いやまさかほんの筆遊びで書いたマブラヴクロスがあそこまで読まれるとは思ってもいなくて正直驚いています。
だったら早くこちらも完結させないといけないけど、マブラヴも書きたいし…。う~ん悩む…。
「ふう…、本当に疲れましたわ…。さやかさんとの追いかけっこは本当に何年ぶりでしょうか…」
「あ、仁美ちゃん!さやかちゃんなんとか撒けたんだ。早くお昼食べないと時間無くなっちゃうよ?」
まどかが昼食を終えて教室へと戻ろうとした時、仁美が心底つかれた顔をして教室から出てきた。どうやらあれからずっとさやかに追いかけ回されていたらしいが、だとしたら弁当を食べていない事になる。心配して仁美に問いかけるまどかだったが、それに対して仁美はまどかを安心させるように笑顔を向ける。
「もうまどかさんったら心配性なんですから…。心配しなくても御食事はしっかりいただきましたわ。はしたなくかきこんでしまいましたが…」
「さやかちゃんは?」
「今頃上条君とイチャイチャしながらお食事してる頃でしょうね…。全くさやかさんったら上条君を見つけたら突然私の事なんか目もくれずに上条君へ一直線…。全く追いかけられていたこっちの身にもなって貰いたいものですわ…」
溜息を吐きながらブツブツと愚痴をこぼす仁美、だがその表情は何処となく嬉しそうであった。恋慕っていた相手をとられた事への未練も嫉妬も欠片も見られない、むしろ何か憑き物が落ちたかのような晴れ晴れとした表情を浮かべている。
そんな仁美の話を聞いていたまどかは、仁美の愚痴っぽい話を聞き終わるとおずおずと彼女に心の中で気になっていた事を問いかけた。
「…ねえ仁美ちゃん、さっきさやかちゃんに言った事だけど…」
「え?ああ確かにガサツというのはちょっと私も言い過ぎたと…」
「そうじゃ無くて、上条君の事が好きだって言ったのが嘘だっていうの、なんだけど…」
まどかの言葉に仁美は口を閉じた。機嫌を損ねてしまったのか、怒らせてしまったのかと不安を抱くものの、まどかはそのまま言葉を続ける。
「仁美ちゃん、前言ってたよね?上条君の事が好きだって。だったら、なんでさやかちゃんに上条君なんか好きでも何でもないなんて嘘を…」
「まどかさん」
仁美の静かな、だがはっきりとした言葉にまどかは思わず口を閉じた。そんなまどかの様子に仁美は何処か呆れたような、それでいて微笑ましげに溜息を吐いた
「折角お二人が結ばれたと言うのに、そんな事を言ってしまうのは野暮ですわよ。それに、こうでもしないとさやかさんは踏ん切りがつかないじゃないですか」
「え?それって、どういう……」
「さやかさんは優しい方ですわ。上条君と無事にカップルにはなりましたけど、心の中ではきっと上条君を私から盗ってしまったと気に病んでいらっしゃいますわ。ですから私はさやかさんを後押しするために、上条君の事なんか別に何とも思っていない、たんにさやかさんの危機感を煽って無理にでも告白させる為にあんな事を言ったって事にしておいたのですよ。そうすればさやかさんも気兼ねなく上条君といちゃつける、というわけですのよ♪」
「え、えっと、いちゃつけるんだ……。あはは…。で、でも仁美ちゃん、もしさやかちゃんと上条君がイチャイチャしているのを見たら…、その、くやしい、とか考えちゃうんじゃ…?」
本来恋慕っていた相手を他人に奪われれば多少なりとも嫉妬等の負の感情を抱いてしまう物である。現にさやかも仁美が恭介の事が好きだと知った時には精神的に不安定になり、最終的にソウルジェムを濁らせる結果となって魔女化してしまった。仁美もまた恭介への恋心を抱いていたのならば、少なからずそういうモノを抱いているのでは…、と少なからず心配になって恐る恐る仁美に問いかけるまどか。
それに対して仁美は、まどかの問い掛けに一瞬キョトンとするとすぐに納得した様子で軽く頷いた。
「そうですわね…。まどかさんの言うとおり上条君の事は好きでしたわ。さやかさんに盗られてしまってくやしい、と思わなかったと言えば嘘になりますわね。でも、それよりも私は嬉しいんですの」
「嬉しい…?」
仁美の予想外のセリフに今度はまどかがキョトンとする。そんな親友の顔を見て仁美は面白そうにクスクスと笑いながら「そうそう」と頷く。
「だってさやかさんが上条君といるときの顔…、とっても幸せそうで…。見ているこっちも嬉しくなってきてしまうんですのよ?それを見ていたら、もうくやしいって思うのもバカバカしくなってきちゃって…。まあ失恋したばかりの私の前でイチャつかれるのは流石に勘弁してもらいたいんですけど、ね」
流石にジェラシーを感じてしまいますわ~、とおどけたように笑う仁美。そんな仁美の返答にまどかは呆けたような顔を浮かべてしまう。
仁美の表情にはさやかに負けた事への無念も嫉妬も感じられない。むしろ彼女は自分の親友が想い人と一緒になれた事を本当に素直に喜び、祝福している。無論振られた事への悔しさはあるのだろう、想いが実らなかった事が悲しいのだろう、でもそれ以上に親友の想いが成就した事を喜んであげている。そんな仁美の姿が、まどかにはとても眩しく見えた。
「ですから私はもう後悔も未練もありませんわ。今はさやかさんと上条君の中がうまくいって、二人が幸せになってくれればそれでいいんですの。それに、失恋もいい経験ですわ。ひょっとしたら上条君よりもずっといい殿方に巡り合えるかもしれませんし♪」
「仁美ちゃん…。うん!きっと大丈夫だよ!仁美ちゃんならきっと上条君よりもいい彼氏さんが出来るよ!」
「うふふっ!そしたらさやかさんにた~っぷり自慢話を聞かせて思いっきり悔しがらせてあげませんとね!」
クスクスと楽しそうに笑う仁美。そんな彼女の笑顔を眺めながら、まどかは心の底で安堵した。
まどかが恐れていた事、それは恭介がさやかと付き合う事になった結果、仁美とさやかが仲違してしまうのではないかという不安…。仁美とさやかの事を大切に思っているまどかは、それが何よりも怖かった。
でも、その心配は杞憂だった。仁美の笑顔を見てまどかは確信する。さやかと仁美の友情は、きっと壊れたりなんかしないと。これからもずっと、彼女とさやかは親友でいられるんだということが、まどかにとって何よりも嬉しかった。
「あっ!それからまどかさん、このことはさやかさんと上条君にはご内密に。もしも二人にばれたら折角気を使ったのに台無しになってしまいますから…」
「フフ、分かってるよ仁美ちゃん。二人には内緒だねっ」
まどかの笑顔に何を思ったのは仁美は慌ててまどかに先程の話をしない様に口止めしてくる。万が一彼女が事事を知ろうものならまたいらぬ心配をさせてしまい元の木阿弥となってしまいかねない、というよりさやかの性格からしてほぼ確実に仁美にいらぬ気遣いをしかねない為この事は知らない方がいい、自分が恭介の事は全く興味が無いと言う事にしておいた方がいいと考えたのである。
もう既に恭介にはこっそりわけを話して口止めはしておいたため、後は洗いざらい話してしまったまどかに黙っていて貰えば隠ぺい工作は完成する。親友に嘘をついた上に隠し事をするのは流石に仁美もあまり気分がよろしくないがこれも彼女の為である。まどかも仁美の気持ちを察したのかクスクス笑いながらコクリと頷いた。
「…ふう、これで何とか一件落着ですわ。さて、もう失恋パーティーは済ませてしまいましたし……」
「え?そうなの仁美ちゃん?」
仁美の言葉にまどかは思わずキョトンとしてしまう。そんなまどかの反応に仁美は肩を竦めた。
「ええ、上条君に振られてしまってすぐに。コンビニで買った雪見大福をやけ食いして憂さ晴らしをしましたわ。ああ、あの口に広がる冷たさと甘さ、そしてあのもちもちの触感が私の傷心を癒してくれて…」
「へ、へ~、そうなんだ…。って言うか仁美ちゃん、雪見大福好きなんだね?ちょっと意外だね?てっきり高級モノのケーキとかが好きなんじゃないかと…」
雪見大福を頬張っている時の事を思い出してうっとりとする仁美、そんな彼女の姿にまどかは思わず顔を引き攣らせてしまう。いかに幼い頃からの親友とはいえ、良家のお嬢様である仁美が百数十円程度で買えるアイスを山ほど頬張っているのがまどかには到底イメージできない。寧ろ先輩であるマミのようにティーカップを傾けながらケーキを優雅に頂く姿の方がイメージに合っている気がしてならない。
と、まどかの呟いた言葉を聞いた仁美は、ビクン!と身体を震わせるとゆっくりとまどかへと顔を向けた。
「え?ええ?ひ、仁美ちゃん?どうしたの?」
突如豹変した仁美にまどかは無意識に後ずさりしてしまう。そんなまどかの様子を知ってか知らずか仁美は真剣な表情でまるで機関銃の如くまどかに捲し立て始める。
「…まどかさん、何を仰られるのですか?雪見大福こそがこの日本において至高のスウィーツではありませんの!私は約一ヵ月間雪見大福のみでも飽きずにいられる自信がありますわ!それに志筑家でのお小遣いは毎月5000円ときっかり決められておりますの!お年玉だって5000円を超える額は残らず貯金されてしまいますことよ!高いお菓子ばかり買っていてはすぐにお財布は空になってしまいますわ!万が一の時の為にお金は取っておくものですわ!ま、あの時は少々羽目を外して散財してしまいましたが…」
「い、以外と庶民なんだね仁美ちゃんって…」
家柄やお嬢様そのものな口調に反して存外庶民的な感覚の持ち主な事、そして雪見大福に対して並々ならぬ執念を抱いている事を知って若干引いている。が、そんなまどかに構わず仁美はある決意を秘めた表情でまどかをジッと見据える。
「……どうやらまどかさんは雪見大福の素晴らしさというものを御存じないようですね…。ならばこの私がまどかさんにた~っぷりと雪見大福の素晴らしさをご教授いたしますわ!!」
「ウェ!?ちょ、ちょっと待ってよ仁美ちゃん!!もう昼休み終わっちゃうよ~!!」
「なら、今日の放課後にでもたっぷりとご教授いたしますことよ!!折角ですからコンビニでゆっくり雪見大福でも食べながら…」
「きょ、今日も放課後ほむらちゃんのおうちに行く予定なの~!!うえ~ん!!なんでこんな目に~!!」
結局仁美の雪見大福の素晴らしさについての講義は今週の土曜日、さやかと一緒にやると言う事で何とか落ち着いた。親友を巻き込んでしまった事を心の中でさやかに詫びながら、疲れ果てた様子でまどかは深々と溜息を吐くのだった。
そして時間は経過して放課後となった。
「さてと、それじゃあ行きましょうか。まどか、さやか」
「え、あ、う、うん」「はいよ。っていうかほむらの家に行くのって何気に初めてだよね?あたし」
先に歩いていくほむらを追いかけて教室を出て行くまどかとさやか。ちなみにまどかは一度ほむらのマンションに招かれた事があり、さやかも魔女化した際に氷漬けにされた身体を置かれていた。もっともその時のさやかは死体であり、目覚めた時には魔女の結界内に居た為実質初めてであるのだが…。
「あ~も~、今日折角恭介とデートしようって思ってたのに~。そしてそのまま恭介の家に連れ込まれてベッドに押し倒されて……いや~ん♪恭介のえっち~♪」
「やかましいわよ美樹さやか。何不純な妄想を浮かべてるの。そういうのはせめて私達のいない所でやって頂戴」
「あ、あはは……」
恭介とイチャイチャしているところを思い浮かべて黄色い悲鳴を上げながら身体をくねらせるさやか、そんなハイテンションなさやかにほむらは嫌そうな表情を、まどかは苦笑いを浮かべている。
どうも上条恭介と恋人同士になってからの彼女は前にも増してテンションが高くなっている。やはり念願の想い人と結ばれた事が嬉しいのだろう。それはそれで喜ばしいと言えば喜ばしいのだが、まどか、ほむらといった男性との出会いに今のところ縁が無い人間からすれば少々鬱陶しく感じてしまう。
付き合いの長いまどかは慣れているものの、ほむらは『この世界』の美樹さやかとはあまり接点を持とうとしなかった為、さやかのハイテンションには正直ついていけない。無論ほむらにとって今は彼氏など作っている時ではない、というより元々男子に興味など無い為正直言ってさやかの話などどうでもいい、どうでもいいはずなのだが、流石にあからさまに自慢げに話されると少なからずイラついてしまう。とはいえ苦情を言っても本人は全く聞く耳を持っていないようなので、結局無視する事になったのだが…。
と、さやかの惚気話を聞き流しながらまどかとほむらは校舎を抜け、校門へと向かう。そこにはほむらが二人と同じく誘いをかけた巴マミが、両手でカバンをぶら下げて待っていた。マミはこちらへ歩み寄ってくる三人に気がつくと笑顔で手を振ってくる。そんな彼女を見たほむらは呆れかえった表情でマミへと歩み寄った。
「巴マミ…。わざわざ待っていてくれたの?何なら先に行っていてくれても良かったのに…」
「だってどうせ行くなら皆一緒の方がいいじゃない?それに、さやかさんの彼氏さんの事についても色々と聞きたいし♪」
「え、ええっ!?彼氏だなんてそんな~♪それにマミさんもう恭介に会ってるらしいじゃないですか~。だったらわざわざあたしが説明しなくても…」
「まあそれはそうなんだけど、でもやっぱり色々聞きたいじゃない♪さやかさんが上条君の事を好きになった理由とか、彼との馴れ初めとか…」
「なっ、馴れ初め~!?いや~もう照れちゃいますな~♪別に馴れ初めなんて特別なモノじゃないんですよ~♪あいつとは小さい頃からの幼馴染で~…」
ほむらの家へと向かう道を歩みながらさやかは再び恭介との惚気話を開始する。マミは満面の笑顔でさやかの話を聞いているものの、散々聞かされまくっているまどかとほむらはうんざりした表情で二人を眺めている。
「…よく、飽きないわね、あそこまで同じような話して…」
「それだけ上条君と恋人になれた事が嬉しいんだよ。…ちょっとしつこいけどね」
「…ていうより上条恭介と恋人になったのは私の記憶が正しければ昨日の事だと思ったけど…?そこまで時間たってないわよ、ねえ…?」
「う、うん…、それは私も気になるんだけど、ね…」
お互いにそんな事を話しながら、背後で話をするさやかとマミをジッと眺める。
今は楽しそうに聞いている巴マミであるが、その笑顔が引き攣ったものに変わるのは何十分後になる事か…。まどかとほむらは二人の会話を聞きながら、そんな事を想うのであった。
暁美ほむら宅SIDE
その頃暁美ほむらが住居としているマンションの一室では、既に見滝原に住む黄金聖闘士達6人に、風見野市の魔法少女である佐倉杏子、そしてマミと同じ学年である魔法少女美国織莉子と呉キリカが集まっていた。
「後はまどか達が来るのを待つだけ、か…。しかしいかに広いとはいえマンションの一室にこれだけ人が集まるのは…。流石にほむらに悪い気が…」
「んな事言っても仕方ねえだろうが。別に何時間も居るわけじゃねえんだ。あいつもギャアギャア言うこたねえだろ?」
いかに広いとはいえマンションの一室にこれだけの人間が集まってしまった事に眉を顰めるシジフォスであったが、居候であるマニゴルドは別に気にした様子も無く肩を竦めている。一方もう一人の居候であるなぎさもこれだけ大勢の人間が来た事に特に気にした様子も無く好物のチーズを幸せそうな顔で頬張っている。
一方杏子は己が居候させてもらっている家の主、アルデバランとつい先程織莉子とキリカの二人と一緒にやってきた両目を閉じた僧侶姿の男が親しげに会話しているのを黙って眺めていた。が、やがて何もせずにいるのに飽きたのか僧侶姿の男と談笑しているアルデバランの側に近寄ると彼の服を引っ張って呼んだ。
「おい、おっちゃん。その坊さんみたいな服着てるの誰だよ?おっちゃんの知り合いかよ」
「ん?……おおそういえばお前はまだあった事は無かったな。コイツの名前はアスミタ。確かに見ての通り坊主の姿はしているが、これでも俺達の同僚、乙女座の黄金聖闘士だ」
「アスミタという。…まあ坊主というのもあながち間違いではないがな。聖闘士との二足の草鞋といったところか…。それで君が、佐倉杏子でいいのかな?」
僧侶姿の男、乙女座のアスミタは微笑を浮かべながら杏子へと顔を向けてくる。まるで何処かの貴族のような気品すら漂わせる整った容貌はまだ若々しく、見たところまだまだ20代前半程度にしか見えない。だが杏子が気になったのは彼の閉じられた眼。細目ではなく完全に瞼が閉じられており、目の前の杏子すらも見えているとは思えないのに顔はちゃんと杏子へと向けられている。
「あんた、もしかして目が…」
「いかにも、私の両目はこの世に生を受けた頃より閉ざされている。故に君の顔をこの目に映す事は叶わない。だが目が見えぬ代わり私には心の目が開かれている。故に常人よりも物事は良く見えているつもりだ。…逆に見えすぎて困ることもあるがね」
「心の、目…?なんだそりゃ?」
「常人の目では見えないものが見えるようになる、と思えばいい。説明するには少々面倒くさい代物だからな」
なにやらはぐらかすような説明をするアスミタ。杏子は訳が分からなさそうな顔をしながらふーん、と気の無い返事をする。
恐らくアルデバラン達の言う小宇宙みたいなもので自分を認識しているのだろう、と杏子は勝手に解釈する。そんな杏子をアスミタはどこか興味深げに眺めている。
「……フム、なるほど。アルデバランから聞いてはいたが、確かに君はあの男に似ている」
「んあ?あの男?誰だそれ」
アスミタの意味深な言葉にキョトンとする杏子。確か杏子がアルデバランと最初に出会ったときにも自分が誰かに似ているとか何とか言っていたが…。
杏子の質問にアスミタは肩を竦めた。
「ああ、かつて私達と戦った男の事だよ。少々荒っぽい所があったが邪悪な男ではなかった。まあ男女の違いはあるが、君と彼とは何処か似ていてね、懐かしく感じたのだよ」
「男に似てる、ねえ…。何か複雑だな…」
アスミタの言葉に杏子は苦虫を噛み潰したかのような顔をする。そんな彼女をアスミタは黙って笑いながら眺めている。と、アスミタは何かを思い出したかのように軽く手を叩いた。
「そういえばまだ君に紹介をしていなかったな…。…織莉子、キリカ、ちょっと来てくれないか?」
「え?あ、はいアスミタ様」
「ん~?神様何か呼んだ~?」
アスミタに呼ばれて部屋を見ながら何かを話していた二人の少女がアスミタへと近付いてくる。一人は美しく輝く銀色の長髪が特徴的な美少女であり、まるで『深窓の令嬢』という言葉がそのまま人物そのものになったかのような優雅さと気品を湛えている。もう一人は黒い短髪の少女であり銀髪の少女とは真逆に活発そうなイメージを想起させる。
二人共見滝原中学の制服を着ている事から、マミ達と同じく見滝原中学の学生である事が分かるものの、杏子は彼女達の事は全く知らなかった。最も見滝原中学など殆ど近寄ったことすらなかった為当然と言えば当然だが。
「紹介しよう。見滝原中学に通っている美国織莉子と呉キリカ。奇しくも君の知り合い、巴マミとは同学年だ。どうか仲良くしてやって欲しい」
「貴女が佐倉杏子さんですか。美国織莉子と申します。以後よろしくお願いします」
「ふ~ん、君があの魔法少女ねェ…。呉キリカだよ~、よろしく~」
「お、おう…、よろしく…」
織莉子は丁寧にお辞儀し、キリカは興味ありげに杏子を眺めながら軽い感じで挨拶をする。杏子も織莉子の態度に若干恐縮しながら自分も挨拶を返すと、アスミタが連れてきたと思われる二人をチラチラと観察する。
どうもこの二人は自分の事を知っているらしい、恐らくこのアスミタという黄金聖闘士が自分の事を話したのだろうが、だとしたら彼女達は…。
「なあ、こいつらって…」
「ふむ、分かったか。察しの通り、彼女達も故あって魔法少女に契約している身の上だ。無論ソウルジェムについての処置は終わっているがね」
杏子が問いかける前にアスミタは早々と返答を返す。何でも彼女達も杏子と同じく見滝原在住の魔法少女であり、アスミタは織莉子の屋敷に居候している身だと言う。ちなみにソウルジェムはアスミタの手によって既に彼女達の体内に戻されているとの事だ。
「…っておい、ソウルジェムを元に戻すのそこの蟹の兄ちゃんしか出来ないんじゃねえのかよ?」
「いや、一応アスミタもどうやるのか知らねえがそれ位なら出来るらしいぜ?冗談抜きで何するのか知らねえが、まあコイツは『最も神に近い男』だの何だの言われてやがるから冥界波もどきでも使えるんだろ」
「『最も神に近い』~?何だかちっとばかし胡散臭くねえか?どこぞの新興宗教の教祖か何かみてえな…」
マニゴルドの返答に杏子は胡散臭げな視線をアスミタに向ける。そんな杏子の態度に黄金達は苦笑い、一方織莉子とキリカはアスミタの事を信頼しているのかあまり良い顔をしていない。
そして胡散臭いと言われたアスミタは特に怒る様子も無く平然としながら杏子へと顔を向けている。
「フム、まあ『神に近い』とは確かに胡散臭いあだ名だな。最も私自身は自分の事をそんな御大層な人間だとは思っていないがな。私はあくまで君達と同じ一市民、そこまで凄い人間ではないよ」
「そ、そんなっ!アスミタ様がいらっしゃらなかったら今の私はいません!!見滝原中学に転校する事も、ましてやキリカと親友になる事もありませんでした!!」
「そうそう!私と織莉子は神様が巡り合わせてくれたようなものなんだから!!コラ杏子!早く神様に謝るんだ!!さもないとバチが…」
「ちょっ!?あたしのせいかよ!!全部あたしが悪いのかよ!!」
アスミタの言葉に反論しながら杏子を睨みつける織莉子とキリカ。その土器の籠った眼光に流石の杏子も思わず尻込みしてしまう。杏子は助けを求めるように周囲を見回すが、黄金聖闘士達は面白そうにこちらを眺めるだけで誰も止めに入る気配は無い。完全に野次馬に徹するつもりのようだ。なぎさは…、チーズに夢中でこっちには全く気が付いていない。
杏子は憎々しげに歯ぎしりしながら織莉子とキリカの鋭い眼光に身を縮ませた。確かに己も言い過ぎたかもしれないが何もここまで怒らなくても…。杏子は頭痛でも起こしたかのように頭を押さえた
「いやいや織莉子、キリカ。君達が掛け替えのない友となれたのは私の力ではない。私がいなくとも遅かれ早かれ君達は巡り合って親友同士になれてたさ。私はそれを手助けしたに過ぎない。それにキリカ、何度も行ってるが私は神ではない。あくまで君達と同じ人間だ。彼女に言われたことなど気にしていないからそう目くじらを立てるな」
「アスミタ様…」「か、神様…」
流石に見かねたのかアスミタは三人の間に割り込み、織莉子とキリカを宥め諭した。アスミタから諭された二人は戸惑いながらも怒りを収める。二人の怒りが収まった事に安堵して、杏子は深々と溜息を吐きだした。
と、今まで閉まっていた玄関の扉が開いて、織莉子、キリカと同じく見滝原の制服を着た四人の少女が部屋へと入って来た。
この部屋の主であり、皆を集めた本人である暁美ほむらと、彼女のクラスメイトである鹿目まどかと美樹さやか、そして三人の先輩である巴マミである。
ほむらは部屋を見回すと表情も変えずに頷いた。
「全員、集まっているようね。よかった、これなら話を進められるわ」
「あ、アルバフィカさんもいらっしゃったんですか!!……って、美国さん!?何でここに!!」
「おお~、何か全員勢ぞろいって感じで壮観だね~。ほれほれまどかちゃん?貴女の王子様もいらっしゃいますぞ~?」
「さ、さやかちゃん~!!お、王子様って、シジフォスさんはそんなんじゃ~!!」
ほむらの後から入って来た三人の少女達は部屋に集まった聖闘士達を見て口々に何やら言葉を出している。ほむらは彼女達に構わず家の留守番をしていたマニゴルドへと歩み寄る。
「ふう…、存外集まったわね…。まあそれよりもマニゴルド、黄金聖闘士もう一人いるなんて聞いてないわよ?」
「いやしょうがねえだろ。うちらの雇い主がアスミタこっちに送るなんて一言も言ってねえんだし。分かったのつい最近なんだぜ?ほれ、さやかが魔女化した時。言ってる場合じゃねえだろ?」
乙女座のアスミタという黄金聖闘士がいると言う事を聞いていなかったほむらは、ジト目でマニゴルドを睨みつけるが、マニゴルドは特に気にした様子も無く肩を竦めるだけであった。
「さて、それじゃあほむら、皆集まったようだしそろそろ始めるべきではないのか?まだ時間はあるが、無駄には出来まい?」
「…ええ、もちろんよアルバフィカ。それじゃあ三人共、すまないけれど適当にソファーに座ってくれないかしら。そろそろ話を始めたいから…」
アルバフィカに促されたほむらは、未だに会話を続ける三人に呼びかける。ほむらに呼ばれたまどか達は慌てて空いてるソファーへと腰掛ける。織莉子とキリカ、そして先程までチーズを食べていたなぎさもまた彼女達と同じくソファーに腰掛けた。
「ふう…、それじゃあ話させてもらうわね。これから見滝原に起きる事と、……私自身の事についてを…」
最後にソファーに座ったほむらは、軽く息を吐くとゆっくりと語り始めた。
己自身の事を、己が一体何者であるかという事を…。
仁美ちゃんあれこれ言われていますけど実際は友達思いないい子だと思うんですよね。実際劇中でもさやかちゃんの葬式で落ち込んで立って場面もありましたし…。
あと雪見大福好きっていうのは作者の創作です(爆)!!仁美ファンの皆さん、本当に申し訳ない…。これでも仁美ちゃんには優しくしたつもりなんです…。