俺は海を滑っている。
カモメ一羽として空を飛んでないがらんどうな青空の下でだ。
白い肌が日に焼けそうで怖いがそんなことはないのだろう、なにせ俺深海棲艦だし、深海棲艦クオリティはパネェはずだ。
容姿は良くわからんが、きっと美少女だろう、165cmぐらいの身長っぽそうだし、きっとスポーツ系。
にしてもまったくもって島らしきものが見えてこない。まあ地球の七割が海だしな。当たり前か。
そんな海原で俺は初めて動く影を見つけた。
よく見てみれば漁船だった。
とりあえず近づいてみた。
「お、おい……」
緊張で声がどもる。
しかし俺の姿を見た漁船の上にいたおっちゃんが。
「で、でやがった!?深海棲艦!ここら辺にはいないんじゃなかったんかよ!?」
その恐怖の色が混ざっ悲鳴に一瞬動きが止まる。
見た目は深海棲艦。怖がられることは覚悟していたにしてもあの恐がりようはリアルすぎね?おい?
「お…あ、あの……」
「ヒ、ヒイィィ!?く、来んじゃねえ!」
そのままエンジン全開で逃げてしまった。
幾分か放心する俺。
「……えっと……まじ、か……」
り、リアルすぎる……さすが俺の夢、リアリティに追求しているな。
「……あれ?ちょっと待て」
そこでふと俺は気付いた。
「あの船追ってったら艦娘に会えんじゃね?」
そう、漁船に乗っていたのは人。つまりは絶対に彼の行く末には陸に行き着くまたは人がいるということは
こういうのは定番だ。物語が始まったら何かしら重要人物に会うのだ。それかフラグ建築用のモブ。
「フッ、浦風。今行くぜ!」
俺は豆粒程度の大きさとなっていた漁船を追い出した。
漁船『鉈丸』。コイツの最高速度は22ノット。それで陸に向かって全速航行しているわけだ、俺は。
そんな俺は必死に舵をつかみながら後ろを見て叫びそうになってしまった。なんと後ろにあの深海棲艦がついてきていたのだ。
「クソがッ!?」
深海棲艦に通常兵器は通用しない。あの悪魔共に牙を突き立てることが出来るのは『艦娘』だけ。常識である。
彼はそれを信じずに一度ロケットランチャーを今は衰退した陸軍横流しから手に入れ深海棲艦にぶちかましたことがあった。結果、効かなかった。それ故に彼は理解していた、自分は逃げる以外に手は無いと。
先程など単に幸運が重なっただけであろう。いつの間にか現れた深海棲艦、しかもほぼ完全なヒト型だ。漁業組合などでは異形の深海棲艦よりも深海棲艦はヒト型に近くなるにつれ驚異度が増すと言われている、つまりはクソ強いというか確か鎮守府の提督さんが言っていた『棲姫』とかの類だろう。
あの艦娘を指揮する提督が「強敵だ。出会ったら大和の弾着観測射撃でワンパンすることにしてる」とまで言っていたのだ。いや弾着観測射撃って何かはわからんがすごい事だとわかる。つまりは強敵であり逃げるべし。
それ以外できないし他の術は無い、しかし彼は再度後ろを振り向き違えずその白い姿があるのを見て吐き捨てるように再度言うのだった。
「クソがッ!」
俺は祈った。どうか死にませんようにと。
なあ、今こっち向いてスゲエ忌々しそうな表情で「クソがッ!」って言われなかった?言われたよね。やばい、心が傷ついた……身体はオールグリーン。精神が大破ですわ、でも浦風のことを思えばなんのその!ああ待っててね浦風今会いにいくからさ!
やばい、笑いがこみ上げてきた。しかしもそれをどうやら見ていた漁業のおっちゃん「ヒッ!?」て言ってたし好感度最悪だよ。きっと白い肌の深海棲艦が笑ったらかなり怖がられたはずだ。俺は浦風と会うために人間とは友好にしたいのにたとえ今俺が深海棲艦でも!
「にしてもおっちゃんさっさっと陸地つかないのかよぉ……」
ちょっと疲れてきた、深海棲艦に燃料とか補給とかその類が必要かは分からないが何かが減っていく感覚がある。形容し難いな、なんだろうこれ、きっと燃料かな。
深海棲艦としての攻撃手段はきっと俺の後ろにふよふよ浮いている鋭角的なスラスター的なのだろう。三角柱で先端が尖っており攻撃的で鋭角的なフォルムだ。三つ面の部分から先端に並列して砲門らしきものがあるからきっとこれだ。ここから弾をポンポンだすのだ。にしても陸まだかよぉ。
「まだつかないのかよ……たっくもう」
しかし自分にはついていく以外陸地を目指す手段がない、海のどこにいるかもわからないので太陽の位置で方角を測ったところで徒労に終わる可能性が高いし直に接触してなお怖がられたら面倒だ。
でもそういえばあのおっちゃん「で、でやがった!?深海棲艦!ここら辺にはいないんじゃなかったんかよ!?」とか言ってたよな。つまりここって攻略済み海域?
しかし周回している可能性もない訳では無いが、まあ遭遇率は低の上あたりだろう。ほんとどないしよ。
そんな感じで俺は漁船を追いかけてた。うおおここからでもエンジン音が聞こえてくる。震えるねぇ。
何馬力ぐらいだろうか…あの漁船の種類覚えておいて夢から覚めたらググろう。
それよりも浦風だ。浦風。浦風に会いたい。
「ってあれ?」
浦風浦風念じてたら陸が見えてきた。よっしゃ!
後は沿岸を沿っていけばいつかは鎮守府にたどり着くだろう。あえてもし浦風がいなかったらとは考えない、フラグになりそうだからだ。
そんなわけで俺は漁船の尻に引っ付くのをやめて左に舵を取るのだった。
「面舵いっぱーい!てな。……あれ、左に曲んのって面舵だったっけな…」
浦風への道は近い―――。
何故だかはわからんが陸が見えた瞬間唐突に後ろに引っ付いていた深海棲艦が消えた。本当に唐突だった。ずっと後ろを向いて訳では無いのでその内に曲がったのだろうが俺が気づいた時には港まで来ていた。
俺の漁船の異様なスピードで迫ってるのに気付いていたのだろう、港には四人の同僚達がいた。
「おいおいどうしたんだそんなにあわててよ?」
俺は転がるように漁船から降りる。そこに四人の同僚達は集まってきて俺の様子にに首をかしげながら言う。俺はそれに息切れの言いにくさに加えて恐怖を混ぜた声で言う。
「……んがいた」
「あ?何がいたって?」
「深海棲艦がいたんだよォォ!」
「な、ほ、本当か!?」
「ああ!しかもヒト型だ!完璧と言っていいぐらいのだった!」
俺はあの付け回されていた時の恐怖を思い出しながら言う。
「よ、よく生きて帰れたなぁ…」
「……わかんねぇよ……ただいきなり現れて、逃げたら追われたから逃げたんだ……」
その恐怖は漁業をやるものなら誰だってわかるものだった。遠目でもわかるあの異様さ、異形さ、それだけで恐怖の念がこみ上げてくる。
「………ちょっとまて、追われてたっつーことはソイツは今どこにいんだ……?」
「わからねぇ。陸が見えたら消えてたんだ…」
「おいまてそりゃあ一大事じゃねえか!?」
同僚の一人がそう叫んだ。そうだ、そうではないか。
陸が見えるほどの近海にヒト型の深海棲艦が居場所もわからないまま航行している。なんとも危険極まりない状況だ。
「今すぐ呉提督の所にこのことを知らせねぇと!?あとここら辺の漁業組合にもだ!クソッ!稼ぎ時っつー季節なのによぉ!!」
「命には変えれんだろう、さっさと知らせに行くぞ!」
「ああ。あの悪魔どもめがァッ!俺の生活費代わりに稼げやゴラァ!」
俺達はその後、呉鎮守府に行き、そのことを伝えるのだった。
浦風の夏グラをもう一回拝みたい。