魔法聖闘士セイント☆マギカ   作:天秤座の暗黒聖闘士

27 / 52
 なんとか11月終わる前に新作投稿できました…。これでようやく杏子と家族の一件は決着ということに…。
 しかし他作品の技アレンジして出すのも大概にしたほうがよさそうですね…。あまり使いすぎるとパクリだなんだと言われてしまいそうです。


第23章 一つの結末、忍び寄る双影

 風見野市の外れにポツリと存在する教会の廃墟…。その礼拝堂の内部は、つい数時間前に魔女と魔法少女の激闘があったとは思えない程に静まり返っている。

 その魔女と激闘を繰り広げた魔法少女、そしてこの教会の神父の娘である佐倉杏子は、魔女との戦いの疲労から礼拝堂の長椅子で眠りこんでいた。

 その眠っていた杏子の瞳が、うっすらと開かれる。首を動かして礼拝堂のステンドグラスを見上げると、そこから差し込む光が僅かに傾いている。どうやら結構長く熟睡してしまったようであり、杏子は眼を擦るとゆっくりと上半身を起こす。

 

 「ん…、く、アアー…。随分寝ちまったかな…」

 

 「おお、起きたか。随分長々と寝ていたな。もう夕方だぞ」

 

 杏子は大きく伸びをすると長椅子から下りようとするが、膝に何か乗っており、足を椅子の下におろす事が出来ない。

 不審に思って目を下ろすと、何故か自分の膝の上にゆまが頭を乗せて眠っていた。その頬には何故か涙の流れた痕が残っている。

 

 「泣きつかれて寝てしまった。こいつも随分と心配していたぞ?お前が傷だらけになっていくたびに飛び出そうとするのを止めるのも一苦労だった」

 

 杏子の内心の疑問に答えるようにアルデバランはそう言うと、杏子の膝からゆまを起こさない様にゆっくりと持ち上げる。

 持ち上げられたゆまはぐずるように一度唸ったものの、アルデバランに優しく揺すられている内に安心したように再び寝息を立て始めた。

 そんなゆまを呆れた表情で眺めていた杏子は、ふと自身の体に違和感を感じた。

 

 「あれ?あたしの怪我、治ってねえか?」

 

 杏子は自らの身体をしげしげと見ながら腕を回したり首を捻ったりと身体の調子を確かめる。

 銀の魔女との戦いの後、杏子は碌に傷も癒さずに眠ってしまった為、魔女との戦いで受けた傷はまだ残っているはずなのである。なのに杏子の腕や足、恐らくは身体と顔にも掠り傷一つついておらず、魔女と戦う前のように傷は完治していた。

 

 「ああ、それならマニゴルドの奴に治させた。あいつにも色々と責任があるしな。これくらいさせても罰は当たらんだろう」

 

 「ケッ、ったく何だか今日は俺ばっかり働いてる気がするぜ。ま、アンタじゃヒーリングは出来ねえだろうから俺がやるしかねえんだろうがよ」

 

 「………!!」

 

 杏子の疑問にアルデバランが返答すると、祭壇の前に腰かけているマニゴルドが面倒そうに舌打ちする。マニゴルドが居る事に気がついた杏子は長椅子から跳ね上がると指輪をソウルジェムに変化させて握りしめ、マニゴルドを睨みつける。

 亡霊とはいえ自分の父親を焼き殺そうとしたり魔女を復活させて自分と戦わせたりしたため、いくらアルデバランと同じ黄金聖闘士とはいえ、いい印象を抱けるはずが無い。

 警戒心を露にした視線で睨みつけてくる杏子にマニゴルドは両手を掲げて敵意が無い事を示す。

 

 「そんな顔すんなって。勝負はお前の勝ちだ。約束通り親父の処刑は止めにしてやるしこれ以上テメエに手はださねェよ」

 

 「大丈夫だ杏子、あいつはもうお前とお前の家族にこれ以上手は出さん。たとえ手を出しても、俺が叩きのめすから安心しろ」

 

 「ほーう…、随分な事言ってくれんじゃねえのアルデバランさんよ?同じ名前のかませな後輩みてェに俺のかませになるのが関の山なんじゃねえの?」

 

 「ぬかせ。お前こそあの悪趣味な後輩共よろしく死界の穴なりマグマの池なり蹴り落とされなければよいのだがな」

 

 アルデバランの言動に、マニゴルドは好戦的な笑みで挑発する。アルデバランもそれに応じるかのように凄絶な形相で鋭い眼光を向ける。

 二人の黄金聖闘士の尋常ではない威圧感と闘気に、流石の杏子もその場から動く事も、声を上げる事も出来ず、ただ目の前の黄金の闘士達をジッと凝視する事しか出来ない。

 当の二人はそんな杏子にお構いなしに睨みあいを続けていた。このまま千日戦争に突入するか、…と、思われたが…。

 

 「…ふー、やめだやめだ。子供の前で喧嘩してどうする?」

 

 アルデバランは威圧感を収めて表情を和らげると、ゆまを抱えた両腕を優しく揺らす。ゆまはアルデバランの闘志に反応したのか顔を歪めて今にも起きそうな様子であったが、アルデバランに優しく揺すられて再びうとうとと眠り始めた。そんなゆまをアルデバランはやれやれと言いたげな、それでいてまるで父親のような笑みで眺めていた。

 そんなアルデバランの姿にマニゴルドは呆れたような表情をしていた。

 

 「…ふん、随分とまあ子煩悩なことで…。ま、もし俺とテメエが闘り合ったらまず間違いなくテメエの腕ン中の嬢ちゃんとそこのガキは巻き込まれらァね。ま、俺は別にいいんですけど?やるもやらないもテメエの勝手だ」

 

 「フン、口は達者な奴だな」

 

 相変わらずの減らず口に、アルデバランは苦笑いを浮かべる。

 そんな二人の雰囲気の変化に、ただ見ているだけの杏子は理解できないのか目を白黒させている。

 

 「お、オイ、おっちゃん…」

 

 「大丈夫だ大丈夫だ。ついつい頭に血が上ってしまったが、こんな状態であいつとはやらんよ。というより聖闘士は鍛錬や模擬戦を除いて死闘は原則禁止だからな」

 

 先ほどの一触即発の様子とは異なりあっけらかんとした表情を浮かべるアルデバランに、杏子も呆気にとられていた。視線をマニゴルドのほうに動かすと、一度こちらを見ただけで直ぐに顔を背けてしまう。杏子はその態度に少し不満を覚えながらも、取りあえず黄金二人の激突が無くなった事に安堵して、長椅子に座りこむと疲れたように背もたれに寄りかかった。

 

 「しっかしなー…、まさか、また使えるようになるなんてな…」

 

 「ん?幻覚魔法の事か」

 

 椅子に座り込んだ杏子がボソリと呟いた言葉にアルデバランが反応する。杏子は黙って頷いた。

 

 「あ、ああ。なんだか分かんねえけど突然使えるようになったからさ。あたしにもよく分かんなくてよ…」

 

 杏子にとって一番の疑問はそれだった。

 家族の死の後、突如として使う事が出来なくなった杏子の固有魔法、幻覚魔法。

 長い間使うことすら出来なかったそれが、魔女との戦いの最中にいきなり使えるようになり、杏子は少なからず戸惑っていたのだ。

 杏子の疑問を聞いたアルデバランは、顎に手を当てて考える素振をする。

 

 「恐らくそれは、お前が過去を乗り越えたからだろうな」

 

 「…は?過去を乗り越えた、だ?」

 

 「お前はあの時、家族を自分の願いのせいで犠牲にしてしまった事を後悔していた。それ故に己の願いそのものを否定し、己の願いによって生まれた魔法である幻覚魔法そのものも無意識に拒絶してしまったのだ。だからお前は今の今まで幻覚魔法が使えなかった。

 だがお前は、今己の過去を、己自身の罪を乗り越えて成長した。だからこそお前の封印されていた魔法が、解き放たれたと言うわけだ」

 

 「……」

 

 アルデバランの言葉に、杏子は黙って俯いた。

 確かにかつて、自分の家族が心中した時、自分はこんな力はいらない、こんな力があったせいで…、と、強く自分の幻覚魔法を拒絶していた。

 アルデバランの言うとおり、マミと決別した後も家族の死を引きずって、ずっと心の中でこの魔法を拒絶していたのだろう。だから今まで幻覚魔法を使えなかった…。

 

 「…けど、あたしが家族の死を乗り越えたから、過去を振り切ったから幻覚魔法が使えるようになった…。そう言いてえのか?おっちゃん」

 

 「まあ推測も入っているがな。他にも魔女との戦いで追い詰められた際に火事場の馬鹿力で、と言うのもあるかもしれん。若しくは両方が原因なのかも知れんぞ?」

 

 アルデバランは肩を竦める。杏子はふーん、と気のない返事を返すと何気なしに自分の指に嵌められたソウルジェム、今の自分自身の魂に視線を落とした。

 これが自分の魂…。マニゴルドにそう言われたものの今一つ実感がわかない。彼曰く人間かゾンビかは本人の気持ちの持ちよう次第とか言っていた。

 自分としては魂が何処にあろうがこれから生きていくのに支障さえ出なければどうでもいいと考えている。しかし、他の魔法少女は、自分の師であった巴マミや新しく魔法少女になったあのさやかと言う少女は、一体どう思うのだろうか…。

 杏子はぼんやりとそんな事を考えていた。

 

 「それにしてもマニゴルド、幾ら杏子に幻覚魔法を取り戻させるためとはいえよりにもよって魔女を強化させてぶつけさせるとは何を考えているんだ!

 もし杏子が死んだらどうするつもりだ!まあそうはさせるつもりは無かったが、な」

 

 「だろうな。アンタの事だ、もしギーゼラがそのガキ轢き殺そうとしたらグレートホーンブチかましてやがっただろうぜ。一応俺も殺さねえように手加減しろとギーゼラに言って聞かせちゃあいたんだがねェ、どうもこいつにぶっ殺されたから仕返ししたいだの何だの言ってやがったからチットばかし歯止めが聞かなくてなァ」

 

 アルデバランは杏子を魔女と戦わせた事でマニゴルドに抗議の視線を送るが、マニゴルドは悪びれる様子無く視線を軽く受け流す。

今回のマニゴルドの計画は、父親を追い詰め、杏子自身を追い詰める事で幻覚魔法を覚醒させることが目的だった。

とは言え父親を鬼蒼焔で炙るのに半分私情が籠っていたのは事実であるし、銀の魔女の制御も魔女自身の私怨からか若干上手くいっていなかった。それについてはマニゴルド自身ミスだと感じて反省はしている。

アルデバランとマニゴルドの言い合いに杏子は何気なく顔を上げた、が、その瞬間、杏子の表情が一瞬変わった。

いつの間にいたのか、杏子の目の前には亡霊となった自分の家族達が立っていたのだ。いかに相手が幽霊だと知っていても杏子は流石に驚いて目を丸くする。が、すぐに平静を取り戻すと目の前の家族達を小馬鹿にするように軽く鼻を鳴らした。

 

「ふん、無事だったかよ。ま、勝負はあたしの勝ちみたいだから当然っちゃ当然だけどな。ま、助かっておめでとう、とでもいうべきかね」

 

 『杏子…』『おねーちゃん…』

 

 「親父、おふくろ、もも…」

 

 杏子は目の前の亡霊達をジッと見つめる。

 その表情にはこの教会で初めて亡霊と邂逅した時の何かを恐れ、怯えているような気配は微塵も感じられない。むしろ何処となく余裕のある表情を浮かべて、家族をジッと眺めている。

 父親はそんな娘の雰囲気の変化に何ともいえないまま、おずおずと口を開く。

 

 『杏子…なんで、なんで私の為に、そこまで無茶を…』

 

 「何度も言わせんな、テメエの為じゃねえ。これはあたしが勝手にやったこと、あたしがやりたいからやっただけだ」

 

 杏子はうっとおしそうに顔を背けてヒラヒラと手を振る、が、亡霊達はそのまま黙ってこちらをジッと眺めている。怨念でもなく、かといって悲しみでもない。ただ杏子に何かを言いたそうにこちらを見ている。

 杏子は軽く舌打ちすると再び家族に顔を向ける。

 

 「……んで、親父、おふくろ、もも、あんたらまだあたしに言いたいことあるのか?また会えるとも限らねえんだ。後腐れの無いよう言いたいことがあんなら言えよ」

 

 『………』

 

 杏子の催促に、家族達は一度黙りこむ。

 言いたい事があるなら言え、そう言われたはいいものの、家族達には彼女に言いたい事、謝らなくてはならない事が多すぎて、咄嗟には口が開けない。

 やがて、父親がまるで喉から絞り出すかのように口を開いた。

 

 『杏子…どんな理由でも、たとえ、私を助ける気が無かったとしても、お前は私を救ってくれた。だから…ありがとう杏子。そして…すまなかった…』

 

 父親は地面に倒れるように跪く杏子の父。杏子は何を考えているのか分からない無表情で父の姿を眺める。

 

 『私の、私のエゴが…!つまらないプライドが…!!お前を追い詰めて、孤独を味あわせることになってしまった…!!何度謝っても足りない、いや、もう謝っても許されることではないことは分かっているそれでも…それでもお前に、ただ一言謝りたかった…』

 

 「……許されねえと分かっていて謝んのかよ。なんのつもりだ?せめてもの罪滅ぼしかよ」

 

 杏子の感情のこもらない問いかけに、杏子の父親は力の無い笑みで首を振る。

 

 『そうじゃない…、これはいわば、私の自己満足だ。お前に恨まれ、呪われて、お前の背負っている苦しみを肩代わりしてやりたい…、そして、それを背負って地獄へと堕ちる、それが私のせめてもの罰であり、贖罪だ…。だが、だが地獄に落ちる前に、もう二度とお前に会えなくなる前に…』

 

 父親は目の前の娘を、自分が死んだ時よりほんの少しだけ成長した娘を見上げ、今にも泣き出しそうな笑顔を見せる。

 

 『お前に謝り…そして礼を言いたかった…』

 「親父…」

 

 そんな父親の姿を見て、杏子の顔に僅かだが感情が浮かぶ。

 そして、父親に釣られるように、母親と妹も地面に座り、杏子をジッと見つめる。

 

 『私も…、謝らなくちゃいけない…。私がふがいなかったせいで、貴女に背負わなくてもいい事を背負わせてしまって…。私の娘なのに…、私の血を分けた愛しい子供なのに…。

 私は何もかも貴女のせいにしてしまった…。お父さんが狂ったのも、私達が心中する事になったのも、全部魔女の貴女のせいだって…。私がお腹を痛めて産んだ…貴女の…せいだって…。

 ごめんなさい、杏子…。もう謝ってすむ事ではないかもしれないけど…。せめて、せめて一言だけでも謝らせて…』

 

 「お、おふくろ…」

 

 『おねーちゃん…、ごめんなさい…。それから…もも達のために、魔法少女になってくれて…、ありがとう…』

 

 「…もも…」

 

 自分に謝り、そして礼を言ってくる家族達に、杏子は思わず手を伸ばそうとして、慌てて引っ込める。

 今の家族達は亡霊、魂だけの存在であり実体がない。だから触りたくても触る事は出来ず、抱きしめてやることも出来ない。

 杏子は手を強く握りしめると黙って俯いた。そんな杏子の姿を、亡霊となった家族達は痛々しげに、そして罪悪感に満ちた表情で見つめている。

 

 「許さねえ…」

 

 と、沈黙していた杏子の口から震えるような声が漏れだす。杏子の家族は杏子の言葉にえっ、と驚いた表情を浮かべると、杏子は俯けていた顔を上げると目の前の亡霊達をキッと睨みつける。呆気にとられた表情を浮かべる家族達を睨みつけながら、杏子は口を開いた。

 

 「許さねえ、絶対に許さねえ。アンタがあたしにしてきたことも、おふくろ達があたしを見て見ぬふりした事も、絶対に許さねえ、一生忘れるつもりはねえ。だから…!」

 

 瞬間、杏子の瞳が潤み、双眸から涙が零れ落ちる

 

 「だから、まだ成仏するんじゃねえよ…」

 

 杏子は涙を流しながら、家族に向かって懇願するように訴えかける。そんな杏子の言葉を、家族達は呆然と杏子の言葉を聞いていた。杏子は構わずに話し続ける。

 

 「もう、もうアンタ達は死んでいる、あたしと同じようには生きられねえ。だから、だからあたしはアンタ達が泣いて悔しがる位最高の人生を送ってやる!!あたしはあたしの、誰にも縛られる事もねえ、悔いのねえ人生を送って、畳の上で笑いながら死んでやらァ!!

 だから、その時まで成仏せずにこの教会に居ついて居やがれ!!アンタらの娘が、お前の姉が、どんなにハッピーな人生送るのか見届けて悔しがってろ!!

 それが、あたしからアンタ達への……罰だ」

 

 『きょう、こ…』

 

 杏子の言い放った言葉に呆然とする家族を尻目に、杏子は乱暴に涙を拭う。涙を拭いとった杏子が改めて家族達に視線を向けると、家族達は信じられないと言いたげな表情でこちらをジッと見つめている。そんな家族達の姿を見た杏子は面倒くさそうな表情で髪の毛をグシャグシャと掻きまわす。

 

 「そんな顔するんじゃねえよ。あたしももう言いたい事は言い尽くしちまった。もうこれ以上死人に鞭打つ事はしねえよ。幾ら死んで幽霊になっちまったとしても、あんたらは…その、なんだ、か、家族なんだから、よ!」

 

 『…!!きょ、きょうこ…!』

 

 『きょうこ…まだ、私達を、家族って…』

 

 『お、おねー、ちゃん…!!』

 

 亡霊達が自身の言葉に驚愕して、信じられなさそうな表情を浮かべるのを見て、杏子は顔を赤くして「あーあ…ったく柄じゃねえってのによ…」と呟いている。

 

 「…だから、これがあたしの最後の罰だっつってんだろ?あたしが死ぬまでアンタ達は此処から離れることは許さねえ。この教会が取り壊されてもずっとずっと此処に居続けろ!!

 …まあ偶には墓参りくらいはしてやるよ。今までの自慢話のついでにな」

 

 『杏子…!!お前って奴は…!!』

 

 『杏子…!!ううっ…』

 

 『おねーちゃんっ…。だいすきだよっ!おねーちゃん!!』

 

 「だーかーらっ!偶にだってのた・ま・にっ!それに気が向いた時限定だっての…って近寄ってくんな!!そんな近寄るな冗談抜きで怖いっての!!」

 

 自分に向かって涙を流しながら迫ってくる亡霊達の姿に、杏子は後ずさりしながら絶叫を上げた。

 

 

 

 

 「まーったくマジで甘ったるいガキだぜ。自分の為にしか魔法使わねェだの何だのほざきながら結局人の為に行動してやがらァ」

 

 「そう言ってやるな。あれがあいつのいいところなのだからな」

 

 家族の亡霊に抱きつかれて悲鳴を上げる杏子の姿を、マニゴルドは呆れた表情で、アルデバランは面白そうに眺めていた。

 既に死んでこの世のものではなくなったとはいえ杏子は自らの家族と和解することができた…。欲を言えば生きている頃にしてもらいたかったものだが、そこまで言うのは贅沢というものだろう。マニゴルドも呆れながらもどこか満足そうな笑みを浮かべている。

 と、杏子の叫び声がうるさかったのか、アルデバランの膝の上で寝ていたゆまが体を震わせると薄らと目を開ける。

 

 「…んみゅ…ふぁ…あれ?おじちゃん?」

 

 「ん?おお、なんだ起きたかゆま?」

 

 「うん……あれ?キョーコ何してるの?」

 

 何やらじたばたともがいて後ずさりしている杏子の姿を見て、ゆまは不思議そうに首をかしげる。幽霊を見ることができないゆまからみれば、今の杏子は一人でじたばたともがいているようにしか見えない。そんなゆまの様子にアルデバランは笑いながら彼女の髪の毛をなでる。

 

 「ああ、あいつは今、あいつの本当の家族と話をしているんだ」

 

 「ほえ?かぞく?ゆま見えないよ?」

 

 「はは、何時かお前にも見えるようになるさ。いつか、な」

 

 「ておいおっちゃん!!ゆま!!和やかに話してねえで助けてくれ!!あ、あたし実は幽霊が、幽霊が苦手なんだよチクショー!!」

 

 恐怖に満ちた絶叫を上げる杏子を尻目に、アルデバランとゆまは和やかに会話していた。

 そんな光景をマニゴルドは、「やれやれ、杏子ちゃんも大変ですねー」とニヤニヤ笑みを浮かべながらのんびりと見物していた。

 

 

 

 ???SIDE

 

 

 「あーあ…ったくあすなろ市は本当に不作だったなー…。グリーフシードもソウルジェムも…」

 

 同じころ、見滝原のとあるビルの屋上で、一人の少女が憤懣やるかたなしといった表情でブツブツと独り言を呟いている。

 

 「魔女もあらかた狩られているし魔法少女もいやしない…。いてもソウルジェム持ってない魔法少女もどきだけって、何これイジメ?完全に無駄足じゃん!ったく…」

 

 コンクリートの床を蹴りつけながら、少女は虚空に向かってイラついたような声を上げる。少女が一人で怒鳴り声を上げていると言うのは傍目から見ても奇妙な光景ではあるが、幸いと言うべきかこの場には少女以外誰も居ない。そう、誰も居ない、はずなのである。

 

 「…ん?そう思う?そう思うよねェ全く!!あのプレイアデスとかいう連中、本当に余計なことしてくれるよね!?ルカもそう思うでしょ!?」

 

 少女はまるで、誰かに話しかけるかのように一人で怒鳴り続ける。

 目の前の虚空に向かい不満をぶつける様子は、さながら自分の友人か家族に不満をぶつける少女そのものである。

 だが、少女の目の前には誰も居ない。というより、このビルの屋上には少女以外人間どころか猫一匹すら居はしない。そんな何もいない場所で、少女は一人、不満をぶつけ続ける。が、あらかた不満をぶちまけ終えたのか、少女は不満げな表情から一転して満面の笑顔を浮かべる。

 

 「まあいっか!ここには魔女も魔法少女も結構いるだろうし!ソウルジェムを狩るついでにグリーフシードもひと稼ぎ…んー!!いいね♪」

 

 少女はビルのフェンスに飛び移るとバレエでも踊るかのように飛んだり跳ねたりはしゃぎ回る。一歩でも踏み外せば地上に真っ逆さまで落ちるのを顔に汗一つかくことも無く平然としている。

 

 「さてと!泊るところも決まったし明日から早速狩りでも始めよっか!まずは手始めに…」

 

 少女はビルの真下を見下ろしながら、まるで獲物を見つけた肉食獣の如き不気味な笑みを浮かべて舌なめずりする。

 

 「…あの青い子の。初心者でチョロそうだし、ソウルジェムもきっと綺麗なんだろうなぁ。フフッ、決めた。まずはあの子から狩らせてもらおっか♪」

 

 少女の視線の先には、マミとまどかと一緒に歩く、美樹さやかの姿があった。

 

 

 おまけ もしもLC黄金がΩ第一期を見たら

 

 本編開始前 別外史北郷邸にて

 

 

 デジェル「……」

 

 エルシド「……」

 

 カルディア「……」

 

 レグルス「……」

 

 マニゴルド「……」

 

 アルデバラン「何だこの重苦しい雰囲気は、お通夜か何かか」

 

 シジフォス「さあな、来た時にはこうなってたから原因も分からん。一体何がどうなっているのやら…」

 

 アルバフィカ「さて、な…取りあえずあの五人に話を聞いてみるしかないだろう…。おい、マニゴルド、デジェル、カルディア、エルシド、レグルス。一体どうしたと言うんだお前達は…」

 

 マニゴルド「よお…元負け組黄金四天王の御三方…。負け組卒業おめでとうござい…、ってか」

 

 アルデバラン「誰が負け組だ誰が!というか何だその負け組黄金四天王というのは!!」

 

 シジフォス「恐らく俺達の事だろうな。後輩があまりにも酷過ぎた、あるいはあまりにも活躍が残念だった黄金聖闘士、牡牛座、蟹座、射手座、魚座の四人の事だろう…。

 …技が無い…、聖衣が本体…、…フッ…世間の風は厳しいな…」

 

 アルバフィカ「星座カースト制度最下位組…、全く考えた奴を今すぐにでも殴り飛ばしたいものだな…。ついでにオカマだのほざいた連中にはデモンローズを20ダースほど花束にしてプレゼント…」

 

 アルデバラン「おい、最後のは流石に死ぬだろうが。と言うよりシジフォス、お前はまだそんな事を気にしていたのか。…まあ俺も後輩がかませ牛だの何だのほざかれたのは気に食わんが…。

 が、それならなんでデジェルとレグルスが居る?お前達の後輩はかなり活躍しただろうが?」

 

 デジェル「クク…、これからは私達五人で負け組黄金五人衆、とでも名乗ろうかと思っていてね…」

 

 カルディア「は、ハハ…、こんなんじゃあ…熱く、なれねえぜ…。あんなんじゃあ…満足、できねえぜ…」

 

 レグルス「…途中まではカッコいいと、思ってたんだぜ…。それが…あれって…」

 

 アルバフィカ「いや、だから何の話だ一体。全く話が見えてこないぞ…」

 

 エルシド「…次期聖戦の後の時代の黄金聖闘士…。Ωの時代と言えば、分かるだろう…?」

 

 シジフォス「……あー、あれか。そう言えばアスプロスも何やらやけ酒を煽っていたが、そのせいか…」

 

 アルデバラン「まあ確かにお前達の星座の黄金は扱いが悪かったが、そもそも連中はマルスによって選ばれた連中で正規の黄金聖闘士とは呼べまい。だからあまり気にする必要は無いと思うが…」

 

 マニゴルド「……そりゃテメエらは後輩が目立ちまくってたからいいだろうがよ。特にシジフォス、アンタの聖衣の継承者は神殺しのペガサス星座で冥王ブッ倒した元主人公だからな。うれしいよな?うれしいよなあ!?

俺なんかまただぜ!?なんだあのザマは!!ヘタれた揚句に青銅のガキにボコられてしかもまた黄金初の死亡退場ってのは!!おうこら!!これじゃあデスマスクやあのオカマの方が数段マシだろうが!!」

 

アルバフィカ「落ち着けマニゴルド。それなら魚座もマルス側、しかもメディアの弟だぞ?おまけに何でこうなったのか知らんがデモンローズもブラッディローズも使わん…。アレだな、もはや魚座の聖衣を着た別のナニか、としか思えなかったよ、うん」

 

レグルス「…でもさあ、魚座は獅子座に勝ったよな?『君と私とで相手になると思ってんのwww』とか何とか言って瞬殺したよな!?いくらなんでもアレは無いってのあれは!!なんで獅子座が噛ませになるのさ!!後輩はあんなに活躍したのに!!ティターンとの戦いでもクロノス、ヒュペリオン、コイオス、イアペトスの4神と激闘繰り広げたのに!!」

 

アルデバラン「こらこら落ち着けレグルス。それなら俺もあれだぞ、骨を折る事が快感とか寝言をほざく男が聖衣を継承していたのだぞ?…まあ一本筋の通った信念があるのは認めているが、な…」

 

デジェル「それはそれは素晴らしいな…。うむ、私も羨ましい限りだ…。

私の聖衣はてっきり後輩水瓶座カミュの弟子の氷河が継ぐと思っていた、思って、いたと、いうのに……!!

何が悲しくて呪いの聖衣にされた揚句に白銀レベルの時貞等に装備される!!しかも氷の闘技を一切使わず時間操作だと!!私達歴代水瓶座に喧嘩でも売っているのか!!というか時間操作はメフィストフェレスの専売特許だろうが!!聖闘士ではなく冥闘士を目指せ冥闘士を!!」

 

カルディア「…お前の気持ち分かるぜデジェルー…。俺の聖衣も敵の娘に勝手に貸し出されて『やった!初台詞!』な星座の野郎に手こずった揚句装着者は碌に技も使えず暴発して自滅、だぜ…。情けなさすぎて涙が出てきやがるぜ畜生…。しかも水瓶座にゃ氷河っつう希望があるけど蠍座にゃ時期装着者候補が今ン所だーれもいないんだぜ…?泣けてくるったらありゃしねェ…」

 

シジフォス「ま、まあまあ二人共…、射手座を継いだ星矢も射手座の技を使わず『ペガサス流星拳!!』しか使ってないんだぞ?…今のところは。俺のケイロンズライトインパルスもアイオロスのアトミックサンダーボルトにインフィニティブレイクも使ってないんだぞ?…今のところは…」

 

 マニゴルド「うっせえ!!テメエの後輩は最後の最後に美味しい所全部持って行ったじゃねえか!!」

 

 レグルス「アプスに憑依された光牙救ったり…、アプスに苦戦する光牙に聖衣貸したり…、生きながらにしてアイオロスポジションじゃん…。畜生、羨ましいぜ…」

 

 デジェル「なぜ…なぜ氷河は水瓶座を継がなかった…。そんなに白鳥座に未練があるのか…。黄金より神聖衣の方が良いと言うのか…」

 

 カルディア「そもそも、何で蠍座はソニアなんだよ…。何でスカーレットニードル使わねえんだよアンタレスねえんだよ…。つーか自分の技暴発させるような奴に黄金聖衣着せんじゃねえよバカヤロオオオオオ!!!!」

 

 シジフォス「む、むう……、なんというか、すまん…」

 

エルシド「……何だお前ら、下らん事ばかりほざきおって…。

山羊座などな…、山羊座などなあ…、…幼女の女神に欲情する聖剣も使えん変態ジジイなのだぞ!!!しかも遥か古からアテナに仕えてきただと!?一体何歳だ貴様は!!」

 

全員『そ、それは御愁傷様、というべきか…』

 

エルシド「くっ…!!今からあの外史に行ってイオニアを斬ってこようか…」

 

シジフォス「やめろ。以前アルバフィカがやらかしたせいで一刀の警護に教皇とハクレイ様がついておられる。下手をしたら殺されるぞ?」

 

アルバフィカ「むう…耳の痛い話を…。少しあのヘタれを叩き直してきただけだろうに…」

 

マニゴルド「うるせえ!!くそっ…師匠なら、同じ蟹座だったお師匠なら説得すりゃあ…」

 

アルデバラン「確かに気に食わんと思うだろうがそれとこれとは話は別、と断固拒否するに決まってるだろうが。目論見が甘いぞお前は」

 

マニゴルド「……チッ」

 

アルバフィカ「しかし…サガの乱の時といいマルスの時といい…、我等の後の代の聖域は何度も乗っ取られているな…。本当に大丈夫なのか…?」

 

アルデバラン「それは俺も感じている。というかアテナ不在…、いや既に降臨なされている時も警備がザルではないのか?ついでに聖闘士の教育もきっちり出来ているのかどうか…。確か10歳かそこらの子供が師匠になっていたなどという事があったらしいな…。そんなのだから聖闘士から敵の間者やら裏切り者やらが出るのだろうに…」

 

シジフォス「まあサガの乱の折はシオンが殺されてサガに入れ変わられ、挙句童虎以外黄金は皆10にも満たない子供だったと言う有様だから仕方が無いのだろうが…。

…前々から一刀が提案していたが聖闘士になるのに年齢制限を設けた方が良いのだろうかな…?」

 

アルバフィカ「ああ、あの『聖闘士になれるのは16歳以上のみ』とかいうあれか。それから『女聖闘士の仮面の掟廃止』というのもあったな。

私個人としては前者については聖闘士としての修行以外にも勉学、経験を積んで人格、精神的にも成長してから聖闘士になるべきだと思っているから、まあ大体賛成だな。後者も地上の平和を守る気持ちがあるのなら男も女も関係ないと私個人としては思っているからこちらも異論は無い。…というより此処にいる聖闘士は皆私と同じ意見だろう?」

 

シジフォス「ああ」

 

アルデバラン「右に同じく。まあそうなると黄金以外の聖闘士の大半は解雇処分になるのだろうが…」

 

アルバフィカ「ついでに聖闘士の定義である『アテナを守る少年達』というのも曖昧どころか破綻するのだが…、まあいまさらだな。…それにしてもあいつらはどうしたものか…」

 

シジフォス「…このまま放置しておいても自力であの外史に向かってしまいそうだな…。一刀から銅鏡をどうにかして奪い取った挙句…」

 

アルデバラン「いっそ何処かでガス抜きでもさせた方が良いのだろうが…」

 

マニゴルド「ちくしょうが…、どうしてこうなった…」

 

デジェル「こうなったのも全部メディアって奴のせいなんだ…うう…」

 

カルディア「ああ…そうだな…。マジであのババアぶち殺してやりてえ…」

 

レグルス「希望から絶望へ…これがファンサービスって奴なのかな…」

 

エルシド「……もう、何もかもがどうでもいい…」

 





 いつもご覧いただきありがとうございます。ですがどうやら前投降したのはあまり読者の皆様のご期待に添えるものではなかったようです…。
 私としてはあまり黄金聖闘士が目立ち過ぎて魔法少女達が空気になった、なんて事にならない様に魔法少女達にも見せ場があるように書いたつもりだったのですけどね。流石にそんじょそこらの魔女や魔法少女に黄金聖闘士じゃあオーバーキルなんてレベルじゃないですし…。
 オリジナルの技もNARUTOとかの丸パクリとかであまり印象が良くないようです。
 一応弁明と言うわけではありませんが、この作品の黄金聖闘士達はまどかの世界に来る前に他の外史にも行ってそこで使われている技をヒントに自分達の新しい技を作っている、という構想です。アルバフィカの木遁分身やマニゴルドの積尸気穢土転生もNARUTOの世界の技を元に作られた技、というわけです。
 …若干無理矢理ですがそう言う事です。
 あとおまけで色々書いてしまっていますがこれはあくまでネタで、私は聖矢原作もNDもΩも、というより星矢関連作品は全て大好きです。そこはどうかご理解ください。

 おまけ、LC黄金の属性考察

 牡羊座 シオン 地、炎
 牡牛座 ハスガード 地
 双子座 アスプロス 光、闇
 双子座 デフテロス 炎、闇
 蟹座 マニゴルド 炎、闇
 獅子座 レグルス 雷、光
 乙女座 アスミタ 光、炎
 天秤座 童虎 水、風
 蠍座 カルディア 炎
 射手座 シジフォス 風、光
 山羊座 エルシド 地
 水瓶座 デジェル 水
 魚座 アルバフィカ 地、水

 完全な推測ですので読者の皆様の考えと違うかもしれません。
 シオンの場合は聖衣の修復=職人=地と炎、マニゴルドの場合は冥界=闇、鬼火=炎というように本人の技等のイメージから考えました。…つーか改めてみると光の属性多すぎ…。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。