fate/accelerator   作:川ノ上

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説教と常識

冬木市の新都に到着後。

行き交う人々の中でより一層に目立つ白い二人組が辺りの視線を独占していた。

片や、意味深な表情で眉をひそめて杖をつく白い少年。

もう一方は、長い白銀の髪を左右に揺らし、頬を膨らまして隣の少年を睨みつける少女。

興味を持つなという方が難しいこの状況。

現に晴天の空模様のなか、雑居ビルから突如現れた二人の姿に、周囲の目は好奇心に満ちた視線を向けていた。

しかし、当の二人組は周りの視線など一向に意に返した様子もなく、少年と少女の二人だけの世界を形作っていた。

そう。主にお説教という形で。

 

「――だいたいさぁ、マスターを乗せてあのスピードは無いと思うんだけど。わたしだって女の子なんだよ? もっと丁寧に運ぶとかさ――」

 

コレでもかと正当性を持ったお説教が彼女の口からこぼれていく。

周りの目など気にしていない所を見ると、相当ご立腹の様子だ。

現在、空のお散歩を終えた二人は、適当な人目の付かないビルに到着して、イリヤに先導される形で市街を歩いていた。

そして、杖を突きつつイリヤの隣を歩く一方通行は、内心面倒くさそうなため息をついてイリヤを一瞥すると、飛んで来る罵声を耳に顔をしかめていた。

もちろん原因に心あたりがないわけではない。

しかしあくまで白を切り通す一方通行。

だいたいここまで運んでやったのだから文句など言われる筋合いはない。

しかし、イリヤからしてみれば生身で空を飛ぶ機会などあるはずもないので、訳も分からず空中に放り出された時は正直死ぬかと思った。

しかも速度がジェット機並みの速さなら尚の事怒らずにはいられない。

そして件の主犯に至っては反省の色が全く見えない。

ナイフのように目を鋭く細めるイリヤは、一向に自分と目を合わせようともしない一方通行を睨みつけた。

 

「聞いてるバーサーカー! いますっごく大事な話をしてるんだけど」

 

「うっせェな。口より足を動かしやがれこのクソガキ」

 

「なんかすごく理不尽かも! ちゃんとわたしの話を聞いてよ!」

 

「あァハイハイ。ちゃんと聞いてますよォ」

 

「嘘だ! 絶対に聞いてない!」

 

今にも頭から蒸気を発しそうなイリヤ。

ポカスカと小さな両手で必死に抗議の意を唱えるイリヤだが、肝心の一方通行は適当にあしらう形で全く聞いていない。

しかし、だからといって気にならないわけでもないので、イリヤの拳が弱まる適当なタイミングで彼女の手を払うと、気を取り直して一方通行は周囲を観察するように辺りを見渡した。

イリヤを抱えて飛行している途中で、少し余裕を取り戻したイリヤが一方通行に指定した場所がこの新都だ。

特にこれと言って目立った様子もないただの市街地。

ビルやマンションが多く立ち並んでいる所を見ると、おそらくここは都市部と居住区の間のようだ。

これからここ周辺が大戦争になるかもしれないとも知れずに当たり前のように日常を謳歌する人々の顔は、まさに平凡そのもの。

何もかもが普通の街並みだ。

だからこそ、なぜイリヤはここに真っ先に降りるように指示したのかがわからない。

それにしても。

 

「平日だってのに人がうぜェな」

 

「しょうがないでしょ。・・・・・・それよりバーサーカー。行かなきゃならないところがあるんだけど」

 

まだ根に持っているのか小さく頬を膨らませるイリヤだが、その口調はどこか真剣味が帯びている。

そんなイリヤの提案に、一方通行もピクリと眉を潜めて反応した。

懐かしい感じだ。

空気が一部切り取られて、一方通行とイリヤの周りだけ温度が下がっていく感覚。

暗部にいた頃と同じ緊張感。

なにより、彼女が行きたい場所というのが気になる。

 

「……言ってみろ」

 

適当に促すと、イリヤは表情をスッと静かに素に戻して、あくまで一方通行の顔を見ずに答えた。

 

「教会よ」

 

意外すぎる解答に一方通行は表情を曇らせた。

当然だ。

わざわざ外に出るリスクを負ってまで、訪れるようなところではない。むしろ、魔術に関わるのならそういった類の施設は警戒すべきはずだ。

 

「あン? ンなとこ行ってどォするつもりだ。……まさか、聖杯獲得のお祈りでもしてもらうためってわけじゃねェよなァ?」

 

「ええ、違うわ。聖杯戦争の監督役に会いに行くの」

 

「監督役だァ?」

 

初めて出る単語だ。

場にそぐわない声を上げる一方通行の言葉に、イリヤは小さく頷いた。

 

「うん。名前は言峰 綺礼(ことみね きれい)。サーヴァント召還したあと、マスターは教会に報告する義務があるの」

 

「――義務、ねェ」

 

おそらくその義務すら建前だろう。

一方通行はイリヤの話を聞いてそう判断した。

これまでの監督役がどういった傾向の人間か知る由もないが、これは上層部の人間たちにありがちな無様なプライドでしかない。おおよそどちらが上の立場かはっきりさせることで愉悦感にひたり、この聖杯戦争を支配している、という建前がほしいのだ。

第一、サーヴァントの報告をするにしてももっと他の方法があるはずだ。わざわざ外に出てまで自分の姿を見せるのはむしろデメリットでしかない。

そこまでの思考を一瞬のうちに済ませると、一方通行は眼下を鋭く尖らせてイリヤを見た。

 

「ここからどれくらいだァ」

 

「そう遠くないよ。あと二十分も歩けば着くかな」

 

この坂道をあと二十分も歩くのか、と続く坂道を見てため息を吐く一方通行。

そもそも杖をついている人間に坂道は辛い。それなら予め、イリヤに目的地を聞いておけばよかったと後悔する一方通行だった。

 

「チッ。俺も行かなくちゃダメか?」

 

「うん。絶対についてきて」

 

めんどくさそうに呟く一方通行の言葉に、イリヤは力強く頷いた。

その言葉がどれだけ真剣味を帯びているのかわからない一方通行ではない。

この先の面倒を考えると、嫌でも憂鬱になってくる一方通行は首を横に振ると、鬱陶しそうに前髪を掻き上げた。

そして、小さくため息をついて、教会まで続くであろう坂道を眺めた。

 

「ハァ、めんどクセェ」

 

「バーサーカーだってわたしのサーヴァントなんだから、わたしを守らなくちゃダメなの」

 

「俺はテメェを守る義務なんてねェよ。第一、・・・・・・あン?」

 

「・・・・・・」

 

一方通行がしゃべりかけている途中で突然足を止めたイリヤ。先導されるように歩いていた一方通行の足も当然止まり、一方通行は訝しげな表情でイリヤの後頭部を見つめた。

てっきり、またやかましい事を喋り出すのか、と思っていた一方通行は、あまりにも静かなイリヤの反応に首を捻った。

昨日までなら、確実に噛み付いてきてもおかしくない程の過剰な反応を見せたイリヤだ。今回も同じようにサーヴァント云々と吐かしてくるだろうと予想していた一方通行は見事に出鼻をくじかれてしまった。

 

(・・・・・・なにを見てやがンだ)

 

あまりにも真剣な表情でとある一点を凝視しているので、一方通行も彼女の目線を追って、隣の歩道に目を向けた。

そして、一方通行の目に写ったのは、

 

『タイヤキ屋。俺のたい焼きにその常識は通用しねえ』

 

ふっと脳裏に浮かんだのはあのムカつく第二位の顔。

たい焼きのくせに鳥類のような翼がついているというふざけた感性の看板だ。

それでなくともあの残念なネーミングセンスと手作り感満載の屋台では、客一人寄り付くはずがない。

そもそもこんなところであんな怪しげな店のたい焼きなど買う馬鹿はいないだろう。

と、思っていたのだが、どうやらここにその間抜けがいたらしい。

一方通行は、一向に動こうとしないイリヤを見てから確信に迫る言葉を口にした。

 

「・・・・・・食いてェのか?」

 

「ふえ!? べ、別にいらない」

 

試しに声をかけてみたが、その震えた声で動揺がまるわかりだ。

しかも、名残惜しそうに屋台を見ては、再び強がったような表情を見せる。

あくまで大人ぶるイリヤだが、その姿はどこかよく知るアホ毛の少女がたまに取る行動と似ている。

ともすれば、その心情も同じだろう。

おそらく少女の心の中では、好奇心と自尊心の両者の戦争が勃発しているはずだ。

一方通行はしばらくイリヤの様子を観察すると、やがて何かを諦めたように大きく息を吐きだした。

理由は簡単だ。

学園都市第一位の頭脳と経験がこいつを放置したらのちのち面倒くさいことになると告げているからだ。

 

「・・・・・・ハァ。ここで待っとけ」

 

「い、いらないってばぁー」

 

そういったところで後で欲しがるは目に見えている。

それで、あとで迷子になれば世話ない。

念のため周囲に気を配ったが、あやしい動きをする者はいない。

そもそもこんな真っ昼間から戦闘をふっかけてくる馬鹿はいないはずだ。

もし何かあれば、あとはクソガキがなんとかするだろう、と勝手に判断した一方通行は、遠ざかるイリヤの声を背に、車が行き交う道路を横断してふざけた屋台の暖簾をくぐった。

香ばしい生地の焼ける匂いが鼻を突き抜けるが、生憎朝食をとったばかりなの一方通行にとってはやや不快な匂いでしかない。目の前に視線を向けると、なにやら頭に鉢巻を巻いたチャラついた男がタキシード姿でたい焼きの型に生地を流し込んでいた。

店主も一方通行に気がついたのか、たい焼きのほうから目を離して、柏手を一つ打つ。

 

「おっ! いらっしゃいネェちゃん」

 

出会って早々ふざけたことを抜かす男の眉間に思わず拳銃を構えそうになった。

が、なんとか残っていた理性がそれを阻止して、代わりにドスの利いた声と視線で男を睨みつけた。

 

「おい、舌を捻り切られてェのか?」

 

「あらら、兄ちゃんの方だったかい。そりゃ悪かったな」

 

対して、男はまったく怯えた様子もなく飄々とした調子でヘラヘラと笑っている。

一方通行は苛立ちげに小さく舌打ちをして、灰色のジーンズから財布を抜き取ると、それを見た男は上機嫌な様子で今か今かと両手を擦り合わせた。

正直、こんなたい焼き(ダークマター)など買う気も起きない。しかし、クソガキを黙らせる必要経費だと思えば安いものだ、と一方通行は諦めて財布の紐を解いた。

 

「いくらだ」

 

「一つ百円だよ。あんことカスタードどっちがいい?」

 

商品としては手頃な値段なのだろう。だが、この外見と店の雰囲気が全てを破壊している。

一方通行の問いかけに、男は二本指を立てて自信ありげな笑みを浮かべると、通常の型とは異なるたい焼きの型にあんこやカスタードを投下していった。

 

「なら今できてるその二つを五つ・・・・・あーいや、十個ずつ頼む」

 

そう言って、嫌がらせの如く財布から万冊を一枚取り出して、カウンターに投げて渡した。

 

「あいよ。それじゃあ一万円からっと、お釣りは八千円――」

 

「釣りはいらねェ。・・・・・・さっさとソイツをよこせ」

 

レジから釣りを取り出そうとしたところで、一方通行が気だるそうにその動きを静止させる。

こんなところで無駄な時間を取られたくない。たかが小銭程度。このふざけた空間から早く出られるのなら安いものだ。

一刻も早くこのふざけた空間から遠ざかりたい一方通行は苛立ちげにそう言い放つと、キョトンと一方通行を見ていた男は、大きく柏手を打った。

 

「おっ! 気前が良いねぇ~なにか良い事でもあったか?」

 

上機嫌な様子で手際よく焼きたてのたい焼きを紙袋に詰めていく男は、意外な言葉に驚くもすぐに嬉しそうに言って、たい焼きを山盛りに袋詰していった。

 

「はいよ、毎度あり~。ふたつずつおまけしといたからな」

 

「別に嬉しくもなんともねェよ」

 

たかが4つ程度のおまけなどおまけのうちに入らない。

さっさとこのふざけた屋台から遠ざかりたい一心で、たい焼きを受け取ると一方通行は振り返って、早足に屋台から去っていった。

車道から車が来ないか確認してゆったりと横断し切る一方通行。

後ろからは「また来いよー」と男の声が聞こえてくるが、一方通行はコレを華麗にスルーする。

はっきり断言してしまえば、もう二度と来ることはないだろう。

そんなことを考えていると、辺りを不安げにキョロキョロと見つめるイリヤの元までたどり着いた。

彼女の心情もわからなくもないが、挙動不審すぎて逆に目立っている。

あれで、聖杯戦争とか言うふざけた戦争を勝ち抜こうと息巻くのだから呆れてくる。

無言でイリヤを見下ろしていた一方通行はやがて、ツケドンな調子でたい焼きをイリヤに投げ渡すと、イリヤは慌てた様子でたい焼きを受け取った。

 

「わっとっと。ちょっと急に投げないでよ!! それに……ちょっと多くない?」

 

中身を確認するイリヤの言葉に、一方通行は小さく舌打ちすると、ジッとたい焼きとイリヤを交互に見つめて、眼光を光らせた。

 

「いらねェのか」

 

その目と言葉が語るのは「いらねェのなら捨てるぞ」という意思表示。

冗談ではなく本気の目だ。

一方通行のアイコンタクトの意味を本能で知ったイリヤは、慌ててたい焼きを庇うように抱きかかえると、

大きな声で否定の声を上げた。

 

「いる!! その、・・・・・・ありがと」

 

後々になって照れくさくなってくるイリヤ。

自分のためにあの怖いサーヴァントが気を利かせて行動してくれたと思うとなんだか余計に気恥ずかしくなってくる。

 

「いいからさっさと食いやがれ」

 

そんなイリヤの心情を知らずに、一方通行はバッサリと切り捨てると、イリヤのか細いお礼の言葉を無視してさっさと歩き出してしまった。

一方通行のあまりにも淡白な反応に頬を膨らませるイリヤだが、すぐに思い直したように手元にあるたい焼きを見る。

そこにあるのは見たこともない食べ物。

サーヴァントが気を利かせて買ってくれた物。

イリヤは嬉しそうに笑ってたい焼きを抱えなおすと、一方通行の後を追うようにして走りだした。

 

「待ってよバーサーカー」

 

「ンなにはしゃいでんじゃねェよ。転ぶぞ」

 

やっとの思いで一方通行の横までたどり着いたイリヤは、ふーっと息をつくと早速、紙袋を漁って例のたい焼きを手にとった。

さすが出来立てなだけに、たい焼きは温かい湯気を立てている。

しげしげとたい焼きの不思議なフォルムを観察するようにして空へとかざすイリヤ。

まるで初めて見る食べ物のように慎重にウラとオモテを確認している。

そうして満足気な様子でたい焼きを観察したところで、イリヤは大きな口を開けて、たい焼きに齧り付こうとたい焼きを口へ持っていくと。

そこでちょうど横にいる一方通行と目があった。

一瞬の間、両者の動きが僅かに止まった。

一方通行にしてみれば、たまたま目が合っただけなのだが、イリヤからしてみれば状況を鑑みて別の考えに至ったらしい。イリヤはたい焼きと一方通行を交互に見てから、覗きこむように一方通行を見ると、手にとったばかりのたい焼きを一方通行に差し出した。

 

「・・・・・・バーサーカーは食べないの?」

 

「ンな甘ったるいもンいらねェよ」

 

適当につっぱねると、イリヤは頬を膨らませるが、ことのほかあっさりと引き下がり、片手に持っていたたい焼きを自分の口に運んだ。

一つ食べては、また一つに手を伸ばす。

朝食を食べたばかりなのによく入るものだ、と一方通行は感心する。

どこぞの白いチビシスターと違って胃袋はブラックホールではないはずだろうから、きっとどこかでギブアップするだろう。

一方通行も自分らしくない、と思いつつ先ほどの自身の行動を振り返った。

食いきれない量を買えば、あのクソメイド達の土産にでもなって、後腐れなく終わるだろうな、などと。

甘い考えにも程がある。

あの『家』の独特な雰囲気に浸かりすぎておかしくなったか、と呆れつつ一方通行はモソモソとふざけた羽根つきのたい焼きと格闘するイリヤを見て、呆れたようにため息を付いた。

 

(はァ、まったく俺らしくねェなこれは)

 

そう自覚しつつも無意識に手が届くイリヤの頭に手を伸ばす。

もはや癖の領域だ。

つい、いつもの癖でやってしまった。

そうして乱雑にイリヤの頭をなで上げると、イリヤは驚いたような声を上げて、一方通行の手を振り払った。

 

「ふにゃ!? やめてよバーサーカー!!」

 

あまりにも突然すぎる行動に面を喰らうイリヤ。

振り払われた一方通行も、思わずイリヤの反応に驚いて手を引っ込めた。

ワナワナと口を動かしてこちらを見てくるイリヤの目は恨めしそうにこちらを見ている。

やがて、小さく鼻を鳴らして明後日の方を向くと、興奮気味な声でさっさと先に進んでしまった。

 

「早く行こう! バーサーカー」

 

「・・・・・・めんどクセェ」

 

あそこまで過敏に反応されるとは思わなかった一方通行は、立ち止まって己の掌を見つめると、小さく首を傾げた。

クソガキに『コレ』をした時はあそこまで嫌がられなかったのだが。

髪に触れた程度であそこまで驚くものなのだろうか。

まったく、女心などわからない。

一方通行はそう心の底から呟くと、どんどんと先を歩いて行ってしまうイリヤを見つめ、面倒くさそうに足を動かした。

 

対して、お怒りのイリヤはというと――。

 

(あぁービックリした。びっくりした)

 

予期せぬ己のサーヴァントの行動に、高鳴る鼓動を沈めつつ、たい焼きをまた一つ口に運んだ。

甘い口当たりがなんとも言えない。

生地はサクサクで香ばしい匂いが口から鼻へ突き抜けていく。

味が二種類あるのも嬉しい。

今朝、朝食を食べたばかりだというのにどんどんお腹に入っていく。

こんなに美味しいのに。こんなに嬉しいのに。それでも、胸の動悸は収まってくれない。

きっとこの感情はたい焼きという不思議なお菓子のせいだ。

顔が熱いのも。胸がドキドキするのも、きっとこのお菓子のせい。

このお菓子が美味しいからこんな気持ちになるんだ。

だから、この感情はあのサーヴァントに対してじゃない。

こんな感情をサーヴァントに抱くのは間違ってる。

サーヴァントは私達、魔術師の手足だ。道具だ。

そうしなければならないと、お祖父様に教えられてきた。

だから、どんな命令だってしていいのに。

そう教えられたのに。

嬉しい、などと思ってはいけない、のに。

あれはきっと彼の気まぐれ。きっと何かの間違いだ。

いままでと関係や距離感は何も変わってない。

でも、やっぱり――。

そうして、一方通行が触れた髪の毛を治すような仕草をしながら、イリヤは小さく微笑んだ。

 

(頭を撫でられたのって、いつぶりだろう)

 

いまもバーサーカーに撫でられた温もりがかすかに残っている。

乱暴だけど優しい手つきだった。

ここ十数年。頭を撫でられたことなどない。

リズとセラは主従関係を気にして、私を褒めることはあっても、頭を撫でるようなことはしてくれない。

昔はよく頭をなでてくれた人達がいたけど、いまはもういない。

だからかな。こんなにも胸が満たされているのは。

一方通行の心情を知ってか知らずか、嬉しそうな素振りで髪を揺らして坂道を登っていくイリヤ。

彼女は青く広がる空を見つめ、やがて振り返る。そこには、坂道を気だるそうに歩くバーサーカーが見える。

反抗的で。

まったくいうことを聞いてくれないわたしのサーヴァント。

それでも、自分に歩み寄ってくるバーサーカーの姿を見ると、ちょっと嬉しくなる。

うん。やっぱり、頭をなでられるのは気持ちがいい。

それが、自分のサーヴァントならなおさら。

 




まず始めに、約二ヶ月間も投稿遅れて申し訳ありませんでした!!

スランプに続き、書き溜めしていたはずの記録媒体を誤って踏み砕くという愚行を犯し、
精神諸々疲弊してしまいました。

という訳で、今回は勘を取り戻させていただくために、軽いお話を投稿させていただきました。

どうでしたか?

少しは面白いと思っていただけたのなら、作者的には今後のモチベーションとなるので、ありがたいです!!

次回こそはできるだけ、早めに投稿できるよう努力するので、みなさん生暖かい目で応援してください。

次回は、言峰教会。狂者と狂者が出会った時、物語が動き出す。

では今回はこの辺りで筆を置かせていただきます。
感想、ご指摘、評価のほどを頂けるのであれば、よろしくお願いします。
そして、読んでいただきありがとうございました!!

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