やはり俺の出所後生活は間違っている   作:ミーアキャット

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一週間ぶりの投稿になりました。
これからしばらくこのぐらいのペースでの投稿になると思います。

今回から新しい書き方を取り入れてみました。
今はまだ少し読みづらいかもしれませんが、またちょこちょこ書きつつ直しつつでいきたいと思いますのでよろしくお願いします。


5話 ただひとり雪ノ下雪乃は不穏な空気を察知する

 

 

車から降りるとあたりは山々に囲まれ見渡す限りに緑が広がる、気持ちのいい空気が澄み渡っていた。

 

「んーっ!きっもちいいーっ!」

 

由比ヶ浜さんが車から降りると大きく伸びをする。

 

「…人の肩を枕にしてあれだけ寝ていればそれは気持ちいいでしょうね。」

 

「…あっ!ごめんゆきのん!」

 

しかし雪ノ下さんにチクリと言われ、とっさに謝った。

 

「でも本当に空気がおいしいし気持ちいいよね。」

 

「まあ、小町は去年もきたんですけどねー」

 

戸塚さんと小町ちゃんもそれに続く。

二人とは車内で並んで座っていたためずいぶんと仲良くなった。

 

「俺もここまで山に囲まれてるところに来たのは初めてだよ。」

 

「あぁっ!そういえばキヨシさん東京でしたっけ!」

 

「まあ東京にも似たような施設はあるんだけど、一応都内だから周りにこんなに山があるわけじゃなかったからね。」

 

東京にも周りを木に囲まれた宿泊施設はあるものの、人工物なのでこういった空気や開放感は感じられない。まあ、つくってしまえてるだけで既に十分にすごいことなんだけど。

 

「へー!そうなんだ!」

 

「くぅー!やっぱ都民は違いますねー!」

 

二人は目を輝かせる。

別に東京だからどうとか思ったことはないけれどなんか自分が褒められてるみたいで嫌な気はしない。

そう考えると案外俺は単純なのかもしれない。

 

「…はっ、小町お前分かってないな。千葉県民として全然なっちゃいない。千葉愛が足りなすぎだ。

 

いいか…千葉はな、言うなれば自然のある東京なんだ。自然の良いところと都会の良いところをミックスしたニューカマー、それが千葉。それに名前こそ東京だがあのディスティニーランドも千葉県だ。よって千葉は東京より偉い。分かったか。」

 

「…話飛びすぎだよ、三段論法だよ、お兄ちゃん。」

 

しかしそんな東京の扱いを許さない者が一人。

というか比企谷さん無茶苦茶すぎじゃないか。

 

「でもその話でいくと千葉村も群馬県だよねー」

 

しかし持論を一蹴されてしまった比企谷さん。

親の仇を見るかのように恨みごもった視線を小町ちゃんに向ける。

だが、こういったことには慣れているのか小町ちゃんはどこ吹く風だ。

ちなみに三段論法の使い方間違ってるんだけどなぁ…。

というか戸塚さんはスルーなのか。

 

到着したテンションも相まってか、各々やいのやいのと話に花が咲く。

 

 

「おい君たち。はしゃぐのもいいがそろそろ時間だ。車から荷物を出してくれ、ここからは歩いて移動するぞ。」

 

先ほどまでタバコを吸いながら俺たちを見守っていた平塚先生が指示を出す。

 

指示通りに荷物を降ろしていると、もう一台ワンボックスカーが現れた。

中から出てきたのは若い男女四人。

この時期は結構人がいるんだな。

…別にうらやましいとか男死ねばいいのにとか思ったりはしていない。

 

「よ、ヒキタニくん」

 

「…ん?って葉山か」

 

 

と、邪念を彼らに送っていたらその集団の一人が比企谷さんに声をかけていた。話し方からみるにどうやら知り合いみたいだ。

 

「あれー?優美子たちも来てたんだ!」

 

「ああ由衣。あーしらはここでキャンプできるって聞いたから来たんだけど。」

 

こちらはこちらで知り合いらしい。

キャピキャピと楽しそうにおしゃべりをしている。

あれ?あの縦ロールの人、どっかで見たことがあるようなないような…

まあ、気のせいか。

 

整理してみるとこの集団は比企谷さんたちの知り合いであるらしい。

というかクラスメイトなのだと。

比企谷さんとさっきまで話をしていたいけ好かないイケメン野郎があの女子に人気の高い二年の葉山隼人。

男など興味はないけれど一応校内の有名人なので知っている。

女子にがっついてなくて余裕のあるところが勘にさわる男だ。

 

「さて、全員揃ったみたいだな。」

 

ここで平塚先生が改めて口を開く。

…あれ?今全員って言った?

 

「…全員ってどういう意味ですか。」

 

同じことを思ったのだろう比企谷さんが代表して質問する。

 

「言ってなかったか?葉山たちもこのボランティア活動に参加するんだよ。」

 

特に悪びれることもなく平塚先生はしれっと言う。

ようやく合点がいった。別にそうならそうと先に言ってくれていれば構わなかったのに。

一瞬そう思ったけれど今はそれよりも、

 

「…あれ?小町合宿だって聞いてたんですけど…。」

 

「俺らはバーベキューって聞いてたぜー」

 

この合宿の趣旨すらまともに伝わっていなかったことの方が問題だった。

小町ちゃんと、先ほどいた四人組の中で一番チャラそうな人が驚いた声を上げる。

というかどう伝えたら皆聞いてた情報がこんなにも違くなるんだよ。

平塚先生は彼らに一体どんな風に伝えたのだろうか?

 

「俺はボランティアだって最初から聞いてたけど。というか翔にもそうメールしなかったか?」

 

しかし、いけ好かないイケメン野郎がそう言った。

 

「あーれそうだったっけー?」

 

ああ、なるほど。

 

つまりだ、これは多分平塚先生が皆を騙したとか説明不足とかそういうのではなくて、連絡が伝言ゲーム方式で伝わっていく中でみんながそれぞれ勝手に解釈をし、色々と情報が入り混じってしまったため元々の趣旨が伝わりきらなかった。そういうことだった。アホすぎる…

 

「む…。一応全員にしっかりと連絡はしたはずなのだがな。まあいい、今日から三日間の間、君たちには小学生の林間学校のサポートをしてもらう。意外と大変な作業になるかもしれないが作業態度いかんによっては内申点の向上も検討しよう。自由時間は好きにしてもらって結構だ。」

 

話がある程度まとまったのを見て平塚先生が説明を進める。

それを聞いていて俺はふと思った。

 

「いや、それって結構な重労働ですよね。」

 

そもそも奉仕活動と聞いていたからそれなりに大変だろうとは予想していたが、それでもゴミ拾いとかそういうことだと俺は思っていた。

だけど、これが小学生の宿泊学習の手伝いなどとなるとかなりの作業量になってしまうだろう。

自由時間といいつつも日中はあまりとれなそうだ。

 

…この様子だと、俺の計画も一度見直さなくてはいけないかもしれないな。

一人頭の中で考える。

 

「何にせよ時間は迫ってきている。一度本館の部屋に荷物を置いてからもう一度集合だ。では行くぞ諸君。」

 

そう言った平塚先生の言葉を皮切りに俺らはぶつぶつあれこれ言いながらもひとまず彼女に着いて行くにした。

駐車場から市民ロッジまでつながる道を二列になって歩いていく。

 

「にしても、手伝いって俺たちだけじゃなかったんですね。皆さんは知ってたんですか?」

 

「いやー初めて聞いたからびっくりしちゃったよー」

 

「…というか俺の場合泊まりだったことさえ初めて聞いたんだが」

 

知らなかったのはどうやら俺だけじゃなかったみたいだ。

 

「でも、こういうのって結構楽しそうだよね。」

 

「ああ、そうだな戸塚。二人の思い出たくさんつくろうな。」

 

「ヒッキーさいちゃん好きすぎでしょ!!」

 

まあでもなんだかんだでみんな楽しそうだ。

集合の先頭では雪ノ下さんが平塚先生に抗議をしているのが見えた。

 

「…なぜ葉山くんたちがここにいるんですか。」

 

「そもそもこれは奉仕部の活動ではなく、総武高校そのものにされた依頼だ。よって君たちだけを連れていくと周りから君たちだけを贔屓しているとも見られかねない。そうすると非常に面倒なことになるのだよ。

最近は保護者の目なども厳しいしな。

 

それに元々ある程度の人数も必要だった。だからあらかじめ学校の掲示板の方で募集をかけたんだよ。それで来たのが葉山たちだったわけだ。不服かね?」

 

そう言われれば雪ノ下さんに返す言葉はない。

うつむく雪ノ下さんに対し後ろからぬっと顔を出し、フォローしたのは意外にも比企谷さんだった。

 

「不服ですね。そもそも俺や雪ノ下があの辺の連中と仲良くやれるわけがないでしょう。」

 

「…勝手に私まであなたと同じにしないでもらえるかしら。」

 

雪ノ下さんはそう言いながらもどこか嬉しそうに見える。

 

「…はぁ、全く君たちときたら相変わらずだな。

 

いいか、私は仲良くしろとは言っていない。仕事をする上で彼らとも適当に折り合いをつけ、ビジネスライクに接しろと言っているのだ。

言っている意味のわからな君らではないな。」

 

そんな二人をあきれたように見ながら平塚先生はそう言った。

 

「…なるほど。わかりました。善処します。」

 

「…はぁ、まあそういうことなら。」

 

あくまでしぶしぶといった様子で二人は納得する。

 

「まあいい、話は終わりだ。本館に着いた。荷物を置いてきたまえ。」

 

少し微笑みながら平塚先生はそう言った。

 

 

× × ×

 

 

「おお…結構広いですね。」

 

本館についた一行は女子と男子に分かれそれぞれの部屋に通される。

俺たちが通された部屋は10畳ほどの部屋だった。

 

「…まあ男が全員泊まるわけだしな。にしてもキヨシ、お前荷物大きすぎだろ。なんなの、女子なの?」

 

「いやぁ、必要なものとか結構あったんで。」

 

何に必要かは今はまだ言えないけど、今回の合宿に俺は結構な量の荷物を持ってきている。

 

「…にしてもそれだけ大荷物だとかなり重かったんじゃないか?軽々と持っていた様にも見えたけど。」

 

「確かに言えてる!ふつうに考えてそうだべー!?」

 

「ちょっとは鍛えてるんでこのぐらいならなんとか大丈夫なんですよ。」

 

プリズンにいた時の影響か、俺は退学してから毎日筋トレを欠かしていない。

その為、当時の筋肉をまだ保っているのだ。

 

「…まあいいや、あんましゆっくりしてると平塚先生のボディブロー食らうぞ。早くいこーぜ。」

 

「そうですね。じゃあ行きましょうか。」

 

俺も正直平塚先生の拳をもらうのは控えたいので、素直に従う。

そういって各々準備を終え、部屋を出て入り口の方へみんなで歩いていく。

 

「…あ、ちょっと先行っててください、忘れ物してしまったので。すぐに戻りますから。」

 

その途中、あることを思い出した俺は周りに先に行っててもらうことにした。

そうして俺は一人部屋に戻るのだった。

 

 

× × ×

 

 

「…おい、遅ぇよキヨシ。何やってたんだよ…。」

 

「…すみません。ちょっとお腹を壊していたのでトイレに寄ってたんです。」

 

俺が広場へ到着すると既に小学生の生徒達の前で教師がオリエンテーリングの説明をしているところだった。

どうやら遅刻してしまったみたいだ。

 

「…まあいいや、なんにせよオリエンテーリングの説明はもう終わる。これからそれぞれ小学生のサポートに回れだとさ。」

 

「…結構ハードなスケジュールですね。」

 

「まったくだ…。せっかく貴重な夏休みだってのに。早く家帰って部屋でごろごろしてぇ。」

 

「夏休みの過ごし方としてそれはどうなんですか…。」

 

だが冷静に考えると俺もクラスの男子と何度か遊んだくらいで、夏休みの過ごし方を人に言えた状態ではなかった。

 

俺がふと説明している教師の方を見るとちょうど説明も終わったみたいだ。

そしてその後拳を高くあげ、教師はこう叫んでいた。

 

「では!オリエンテーリングスタート!」

 

かけ声と同時に小学生たちは地図を片手に四方八方に散らばっていく。

それを見て俺たちもそれについていくような形で動き出す。

こうして俺達のボランティア活動は始まった。

 

 

× × ×

 

 

オリエンテーリング 森の中

 

教師達のかけ声で小学生たちが五、六のグループに分かれ、行動を始める。

おそらく事前に決めてあった班分けだろう。

森の中にあるチェックポイントを探し、皆ワイワイと楽しんでいた。

 

ボランティアの一行は先にゴール地点に行き、夕食の飯ごう炊飯の準備をすることを平塚先生に指示されていた。

もちろんそんなに早く着く必要もないので手分けして道中で出会った小学生たちの手伝いなどをする。小学生たちよりも少しだけ早くゴール地点に着き、準備をしさえすればよい。

効率をよくするため葉山、三浦、由比ヶ浜、雪ノ下、比企谷のグループ、そして戸部、海老名、小町、戸塚、キヨシの二つグループに別れて行動することにした。

 

しばらくして、葉山グループはある女子小学生の五人グループに出会っていた。

彼女らは他の小学生たちのグループの中でもとりわけ元気のよい、活発な子たちだった。

高校生たちを見つけると珍しいからか積極的に話しかけてくる。

 

「ねぇ!ここのチェックポイントがわからないんだけど、お兄さんたち手伝ってよ!」

 

それに葉山が対応する。

 

「じゃあここの班だけ手伝うけど、ちょっとズルいから他の班には内緒な。」

 

「「「うん!」」」

 

爽やかに微笑む葉山に小学生たちは元気よく返事をする。

共通の秘密を作るという子供の喜ぶ方法をおさえたうまいやり方だ。

 

しかし、そんな小学生グループの中で首からカメラを下げた一人の女子が少し離れて歩いていた。

綺麗な黒髪に大人びた雰囲気がある、一般的にかわいいと言われる目立つ容姿の子だ。

そんな彼女を他の四人は時折チラチラと見てクスクスと笑う。

嫌な笑みである。

 

「…はぁ」

 

雪ノ下がそれを見てため息をついた。

 

「チェックポイント、見つかった?」

 

優しく葉山は話しかける。

 

「…いいえ」

 

対して、大人びた少女はそう短く答えた。

 

「そっか、じゃあみんなで探そうか。俺は葉山隼人。君の名前は?」

 

「鶴見留美」

 

ぶっきらぼうに少女は答える。

俯いた顔にはどことなく嫌そうな表情が浮かんでいた。

それを見て雪ノ下は顔をしかめる。

 

「あまりいいやり方ではないわね。」

 

その小学生を見て雪ノ下が思い出したのはかつての自分に起こったあることだった。

『ハブり』。それは小・中学生あたりの年代で起きうる一種のイジメ行為。

何度も自分もさいなまされたその行為を目の当たりにして雪ノ下は嫌悪感を抱いた。

 

「だな、ああいうのは誰も見てないところで話しかけなきゃだめだ。」

 

同じくボッチ歴の長い比企谷も言う。

 

事実葉山が留美をグループのところに連れて行くと場に緊張感が走り、他の四人は露骨に態度に出したりはしないものの、異物感がでてしまっていた。

その空気に留美は怯えるようにビクンと小さくはねた。

 

(…あれ、どこでもあるんだよな。)

比企谷は思った。

 

一瞬微妙な空気になってしまったが、葉山は取り繕うようにその班に話しかけ、小学生たちもそれに愛想よく笑い、返事をする。

しばらく一緒に歩いていたらチェックポイントの場所についた。

 

「着いたみたいだね。」

 

葉山がそう言うと

 

「ありがとう!」

 

と小学生たちはお礼を言い、そこで彼女らとはお別れとなった。

一行はそのまま森の中を進み、ゴール地点へ到着する。

時間的にはちょうどくらいであった。

 

× × ×

 

一方の戸部たちは子供たちと積極的に絡む。

お調子者の戸部に、優しい海老名。

親しみやすい小町と戸塚はすぐに小学生たちに馴染み、それぞれ別々のグループに付き合ってやる。

微笑ましい光景だ。

彼らは更に効率を良くするため、五人をバラけさせて、一人一人が小学生たちの手伝いをする方法をとった。

しかし、夢中になりすぎてしまったため、彼らは集合時間に少し遅れそうになり、急いでゴールへと向かう。

少し遅れてしまったもののなんとか小学生たちの到着前にはたどり着いた。

 

 

× × ×

 

 

「おお、遅かったな。早速だが蒔の移動と飯ごう炊飯のデモンストレーション用の準備を頼めるか。」

 

広場にはワンボックスカーを運転し、先に来ていた平塚先生がいた。

 

その作業は皆で手分けして行われる。

男子は蒔、女子はデモンストレーションの準備といった風に再び班分けをする。

 

 

こうして自分の作業をしながらふと、雪ノ下は違和感を感じとった。

 

 

先ほどから何かが足りていない気がしているのだ。

少し考えた後、雪ノ下は一つの結論に達した。

 

 

(…そういえばキヨシくんの姿がさっきから見えないわね)

 

 

そう、藤野キヨシがどこにも見当たらない。

最初に小町の班が戻ってきた時に雪ノ下はキヨシがいないことには気づいていた。

しかし、おそらくトイレか何かだろうと思ったため特に指摘はしなかった。

最悪サボっていたからという可能性はあるが、だとしても後で痛い目にあわせればいいくらいに雪ノ下は思っていたのだ。

 

結果的に言えば、その違和感は所詮違和感でしかなかった。

蒔をとって戻ってきた男たちの中にキヨシは既にいたからである。

 

(…と、思ったけどやはり大したことじゃなかったみたいね)

 

なので、彼女は深く追求しない。

気を取り直して彼女はデモンストレーションの準備にとりかかったのだった。





新しい書き方、三人称です。
監獄学園に寄せていくとどうしても一人称に限界があるのでこんな感じになりました。
とりあえずキヨシ、比企谷が一人称、他が三人称でいこうと思っていますが、読みづらそうならまた色々と考えますが当分はこのかたちで進みます。

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