「ほうほう、大和はそんなに強いのか」
「そうデース!まあワタシも負けてはいませんがネー。だけどやっぱり大和は強いデース」
「そうだね。時雨もそう思うな」
「にしてもこれが本隊じゃないとか衝撃……」
長門の後ろで行われている会話、新種であろう深海棲艦、おそらく姫クラスと金剛と時雨が話している。
長門は思う。にしてもこの深海棲艦は何なのだろうか。近寄ってきたかと思えば「浦風って居る?」とか聞いてくる。彼女はそんなに浦風に会いたいのだろうか?そのためなら敵陣のど真ん中に行くのも躊躇わないほど……?
もしや騙しているのでは、という疑念も生まれた。しかし彼女の表情は本当に浦風と会いたそうだった。アレが嘘には到底思えないし、そもそもあの表情で嘘をつけるよえな奴がわざわざ敵陣に突っ込むような愚行をすまい。
多分、信用しても良いのだろう。深海棲艦だが、ほかのに比べれば遥かに『人らしい』。
提督の事だ、苦笑いしながらも許してくれると思う。
とりあえず伝令を送ろう。
【
今頃大淀が変な声をあげてるに違いない。 そう思うとふと笑いがこみ上げてきて、長門の固くこわばった心を幾分かほぐしてくれたように感じた。
俺は現在鎮守府観光ツアーに来ております。…まあ道のりですが。左をご覧ください、見渡す限りの大海原です。右をご覧ください、高知県です。はいありがとうございマース。
俺が行くのは呉鎮守府。つまり兵庫県…………では無かった。
なんか一言に『呉鎮守府』と言っても第二やら第三やらと複数あるようなのだ。俺が行くのはそのうちの一つである高知県沿岸部にある呉鎮守府だった。
あと新事実、俺って太平洋の日本の真下にいたらしい。カンで北に行けばよかったな。その方が早かったし、わざわざ漁船のスピードに合わせなくて良かったのだ。当たり前だろう。
……最高速度なんて出したことないからこの身体がどんぐらいのスピードを出せるかわからないが。
「浦風ー♪」
「そんなに会いたいのかい?浦風に」
時雨が首をかしげながら言ってくる。俺はそれに食いつかん限りに迫って言った。
「ああ!会いたいさそのために俺はここにいるようなものだからなッ!俺の存在意義!」
ああ早く浦風に会いたい。ちなみに時雨は若干引き気味だった。
俺はまだかなまだかなと心踊らせながら……あ、そうだ提督が知ってるつっても今すぐ即答できるとは限らないじゃん。
そう思うと萎えてきた……。
ふと、背中を見てみた。相変わらずスラスター的な艤装が浮いている。
………これ、乗れんじゃね?
そうだよ空母水鬼とか女王様座りで艤装に乗ってんじゃん。もしかしたらこれ…できる、できるぞ!
疲れたし丁度いい、俺の燃料的なのが三分の一下回った感覚があるしな。スラスターで食われるかもしれんが。
俺は思念でスラスターを太ももあたりに移動させる。
わあ……時雨達がすげえこっち見てるよ撃たないでね?
「よっと」
そう言って腰掛ける。そんでもってスラスターに浮けと思念を飛ばす。ちなみにもう一つあるスラスターは手持ち無沙汰ですごめんなさい。
スラスター型の艤装に横に腰掛ける俺。ふむ、座り心地はそこそこ……とゆうかなんかしっくりくる。不思議だ。
「やっぱ楽ちんだなこれ」
「そんなことも出来たんだ…」
「すごいデース」
「ふふん。どうよこれが深海棲艦クオリティ。まあなるのはおすすめせんな、無作為に敵意向けられるだけだし。深海棲艦って」
リアルすぎる夢で思ったことだ。後今思った。俺ってもしかして姫クラス?
でも姫とか鬼とかの区切りがよくわからんのだよな…俺。語感的に姫で。水鬼とかだったらどうしようでもあのキショい腕とか生物くっついてないから違うだろう……あり?確か水母棲姫って腕はやしてなかったか?もしかして姫鬼関係無いの!?
いやいやまてまて俺の艤装はスラスター的なののみ、こいつから腕なんか生えてないし生えるわけないよな。
チラッと座っているスラスターではなく頭上左をふよふよ浮いているスラスターの方を見てみる俺。
「………」
『………』
無言、しかしなんか意思的ななんかを感じるゥゥッ!
「どうしたんデスかー?」
その様子を見た金剛改二が近寄ってきて言う。ちなみに今は真ん中に俺がいる変則輪形陣をとっている。いや一応深海棲艦だし?信用されてないのはわかるんだけどさ包囲って……完璧罪人護送じゃね?これ。それともこういう形取らないとヤバイことでもあるのか?というかさっきから夕立が全然話しかけてこないんだが夕立ちゃーん俺に心を開いておくれー。
「いやさ。時たま姫とか鬼のあいつらがさ艤装から腕生やしてたりキショい生物従えてたりすんじゃん。それが俺には無いなぁと安心と確認を込めて艤装を見つめてたんだ」
「あー……確にないネー。でも生やしてたりするのも一部デスヨ?確認する必要があるには思えないネー」
「いや、艦娘の艤装みたいに妖精的なのがいて反応してくれたりーとかないかなと思って」
「……いるのデスか……?」
「いや確認してみる。なあスラスターよ……えーっとまあ左の方だからレフトよ。お前腕生やすこと出来るか?」
斜め上を見上げながら言ってみる。
その三秒後、スラスターの一辺から突如ニョキッ!と豪腕が生えた。
「ひいゃ!?」
俺はそのまま驚きで腰が抜けて海に頭から落っこるハメとなった。言わなければよかった。また溺れそう。あれかな、俺は海で滑ったり驚いたりすると溺れかける呪いでも付いてるのかな?
にしてもマジかあ……。腕、生えたわ、ということは俺が座っていたライトスラスターのほうも生えそうじゃん。何これマギの金属器ですかあれぐらいスラスターに比べて腕の大きさが釣り合ってなかったぞ。
とりあえずヘルプー。俺溺れそう。
夕立は深海棲艦を鎮守府に連れていくことに反対していた。
鎮守府の艦娘は皆提督のことが大好きだ。そのことは変わりない、だがそれだからこそ提督に『もし』危害が加えられたらと思うと深海棲艦を連れて帰るのがとても抵抗があったのだ。
もちろん長門に抗議の意を示した。しかし「あの深海棲艦から有用な情報が手に入る可能性もある。少なくとも友好なら相手の条件を呑みそれに答えて誠意を見せ可能な限りの情報を引き出すのが得策だ」と言われてしまえば反対はできなかったのだ。
しかし、夕立は警戒を崩さなかった。無論長門もだが温度差が違う。
そんな折、深海棲艦が突如艤装を起動し始めた。現在は完全に包囲された状態だ。まさかこの包囲を崩す打開策があるのか?やはり攻撃するのか?
夕立達は腰を低くし警戒の色を持ってその一挙動を見る。
しかし、次に起こしたのは夕立の予想の一線を画す動作だった。
なんと自分の二つある艤装の一つに座ったのだ。
……え?
一気に毒気が抜かれる。というか10cm高角砲を構えていた自分が馬鹿みたいだった。
夕立たちはそのまま航行を続ける。深海棲艦は自らの艤装に座って宙を浮いているけど。
(長門さんの言っていた通り、友好……ぽい?)
少し敵愾心が薄まる。まあやはり警戒の念は崩さないが。
だが深海棲艦は次なる行動を起こした。
なんかいきなり艤装と見つめだしたのだ。
………なに、してるの……?
そう思ったのはどうやら夕立だけでは無かったようだ。金剛さんが深海棲艦に問を投げている。
そして深海棲艦はこう言った。
「いやさ。時たま姫とか鬼のあいつらがさ艤装から腕生やしてたりキショい生物従えてたりすんじゃん。それが俺には無いなぁと安心と確認を込めて艤装を見つめてたんだ」
ああ、あの腕……と頭の中で戦艦棲姫の姿が浮かび上がってくる。
黒いワンピースを着たクールな印象だったのを覚えている。あとその後に従える三倍近い巨体を誇る異形の化物も印象的だ。
そもそも私達は第二艦隊だが連合艦隊を組んだ際海域で見たことがあった。大和さんが弾着観測射撃していたっけ…。
「ひいゃ!?」
突然後ろから深海棲艦の声が聞こえた。なにかしら?
「え!?」
そこには深海棲艦のスラスター型の艤装から豪腕が生えた光景があった。あとついでに深海棲艦が海にひっくり返って落ちた。
「何だあれは…?」
長門が訝しんだ声をあげる。
「あの深海棲艦の艤装っぽい」
夕立は長門がどうやら前を見ていて一部始終を見ていなかったようなので説明する。……いや、自分も生える瞬間を見てはいないがまあ察しの悪い長門に予測を言う。そしてそれに大鳳も裏付けに言い添えてくれる。
「はい。長門さん、私も見ていました」
「お前達が言うからには間違いなのだろうが……あの深海棲艦はどこだ?」
「ウチは後ろから見とったで」
「先ほど海にひっくり返って落ちました。多分溺れているかと思います」
「なるほど、溺れて……って!?」
「や、ヤバイっぽい!?」
「深海棲艦が溺れてんか!?」
いまさらながら気づいた、というか溺れるとは思わなかった。何せ深海棲艦だ。深海棲艦が海で溺れるって……。
夕立が海に飛び込もうとする。しかし飛び込むことは無かった。その前に宙に豪腕を生やしたスラスター型の艤装がピクリと動いたかと思うといきなり海に突っ込んだからだ。
そしてブクブクブク……という気泡音と波の音が場を支配する。
「………艤装、さん?」
「ダイジョブデスかー?」
時雨と金剛が気泡のたつ海面をのぞき込みながら言った。
少し離れたところに立つ夕立と長門と大鳳と龍驤たちはそれをなんか不思議なものを見るような目で見つめていた。
なんというか常識を打ち破られたというか正直言って泳げない深海棲艦とか何なのだろうって。こんなのに世界の制海権を奪われかけたのか……。
そんな気持ちがあるのだから、だんだん深海棲艦を見る眼差しが生暖かいものになっていくのは仕方が無いことだったのだ。
しばらくして、深海棲艦が浮き上がってきた。
そして彼女達は吹き出しそうになるのだった。
なぜなら深海棲艦は地でさえ白い顔が真っ白に染まってプルプルと震えていたからだ。
たくましい豪腕の二の腕に引っ掛けられてかなり矮小な雰囲気を醸し出して、これが本当に姫クラスなのか?と首をかしげたくなる。非常に。
その後また進み出すか深海棲艦が起きるのを待つか迷ったが艤装から生えた腕がグッとサムズアップしてきたので進むことにした。実際ついてきてくれたのは良かった。
そして夕立達は呉鎮守府に帰還した。
腕が妖精さんさ!(多分!)