箒とミキVS礼と本音の試合が始まろうとしていた。
双方のどちらも、専用機などは持っておらず打鉄を4機使っての試合となる。
「篠ノ之。あんた、なに憂鬱な顔してるのよ?」
「わたしが…?」
ミキは、親しみのある笑みを浮かべて聞く。
彼女は元リンクスとして敵対していたが、今は宇月の「人にある可能性」という言葉を信じ、彼女なりに努力を続けている。
仮面ライダー部の者達とも、ときどき会話をしたり、良好な関係が築けている。
「なぁに、リラックス、リラックス!城茂君も凹んでるらしいじゃない?なら、同じ仮面ライダー部のあんた達が、バシッと決めてやらなきゃ!」
「わたしは…仲間が窮地に陥っても、見ていることしか出来ない…。いずれ…みんなの足手まといに…。強くなりたい。そう思う自分が怖くもあるんだ」
箒は戦う事ができず、ずっと苦しんでいた。それは肉体的な痛みよりも、ずっと痛いものなのかもしれない。
スコーピオンにスイッチを渡されそうになったとき断固拒否したが、心の奥でこう思った。
コレを使えば、強くなれるかもしれないと。
「強さってさ、定義はいろいろあるんじゃない?」
「強さの…定義?」
ミキは空を見ながら、少し笑みを消しながら言う。
「リンクスになったとき間違いなく、あたしは強くなったと思ってた。その力はもうないけど、でも今のあたしの方がずっと強いと思う。だってさ、他に強いと思えるモノに出会えそうになったから。強さって、力だけじゃないと思う。まぁ、まだ出会えてないけどね!」
次に振り向いたとき、再びミキの表情は眩しいほどの笑顔であった。
彼女を変えさせたのは、紛れもなく宇月。
「これから探していけば良いと思うわよ。篠ノ之らしい強さを」
「わたしらしい…強さ…」
箒は自分の手を見つめた…。
一方、礼と本音。
「約束は守れよ。コレが終われば金輪際、フォーゼやゾディアーツには関わるな」
「おっけーだよ。わたしが関わったって、危ないもんね」
礼は疑い深い性格だ。本音の言葉もすぐには鵜呑みに出来ない。
だが、今は彼女を信用しておこうと思った。実際、そんなことよりも気がかりな事は幾つかあるからだ。
「言っておくが、足手纏いになるなよ。ノロマ」
「む~、せめて他に呼び名はないの~?」
「ない。準備しろ」
本音に掌でシッシッと追い払った後、遠くの寮部屋にあるラビットハッチの方向を見つめて呟いた。
「戻って来い…宇月」
ラビットハッチ内。
ドアはロックしており、今は宇月以外に入れる者はいない。
「おい、起きろよ宇月!」
その扉の向こうで必死に叩いているのは一夏だ。
なんとか宇月を奮い立たせようと、呼びにきたのだがこの有様。
反応がないのだ。
「一回戦の相手はラウラと裾迫だぞ!絶対にフォーゼがいないとマズイ!裾迫に危険も…」
「おれが居なくても大丈夫だろ」
扉のすぐ目の前に居るのだろう。すぐ近くから宇月の声が聞こえる。
「ジェミニならメテオや龍騎が何とかしてくれる。もしそれでもキツイなら、おまえ等が加勢すれば良いだろ」
宇月とは思えないような暗い声だった。それでも諦めず、一夏はドアを叩く。
「ゆりこが居なくなった事が辛いのはわかる!でも、このままじゃ…」
「なにが分かるって言うんだよ!」
一夏の説得を遮り、強い怒声を上げた宇月。その声は泣いているようにも聞こえた。
「父さんや母さんを失って、次は好きな人を失った。」
「頼むから…一人にさせてくれ…」
「…見損なったぞ、宇月!」
一夏はそう言い捨てて、会場へと向かった。
ラビットハッチで座り込んだ宇月は頭を抱えて呟いた。
「…どうしろって言うんだ」
「はああっ!」
箒は礼に打鉄の刀を振りかざす。
「おれを甘く見るなよ!」
ガキィン!
礼は最小限の動きで、刀を防ぐ。
「くっ…!」
「なんだ、焦ってるのか?」
礼は少し離れた場所で戦っている本音たちには聞こえないような声で箒に問う。
「おまえらしい強さだよな?探す以前に、そのことを誰かから教えてもらっているようじゃ、見つかりはしない」
礼は本音と会話しながら、箒とミキの会話を一言漏らさず聞いていたのだ。
「…ひとつ聞きたい」
すこし嘲笑の表情をみせる礼の挑発にも乗らず、少し距離を置いた箒。
「何故おまえは、そこまで自分が強いと言い切れるんだ?」
「簡単な話、強いからだ」
彼女の質問に、礼は再び嘲笑しながら答える。
「その強さの理由だ!」
「言っただろ?それを人に聞いてるようじゃ、駄目だってな!」
次は礼から攻撃を仕掛ける。
「…!?」
ガキィ!ズバァ!
「うわあああああああぁ!」
刀で振るうと見せかけ、空いていた左手で防ごうとした箒の刀を払い、隙が出来たところを改めて自身の刀で斬った。
その動きはすばやく、剣道をしていて動体視力も高いはずの箒がついて来れなかった。
「強さの理由が知りたいなら、自分で探せ。自分の強さも、他人の強さもな!」
箒に刀を突きつけて、強く言い放つ礼。彼女は少し俯くが、すぐさま立ち上がり、再び刀を構える。
「…見つけてやろうじゃないか!」
そして…。
「勝者、辻永礼・布仏本音ペア!」
歓声とともに、礼と本音は勝利を手にした。
あのあと結局、箒は礼に叩きのめされ、圧倒的な差を見せ付けられた。
本音とミキは両者一歩も引かずと言った感じだったが、箒を打ち負かした後の礼が入ってきたことで一気に決着をつけられたのだ。
「つっちー!勝ったよ~!」「うるさい、戻るぞ。約束は守れよ」
勝利を喜ぶ本音を引き剥がしながら、礼はアリーナから出て行く。
「篠ノ之、この試合で見つけられたか?」
最後にそう言い残して。
残された箒は、軽く笑ってそれを見送った。
「少しは…なにか掴めそうな気がする」
確証はないが、少しだけ手ごたえを感じた。
続いて…。
セシリアと鈴音VSシャルルと紫苑。
第3世代の専用機2機に対して、第2世代専用機と量産機。特に紫苑はこのメンツの中で唯一、代表候補生でも専用機持ちでもない。普通は後者が圧倒的に不利と言えよう。
当然、紫苑は不安と緊張でガチガチになっている。
「大丈夫かな…。オルコットさんに鳳さん相手じゃ…。シャルルはともかく…僕、今までの記録上で一番、適性度は低いし…」
「紫苑、考え方だよ。これからもっと、伸びしろがあるんだよ!」
そんな紫苑を優しく励ますシャルル。状況の不利さに対して、全く不安なそぶりも見せていない。
「ほら、肩の力は抜いていこうね」
「うん…」
そして、セシリアと鈴音は…。
「試合もそうだけど…心配よね」「宇月さん、ずっと出てきてませんわ…」
試合よりも、宇月のことが気になっている。
今は一夏に任せているが、この試合が終われば、すぐにでもラビットハッチに向かうつもりだ。
「メテオや龍騎も駆けつけてくれるとは限らないし、正体もわからない人に任せるわけにもいかないわ…」
「最悪、ジェミニであるラウラさんを、わたくし達が止めなければいけないかもしれませんわ。体力の温存には気をつけていきましょう」
2人であらかじめ、今後のことを考えて作戦を立てた。
ラビットハッチ内で塞ぎこんでいる宇月の前に、ある人物が現れた。
「なんだ…?」
それは銀色のオーロラを超えてやってきた。
「城茂宇月君…いや、仮面ライダーフォーゼ」「こんなところで塞ぎ込んじゃダメだよ!」
「龍崎先生に月宮先生…?」
そう、竜也とあゆだった。
宇月は竜也の言葉に違和感を覚えた。彼は宇月がフォーゼだと知っていた。
「なぜ…おれがフォーゼだって…」
「おれも同じだから」
そう言って、竜也はデッキを見せた。宇月は、それをみて何なのかがすぐに理解できた。
龍騎のベルトにある物体である。
「龍崎先生が…仮面ライダー龍騎!?」
「ボク達は、別の世界からやってきたの。「ある人達」に頼まれて、この世界のバランスを保ってほしいと言われて。この学園に来たのは、バランスを保ち、君を助けるため」
驚いている宇月に間髪居れずに、あゆが説明を加える。
「その…別の世界とか異世界って…」
「ここはフォーゼが中心核となっている『仮面ライダーフォーゼの異世界』そして『ISの世界』が融合した世界。おれ達は『仮面ライダー龍騎とKanonの世界』から来た」
抽象的であったが、なんとなくは理解できた。
つまり竜也とあゆは「ある人達」からの依頼で、はるばる別の世界から宇月を救うためにやってきたと言う事だ。
「今の君は…数年前のおれと真逆だ。憤りや悲しみに任せて闇雲に拳を振るっていたおれに対して、君は愛する人を失って塞ぎ込んでしまった。…どちらも良い姿じゃない」
「じゃあ辛い目に遭っても、自分の感情を押し殺して戦わなきゃいけないんですか!?」
宇月は竜也に対して強く怒り、詰め寄った。竜也はただ静かにそれを聴いている。
「押し殺す必要はないよ」
「じゃあ、どうしろって…!」
「自分の気持ちを隠さないの」
宇月が竜也に再び詰め寄ろうとしたところを、あゆが遮った。
「気持ちってね、押し殺すと忘れてしまうの。それって一番、悲しい事なんだよ。ゆりこちゃんを失ったことが悲しいってことは、それだけ愛しかったってことだよ」
「ゆりこが…」
宇月はゆりこを思い出す。
短かった。本当に短かったが、彼女は宇月に温かい気持ちを与えた。他者に対する愛情を強く想い、そして感じられた。
ふとみると、あゆの少女らしい顔が、年相応の女性らしい表情になった。
宇月の手を握り、優しく微笑む。
「ゆりこちゃんのことを胸に想って戦って。自分の温かい気持ちを大切にして。そうしたときの仮面ライダーって、ずっと強くなるから」
そして、竜也が宇月の肩に手を置く。
「大丈夫だ。君は優しい…。それに立派なこの世界の仮面ライダーだ。…大切なモノを、その優しさで守ってくれ」
竜也を見た後、ラビットハッチのテーブルに置かれているフォーゼドライバーを見つめる宇月。
「おれは…」
その頃、試合が開催されていた。
「やりますわね、シャルルさん!」
セシリアとシャルルの戦いは、両者とも全く引け目を取っていない。
ブルー・ティアーズから放たれる多方向ビームを避けたシャルルは、自身の持つ多くの武装で迎撃する。
それを見てすぐに攻撃の手を休めたセシリアは、防御と回避に集中する。
「く…紫苑を助けたいけど…」
シャルルが紫苑と鈴音の居る方向を向く。
そこでは…。
「うわああああああああああああああぁ!」
「はぁっ!」
ガキィ!
「わぁっ!?」
勇気を振り絞って刀を鈴音に振りかざした紫苑。だが、鈴音の持つ双天牙月で弾かれ、右っていた右手からは刀が離れ、消えてしまった。
「覚悟しなさい!」
「ひいいいいいいいいいいいぃ!」
武器が丸腰状態の紫苑は、完全に逃げ惑っている。
しかも適性度が低いためか、動きも鈍重でシールドエネルギーも僅かとなっている。
それに容赦せず、鈴音の龍砲が襲い掛かる。
「逃げんな!」
「無理だよ!勝てない!」
ドガアアアアアアアアアアアアァ!
「うあああああああぁ!」
トドメの一撃となった。
彼から攻撃する事は一度も出来ず、見る影もなくボコボコにやられてしまったのだ。
「やっぱり…ダメだった…」
地面に這い蹲る紫苑を他所に、鈴音はセシリアの応援に向かう。
「セシリア、すぐに決着をつけるわよ!」「了解ですわ!」
鈴音は龍砲を構え、見えない一撃を放つ。
「うぁっ…!?」
危険を感じたシャルルはすぐさま避けるが、その先ではセシリアのスターライトmkⅢが待ち構えていた。
「これで…!」
ビームが今放たれようとしている。シャルルには、避ける手段がない。
もう諦めたその時…。
「ううぅりゃああああああああああああああああぁ!!!!!」
シールドエネルギーや打鉄もギリギリの状態であるにも拘らず、死に物狂いで走ってきた紫苑が、シャルルの眼前で立ち塞がった。
つまり彼女を守るために、セシリアが放つ攻撃の盾となった。
「まさか…!?」「しお…!?」
ドガアアアアアアアアアアアアアアァ!
スターライトmkⅢのビームが紫苑を完全に捉えた。
爆風の後には、打鉄も壊れかけている状況にも関わらず、それでも震えている足に必死に力を加えて立つ紫苑の姿があった。
僅かなシールドエネルギーのおかげで肉体への損傷は少ないだろうが、あんな強力なビームを至近距離から受けたのだ。
ショックは凄まじいものであるはず。おそらく戦闘は続行できないだろう。
「シャルル…まだ戦えそう…?」
「し…紫苑!どうして、ボクを庇ったりなんか…!」
「これくらいしか…思いつかなかったし、出来なかった…」
紫苑の出来る最大限の行動はこれであった。シャルルを守り、彼女が戦える状況を作った。
あのままではどちらも倒れただろう。
だが…。
「白石紫苑の戦闘不能により、勝者、セシリア・オルコット・鳳鈴音ペア!」
結果的に敗北となった。
「あはは…やっぱりクズだな、僕。何もしてなかったほうが…」
「そんなことないよ…。ボクを守ってくれたじゃないか…」
2人の様子を見ていたセシリアと鈴音。こんなに罪悪感のある勝利は他にない。
特にセシリアだ。
「紫苑さん…わたくし…」
「オルコットさん。大丈夫、僕が勝手にやった事だから。それに身体も平気」
弱々しいが優しい笑みを浮かべた紫苑。実際に怪我はない。
だが、セシリアには強い後悔が残った。あのとき、宇月の様子が気になっていたために勝利を急ぎすぎたのが、このような状態にしてしまったように感じた。
「平気だよ…僕は平気」
遂に、一夏と宇月の番が来てしまった。
「結局…」
宇月は現れそうにもなかった。このままでは一夏達の不戦敗となるだろう。それだけならまだ良い。
問題は、それによりラウラが怒り狂う可能性があるのだ。一夏を直接倒せなかった苛立ちでジェミニとして暴れまわる危険もある。
…が。
「待たせたな」
そこに宇月が現れた。
「な…宇月!?」
「まぁ、まだひきずってるけど…それもひっくるめて、気合入れてくぜ!」
そう言って、宇月は打鉄を装備した。どうやら、踏ん切りはついているようである。
「ISに関しては、おまえが上だ。たのむぜ一夏!」
「あぁ!」
ラウラと理雄だが…。
2人の間に全く会話はない。
(…この男も邪魔だ。少しでも、でしゃばるようなら…織斑一夏を倒す前に潰しておくか)
ラウラは心の奥で考えていた。だが、理雄も似たことを考えている。
(コイツに良い顔はさせん。すぐに叩き潰してやる)
どちらも味方に対する考えだとは思えない。
アリーナで、両者が出揃った。
宇月がラウラに向かって叫ぶ。
「ラウラ、最後に聞いておく!スイッチは捨てないのか!?」
「言ったはずだ。わたしはこの力で、揺ぎ無い最強を掴むと!」
予測してはいたが、どうやら説得は通じないらしい。
次に一夏が聞く。
「じゃあ、賭けてくれ。おれ達が勝ったら、スイッチを捨ててくれ」
「ほう…いいだろう。ならば、きさま達が敗北すれば、此処から去ってもらう」
「約束だからな…!」
この案には乗ってくれたようだ。実際に勝てたとしてその行動に移すかどうかは不明だが。
理雄は黙って、この会話を見ていた。
「…」
試合開始の合図が響く。
「行くぞ!」「おりゃあぁっ!」
真っ先に動き出したのは理雄と宇月。
「量産機ごときが…!」
霧裂のムチが宇月に襲い掛かる。
だが…。
「うおおおおおおおぉ!」
ズバァ!
それに完全な対応が出来ていた。打鉄ではまずありえない動きだった。
「ばかな…!?」
「忘れたか?おれ、適性度Sなんだぜ!」
そう、宇月はISの適性度が過去に見られなかったほど高いため、能力が低い量産機でも専用機と同等の力を発揮できるのだ。
「でしゃばりが…。織斑一夏、貴様はわたしが倒す!」
「あぁ来い!」
シュヴァルツェア・レーゲンのワイヤーブレードの嵐を、一夏は白式の駆動力で上手く避ける。
「ちょこまかと…!」
「負けるわけにはいかない!おまえを守るためにも…!」
「馬鹿にするな!」
そのまま、一気に距離を縮めて攻撃をあてようとするが…。
ガキィン!
「くっ…!やっぱり、効かないか…!」
「AICの前では、全てが無力だ」
ラウラはAICによって完全に守られていた。
「乱入!」
「!?」
その背後から、理雄の攻撃を振り切りながら宇月が刀を構えて走ってくる。
だが…。
バチィン!
「ぐあぁ!?」
一夏と宇月以外に、ラウラに攻撃を与えた者が居た。
この場で残っているのは…。
「おぉ悪い悪い。織斑を狙ってたのにな…。避けろよ?」
「理雄…!?」
理雄だ。彼の霧裂のムチがラウラにダメージを負わせたのだ。
彼の行動に怒りを覚えたラウラは、理雄に襲い掛かる。
「裾迫、貴様!」「まて、ラウラ!」
ラウラを静止しようとしたが、全く無意味であり、理雄は笑いながら待ち構えている。
「さて、コレはどうだ?」
理雄はムチを振るい、ラウラ…の背後に居る宇月と一夏を拘束する。
「うおぉ!?」「理雄、何を…!?」
「ウォラアアアァ!」
拘束した2人を一気に引き寄せ、ラウラの背後を狙った。
ドゴオオオオォ!
「ぐあああぁ!」「うああああぁ!」
「うわあああぁ!」
彼女はその行動の意味が理解できるのに時間が掛かったため、攻撃に対処できずに吹き飛ばされてしまった。
「どうした。AICは全てが無力になるんだろ?」
「く…キサマァ!」
ラウラは完全に怒り狂い、ジェミニスイッチを押してしまった。
その姿はジェミニとなり、それを観客全員に見られてしまった。
「あの転校生が…怪物!?」「生徒だったなんて…!」
生徒や関係者、教師達もその事態を目の当たりにして、混乱している。
「許さない…絶対に!」
「来いよォ、バケモンが!」
もう、試合はそっちのけでジェミニと理雄の戦いが始まった。
「喰らえェ!」
ジェミニのもつ赤いカード型の爆弾「リュンケウス」を手裏剣のように投げ、理雄を攻撃する。
「フン、そんなモノ…!」
ドガァ!ドゴォ!
ムチを振るい、全てを叩き落していく。
だが、彼は気付かなかった。霧裂の一部に青いカード「イーダス」が貼り付けられている事に…。
「掛かったな…」
パチン!ドゴオオオオオオォ!
「ガアアァッ!?」
ジェミニが指を弾いた瞬間、理雄は強い衝撃を感じ、地面に倒れこむ。
「チィッ…バケモンめ…!」
「そうだ、わたしはバケモノだァ!」
「やめろ、ラウラ!」
そこへ、一夏が割り込んで理雄を庇う。
「くそ…なんなんだよ、コイツ…!」
身体を少し庇いながら、理雄はアリーナから逃げ出した。
アリーナの観客席も緊急事態でもあり、シェルターがかけられたので、観客席に戻った礼や箒達は、見えなくなってしまった。
「一夏…宇月…」
心配そうにしている箒達を他所に、礼はスイッチカバンを開き、メールを送った。
送り宛は「METEOR」と記されている。送信ボタンを押し、席から立ち上がる。
セシリアは
「どこに行かれるんです…?」
「メテオに応援を頼んだ。こちらも彼が現れやすい状況を作るから、おまえ達はここで待ってろ」
そう指示して、礼は観客席から離れていった。
メテオの正体を知られないためには、観客席から人を動かさない事が必要だ。そうしないと、あの場にメテオが現れにくくなる。
「…あれ、紫苑?」
礼が去った後、シャルルは紫苑が座っていた隣を見ると、いつの間にか彼が居なくなっていた事に気づいた。
確かに怪我などは少ないが、動くのは危険なはずなのに。
シャルルは、ふと気付いた。
「礼がメールを送る前は…ちゃんと居たよね…」
もしそうならば…あまりにも辻褄が合いすぎる。
「もしかして、紫苑って…」
アリーナの観客席はシェルターが掛かったので、これならばフォーゼへの変身を見られることはない。
「逃げ出したか、あの男は…。ふん、みっともない」
「行けるか一夏?ジェミニを…止めるぞ!」「あぁ!」
一夏は雪片弐型を構え、宇月はフォーゼドライバーを装着し、赤いスイッチをオンにする。
<3><2><1>
「変身っ!」
レバーを引き、フォーゼBSに変身した。
「いくぞ、ラウラ!」「来い…!」
<FIRE-ON>
フォーゼBSはファイヤーステイツにチェンジした。ファイヤーは初回のみ、スイッチに強力な炎のエネルギーが必要であったため、それ以降はなんの動作もなく使用できるのだ。
ヒーハックガンを構え、ジェミニに火炎弾を放射する。
ゴオオオオオオオオォ!
「そんなもの!」
ジェミニは未だにISを装備しており、AICでその攻撃を無力化する。
その背後に一夏が現れ、雪方弐型を振りかざす。
「はああああああああぁっ!」
「無駄だ」
パチン!ドガアアアァ!
「うあああぁ!?」
理雄への襲撃時、既に一夏の白式にもイーダスを貼り付けていたのだ。これならば、フォーゼFSの攻撃に集中しながら、一夏への迎撃も可能だったと言うわけだ。
「ジェミニとシュヴァルツェア・レーゲン…相性が良すぎだろ」
意識を一つの方向に集中させながら、別の敵にも対応できる能力を兼ね備えている。しかも新参者とはいえ、ホロスコープスだ。
二対一でも勝機は低いだろう。
そこへ…。
「ジェミニ」
入場口からスコーピオンが、不穏な空気を纏って現れる。
「スコーピオン、この者達はわたしが倒す。邪魔を…」
「ヴァルゴ様への無礼…あの方が許しても、私は許さん…。ジェミニ、貴様は用済みだ」
そう言い放ち、スコーピオンは尾をジェミニのシュヴァルツェア・レーゲンに突き刺した。
「な、何のマネだ、スコーピオン!?」
「貴様が今、ISを使えるのは、私のコズミックエナジーがヴァルキリー・トレース・システムを停止させているからだ。今、そのエナジーを逆にシステムを活性化させるモノへと変換させた」
ジェミニはその言葉を聞いて、凍りついた。
つまり、その脅威のシステムが作動…いや、暴走を始めるのだ。
「ま、まて…まって…!」
「恨むのならば、自分の態度を恨むのだな。さらばだ、ジェミニ。いや、星に見放されたクズが」
スコーピオンがそう言い放った途端…。
「ウアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァ!!!!」
突如ジェミニが苦しそうにもがき始め、シュヴァルツェア・レーゲンも変質を始めた。
黒い軟体となったシュヴァルツェア・レーゲンはジェミニを包み込み、巨大な女性の姿をした剣士へと変貌した。
さらに、その姿はジェミニに近いものへ変わり、持っていた刀も厳ついものへと変化する。システムの想定を超えた暴走だ。
「ほう、超新星に近い力を引き出したか。このシステム…使い道があるかも知れんな」
「スコーピオン、てめえ!」
分析を始めていたスコーピオンに対して、怒りの声を挙げたフォーゼFS。
「あぁ、すっかり忘れていた。恋人を失った悲しみの戦士とブリュンヒルデの弟よ」
スコーピオンはフォーゼFSと一夏を見ながら、おかしそうに嘲笑した。
「ジェミニの成れの果てを、片付けてくれたまえ」
「その仕事は、おれが引き受けよう」
不意に空から響き渡る声。
そこから青い発光体が飛来し、メテオの姿を現した。
「仮面ライダーメテオ…!」
「フォーゼ、織斑一夏。おまえ達はスコーピオンを倒せ。ラウラ・ボーデヴィッヒはおれが止める!」
「わかった!」
メテオは一夏とフォーゼFSに指示を出し、黒い塊に向かって駆ける。
「一夏、白式のエネルギーは?」
「ちょっと厳しいかもしれないが、まだ大丈夫だ!」
エネルギー量はそこまで少なくはなく、戦うには十分である。
「よし、いくぞ!」「あぁ!」
「フフ…」
メテオは黒い塊に呼び掛ける。
「ラウラ・ボーデヴィッヒ!おまえはそんなモノに頼るのか!?」
「…!」
しかし、それには答えず、刀を大きく振るう。
「話し合いは通じないか…!」
「…!」
間髪居れずに、刀を振るった。メテオは持ち前のすばやさで上手く避け、分析をも始める。
「…データに残されている織斑千冬の動きと似ているな。故にヴァルキリー・トレース…か」
「…!」
すぐに攻撃を続ける黒い塊。避けてはいるが、相手の動きも速い為、攻撃を仕掛けられない。
メテオはこれ以上避けても攻撃が出来ないと判断して…。
「攻撃を避けてもキリがないならば…!」
「…!」
ズガアアアアアアァ!
「グアアアアアアァッ!ヌゥッ…!」
その攻撃を脇腹で受け止め、そのまま刀を握る。
握っていた右腕に装着されているメテオギャラクシーに、ドライバーにあるメテオスイッチを挿入した。
<LIMIT-BREAKE LIMIT-BREAKE>
エネルギーが最大に増幅した瞬間、承認スイッチを押してそのエネルギーを開放する。
「星座の運命に惑わされた、愚かな者よ!貴様の運命…おれが消し去って見せる!」
<OK>
「オォォォォォ…アタタタタタタタタタタタタタアァッ!」
メテオはジェミニが居た場所に向かって、凄まじい速度で拳を打つ「スターライトシャワー」を放った。
黒い物体が少しずつ剥がれていき、ラウラの身体が見えてきた。
「今だ!」
メテオはラウラの身体を抱き寄せ、黒い塊から引き剥がした。
その瞬間、シュヴァルツェア・レーゲンのコアやパーツ、ジェミニスイッチが元の形に戻り、地面に落ちる。
「しっかりしろ、ラウラ・ボーデヴィッヒ!」
メテオはラウラを揺するが、反応がない。スターライトシャワーは彼女に当たっては居ないから、ダメージはないはずだ。
「生きている…大丈夫だな」
そう判断し、フォーゼFSと一夏の援護に向かった。
一方、スコーピオンに圧倒されている2人。
「「うあああああああああああああぁ!」」
同時に蹴りを受け、地面を転がった。
「メテオ…止めたか」
スコーピオンは軽く笑い、向かってくるメテオに身構えた。
「フォーゼ、いくぞ!」「あぁ!」
二人の仮面ライダーは、スコーピオンに蹴りや拳を放ち続ける。
「アタァッ!アチャッ!ウゥアタアァッ!」「はっ!だぁっ!おりゃああぁっ!」
スコーピオンは避け続けるが、次第に疲労が見えてくる。
「クズが…!」
一瞬、隙が出来た瞬間、一夏が雪片弐型を振りかざして突進してきた。
「これでどうだああああああああああぁっ!」
ズバアアアァ!
「ヌゥッ…!?」
その攻撃に対処できず、左肩にダメージを追う事になった。
「今だ、メテオ!」「あぁ!」
<METEOR LIMIT-BREAKE><LIMIT-BREAKE>
「オオオォォ…アァチャアアアアアアアアアアアアアァッ!」
「ライダァァァァ…爆熱シュゥゥゥゥゥト!」
メテオとフォーゼFSのリミットブレイクが、スコーピオンに向かっていく。
ドガアアアアアアアアアアアアアアアアァ!
「グガアアアアアアアアアアアアアァッ!」
急所は外したが、一夏がダメージを与えた右肩に攻撃をぶつけ、大ダメージを負わせる事ができた。
「チィッ…!」
形勢が不利と見たか、スコーピオンは舌打ちをして姿を消した。
「メテオ、ラウラは!?」
「大丈夫だ…」
先ほどの黒い塊から貰った一撃のため、脇腹を押さえているメテオ。
彼の見る方向には、ラウラが横たわっていた。
ラウラは暗い空間に居る。
メテオに二度も倒されてしまった。そこまで強い理由はなんなのだろうか…。
「何故だ…何故、おまえは強い…?」
「おまえが弱いだけだ」
不意に、すぐ近くからメテオの声が聞こえ、振り返ると、メテオが不敵に立っている姿があった。
「教官も言っていた…。わたしは…弱いのか?」
千冬も言っていた言葉を彼からも聞いた。
「そうだ、弱い。ゾディアーツに頼った時点で、おまえは弱くなった。弱いものは全てを奪われる。あのとき、スコーピオンに対して、こう思っただろう」
「助けてくれ…と」
「おまえが強ければ、助けを求める必要もなかったはずだ」
「どういう事なんだ…どうすれば…?」
ラウラの問いにメテオは溜息をつく。
「煮詰まっているようだから、教えてやる。おまえが強くなれないのは「友がいない」からだ」
「友…」
意外だった。いままで必要とも思わなかったモノが、強い理由になるのだと。
「真の友は支えてくれて、思わなくても助けてくれる。現に、友がいるおれを、おまえは強いと思っただろう」
驚いた表情のラウラの頭に、メテオが手を置く。
「強くなれ、ラウラ。そうすれば奪われる事はない。「自分自身」と「大切なモノ」はな」
「メテオ…」
ラウラは、メテオの言葉に温かい気持ちを抱いた。
「強くなるまでに時間がかかると言うならば…おれが「最初の友」になろう」
「ここは…」
気が付くと、そこは医務室のベッドの上だった。
「気が付いたか、ボーデヴィッヒ」
「教官…」
身体を起こすと、千冬の冷たい瞳と目が合う。
「お前の処分だが…どういうわけか、龍崎先生達に止められたよ。「彼女は悪い夢を見ていた」とな。お前のISについても今後、調査が入るだろう」
「わたしは…」
ラウラは自身の起こした過ちを後悔し、弁解を始めようとするが…。
「ラウラ・ボーデヴィッヒ。お前は誰だ?」
「わたしは…」
「分からぬならば…」
千冬が教え諭そうとしたとき…。
「いえ、わたしはラウラ・ボーデヴィッヒです。それ以上でも、それ以下でもありません」
「分かっているならば良い」
満足そうな笑みを残して、千冬は医務室を出て行った。
残されたラウラは、窓を見つめる。
その日の夜。
結果的に、トーナメントは無効となった。宇月は大きなものも失うことになったが…。
「宇月…」
「なぁに、湿気た顔すんなよ!ゆりこはおれのことが好きだった。コレだけで十分だ!」
気丈に振舞っているのではなく、本当にそう思えた。
彼女の残してくれた橙色のスイッチ、そして思い出。宇月にはそれで十分だった。
「元気になってよかったな」
「一夏以外にペア組んでくれなかったから、ショックはあったけどな~」
軽い冗談まで言えている。
「紫苑もちょっとは、カッコよかったわよ」「えぇ、見直しました」
「そ、そうかな…」
紫苑は身を挺してシャルルを守った事が、新聞記事でも少し取り上げられていた。
「こいつら、反省なし…!」
宇月のペアに立候補しなかった女子3人の謝罪を少し期待したが、駄目であった。
「やったな、紫苑!」
そう言って一夏が、紫苑の右肩をポンと叩くと…。
「ぐあっ…!?」
突如その部分を押さえ、うずくまった。
「紫苑、大丈夫!?」
「う!?…うん、平気…」
シャルルが右肩を優しくさする。紫苑はその瞬間、少しからだが硬直する。
「悪い、そんなに痛かったか…?」
「いや、僕が大げさなだけだよ…」
その様子を見ていた箒。
「右肩に怪我…」
スコーピオンはIS学園の誰かであり、今日はフォーゼとメテオから右肩に大きなダメージを負った。
このことから、導き出される推測は…。
「まさか…」
数日後…。
「アチャアアアアアァ!」
仮面ライダー部の目の前で、メテオがダスタードを一掃していた。
「…さてと…ん?」
「メテオ!」
ふと、メテオはラウラに声をかけられた。あのあと、彼女は仮面ライダー部に入ることになった。
役割は鈴音に続き、パワーダイザーの操縦。やる気は十分とのこと。
「ラウラ…?」
メテオは歩み寄ってくるラウラを見つめていた。
…そして。
「…!?」
「ラウラ!?」
なんと、マスク越しからメテオに口づけをした。
「お、おまえをわたしの嫁にする!決定事項だ、異論は認めん!」
「…なんだと!?」
メテオは驚いてラウラから離れる。
「とにかく、夫婦とは互いに包み隠さぬもの。変身を解き、素顔を見せろ!」
ラウラは言うなり、メテオドライバーを外そうと引っ張り始める。
「なに…?うおっ!?やめろ!メテオドライバーに触るな!」
「待て!」
メテオはそれを引き剥がして青い発光体で逃げ、ラウラもシュヴァルツェア・レーゲンで後を追い始めた。
「やめるんだ、落ち着け!それ以上こっちにくるな!おれがなってやるのは友だ!」
「逃がさんぞ!」
礼と本音に続き、こちらでも追いかけっこコンビが生まれた。
それを見守っていた宇月達。
「あぁあ、もったいないことしたな…」
「なに?」
シャルルが宇月の言葉に質問すると、こう答えた。
「あいつ…今日、仮面ライダー部のメンバーがちゃんと活動してたら、正体を明かすつもりだったんだぞ」
「「「「「ええええええええええええええええええええぇ!?」」」」」
つまり、今日だけでもラウラが大人しくしていたら、メテオの正体を見れていたのだ。
「あの調子じゃ、正体のお披露目は当分先だな」
宇月はやれやれと溜息をついた。
「まてええええええぇ!」
「アチャアアアアアアアアアアアアアアァ!」
空の向こうで、ラウラの叫び声とメテオの悲鳴が聞こえた。
続く…。
次回!
君の仕事はアリエスとジェミニのスイッチ回収だ
紫苑…正体を現せ!
違うよ、ボクは紫苑を信じる!
魚座の使徒の誕生は近い…
さぁ、星に願いを…
第13話「正・体・判・明」
青春スイッチ・オン!
キャスト
城茂宇月=仮面ライダーフォーゼ
織斑一夏
篠ノ之箒
セシリア・オルコット
鳳鈴音
???=仮面ライダーメテオ
ラウラ・ボーデヴィッヒ=ジェミニ・ゾディアーツ
辻永礼=アリエス・ゾディアーツ
布仏本音
シャルル・デュノア
白石紫苑
裾迫理雄
織斑千冬
龍崎竜也=仮面ライダー龍騎
月宮あゆ
???=スコーピオン・ゾディアーツ
あとがき
如何でしたか?
とりあえず、ジェミニ&ラウラ・ゆりこ&なでしこの話は此処で一区切りです。
ゆりこが…後にフォーゼを救うかも…?
ラウラはメテオにデレてもらいました。その結果、正体判明は延期です(笑)
そして、次回から2話にわたり、スコーピオンとの最終決戦です!
タイトルどおり、遂に正体も判明します!