まあ、私なりのNDへの愛ということで…。台本形式になってしまいましたがそこはどうかご容赦のほどを…。
風見野にある廃墟と化した教会の礼拝堂。その内部で黄金聖闘士、蟹座のマニゴルドと魔法少女佐倉杏子が睨み合っていた。そんな二人を牡牛座のアルデバランは真剣な表情で、千歳ゆまは心配そうな表情で見つめ、そして鬼火の十字架に磔にされた杏子の母と妹、そして青白い鬼火で焼かれ続ける杏子の父親は、戸惑った表情で杏子を見つめていた。
先程マニゴルドが杏子の父親を焼き殺そうと、彼を炙る鬼蒼焔にさらに小宇宙を送り込もうとした瞬間、マニゴルド目がけて槍が飛んできたのだ。マニゴルドは難なくそれを掴み取るものの、結果として意識が逸れてしまい、杏子の父親を焼いていた鬼火の勢いが若干弱まった。結果として、杏子の父親は命拾いする事となり、杏子は彼を救った事になった。
マニゴルドは自分に槍を投げつけてきた杏子に面倒くさそうな視線を向け、一方の杏子は再び手の中に槍を作りだすとマニゴルドに敵意を剥き出しにした眼光で睨みつける。マニゴルドは表情を変える事無く槍を放り投げる。すると一瞬で蒼い炎が槍を覆い尽くし、あっという間に槍は灰も残さず消え去った。マニゴルドはそれを一瞥もする事無く、杏子をジッと眺める。
「俺をぶちのめすだと?オイオイぶちのめす相手違うだろうが。
つーか年上への口の利き方なってねえなオイ。テメエどこ中だ?何個下だコラ」
「うるせえ!!人の家族いたぶる野郎を敬える程あたしは聖人君子じゃねえんだよ!!」
杏子の怒りの籠った怒鳴り声を、マニゴルドは涼しい表情で聞き流す。
「だーかーら、怒りぶつける相手違うだろうが。お前を絶望させたのはこいつ等、お前の家族共だろうが。それとも何か?お前、まだこいつ等が憎くねえっていうのか?テメエには人を憎むって感情がねえのか、それとも家族は憎めないってか?ったく随分と人の良いガキだなオイ。それともただのアホなのか…」
「…憎いね、確かにそうかもしれねえな」
マニゴルドの嫌み染みた言葉に、杏子は先程の表情から一転して静かな、何処か達観したような表情を浮かべる。まるで長年抱いていた疑問に対する答えを見つけたかのような表情を浮かべる杏子を、マニゴルドはジッと眺めている。
「アンタに言われてようやく気がついたよ。そうだ、確かにあたしは親父を、家族を憎いと思った事があった。…つーか、今でも思ってる。もし親父が幽霊じゃなかったらこの手で親父を叩きのめしてやりたいって、今になってそう思ってらあ。ついでに、おふくろとももにも色々言ってやりてえこともあるしよ」
「ふーん…、ま、そりゃ当然だわな。自分をボロクソ言った挙句に母親と妹ブッ殺して自分の人生ぶち壊しにしやがったんだからよ」
「ああ、だからあたしは心の中じゃ親父を恨んでた、憎んでた。
何であたしをこんな目に?何で親父やおふくろ、ももの為に願ったのに?なーんて、心ン中で考えてた。オモテじゃ自分のせいだ何だいいながら、よ。おふくろやももも、恨んだことがあったな…。あたしを親父から庇ってくれなかった事を、さ…。
今思えば、あたしが使い魔放置したり万引きやら空き巣やらやるようになったのも、あの世に居る家族へのせめてもの反抗だったのかもしれねえな…」
『きょう、こ……』
全身を蒼い鬼火で焼かれながら、杏子の父は彼女を悲しげに、それでいて何処か安堵したような表情を浮かべる。
そうだ、責められるべきは自分だ。杏子じゃない。
あの子は何も悪くない、自分を、家族の為に自らの魂を捧げてまで自分達を助けてくれようとした…。
それを否定し、挙句あの子から全てを奪い去った自分こそが罪人だ…、魔女にも劣る畜生だ…。
だから、だからこんな自分の為などに戦わなくていい…、思う存分恨み、呪い、罵倒してくれれば…。
「…けどな」
と、まるで杏子の父親の思考を遮るように、杏子の声が響く。
ハッとして父親は顔を上げて自分の娘を見る。目の前に立つ自分の娘の顔には、先程までとは違う固い決意に満ちた表情が浮かんでいた。
杏子は槍を頭上で一回転させるとマニゴルドに向かって槍の穂先を突き付ける。
「たとえどんなクソッタレな父親でも、自分を守ってくれなかった母親や妹でも、もう死んじまっていても、こいつらはあたしの家族だ!それに、まだあたしはこいつらに言いたい事も、やってやりたい事も何一つやってねえ!!それなのに成仏されちまったら、こっちからすれば不完全燃焼なんだよ!!」
『……』
杏子の言葉に、亡霊となった家族達は言葉を失った。
あそこまで、あれほどまでに家族のせいで酷い目に遭いながら、人生を狂わされながら…。
それでもこの子は、自分達の事を家族と呼んでくれるのか…。
信じられない表情でこちらを見る家族達を、杏子は一瞥すると忌々しげな表情で彼等を睨みつける。
「…勘違いするんじゃねえぞ?アンタらには言いたい事や恨み事が山ほどあるんだ。それを全部聞いてもらうまでは成仏して貰っちゃ困るんだよ」
そう告げるとさっさと視線を戻してマニゴルドを睨む。一方のマニゴルドはつまらなさそうに、それでいて微笑ましげな笑みを浮かべながら杏子と家族のやり取りを眺めていた。
「…そうかい。まったく甘っちょろいガキだぜ」
マニゴルドは吐き捨てるように呟くと軽く指を弾く。その瞬間、杏子の父親を覆っていた炎が形を変え、杏子の母親と妹を拘束する十字架と同じ形状になり、父親を拘束する。
『なっ!?こ、これは…!!』
「親父!?おいテメエ!!親父に何しやがった!!」
「なに、ちょっとしたゲームだ。しばらくこいつの処刑は待ってやる」
驚愕の表情を浮かべる杏子と父親に対し、マニゴルドはニヤニヤと笑いながら両腕を広げる。
「ルールは単純だ、どんな手段を使ってもいいから俺が指定した奴と戦って勝てばいい。成功した場合はこいつを解放アーンド俺からの素敵なギフトをくれてやらァ。だが、もしも失敗したら、このクソ親父は即火刑だ。妻子供の見ている前で、魂が灰になるまで焦熱地獄を味あわせてやらァ」
マニゴルドは十字架に磔にされた杏子の父親を見上げながら、邪悪な笑みを浮かべる。その怖気が走る笑顔に込められた殺気に、槍の柄を強く握りしめる杏子の両手から汗が染み出てくる。
「て、テメエが指定した相手だ!?テメエと戦うんじゃねえのかよ!?」
「ハア?馬鹿言ってんじゃねえぞ、俺はこれでも黄金聖闘士。テメエとは天と地ほどの、いや下手すりゃそれよりも遥かに力の差があんのよ。まともにやったらマジで瞬殺しちまうぜ?ま、そう言うわけでこれは俺からのせめてもの温情よ。安心しろ、そこの牛とかおチビちゃんと戦えとは言わねえから」
「ぐっ…」
マニゴルドの反論に杏子はぐうの音も出ずに口を閉じる。
確かに自分と黄金聖闘士との間には越えられない巨大な壁がある。
初めてアルデバランと出会って戦った時には、全く本気を出していなかったアルデバランによって完全に遊ばれていた。
この男も黄金聖闘士というのならアルデバランとほぼ同等の実力のはず、ならまともに戦っては勝ち目は無い。半端な策を練っても力尽くで押しつぶされる可能性がある。
その戦わせる相手というのも気になるが、少なくともこの男の相手をするよりは勝率は高い…と願いたい。
「…んじゃあその戦う相手ってのはなんだよ?テメエじゃねえんなら一体どこのどいつだ」
「そう焦んなよ。ちょいと準備するから…よっと!」
と、マニゴルドが指を軽く弾いた瞬間、何か白い物体がマニゴルドの足元にドサリと落ちてきた。マニゴルドは足元のそれを無造作に鷲掴みすると、自分の頭まで持ち上げる。
それを見た瞬間、杏子はギョッとして眼を見開いた。何故ならそれは自分達魔法少女にとって馴染みのある存在、自分達をこの世界に引き込んだ張本人とも言える存在だったのだから…。
「なっ!?キュゥべえ!?一体どこから出てきやがったんだ!?」
「ん~、さてねえ。何処にあったんだろうね~?ひょっとしたら何処ぞの青タヌキよろしく四次元ポケットでも持ってたのかもしんねえよ?ま、それはともかく、何時まで寝てんだ淫獣、タヌキ寝入りしてねェでとっとと起きろやコラ」
『ん…あ…き、きょ…こ…』
ヘラヘラと無邪気な顔で笑うマニゴルドに尻尾を掴まれ吊り下げられた状態のキュゥべえは、乱暴に揺らされると弱弱しく目を開いて杏子を見る。
身体は怪我をしている様子は無いが、雰囲気からして相当衰弱している様子で、話をするのも苦しそうであった。
逆さ吊りにされた状態のキュゥべえは、懇願するような表情を杏子に向ける。
『きょ、杏子…助けて…お願い…助けて…』
「キュ、キュゥべえ!?い、一体どうしたってんだよ!?何でいきなり出てきやがったんだ!?」
『わ、分からない…、突然、こいつに、さらわれて…、訳の分からない…、空間に、いれられて………が、アアアアアアアアアア!!!』
「はいはいうっせェ口閉じろ。下らねェ三文芝居してんじゃねえぞこのクソ淫獣が」
キュゥべえが息も絶え絶えに杏子に話しかけると、突然マニゴルドがキュゥべえの頭を思い切り握りしめてくる。
万力以上の握力で頭部を圧迫される痛みに、キュゥべえは思い切り絶叫を上げた。
「キュゥべえ!!…テメエ!何しやがる!!」
目の前で甚振られる白い獣の姿を見て、杏子は明らかな敵意をマニゴルドに向ける。マニゴルドは面倒くさそうな目つきを杏子に向けると、バカにするようにフンと鼻を鳴らす。
「何ってこいつを黙らせただけだぜ?正直言ってこいつの声はもう聞きたくも無いんでな?心にもねえ事ベラベラ喋りやがって…。耳が腐る」
「ンだとこの蟹野郎!!」
「ハッ、つーかお前この淫獣の心配している暇があるのか?これから戦うって時によ。余裕だなオイ」
「戦う…って、まさか!!」
杏子はマニゴルドのセリフからとある考えに思い至り顔色を変える。その視線の先にあるのは、マニゴルドに吊り下げられた、自分を魔法少女の道に引き込んだ存在…。
「ッテメエ!あたしをキュゥべえと戦わせる気かよ!!」
「ンなわきゃねえだろ。コイツとお前戦わせたら直ぐに決着つくわ。そんなヌルゲーじゃつまらねえんでな」
杏子の言葉をマニゴルドはあっさりと否定する。唇に暗い笑みを浮かべ、片手にぶら下げたキュゥべえを揺らしながら眺めている。キュゥべえは怯えたように身体を震わせ、助けを求めるように杏子に視線を向ける。
「こいつを呼んだのはな…、こうやって使う為だ!」
『なっ!?』
と、マニゴルドはいきなりキュゥべえを天井に放り投げた。そして、空中に放り投げられたキュゥべえの背後から蒼い炎で描かれた魔法陣が出現し、空に浮かぶキュゥべえを拘束する。身体を拘束されたキュゥべえはジタバタともがこうとするが、鬼火の魔法陣に拘束された身体は一ミリも動かない。
「キュ、キュゥべえ!?」
「…マニゴルドの奴め、アレを使う気か…」
焦った様子の杏子とは反対に、アルデバランは冷静な表情で魔法陣に拘束されたキュゥべえを眺める。そんな二人に意味ありげな笑みを向けると、マニゴルドは片腕の人差し指を空中に浮かぶキュゥべえに向け、両目を閉じる。
「この世にさまよう、無念抱きし魂よ。
我が給いし供物に宿り、今此処に黄泉還れ…。
積尸気反魂転生!!」
マニゴルドの言葉が響いた瞬間、何処からともなく青白い光の球が出現し、それがゆっくりとキュゥべえの身体に侵入した。それはあっという間の出来事であり、その場にいる全員はただ見ている事しか出来なかった。
「あ、ああ、アア嗚呼ァ亞唖阿アア嗚呼アアアア!!!!!」
だが次の瞬間、蒼焔の魔法陣に拘束されたキュゥべえが身体を捩らせながら凄まじい絶叫を上げる。その顔は苦痛と恐怖に歪み、赤いガラス玉のような眼は今にも飛び出してしまいそうな程に見開いている。
同時にキュゥべえの身体も段々と変化が生じ始めた。
小さな白い身体に無数の塵が、光る粒子が集い、段々とその体躯を大きく、そしてより異形に変貌させていく。
そして、変貌が始まって僅か数秒、目の前にはキュゥべえはあとかたも無く消えてなくなり、それと入れ替わるようにキュゥべえがいた場所には巨大な銀色の化け物が出現していた。
その化け物の身体は銀色の金属で出来ているような部品で構成されており、よくよく見ればそれはまるで自転車かバイクの部品のようであった。
紛れも無く魔女、魔法少女が戦う絶望をまき散らす存在であるその怪物の姿を見て、杏子の表情は驚愕で歪んでいた。そして、鬼火の十字架に磔にされた父親も、その魔女を見て青白い顔を歪ませる。
「なっ!!こいつは…」
杏子はその魔女を知っていた。何しろこの魔女は、杏子にとってかつての自分を、そして自分の家族を歪ませ、壊してしまう“始まり”となった存在なのだから…。
そう、それはあの時、自分がまだ誰かを守る為に魔法少女として戦っていた時、教会に出現した魔女と戦い、倒した。だがその姿を父親に見られ、そのせいで自分は魔女と呼ばれ、今の自分へと至る羽目になった…。
あの時の魔女は錆に塗れており、この魔女のように銀色に輝いていなかったという違いはあるが、間違いない。この魔女は、あの時杏子が戦った魔女だ。
眼を見開いて魔女を見つめる杏子の姿を、マニゴルドは面白そうに笑いながら眺めている。
「こいつは銀の魔女、名前はギーゼラ…ってそういやお前一度こいつと戦った事あるんだったな?なら説明はいらねえか?」
「な、なな、なんで、なんでキュゥべえが魔女になるんだよ!?しかも、しかもこいつはあたしがずっと前に倒した奴じゃんか…!!お前、お前何しやがった!?」
何が起こっているのか分からない杏子は困惑してマニゴルドと銀の魔女に視線を彷徨わせる。一方のマニゴルドは相変わらずニヤニヤと面白そうに杏子を眺めており、銀の魔女は目の前の獲物に襲いかかろうとする様子も無く、マニゴルドの背後に控えている。
「ん~、いやなに、単純にキュゥべえを生け贄にして魔女を復活させただけだぜ?」
「な!?い、生け贄だ!?」
おうよ、とマニゴルドは自らの背後に控える魔女を見上げる。魔女は相変わらずエンジンを切ったバイクのように微動だにしない。
「さっきの術、積尸気反魂転生ってのはな、この世に未練たらたらで彷徨い続ける魂を復活させるっつう術だ。俗に言う死者蘇生、はたまたネクロマンシーの一種なんだがね、その為の条件ってのがいろいろやかましいんだよなァ。
まず蘇らせたい奴の魂が『この世界』に存在することが第一。万が一あの世に成仏してやがったら蘇らせるのは無理だな。地獄に行ってても不可だ。
そしてもう一つの条件が…、生け贄だ」
生け贄という言葉を口にした瞬間、杏子の背筋に何か冷たいモノが滑り落ちるような感覚が走る。磔にされた杏子の家族達も同じような感覚を味わっているようだ。
マニゴルドは気付いているのかいないのか、そのまま言葉を続ける。
「死んだ奴を蘇らせるにゃその魂を宿らせる寄り代が必要だ。しかも寄り代、即ち生け贄は生きてる奴じゃなきゃ無理なんだよなコレが。死体じゃ寄り代にならねえ。
これが人間を蘇生させるってんなら同じ人間の生け贄を用意しなくちゃなんねェ。まあ生け贄は人間ならガキでもジジイでも男でも女でも何でもいいんだがな。
まあ俺はこれでも一応聖闘士だ、それに他人の魂弄り回すって趣味は俺は持ってねえし。だから自慢じゃねえがこの術を今の今まで人間に使った事はねェ。…っでっもー…」
マニゴルドは一度口を閉じると、自分が蘇らせた魔女を見上げながらいかにも可笑しそうにクックッと笑い始める。何処か不気味さすら感じられる笑い声に、杏子は思わず後ずさりする。やがて笑い声を止めたマニゴルドは、再び杏子に視線を向ける。
「…生憎とあのキュゥべえとか言うクソ淫獣共に対する情けや容赦は一ミリもありゃしねェんでな、こいつ等の魂弄り回すのに関しちゃあ微塵の躊躇いも良心の呵責ももっちゃあいねェのよ。
まあこいつらも散々魂弄びやがったから、因果応報って奴かねェ…」
「魂を弄り回す…?い、一体何の事だよ?」
マニゴルドがポツリと呟いた一言に、杏子は思わず声を荒げた。
結果的に今の状況を招いたとはいえ、自分の願いを叶えて魔法少女にしたキュゥべえが何をしたのかが
一方のマニゴルドは先程の笑顔から一転して何処か意外そうな表情で杏子を眺めていた。そして、杏子の後ろに立っているアルデバランに視線を向ける。
「なんだよアルデバラン、こいつらにあの事教えてねえのかよ?」
「…いや、まだ何も言ってはいない。あの事はまだ言うべきではないと思って、な」
話をふったアルデバランは、厳しい表情で答えた。返答を聞いたマニゴルドは、軽く呆れかえった様子で肩を竦めて溜息を吐いた。
「ハッ!!ンだよ、アンタガキにゃ面倒見が良いと思っていたんだが、案外残酷だなオイ!そう言う事はとっとと言っちまったほうが本人にとってもショックが少ねえだろうに…」
「そう言う問題ではないだろう?本人の魂に関する問題だ、たとえ知ったとしても受け入れられるかどうかは…」
「お、オイ!!テメエ何の話だ!!一体キュゥべえが何したってんだよ!!おっちゃんが何を隠してるってんだよ!!」
いい加減会話するアルデバランとマニゴルドに漂う何処か重苦しい空気に耐えきれなくなった杏子は、イラついた声音で二人の会話に割り込んだ。
と、話を中断されたマニゴルドは杏子に視線を向けると意味ありげに笑い始める。
「ククッ、それじゃあ逆に質問するけどよ、杏子ちゃん。お前の持ってるソウルジェム、一体何なんだそりゃ?」
逆に質問された杏子は、マニゴルドの質問に戸惑った。
ソウルジェムが何か、と言われても、杏子からすれば魔法少女に変身する為の道具であり、魔法少女の魔力の源である、としか言いようがない。
それはあのほむらとかいう魔法少女と行動しているマニゴルドも知っているはずなのだが、何でそんな事を聞いてくるんだ…?杏子は疑問を抱きながらも口を開く。
「ああ?そ、そりゃあ…、魔法少女に変身する為の道具…、魔力の源、か…?」
「随分とメルヘンな答えだなオイ。半分正解、半分不正解だ。確かにテメエの言った事も真実じゃあるが、お前はそいつの本当の正体をしらねえ」
「…本当の、正体だ…?」
ああ、とマニゴルドは一拍置くと、訳が分からないと言いたげな表情の杏子を眺めながら口を開いた。
「…そいつはな、お前達魔法少女の魂、つまりお前達の本体だよ」
「………え?」
マニゴルドから放たれた一言に、杏子は呆然となった。
アルデバランは苦々しげな表情でこちらを見て、磔にされた家族達は罪悪感で杏子から顔を背けている。唯一ゆまだけは、マニゴルドの言葉が理解できないのか突然黙ってしまったアルデバランと杏子を交互に視線を向けている。
が、杏子は
彼のあまりにも突拍子の無い言葉に、杏子の頭は混乱していた。
これが…ソウルジェムが…
あたし達の…魂…?本体…?
「お、おい…、これが、これがあたし達の魂って…どういう、ことだよ…」
「そのまんまの意味だよ。魔法少女ってのはな、あの淫獣共と契約する時に、その石ころン中に魂をぶち込まれるんだよ。そして魂そのものを魔力を生み出す機関へと改造する…それが契約ってものの正体だ。
こうなっちまったら肉体ってのはただの人形だ、魔女を狩り、ソウルジェムを守る為のな。逆に言っちまえば幾ら肉体が傷つこうが魔力があってソウルジェムさえ守れてりゃあテメエは不死身よ。絶対に死ぬ事はねえ。まあ簡単に説明しちまうとこういう話なんだが…、理解していただけました?杏子ちゃん?」
「………」
マニゴルドの淡々とした説明を聞く杏子は愕然としていた。
これが魂で、自分の体はこの石ころを守るために動かす、入れ物…?
それじゃあ、それじゃあこの体は…。もう、生きてすらいないってことか…?
人間じゃない、ゾンビみたいなものだってことかよ…。
「…つまり、あれかよ。あたしの、あたしの本体は、あたしの身体はこれじゃなくて…、この、この石ころの中なのかよ…。これは、これはただの死体ってことで、あたしは、あたしはゾンビってわけかよ…!!」
杏子は顔を俯かせ、肩を震わせてマニゴルドに問いかける。質問を聞いたマニゴルドは、何かを考えるように顎をなでる。
「ゾンビ、ねえ…。その例えはあたらずとも遠からず、だけどよ。まあでも人によりけりだねェ、自分の魂が石ころン中入れられてどう思うかについてなんてよ
ま、中には願い叶えられたんだからこれくらいどうってことないわー、とか考える奴もいるかもしんねェけどよ。別にいいじゃねえか。ソウルジェムもテメエの身体から100メートル以上離さなきゃ問題ねェし、定期的に汚れ除去すりゃ日常生活にも支障はねえ。あとはテメエの心の持ち方だけ、だがよ…」
「…キュゥべえは、キュゥべえは何でこの事教えなかったんだよ…」
「聞かれなかったから、らしいぜ?まあ聞いたところであいつらがベラベラ話すかどうかは知らねえけど?
さてトークタイムは終わりだ。早速始めようか佐倉杏子?それとも、此処でギブアップするか?」
マニゴルドの背後に控える魔女がわずかに身じろぎする。まるでもう我慢が出来ないとでも言わんばかりに。マニゴルドはチラリと魔女を見上げると「おうおうもうちっと我慢しろっての」と軽い口調で宥めているが、いつこの男の手綱を引きちぎって暴れだすかは分からない。
幸いこの場にはマニゴルドとアルデバランの二人の黄金聖闘士がいるものの、下手をすればゆまと自分たちの家族をも巻き込む可能性がある。
それに何より…、あの魔女は明らかに自分を狙っている。
「………」
杏子は目の前の魔女を見据えると、手に持った槍を構える。
「ほう…、やる気になったかい?」
「ああ…、面倒くせえけどそいつぶっ倒さねえと親父は助けられねえ見てえだからな。それに、あたしの本体がソウルジェムだろうが何だろうが、魔法少女ならやる事は一つ…。
魔女は狩る、それだけだ」
杏子の顔つきを見ると、未だに吹っ切れてはいないようではあったが、目の前の魔女への闘志はまだ残っている。アルデバランはそんな杏子を何処か痛々しげに眺めていた。
一方のマニゴルドは杏子の決意を聞き終わると少し呆れたように溜息を吐いた。
「そうかい、なら………やっちまいな、ギーゼラ」
マニゴルドが魔女に命令を下した瞬間、周囲の風景が一転する。
先程まで居た教会の礼拝堂の風景が一瞬で消え失せると、夜のハイウェイのような世界に杏子達は立っていた。空にはまるでバイクのスピード計のようなメーターが存在している。
突如起こった異変にアルデバランとマニゴルドを除く全員は戸惑っていたが、杏子は直ぐにこの世界が何なのか察しがついた。
「こ、こいつは、魔女の結界!?」
「その通り、此処はギーゼラの作りだした魔女結界。…つーか、お前そこまで驚くかよ?魔女は結界敷けるってしってるだろうが」
「い、いやまあそりゃそうだけどな…。普通魔女ってのは魔女結界の中からでてこれねえだろ?まあそいつはアンタが蘇生した奴だから例外かもしれねえが…」
戸惑っているかのような杏子の返答に、マニゴルドは軽く肩を竦めた。
「お前達は何か勘違いしてるみてえだけどよ、魔女ってのは別に結界から出てこれねえわけじゃねえのよ。単純に結界の中が居心地いいから出たがらないだけで、その気になりゃ出てこれるってわけ。その証拠に魔女の中にゃ力が強すぎて結界に入る必要のねェ奴もいる。お前も知ってるだろ?ヴァルプルギスナハト、ワルプルギスの夜って奴を、な」
「…!!実在すんのかよ…!!」
マニゴルドが出した魔女の名前に杏子の表情がこわばる。
舞台装置の魔女、通称ワルプルギスの夜。
魔法少女の間では伝説とまで言われる特大の魔女。
あまりにも強大すぎる力のせいで結界に籠る必要も無く、現実世界に出現して地上の全てを破壊しつくす正に生ける災害とも呼べる存在…。
とは言っても殆どの魔法少女はそのような魔女が存在するという事は知っているものの、実際に見た事があるモノは今の時代にはほぼ居ない。杏子自身もてっきり大昔の伝説程度にしか考えていなかった。
杏子の反応が予想通りだったのか、マニゴルドは面白そうにケタケタと笑っている。
「ああ、実在するぜ?ちなみに近い内に見滝原に上陸予定だぜ?コイツ」
「なっ!?ま、マジか!?」
「マジもマジ、大マジよ。ちなみにほむらの奴はその件でお前と組みたいからその話し合いにでも来たらしいけど…。ま、それよりもお前にゃまだやる事が色々あるからなァ」
マニゴルドの話が終わるや否や、背後に控えていた銀の魔女が杏子目がけて襲いかかってくる。銀色の金属で出来た腕が、杏子を鷲掴みにしようと迫ってきた。
「…チッ!!」
気付いた杏子は身体を捻り、地面に身を投げ出して回避する。が、魔女は再び地面を転がる杏子に向かい拳を振るう。その速さは、先ほどよりも数段早い。
「なッ!?くそッ!」
杏子は地面を転がり直撃は避けたものの、拳を叩きつけられた衝撃でその場から吹き飛ばされ、地面をバウンドして背中を強打する。
「ゲホッ!!く、クソが…!!」
槍を杖代わりに何とか立ち上がった杏子は、魔力で痛覚を和らげながら前方の魔女に視線を向ける。…が、
「なあッ!?」
目の前から魔女が、凄まじいスピードでこちらに迫ってくる。その姿はいつの間にか銀色の巨大なバイクのような姿に変形しており、それがまるで列車の如き速さで杏子に迫ってくるのである。
あのようなモノに跳ね飛ばされればまず間違いなく自分の身体はひき肉になる。幾らソウルジェムが壊されなければ死なないと言っても…、否、下手をすればソウルジェムごと引き潰されかねない…!!
「じょ、冗談じゃねえぞ畜生!!」
恥も外聞も投げ捨て、杏子は足のばねを最大限に使い、それでも足りずに魔力で脚力を強化して飛んだ。
瞬間、背後を魔女が通過する。それはもはやバイクというよりダンプカーやトラックが通り過ぎたかのような巨大な質量…。あのままいたら自分は確実に下敷きになっていた…、杏子は心の中で安堵しながら素早く地面から立ちあがる。
「チッ、あの魔女…、前戦った時よりやけに速くなってやがる…。っていうより、前はバイクに変形なんざしなかったぞ…」
杏子はこちらに向き直る魔女を睨みながら毒づいた。
以前戦った時の魔女は動きが鈍く、此処まで攻撃も激しくなかった。それにこのようにバイクの姿に変形することも無かった。それゆえに自分独自の“魔法”を使うことも無くほぼ楽勝で勝てた。だが、こいつは違う。
姿が変わっただけでなくスピード、パワーの両方が強化されている…。同じ魔女なのに一体どうなっている…。杏子は魔女を睨みながら歯軋りする。
と、背後であの魔女を復活させた男がゲラゲラと面白そうに大笑いする。
「ハハッ!そりゃあテメエが戦った時のコイツは潮風浴び過ぎてて錆びてやがったからな、動きも鈍くなってらあね。だが今のコイツは整備も万全、錆もバッチリ落ちてやがるから終始トップギアでいける状態だぜ?ま、つまり何が言いてえかというと…」
マニゴルドは悪戯が成功した子供のような笑顔を、杏子に向ける。
「…かつて戦った『銀の魔女』よりコイツは強いってこった。Do you understand?」
「そういう、事かよ!!」
カラクリが解けた杏子は槍の柄を握り潰しかねない程強く握りしめる。
恐らくあの魔女の錆ついた姿は年月が経過して弱体化した姿、この銀色の姿こそがこの魔女の全盛期の姿、いわば最強の形態なのだろう。
「そう言うこった、つーわけで、前と同じとは考えねえほうが良いぞ?ンな事考えたら…、死ぬぜ?」
マニゴルドの声に呼応するように、杏子の背後から唸り声のようなエンジン音が響き渡る。
反射的に背後を振り向いた杏子の目の前には。既に銀色の巨体が猛スピードで迫って来ていた。
おまけ もしもLC黄金がND冥王神話を読んだら
本編開始前、別外史北郷邸にて
アルバフィカ「…………」
マニゴルド「元気出せってのアルバフィカ。まあ確かに魚座も大概だが蟹座なんざオカマだぜ?オ・カ・マ!全く涙が出てくるったらありゃしねえ…」
アルデバラン「牡牛座など碌に戦いもせずに速攻で立ち往生だからな。モノの見事にかませ犬…、もといかませ牛だ。お陰で碌な出番もありはしない。全く、オックスとやらは軟弱にも程があるだろうが!!」
シジフォス「射手座はまだ出ていないから何とも言えないが…、下手をすれば凄まじいどんでん返しがあるかもな…。オックスの如くかませか、はたまた裏切り者か、それとも既に死んでいて聖衣が本体か…」
アルバフィカ「…だが蟹座は見た目はともかくそこそこ強いだろう?射手座は歴代の可能性から言って裏切りはほぼありえないだろう?なにより君達の星座は、裏切ってないうえにあんな情けない醜態をさらしていないだろう!?なんだあの悲鳴は!?しかもよりによって女神に手を上げるとはあれでも聖闘士か!!というか作者は魚に恨みでもあるのか!!」
マニゴルド「ンな事言われたら蟹座だってどうなんのよ。未来の後輩は力こそ正義だの何だのほざきながらアヴィドの真似事した挙句聖衣に見捨てられるわ青銅にボコられるわ魚座と二人でかかったにも関わらず羊に負けるわのりピー語喋るわ…。こっちこそ悲惨だわ」
アルバフィカ「………それでも、あの並行世界(ND)では魚座よりまだマシな立場だろう…?」
マニゴルド「いやいやまだ分かんねえし何より蟹座は時代を追っていくごとに段々悲惨になっていってるような…、って聞いてねえな…。オイアルデバラン、誰でもいいから腕のいいカウンセラー連れてきてくれや」
アルデバラン「そんなもの知るわけないだろうが。取りあえず後で一刀に聞いておく」
アルバフィカ「………」
マニゴルド「そういやシジフォス、確かあの外史のガルーダの野郎は元杯座で本名水鏡とか言ってやがったな」
シジフォス「ん?ああそうだったな。あの外史では冥闘士の名前は変わらないらしいな」
マニゴルド「んでもってアンタがやり合ったガルーダのアイアコス、だっけ?あいつの本名も聞いた所じゃ水鏡って話じゃん?」
シジフォス「ああ、一刀の情報ではそうらしいな」
マニゴルド「……俺達の時代に杯座っていたか?」
シジフォス「………」
マニゴルド「アルデバラン、アンタはどうだ?覚えているか?」
アルデバラン「むう…すまん。最近昔の記憶が風化してきているのかよく思い出せんのだ…。そんな奴いたか…?」
シジフォス「い、いや…、俺も最近記憶が摩耗しているからよく思い出せないのだが…。…まさか、な…」
マニゴルド「案外そのまさかかもしれねェぞ?下手したら聖闘士の適正と冥闘士の前世がかぶっちまった可能性もあるんじゃねえの?」
シジフォス「その可能性は……無きにしもあらずだが…ってアルバフィカ?あいつはどこに行った?」
アルデバラン「何やら不気味に笑いながら部屋から出て行ってしまったが…。聞いたら一刀と少し話をしてくるだの何だの…」
マニゴルド「……」
シジフォス「……」
アルデバラン「……」
全員『まさかッ!!』
アルバフィカ「く、クククク、待っていろカルディナーレ、今から貴様に致死的体罰をもって再教育してやる…。クク、フハハハハハハハハ!!」
その日、何処かの外史に存在する聖域の双魚宮にて、某魚座の聖闘士の凄まじい絶叫が響き渡り、後日、双魚宮の影でガタガタ震える某魚座の聖闘士を発見したという。
…何というか、最後のおまけはまあ、NDファンの皆様はすいません…。カルディナーレファンの皆様もすいません…。
いや、あまりにカルディナーレの最後(?)のシーンが情けなさすぎますから…。アルバさんが知ったらマジで喝を入れにいくんじゃないかなー、とか考えてしまって…。
流石にあの体たらくは無いっしょ御大…。蟹座はちょっと扱い良くなったかな~…と思ったらこれですよ…。
にしてもNDはいつになったら終わるのやら…。果たして御大の御存命中に完結するのか否か…。あそこまで休載繰り返すのならいっその事他の方に書いてもらうとか…。