タイトル通り、こっちが本当のプロローグなんですが。
考えすぎかもですが、これを第1話にもってきた場合、自分が読者ならブラバしてそれっきりかなと疑心暗鬼になったので、もう少し
ひらたく言うと鬱回注意。
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ナーベラル・ガンマが瞼を開くと、鬱蒼と茂った木々のシルエットから僅かに覗く隙間に差し込む星明かりがその目に映った。
(また魔力切れ……)
積もった落ち葉の上に仰向けに倒れ込んでいたナーベラルは、億劫そうに体を起こす。MP枯渇による気絶は決して心地の良い眠りではない。覚醒するや再び気絶するのを何度も繰り返しているとあれば尚更だ。頭の奥に二日酔いの如き鈍痛を覚える。気怠さと気持ち悪さを振り払ってよろよろと立ち上がる。
気絶から回復した時点で、MPはある程度戻っている。ナーベラルは無意識に再度
「あ……泥……」
己が身につけているメイド服が、屋外で何度も寝転がったことで泥だらけになっており、草だの枯れ葉だのがこびりついている。
至高の御方がデザインし、創造されたメイド服は、屋内で過ごすためのもので、このような場所で風雨に晒して汚すことを良しとするはずがない。ナーベラルは野外活動を想定した旅装に装備をスイッチした。たちまちその身にまとったメイド服は消え失せ、代わりに簡素な旅人用の服とマントに切り替わる。頭のホワイトブリムも飾り紐に変わっている。
「モモンガ様ぁ……何処にいらっしゃるのです……?」
これで至高の御方にいただいたメイド服を汚さずに済む、と思ったのも束の間、そのこと自体が己の仕える偉大なる主の連想へと繋がりその口からは呻きが漏れた。
ナザリック地下大墳墓で過ごした日々が夢の中のように霞みがかっている。思い出せる最後の記憶もいつもと特に変わりはなかった筈だ。いや、違いはあったのか。偉大なる至高の御方はいつもとやや異なる面持ちで自分たちを玉座の間に控えさせた。そのまま待機を命じられたところまでは記憶にあるが、その先がはっきりしない。
なぜ自分はこのような何処とも知れぬ深い森の中に独りきりなのだ?
「まさか……捨て……うぐっ!!」
全てを捧げた主に不要品として廃棄された。可能性として思い浮かべるだけでも、その想像の効果は激烈であった。ナーベラルは頭の芯に凍えるような恐怖、そして胸の奥にむかつきを覚え、その場にうずくまって胃液を吐いた。涙と唾液がこぼれ落ちる。胃液すら尽きてえずきしかでなくなっても、その体勢のまま荒い息を繰り返す。
(これは……考えては駄目だ……
何もそうだと決まったわけではない。胸の内に巣くった恐ろしい想像を振り払う。正確には振り払おうとしたが一度浮かんだその考えは心の奥底に確かな根を張り、目をそらすのがやっとであった。
その恐怖から逃れるべく思考を巡らせる。先程から
(考えられるのは……連絡の取れる範囲に相手が居ない……?)
(つまり……独りきり?本当に?)
ナーベラルは僅かな星明かりを透かすように左右を見回した。その喉からはかすれた呼吸音が漏れ、あえぐように口は開かれている。
「う……うわあああああああああああああああああああああああああああああ!!」
堪らず叫んだ。叫びながら両手を振り回し、木を、地面を、岩を、手の届いたものを手当たり次第に殴りつける。額を木の幹に叩きつける。鈍い痛みが走り血が滲むまで何度でも繰り返す。腕が上がらなくなるまで滅茶苦茶に振り回すと、沈黙が降りて荒い呼吸音のみがその場に響いた。
何かを求めるかのように手を前にさしのべると、よろめくように数歩踏み出す。正確には出そうとしたが、もはや腕は上がらず体は前方につんのめり、そのまま地面にへたり込んだ。その体ががくがくと震えだし、両腕を己の肩に回して自身を抱きしめる。
「モモンガ様……セバス様……ユリ姉様……お願い……誰か……返事をして……」
その頬を涙が伝い、胸元にこぼれ落ちた。その喉から嗚咽が漏れる。
◆
どれほどの時間が経過したであろうか、ナーベラルはいつの間にか伏せられていた顔を上げた。泣き腫らした目は赤く充血し、その下には隈ができているが、それでもなおその美しさは損なわれていない。
ゆらりと立ち上がる。幽鬼の如きその様は、美人であるからこそ一層恐怖をかきたてるものがある。夜道に独りで出会ったならば、大の男でも悲鳴を上げて逃げ出すだろう。
「帰らないと……」
その唇から呟きが漏れる。ナザリック地下大墳墓に、忠誠を捧げた至高の御方の下に帰らなくてはならない。主も、上司も、仲間も、みんなが心配しているだろう。きっとそうだ。そうでない可能性なんて知らない。
「ご心配をおかけして申し訳ありません……すぐに帰りますのでお許しください……」
ナザリック地下大墳墓に帰還する。その為に必要な手順を考える。現在位置の確認。地図の入手。目的地の確認。情報の取得。それらの手順に必要なことは、まずここが何処か理解して居るであろう原住生物を探すことだ。
この際えり好みはしていられない。エルフでも。ゴブリンでも。リザードマンでも。……人間でも。意思疎通のできる知性体を探して、まずは情報を得ることだ。
ナーベラルはふらふらとよろめきながら歩き出した。木立を分け入りその姿が森の奥へと消える。
ナーベラル・ガンマがカルネ村に現れる二日前の出来事であった。
辛気くさい話で恐縮ですが、NPCが一人で放り出されたらまあこんなものかなと。あとこれからの立ち居振る舞いが原作の人物造形と乖離して見えてきた場合への予防線。
ナーベちゃんが人間を
あと