fate/accelerator   作:川ノ上

8 / 17
緊張と答え

ギー、バタン

 

軋む扉の音を耳に、神父の視界から消えた一方通行とイリヤは、遠ざかる教会を見向きもせずにまっすぐ門の前まで歩いていった。

しかしそこに会話はなく、来たとき同様。静寂だけが教会の庭を支配している。

ただ違う点を上げるとするなら、一方通行が妙に殺気立っているくらいだ。

たとえここが中立地点として置かれた教会であっても、所詮は敵地。危険であることには変わりない。

ならば、一刻も早く奴のテリトリーから出る必要がある。

そう判断した一方通行は、イリヤのこちらの様子を伺う視線を無視して、ただ無心に歩を進める。

しかし、無心であろうとすればするほど、あの信用できない笑みを浮かべる神父の顔がとある狂った科学者の顔とかぶり胸糞悪い。

 

(……奴の話に偽りはねェとして、なんだあの目は。あれが監督役として中立の立場にいる奴の目か)

 

一方通行だからこそわかる。

あれはトチ狂った研究者がよく見せる狂喜をはらんだ瞳だ。

イリヤと一方通行を値踏みするように向けられた瞳。特に、イリヤに向けられた視線だけ色濃くその色を見せていたのが強く印象に残っている。

 

(気づいてねェのか、それとも気づいた上で無視しているのか。どっちにしろガキはガキだな)

 

もう一度、イリヤに目配せをするが、そんな一方通行の心情を知ってか知らずか、イリヤは横で不思議そうな顔を浮かべていた。

どうやらその様子からして何もわかっていないようだ。

口を開こうとするイリヤを一方通行は、視線だけで彼女を黙らせる。

警戒しすぎかもしれないが、それでも用心に越したことはない。

その際、イリヤは怯えたように肩をすくめ立ち止まるが、構ってなどいられない。表情を曇らせて再び前を見つめて歩き出した。

このクソガキが不機嫌になろうと、現在こちらが後手に廻っている現実は変わらない。

いちい子守に気を使ってはいられないのだ。

そうして教会の門を潜った一方通行は、来た時道と同じ坂道を下り、距離が二十メートル離れた所でようやく口を開いた。

 

「……ここまでくれば問題ねェだろ」

「はぁああー、疲れた」

 

一方通行の許可がようやく下りたところで、イリヤは大きく息を吐き出すと、まるで緊張をすべて吐き出すように大きく脱力した。

神父の前で見せた凛とした雰囲気は一瞬で消えうせ、そこには城で見せるいつもの間抜け面があった。

一方通行は間抜け面のイリヤを一瞥してから、坂の上にある教会に視線を向け、じっと見つめた。

ここまでの最中、何かにつけられた気配はない。

だが、今回は魔術師の戦争だ。なら何らかの手段で『見られている』可能性も捨てきれない。

そうなると、現在の一方通行に防ぐ手段はない。

こういう時に同じ魔術師でもあるイリヤに判断を仰いだほうが得策なのだが、

 

「うへぇ。緊張したらおなかすいちゃった」

 

この始末である。

先ほどまでのシリアスが妙に馬鹿らしくなるほどだ。

 

「はぁ。――本当に使えねェなこのクソガキは」

「うん? 何か言った?」

「何でもねェよ」

 

適当に言って、一方通行は預かっていたたい焼きの袋を投げ渡す。すると、イリヤはあわてた様子で袋を抱え込み安堵の息をもらした。

それを横目で確認した一方通行は柄でないと自覚しつつ、一人静かに坂道をくだりはじめ、それを見たイリヤも後を追うような形で一方通行の横に追いついた。

そして、たい焼きから一方通行へ視線を移したイリヤは何気ない口調で口を開いた。

 

「で、これからどうする?」

「知らねェ。それはテメェが考えることだろうが」

「でも、報告も終わっちゃったし、正直、まだ聖杯戦争が始まっていないんだったら今は行動のしようがないかも」

「だったら俺は帰るぞ。こンなくだらねェことで時間を潰したくねェしな」

 

そう、今の一方通行には時間がない。

電極のバッテリーが有限である以上、必ず動けなくなるときがやってくるのだ。

こうして日常生活を送っているだけでもバッテリーは消費される。

能力使用モードの場合だとバッテリーの消費はその比ではない。

先のランサーとの戦闘、その他諸々の場面で細かく能力を使用したことを鑑みると、残り一日分あるかどうかすら怪しい。

それでこの短い時間の中、解決策を見つけなければならないと考えると、こんなところで無駄な時間をすごしていられない。

むしろ一分一秒でも惜しいのだ。

 

しかし、バッテリーのことを知らないイリヤは、つれない一方通行を見上げて、ぶーぶー文句をたれている。

横でうるさく喚きたてるクソガキを一睨みして黙らせると、イリヤはしぶしぶ口を尖らせて静かになった。

だが、教会のときとは緊張感が違うのか、しばらくの静寂に耐え切れなくなったイリヤは青空の虚空を見上げて、愚痴でもこぼすかのように喋りだした。

 

「・・・・・・それにしても、まだ二体もサーヴァントが残ってるなんて」

 

ついてないなぁーと、呟くイリヤはまるで構ってもらいたそうにこちらに目配せを何度もしてくる。

一方通行はその視線を何度も無視するが、何を期待しているのか、イリヤは何度も執拗にこちらを見てくる。

イリヤの銀髪が必要以上に左右に揺れ、今か今かと待ちわびているのひしひしと伝わってくる。

どうして、こういうクソガキ共はこういった方法でコンタクトを取ってくるのか理解できない。

まるであの『クソガキ』を見ているようでイライラする。

こっちはそれどころではない。

――のだが、ついにあまりに期待の篭った鬱陶しい視線に負け、一方通行は諦めたように大きなため息をついて、数十秒前の会話につなげる形で口を開いた。

 

「……大変だなァ。おい」

「他人事みたいに言わないで! バーサーカーも戦うんだからね」

 

そうは言うが、反応してもらったことがうれしいのか、ずいぶんと楽天的な声が返ってくる。

一方通行はもう一度ため息を吐き、バッテリーの件を考えるのを完全に諦めた上で、呆れた声を放った。

 

「なンで俺がお前のために戦わなきゃなンねェンよ」

「もぉー。またそういうこと言って。貴方はわたしのッ。ううん・・・・・・それにしてもバーサーカー。ずいぶんと静かだったじゃない」

 

イリヤ自身、先の会談で一方通行が静かだったことに不振に思うことがあったのだろう。

意外そうに呟かれ思わず眉をひそめる一方通行。

このクソガキは一体自分をどういう風に思っている。

そんな思いが胸のうちから沸いてくるが、今までの行動からしてみれば、そう思われても仕方がないのでぐっとこらえる一方通行。

それ以前に、途中で途切れた言葉に疑問を抱くも、これは知らせたほうがいい、と判断して一方通行は素直に答えた。

 

「ああ、あの野郎。なンかクセェ」

「へ? 体臭が?」

「ちげーよ、・・・・・・いや。おれと同じニオイっつーならその通りかもな」

「おなじにおい?」

 

言葉の意味を図りかねるイリヤは首をかしげると、そのまま一方通行を見上げて次の言葉を待つ。

ここで会話を途切れさせて騒がれるのも面倒だと思った一方通行は、素直に首肯し、イリヤの目を見ることなく坂道のほうをけだるげに見つめて下っていく。

アスファルトを打つ杖の音にあわせて、一方通行はゆっくりと口を開いた。

 

「ああ、血のニオイ。闇に関わってる、しかも泥みてーに濃い奴だ」

「……まぁ執行者だしね。多少闇に関わっててもおかしくないかな」

「それにしても、だ。多少、暗部に関わってればそういった匂いは隠せねェ。だがあいつからはまるで隠す気もなく堂々としてやがった」

「それだとおかしいの?」

「あァ。ああいう開き直ってる輩は特に怪しい」

 

まるで、自分のやっていることが正常といわんばかりに、あの神父の立ち振る舞いは堂に入った雰囲気だった。

一方通行も、暗部に所属していたころはそういったゲスどもを多く見てきた。

そして、その存在全てを駆逐してきた。

だからこそわかる。

罪悪感や、後ろめたさがあるほうが悪党としてまだ救いのある。

本当に救いようのない屑は、自分の行い全てが正しいと確信している奴らだ。

あの神父は明らかに後者だろう。

延々と続くなだらかな坂道を眺め、考え事にふけていると、間延びした声が横から発せられた。

 

「ふーん。でも、いまさらながら思うけど、変って言えばバーサーカーって変だよね」

「あ? 俺のどこが変だって?」

「だってステータスが狂化A+っていうとんでもないものなのに、普通に自我と理性があるんだもん」

 

イリヤの言葉に一方通行は眉をひそめて彼女を見る。

初めて聞く言葉でこそないが、聞き慣れない言葉だ。

そういった意味で、問いかけようとしたところ、急に視線を向けられて驚いているのか、イリヤは面を食らったように眼を見開かせてオロオロしだした。

 

「・・・・・・前から気になってたンだがよォ。その狂化ってのは何だ?」

「あれ? 説明してなかったけ?」

 

一方通行の言葉に、挙動不審だったイリヤの動きがピタリと止まる。

ようやく落ち着いたイリヤを尻目に、一方通行は顔を再び正面に戻して、アスファルトを打つ杖に意識を向けて、ゆったりと歩を進めていった。

 

「あぁ、単語は聞いた覚えはあるがァ、説明はまだ聞いてねェな」

「……じゃあ、簡単だけどいま説明する?」

「できれば手短にな」

「うん、じゃあ一度しか言わないからよく聞いててね」

 

大方、マスターらしいことができて嬉しいとか、そんなくだらない事を考えているのだろう。

イリヤは人差し指を立てると、まるで得意げな表情で説明を始めた。

一方通行はそんなイリヤの顔を見ずに歩くことに集中すると、つらつらと横から流れてくるイリヤの言葉だけ頭の中で吟味し始めた。

 

「狂化っていうのは、バーサーカーのクラス特性「狂化」によって、基本能力を大幅に強化することなの」

「……狂化ねェ。それは文字通り、狂うことでいいのか」

「そう、ほかのクラスにはない、貴方だけのスキルとでも言えばいいのかな。とりあえず特典だと思って」

 

特典がただ狂うこととは、まったくふざけている。

だが、このスキルがただのデメリットであるとは思えない。

おそらく、使いようによっては絶大なアドバンテージを取れるスキルなのだろう。

先ほどもイリヤが言ったが、基本能力が上がったりなどデメリット分の恩恵があるらしい。

しかも―ー。

 

(実際、聖杯戦争っつうこのくだらない戦いに自我がないほうが都合のいい場合もある)

 

なにせ、戦うのはあくまで代理だ。

さらに召喚されるのが英霊だとすれば、当然その動向は善行に基づいたものが多くなるはずだ。

仮に、外道の魔術師が善良な英霊を使って町ごと敵を葬ろうと考えたとすれば、その英霊は魔術師の行動を制限するお荷物でしかない。

いくら強力な力を持っていても、そこに自我が存在すれば、マスターの意向にそぐわない動きをする場合だってある。

 

(要するに、この狂化ってのは、マスターに従順な傀儡を作るようなもンか)

 

そう理解すると、一方通行はつくづくふざけたものだと、胸のうちで呟いて、大きく息をついた。

 

「ったく、ふざけた特典だな」

「まぁ、ね。で、でもやっぱりこの狂化にもデメリットはあるの」

「大方想像はつくがな」

「うん。一部の技術や技量を必要とする宝具などが使用不可能になったり、理性を失ってしまう――はず」

「……あン? その口ぶりからするに、その狂化っていうのはレベルみたいなのが存在すンのか?」

「うん。狂化にもレベルが存在して、生前のエピソードによってそのランクは左右されているの」

「ということは――」

「そう。生前の人格が狂気に染まっているほど狂化レベルは高く、基本戦闘力が大幅に上昇するけど、令呪を以てすら制御できない状態に陥る場合があるってこと」

 

逆に、と呟いたところで、その後に続くかのように一方通行が口を開いた。

 

「生前、狂気にそれ程染まっていないサーヴァントは狂化レベルは低く、一定の理性の獲得や意思疎通が可能となる代わりに、ステータスの上昇も低くなってしまう・・・・・か」

「うん、正解!!」

「なら改めて聞くが、俺の狂化レベルはどれくらいだ」

「・・・・・・狂化A+」

 

顔を伏せ、イリヤは若干自信なさげに呟いた。

その口ぶりは先ほどまでの明るい声音と違い。濁ったような迷いが見え隠れしている。

 

「それはスゲェのか?」

「一番下のランクがEだとすると、最高ランクって言ってもいいかな」

「はァ? じゃあなンで俺はお前と話せてンだよ。お前の話じゃあ、俺は理性は失われてンだろォ?」

「――ッ! 私だって、わからないわよ」

 

完全に俯いてボソボソと呟くイリヤ。

どうやら本人にも予期せぬ出来事らしい。

伏せられた小さな顔には、困惑の色が浮かび上がっていた。

 

「バーサーカーには心当たりは無いの?」

 

ついには、こちらを見上げて答えでも求めるような顔で首をかしげる始末。

しかし、一方通行がそんなことを知るはずもない。

 

「ンなもん、俺が知るはずねェだろ」

 

面倒くさそうに言い放ち、一方通行はもう一度重いため息を吐き出した。

しかし、心当たりがないわけではない。 

一方通行は空いた片手で乱暴に白い髪を掻き揚げると、思い立ったように自分の首に巻かれた黒いチョーカーに手を触れた。

そして、坂道を終え、なだらかな公道を眺めると、全てが納得したように大きく呟いた。

 

「まぁ、これで一つだけハッキリした」

「え、何がわかったの?」

「俺があのタイツ野郎の槍を掴んだ事だよ。――あの槍は避けることができても、人間の反射速度で掴める速さを超えてやがった」

 

そう。あのランサーの槍は明らかに人間が視認で切るスピードを超えていた。

たとえ、槍の描く軌跡は線として見えたとしても、それに反応するのは常人では不可能だ。

それほど鋭く研鑽の積まれた一撃。

それは一方通行も例外ではない。

いつもの一方通行であるならあの槍をただ『見て』、反応することはできない。

――『はず』だった。

 

「だが、俺はその槍を掴ンだ。そこから導き出される答えはそのステータス上昇ってので、俺の基本戦闘力が上昇してるっつーことになるンだろうな」

 

 

しかし、裏を返せば、ステータスが上昇していなければ、吹っ飛ばされていたのは自分であったかもしれないというのも真実だ。

自分の能力が常にデフォで反射に設定されているからとはいえ、相手が魔術であるなら関係ない。

反応できずに、ただリンチにされていた、という結果もあったかもしれない。

ただこれは、あくまで可能性の話だ。

いくら相手が魔術を扱う敵だったとしても、いくらでもやりようはある。

たとえ、反応できずとも触れる方法など両の手を使っても数え切れないほど思いつく。

だが、情報が足りない。

対策を講じようにも自分の状態を把握しきれていないのであれば、行動のしようがない。

今後、行うべきことを明確に定めた一方通行は鋭い目つきでイリヤを見ると、短く彼女を呼んだ。

 

「おい、クソガキ」

「だから、クソガキじゃない! イ・リ・ヤ!!」

 

相変わらず、ガキ呼ばわりが気に入らないのか、頑なに名前を誇示するイリヤ。

使えないガキの癖に、権利ばかり一丁前に主張してくる。

一方通行はそんなイリヤに取り合わず、ただ簡潔に自分の用件だけを捲くし立てた。

 

「お前、俺というサーヴァントのステータスってのはわかってンのか?」

「・・・・・・もういいわ。ええ、マスターなんだもの当然でしょ」

 

イリヤもイリヤで拗ねたように唇を尖らせるが、最後は諦めたように小さく息をついて頷いた。

帰ったら教えろ、と気だるげに言うと、イリヤは疲れたように肩を落として、帰ったらねと力なく呟いた。

 

そうして、程なくして会話が途切れ、気まずい沈黙が両者の溝を深めるように流れた。

教会までの坂道を終えた辺りから、チラホラと人通りが増え、再び興味深そうな視線がイリヤと一方通行に向けられるが、

二人はどこ吹く風で歩道の真ん中を歩いていた。

カツカツとアスファルトを叩く音だけが規則的に流れ、一方通行はただ足を動かしていた。

横目でイリヤのほうに視線を投げると、イリヤはこちらに気づかずにおとなしく、一方通行の後を追うように若干後ろからついてくる。

一方通行とイリヤでは歩幅が明らかに違うため、若干小走り気味になるイリヤ。

時折、なにか声をかけようとしてタイミングを逃す姿が見られるが、一方通行にとっては関係ない。

悲しそうに顔を伏せるイリヤを無視して、一方通行は前に進んでいく。

両者の距離はちょうど一メートルあるかないかの微妙な距離。

しかし、二人にとっては遠い距離でもある。

そうして程なく進んだところで、

 

「あっ、ユニソロ」

 

何気なくあげたイリヤの声に、一方通行は立ち止まって彼女の向く反対車線に視線を投げた。

彼女の視線の先には、大手メーカーのロゴが入った店があった。

ただ、学園都市では見られないロゴのため、判断に迷うが大方、大衆向けの店舗だろう。

まだ平日の正午近くという時間にもかかわらず、多くの人間が店に出入りしているのが見られる。

そうして、再び横に視線を投げかけると、案の定、イリヤは興味深げ視線で、ユニソロの看板を眺めていた。

 

「……入りてェのか」

「えっ! い、いや違うよ。別に入ってみたいとかじゃないから」

 

控えめに聞いてみると、思わぬ動揺が帰ってきた。

白かった顔に赤みが差し、若干声が上ずっている。

だが、こういう時は本当にわかりやすい。

 

「――ただ、はじめて見たから」

 

そう蚊の鳴くような声で呟き、イリヤは下を向いてしまった。

おそらくは恥ずかしいのだろう。

よくある見栄だ。

だが別段、おかしな話ではない。

現に一方通行も、ああいった大衆向けの店を見たことはあるが実際に行くことは稀だ。

コンビニやファミレスなどを除いて、服など通販や、それこそブランドのものしか着たことがない。

必然的に、そういった大衆向けの店を訪れることは少ない。ここ最近を除いて。

 

(実験が凍結してから、俺がああいった店に入るなンざ、いままで考えたことがなかったからな)

 

過去の記憶に思いをふけていると、イリヤが一方通行の裾を控えめにをひっぱてきた。

一方通行は視線を右下に落とすと、やや困った表情でこちらを見上げてくる。

 

「ね、ねぇバーサーカー。ファッションとかに興味ある?」

「……遠まわしに言ってねェで、用件を言ったらどうだ。まァお高く留まったお嬢様が入るところじゃねェな」

「うっ。……うん。あそこに入ってみたい」

 

両者の間に短い沈黙が流れ、イリヤは直立不動の緊張した様子で一方通行の返事を待つ。

そんな彼女を前に、一方通行は額に白く長い手を当てると、やや面倒そうに諦めの息をついた。

 

「――はぁ、さっさと行くぞ」

「行っていいの!!」

 

興奮した声に顔しかめ、一方通行は信号が赤にもかかわらず、車道を横切っていく。

一方通行の後を追おうとするイリヤはイリヤで、律儀に信号が青になるまで忙しく待ち、

信号が変わった瞬間、まるで子犬のように一方通行の背中めがけて駆け出した。

雑多する人ごみをよけ一方通行はイリヤを待たずにさっさと店内に入り、一歩遅れるような形でイリヤも店の自動ドアを潜っていく。

 

 

距離にして、一メートルにも満たない両者の間隔。

その間隔が何を意味しているのか、一方通行でさえ知る由もない。

 

だが、少なくともユニソロの奥へと消えていった二人を見ていた大衆が妙に、鬱陶しい視線を向けていた事だけは印象に残っていた。

 

きっと、この視線の意味が『答え』なのだろう。

しかし、その『答え』を知る必要などない。

 

一方通行は、心の奥底でクソッタレと呟き、若干苛立ちながらもイリヤのほうに視線を向けた。

そこには、緊張の二文字もない子供らしい笑みを浮かべたイリヤの姿があった。

再び正面を向いて、もうひとつの自動ドアを潜ると、

 

「クソッタレが」

 

そう小さく呟いて、一方通行は小さな少女の代わりに真っ赤なプラスチック製の籠を取るのであった。

 




さてさて、如何でしたでしょうか。

今回はちょっとした二人の日常的会話。
物語はほとんど進みませんでしたが、面白いと感じていただけたのなら
これ以上の幸せはありません!!

今回も少々投稿が遅れてしまいましたが、これからも精進して、面白い作品になるよう書かせていただきます!!

聖杯戦争まであと三日。
「まだ、聖杯戦争始まらねーの?」と思いの方もいらっしゃると思いますが、
もうしばらくお付き合いください。

それでは今回はこの辺りで筆を置かせていただきます。
感想、ご指摘、評価のほどを頂けるのであれば、よろしくお願いします。
そして、読んでいただきありがとうございました!!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。