魔法聖闘士セイント☆マギカ   作:天秤座の暗黒聖闘士

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 読者の皆さま、お待たせして申し訳ありません。
 色々修正やら一部文章の消えた第5話の再執筆やらしていたら大分空いてしまいまして…。
 
 次話はもう少しお待ちください。あと少しで完成いたしますので・・・。

 今回の話はまどかとさやかの魔法少女研修の話です。無論一人ではなくシジフォスも一緒ですが。

 で、今回新しい黄金聖闘士および教皇兄弟が登場します。ついでにまどマギ外伝のキャラも登場する予定です。


第4話 魔法少女体験コース

 「行ってきまーす!」

 

 「行ってらっしゃい、まどか」「行ってらっしゃーい!おねーちゃーん!」

 

 まどかはいつも通り元気よく家族に挨拶して家を出る。

 いつもの習慣と化した行動であり、家族達も彼女に向かって返事を返す。

 

 なお、家族にはまどか一人が学校に行くようにしか見えないが…、

 

 「本当に人には見えないんだね」

 

 「その方が僕にとっては都合がいいからね」

 

 実際はまどかの肩の上にキュゥべえが乗っていた。

 何故かはわからないがキュゥべえはどうやらまどかやさやか、マミ以外の人間には見えないらしく、昨日家に帰って来た時も家族はキュゥべえに気付いた様子はなかった。

 

 「おはよう、さやかちゃん!仁美ちゃん!」

 

 「まどかさん、おはようございます」「おはようまどっ…くあ!?」

 

 仁美は普通に挨拶したのに対して、さやかはまどかの肩に乗っているキュゥべえに気が付いて声が上ずってしまった。

 

 「?どうしたんですの、さやかさん?」

 

 「!?あ、い、いや、何でもない!何でもないんだ!!」

 

 奇声を上げたさやかに仁美は不思議そうな表情を浮かべるが、さやかはすぐさま驚いた表情を引っ込めて何でもなさそうに右手を振る。が、左手はまどかに向かってこいこいと合図をしていた。まどかは不思議そうな表情を浮かべながらさやかの側に近づいた。と、さやかがまどかに接近してまどかにヒソヒソと話し始める。

 

 「…やっぱりそいつって、アタシ達にしか見えないみたいだね」

 

 「そうみたいだね」

 

 「あの~、さやかさん?まどかさん?お二人で何を…」

 

 流石に気になったのか、仁美がどこか心配そうな表情で聞いてくる。

 

 「うえ!?なななななんでもねーよ!!」「うんうん!!さやかちゃんの言うとおり!!」

 

 「そうですの?なんだか変ですけど…」

 

 仁美はどこか釈然としない表情で二人を見ていた。一方のさやかとまどかは内心冷や汗をかきながら表面上はニコニコと笑っていた。

 

 (あっぶね~…、マジで仁美こいつが見えてないんだ…)

 

 (あ、それからさやかちゃん、私たち声を出さなくても会話できるらしいよ?)

 

 (マジ!?テレパシー!?あたし達もうそんなマジカルな力が…。それとも、シジフォスさんの言っていた小宇宙に目覚めた!?)

 

 (いや、僕の力だから…)

 

 (あ、あっそ…)

 

 ちょっと期待していたのかさやかはがっくりと肩を落とした。それを見ながらまどかは「あはははは…」と、苦笑いしていた。

 

 「本当に二人ともどうしたんですか?目配せばっかりして…。…はっ!!まさか、一日合わない間にそんな関係に!?で、でも駄目ですわ~!!それは禁断の愛の関係なのですのよ~!!」

 

 「いい!?ち、違う違う!!アタシとまどかは百合じゃない!!百合じゃないっての!!」

 

 突然なにを勘違いしたのか頬を真っ赤に染めてイヤイヤと顔を振り始めた仁美に、さやかが顔を真っ赤に染めて反論する。一方のまどかは何が何だか分からないといった表情を浮かべている。が、次のさやかの言葉でまどかの表情は一変した。

 

 「大体ありえねえって!!まどかにはな、初恋の人が居るんだよ!!」

 

 「ちょ、ちょっとさやかちゃん!!」

 

 「あら?そうだったんですの?一体どんな殿方なんですの?」

 

 「ひ、仁美ちゃんまで~…「おや?まどかにさやか。また会ったね。今日も元気そうだな」…シ、シジフォスさん!?」

 

 まどかが反論しようとすると、突然噂の人物の声が後ろから聞こえた為、まどかはびっくりして後ろを振り向いた。まどかの視線の先には、紺色のスーツを着込んだシジフォスが、朗らかな笑みを浮かべながら立っていた。

 突然現れたシジフォスに、まどかは顔を真っ赤にしながらアワアワと慌てている。一方さやかは仁美とひそひそ会話をしていた。

 

 「あれが例の初恋の人だよ。おとといまどかが言ってた、曲がり角でぶつかって、惚れた人らしい…」

 

 「まあ!素敵な殿方じゃないですの~…。まどかさん羨ましいですわ~…」

 

 仁美は頬を真っ赤にしながらうっとりとした目でまどかとシジフォスを見ている。さやかも二人を面白そうなものを見るような眼で見ている。まどかはそんな二人に構わずシジフォスとの会話を楽しんでいた。

 

 「おはようございますシジフォスさん!えっと、昨日は、その…」

 

 「いや、構わないよまどか。俺も昨日は言いすぎた。すまない」

 

 「…あ、はい…」

 

 シジフォスの言葉にまどかは顔を真っ赤にして俯く。そんなまどかを微笑ましげに見ていたシジフォスは、ふとさやかと仁美の方に顔を向けた。

 

 「おはようさやか、…と、そちらのお嬢さんは?」

 

 「あっ、おはようございますシジフォスさん!!この子はアタシとまどかの友達の

志筑仁美っていいます!」

 

 「志筑仁美といいます。よろしくお願いしますねシジフォスさん」

 

 「ああ、よろしく頼む、仁美」

 

 自己紹介をしてきた仁美に対して、シジフォスは礼儀正しく礼を返した。

そして、二人を見ると少しすまなそうな表情を浮かべる。

 

 「あ~、二人ともすまないがまどかと二人きりで話がしたい。少々外してもらえるかな?」

 

 「え、ええええええ!?」

 

 シジフォスの言葉にまどかは顔を真っ赤にして慌てふためく。一方さやかと仁美は黄色い声を上げてはしゃぎ回った。

 

 「ひ、仁美!!こ、これはアレ、アレだな!!」

 

 「そうです!!きっとそうですわ!!さやかさん!!こうしちゃいられませんわ!お邪魔にならないように私達は退散しましょう!!」

 

 「おっしゃ!!んじゃまどか!!アタシ達は先行くから!!結果聞かせろよ~!!」

 

 「お二人でごゆっくり~♪」

 

 「ああ!!さやかちゃん!!仁美ちゃん!!…いっちゃった」

 

 「全く、何を勘違いしたのだか…。大体俺はもう29歳のおじさんなんだが…」

 

 急いで学校に向かってしまった二人を見送ったまどかは呆然とした表情を浮かべ、シジフォスは苦笑いをしていた。

 

 「まあいい。ところでまどか、一つ聞きたいんだが…」

 

 「は、はいっ!!まずはお友達からです!!」

 

 「はあ…?」

 

 シジフォスは訳が分からないと言いたげな表情で、まどかを見ていた。まどかは自分が言ったことに気が付いて、顔に火がついたように真っ赤になってしまった。

 

 「あー、俺が聞きたいのは、だ…。昨日のことだ。まどか、結局君は、どうしたいんだ?」

 

 「え…?…あ、あれは、その…」

 

 まどかは、シジフォスが何を言いたいのか気がつき、顔を下に俯かせた。

 その様子を見て、シジフォスは彼女とさやかがどういう決断をしたのかが大体予想できた。

 

 「えっと、その、さやかちゃんと一緒に、何度かマミさんの魔法少女の活動を見学しようって、事に決めたんです、けど…」

 

 「……」

 

 怒られると思ったのか、小さい声で話すまどかに、シジフォスは予想通りの答えが出たことに、怒るよりも溜息が出てしまった。

 

 「…一応聞いておくが、何故そうしたんだ?昨日魔法少女になる危険を説明したはずだが…」

 

 「…分かっています。魔法少女は単なる興味本位や軽い気持ちでなっちゃいけないものだってことは…。でも、でも私は…」

 

 「…誰かを助けるために、働きたいから、か…?」

 

 「…!!そ、そうです!!あの、いけませんか?」

 

 「……」

 

 まどからしい答えだ、とシジフォスは頭を痛めた。

 確か別の世界では、魔法少女になる前のまどかは、とにかく自分に対して劣等感を持ち続けていたという記憶がある。

 魔法少女になりたいというのも、あまり役に立たない自分でも、人の役に立ちたいという“献身”の気持ちから来ているのだろう。

 結果的にそれが最悪の魔女を生み出す結果となるのは、あまりにも皮肉としか言いようがない。

 シジフォスはしばらく沈黙していたが、やがて諦めたかのように溜息を吐いた。

 

 「…分かった、仕方がない。君達が決めたことならもう何も言わない。ただし、念のために俺も付いて行くぞ。君達に何かあったら、俺自身寝覚めが悪すぎる」

 

 「ええっ!?い、良いんですか!?」

 

 「本当ならば行かないでくれればこちらも一番なのだがな。危険を少なくするためだ」

 

 「あ、ありがとうございます!!」

 

 「礼には及ばない」

 

 シジフォスはぶっきらぼうにまどかに返事をする。が、まどかは何処か嬉しそうににこにこ笑っていた。シジフォスはそれを見てふう、と息を吐いた。

 

 (仕方がない、どの道彼女達は魔法少女と魔女の戦いに関わらなければならないのだからな…)

 

 それでも彼女を止めたいと思っていたシジフォスは気付かれないように、鋭い視線をまどかの肩に居るインキュベーターに向けた。

 

 ほむらSIDE

 

 「…ああ、ああ、分かったぜシジフォス。んじゃあな」

 

 「…彼は、何だって?」

 

 電話の連絡を終えたマニゴルドに向かって、ほむらは表情を変えることなく問いかける。

 マニゴルドは携帯電話を折りたたむと、肩をすくめた。

 

 「鹿目まどかと美樹さやかが巴マミと一緒に魔法少女研修に行くってよ。随分とご苦労な事だぜ」

 

 「…何ですって?シジフォスは止めなかったの?」

 

 「止めたらしいぜ。が、結局駄目だったっぽいな」

 

 「くっ、今日は魔法少女になれないのに…」

 

 ほむらは苦々しげな表情で地面を蹴る。

 マニゴルドはそんなほむらを安心させるように口を開いた。

 

 「まあそんなに心配すんなっての。あいつらにゃシジフォスが付いてやがる。並の魔女なんざあいつ一人で充分だろ」

 

 「それでも、もしまどかに何かあったら…」

 

 「はあ…この過保護が…。んなに心配なら俺もこっそり行ってやろうか?それなら満足だろうが」

 

 「…いいの?」

 

 ほむらは表情を一変させると、マニゴルドをじっと見る。マニゴルドは後頭部を掻きながらコクリと頷いた。

 

 「こうでもしなきゃてめえは納得しねえだろうが。ただし、てめえが魔女に襲われても自己責任でなんとかするんだな」

 

 「…ええ、分かったわ」

 

 「ちったあテメエの身体も心配しやがれ、ったく…。んじゃさっさと学校行け。遅刻すっぞ遅刻」

 

 マニゴルドはほむらを追い払うかのように手を振った。ほむらは黙って学校への通学路を歩きだした。が、数歩歩くとほむらはマニゴルドの方を振り向いた。

 

 「マニゴルド」

 

 「あん?」

 

 「…ありがとう、私の為に、色々してくれて」

 

 そういうとほむらは再び前を向いて通学路を歩いて行った。

 

 「へえ、案外素直なとこあるな、あいつ…」

 

マニゴルドはそんなほむらの後姿を見送りながら、ポツリと呟いた

 

 シジフォスSIDE

 

 「さてと、それじゃあ魔法少女体験コース第一弾、張り切っていきましょうか!」

 

 「……」

 

 そして時間はあっという間に過ぎて、放課後…。

 

 集合場所に指定したハンバーガーショップに集合したまどか、さやか、シジフォスに対して、マミは元気良く宣言した。他の二人は「おー!!」と掛け声を上げたりどこか楽しみな様子だったが、シジフォスはむっつりとした顔で黙々とハンバーガーを咀嚼していた。

 そんなシジフォスをマミはどこか気まずそうな表情で見ていた。はしゃいでいた二人もシジフォスの様子を見て気まずそうにお互いに視線を交わした。

 

 「で、みんな準備はいいかしら?」

 

 「俺ならば聖衣無しでも大抵の魔女に対処するのは可能だ」

 

 気まずい雰囲気を振り払うように質問をしたマミに対して、まずシジフォスがコーヒーを啜りながらそう返答した。それを見ながらまどかたちは苦笑いを浮かべた。確かにこの人なら聖衣無しでも魔女とかをなぎ倒してしまいそうだ。

 

 「あたしはさっき体育館倉庫から借りてきたコレで!」

 

 と、さやかは金属製のバットを取り出した。どうやらそれで魔女と戦うらしいが・・・。

 

 「まあ、無いよりはマシといったところか…」

 

 「ええ!?シジフォスさんヒドッ!!」

 

 「まあ、覚悟は認めるわ。覚悟は。…それで鹿目さんは何か準備してきたの?」

 

 「え、えっと、私は…これ!」

 

 マミの質問に対して、まどかが取り出したのは一冊のノート。そして、まどかが開いたページに描かれていたのは…。

 

 「…うっわー…」

 

 「……」

 

 (なん…だと…!?)

 

 「えへへ、とりあえずまずは形から、って思って」

 

 さやかとマミは呆然とした表情を浮かべ、シジフォスは目を見開いて開いた口がふさがらないといった表情を浮かべていた。

 シジフォスは依頼主から教えられた知識でまどかが魔法少女になった時のデザインをノートに描いて持ってくることを知っていた。そして、実際に描いてきた、描いてきたんだが…。

 

 (なんで黄金聖衣のデザインがドッキングしてるんだ!!??)

 

 そう、そのデザインは、本来のまどかの魔法少女のデザインと射手座の黄金聖衣をドッキングさせたものだったのだ。いや、ほぼ射手座の黄金聖衣といってもいい。

 まず頭には黄金聖衣のマスクがつけられている、次に上半身なのだが袖が無いことを除けばほぼ射手座の黄金聖衣だ。あの特徴的な翼も付いている。

 下半身のスカートは本来のまどかの衣装の物と同じだが、脚部は黄金聖衣のフットパーツを装着している。

 どうやらシジフォスに憧れたことが原因らしいが、まさかまどかの魔法少女のイメージにまで影響を与えるとは思わなかった、シジフォスは内心頭を抱えていた。

 

 「…まあ、意気込みだけは認めるわね。でも、これって…」

 

 「どうみても…、黄金聖衣、だよなあ…」

 

 「えへへ、だって魔女と戦っていた時のシジフォスさん、すごく格好良かったから……あれ?シジフォスさん?どうしたんですか?」

 

 「ん、あ、ああ、何でもない、何でもないんだ」

 

 シジフォスが頭を押さえているのを見たまどかは、心配そうに声をかけた。それをシジフォスは苦笑いを浮かべながら大丈夫だとまどかに言った。そして大きく息を吐きながら複雑そうな表情でノートを見る。

 

 「あー、まあ、魔法少女になるか否かはともかくとして、憧れてくれるのは、俺としても嬉しい。うん、ありがとう」

 

 「えへへ、はい」

 

 シジフォスの言葉にまどかは嬉しそうな笑みを浮かべた。それを見ながらマミとさやかは苦笑いしていた。

 

 「…唖然としたんでしょうね、自分の聖衣をモデルにされたことに」

 

 「…はあ、まどかにゃ負けたよ…、いろんな意味でな…」

 

 少女達はぼそぼそとそんなことを話していた。無論、シジフォスにはその会話はばっちり聞こえていた。しかし、彼自身はそんなことはどうでもいいとばかりに目の前の絵を眺めながら溜息を吐いた。

 

 (…まさか俺の聖衣をモデルにしてくるとはな…。やはり介入したせいで歴史が変わり始めているようだな。だが、この変革は、喜ぶべきなのか、そうでないのか…)

 

 シジフォスはまどかから渡されたノートの絵を見ながらぼんやりとそう考えた。そのうち、シジフォスの頭の中に、ふと疑問が出てきた。

 

 (それにしても魔法少女の衣装はどうやって決定されるのだ?まさかソウルジェムを作り出した時に、自動で…?…となると、教皇とハクレイ様の御衣裳はどうなるというのだ?)

 

 シジフォスは、教皇であるセージとその兄ハクレイが自らの実験の為にキュゥべえと契約したことを思い出し、少し想像してみた。

 

 セージとハクレイがマミやさやかが着ていた魔法少女の服装を装着した姿を…。

 

 (・・!?!?!?い、いかんいかんいかん!!こんなものを想像するのは視覚の暴力・・・、ではなくあまりにも不敬だ!!俺は何と恐れ多いことを!!忘れろ!!忘れるんだシジフォス!!)

 

 頭の中に浮かび上がった余りにもおぞましい姿に、シジフォスは真っ青になって頭を振り回して想像を忘れようとする。 

 

 「ふわっ!?し、シジフォスさん!?大丈夫ですか!?」

 

 「ちょ、ちょっとシジフォスさん!!一体どうしたんすか頭を振り回しだして!!」

 

 「何か思い出したくないことでも思い出したのかしら?」

 

 何気にマミが当らずとも遠からずな事を言っているのを聞きながら、シジフォスは自分の思い浮かべた想像を打ち消すため、頭を光速でブンブンと振り回し続けた。

 

 その後、まどかを介してキュゥべえに聞いたところによると、もし男がキュゥべえと契約して変身した場合には本人のイメージや願いによって変わってくるものの、ちゃんとした男用の衣装になるとの返答があり、シジフォスは内心安堵を浮かべたとのことだ。

 

 セージ、ハクレイSIDE

 

 「ファークシッ!!ズズ、何じゃ一体……」

 

 「いかがなされた兄上。風邪でも引かれましたかな?」

 

 「違うわセージ。どうやらどこぞの誰かがワシの噂をしておるようじゃ」

 

 ここは見滝原から離れたあすなろ市に存在する屋敷。そのとある一室で二人の老人が茶を飲んでいた。

 老人は二人ともそっくりな容姿をしており、着ている服装、そして髪形を見なければどちらがどちらなのか分からなくなっただろう。

 片方の老人は長い髪をそのままにしており、濃い緑色の羽織と茶色い袴を着ている。一方の老人は白髪を束ね、群青色の羽織と紫色の袴を着ている。

 

 この二人こそ、かの聖戦において死と眠りを司る双子神を封印した教皇セージと祭壇座のハクレイその人である。ちなみに緑色の羽織を着ているのがセージ、群青色の羽織を着ているのがハクレイである。

 彼らはこのあすなろ市において、魔法少女となった少女達を魔女にならないよう、また、魔女になったばかりの魔法少女を人間へと戻すために活動を行っているのである。

 

 「しかし此処に来てからもう2カ月近く経つのう…。なんとも時が過ぎるのは早いものよ…」

 

 「はい、ですが未だに魔女の出現は収まりませぬし、魔法少女の契約も後を絶ちませぬ。インキュベーターの勧誘に釣られる者が、それだけ多いのでしょう」

 

 「全くじゃ。仕事熱心なのは結構、とよく言うが、この仕事ばかりはサボって貰いたいもんじゃわい、というかやらんで貰いたいのう。まあ、それを言うなら勧誘に釣られる連中も連中なのじゃが…」

 

 「彼奴等もやり口が巧妙なのです。事故で死にかけたところ、肉親が病気なところ、さまざまな困難にぶつかったところ等々、少女達が悩み苦しんでいるところを狙って勧誘を行ってきます。発見するのが中々に困難ですので防ぐのも容易ではないのです」

 

 セージは茶を啜りながら苦々しげにそう呟く。

 実際彼らも少女がキュゥべえと契約することを止めようとはしているのだ。

 しかし見つけたころには、既に契約していた場合がほとんどであり、あまり効果が無いのが現状だ。

 セージの苦々しげな表情に対して、ハクレイはどこか自信ありげな表情で茶を啜る。

 

 「わかっとるわい。その為にわし等がその契約を、何と言ったか、……そうじゃ、くーりんぐおふしておるのではないか」

 

 「兄上…、用法が違いますぞ。まあ確かに契約を取消すのでは同じかもしれませんが…」

 

 セージはじと目で兄の言葉に突っ込みを入れる。

 結局彼らの行っていることは、魔法少女と化した少女を魔女化させないために、ソウルジェム内部にある魂を肉体に戻すことしかない。

 魔法少女が魔女に変異するのは、ソウルジェムが穢れによって完全に濁りきった時である。この『穢れ』の機能はソウルジェムに備わっている機能であり、ソウルジェムから魂を切り離して肉体に戻せば、穢れが溜まる事も無くなり、魔女化することはない。

 その代わり、魔法少女の時とは別の影響が出てくるのだが、これは今のところ研究中である。

 

 「ふっ、しかもこれは契約を解除したわけではないから願い自体はそのままよ。すなわち折角インキュベーターが結んだ契約を踏み倒して無駄にしてやった、ということになるのう?いやはや、愉快だとは思わんか?セージ」

 

 「踏み倒しとは言葉が悪いですぞ兄上。そもそも連中が魔法少女化する際のデメリットを教えぬから悪いのでありましょう?まあ、知ったらまず確実に魔法少女になりたいなどとは思わぬでしょうがな」

 

 ハクレイの言葉にセージは苦笑しながら茶を啜る。と、突然ドアをノックする音が聞こえてきた。

 

 「ぬ?誰じゃ?」

 

 「イエーイ!グランパ’s、元気にしてたー?みんな大好きカズミちゃんの登場だよ~!!」

 

 「なんじゃ、ミチルか」

 

 「なんじゃって、ひっどーい!!折角来たのにそれないんじゃなーい!?」

 

 扉が開くと黒い短髪の少女が元気な声を上げながら飛び出て来た、が、ハクレイは気のない返事を少女に返す。と、ミチルと呼ばれた少女は不満そうな表情で抗議の声を上げた。

 

 「兄上、あまりいじめてはなりませんぞ。よく来たなミチル。今日も元気そうで何よりだ」

 

 セージが苦笑しながらミチルに声をかけると、ミチルは嬉しそうにセージに笑顔を向けた。

 

 「えへへ~、セージグランパこんにちは!…ハクレイグランパもついでにこんにちは~」

 

 「ワシはついでか…」

 

 「いじわるなハクレイグランパはついでで十分なの!!」

 

 そう言ってハクレイに向かってアッカンべーをするカズミ。ハクレイはむー、と唸り声を上げながらカズミを見る。

 

 「全く、お主という奴は……」

 

 「兄上落ち着かれよ。みちるもあまり他人を挑発するでないぞ?」

 

 「はーい、ごめんなさーいセージグランパ♪」

 

 「ワシにも謝らんかい!…ったく」

 

 ハクレイは文句を言うものの、彼女の元気な様子に、どこか嬉しそうな表情を浮かべていた。

 この少女の名前は和紗ミチル、通称「カズミ」。

このあすなろ市を中心に活動している魔法少女集団、「プレイアデス聖団」の創設者であり、リーダーである。

 魔女から救い出した六人の少女と共に聖団を結成したものの、その後無理が祟ってソウルジェムが濁りきって魔女化。その時にセージとハクレイの手によってグリーフシード内の魂を人間の肉体に戻され、救出されたのである。その後、聖団のメンバーと一緒に、セージ、ハクレイの任務に協力しているのだ。

 ミチルはセージ、ハクレイの二人には、命の恩人ということもあって懐いており、グランパ(おじいちゃん)と呼んで慕っている。一方のセージとハクレイも、ミチルを含むプレイアデス聖団のメンバーの事を、孫のように思い、可愛がっている。

 

 「ところで、何か用でもあるのか?まさか、また魔女でも出てきたのか?」

 

 「ノンノンノーン!もうすぐお昼でしょ?だから私が一つ腕でも振るおうって♪」

 

 みちるは指を振りながらニコニコと笑っている。それを見てセージとハクレイも笑みを浮かべた。

 

 「ふむ、なら我等も同席に預かろうか、セージよ」

 

 「はい、丁度腹も減ってきたところですしな」

 

 「ふっふーん!ならダイニングルームにレッツゴー!!」

 

 元気よく掛け声を上げながらミチルは二人を先導するように先に歩きだす。セージとハクレイはその後ろに付いて行く。

 

 「やれやれ、元気なもんじゃわい」

 

 「まあまあ兄上、若い時はこれだけ元気な方がいいものですぞ」

 

 若干呆れた表情のハクレイとセージは、そんなおしゃべりをしながら食堂へと歩いて行った。

 食堂に着くと、そこには既に他の聖団のメンバーが集まっていた。

と、突然一人の少女がハクレイ目がけて突っ込んできた。

 

 「おじいちゃーん!!」「ぬおお!?いきなりつっこんでくるでない!!」

 

 ハクレイはその少女を受け止めると彼女の頭を優しくなでる。少女は気持ちよさそうに顔を和らげる。

 もし、ミチルを知っている人物が彼女の顔を見たら、さぞかし驚くことだろう。

 なぜなら彼女の顔は、ミチルの髪の毛をそのまま長くしたかのようで、鏡で映したかのようにそっくりであったからである。

 そんな少女とハクレイの触れ合いにミチルと他の聖団のメンバーとセージは微笑ましそうに笑っていた。

 

 「くっくっく、兄上、随分懐かれてますな」

 

 「セージ、茶化す出ないバカモン。子供を持つ身にもなってみるがいい」

 

 「まあいいじゃなーい♪『カズミ』ちゃんもおじいちゃんに会えて嬉しいよね~♪」

 

 「もちろんだよ!ミチルお姉ちゃん!」

 

 ミチルと会話するカズミと呼ばれた少女の頭を撫でながら、ハクレイは苦笑した。

 

 「全く、厳密にはお主はワシの孫ではなく、『娘』、なんじゃがのう、昴カズミよ」

 

 ハクレイは周囲に聞こえない声で、ボソリと呟きながら、自分の『娘』を苦笑いしながら、だが優しい瞳で見ていた

 

 

 恭介SIDE

 

上条恭介はベッドの上で、音楽を聴きながら自分の動かない腕を見つめていた。

 

病院の医師に宣告された。たとえリハビリを行ったとしてもこの腕はもう元には戻らない可能性がある、と。

 

 奇跡や魔法でもない限り、バイオリンを弾くことなど出来ないかもしれない、と…。

 

 その宣告を受けた時、恭介は呆然となった。

 

 もう、バイオリンを弾けない、もう、あのステージに立つことも適わない…。

 

 そう確信した彼の胸に浮かんだ感情は、絶望…。

 

 好きなバイオリンを弾けない絶望、自分の大好きな曲を思う存分弾くことが出来ない絶望…。

 

 恭介は、振るえる指でCDの音楽を止めた

 

 正直、聞きたくなかった。もう自分に弾けない曲なんて…。

 

 折角のさやかの好意で貰ったCDも、今では聞いても苦痛にしか感じなかった。

 

 どうすればいいんだろう。もうバイオリンの弾けない人生なんて、生きる意味があるんだろうか…。

 

 恭介が物思いに沈んでいた時、突然思考を遮るかのようにドアをノックする音が聞こえた。恭介はうつろな瞳でドアを見る。

 

 「…はい、どちらさまでしょうか?」

 

 「ああ、すまない、起こしてしまったかな?」

 

 と、扉の向こうから声が聞こえた、が、恭介には全く聞き覚えのない声だ。

 一体誰だろう、と黙って扉を見ていると、再び向こう側から声がした。

 

 「私は君の見舞いに来た者なのだが、部屋に入っても構わないかな?」

 

 聞き覚えのない声だが、声の音程からすると男性の声であることには間違いない。恭介自身は全く記憶にないが、ひょっとしたら自分が覚えていないだけなのかもしれないし、なにより自分の見舞いにわざわざ来てくれた人を無碍に追い返すわけにはいかない。

 

 「えっと、はい。どうぞ」

 

 「そうか、なら失礼させてもらうよ」

 

 恭介の了承を聞いて、声の主は病室のドアを開けた。

 その瞬間恭介は、入ってきた男性を見て、呆然となった。

 

 彼は緑色の髪の毛を首辺りまで伸ばし、青味がかったスーツを着ており、右手には白い包み紙で包まれた箱を持っている。その容姿は整っており、男である自分から見ても相当な美形であることが分かる。

 

 だが、恭介が気になったのは、彼が身に纏っている雰囲気だ。

 

 冬の風を纏っているかのようなまるで冷気のような雰囲気、何故か部屋が少し涼しくなったかのような感覚を覚えた。

 

 「君が上条恭介君か。いや、是非会いたいと思っていた」

 

 「えっと…、貴方は…」

 

 恭介は自分が全く知らない人物が自分の名前を知っていたことに驚きながら、彼の名前を尋ねた。

 

 「私の名前はデジェル。君のファンと言っておこうかな」

 

 恭介の問い掛けに、男性、デジェルはニコリと口元に笑みを浮かべて、名乗った。

 

 「えっと…、ファンの方、ですか…。それは、ありがとうございます。でも、残念ですが僕は今バイオリンを弾ける状態じゃなくて…」

 

 「気を使わなくてもいい。私はただのしがないファンさ。単に君のお見舞いに来ただけだ」

 

 そう言ってデジェルは、近くにある棚に持ってきた箱を置くと、近くの椅子に腰掛ける。

 

 「もし時間があるのなら、少し私と話をしてくれないかな?折角だから君と是非話をして見たいと思ってね」

 

 「話、ですか…?別に構いませんが…」

 

 見たところ怪しい人物でも無さそうであり、話をするくらいは問題ないだろうと考えた恭介は、デジェルの言葉に応じた。デジェルはニコリと笑みを浮かべると、両手の指を組み、恭介の顔をじっと見る。

 

 「では早速聞きたいことがあるんだが…、

 

 

 

 もしも自分の願いが叶う、例えば、もう一度バイオリンの演奏が出来るようになるとしたら、どうする?」

 

 「え…?」

 

 思いがけない問い掛けに、しばらく恭介は呆然となった。

しばらく頭を整理すると、恭介はデジェルに聞き返した。

 

 「…それは、腕の怪我が治るって事でいいんでしょうか?」

 

 「そうだ、だが、代償として君は、君の一番大切な人を失うことになるが、ね」

 

 「大切な、人…?」

 

 デジェルの表情は、先ほどとは違って真剣な面差しとなっている。恭介は、その視線に気圧されながら、恐る恐る口を開く。

 

 「その…、つまり、大切な誰かを犠牲にすることで、願いを叶えるって事ですか…」

 

 「そういうことになるな。

 バイオリニストとしての人生か、それとも自分の大切な人の命か…。

 

 もし、君がどちらかの選択を迫られたなら、一体どれを、選ぶ?」

 

 「…僕は…」

 

 デジェルの問い掛けに、恭介は、ただ俯いて沈黙することしか出来なかった。

 

 腕が動けるようになりたい、バイオリンを再び弾けるようになりたい。

 

 さやかと一緒に聞いていた曲を、この手で弾いてみたい。

 

 でも、でもその為に、自分の大切な人を、家族を、親友を、自分を応援してくれている人たちの命を…、

 

 犠牲に、出来るのか……。

 

 恭介は、頭の中で自問自答を繰り返した。

 

 でも、結局、答えを出すことが出来なかった。

 

 その様子を見て、デジェルも苦笑しながら肩をすくめた。

 

 「まあ、そう簡単に答えは出ないだろうな。君にとって、相当重い選択になるだろうから。ただ、これだけは言っておくよ。

 

 

 

 どんなに険しく、厳しい困難に見舞われても、君の側にいて、支えてくれる人が居るということを忘れてはいけないよ。君にとってその人が誰かは分からないが、その人との絆を、大切にすることだ」

 

 デジェルは恭介に言い聞かせるように、そう言った。恭介は、呆けたような表情で、デジェルの言葉を聞いていた。

 

 




 第四の黄金聖闘士、デジェルさんの登場です。本編じゃいまいち目立ちませんでしたけど・・・。敵一人も倒してませんし・・・。まあ外伝では熱い活躍が見れましたけど(氷の聖闘士なのに…)

 あとセージ、ハクレイの二人も登場。やっぱり積尸気使いは多い方がいいかと思いまして。
 そして外伝のプレイアデス聖団も登場させました。無論ユウリ様やカンナも登場させる予定です。
 ちなみにかずみは原作とは違ってミチルのクローンではありません。その説明は後日またということで・・・。
 次回は少々早いかもしれませんが例の第三話に入りたいと思います。そして、そこで第五の黄金聖闘士を出したいと思います。
 
 では今回はこれにて。よろしければ感想、御意見等をお願いいたします。私自身の励みになりますので。

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