり方が重要だって」「ノリが軽すぎるような…」
一夏が発端らしい。箒はさすがに首を捻っているが。
「わ、私は顧問ですね」
山田も顧問として参加。これで名実共に「部活動」となったのだ。
「…まぁ、活動内容は変わらないからいいけど…」
「じゃあ、行くか仮面ライダー部!」
今ここに「仮面ライダー部」が設立されたのだった。
続く…。
次回!
ちょっとよろしくて?
うおぉ、美人…!
イギリス人なのに、日本語ペラペラ…
本格的なISの特訓だね…
また男子が来る!?
まだ先の話だがな
スイッチ調整が進まない!
第3話「決・闘・申・込」
青春スイッチ・オン!
キャスト
城茂宇月=仮面ライダーフォーゼ
織斑一夏
篠ノ之箒
白石紫苑
裾迫理雄
女生徒=リンクス・ゾディアーツ
山田真耶
織斑千冬
???=スコーピオン・ゾディアーツ
あとがき
いかがでしたか?
こちらは2話完結式にしたいと思ってます!スコーピオンが強く表現できるように努力しました!
次回のゾディアーツは誰にするかなと考え中です。ISの話も進めないとです…(汗)
ご感想おまちしております!
ではまた…。