宇月と礼の部屋で話が終わった後…。
少し時間が経って、シャルロットは紫苑のいる自室へ戻ってきた。
「ただいま」
近付くと、小さいが何か口ずさんでいる紫苑が居た。
聞いた事がない歌だ。少なくともシャルロットは初めて聞いた。
ただ…なぜか優しい気持ちになれるような歌だった。
良く聞くと、声が震えている。窓の外を見つめており、後ろ向きなので見えないが、おそらく泣いているのだろう。
ずっと、シャルルは紫苑の背後でその歌を聞き続けた。
歌が終わったらしく、顔をうずめて嗚咽を漏らしだした。
「う…ぐっ…」
「紫苑…」
しばらくして彼の肩にそっと手を置くシャルロット。
それでようやく彼女が帰ってきたことに気付いたらしく、涙を拭って顔を上げた。
目は真っ赤になっていたが。
「あ、シャル…。帰ってたんだ…おかえり」
「良い歌だね…」
「聞いてたの?」
紫苑がそう聞いてきたことで、シャルロットは彼に悪い事をしたような罪悪感が芽生えた。
「う、うん…。ごめん、聞き入ってて…」
「別にいいよ。この歌、お母さんが教えてくれたんだ。もし落ち込んだり、もう駄目だって思ったときは、これを歌うと良いって」
そういう紫苑の表情は、懐かしさを感じているようだった。
「そうだったんだ…」
「いつか…この歌と同じような言葉を贈れる人に出逢えたら良いねって…」
紫苑は夜空を見つめながら、そう呟いた。
「ボクには…紫苑が何を考えてるか、はっきり分からない。でも…ボクの思ってることを伝える事はできるよ。…君がボクを守ってくれて嬉しかった。ボクは一人じゃないって思えたんだ」
シャルロットは精一杯の思いを伝えて、紫苑の右手に手を置いた。
「良いのかな…僕なんかが誰かと仲良くなって…」
「良いんだよ。ダメな理由なんてない。だから…ボクやみんなを信じて」
次の日の朝…。
唐突にラウラは帰ってきた。
「びっくりしたなぁ…まさかすぐに帰ってくるなんて…」
「ごめん、心配させて。でも大丈夫だ」
一堂の前でラウラは微笑んで返した。
「でも…レオや夏樹は何も言わずに返したのですか…?」
「なんだか、いらないんだって。ジェミニスイッチを一度捨てたからか…?」
疑問にもさらりと何の問題もなく答える。
それをじっと見ていた礼。安心などの表情ではなく、険しい表情だった。
「どうしたのよ、礼?」
気になった鈴音が尋ねるが、それにも答えずラウラをじっと見ていた。
宇月が立ち上がる。
「よし、とにかくラウラは戻ってきた!もう一度、態勢を立て直してピスケス達と戦うぞ!」
『おぉっ!』
それに殆どの仮面ライダー部が一緒に拳を高く突き上げる。
一緒にしなかったのは、いつもやらない礼と…一夏だった。
「ん?一夏、どうした?」
「…いや、なんでもない」
とりあえず、仮面ライダー部は解散し、それぞれが教室に戻ろうとしているとき…。
廊下を一人で歩いているラウラは、無垢ながらも邪悪な笑みを浮かべる。
「みんな、騙されてる。…ヴァルゴ様とレオ様の言うとおりだ…」
そう、このラウラこそ、ジェミニとして分離した闇ラウラである。
本物のラウラの存在の力を抜き取り、立場が逆転したのだ。
「ピスケスと協力して、こっちは内側からフォーゼ達を潰す…!」
「やっぱり、ラウラじゃなかったのか」
その声に振り向くと、一夏が立っていた。
「確かにレオの行動から言って、ラウラを開放してもおかしくないと思ってたけど、良く考えれば、あいつは元ホロスコープス。簡単に開放するはずがない!」
一夏はまっすぐ闇ラウラを指差す。
俯いていた闇ラウラはニヤっと笑い…。
「違ウヨ…ワタシガ、ラウラダヨ!」
普段とは少しだけ違う声で闇ラウラは話し始めた。
「デモ、バレチャウノハ計算内ダカラ。…バレチャッタトキハ、殺スコトニナッテルンダヨ?」
ジェミニスイッチを取り出し、ジェミニに姿を変えた。
「本物のラウラは何処だ!?」
「サァネ。イマゴロ、影ガ薄~クナッテ、消エテルカモ?」
おどけた様子で両手を挙げて分からないと言う仕草をするジェミニ。
一夏はその行動で怒りに思考が支配された。
「許さない…ラウラを返せっ!」
「ウッ!?」
ガシャァン!
白式を展開してジェミニに突進しつつ、窓ガラスを突き破って校舎の外へと連れ出した。
窓ガラスが割れた音に気付いて、そこへと急いでいる宇月達。
そこへ…。
「通さないわよ。アンタの相手はアタシ」
夏樹が現れた。その手にはピスケススイッチが握られている。
「夏樹…。理雄はおまえがスイッチを押す事は望んでない。おれ達だって…。だから捨ててくれよ!」
「ふざけないで。理雄君、本当は優しいからアタシを気遣ってそう言ってるだけなの。アタシが何もしなかったら…理雄君は一生あのままなの!理雄君の絶望する顔は見たくないの!」
宇月の説得にも応じず、夏樹はピスケスへと姿を変えた。
「勝てるだろうか…」
箒達は不安だった。
相手は超新星に到達したホロスコープス。今、ここにいるセシリア、鈴音、シャルロットが力を合わせても、勝てるかどうかは怪しい。
だが…。
「可能性が低くても、おれは戦う!理雄と約束したし、おれだってこの学園を守りたいんだ!」
強い決意と共にフォーゼドライバーを装着し、赤いスイッチを起動させる。
<3><2><1>
「変身っ!」
レバーを引き、フォーゼBSへと変身する。
「スイッチ無双、いくぞ!」
<MAGICHAND-ON><HOPPING-ON>
「おりゃあぁっ!」
バシィッ!
マジックハンドモジュールとホッピングモジュールで変幻自在な動きをしながら、攻撃を与えるが…。
「効かないわね」
全くと言っていいほど、効果がない。
「なら、これだ!」
<WATER-ON><FREEZE-ON>
ジャバアアアアアアアァッ!ビュオオオオオオオオォ…!
「ウワァッ!?やめて、混ざる!」
意外にも、ピスケスはコズミックエナジーの水分が苦手らしい。避けようとしているところをフリーズで凍らされる。
「今度は、こいつだ!」
<HUMMER-ON><CROW-ON>
ドガアアアアァッ!ズバアアアアアアアァッ!
「クッ…!」
氷付けにされた部分をハンマーとクローで破壊され、少ないながらもダメージを受ける。
「まだまだいくぞ!」
フォーゼBSの猛攻は続く…。
「アハハハハハハハハハハハ!」
ドガアアアァッ!ズガアアアアアァッ!
「くそ…近づけない…!」
一夏はジェミニのリュンケウスの嵐の前に、下手に近付く事ができなくなっていた。
「ドウシタノ一夏?ソレジャ、ラウラハ助ケラレナイヨ!」
悔しいが、一夏一人ではホロスコープスに太刀打ちできない。
「ハイ、隙アリ!」
パチン!ドガアアアアアアアァッ!
「うわああああああああぁっ!?」
一瞬の隙を疲れ、イーダスを貼り付けられていたようだ。
「どうしても…どうしてもダメなのか!?」
自身の力のなさに悔やんでいた。
そのとき…。
「織斑、手を貸す」
その声のする方向を向くと…。
理雄が「歩いて」きた。
「理雄…!?」
その右手にはスコーピオンスイッチを手にしている。
手の動きから察するに相当な迷いが見られたが、意を決してスイッチを押し、スコーピオン・ゾディアーツへと変化した。
「ス、スコーピオン!ウソ、ナンデ!?」
どうやら、ジェミニはヴァルゴの行動を聞かされていなかったようだ。
「ウオオオオオオオオオオオオオオオォ!」
「ワァッ!?」
スコーピオンはジェミニに掴みかかり、投げ飛ばした。
ブランクがあるとは言え、ジェミニとスコーピオンは、後者が実力は上なのだ。
「理雄、どうしてスイッチを!?」
「夏樹のためだ!アイツを止めたい!」
ジェミニと交戦しながら、スコーピオンは一夏の質問に答える。
「行くぞ織斑!悠長な事は言っていられない筈だ!」
「あ、あぁ!」
雪片弐型を構え、スコーピオンに加勢する一夏。
礼は授業を休み、メテオストームスイッチの再調整を進めていた。
「頼む…間に合ってくれ…!」
焦るも、状況は全く良い方向に向かない。
「くそぉっ!!!!!」
バンッ!
悔しさから、机を叩く。
「今、コレが使えなきゃ勝機がないんだ!!!!!」
どうしてもこのスイッチは思い通りに動かない。
彼もまた自身の無力さを呪った。
そこへ…。
「もう、気付いているんじゃないのか?」
竜也がやってきた。
「なんのようです?」
「スイッチは使っている人の気持ちに応える。昔、おれの知っている「別のフォーゼ」から聞いたことなんだ。このメテオストームスイッチの特性は…?」
「推測ですが…エネルギーの吸収と反射…」
礼は竜也の質問に答える。それで全てを理解した竜也は微笑んで頷く。
「マグネットは宇月君の割り切れない想いのために使えなかった。このスイッチが吸収なら…メテオが何かを得ようとする必要があるはずだ」
「そうか…!」
用途が分かった礼は、メテオストームスイッチを掴み、部屋を出て行こうとする。
「待って!」
不意に竜也が引き止める。
「その何かは…分かるのか?」
「…多分ですが」
そういう礼の表情は、不安な感情がなかった。そのまま出て行く。
その頃のフォーゼBSとピスケス。
<PEN-ON>
「喰らえ!」
ビシャッ!
ペンから現れる、文字を実体化させる力でピスケスの身体を覆う。これで液状化を少しだけだが防げた。
「ウザイ…!」
ガキィ!
槍でフォーゼBSに襲い掛かる。それをなんとか両手で防ぐが、反撃が出来ない。
「こんなときは…第3の手!」
<HAND-ON>
右足から現れたハンドがピスケスの槍を握り、フォーゼBSの手を空けることに成功する。
「次は、超移動!」
<WHEEL-ON>
ホイールを呼び出し、ピスケスを連れて凄まじい速さで縦横無尽に動き回る。
「こ、この…!」
<ROCKET-ON><DLILL-ON>
次にロケットで空中まで突き上げる。
「行くぞ!」
<ROCKET DLILL LIMIT-BREAKE>
「ライダアアアアアアアァ…ロケットドリルキィィィィィック!」
ズガアアアアアアアアアアアアアアァッ!
フォーゼBSのリミットブレイクがピスケスを止めるべく唸るが…。
「そろそろ…本気で行こうかしら?」
「何!?」
「超・新・星!」
「そんなモノ、効かないのよオオオオオオオオォ!!!!!」
ドゴオオオオオオオオオオォッ!
「うわあああああああああああああぁっ!?」
ピスケスは超新星の形態へと進化し、フォーゼBSを地面に向けて叩き落とした。
一夏とスコーピオン対ジェミニ。
スコーピオンの参戦で、優勢に導きかけていたが…。
「ワタシモ…使ッチャオウカナ?」
「キサマ…まさか既に!?」
「超・新・星!」
そう、すでにジェミニも超新星を獲得したのだ。
彼女の身体は2つに分離し、一夏とスコーピオンに襲い掛かる。
「アハハハハハハハハハ!!!!!」
「くそっ!?」「何かあるぞ…!」
スコーピオンの推測どおり、ジェミニは分身体に高エネルギーが詰まっている。このまま行けば、どちらかが巻き添えになるだろう…。
<ADVENT>
「ガアアアアアアアアアアアアアアアァ!」
ドガアアアアアアァッ!
「キャアァ!?」「マタ邪魔?」
そこへドラグレッダーと共に、龍騎が姿を現す。
「龍騎…龍崎先生!」「あの臨時教師が龍騎だったのか!?」
「一夏君、理雄君!ここはおれに任せて、早く!」
彼の実力ならば、ジェミニは任せておける。一夏とスコーピオンはピスケスのもとへと急いだ。
「ジャア、アナタヲ爆発サセヨ!」
「残念だけど、君の思い通りにはさせない。何しろ、待っている人が居るからな」
龍騎は迷いのない強い表情を、仮面の奥で作る。
「コレデ決マリダアアアアアアアアアアアアアアアアアアァ!!!!!」
ジェミニが両者とも襲い掛かってくる。
それに対して、龍騎は全く驚く様子もなくアドベントカードを引く。
<STRIKE VENT>
「はああああああああああぁ…だぁっ!」
ドラグレッダーと共に放つドラグクローファイヤーで、ジェミニに応戦した。
ドガアアアアアアアアアァッ!
「ウワアアアアアアアアアアァッ!?」
結果、ジェミニの分身は炎の熱に耐え切れず爆発してしまい、実態のジェミニがダメージを追う事になった。
<FINAL VENT>
「はああああああああああああああああああああああああああぁっ!」
龍騎はドラグレッダーと共に、空中高くまで飛び上がる。
その姿は、あの冬の日と何も変わっていなかった。
「だあああああああああああああああああああああぁっ!」
ドゴオオオオオオオオオオオオオオオォッ!
「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァッ!!!!!」
その威力の強さに、ジェミニは溜まらず爆発した。
後に残っていたのはジェミニスイッチのみ。どうやら、撃破に成功したようだ。
「だが、ラウラちゃんは…」
「ウオオオオオオオオォッ!!!!!」
ドガアアアアアアアアアァッ!!!!!
不意に、凄まじいエネルギー波が迫ってきた。とっさに避ける龍騎だが…。
「おまえは…!?」
「ジェミニスイッチは返してもらう」
現れたレオにジェミニスイッチを回収されてしまった。
ドゴオオオオオオオォッ!
「ぐああああああぁっ!?」
地面に叩きつけられたフォーゼBS。
地上では、ピスケスが呼び出したダスタードをセシリア達が応戦している。
「う、宇月さん!?」「ピスケスにやられたの!?」
その言葉に答えるかのように、ピスケスが降り立ってくる。
「残念、フォーゼはアタシには勝てないのよ」
勝ち誇ったように言うピスケス。
ここで、シャルロットがあることに気付いた。
「…理性を保ってる」
そう、先日は暴走して我を忘れていたのだが、今回はハッキリと明確な意思を持っている。
「進化しているのは、アタシもなのよ」
さらに彼女達にも襲い掛かろうとするが…。
「夏樹イイイイイイイイイイイイイィッ!!!!!」
その声と共に、白式を纏った一夏とスコーピオンが現れた。
「スコーピオン様…理雄君!?」
「よせ、夏樹!超新星は危険すぎる!」
スコーピオンはピスケスの身体を掴んで、必死に止めようとする。
「でも…理雄君は…!」
「歩けなくても構わない!!!!!」
戸惑っているピスケスに、スコーピオンは強く言い放つ。
「オマエが隣で一緒に笑ってくれていたとき、オレは自分の身体の惨状を忘れる事ができた。オマエ自身がオレに希望を与えてくれたんだ!!!!!」
それは、理雄が夏樹と時間を共に過ごすようになって感じた、本当の想いなのだ。
「オレも、オマエに希望を与えたい!だから…スイッチを捨ててくれ!」
ピスケスはその言葉に戸惑いよりも…絶望を感じた。
「嘘…理雄君まで、アタシの今を否定するの…?」
「違う!」
それを箒が否定する。
「理雄は本気でオマエを守りたいと思ってるんだ!」
「イヤ…イヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァ!!!!!」
スコーピオンである理雄の想いが、ピスケスの感情を崩壊させるまでに至ってしまう。
「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァ!!!!!」
「グオアアアアアアアアアアァ!?」
身体中から噴出す負のコズミックエナジーで、スコーピオンは吹き飛ばされる。
「夏樹…!」
もう、彼女を止める事は出来ないのだろうか…。
「こんな顔じゃ…帰れない…」
ラウラは開放された。だが、それはジェミニがラウラのもつ「存在する力」の殆どを抜き取ったためである。
存在の力が逆転したために、現在はラウラが不気味な白い仮面を被っている。
「もう…わたしには…支えてくれる人も…存在意義も…存在すらない…」
恐怖や絶望、悲しみなどが混じり、とめどなく涙が溢れ出した。
「心配する事はない」
ドガアアアアアアアアアアアアアアアアァンッ!
そこへ、メテオが現れた。ラウラは顔を見られまいと両手で隠して俯く。
「み…見ないでくれ…」
「顔くらいで、自信をなくすか?」
メテオはラウラの両手を優しく握り、ゆっくりと顔から離す。
その顔は白い仮面。
「あ…だ、だめ…」
「大丈夫だ、おれには分かる。あんなにくっついてきた奴のことが、判らない訳がない」
しかし、メテオは構わずにその顔を優しく撫でる。
「嫁…」
「嫁っていうのはやめろ」
メテオは不服そうな口調で呟く。
「おれは…自分の中にある、仲間を想う感情を「甘さ」と決め付けて、おまえ達と関わる事を拒絶していた。…それはおれが怖がっていただけだった。でも思った。ラウラやみんなを信じたい。そしておまえ達が信じてくれるなら、おれはこの仮面を脱ぐ事ができる」
メテオは優しく、そして強く言葉を紡いだ。
消えかけているラウラに届くように。自身の言葉で、彼女を繋ぎとめられるように。
「ラウラ…。おまえはおれを信じるか?」
そして、メテオは問う。彼女にその心があるかどうかを。
ラウラは伝っていた涙を拭い、心の中で微笑んでメテオを見つめる。
「信じたい…仮面ライダーメテオ…」
その瞬間、ラウラの顔に張り付いた仮面は剥がれ、元の顔に戻った。
だが、今の2人にそんなことは関係なかった。
「誰であろうとか…?」
「うん…」
もう、互いに迷う事は何もなかった。
メテオも少しだけ頷いて、はっきりと言う。
「ならば教える。おれの正体を…」
「本当…!?」
ラウラは遂にメテオの素顔を見ることが出来るんだと、明るい笑顔で彼を見つめた。
一方、メテオは自身のメテオドライバーを見つめて握り締める。
「ラウラ…。おれは「嫁」ではない。仮面ライダーメテオは…このおれだ」
メテオドライバーを外して変身を解除した姿。その姿は…。
「礼…!?」
そう、辻永礼。彼こそが「仮面ライダーメテオの装着者」だったのだ。
「こんな形で明かすとは思ってなかった」
俯きながら、申し訳なさそうに言う礼。
「すまない…やっぱり、ショックだったよな…」
ラウラは礼の言葉など気にせずに、彼を抱きしめた。
「ありがとう、素顔を見せてくれて…やっと…本当に触れられた…」
「そうか…」
礼は感じた。自分が正体を隠す理由など、何処にも無かったのだと。あれほど仮面ライダー部を邪険に扱っていた自分とメテオが同一人物でも、何も憎まれることもなかったのだ。
「ラウラ。おれはもう迷う事はない。仮面ライダー部の1人として、仮面ライダーメテオとして…そして、辻永礼として戦う!」
そう宣言して、メテオドライバーを腰に装着し、レバーを引く。
<METEOR-READY?>
「変身っ!」
操作を行うと、彼の体は青い光に包まれてラウラを飲み込み、遠くへと向かっていった。
ピスケスの暴走は止まらない。
ここにいる者全てが、人間の姿に戻ったりISを解除され、地面に這い蹲っている。
「ウアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァ!!!!!」
「もう…あいつを、止められないのか!?」
諦めかけたそのとき…。
ドガアアアアアアアアアアアアアアアアァンッ!
ラウラを抱きかかえたメテオが現れた。
「みんな、間に合ったか…?」
「遅くは…なかった!」
彼等はダメージがあるものの命に別状はないらしく、メテオは安心した。
「メテオォ…今更、何も変わらないわよオオオオオオオオォ!!!!!」
「違うな。今のおれは、昔のおれじゃない!本当の友と仲間…そして大切なモノを手に入れた。だから、おれは…もっと強くなる!!!!!」
そう宣言すると共に、メテオストームスイッチをメテオドライバーにセットした。
<METEOR-STORM>
今回は何の不具合もなく、すんなりとスイッチを受け入れた。
<METEOR-ON READY?>
スイッチ頭頂部のボタンを押し、風車を回すと…。
彼を凄まじい嵐が包み込み…。
「メテオが姿を変えた…!」
アーマーやマスクが左右対称のものに近くなり、右手には棒状の武器「メテオストームシャフト」が握られている。
「仮面ライダーメテオストーム!闇に蠢く星の運命…。この嵐で打ち砕く!!!!!」
「オオオオオオオオオオォ…アチャアアアアアアアアアアアアァッ!」
「ウアアアアアアアアアアアアアアアアアァ!!!!」
両者とも一気に距離を縮める。
ピスケスがエネルギー弾を放つが…。
「アタアアアアアアアァッ!」
バシュッ!ズシャアァッ!
それをメテオストームシャフトで振るい、ベルトのスイッチに吸収させる。
「このオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォ!!!!!」
ピスケスの身体からダスタードが生まれるものの、メテオSは全く意に返さない。
そう、意味が無いからだ。
「前座じゃ相手にならない!」
ドガァッ!ズガアァッ!
シャフトを振るうごとに、凄まじい数のダスタードが消滅していく。
「何で…!!!??」
「救ってやる。この学園も仲間も…おまえも!」
メテオドライバーに挿入されているメテオストームスイッチを外し、メテオストームシャフトに装着する。
<LIMIT-BREAKE>
「ま、まて…」
宇月が必死に立ち上がりながら、メテオSに忠告する。
「夏樹はコズミックエナジーを吸収しすぎてるんだ…!」
「分かってる。心配するな!」
そしてベーゴマを使う要領で、風車を切り離す。
「これで終わりだ!メテオストームパニッシャァァァァァッ!!!!!」
掌サイズの小さな風車がピスケスに向かってくるが、それを笑う。
「なんなのそれ?そんなちっぽけなモノで、アタシを倒せるとおもって…」
ズバッ!ドガアアアアアアアアアアアァッ!
「う、ウソ!?キャアアアアアアアアアアアアアアアァ!!!!?」
しかし、その威力は凄まじかった。ピスケスの身体を一瞬で切断するまでに至ったのだ。
「どうして…姿が変化したくらいで!?」
彼女の疑問に対し、メテオSはラウラや仲間達を見つめた後に強く告げた。
「違うな…」
「変化ではなく、進化していく!!!!!」
ピスケスは完全に敗北を認めた。最後は、膝をついて息が荒くなっている理雄に向かって涙を流しながら呟いた。
「あぁ…ごめんなさい、理雄君…。アタシ…勝てなかった…」
「もう…良いんだ」
ゾディアーツの瞳で見る最後の視界には、穏やかな理雄の微笑みが焼きついた。
ドガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァン!!!!!
ピスケスのコズミックエナジーはメテオストームスイッチの風車に吸収されたため、爆発は通常のゾディアーツ程度で済んだ。
戻ってきて風車は元の場所に戻る。仮面ライダー部のメンバー達に振り向いたメテオSは鼻を拭うような仕草をする。
「…勝ったぞ!」
『メテオおおおおおおおおおおぉっ!!!!!』
全員がメテオの傍に駆け寄り、勝利を分かち合った。
夏樹は地面に倒れていたが、理雄に抱きかかえられていた。
「夢に…見てた…。いつか、理雄君に…抱きしめてもらうこと」
そう、今の理雄はスコーピオンになったことで再び動ける身体を手にしているから、実現したのだ。
「結局…あたしは自分中心…だったんだよね。理雄君のためとか言って…自分の願いばかり…」
「何も言わなくて良い。オマエは優しいよ」
理雄は多くを語らず、夏樹をさらに強く抱きしめた。
仮面ライダー部一同もそこに歩み寄ってきた。
「夏樹…」
「…あたしの負けよ。さすが、理雄君を倒した人達だね」
傷だらけではあったが、憑き物の取れた清清しい表情だった。
だが…。
「敗北したのだね、ピスケス」
ドガアアアアアアアアアアァッ!!!!!
「うあああああああああぁ!?」
突如メテオSは吹き飛ばされ、懐からアリエススイッチを取り落としてしまう。
それを拾ったのは…。
「ヴァルゴ!?」「ヴァルゴ様…」
ヴァルゴが現れた。敗北した部下の排除のために…。
「残念だよ、君を失うのは…。第2のスコーピオンになれると期待していたのに…」
空中にロディアを翳していく。
「や、やめ…ぐぅっ!」「よせぇっ!」
阻止したかったが、宇月も礼も一夏達も戦う余力は残されてなかった。
そのとき…。
「ヴァルゴ様…オレも送ってください」
理雄が歩み出た。
「スコーピオン…」「理雄君っ!?」
夏樹は必死に引き止める。
「絶対ダメだよ!これはあたしの失態だから!」
「構わない。おまえの暴走は、元を正せばオレの責任だ」
理雄はヴァルゴをまっすぐと見据える。
「後悔しないかい?」「はい」
その問いにも、全く迷い無く答える。
「やめろ、理雄っ!」「やめてええええええぇっ!」
ヴァルゴは暫く俯き、決意したかのようにロディアを振るった。
「さらばだ」
ダークネヴュラが現れ、夏樹と理雄を飲み込んでいく…。
「夏樹…ずっと一緒だ」「ごめんなさい、理雄君…。でも…ありがとう」
2人は抱き合いながら、闇の彼方に消えていった。
「仮面ライダー…最後まで、本当にありがとう」
理雄は夏樹を抱きしめながら、そう宇月達に伝えた。
宇月と礼の部屋。
あれから、全員に礼がメテオであることが知らされた。
それで真っ先に動いたのは…。
「礼…本当にごめん」
鈴音だった。散々、戦ってないと文句をつけていたが、実際は一番戦っていたのだから。
だが、礼は…。
「知らなかったから仕方ないだろう。だが、もう偉そうな口は利くなよ?」
「…うん」
彼とは思えない、穏やかな笑みを浮かべて鈴音を許した。
ふと立ち上がって、礼はラビットハッチに続く扉に向かい、その中に入ろうとする。
宇月も続くが、残りのメンバーは見守っているだけ。
「…どうした?入って来いよ」
礼は軽く笑い、クローゼットの中へと消えた。
「礼が…」「ラビットハッチに出入りを認めた…」
宇月以外の全員は、かなり唖然としている。
「よっしゃああああああああああああああああああああぁっ!!!!!」
「わぁっ!?」
宇月が嬉しそうに叫んだ。
「仮面ライダー部、正式に結成だぁっ!」
彼の言葉で、みんなは気付かされた。礼も仮面ライダー部を認めたのだ。
「改めていくぞ、仮面ライダー部!」
『おおおおおおおぉっ!!!!!』
彼等の絆は、さらに揺るぎないモノとなった。
同時刻…。
「ふ…まさか油断していたとはね」
ヴァルゴの手にあるのはアリエススイッチとジェミニスイッチ。今回の戦いで回収したものだ。
背後からリブラがやってくる。
「これで覚醒済みのスイッチは揃いましたね」
「あぁ、残りは3つだ…」
ヴァルゴは不敵な笑みを仮面の奥で浮かべる。
ふと…。
「それはそうとヴァルゴ様。私の狙う者がまもなく現れます」
「ほう…遂に来るのか」
「世界の破壊者、仮面ライダ-ディケイド…」
「君との約束も守ろう。彼の排除に協力するよ」
ヴァルゴがそう言うと、リブラはスイッチを切り、壮年の男…
鳴滝の姿へと戻った。
「感謝いたします。…さぁ、ディケイド…ここが貴様の旅の終点だ!」
鳴滝は狂気を含んだ笑みを浮かべて天秤座の輝く夜空を見上げた…。
続く…。
次回!
士さん、久しぶりです!
ここがフォーゼの異世界か…
おのれディケイド…!
ホロスコープススイッチ…ぜひ手に入れたい。
ラビットハッチが!?
第22話「十・年・旅・人」
青春スイッチ・オン!
キャスト
城茂宇月=仮面ライダーフォーゼ
織斑一夏
篠ノ之箒
セシリア・オルコット
鳳鈴音
辻永礼=仮面ライダーメテオ
ラウラ・ボーデヴィッヒ
布仏本音
シャルロット・デュノア
白石紫苑
織斑千冬
篠ノ之束
山田真耶
龍崎竜也=仮面ライダー龍騎
尾坂夏樹=ピスケス・ゾディアーツ
裾迫理雄=スコーピオン・ゾディアーツ
鳴滝=リブラ・ゾディアーツ
???=レオ・ゾディアーツ
???=ヴァルゴ・ゾディアーツ
あとがき
如何でしたか?
メテオは礼でした!アナグラムとして…
辻永礼→つじながれい→(いを除いて文字を足す)→(ひ)つじ・ながれ(ぼし)
だったのです。ちょっと無理矢理ですが。
メテオストームの登場時には、是非「Evolvin’Storm」を聞きながら見て欲しいです!
さらにリブラも判明です。次回からはディケイド編ですよ!
お楽しみに!