やはり俺の出所後生活は間違っている   作:ミーアキャット

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今回で遊戯部編終了です。

監獄学園は漫画なので、キヨシの一人称というものが定まっていなく、書いていてすごい悩みます。
これから話を進めていく中で見つかればいいんですけどね…。

あと、これ以前の話が改訂により、ボリュームアップしています。
元々自分の文章力の無さが原因なのですが、言葉と言葉の間の描写がとても少なく、違和感を感じたので、その点を修正した次第です。
まあ話は基本変わってませんし、別に読まなくても大丈夫です。
もっと自分の頭の中のイメージを上手く伝えられるよう精進します。



3話 思うに材木座義輝はヒーローにはなれない

 

 

「こんな部活もあったんだね。」

 

 

由比ヶ浜さんがふんふんと頷く。

確かに遊戯部なんてあまり聞かないし、八光学園にもなかった。

思うにこの学校は部活の創部に寛容なのかもしれない。かくいう奉仕部も世間では珍しい部類だろうし。

 

(…ん?)

 

俺はふと思った、果たしておっぱい部の創設は可能なのだろうかと。

活動内容としては、濡れTコンテストなどを企画したりとか、そんな感じ。

もし実現したならば夢のある活動ができそうだ。

 

 

…やっぱ駄目だな、それ創っても確実に集まるの男だけだし、そいつらと濡れTやっても地獄絵図にしかならないし。

もし実際にやるならば女子達にも参加してもらわないといけない。

というか不可欠だ。

結局のところ、それを実行させる為の強制力はたかが一部活には出せないのである。

まあ生徒会の権限とか使えれば別なのかもしれないけどさ。

 

 

「確かにそうですね。どんな活動してるのかとかちょっと気になりますよね。」

 

 

頭の中は興味1:下心9。ほぼ煩悩で構成されてる俺はそう言ってノックをしてから部室の扉を開ける。

 

 

戸を開くと中には積み上がったゲームや本。

なんか昔のエロ本とかおいてありそうな雰囲気だ。

 

 

「邪魔して悪い。ちょっと話があんだけど。」

 

 

中に進むと男子が二人そこにいた。

比企谷さんが声をかける。

 

 

二人は不審げな顔をしてこちらを向く。

上履きが同じ色なので、俺と同じ一年生みたいだ。

 

 

「…突然押しかけてごめんなさいね。私たちは奉仕部、今回は彼の依頼でここにきているの。」

 

 

雪ノ下さんがおそらく彼らの感じているだろう疑問に答える。

彼らは材木座さんとの約束をしていただけなので、俺たちの参加については何も知らないのだ。

 

 

「「あ、あれって二年生の雪ノ下先輩じゃ…」」

 

 

二人はそういって顔を見合わせる。

このリアクションはごく当然だ。

 

高一男子の中で女子のトークをしたら、間違いなく雪ノ下雪乃さんの名前はあがる。

それはまだこの学校に入って日が浅い俺の耳にも入っていたことからもよくわかる。

総評としては、何でも清楚な感じがそそるらしい。

うん、確かに彼女の外見はそんな感じだ。

会ってみた感じ、中身からはあまりその印象は抱かないけど。

 

 

驚く彼らの様子を見て、材木座さんはムンっと胸をはる。

 

 

「ふはははは!左様、我が依頼したのだよ一年坊主共!先日はよくも大口をたたいてくれたな!謝るなら今のうちだぞ!」

 

 

「…おい、前にお前が話してたのってこの人?高校生にもなってこんな痛い人いんのかよ。」

 

「…だろ?マジでありえないよな」

 

 

秦野と相模と名乗る俺の同級生たちは、材木座さんを見てくすくすと笑う。

…なんかこいつらの笑い方は見てて気分がよくないな。

 

 

「…で、こいつとのゲーム勝負なんだけどさ、悪いが格ゲーじゃなくて別のゲームにしてくんない?君格ゲー得意なんだろ?

 

ほら、見えてる勝負なんておもしろくないしさ、内容は君たちが決めていいから。駄目か?」

 

 

比企谷さんがそう話を進める。

これはあらかじめ部室で考えておいたことだ。

材木座さんの情報によると、向こうは格ゲーがものすごく強くて、このままでは勝負にならないらしい。

なので、前提としてまずは競技内容を変更する必要があるのだ。

 

 

…前に格ゲーはプレイヤーの腕前でかなり差がつくとシンゴがいっていたことを思い出す。

あいつ、中学生の時から格ゲー好きだったからなぁ。

 

他には杏子さんがめちゃくちゃ強いとかも言っていた。

…そういえばあいつ、彼女の乳首を見ちゃったって言っていたっけ。

あの時は許したけど、やっぱもう一発くらい殴っておいたほうがよかった気がしてきた。

よし、今度あったらやっぱもう一回シメるか、そうしよう。

あれからさすがにまだ会えずにいる我が旧友に思い(殺意)を馳せる。

 

 

「別に構わないですけど、ただで変えるのはなんていうか、その…」

 

 

「ま、確かにそうだわな。じゃあこうしよう。もし、俺たちが勝負に負けたら材木座に土下座させて君らに謝らせる。それでどうだ?」

 

 

「…まあ、それなら。」

 

 

「ああ。あと、競技を変えるといっても初見殺しのゲームはやめてほしい。それじゃあ変えた意味が無くなっちまう。」

 

 

「了解です。なるべく平等になるようなゲームにします。」

 

俺がそんなことを考えてる内に、無事に交渉は成功したみたいだ。

 

 

 

「…え、負けたら我土下座?ちょっ、ちょっと、は、ハチえもーん…」

 

 

よし、材木座さんの夢のため頑張るぞ!

 

 

× × ×

 

 

ダブル大富豪。

それは大富豪と呼ばれるゲームを二人用でやるというアレンジを加えたゲームだ。

 

ルールは

1.すべてのカードをプレイヤーに均等に配ること

2.ゲームは親からはじまり、プレイヤーがカードを出し、重ねていくこと

3.カードの強さは2が最強で、エース、キング、と続いていき、3が最弱であり、ジョーカーはワイルドカードであること

4.プレイヤーは場にあるカードよりも強いカードを出さねばならないこと

5.出せるカードがないときにはパスをすること

6.他のプレイヤーもパスをし、一巡まわったら、最後にカードを出したプレイヤーが次の親になること

7.以上を繰り返し、一番はやく手札がなくなったものが大富豪、次いで平民、ビリが大貧民。大貧民は次のゲームのスタート時に最も良いカードを大富豪に二枚渡し、大富豪は好きなカードを大貧民に二枚渡すこと

8.これらは千葉ローカルルールで行われ、革命、8切り、10捨て、スペ3、イレブンバックがありの都落ち、縛り、階段、ジョーカーあがり、5スキ、7渡しがなしであること

 

これをペアで1ターンごとに交代しながら行うのだ。

ペア間での相談は禁止らしい。

 

 

「…んで、まあこんな感じだ。やってくうちに馴れるだろ。」

 

 

今、大富豪未経験らしい雪ノ下さんに比企谷さんが説明をしている。

説明は終わったみたいだ。

 

 

「キヨシ殿、我と組まないか?」

 

 

「もちろんです。やってやりましょう。」

 

 

二人がそうしてる間に俺は材木座さんとガッチリと握手し、ペアが決定する。

雪ノ下さんは由比ヶ浜さんと組むみたいだ。

 

 

 

「…えっ。」

 

 

素っ頓狂な声があがる。

見ると比企谷さんがなんとも言えない表情をしていた。

それを見て嬉しそうに雪ノ下さんが言う。

 

 

「…あら、どうしたの余りヶ谷くん。どうやらこのゲームは偶数人で行うもの。全体で七人だから一人は余ってしまうわね。社会から余ってしまうわね。」

 

 

相変わらず人を罵倒している時の雪ノ下さんはキラキラした目をしている。

 

 

「なんでわざわざ言い直したの?社会からはじく必要なくない?

いや、まあ間違ってないんだけど。

 

…はぁ。ま、いーや…。俺は端っこで見守ってるから。頑張れよ。

 

か、悲しくなんてないんだからね!」

 

 

「ヒッキー…」

 

 

全員が同情の視線を彼にむける。

なんというか、プリズンでハブられていた時の気持ちを思い出して、いたたまれない気持ちになった。

 

 

「えっと…、その…。では、ゲームを始めます。」

 

 

敵である秦野たちもこの気の遣いよう。

こうして微妙な空気の中、ゲームは始まったのであった。

 

 

 

× × ×

 

 

「では、最終確認を。

勝負は5試合。最終戦の順位で勝敗を決します。よろしいですか。」

 

秦野がそう宣言して、それぞれにカードを18枚ずつ等分した。

 

 

「実質二対一なので、こちらが先手をいただきます。」

 

この勝負は俺と材木座さんのチーム、雪ノ下さんと由比ヶ浜さんのチームのタッグチームであり、どちらかが勝てば材木座さんの勝利となる手はずになっている。なのでつまりは二対一なのだ。

 

 

こうしてゲームは始まり、大きな何かが起こることもなく何巡目かまで進んでいく。

 

スタートしてから、序盤での10捨てや三枚出しのおかげか、俺たちは順調にカードを減らしている。

いいスタートを切れたと思う。

 

そしてそれぞれの残りの枚数は俺たちが残り二枚、雪ノ下さんたちが三枚になるまでの段階にきた。一方、遊戯部はまだ五枚も残している。

 

自分たちで提案したはずの遊戯部からはあまり強さを感じなかった。

 

ターンは回り、由比ヶ浜さんがダイヤの6を出し、俺はクラブの8で切る。

次であがりだ。

そしてラスト一枚を材木座さんに手渡す。

 

 

「材木座さん、お願いします。」

 

 

「うむ。」

 

 

材木座さんはキメ顔で叫ぶ。

 

 

「これで終わりだ!いでよ!黄泉から蘇るがよい!場にデス・キングを召喚ん!…チェックメイトだ。」

 

 

決まった。鮮やかな勝利だ。

場にキングが出て俺たちの一位抜けとなる。

続いて雪ノ下さんたちがあがり、チーム奉仕部は1、2フィニッシュを決めた。

 

 

しかし、

 

(…何かがおかしい。)

 

俺は裏生徒会にハメられた時のような違和感を感じていた。

理由はすぐにわかった。

 

 

「いやー、秦野くん。うっかり負けちゃったねぇ。こりゃまいったなー。」

 

 

「そうだねー、相模くん。油断してしまったよー。」

 

 

突如おどけたような口調になる彼ら。

まるで台本に書かれた演技を読みあげるかのように棒読みのセリフを続ける。

 

 

「困ったね。」

 

「困ったな。」

 

ここでじっくりと溜めをつくり、

 

「「だって、負けたら服を脱がなきゃいけないんだから」」

 

そう言うが早いか彼らは一瞬にしてシュバっと上着を脱ぎ捨てた。

速い、なかなかやるな…。

いや、そうじゃなくって。

 

「なっ!?何よそのルールっ!」

 

由比ヶ浜さんがバンっと机を叩き、抗議する。

 

そう、負けたら脱衣。それは人類の生み出した英知の結晶、エッチの結晶。

しかし残念なことに、偉大な古人たちが残したそのルールはたいていの場合成立することがない。

今回の由比ヶ浜さんのように毎度反対意見が出るのである。

というか当たり前だ。

普通に考えて男はともかく女の人にとって、このルールにメリットはない。

だからルールは提唱した段階で、基本即断られてしまう。

やりたくてもやれないというもどかしさの残るルールなのである。

 

しかし遊戯部の二人は何をバカなことを?といった表情で笑っている。

こいつらはきっと、現実というやつを知らないのだな。チェリー共め。

 

「では、二回戦と参りましょう。」

 

秦野は話は終わったとばかりにシャッフルを始め、配りはじめる。

 

「ゆきのん、もう帰ろうよ、こんなん付き合う必要ないし…」

 

 

やはり。そう、こんなルール、受けてもらえるはずがない。いつか彼女をつくって、二人でキャッキャウフフとやるか、大学でテニスサークルに入らない限り実現はしない。

 

「そう?私は構わないのだけれど。勝てばいいのだし。」

 

 

しかし昨日のバトルロイヤルの話を聞いた時のように、雪ノ下さんは答える。

 

(…え?なんで?)

 

いいの!?もしかして奉仕部ってテニスサークルだったの?(錯乱)

予想外の展開に俺は困惑する。

 

 

「えぇっ!!あ、あたしはやだよ!」

 

「問題ないわ。このゲーム、いろいろとごちゃごちゃしたルールはあるけれど、基本構造は単純よ。場に出たカードを記憶し、予測を立てればそうそう負けたりしないわ。」

 

「そ、そうかもしれないけど…。もおぉ!ゆきのーんっ!」

 

 

なんとなんと雪ノ下さんが押しに押し、由比ヶ浜さんは反論できなくなってきたのだ!

ま…まじか。…ゴクリ。

 

 

「話はもう大丈夫ですか?では、始めましょう。」

 

 

秦野はニヤリと笑い、言質をとったとばかりにさりげなくゲームを再開させる。

 

「…にしても相手にはあのエロキヨシがいるぜ。…噂だとあいつはものすごい変態らしいし、こりゃもらったな。」

 

相模は秦野になにやら耳うちをしている。

 

その時の俺はというと、

いいのか?こんな淫らなゲームをしちゃってもいいのか?

そんないけない妄想が頭いっぱいに、おっぱいに広がっていて、それどころではなかった。

 

 

 

ゲームは再開する。

 

「じゃあ、まずはカードの交換を。」

 

秦野が手札から二枚をとって、材木座さんに渡す。

向こうからおくられてきたのはジョーカーとクラブの2。

それに対して材木座さんが返したの

はハートのキングとスペードのエースだった。

 

 

「はぁ!?お前ら何やってんだよ!なんで弱いの渡さねぇんだ!」

 

今までゲームに静観を決めこんでいた比企谷さんがそれを見て、詰め寄ってくる。

 

 

「…武士の情けだ。」

 

 

「一応止めようとはしたんですが、身体が動かなくて…」

 

実際俺の頭の中には裸の女性たちでいっぱいになっていて他のことを考えている余裕もなかったのだ。

 

カードを受け取った遊戯部は悪どく笑い、雪ノ下さんたちは冷たい視線をこちらに向けていた。

 

 

× × ×

 

 

千葉県一の知将の称号を与えたい革命児こと、遊戯部の二人は二戦目からは目に見えて巧妙なプレーをし始めた。

 

リスクを恐れぬ複数枚出し、特殊効果を使った一手がバシバシ決まる。

その多彩な戦法はそう易々と先を読ませてはくれたりはしなかった。

 

俺たちも雪ノ下さんたちもそれに食い下がったものの、遊戯部が二枚、雪ノ下さんたちも二枚、俺たちは八枚カードを残すという展開になっていた。

あれ?まったく食い下がれてなかった…。

 

 

「むー…」

 

ここで由比ヶ浜さんの手が止まる。

残り枚数も少なくなり、場は勝敗を分ける場面にきているので悩んでいるのだろう。

 

「こ、これで」

 

塾考した末に出されたのはおそらく彼女らの切り札であるハートの2だ。

このターンで勝負を決めにいくことにしたらしい。

幸いジョーカーは二枚とも俺たちが持っているので、これを流せば雪ノ下さんたちが勝てるはずだった。

 

しかし、

 

「おおっと、足が滑ったぁ!」

 

材木座さんが勢いよく俺を押し倒し、一枚のカードを弾き飛ばす。

そのカードは場にはらりと落ちた。ジョーカーだ。

 

「はぁ!?ちょっと何やってんの、中二!あんたサイテー!!」

 

由比ヶ浜さんが勢いよく椅子から立ち上がりこちらを睨むが、材木座さんは口笛を吹いてごまかしていた。

 

…ちなみに材木座さんが今場に飛ばしたジョーカーは、俺が指で強く押さえていれば場に出すことを防げたことは内緒である。

 

親は俺たちに変わり、材木座さんがクラブの6を出すと、秦野が8を出して流し、続けざまに相模がダイヤのキングを出して一抜けた。

 

こうなってしまうと残ったのは俺たちか雪ノ下さん・由比ヶ浜さんペア、つまりはそのどちらかが脱がなければならない。

 

雪ノ下さんたちはキング以上のカードを持っていなかったらしく、無念そうにパスをする。

 

それからその情報を得た俺らは何度も親を繰り返し、ついに俺らのカードは残り二枚。

俺に順番が回ってきた。

 

残るカードはジョーカーとハートのキング。

雪ノ下さんたちはキング以上のカードを持っていないことが現時点で判明している。

つまり、既に勝敗は決していた。

 

「キヨシ殿…。我の、いや我たちの夢、貴様に託したぞ…。」

 

「「頼む…キヨシ…。」」

 

キ・ヨ・シ!キ・ヨ・シ!

 

頭の中にキヨシコールが聞こえた気がした。

期待の眼差しを一身に受ける。

こちらを見る三人の目はまるで生まれたての赤ちゃんのように無垢で、穢れのない目だった。

 

 

「…くっ。あの男たち、比企谷くんよりもドロドロと濁った目をしているわ。」

 

 

雪ノ下さんがなんか言っている。

…何も聞こえなかったことにしよう。

 

 

そうして俺はそんな彼らの期待を胸に、一枚のカードを場にスッと出した。

 

 

 

 

 

ハートのキング。

 

 

 

わっと遊戯部の二人からは歓声が上がる。

彼らも雪ノ下さんたちがキング以上のカードを持っていないことを知っているみたいだ。

 

 

「な、なぜだ…、キヨシ殿…。」

 

 

しかし、そんな彼らとは対照的に横にいる材木座さんはワナワナと震え、青ざめた顔をしてうつむいていた。

 

そして、俺が机に残した最後の一枚のカードを手に取り、仕方なさそうに残ったカード、

 

 

つまりジョーカーを場にだす。

 

 

「ジョーカー上がりは禁止。確かそうだったわよね?」

 

 

「「えっ…?な、なんで…?」」

 

秦野も相模も目を丸くしている。

 

 

どうにも俺は最初から腑に落ちていなかったのだ。

戦いの中で、相手の仕掛けたハニートラップに引っかかり、それによる恩恵を得られること。

男として生まれた以上、それはある意味冥利なのかもしれないだけど…

 

 

 

「見たいよ…確かに女子の裸は見たいよ…乳首が…乳首が見たい!

 

だけど…、男同士で交わした約束以上に勝るものなんてないんだ!

 

 

俺は昨日材木座さんの夢を語る姿に感動した。

そして、この人の夢の為に協力するって決めたんだ。約束したんだ。

だからこそ、俺は、自分の信念を曲げてだって、目の前にエロスがあったって、

材木座さんの夢を応援してやる!!

 

俺はこの人の夢を笑ったりは絶対しない。

どんなに周りから笑われたって、どんなにみじめでカッコ悪い思いをしたって、それでも一つの夢を諦めないで追い続けている。

誰もが簡単にできることじゃないだろう!?

例えどんなに難しいことだって、やってみなきゃ絶対に実現しないんだ。

失敗を怖がってちゃ前には進めないんだ。

だから、自分の夢も胸張って語れないやつに、材木座さんのでかい夢を笑わせたりはしない!!」

 

 

そうだよ、俺は忘れていた。

あいつらと一緒に濡れTコンテストに参加しようって約束していたことを。

だけど、それは俺の一つの選択ミスによって不意にしてしまった。

だからこそ、材木座さんには俺らみたいな思いはして欲しくないんだ。

だからこそ、俺は彼に感謝しているんだ。

あのままくすぶってしまいそうになっていた俺の目を覚まさせてくれたことを…。

材木座さん、あんたの夢、叶うといいな…。

 

 

そう一人うんうんと頷きながら悦に入る。

そんな俺に向かって、みんなはそれぞれ言ったのだ。

 

 

「…まったく、あなたは本当にバカね。言っておくけど彼を甘やかしたって何もいいことは無いのだから。…でも、あなたがそうすると決めたなら、それでいいと思うわ。最後までやりきりなさい。」

 

「…うん、そーだよ。自分自身を出すって、ホント怖いもんね。そうやって見てくれる人がいるって、なんかいいな…。」

 

「ばーか、お前が一番流されそうになってたじゃねぇか。めでたい頭しやがって、なんなの?年中ハロウィンなの?…でも、まあいいんじゃねぇの。材木座は確かにクズだが、そう言ってくれるやつがいると少しは安心するわ。本当に少しだけだけどな。」

 

「「…。」」

 

「うぅっ…。キヨシ殿…。我の夢をそこまで…。」

 

呆れた顔をしながらもどこか微笑んでいる先輩たちと感動に泣く材木座さん。

教室に温かい空気が流れる。

 

 

 

 

「……ん?いや、ちょっと待てキヨシ。

 

すげー感動的な空気になってるとこ悪いが、お前はハニートラップに引っかからなかっただけであって、最終的に勝負には負けてねぇか?」

 

 

しかしそんな空気は一瞬にして引き戻される。

 

え?

 

 

「「「「「…………………………。」」」」」

 

 

 

 

…今の比企谷さんの一言で、なんていうか台無しだった。

やめてくださいよ、雪ノ下さんなんか一転してすごい冷たい目つきでこっち睨んできてるじゃないですか。

初めてキヨシって呼んでもらえたけど、なんかそれどころではなくなってしまった。

せっかく格好よく決めたのに…

 

 

 

× × ×

 

 

まあなんにせよ、ゲームはあれから3回戦、4回戦と続いていった。

そしてかの俺らといえば、

 

「キヨシ殿。」

 

「材木座さん。」

 

 

「負ける気がしないな(しませんね)!!」

 

それはそれはもう息がぴったりとシンクロし、完全に無双していた。

 

そしてラストの5回戦まで、他を寄せ付けず、圧勝したのだった。

 

 

× × ×

 

 

あれから服を脱がされ続け、哀れにもパンツ一枚になってしまった遊戯部の二人。

しかし、彼らの表情はなんとなく晴れやかだった。

 

「あの、材木座先輩。笑ったりしてすいませんでした。」

 

「夢、叶うといいですね。」

 

相模と秦野は申し訳なさそうにそっと頭を下げる。

ちゃんと謝れるやつはいい奴だと思う。

 

「うむ。…ふははは!わかればいいのだ!なぁに後数年後にはこの剣豪将軍が企画した素晴らしいゲームが世に出ているはずだ!」

 

それに対して、材木座さんは豪快に笑う。

 

「はい、剣豪さんのゲーム、楽しみにしてます。」

 

「まあ、権利は会社のものなので、正確には剣豪さんだけのゲームではないけどね。」

 

「え?」

 

しかしそこで材木座さんの笑いは止まった。

 

「む、む?どういう意味だ。」

 

「いや、会社で作るものは基本会社の著作物になるんですよ。」

 

「あれ?もしかして知りませんでした?」

 

「い、いや、えっと…その…。」

 

「契約にもよりますが、最近はライターだと買い切りが普通みたいです。」

 

「買い切りだと売り上げとは関係なく最初の買い取り分しかもらえませんねぇ。」

 

「ま、マジでぇ!?」

 

それを聞いて材木座さんは床に崩れ落ちた。

 

「じゃ、じゃあ、やめようかな…。うん、やめるわ。」

 

「え?」

 

突然の材木座さんの夢を諦める宣言に俺は呆然とした。

いや、嘘だろ?だとしたらさっきまでのは本当になんだったんだ?

乳首を諦めてまでの俺の決断は一体なんだったんだ?

 

「…だから、いっただろうが。こいつを信用する意味がないって。」

 

「えぇ、そうね。キヨシくん。これで少しは現実の厳しさを知れたでしょう。…言っておくけれど、この件を手伝ったのは借りだから覚えておいて頂戴。」

 

「あはは…キヨキヨ、どんまい。」

 

比企谷さんが俺の肩にポンと手を置く。

俺は深い絶望の中に叩き落とされた気分だった。

さっきまであった高揚感は消え、残ったのは材木座義輝に対する怒りだけだった。

あの野郎。ガクトとどことなく似ていたから、気にしてやっていたのに。

 

一つ良かった点をあげるなら、かわいい女子の先輩に下の名前で呼んでもらえたところだろうか。

 

 

なんにせよ、人が信じられなくなりそうなこの一幕であった。くそう、あとちょっとで乳首が見れたのに俺は…!

 

 

「…だからいつも言ってるじゃん、世の中、嘘と欺瞞ばかりだってな。

やっぱボッチサイコーだわ。」

 

…この学校に入って、ろくなことが学べていない気がする。

どうしてこうなった。

 


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