仮面ライダーフォーゼ~IS学園キターッ!~   作:龍騎鯖威武

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第19話「立・場・相・違」

宇月と礼の部屋で、残された仮面ライダー部のメンバーである、箒、ラウラ、山田が集められる。

さらに楯無と虚もそこにやってきていた。

山田は教師側からの情報を宇月達に伝える。

「今、生徒の誘拐事件として取り扱ってるんだけど…やっぱり詳細はつかめそうにないですね…」

なにせ、相手はホロスコープスだ。正体もなにも分からない。

「ラウラと礼は、ヴァルゴに会った事があるんだろう?何処で…」

箒がふと思い出したことを聞いてみる。この2人はアリエスと元ジェミニであり、ヴァルゴとも会った過去がある。その場所を知れば…。

「いや…ヴァルゴはわたし達を空間転移で送っていた。明確な場所は分からない…」

「おれもそうだ。奴は何処までも自分に通じる情報を断ち切っていた。仲間のなかで知っているのは…おそらくレオやリブラ、そして…」

だがラウラと礼も、それを知るには至っていなかった。

しかし、一つだけ…手がかりがあった。

「あ…理雄だ!理雄なら知っているかもしれないぞ!」

「理雄君って…最近、自主退学した裾迫理雄君?」

「実は…彼もホロスコープスで、しかも古参の1人なんです」

そう、理雄はスコーピオンとしてヴァルゴから幾分か信頼を寄せられており、ラウラと礼よりも詳細な情報を知っているかもしれない。

問題は…。

「ただ…あいつはおれを恨んでるんです。おれの所為で、退学したんです…」

宇月は、楯無と虚に理雄の真実を話した。ゾディアーツになることで身体が動いていたこと、そしてその力を失ったために動けなくなってしまった事を…。

「そうだんたんですか…城茂君も裾迫君も…辛い思いをしたんですね」

「おれは良いです。でも理雄は希望を失ってるんです…」

吹っ切れてはいるが、理雄に対する後悔が拭えたわけではない。現にまだ、彼は宇月達を憎んでいるのだから。

「じゃあ、今から和解しに行きましょう」

「は?」

楯無はそれに対して、なんの問題もないように言う。

「い、いや…彼はわたし達の話を聞こうとは…」

「だからって、放っておいても和解は出来ないでしょ?だから、今から行くの」

さも当たり前のような様子の楯無。一同は唖然としている。

だが、彼女の言う事は正しい。どちらかが一歩踏み出さなければ、何も変わらないのだ。

「なにしろ、簪や本音ちゃんのこともあるから。わたしも協力させてもらうわ」

「ありがとうございます!」

一夏達の捜索の前に、理雄との和解から始める事になった。

 

同時刻…。

レオにスイッチを突きつけられた簪。

「星に願いを…」

簪は俯いて悩んでいる。

このスイッチを手にすれば、自分のもつ柵や苦悩から解き放たれるかもしれない。

だが…。

「やめて!」

シャルロットがそこで、大きく叫ぶ。

「これ以上、ボク達の友達をゾディアーツにしないで!どうして、そっとさせてくれないの!?」

その言葉を聞いたレオは彼女のほうを向き、少しずつ近付く。

シャルロットはレオに攻撃されると思い、少し目を閉じて怯えるように顔を背ける。

「…どっちが狂ってると思う?」

「え…?」

だが、彼が投げかけてきたのは質問だった。

「ISは兵器だ。それを高校生にスポーツのように学ばせている。それに対して、我々ホロスコープスは、人間の更なる進化のために活動している。どちらが合理的で、どちらがおかしいのか、考えろ」

「それは…。でも、ゾディアーツだって人を傷つけてるじゃないか!」

「生物は進化のために他の生き物を犠牲にしてきた。今回もそうだ」

なんとか反論したが、レオの言葉を覆すには至らない。

「もう良いか?コイツの闇を目覚めさせる」

そう言ってシャルロットから目を逸らし、再び簪に近づく。

しかし…。

「押さない…」

「なに…?」

簪は俯きながらもはっきりと言った。

「押さない!わたしはスイッチを押さない!」

「貴様達の意思は関係ないと言った筈だ」

「抗う!わたしにだって、支えてくれる人がいるって分かったから!」

簪はレオにも怯まずに言い放つ。

先ほどまでならば、押していたかもしれない。だが、一夏達が救ってくれた。一人ではないと教えてくれた。短い間だったが、彼等を信じてみたいと思った。

「…この短時間で、闇を消すとは…」

彼女の様子に、レオも少しながら驚いていた。

「…チッ、貴様等にホロスコープスの可能性を見出そうとしたのは失敗だったな」

そう言うと、物陰からリブラが現れた。

「君等に価値はない。もう行きなさい」

「お、おまちなさい!」

そしてリブラはディケを振るって、一夏達を元の場所まで転移させた。

全員が消えた後、レオとリブラが向かい合う。

「どうやら、フォーゼの支援者の中にホロスコープスの可能性がある者は、見出せなかったようだね」

「確定ではないがな。ラプラスの瞳があるホロスコープスが覚醒すれば、見分けられるが…おそらく、ISの適性の高さとは関連性はないようだ」

レオやヴァルゴも星座の運命を少しだけ感じるだけであり、ハッキリと区別できるわけではなく、現段階で星座の運命を見分ける「ラプラスの瞳」を持つホロスコープスはいない。

おそらくは超新星であると考えられるが、覚醒するものが誰かは分からない。

「まぁ、時間が限られているわけではない。焦らずに見つけよう」

残りの未覚醒ホロスコープスは3人。

アクエリアス、タウラス…そしてサジタリウス。

近いうちに見つかるかもしれない…。

 

理雄の病室…。

「夏樹は来ないか…」

寂しそうに窓の外を見つめていた理雄。何も出来ない彼にとって、彼女と話をする事が何よりも楽しく、自分の現状を忘れさせてくれる。

コンコン…。

ノックがする。

「どうぞ…」

理雄は夏樹が来る事を期待し、少し微笑みながら扉を見つめる。

だが、そこに現れたのは…。

「…貴様等か」

宇月、箒、ラウラ、楯無、虚の7人だった。礼はここに来る事を拒絶し、紫苑はシャルロットを探すと言う置手紙を残して姿を消していた。

宇月が強い意志をこめた瞳で言う。

「理雄。今日はおまえと和解するために来た!」

「帰れ」

「帰らないぞ!ちゃんと話し合って、分かり合うまではな!」

いつもなら、理雄が一度でも怒鳴り声を上げれば帰っていたが、今回は絶対に帰るつもりはない。

山田が尋ねた。

「裾迫君…。どうしてホロスコープスになったりなんか…」

「そうすることで、二度と動かなかったこの身体が、動けるようになった。その奇跡を与えてくれたヴァルゴ様に尽くしたかっただけだ」

次に虚が理雄の顔を見ながら言う。

「裾迫君。ホロスコープスに入った経緯は分かった。でも、悪事を働く言い訳にはならないわ」

「悪事だろうが何だろうが関係ない。そこにヴァルゴ様の意思があったからこそ、オレはそれに従っただけだ」

今は従う事すら出来ないがな…と理雄は付け加えた。

「でも、そこに理雄の意志はあったのか?」

「オレの意志はヴァルゴ様の意志と同じだ」

箒の問いにも、理雄は何の疑問も持たずに答える。

その様子を見て、楯無が新たに聞く。

「それならヴァルゴを抜きにして、あなたはどうありたかったの?」

「…そんなことを、貴様等に喋ると思ってるのか?」

窓を見つめなおして、理雄は嘲笑する。

「そう。あなたが喋られない在り方ということは…やっぱり、ちゃんとした生活がしたかったんじゃないの?」

楯無の言葉は理雄の意中を捕らえていた。振り向かずに無言になった。

「図星ね。あなたはヴァルゴに心酔していながら、心の何処かで罪悪感を感じていた。でも立場上、逃げる事はできなかったってところかしら」

「…どうすれば良かったんだよ」

理雄は小さい声で呟く。そして振り返った顔には大粒の涙がボロボロと流れていた。

「オレは取り戻しちゃいけなかったのかよ!?オレが取り戻した生活と身体のために、どんな悪事にも手を染めた!それが許されないなら…オレは横たわる事しか許されないのかよ!?」

 

「甘ったれてんじゃねぇよ!」

 

宇月は理雄の胸倉を掴んで叫ぶ。

「たしかに、理雄の苦しみは計り知れないかもしれない。でもテメェだけが、悲劇の主人公じゃない!」

一同が唖然としている。少しして手を離して、宇月は落ち着いた様子で言う。

「怒鳴ったりして悪かった。楯無先輩や織斑先生から、おまえの昔のことを聞いた。本当に辛かったと思う。でも、今は誰か傍にいるだろ?」

そう言って、理雄の脳裏に浮かんだのは…。

「夏樹…夏樹がいる…」

自分のことを大切に思ってくれる唯一の人。彼女に救われた。

だが…彼女でさえもホロスコープスの一人であり、ピスケスなのだ。

だからこそ…。

「頼む…理雄。おれ達は夏樹も救いたい。ホロスコープスの闇から救って、おまえのようなことにならない為に…。だから、力を貸してくれ」

少しの間があったが…。

「…信じていいんだな?オレから、何も奪わないよな?」

「奪わない。いや、色んなものを与えたい。信じてくれ」

宇月が微笑んで、理雄の動かない手を取って握る。

少しの間があって…。

「ヴァルゴ様は織斑達に顔を見せてはいない筈だ。おそらく、レオかリブラ様が彼等を選別しているはず。…彼等が集まる場所は…IS学園近辺である箇所だ」

そう言って、棚に目をやる。ラウラがそれを開くと、数箇所の印がある地図があった。

「オレが分かるのはこれくらいだ…」

「ありがとう理雄。約束は守るからな!」

 

一夏達は急いで宇月達の元へ走っていた。大事ではないが一夏は顔に怪我を負っている。

「とにかく、取り返しがつかないところまで行かなくてよかった!」

セシリアと鈴音が一夏の両手を担いで向かうが…。

「ところがどっこい、取り返しのつかないことになるんだね~」

目の前に弐式が現れた。

「貴方は、蟹座の弐式さん!?」

「また会ったね、お嬢さん方とモテモテな男の子!いやぁ、両手に花…と言うか花束?羨ましいねぇ!」

今ならISが使える。セシリア、鈴音、シャルロットはそれぞれのISを展開する。

「一夏は傷つけませんわ!」「せめて、守るくらいはやってやるわよ!」

一夏は簪と本音に担がれて離れる。

彼女の動きを見ながら、弐式はスイッチを押してキャンサーに変化する。

「ナハハハハハハハ!専用機の複数とは言え、IS如きが何か出来ると思ってんの?」

そう言って、ラウラから抜き取った輪を取り出す。

「これ魂なの。アタシのハサミでちょん切ると…お陀仏だ。戻すには、アタシを心の底から笑わせないといけない」

「そんな…やめて!」

「デュノア社のご令嬢さんの頼みかぁ~…どうしよっかなぁ~…」

ハサミで今にも切断しそうな勢いだが、寸前で止めている。

ふと、何かを思いついたように、キャンサーは魂の輪を仕舞う。

「じゃあ、特別サービス。アタシを5分以内に地面へ跪かせたら…ボーさんの魂、返してあげてもいいよ?…出来るモンならね」

「やってあげますわ!」「後悔しないでよ、蟹怪人!」「絶対に取り返して見せるよ!」

先に動いたのは鈴音だ。龍砲でキャンサーを狙うが…。

ドガアアアアアアアァ!

「うっひょぉ~危ない…こりゃ、一撃でも喰らえばマズイね。…喰らえばの話だけれども」

「動きが読まれてる…!?」

彼は踊るように衝撃波を避ける。

次にシャルロットとセシリアが攻撃を放った。

「はああああぁっ!」「やああああぁっ!」

ドゴオオオオオオオォ!ダダダダダダダダダダダダダダ!

「おっととととととと!危ない危ない!ちょ~っとハンデが優しすぎたかな?」

「全て避けてる…」

凄まじい攻撃の嵐だったが、どの攻撃も遊んでいるかのような動きで避けられている。

このままでは、埒が明かない。

「3人同時攻撃で行きますわよ!」「オッケー!」「うん!」

3人は、自身の持つ最大の攻撃をキャンサーに向ける。

そのとき…。

「見えた」

キャンサーがボソリと呟く。その声が聞こえなかったセシリア達は、一斉攻撃を放った。

ドガアアアアアアアアアアアアアアアアァッ!

爆炎で見えなくなるが…。

「ウオオオオオオオオオオオオォッ!」

その中からキャンサーが現れ、一気に間合いを詰める。

「くっ…!?」「はやっ!?」「距離が…!」

ズバアアアアアァッ!

「「「きゃああああぁっ!」」」

凄まじい勢いで斬りつけられて、地面を転がる3人。

「悪い悪い。今回も身体は無傷な分、許してね。落語に必要なのは、ネバリと根性、そして観察力なのよ~!」

そう、彼は避けながらセシリア達の動きを観察して弱点や攻略法などを探していた。

それが分かった途端、攻撃に移るのだ。

「あ~ぁ。ぜぇんぜん、ダメだったね~!んじゃ、罰ゲーム!」

キャンサーが左手を動かして、彼女達の身体から魂の輪を抜く。

「まずいですわ…!」

「ボーさんに続いて…セシリア・オルコットのセッちゃん、鳳鈴音のスズちゃん、シャルロット・デュノアのシャルっつぁんの魂をいただきだ」

「その呼び方、どうにかならないのかな…?」「ふざけないでよ…!」

相変わらずヘラヘラと笑うキャンサーにシャルロットは呆れ、鈴音は怒るが…。

「ふざけますよ。アタシはね…ふざけるのが自然体なの!でも、内に秘める腹黒さは…天下一品だ。ついでに!」

そして、簪と本音の魂まで引き抜く。

「わわ…投げ輪が取れた…」「くっ…!」

右手のハサミで全員の魂を切断しようとしたそのとき…。

バシャアアアアアァッ!

「来たな…!」

高圧水流が何処からか放たれ、キャンサーはそれを避ける。

そこには…。

「みんな、無事か!?」「また会ったわね、弐式さん」

宇月達が居た。水流は楯無のミステリアス・レイディによるものだった。

「楯無だか台無しだか知らないけど、アタシは容赦しないよぉ~?」

「ムウウゥゥ…」

そう言いながら、ダスタードを呼び出した。

言葉はおチャラけているが、雰囲気はまるでさっきと違う。

「あら…ふざける余裕は出来たようね」

ドガアアアアアアアアアアァン!

そこへ、メテオも応援に駆けつける。

「キャンサー…」

「アンタが噂の「一人プラネタリウム」の…メテオかい!」

「聞いたとおりの口達者らしいな」

お互い睨み合う。

「嫁!メテオドライバーは大丈夫なのか!?」

「メンテナンスは終了した、もう問題は無い。…あと、嫁はやめろ!」

ラウラはメテオに向かって心配そうに尋ねるが、どうやら大丈夫らしい。

だが…。

「…とは言え、ホロスコープスとの戦いはキツイ。フォーゼ、頼む!」

「分かった!」

宇月がフォーゼドライバーを装着し、赤いスイッチを押す。

<3><2><1>

「変身っ!」

レバーを引き、フォーゼBSに変わった。

「はあっ!」

フォーゼBSとセシリア、鈴音、シャルロット、ラウラ、楯無が並び立つ。

しかし、キャンサーは焦る様子も無く、叫ぶ。

「おっと、そうは行かないよ。ピーちゃん、お願い!」

「ハアアアアアアァッ!」

バシャアアッ!

「うおあああああぁっ!?」「ぐああああああぁっ!」

突如、フォーゼBSとメテオが吹き飛ばされる。

背後からピスケスの奇襲を仕掛けられたためだ。

「今度こそ…破壊する!」

その頃、一夏は頭を抱えながら目を覚ましていた。

「脱出できたのか…?」

「うん…それより、おりむー!」

本音が指差す先では、フォーゼBSとメテオがピスケスと戦い、ISを使う者たちがキャンサーと戦っていた。

「おれも…!」

「だめ、まだ治ってない!」

一夏が立ち上がろうとするが、簪に止められる。

「でも、黙ってみてるわけには行かない!おれは…あいつらを守りたいから…おまえも!」

「一夏…」

痛みは残っているが、それでも身体に無理を言わせて立ち上がり、一夏は白式を装備した。

「キャンサああああああああぁっ!」

「ブリュンヒルデの弟…!」

キャンサーは一夏の放つ雪片弐型を避けて、面白そうに言う。

「なぜか、ヴァルゴ姐さんはアンタにあまり興味を示してないな。その理由、知ってみたい!」

 

「分割・セット!」

<N・S MAGNET-ON>

フォーゼBSは早急に決着をつけるべく、現時点で最強のステイツであるフォーゼMSにステイツチェンジして、マグネットキャノンを放つ。

「おりゃあああああああああああああぁっ!」

「磁力ね…そんなもので!」

ピスケスは身体を液状化させて、上手く避ける。

だが…。

「これなら、どうだ!」

次はエネルギー弾ではなく磁力の嵐を巻き起こし、ピスケスを巻き込む。

「くっ…!?」

痛みやダメージは無い。

「喰らえっ!」

再び、エネルギー弾を放つ。

「何度やっても同じ…」

筈だったが、磁力の嵐に巻き込まれた影響で、避けても避けてもエネルギー弾が襲い掛かってくる。

ドガアアアアアアアァッ!

「グゥッ!」

吹き飛ばされて、隙が出来たところをメテオが攻撃を仕掛ける。

「アチャァッ!アタァッ!ウゥアチャァッ!」

ドガッ!ガスッ!ドゴォ!

「キャァッ…!…ふん、やるわね」

 

一夏とセシリアが、近距離と遠距離に別れて攻撃を続けている。

「はぁっ!ふんっ!」

「これでどうかしら!?」

ドガアアアアアアァ!

「チッ…危ないね…」

毒づきながらも、正確に避けるキャンサー。

「ラウラ!」「任せろ!」

シャルロットとラウラが次に攻撃を仕掛ける。ワイヤーブレードでキャンサーを拘束しようとするが、それをハサミで切り裂かれる。

「だから…効かないんだって…」

「でも、これはどうかな!」

ワイヤーブレードに気を削がれているときに、背後からシャルロットがショットガンで攻撃を仕掛けた。

ドガアアアアアァッ!

「ウオオオォッ!?…いやいや、防御に自信があって良かったよ」

命中したがキャンサーの防御力が高すぎて、有効な一撃にはなっていない。

ふいに、鈴音が問う。

「ねぇ…あんたもスイッチに手を出したのは、闇を抱えてるからなの?」

「闇…ねぇ。まぁ、アンタ達と比べてどうかは興味ないけど、一応、キツイ経験はしてきたつもりだよ?」

身の上話をする事を決めたらしく、胡坐をかいて座るキャンサー。

「そこにいる楯無ちゃん一族のおかげで、アタシは家族に見捨てられちゃったの。裏工作関係で、アタシが罪人扱いされてさ。酷い話だよね?」

楯無に向かって、そう問いかけた。

「そうね。あなたには謝っても許してもらえないような仕打ちをしたわ。でも、あなたはスイッチに逃げた。自分で立ち上がる事もせず、受け入れてはいけなかった闇を受け入れたのよね?」

楯無の反論に、キャンサーは俯いて言う。

「アンタ達…捨てられるって分かる?なーんにもしてないのにだよ。辛いよねぇ」

「弐式さんの気持ち、おれだって分かるつもりだ」

そこへ、一夏が言い返した。

「物心つく前から両親はいなかったし、千冬姉と2人だけで生きてきた。でも、頑張れたんだ!」

「そりゃあ頑張れるだろうさ。お姉さんがいたんだろ?アタシは独りぼっち。しかも、物心ついてるときである大人の時に妻と子供に捨てられたんだから、余計にタチが悪い」

その言葉に一夏は拳を握り締めた。

「…おれの知ってるやつで…そいつは、不良で乱暴者で弱いものイジメが大好きな最低なやつがいた」

「へぇ~。そいつもタチが悪いね」

一夏の言葉にキャンサーが茶々をいれるが、無視して続ける。

「そいつは確かにスイッチに手を出して宇月に倒されたけど、まだ強い意志を持って生きている。その意志は憎しみだけど…それでも一生懸命生きてるんだ。そいつだけじゃない。スイッチを手にした事のあるやつはみんな、スイッチ無しでも一生懸命生きてる。あんただって…」

そういいかけたところで、キャンサーは左手で制する。

「終わり。残念だけど、アンタ…オマエの言ってる事の通りには行かないんだよ。オレは支えてくれるやつが居ない」

「おれ達が支える。簪だってそうだ。最初は一人で何でも抱え込んでしまってたが、今はおれ達に隠してた想いを打ち明けてる。そうすれば、おれ達は支える事ができるんだ」

一夏が手を差し伸べる。

それに対してキャンサーは…。

「…なんで、こんなに違うんだよオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォ!!!!!」

雄叫びを上げて、一夏に襲い掛かった。

ズバアアァッ!

「うああああああぁっ!」

「一夏っ!?」「一夏さん!」

シールドエネルギーが一気に半分を切った。

「オマエも似た境遇だったのに…なぜ、周りに人がいるんだ!」

「あなたが、だれも受け入れようとしなかったからよ」

楯無が言い放つ。

「誰もが嫌な思い出を背負ってる。多かれ少なかれね。でも、それに負けず、立ち向かわなきゃいけない。一人で出来なければ、誰かに力を貸してもらわなきゃいけない。力を貸してもらうためには、力を貸してほしい人を受け入れなければいけない。あなたは自分や他人に嘘を吐いたから、誰もいないの!」

「ウルセエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエェッ!!!!!」

キャンサーは獣のような叫び声を上げ、身体中から赤黒い霧を放つ。

「まさか…自力で超新星に…!?やめなよキャンサー!」

「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォッ!!!!!」

ピスケスの言葉にも耳を貸さず、自分の感情のままに暴走しようとしている。

「このままじゃ…弐式さんの肉体が超新星に耐え切れずに崩壊する!」

救援に向かいたかったが、フォーゼMS達はピスケスの相手で手が空いていない。

格なる上は…。

「一夏、みんな!おまえらがキャンサーを止めろ!」

「そ、そんな無茶な!?コズミックエナジー以外で、ゾディアーツは…」

箒が驚いてフォーゼMSに詰め寄ろうとしたが…。

 

「あぁ、任せろ」

 

一夏が静かに返事をした。

「一夏、相手はホロスコープスだぞ!並のゾディアーツなんかじゃない!分かってるのか!?」

「分かってる。でも…それでも、キャンサーを止めたい。おれ達だって…学園を守る事ができるんだ!」

一夏の雪片弐型が光り輝く。

零落白夜を発動するのだ。だが、シールドエネルギーの残量から言って、最後の一度だろう。

「セシリア、鈴、シャルロット、ラウラ、力を貸してくれ!」

一夏の言葉に、呼ばれた4人は大きく頷く。

先にも言ったが、最後のチャンスだ。

「仮面ライダー部!意地を見せなさいよ!」

楯無もラスティー・ネイルを構える。

6人が自身の持てる最大の攻撃をキャンサーに集中させた。

彼を止めて、彼の絶望に光を与えるために…。

 

『はあああああああああああああああああああああああああああああぁっ!!!!!』

 

ズドガアアアアアアアアアアアアアアアアアアァッ!

「うおあぁっ!?」「くぅっ…!」「ここまでね…」

その爆発の威力は高く、フォーゼMSとメテオは少しからだが後ろに吹き飛ばされかけ、ピスケスは危険と判断して爆風が来る前に退散した。

 

爆風の後。

クレーターの中心に弐式が倒れていた。

「…オレがやられると掛けて、真っ黒な犬と解く…その心は…どちらも、面白くない(尾も白くない)…お後がよろしいようで…」

そういい残して、扇子とキャンサースイッチを取り落とした。

「…最後まで自分を隠してるんだな、弐式さん」

結局、彼が自分の本当の心を曝け出す事はなかった。それが彼の選択だった。

そこへ…。

「キャンサー」

 

 

 

ヴァルゴが現れた。

 

 

 

「な…乙女座の…ヴァルゴ!?」

箒、礼、ラウラは彼女を目撃した事があるが、実際に顔を見るのは初めての者も多い。

驚いている宇月達には興味も示さず、意識の無い弐式に向かって話しかける。

「君はフォーゼ達に敗北した。処刑する」

少しだけ悲しそうに言ってロディアを振るった。

その瞬間、上空に赤黒い暗雲であるダークネヴュラが現れた。

それに弐式は吸い込まれていき、キャンサースイッチだけがヴァルゴの手元に残った。

そして宇月達のほうを見る。

「君たちに顔を合わせるのが初めてである者も居るようだね。改めて自己紹介しよう、私は乙女座の首領でありホロスコープスの首領、そして人類の進化を促す女王たる存在、ヴァルゴ・ゾディアーツだ」

その威圧感ゆえに、誰もが声すら出せなかった。

「今見た通り、我々は例外を除いて、敗北者をあのダークネヴュラに送っている。あれは永遠の牢獄。これ以上は使いたくないのだ」

そう言って踵を返し、歩き去る。

「これ以上、我々の邪魔をしないで欲しい」

最後に一言、言い残して…。

 

千冬はある女性と会っていた。

「ちーちゃん、久しぶり!」

「束。何故、連絡を…?」

千冬の疑問に、束と呼ばれた女性は頭に人差し指を置いて唸る。

「う~ん…。あのゾディアーツってやつについてね!」

「おれ達も話を聞かせてください」

そこへ竜也とあゆも現れた。

「あなたが篠ノ之束博士ですね?」

「そうだよ」

その返事を聞いて、あゆが困ったような表情で説明を始める。

「あなたの妹の箒ちゃんを初め、彼女の仲間達がゾディアーツに狙われているんです!」

「仲間は大変だけど、箒ちゃんはないなぁ~」

以外にも、肉親である箒の心配をしていない篠ノ之束。

「だって…ヴァルゴ・ゾディアーツは…あの人だからね~!」

束は面白そうに笑いながら説明する。

「ヴァルゴの正体を知ってるんですか!?」

「でもおしえませ~ん」

そう言って、姿を消した。

 

数日後…。

「よかったよ、シャル…!」

「心配性だなぁ紫苑は。もう大丈夫だよ」

紫苑はシャルロットが戻ってきたとき、ボロボロと泣いていた。それほどにまで心配していたのだ。

「簪や弐式さんのこと…ありがとう。わたしだけじゃ解決できなかったわ」

楯無は全員に頭を下げた。弐式は結果的に救えなかったが、簪は姉とも打ち解ける事ができて、今は虚や一夏達と一緒に、専用機を自作する事に励んでいる。

「いや、いいんす。今回は一夏達の功労賞ですよ!」

宇月は笑顔で一夏達に手を向けた。

「あ、あぁ…」

一夏は苦笑いをする。それもそのはず…。

宇月は理雄と和解することさえ出来たのに、一夏達だけでは弐式と和解することが出来なかった。

仮面ライダーでなければ、結局は出来ない事があるのか…。

ふと、礼が話しかける。

「織斑。仮面ライダーだからと言って、何か出来るわけじゃない。あれは、宇月だから出来た事なんだ」

「そう…だよな…」

それを聞いていた本音が礼に抱きついて、こう言う。

「ホントに素直じゃないね、つっちーは。おりむーでも、うっちーみたいに出来るんだって言いたいんでしょ~?」

「あぁ~うるさい、あっちにいけ」

シッシッと払いながら、礼はその場から離れた。

「宇月だからこそ…か…」

ならば、自分だからこそ出来る事があるはずだ。

今一度、強く意志を持った一夏であった。

 

 

続く…。

 

 

 

 

 

 

 

次回!

 

                       再び、ジェミニを闇に引き戻そう

 

ボーデヴィッヒ、アンタはヴァルゴ様のモノなの

 

                       どうしたんだよメテオ!?

 

おれは…非情にならなければいけない…

 

                       なぜ、おれ達に素顔を見せないんだ!?

 

 

 

 

第20話「人・々・障・壁」

 

 




キャスト

城茂宇月=仮面ライダーフォーゼ

織斑一夏

篠ノ之箒
セシリア・オルコット
鳳鈴音

???=仮面ライダーメテオ
ラウラ・ボーデヴィッヒ

辻永礼=アリエス・ゾディアーツ
布仏本音

シャルロット・デュノア
白石紫苑

更織簪
更織楯無
布仏虚

織斑千冬
篠ノ之束
山田真耶

龍崎竜也=仮面ライダー龍騎
月宮あゆ

尾坂夏樹=ピスケス・ゾディアーツ
居可弐式=キャンサー・ゾディアーツ
裾迫理雄
???=リブラ・ゾディアーツ
???=レオ・ゾディアーツ

???=ヴァルゴ・ゾディアーツ


如何でしたか?
なんとキャンサー、ISのみで撃破です。1人くらいはこうするつもりでした。
一応、理雄とも和解です。
今回もいろいろと伏線を張りました…。ヴァルゴと束博士の関係とか…。
次回は、ラウラとメテオをメインにします!そしてピスケスとの決着編も!
お楽しみに!

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