……全国一千万のフールーダファンの皆様、申し訳ありません。
でもちょっと考えてみてください。
まず原作のフールーダ×アインズ様の邂逅シーンを思い浮かべてください。
いや、原作だと未遂だな、某レロレロSSの方がいいのか。
次にそのシーンのアインズ様をナーベちゃんと交換してみてください。
……おわかりいただけただろうか( ´∀`)
前回のあらすじ:
フールーダ「常識は投げ捨てるもの……ユクゾッ」
ナーベラルが案内された部屋に入ると、中で待っていた老人が出迎えるために立ち上がり――そのまま停止した。
全体的に白い老人であった。腰まで届く豊かな髭も、衰えを知らぬ髪も白い。身につけた服まで白いローブである。
「……?」
ナーベラルは眉を顰める。突然静止した老人の様子がおかしいというのもあるが、その老人は他にも不審なところがあった。その顔がよくわからないのだ。ぱっと見に異常はないのだが、ひとたび目線を切ればその顔が思い出せないようになっている。
(……認識阻害の幻術?しかし何故?)
一般人は違和感すら覚えまい。ナーベラルはその老人がどうやら顔を覚えられたくない事情があるらしいと推察した。
それにつけても……先程より彫像の如く静止して動かぬ老人の様子は異様である。まさかこのタイミングで心臓発作でも起こしたのではあるまいか。ナーベラルが脈でも取ってみるべきかと考えたその刹那、老人が身じろぎした。とりあえず生きてはいるらしい。
突如、その老人の頬を涙が流れ落ち、ナーベラルはぎょっとした。なんだこの情緒不安定な生物は、病気か何かなのか。そのように疑い、目を凝らして老人の様子を窺う。
「――ようやく、まことの
「……はい?」
ようやく口を開いたと思ったら、名乗るでもなく口にしたのはそんな言葉。老人は困惑するナーベラルに向けて、膝をついて拝礼した。
「無頼の月日――今は悔ゆるのみ。……
「……」
あまりの展開に、口を半開きにして硬直するナーベラル。老人は膝をついたままじりじりと彼女の膝元ににじりよると、下から彼女の顔を見上げていった。
「……平たく言うと、弟子にしてくだされ師よ」
「えっ……やだ」
反射的に断れたのは上出来にして、彼女にしてみれば当然の反応であったが、老人は酷くショックを受けたようだった。
「そ、そんな!何故です師よ!」
「いや、いきなりそんなこと言われたら断るでしょ普通!というか、断ってるのに師呼ばわりするな!」
思わず突っ込んだナーベラルの足下に、老人は縋り付いた。
「そこをなんとか、お願いします!このフールーダ・パラダイン、魔導の深淵を覗かんと研鑽すること二百余年、貴方様程の
くわっと見開かれた目は充血し、異様な表情で迫りくるその老人はフールーダと名乗った。鬼気迫る老人の様子にドン引きしたナーベラルは思わず仰け反ったが、彼女の足は今やフールーダにがっちりとホールドされており、距離を取ることすら叶わない。
「お願いします!師よ、いと深き御方よ!」
了承の返事が貰えないことに業を煮やしてか、フールーダは己が縋り付いたナーベラルの足にキスをした。そのままペロペロと彼女の靴を、足を舐め回し始める。
「お願いします!何卒!」
「~~!!」
這いつくばって靴を舐めると言えば聞こえは良い(?)のだが。
血走った目をしたジジイがうら若い女性の足先を舐め回すその様は、まごうかたなき変態であった。ナーベラルの全身が総毛立つ。
「や……やめなさい気色悪い!!」
当然の台詞である。リアル世界なら何処に出しても恥ずかしくない、いや何処に出すのも恥ずかしい事案そのものである。それも女性側の過剰反応ではない、本物の変態行為だ。ナーベラルはたまらず足を振ってフールーダを振り払い、仰け反ったところに思い切り平手打ちをぶちかます。だが主観的には思い切りのつもりであったその平手、彼女の本来の膂力ならば、か弱い老人の頸骨をぺきょりとへし折ることも容易い筈だったのだが。あまりの気持ち悪さに身をよじりながら不自然な体勢で繰り出したそのビンタは、フールーダの顔面にヒットしたものの老人の予想以上の首の力に止められた。
「スゴクよい!よいビンタですな!!手首のスナップといい、腰の入れ方といい……こういう元気なビンタを繰り出せるなら、さぞかし魔法も素晴らしいでしょうな!」
「ひっ……」
ビンタと魔法になんの関係があるというのか。フールーダは吹き出る鼻血を拭こうともせず、ニヤリと笑うとそう言ってペロリとナーベラルの平手を舐め回した。手の平に伝わるそのおぞましい感触に、彼女は嫌悪と恐怖を感じてその喉からかすれた悲鳴が漏れた。ナーベラル・ガンマがこの世界に来て以来初めて、現住生物に恐怖を覚えた瞬間である。
「きっ……消え失せろぉおおお!!
不気味な笑い声を上げながらじりじりと躙り寄る老人のその姿に。恐怖のあまり、ナーベラルは絶叫と共に場所も時も弁えず、
「……やったか!?」
ゆらゆら蠢く老人をそのあぎとにくわえ込み、轟音と共に炸裂する二頭の雷の龍。たまらず吹っ飛んだフールーダの姿に、気を取り直して喜色を浮かべるナーベラル、思わず迂闊な台詞を口走った。
しかし、勿論フラグは回収されるものである。何事もなかったように、それこそ傷一つ無く。バネ仕掛けの人形のように不自然なまでに勢いよく立ち上がったフールーダを見て、ナーベラルは青ざめた。
「フフッ……フハハハハ、素晴らしいですぞ師よぉ!実践授業というわけですな!!まずは小手調べに第五位階の魔法、確かに見せて頂きました!!
次こそはその更に上を、是非見せてくだされ!ハリー!ハリーハリー!ハリーハリーハリー!」
ケラケラと高笑いするフールーダの姿から、一歩、二歩と後ずさるナーベラル。その背に部屋の扉が当たったのを感じると、後ろ手にドアノブをまさぐって捻りを加え、ドアを押し開けてよろめくように廊下に飛び出した。何事かを叫ぶフールーダの声に背を向けて、轟音に集まってきた衆目に目もくれず。手っ取り早く廊下の窓から外に飛び出し、身も世もなく逃げ出した。
◆
ナーベラルが守衛の番人を押しのける勢いで宿屋の扉を勢いよく開くと、中にいた客の視線が彼女に集中した。
「お、おいどうしたんだガンマ――」
『蒼の薔薇』の席にはクライムという小僧の姿は消え、忍者姉妹が増えて差し引き四人になっていたが、そんなことにはいっさい構う余裕もなく。ただならぬ様子の彼女に不審そうな声をかけたガガーランの台詞も完全に無視をして宿屋の受付に突進し、部屋の鍵を受け取ると自室に駆け込んだ。
震える指で扉を閉め錠を下ろし、焦りのあまりぽろぽろと何度も取り落としながら荷物をまとめる。同時に
コンコン。
荒い息をつきながら震える手で鞄の口を閉じると、ノックの音がした。その音を耳にしたナーベラル、びくりと身を震わせるやずざざ、とドアの反対側に後ずさって窓際に背中を張り付ける。
「おい、ガンマ、私だ。イビルアイだ。ただ事ではない様子だったが、何があったのだ?」
聞き覚えのあるくぐもった女声に、ナーベラルは少しだけ落ち着きを取り戻した。ずるずると壁際にへたり込んで腰を落とすと、震える声を絞り出す。
「――そこにいるのはあなただけ?」
「うん?無論ガガーランとティア、ティナも居るぞ。とにかくお前のことが心配で、皆で様子を見に来たんだ。開けてくれないか?」
「……他に変な奴は居ないかしら?」
「変な奴?……なんのことかはわからんが、ここに居るのは私たち四人だけだ。できれば入れてくれると嬉しいのだが」
とりあえずは、彼女たちと一緒に居た方が安全かも知れない。そう考えたナーベラルがドアを開けようと立ち上がろうとしたその時。彼女は背後から吹き付ける異様な気配に気づいた。みしみしと軋みを上げる窓ガラスのその音に気づいてしまった。
ああ、なんということだろう、窓に!窓に!
窓に老人が張り付いていた。
「はぁ~、はぁ~。見ぃ~つ~け~た~ぁああ~。ククク……逃がしませんぞぉ、師よぉおおおおお」
「ひぃっ」
ナーベラルの喉からかすれた悲鳴が漏れる。立ち上がることも忘れ、今度は壁際から遠ざかろうとわたわたと後ずさる。
がしゃん。
部屋の中から聞こえてきたガラスの破砕音に、外に立っていた蒼の薔薇の四人は緊張した顔を見合わせる。何かが起こったのは明らかであった、もはや躊躇する猶予はない。互いにアイコンタクトを交わすと、ガガーランが力任せに部屋の扉をぶち破った。
そしてガガーランを先頭に、部屋の中になだれ込んだ一同が目にした光景は。
尻餅をついてへたりこむナーベラルの、足下に覆い被さってその足に抱きつく、血走った目で荒い息をつく老人の姿であった。
「(溢れんばかりの強さを現す)長さといい、(身体の隅々まで行き渡る鋭さを備えた)細さといい、(練り込まれたオーラの引き)締まり具合……最高じゃぁ……」
そう言うと、恍惚とした笑みを浮かべてナーベラルのふくらはぎにほおずりをする。彼女の全身を怖気が貫き、二の腕と背中に鳥肌が立った。
「き……きゃあああああああああああぁ――――――――――――――――!!」
後日、その時の様子を思い返した忍者娘は言ったものである。
「あの声と表情だけでご飯三杯は行ける。あんなに可愛く鳴けると知っていればもっと真面目にアプローチしておくべきだったかもしれない」
一応言っておくと、フールーダの言葉は全て、彼のタレントによって見えている、ナーベラルが放つ魔力のオーラの様子を論評して言った台詞である。同じタレントを持つ者がこの場に居れば、あるいはそのことに気がついたかもしれない。だが現実としてそのようなタレント持ちはこの場に居らず、興奮の極地に達しながら若い女性の足に抱きついて頬ずりを繰り返す目をぎらつかせた老人のその姿は。
(へ……変態だ――――――――――!?)
としか言いようがなかった。
「たっ……助けてモモンガ様ぁああああああ―――――――!?」
悲鳴を上げながら、詠唱する余裕もない為無詠唱でぶちかまされた第七位階の攻撃魔法を目にし、イビルアイが仮面の下で大きく口を開けて固まった。
(え、あれ?今のって……)
詠唱が聞こえなかったので今ひとつ確信は持てないのだが、
イビルアイがそのように惑乱する間にも、部屋の内装を木っ端微塵に粉砕した攻撃魔法に巻き込まれながら、何事もなかったかのように起き上がってくるフールーダを目にし、彼女の思考は驚愕で停止した。
「フフ、フハハ、素晴らしい!素晴らしいですぞ師よ!その調子でもっとお願い致しますぞ!!」
こんなこともあろうかと……一体どのような展開を予想していたのやら定かではないが、フールーダは入念な準備の一環として
「
瞬間、彼女の姿が部屋から掻き消える。フールーダは目を見開くと、きょろきょろと左右を見回しながら一声叫んだ。
「ま、待ってくだされ!もっと……もっと見せてくだされ!」
その叫びに答える者は、当然ながら居なかった。フールーダはしばらくきょろきょろと名残惜しげに周囲を見回していたが、部屋の隅で完全に固まった蒼の薔薇の四人を完全に無視して呟いた。
「フフフ……第六位階の転移魔法とは、まことに良いものを見せて頂き申した。待っていてくだされ、必ずやお探し申し上げますぞ師よ……フハ、フハハハハハハ!」
呟きは高笑いへと変わり、その身体がふわりと浮き上がるとガラスが粉々に砕けた窓枠をくぐって外へと飛び立っていく。不気味な哄笑を撒き散らしながら空の彼方へ消える老人の影を呆然として見送った蒼の薔薇の一同は、沈黙と共にその場に立ち尽くした。
「……なんだったんだ、ありゃあ」
ガガーランがうめき声を上げると、イビルアイがびくんと身じろぎする。
「いや、馬鹿な、そんなまさか。でも……」
ぶつぶつと呟くその様子を不審に思って、ティナが彼女の仮面を覗き込む。
「イビルアイ。心当たりが?」
「いや、知っているという訳じゃないんだが……もしかして、あの変態……」
帝国の、フールーダ・パラダインじゃないのか?
そのように言ったイビルアイの台詞を、一同は一笑に付した。
まさか、そんな馬鹿な話があるはずがない。あってたまるか。彼女たちの気持ちをまとめるとそのようになる。
王都の空を高笑いを上げながら飛び回る不気味な老人。その姿は幽霊さながらの白一色で、なぜかその人相は誰にも分からない――その日、世間を騒がせた「王都の怪人」の名前は、数日の間王都の住民の噂における主役を張ることとなる。
第十位階超:我が神ペロペロォ……
ならば第八位階ならこれくらいかな、という線を追求したつもり←
……無敵のアインズ様でも裸足で逃げ出すフールーダが、ナーベちゃんの手に負えるイメージが全く浮かばなかった( ´∀`)
もうネタ方向に突っ走るしかないと開き直った結果、混ぜすぎ危険で読者に優しくない仕様のフールーダがえらいことに。
1/28 誤字報告適用。感謝!