魔法聖闘士セイント☆マギカ   作:天秤座の暗黒聖闘士

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 今回投稿したしました第五話なのですが、バックアップのデータがまとめて消えておりましたので位置から書き直す羽目になってしまいました…。私って、ホント馬鹿…。
 ですので理想郷にありましたものとは文章構成が違うところが幾つかあると思いますが、どうかご了承ください。
 今回は例の第三話の話です。そして新しい黄金聖闘士が登場いたします。


第5話 死の運命を砕き、絶望を消し去る孤高の毒薔薇

 あれから地道な魔女探索を行ったものの、結局探索をしたものの、魔女は発見することが出来なかった。

 それは当然だ。この魔法少女体験コースで出現するはずの『薔薇園の魔女』は既にシジフォスの手によって倒されている。ならば当然出会うはずも無い。

 その為この日は街を巡っただけで解散となった。まどかとさやかの二名は何処か物足りないと言いたげな表情を浮かべていたが、シジフォス自身は何事も無くてよかったと内心ホッとしていた。それに関してはマミも同じなようだった。

 

 「さてと、今日は何も起きなかったし、ここで解散としましょうか」

 

 「そうだな、もう暗くなる。3人とも早く帰ったほうがいいだろう」

 

 「あーあ、何だか街中駆けずり回っただけで一日終わった気がするよ~」

 

 「そうだね~。でも魔女に鉢合わせなくて良かったような・・・」

 

 まどかとさやかは口々に何か言いながら家に帰っていった。それを確認したマミはシジフォスに軽く会釈した。

 

 「すみません、なんだかつき合わせてしまって」

 

 「構わないよ。俺が望んでしたことだ。また何かあったら連絡してくれ。これは俺の携帯番号だ」

 

 そう言ってシジフォスは胸ポケットからメモ用紙を取り出してマミに渡した。マミはそれを礼を言いながら受け取ると、そのまま自分の家に戻っていった。

 シジフォスはマミの後姿を見送ると、背後の路地に視線を向ける。

 

 「…で、何時まで隠れているんだ?マニゴルド」

 

 「んだよ、ばれてたのかよ」

 

 シジフォスの声に応じて、路地の物陰からマニゴルドが苦笑いしながら出てきた。それを見てシジフォスも笑みを浮かべる。

 

 「まああの三人にはばれなかったようだが、一体何の用だ?まだキュゥべえをつけ狙っているのか?」

 

 「ちげーよ、ほむらの奴がまどかが心配だとか何とかほざいてやがったから俺が見に来てやったのよ。本当まどかに関しちゃ過保護すぎっぜ、あいつ…」

 

 ぶつくさと文句を言うマニゴルドに、シジフォスも苦笑する。

 

 「まあ彼女はまどかを救うために何度も時間を繰り返しているからな。過保護も当然だろう。…それよりもこれから一緒に食事でもしないか?奢りはしないがな」

 

 「…ま、同僚のよしみってことで良いかね。んじゃあそこらのラーメン屋でラーメンでも食うか?」

 

 「まあ、俺は何処でも構わないぞ?」

 

 「そうかよ、んなら行くか」

 

 そしてマニゴルドとシジフォスはその場から歩き去っていった。

 

 

 さやかSIDE

 

 「うわあ、いつもありがとうさやか。本当に君はレアなCDを見つける天才だね」

 

 「そ、そうなの?えへへ…」

 

 さやかの持ってきたCDを受け取った恭介の嬉しそうな表情にさやかは思わず顔を綻ばせる。

 彼女はたびたび恭介が好きなCDを買って、お見舞いの時にプレゼントしているのだ。

 恭介はさやかがCDを持ってくると心から嬉しそうな表情を見せてくれる。それがさやかにとっても嬉しいのだ。

 

 「この人の演奏ってとても凄いんだ。さやかも一緒に聞いてみない?」

 

 「え!?ええっ!?」

 

 突然の恭介の提案にさやかは顔を真っ赤にして焦る。それに構わず恭介はケースからCDを取り出してCDプレーヤーに入れると、片方のイヤホンを自分の片耳につけ、もう片方をさやかに差し出す。

 

 「本当はスピーカーで聞きたいんだけど、此処は病院だから…」

 

 「あ…、う、うん…」

 

 さやかは顔を真っ赤にしながら片方のイヤホンを受け取って自分の耳につける。それを確認した恭介はCDプレーヤーのスイッチを入れる。

 さやかの右耳にはめたイヤホンから音楽が流れてくる。しかし、さやかはそんなことは気にならなかった。

 恭介と、大好きな人と一緒に音楽を聞ける。それがさやかにとって一番幸せなことであった。

 さやかはゆっくり目を閉じて、今聞いている曲を演奏する恭介の姿を思い浮かべた。

 

 一方の恭介はさやかと違って暗鬱な気分であった。

 正直今はクラシック等聴きたくは無い。

 以前は大好きだった曲も、もう弾くことの出来ない今では聴いても自身が惨めになるばかりだった。

 CDを聴いていて思い浮かぶのは、かつてステージで多くの人達に演奏を披露していた日々。

 

 今の自分にはもはや望めないモノ…。

 

 「うっ…」

 

 恭介の瞳から涙がこぼれる。

 あまりの自分の惨めさが、悔しくて、悲しくて…。

 声を出すことも無く、たださめざめと涙を流すしかなかった。

 そんな彼を、さやかは辛そうな表情で見つめていた。

 

 

 

 「ねえ、マミさん。願いって、自分の為でなくちゃいけないのかな…」

 

 その日の魔法少女研修の折、さやかは使い魔を全滅させたマミに対してそう問い掛けた。

 マミはさやかの質問を聞いてさやかの方を振り向いた。まどかとシジフォスもさやかに視線を向けている。

 

 「どういうことかしら?」

 

 「例えばだけど、アタシよりずっと困っている奴が居るとする!そいつを助けることを願いにしちゃいけないのかな~って」

 

 「さやかちゃん、それって上条君のこと?」

 

 「た、例えばだっていってるだろ例えばって!!」

 

 まどかの問い掛けに顔を赤くしてうろたえているものの、シジフォスには間違いなく彼女の言っていることは上条恭介に関することだろうと予想していた。

 彼女はマミの死の後、上条恭介の腕を治すことを対価に魔法少女として契約する。

 最初はマミの跡を継ぎ正義の味方となろうとするも、ソウルジェムの真実を知り、想い人を奪われ、最後には理想も失い絶望し、魔女となってしまう。

 そして、まどかによって改変された世界でも、魔法少女となった彼女の死は避けられない。

 

 (できれば、彼女には契約して欲しくはない…)

 

 シジフォスは内心そう思っていた。

 彼女には今の元気な姿が一番似合っている。できれば想い人と結ばれて幸せになってもらいたいというのがシジフォスの個人的な願いであった。

 

 「前例は無いわけじゃないよ?」

 

 「でも、あまりお勧めは出来ないわ。一度しか願えないし取消しも聞かないから、願う内容はよく考えないと」

 

 キュゥべエの返答の後にマミが少し厳しい表情でさやかに釘を刺す。

 さやかが若干落ち込んだ表情になるのを見たシジフォスは、マミの後に続けるように口を開く。

 

 「そもそも俺は君達が魔法少女になることには反対なのだが、まあなると仮定した場合の話だが、さやか、君はその困っている人間を救いたい理由は一体何なんだ?」

 

 「え…?」

 

 シジフォスの質問に、さやかは何が何だか分からないと言いたげな表情になる。その表情を見ながらシジフォスは言葉を続ける。

 

 「君はその人が困っているから救いたいのか、それともその人を救った恩人になり、見返りが欲しいから救いたいのか、あるいはもっと別の理由があるのか…。それをはっきりさせておいた方がいい。さもないと、君にとって後悔する結果になる」

 

 「シジフォスさん…」

 

 シジフォスの言葉に、さやかとまどかは言葉が出なかった。一方マミとキュゥべえは黙ってこちらを見守っている。

 シジフォスは続ける。

 

 「前にも言ったと思うが、魔法少女になったらもう後戻りはできない。君の家族や友達とも今までどおりの関係ではいられないし、君が救いたいと願っている人物とも魔法少女になる前と同様の付き合いが出来る保証は無い。

 下手をすれば君にとって望ましくない、最悪の結末が待っている可能性もある。契約するしないは抜きにしても、その事だけはよく覚えておくんだ」

 

 シジフォスはさやかにそう告げると、そのままその場から去っていった。

 シジフォスの言葉に、さやかは何一つ反論することが出来なかった。

 そんなさやかを見てマミは溜息を吐きながら口を開いた。

 

 「シジフォスさんの言葉は厳しいけれど、正論だと思うわ。

 魔法少女になる契約はやり直しがきかない。一度なってしまったら死ぬまで魔女と戦い続ける運命を背負うことになる。

 たとえ願いを叶えるためになるとしても、たった一度きりの願いなんだから、後悔のない選択をしてね」

 

 「そうですね・・・、アタシの考えが甘かったんですね・・・」

 

 マミの言葉に、さやかは寂しげな笑みを浮かべて頷いた。

 

 

 シジフォスSIDE

 

 「…むう、やはりもう少し言い方を柔らかくするべきだったか…?」

 

 「まだンな事言ってんのかよシジフォス。いい加減にしやがれ、飯が不味くなる」

 

 まどか達と別れたシジフォスは、途中でマニゴルドとほむらの二人組に出会い、折角なので一緒に屋台でラーメンを食べていた。シジフォスはラーメンを食べながらさやかに対する発言を反省しており、マニゴルドはそれを呆れながら眺め、ほむらは我関せずとばかりにラーメンを啜り続けている。

 

 「大体よお、お前が釘刺しておかなかったら間違いなくあのガキ契約するぜ?ああいうガキにゃガツンとキツイの言ってやりゃあいいんだっての」

 

 「それで済む問題ではないだろうが…、はあ…」

 

 マニゴルドの言葉に、シジフォスは溜息を吐きながらラーメンを啜る。

 マニゴルドはそんな年長の同僚を横目に見て、実に面倒くさそうな表情をする。

 

 「ったく、アルバフィカといいアンタといい、ちったあ頭を柔らかくして考えろっての…。おうほむら、お前からもコイツになんとか言ってくれや」

 

 「私には関係ないわ。食事くらいゆっくりさせて」

 

 「ったく、この薄情女が…。てめえ本気でまどか以外関心ねえんだなオイ…」

 

 マニゴルドの文句を無視してほむらはラーメンに舌鼓を打つ。そんな二人を眺めながら、シジフォスはポツリと呟いた。

 

 「…仲がいいな二人共」

 

 「「いや、どこが」」

 

 シジフォスの言葉にマニゴルドとほむらは同時につっこんだ。

 

 

 まどかSIDE

 

 「はあ…」

 

 「あ!さやかちゃん、上条君に会えなかったの?」

 

 「うん…、病室にいなくてさ。折角来てやったのに失礼しちゃうよね…」

 

 病院の玄関で待っていたまどかと話をするさやかの表情は何処か寂しそうであった。

 その日の放課後、まどかはさやかと一緒に見滝原の病院に来ていた。

 ここにはさやかの幼馴染の上条恭介が入院しており、さやかはそのお見舞いに来たのだ。

 まどかもさやかに一緒に来ないかと誘われてついてきたのだ。

 結局恭介には会えなかった様子だが、まどかと話しているうちに気が晴れていったのか、さやかの表情も少しずつ明るくなっていく。

 もう病院にこれ以上長居する必要も無いため、さっさと帰ろうと二人は踵を返そうとした。

 

 「あれ?ねえさやかちゃん、あそこの壁で何か光ってないかな?」

 

 「ん?あ、本当だ。何だあれ?」

 

 まどかの言葉にさやかが視線を向けると、確かに壁に何か小さいものが光っている。形状は距離があるのでよく分からないが…。

 

 「グリーフシードだ!孵化しかかっている!!」

 

 「ええ!?そ、そんな!!」

 

 「は、早くマミさんかシジフォスさんに連絡しないと!!」

 

 キュゥべえの言葉にまどかとさやかは驚いて慌てる。

 

 グリーフシード、魔女の卵。

 魔女が所持しておりソウルジェムの穢れを吸収することでソウルジェムを浄化することが出来る。

 しかし、穢れを溜めこみ過ぎたグリーフシードは最終的に魔女を生み出してしまう。

 目の前にあるグリーフシードはもう孵化寸前だという。しかも此処は病院、もし魔女が誕生したらどれほどの人間が犠牲になるか分からない。

 

 「まどか!!マミさんかシジフォスさんのアドレスか電話番号知ってる!?」

 

 さやかの質問にまどかは首を左右に振る。さやかはそれを見て頭を押さえる。

 

 「マズッたなあ…。しゃーないな!まどか、アタシがここで見張ってるからまどかはマミさんかシジフォスさんを呼んできて」

 

 「ええ!?さ、さやかちゃん危ないよ!!」

 

 「そうだよ!結界が形成されたら危険だ!ここははやく逃げないと!」

 

 まどかとキュゥべえはさやかの行動を危険だと反対の声を上げる。そんな一人と一匹を見てさやかは気丈な笑みを向ける。

 

 「あの迷路が形成されたらこいつの居場所も分かんなくなるんでしょ?ここで魔女が出てきたら恭介が、ううん、沢山の人達が犠牲になっちゃう。放っておけないよ」

 

 「さやかちゃん…」

 

 まどかは心配そうな視線でさやかを見る。と、まどかの肩に乗っていたキュゥべえがさやかの肩に乗り移る。

 

 「まどか、なら僕がさやかの側にいるよ。僕がいればマミに魔女の居場所を伝える事が出来る。幸い孵化までまだ時間があるから急いでマミを呼んできて」

 

 「キュゥべえ…、うん!分かった!」

 

 「頼むから早く来てよ!アタシ一人じゃ魔女の相手なんて無理だし!」

 

 「分かってる!!直ぐ戻ってくるからねさやかちゃん!!」

 

 まどかはさやかとキュゥべえにそう叫んでマミとシジフォスを探しに走りだした。

 さやかはまどかの後姿を眺めながら、少し気になった事をキュゥべえに質問した。

 

 「ねえキュゥべえ、何でマミさんだけなの?シジフォスさんでもテレパシーで場所教えること出来るでしょ?」

 

 さやかの質問にキュゥべえはしばらく沈黙していた、が、やがて口を開いた。

 

 「…彼は僕の事が嫌いみたいだからね」

 

 「…そっか」

 

 何処かはぐらかすようなキュゥべえの返事にさやかは取りあえず納得した。

 確かにシジフォスは何故かキュゥべえを毛嫌いしているような態度を取っている。

 単純に嫌いというよりも何処か根本的な所で気に食わないような雰囲気だ。

 何故彼はそこまでキュゥべえを嫌っているのだろうか、それに魔法少女になる事に反対するのも自分達の命の心配以上に何か他にもあるようだけど…。

 さやかはしばらく考えていたものの、結界の展開が始まった事から一時的に思考を中断することになった。

 

 

 

 マミSIDE

 

 グリーフシード発見から約20分後、まどかはマミを連れて病院に到着した。

 テレパシーによって、さやかとキュゥべえは結界内部で無事だと言うことが分かった。

 

 「よかった…、無事だったんださやかちゃん…」

 

 「無茶しすぎ、って怒りたいところだけど、今回はいい手だったわ。これなら魔女を取り逃がす事無く、倒すことも出来るし…」

 

 マミは突然言葉を止めると、突如背後に向かって石を投げつける。まどかは何がなんだかわからないと言いたげな表情をしていたが、マミの表情はまるで目の前に敵が居るかのように厳しかった。

 と、マミが石を投げつけた物陰から、ゆっくりと暁美ほむらが姿を露わした。服装は魔法少女の物ではなく、見滝原中学の制服のままであった。

 

 「ほ、ほむらちゃん…」

 

 「もう近づかないでって、警告したはずだけど…」

 

 マミはほむらを見て、不機嫌そうにそう言った。ほむらはその言葉に表情一つ変える事無く、マミとまどかに視線を通わせる。

 

 「ここの獲物は譲ってもらうわ。中に閉じ込められている美樹さやかの安全も保障するし、何ならグリーフシードを譲っても構わない」

 

 ほむらの提案にマミは顔を顰めた。それは当然だ。

 魔女退治の褒美であるグリーフシードを譲ってもいいと発言するなど、魔法少女としては有りえないと言わざるを得ない。はっきり言って、何か裏があるとしか考えられない。

 

 「話が旨すぎる。とても信用できないわ」

 

 「嫌なら結構。貴女が力不足でもシジフォスがついているのなら、心配要らないでしょうし」

 

 「なっ!?」

 

 ほむらの言葉にマミは驚愕の表情をする。ほむらはそれを無視してさっさとその場から去ってしまった。

 

 「……」

 

 「ま、マミさん…」

 

 ほむらに言われたことがショックだったのか、マミは呆然とした表情でほむらの去っていった方向を見ている。そんなマミの様子が心配になったのかまどかはマミに話しかける。

 マミは一度まどかに視線を向けると顔を俯かせた。

 

 「…行きましょう、急がないと」

 

 「え?あ、は、はい!」

 

 マミの感情の篭らない声に、まどかは動揺しながらも後をついていく。

 結界内部の廊下を抜けた先にあったのは、まるで病院内部のような空間であった。

 周囲には医師や患者のような姿をした人影がいるものの、どれもこれもまるで人形のようであった。

 マミは結界の周囲を見渡し、魔女の気配が無いかを探る。

 

 (魔女はもっと奥、そして、ここならまだ携帯の電波は届く…、今からシジフォスさんに連絡すれば…)

 

 マミはポケットから携帯を取り出すとシジフォスから受け取ったアドレスを画面に表示する。

 ここでシジフォスに来てもらえれば、まどか達を気にせず戦うことができるだろう。

 でも…、

 

 『貴女が力不足でもシジフォスがついているのなら、心配要らないでしょう』

 

 先程ほむらの言った言葉が脳内にフラッシュバックされる。まるで、自分がシジフォスのおまけのような言い方、自分一人では魔女を倒せないとでも言っているかのような言葉…。

 今まで、自分一人で魔女と戦ってきたというのに…。

 

 「……」

 

 マミはじっと携帯電話を見つめていたが、やがてポケットにしまった。

 

 「あの、マミさん?」

 

 「…ううん、何でもないの」

 

 マミはまどかに笑顔を向ける。まどかは心配そうだったが、ここが魔女の結界の中だということで口を閉じる。

 

 「急ぎましょう、さやかさんも危ないわ」

 

 「あ、はい!」

 

 マミの言葉を聞いて、まどかも一緒に通路を駆け出した。

 

 (大丈夫、きっと大丈夫よ。シジフォスさんが居なくても戦えるわ!)

 

 マミは決意に満ちた瞳で結界内部を走る。

 

 そうだ、自分はいつも一人で魔女と戦ってきた。

 いまさらシジフォスの助けが無くても魔女一体くらい大丈夫だ。

 …彼女達も必ず守れる、いや、守り抜いてみせる…!!

 

 マミはまどかと一緒に結界の奥にある扉に辿りつくと、慎重にその扉を開けた。

 扉を開けた先には、病室とはうって変わって全てがお菓子で出来ているようなメルヘンチックな空間が存在していた。

 周囲にはケーキで出来た塔が幾つも立ち並び、あちこちに大きなチョコレートやドーナツが置かれている。

 一見すると絵本に出てくる御伽の国のような風景であったが、よく見れば大量の異形の化け物があちこちを行進している。恐らくこの結界を作り出した魔女の使い魔達だろう。

 一体一体は大した事が無さそうだが、数が多い。これを全て倒して突破するのは至難の技だろう。かといって、まどかが居る以上、無視して通るわけにもいかない。

 さて、どうしたものかとマミが考えていると、突然まどかが口を開いた。

 

 「あの・・・マミさん」

 

 「何かしら?」

 

 「願い事、私なりに考えてみたんですけど・・・」

 

 まどかは一拍置いて再び口を開く。

 

 「あの、考えが甘いって言われるかもしれませんけど・・・」

 

 「かまわないわ、聞かせて」

 

 マミの言葉を聞いて、まどかは一拍置いて話し始める。

 

 「私、昔からずっと、得意な学科とか人に自慢できる才能とかが無くって、それでこれからもずっと他の人に迷惑をかけて生きていくのかなって考えてしまって、それが凄く嫌だったんです」

 

 ぽつりぽつりと話し始めるまどかの話をマミは黙って聞いている。

 

 「でも、シジフォスさんに助けてもらって、マミさんに出会って、誰かのために戦っているのを見せてもらって、キュゥベえから私にもそんな力があるって言われて、それがとっても嬉しくてたまらなかったんです。

 だから私の願いは、魔法少女になったら叶っちゃうんです」

 

 「…あんまりいい物じゃないわよ。魔法少女って」

 

 まどかの言葉に反論するように、マミはぼそりと呟く。その表情にはいつもの優雅で余裕のある雰囲気はなく、どこか寂しそうで、今にも泣き出してしまいそうな表情を浮かべていた。

 

 「シジフォスさんの言うとおり、魔法少女は命懸けだし、とても危険なのよ。

 今までのように友達と遊んだり、恋愛したりする暇は無くなっちゃう…。

 それに私だって憧れるような立派な人間じゃないわ。

 無理してカッコつけているけれど、本当は臆病で、魔女との戦いも怖くてつらくて、でもそれを誰にも相談できなくて、一人ぼっちで夜には泣いていることだってあったわ。

 憧れるものなんかじゃないわ、魔法少女なんて…」

 

 目の前のマミの姿は、まるで一人ぼっちで泣いている子供のようであった。それを見ていたまどかは、マミに近付くと彼女の両手を包むように両手で握った。

 

 「…!鹿目さん…!?」

 

 「マミさんは一人じゃありませんよ。私も、さやかちゃんも、シジフォスさんもいます。もうマミさんは一人ぼっちじゃないんです。もしもの時は、私達を頼ってくれていいんです」

 

 まどかの言葉に、マミは驚いた表情でまどかを見ていたが、やがて、目からぽろぽろと涙が零れてきた。

 

 「…本当に、本当に私なんかの側に居てくれるの?一緒に、戦ってくれるの?」

 

 「勿論ですよ!私なんかでよかったら、一杯頼ってください!!」

 

 まどかの笑顔を見たマミは、嬉しそうにクスリと笑いながら涙を拭った。

 

 「参ったな…、まだまだちゃんと先輩ぶっていなくちゃいけないのに、私って駄目な子だな…」

 

 「マミさん…」

 

 「ありがとう鹿目さん。なんだか元気が出てきた。…そうだったわね、もう、私は一人じゃないんだよね」

 

 マミの表情は、先程までとは打って変わって、輝くような頬笑みを浮かべていた。先程までの怯えや悲しさに満ちた表情はもうそこには残っておらず、もう孤独ではないということへの喜びや嬉しさで満ち溢れていた。

 

 「ふふ、でも折角願いを叶えてくれるんだから、何も願わないのは勿体無いわ。そうね、折角だからシジフォスさんの彼女にして欲しいって願ったらどうかしら?」

 

 「ふええええええ!?か、か、彼女~!?」

 

 マミの言葉にまどかは顔を真っ赤にしてうろたえる。そんなまどかを見てマミはクスリと笑みを浮かべた。

 

 「あら?貴女シジフォスさんの事好きじゃなかったの?てっきりあの人に恋でもしてるんじゃないかと思ったんだけど…」

 

 「そ、そんな、恋だなんて、た、確かにシジフォスさんの事は好きですけど…」

 

 まどかは顔を真っ赤にして小さな声でぼそぼそと何かを呟く。それを眺めていたマミは何か悪戯を思いついたかのような笑みを浮かべる。

 

 「そうだ鹿目さん!この魔女退治が終わったらシジフォスさんにデートして下さいって頼みなさい。さすがにいきなり付き合うのは無理でしょうけど、デートに誘う位は出来るでしょ?」

 

 「ふえええええええええ!?で、ででで、デート!?そ、そんないきなりそんなこと、私じゃ無理です!恥ずかしいです!まずはお友達からです!!」

 

 「ダーメ♪そういう事言っている女の子に限って、良い男を取り逃がしていくんだから(まあ私は恋愛経験0なんだけど…)」

 

 マミはどこか遠い目をしながらまどかを茶化した。まどかは顔を真っ赤にしてあ~う~と唸っている。

 

 『マミ!グリーフシードが孵化を開始した!急いで!!』

 

 と、キュゥべえからのテレパシーがマミの頭に響き渡る。どうやら大分時間をかけてしまったようだ。マミは少し表情を引き締める。

 

 「OK!それじゃあ、速攻で片付けてくるわね!」

 

 「えええ!?ま、待ってください!!まだ心の準備が…」

 

 顔を真っ赤にしてうろたえるまどかを尻目にマミは魔法少女の姿に変身する。

 

 『体が軽い・・・。こんな幸せな気持ちで戦うなんて初めて・・・』

 

 銃弾が次々と使い魔を打ち抜く。軽やかに空を舞い、目の前に立ち塞がる使い魔を次々となぎ倒すマミ。その表情はどこまでも晴れやかだった。

 

 『もう何も、怖くない』

 

 地上に降りたマミは、こちらを見つめるまどかに視線を向ける。その視線に、まどかも笑みを返す。

 

 『私、一人ぼっちじゃないもの』

 

 マミの心は、今どこまでも軽やかだった。

 

 

 マニゴルドSIDE

 

 「ん?」

 

 「どうしたの?マニゴルド」

 

 突然何かに反応したかのように通路の先に目を向けるマニゴルドを見て、ほむらは気になって質問をする。

 

 「いや、なんだかよ、死亡フラグが立ったような気配がしてな…」

 

 「死亡フラグって…、何よそれ」

 

 マニゴルドのどこかとぼけた物言いにほむらは呆れたように突っ込んだ。が、マニゴルドは真剣な表情をして通路の先を見ている。

 

 「…あ~、なるほど。そういや、そうだったな…。なるほど、死亡フラグ立ったのはマミか…」

 

 「…わけが分からない事言ってないで、どうせ彼女たちにはシジフォスが付いているでしょう?」

 

 「まあそうだ・・・『・・・おいマニゴルド!!』・・・あん?シジフォス。テレパシーで連絡なんて珍しいなオイ。・・・てお前、確かまどか達んとこに居たんじゃねえのか?」

 

 マニゴルドは突如頭に響いたシジフォスの言葉に疑問符を浮かべる。

 聖闘士、特に最上位の黄金聖闘士にもなれば、小宇宙を利用してテレパシーによる会話も可能である。が、それなりに小宇宙を負担するため、緊急時以外はもっぱら携帯電話などを利用するのが一般的だ。それをテレパシーで連絡してくるとはよほどの緊急事態としか思えない。しかもマニゴルドが疑問に思ったのは、それがまどか達の近くにいると思っていたシジフォスからの連絡だったことだ。

 

 『今向かっているところだ!!魔女との戦いで時間を取られた!!』

 

 「んだと!?何やってんだ!!早くしねえとマミ死ぬぞ!!」

 

 『分かってる!!くそっ!!マミに魔法少女体験の時には俺も呼べと言ったんだが・・・!!』

 

 シジフォスの声は相当切迫している。何故マミが自分に連絡しなかったかは分からないが、このままではこの世界の本来の歴史そのままに、マミは死ぬ。

 

 「ちっ、仕方がねえ!!俺が行く!!ここであいつを死なせるわけにはいかねえ!!」

 

 『すまない、マニゴルド・・・。この礼は必ず・・・』

 

 「んなもんは後だ!!テレパシー切るぞ!!」

 

 マニゴルドはシジフォスとの連絡を切ると、呆然とした表情のほむらに視線を向ける。

 

 「事情が変わった!!連中に加勢すっぞ!!」

 

 「何ですって!?シジフォスは・・・」

 

 「いねえ!!マミの奴が連絡しなかったらしい!!このままじゃマミは死ぬぜ!!」

 

 「なっ!?この魔女は今までとは違うって言うのに!!」

 

 マニゴルドの言葉にほむらは悪態をついた。

 この魔女はほかの魔女とは違う。マミ一人では対処しきれない。

 既にシジフォスが居るだろうと考えたから今回は傍観に徹しようと考えていたのだ。それが居ないとなったら、残されるのは一般人二人・・・。

 

 「くっ、急ぐわよ!!マニゴルド!!」

 

 「おうよ・・・『その必要は無い』・・・て、この声は・・・」

 

 と、突然マニゴルドが足を止めて虚空を見つめる。突然足を止めたマニゴルドに、ほむらは後ろを振り向いて急かす。

 

 「マニゴルド!早くしないとマミが・・・」

 

 「・・ああ、なるほどな、まあお前なら何とかなるか・・・。おい、ほむら、やっぱ行かなくていいわ。ここで静観だ」

 

 「・・な、何ですって!!貴方さっきシジフォスが居ないって言ってたじゃない!!」

 

 あせった表情のほむらに対してマニゴルドは平然とした表情をしている。

 

 「問題ねえよ、ここにゃもう一人黄金聖闘士がいるからな」

 

 「な!?もう一人の黄金聖闘士!?」

 

 驚いた表情を浮かべるほむらにマニゴルドはにやりと笑みを浮かべた。 

 

 

 マミSIDE

 

 「無事かしら!!」「あ!マミさーん!魔女が孵化しちゃったよー!!」

 

 マミ達が到着したときには、既にグリーフシードは孵化し魔女が目の前に出現していた。

 魔女の姿は一見するとただの人形にしか見えないくらい、小さく可愛らしい姿であった。

 魔女は高い脚の椅子の上に座っているものの、まるっきり動く様子は無く、本当に人形のようであった。

 と、突如魔女の座っていた椅子が傾き、魔女は地面に落ちていく。マミが手に持ったマスケット銃で椅子の足を叩き折ったのだ。

 

 「折角出てきたところ悪いけど、一瞬で決めさせてもらうわよ!」

 

 マミは落ちてきた魔女をマスケット銃の柄で殴りつける。殴られた魔女は壁に激突し、そこに間髪いれずにマミの銃撃が追い打ちをかける。

 銃撃を受けた魔女はそのまま地面に落下する。が、魔女は全く動かない、というよりも反応すらしない。本当にただの人形なのではないかと考えてしまう。

 マミは地面に倒れて動かない魔女のこめかみに銃口を突き付け、容赦なく弾丸を撃ち込む。それと同時に地面から黄色いリボンが出現し、魔女を拘束して空中に磔にする。

 マミは魔女を拘束すると、マスケット銃に魔力を込め、まるで大砲のように巨大化させ、拘束された魔女に標準を合わせる。

 

 「ティロ・・・」

 

 大砲の内部に膨大な魔力が集まり、一発の弾丸として構成される。そして、その弾丸が魔女目がけて・・・。

 

 「フィナーレ!!」

 

 発射された。

 拘束された魔女にその弾丸を避ける術は無く、まともに直撃する。

 

 「やった!」「マミさんの勝ちだ!!」

 

 攻撃が命中した瞬間、まどかとさやかから歓声が上がる。マミも勝利を確信した笑みを浮かべた。

 しかし、攻撃が直撃したにもかかわらず、魔女はボロボロになりながらも生きていた。

 さらに、それだけに留まらず、人形のような姿の魔女の口から、突然巨大な怪物が出現したのだ。

 怪物の見た目はどこかのぬいぐるみのようにファンシーであり、凶悪さどころか愛らしさも感じてしまう。

 が、その開かれた口の中には、剣のように鋭い歯がずらりと並んでいる。

 

 「え……?」

 

 余りにも突然な事で、マミは反応しきれない。

 ただ呆然と目の前に迫ってくる巨大な口を見ていることしか出来ない。

 

 魔女の巨大な口が、マミを食らおうと迫る。

 

 マミは、恐怖からか、そこから動くことが出来ない。ただ自らを喰らおうとする魔女の姿を見ていることしか出来ないのだ。

 その光景を、まどかやさやかは声を出すことも出来ずに見ていることしか出来ない。

 

 そして、魔女の口がマミの首に食らいつこうとした。

 

 喰われる、その場にいた全ての人間が、そう感じた。

 

 

 

 その瞬間、

 

 

 

 何かが、黒い何かが魔女目がけて降り注ぎ、魔女の頭部に次々と命中していく。

 

 『■■■■■■■■■■■■!?』

 

 「・・・え?」

 

 魔女は形容しがたい悲鳴を上げてのけぞった。

 よくよく見ると、魔女の体は傷だらけになっており、一部は何かが貫通したかのような穴があいている。

 マミは、地面に突き刺さっている魔女目がけて飛んできた黒い物体に目を向けた。

 

 「くろ、ばら・・・?」

 

 地面に突き刺さっていたのは、花弁が文字通り真っ黒の薔薇であった。

 よく見れば周囲には似たような薔薇が幾つも地面に突き刺さっている。先程の黒い物体の正体は、この薔薇なのだろう。

 しかし、ただの薔薇にしか見えないそれが、あの魔女に傷を負わせるなどマミには信じられなかった。

 マミは、近くにあった黒薔薇に、思わず手を伸ばした、

 

 「その薔薇には触らない方がいい」

 

 と、何処からか声が響いた。マミははっとして手を止めると、声の出どころを探して周囲を見回した。

 

 「その薔薇の名前はピラニアン・ローズ。その花弁と棘はいかなる物も引き裂き、噛み砕く。下手に触ると指が落ちる。あと、早くそこから離れるといい。魔女はいつまでも苦しんではいない」

 

 「だ、誰ですか!?」

 

 マミは、声の聞こえた方角に、視線を向けた。

 マミの視線の先には、ケーキでできた大きな塔が建っている。その頂上のイチゴの屋根の上に、誰かが立っていた。

 そして、その屋根に立っていた何者かは、塔の上から飛び降りると、軽やかに地面に降り立った。

 地面に降りた人物の姿を見たまどか達は、はっとした表情を浮かべた。

 

 彼の纏っているのは黄金に輝く鎧、シジフォスのものと形状は違うものの、間違いなく黄金聖衣であった。

 

だが、それ以上に彼女達が見惚れたのは、彼自身の容姿であった。

 

 まるで女性と見紛うばかりの、輝かしく、凛とした美貌。この世のありとあらゆる美女が憧れ、羨むであろう美しい面貌。流れるような水色の髪の毛が、その美貌に華を添えている。

 

 その美しさはまさに、絶世の美と呼ぶに相応しい。

 

 美貌の彼は、ゆっくりと魔女に近づいて行き、マミと魔女の間で立ち止まった。そして彼は、マミに向かって振り返ると、表情を変えることなく、彼女に問いかける。

 

 「怪我は、無いか?」

 

 「・・・・・」

 

 地面に尻もちをついたマミは、彼のあまりの美しさにポカンと口を開けたまま、声を出すことが出来なかった。

 

 それを見た黄金聖闘士は、その姿に見おぼえがあるのか少し不愉快そうな表情を浮かべると、今度は少し強い語調で問いかける。

 

 「怪我はないか?」

 

 「へ・・・?あ、は、はい!!」

 

 マミはようやく気が付いたかのようにはっとした表情で立ち上がる。

 それを見て美貌の黄金聖闘士は、納得したように頷いた。と、彼はマミの背後に視線を向ける。

 

 「・・・どうやら迎えも来たようだな」

 

 「マミさーん!!」「だ、大丈夫っスかー!!」

 

 と、マミの後ろからまどかとさやかが駆け寄ってきた。マミはそれを確認すると緊張が解けたのか、今にも泣き出しそうな表情になった。

 

 「あ、ありがとうございます!!マミさんを助けてくれて!!」

 

 「早く安全な場所に行くといい、そして、私の側には決して近寄るな」

 

 お礼を言ってくるまどかの言葉を無視するかのように、黄金の麗人はそっけない態度でドーナツで出来た物陰を、先ほどまどか達が身を隠していた物陰を指差す。

 そのそっけない態度にさやかはむっとしたものの、その表情は真剣そのものであったため、何も言わなかった。

 

 「わ、分かりました、直に・・「あ、あのっ!!一つだけ、一つだけ聞きたいことが!!」・・・ま、マミさん!?」

 

 突然大きな声を出したマミにまどかとさやかはびっくりした表情をする、が、マミはそれに構わずに謎の黄金聖闘士に話しかける。

 

 「あのっ!貴方の名前は・・・」

 

 マミの問い掛けを聞いた謎の黄金聖闘士は少し表情を緩めると口を開いた。

 

 「私の名前はアルバフィカ。黄金聖闘士、魚座のアルバフィカだ」

 

 彼、アルバフィカはマミ達に自身の名前を名乗ると、マントを翻し、目の前の魔女の前に立ちはだかる。

 

「魚座の、アルバフィカ・・さん」

 

 「三人目の、黄金聖闘士・・・」

 

 「・・・・・」

 

 まどか達は、魔女と対峙するアルバフィカの姿をじっと見つめる。

 

 その凛とした佇まいは、まるで一輪の咲き誇る薔薇のようであった。

 

 少女達、特にマミは、その姿から目を離すことが出来なかった。

 

 「早く行け、私と彼女の戦いに巻き込まれたくなかったら、な」

 

 アルバフィカは背後にいる少女達に視線を向けずに言い放つ。その言葉は、有無を言わさない迫力を秘めていた。魔女は先ほどの傷ついた体を再生して、既に目の前の敵に対して臨戦態勢を取っている。

 

 「わ、分かりました!!さやかちゃん!マミさん!いきましょう!!」

 

 「お、おう!!」「え!?ちょっと・・・」

 

 マミはまだ何か言いたげであったが、まどかとさやかに引きずられてその場から立ち去ることとなった。

 アルバフィカは三人の少女が逃げたことを確認すると、ようやく動き出した魔女をじっと見上げる。

 魔女は目の前の黄金聖闘士を敵と判断したのか、人形のような一見すると愛らしい表情を恐ろしげに歪めて歯をむき出しにし、威嚇するかのように唸り声を上げた。

 

 アルバフィカは、じっと目の前の魔女を見据える。

 

 その表情は、どこか悲しげで、目の前の魔女を、憐れんでいるかのようであった。

 

 「・・・辛かっただろうな、君も・・・」

 

 と、突然アルバフィカが口を開く。その口調は、その表情と同じく哀しげであり、魔女への哀悼の念に満ちていた。

 

 「・・・君が、何を望み、何のために戦い、何に絶望しその姿になり果てたかは私には分からない。

 だが、辛かっただろう、苦しかっただろう・・・。希望を得て、人を救う力を得たにもかかわらず、人に絶望を与える存在になり果ててしまったその悲しみ、君を今までずっと苛み続けていたのだろう・・・。

 だから私が君の絶望を受け止める。そして、その絶望を終わらせる。せめて、君が安らかに眠れるように・・・。

 来い。このアルバフィカが君の悲しみを、苦しみを、絶望を断ち切ろう」

 

 アルバフィカはそう言うと表情を一変させた。

 今までの憂いを秘めた表情とは違う、敵と相対する戦士の表情・・・。

 その凛々しい表情に、マミはただ見とれるしかなかった。

 

 魔女は、自分を傷つけた仇敵を喰らおうと、怒りの声を上げて襲いかかって来た。

 アルバフィカはただそれをじっと見ているだけであった。

 

 「…!!あ、危ない!!」

 

 マミ達は悲鳴を上げるがアルバフィカは全く動じた様子はない。

 そして、魔女の巨大な口が、アルバフィカを噛み砕くために閉じられようとした。

 

 「……!!」

 

 体を真っ二つにされたアルバフィカを想像したマミは顔を両手で覆い、まどかとさやかは耳をふさぎ、思いっきり目を閉じた。

 

 

 

 が、何時までたっても人を噛み砕く音が聞こえない。不自然なまでに静かであった。

 唯一聞こえる音は、あの魔女が発していると思われる声のみである。しかし、その声は今までとは違って何処か苦しげで、苛立っているかのように聞こえた。

 

 マミは恐る恐る掌をどけた。そして、視界が完全に開けた時、目の前には信じられない光景が映っていた。

 魔女は確かにアルバフィカを噛み砕こうとしている。しかし、その顎は閉じられていなかった。アルバフィカに歯を鷲掴みにされ、それがつっかえとなって顎を閉じることが出来なかったのである。

 

 「…ふっ!」

 

 アルバフィカは表情を変えることなく、魔女を地面に投げつける。

巨大な魔女は、思いっきり地面に叩きつけられて悲鳴を上げた。

 

 「うわあ…」

 

 「す、すげえ…」

 

 「……」

 

 まどか達は開いた口がふさがらなかった。あれだけ巨大な魔女を、片手一本で投げ飛ばすなど、とんでもない力である。

 アルバフィカは背後の少女達の視線を気にせず、地面に叩きつけられた魔女から視線を離さない。魔女は、地面から起き上がると、再びアルバフィカ目がけて突進してきた。

 

 「終わらせようか」

 

 アルバフィカは右手を頭上に掲げる。と、何処から現れたのか深紅の薔薇がアルバフィカの手の中に現れる。

 アルバフィカは目の前の魔女を見据え、深紅の薔薇を構えた。

 

 「ロイヤル…」

 

 そしてアルバフィカは手の中にある薔薇を…

 

 「デモンローズ!!」

 

 魔女目がけて、放った。

 

 深紅の薔薇が放たれた時、放たれた薔薇を中心に、無数の薔薇が次々と何処からともなく現れる。

 そして、深紅の薔薇は魔女の身体を覆い隠すかのように舞い踊った。魔女は突然出現した薔薇を振り払おうと暴れるが、次第に抵抗の動きが鈍くなり、遂には地面に倒れ伏した。

 

 「猛毒の薔薇、デモンローズ。その香気を吸えば、徐々に五感を失い、陶酔の内に死に至る…。いかに再生能力が優れていても、体内から侵食する猛毒の香気は防げないだろう。

これが、私が君に送る、せめてもの手向けの華だ」

 

 アルバフィカは、目の前で倒れている魔女に言い聞かせるかのようにそう言って、魔女に近寄っていく。魔女はまだ唸り声を上げ、体を震わせていた。しかし既に虫の息であり、その体は確実に死へと向かっている。

 それでも魔女は、自分に近づいてくるアルバフィカに、歯をむき出しにして精一杯の威嚇をする、が…

 

 「すまない」

 

 アルバフィカは、それを恐れることなく、魔女の顔を撫でる。

 

 「すまない。私が君にしてあげられるのは、君を倒すくらいしかない。

でも、もう苦しまなくていい、絶望しなくてもいい。君はもう十分苦しんだ。君の絶望も、悪夢も、もう終わった。

 

やすらかに、お休み…」

 

 アルバフィカは、まるで、目の前の魔女を慈しむかのように、宥めるかのように声をかけ、顔を撫でる。魔女は、そんなアルバフィカに目を見開き、驚いているかのようであった、が、徐々に目が閉じていき、やがて、眠るように動きを止めた。

 そして、魔女の死と共に、結界は徐々に消え去り、やがて元の場所に戻っていた。

 アルバフィカは、魔女の消滅を見届けると、地面に残ったグリーフシードを拾い上げて、まどか達の方に歩いてくる。

 

 その表情は、どこか悲しげなままに…。

 




 マミさん生存…!勝った!第一部完ッ!
 …なんちゃって、もう少し続きます。
 まあそれはともかくとして、マミさん生存、そして魚座の希望ことアルバフィカさんの登場回です。
 やっぱりまずはマミさんの救済をしないと。いくらなんでも三話の死亡シーンはあっさりしすぎですし。
 まあそれを言うならアルバフィカも少し本編の活躍シーン短いかなー、という感じなんですけれども。カッコいいですし一人だけドラマCD出てるんですけどね。
 アフロディーテも好きですよ?何故か映画版でナルシストにされてしまいましたが…。あれ明らかにスタッフの悪意だろ…。
 最近魚座は仮面ライダーフォーゼでもΩでも優遇気味。うん、魚座の人達は喜んでいいよ…?

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