魔法聖闘士セイント☆マギカ   作:天秤座の暗黒聖闘士

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 随分と間が空いてしまい申し訳ありません。ようやく19話投稿出来ました。
 やはり今日のような台風の日には家に籠るしかありませんね…。作品書くには最高の日ですけど。


第19話 魔法少女達の憂鬱

 

佐倉杏子との戦いの後、まどか達はシジフォスに連れられて近くの喫茶店へと移動していた。

 が、席についたはいいものの、まどか達三人は目の前のメニューに目もくれず、ただ黙って座っているだけで、飲み物の注文どころか口を開く様子も無い。そんな三人の様子に、シジフォスは困った表情を浮かべていた。

 

 「さて、折角来たんだ。いい加減何か注文したらどうだ?お金なら俺が奢るから大丈夫だ」

 

 シジフォスはまどか達にそう促すが、三人とも未だにメニューには目をくれず、お互いの顔をチラチラと目配せしており、落ち着きが無い。

 シジフォスはやれやれと溜息を吐きながら店員を呼びとめてコーヒー一つとジュース四つを注文し、店員が去っていくと指を組んで再びまどか達に視線を向ける。

 

 「佐倉杏子、彼女が気になるのか?まあ魔法少女にもああいう人間もいるからな。全員が全員街の平和を守る為に戦うわけじゃない」

 

 「で、でも!!あいつ使い魔育てる為なら街の人間を犠牲にしてもいいって…!!マミさんの元弟子だったのに…!!」

 

 「それは彼女にも彼女なりの事情というものがあったのだろうな。もっとも、俺はその事情を全く知る由もないんだが…」

 

 さやかの言葉にやんわりと反論しながら、シジフォスはチラリとマミに視線を向ける。

 

 「マミは…、何か知ってるんじゃないのか?彼女がああなってしまった理由というモノを」

 

 「……!?そ、それは…」

 

 突然話をふられたマミは、困惑した様子でまどかとさやかに視線を向けるが、シジフォスの言葉で気になったのか、彼女達も自分に向かって視線を向けている。

 二人の真剣な眼差しに諦めたのか、マミは溜息を吐いた。

 

 「…さっきも言ったと思うけど、佐倉さんとは元々魔法少女として一緒に活動していたことがあるの。ずっと前の話なんだけど、私が魔女を探してパトロールしていた時、魔女との戦いで苦戦している彼女と偶然出会って、それから彼女と一緒に行動するようになっていったの」

 

 マミが話している途中で、店員が注文した飲み物を運んできたため、一度話を区切る。

 マミは運ばれてきたオレンジジュースに口をつけると、再び話し始める。

 

 「彼女は元々風見野で活動している魔法少女で、正義感が強くて家族を大事にする優しい子だったわ。魔女との戦いのセンスも抜群で、あっという間に追いつかれてしまったわ。以前はよく一緒にショッピングに行ったり私の家でお茶会をしていた事もあったんだけど…」

 

 マミは懐かしそうな、それでいて悲しげな表情でかつての日々を思い出す。

 そんなマミの顔を見て、さやかは困惑する。かつてマミの弟子であった杏子が、人々を犠牲にしてまで魔女を増やそうとしている理由がどうしても彼女には分からないのだ。

 

 「そ、それじゃあ何で、何でアイツはマミさんと別れたんですか!?何で魔女を育てる為に使い魔を逃がすような事するような奴になったんですか!?」

 

 さやかは怒鳴りつけるようにマミに問い詰める。そんなさやかをマミは複雑な表情で一瞥すると、手元にあるジュースのコップに眼を落した。

 

 「…原因らしいものは、知っていると言えば知っているけど…」

 

 「え?な、何なんですか?それって…」

 

 まどかは思わず問いかけるが、マミは話すべきかどうか迷っている様子で、まどか、さやか、シジフォスに視線を巡らせる。まどかとさやかは視線で続きを話す様に促し、シジフォスは我関せずといった様子でコーヒーを啜っている。

 まどかとさやかの無言の催促に、マミは根負けしてジュースを一口飲むと、重々しく口を開いた。

 

 「……佐倉さんの家族はね、全員自殺しているのよ」

 

 「じ、自殺!?」

 

 マミの言葉にさやかはギョッとして大きく目を見開いた。まどかも口元を押さえて驚愕の表情を浮かべている。一方シジフォスは、冷静な眼差しでコーヒーを啜りながら、マミの話を聞いている。

 

 「正確には一家心中、佐倉さんのお父さんが佐倉さんの妹とお母さんを刺殺して、自分も首を吊ったらしいわ…」

 

 マミは辛そうな表情でジュースを啜る。そんなマミをまどかとさやかは愕然とした表情で見つめていた。

 マミはそのまま話を続ける。

 

 「幸い佐倉さんはたまたま家を出ていて助かったみたいだけど…。見つけた時は酷い有様だったわ…。ソウルジェムも濁りきってて、彼女自身もまるで生きる屍みたいな状態で…」

 

 その時の光景を思い出し、マミの表情は影が濃くなる。その両目は潤んで、今にも涙がこぼれそうだった。

 

 「私の家に連れて帰って、話を聞いてみたけど、『他人の為に奇跡なんて願うんじゃなかった…』とか『あたしが家族を殺した』とか言うばかりで、詳しい事情は教えてくれなかった…。

 そして、それからすぐ後だったわ。彼女がこれからは魔女中心に狩っていこうって提案をしたのは」

 

 グリーフシードを落とさない使い魔は放っておき、魔女を中心的に倒していく。その方がグリーフシードも手に入り、魔力の無駄遣いもせずに効率的だ、と彼女は、佐倉杏子はマミに提案したのだ。

 無論マミはその提案を断った。街を守る為に魔法少女として戦っているマミからすれば、たとえグリーフシードを得るためとはいえ、何の罪もない人を犠牲にするような杏子の提案を受け入れることは到底出来なかったのだ。

 

 「…それで、意見が決裂しちゃってね、彼女は私から離れて行って、それ以来遭う事も無かったの。…今日までは、ね」

 

 マミの話が終わり、周囲に沈黙が流れた。

 他の客の声、食器が擦れ合う音がやけに大きく聞こえる。

 まどかとさやかは言葉が出なかった。あの魔法少女、佐倉杏子があまりにも過酷な過去を背負っている事を知り、衝撃を受けたのだろう。

 一方コーヒーを飲み終えたシジフォスは、店員を呼んでコーヒーのおかわりを注文すると、マミに視線を変える。

 

 「…なるほど、佐倉杏子は自分の家族が自殺した事が引き金となり、君と袂を分かつこととなったわけか…。だが、一つ疑問がある。一体何故、彼女の家族は自殺したか、そして、彼女が魔法少女になる時願った願い、だ」

 

 「自殺した原因については分かりませんけど、願いについては佐倉さんから聞いています。確か、『お父さんの話をみんなが聞いてくれるように』でしたけど…」

 

 「話を聞く?」

 

 マミはコクリと頷いた。

 

 「佐倉さんのお父さんは教会の神父さんで、信者の人達に説法をしていたんです。だけど突然教義に無いことを説法し始めてそのせいで本部から破門されて、信者の人達も話を聞いてくれなくなってしまったんです。信者の人達からの寄付で生活していた佐倉さん達家族はそのせいで食べるのにも困るようになってしまって…」

 

 「それで話を聞いてくれるように、か……」

 

 シジフォスは納得したように頷くと、運ばれてきたコーヒーを一口啜る。一方のまどかとさやかは、マミが話を聞いている間、俯いて沈黙していた。

 そんな彼女達をチラリと見ると、シジフォスは軽く溜息を吐いた。

 

 「…どうやらショックだったようだな、彼女の境遇が」

 

 「はい…、自分だけ残して家族が全員死んでしまうなんて、私だったらきっと耐えられません…。佐倉さんだって、昔はお父さんの為に願いを叶えて、マミさんと一緒に戦っていたのに…」

 

 「あたしも…、使い魔逃がして魔女に育てるなんて事しているから、とんでもない悪党かと思ったんですけど、そんな境遇だったなんて知らなかった…。何も知らずにあんな酷いことを…」

 

 まどかと、そして杏子と戦ったさやかは杏子の境遇を聞いて大分落ち込んでいた。

 魔女を育てる為に使い魔に魔女を襲わせる外道かと思われた彼女が、自分達なんかが想像もつかない程重い過去を背負っている…。その事実を知ってまどかとさやかは複雑な気持ちを抱いているのだろう。

 そんな二人を横目に見ながらマミは何処かバツの悪そうな表情を浮かべ、シジフォスはやれやれと溜息を吐きながらコーヒーカップを口に運ぶ。

 

 「ふむ、まあ、とりあえずまずは佐倉杏子と一度話してみるのはどうだ?知らない人間を知るにはまずその人間と話してみるのが一番だ。今回は仕方が無いとしても、もう一度会った時には喫茶店で一緒にコーヒーでも飲みながら話をしてみるといい。案外気があって仲良くなれるかもしれないぞ?」

 

 「あいつと…仲良くなる、ですか…」

 

 「ああ、魔法少女の戦う相手は魔女だろう?魔法少女じゃあない。戦ってもグリーフシードが手に入るわけでもないのだから、あまり敵対せずに仲良くなった方がいいと俺は思うんだが…、む?」

 

 ふと視線を下ろすといつの間に飲みきっていたのかシジフォスのコーヒーカップは空になっていた。シジフォスは空のカップを置いて店内を回っているウェイターを呼ぶとまたコーヒーのおかわりを注文する。

 

 「シジフォスさん、コーヒー好きなんですね…」

 

 注文を受けて厨房に向かうウェイターの後姿を眺めながら、まどかはひとり言のように呟いた。実際シジフォスがこの店に着て飲むコーヒーはこれで三杯目である。傍から見てもコーヒー好きと思われても仕方が無い。

 思えばマミの家で紅茶を飲んだ事を除けば、シジフォスが飲んでいる物は決まってコーヒーである。喫茶店では決まって二杯以上飲んでいる。

 まどかとさやかからすれば、あんな苦いものを平然と飲んでいるシジフォスの味覚が不思議で仕方が無い。確かに自分の父親や母親も朝にコーヒーを飲む事もあるが、大人になると味覚そのものが変わってしまうのだろうか、と時々思ってしまう。

 

 「ん?ああ、最初に飲んだ時はただ苦いだけであまり好きになれなかったが、飲んでいる内に病みつきになってしまってね。今では一日一杯飲むのがほぼ習慣になってしまっている」

 

 「へー…、習慣、なんですか…」

 

 ああ、とシジフォスは頷きながら運ばれてきたコーヒーを美味そうに啜る。まどか達はそんなシジフォスの姿を眺めながら、自分達も黙ってジュースを啜り始めた。

 

 

 杏子SIDE

 

 「…ったくあのおっちゃん、余計な事しやがって…」

 

 杏子は公園にあるベンチの背もたれに寄りかかりながらいらただしげに缶コーラを煽る。

 魔女狩りでグリーフシードを確保するついでにあのさやかとか言う甘っちょろい考えの新人を叩きのめして魔法少女の現実を教え込んでやるつもりだったのだが、マミと黄金聖闘士に邪魔をされ、挙句アルデバランにまで大目玉を食らう羽目になった。

 

 「…っち。ま、あんなの別にどうだっていいんだけどな、よくよく考えりゃ」

 

 杏子はコーラを一気に飲み干すと、すぐ近くの空き缶入れに投げ入れる。金属と金属がぶつかる音が辺りに空しく響き渡る。

 実際突っかかってきたのは向こうなのだから適当にあしらっておけばよかったのだ。所詮他人は他人、放置しておいても何の問題も無い。それこそ邪魔をしてきたのなら排除すれば言いだけの話だ。そいつが何のために魔法少女になったのか、何の為に魔女と戦うのかなんて知った事ではない、いつもならそうして放っておくはずだった。

 だが、何故か今回はムキになってしまった。さやかの言葉を聞いていたら、妙に苛立って、不愉快になって…。

 

 「…やっぱり、似てるせいか…?以前のあたしと…」

 

 杏子はぼんやりと夜空を見上げ、かつての自分の事を思い出す。

 かつての自分も、他人を守るために戦うと意気込んでいた。自分と父で世界の表と裏の平和を守るんだと言う理想を抱いていた。だが、今は…。

 

 「やれやれこんな所に居たのかお前は」

 

 ぼんやりと空を眺める杏子の視界にいきなり影が覆いかぶさる。杏子はジトッと自分を見下ろす影を睨みつける。

 

 「んだよおっちゃん、てっきりあたしを放って家に戻ってんのかと思ったぜ」

 

 「阿呆、まだお前への説教も終わっておらんのに放置できるか!それにお前を連れて帰らんと何時までも飯が食えん。ゆまの奴も腹を空かしているぞ」

 

 影の主、アルデバランは腕を組んで杏子をジロリと見下ろしている。杏子は軽く鼻を鳴らすとアルデバランから顔を背ける。

 

 「…あたしの事は放っておいていいから、おっちゃんとゆまだけで食ってりゃいいだろ?」

 

 「ならお前はどうするつもりだ?また盗みでもするつもりか?それとも年齢偽って働いて稼ぐつもりか?」

 

 「……」

 

 アルデバランの問い掛けに、杏子は答える様子は無い。アルデバランはやれやれと溜息を吐くと、杏子の隣に腰を下ろした。二メートル以上はある巨体は、座った状態でも見上げるほどの大きさがあった。

 

 「…なあ杏子。今日はどうした。やけにあのさやかとか言う娘に突っかかっていたが…」

 

 「…知るかよ。ただ、あいつの姿を見ていると、何だかむかついてくるんだよ…」

 

 「それは、昔のお前を思い出すから、か?」

 

 「……」

 

 無言。だがアルデバランはそれを肯定と受け取ると、夜の星空を見上げる。

 

 「それで、昔の正義の味方を目指した揚句絶望した自分を思い出し、ムシャクシャしたから八つ当たりした、といったところか?」

 

 「…だったらどうだってんだよ?まあ確かに八つ当たりなんて無駄な事したとは思うけどよ…」

 

杏子自身、商売敵とはいえ赤の他人に八つ当たりなど馬鹿な事をしたと反省してはいる。

いくらさやかやマミの魔法少女としての思想が気に食わなかったとしても、自分にとって害になるわけでも無いのだから、使い魔を追っているのも無視すればよかったのだ。

自嘲気味にさやかとの戦いを思い出す杏子を、アルデバランは腕を組んだままジッと眺めている。

 

 「…ちがうな」

 

 「は?何が違うんだよ?」

 

 アルデバランの反論に、杏子は胡乱げな視線を向ける。アルデバランは杏子にまるで記憶の中の誰かを思い出すかのような懐かしそうな眼差しで眺める。

 

 「お前はあの娘に、自分と同じ道を辿って欲しくなかったのだろう?理想を追い求め、その果てに絶望してしまう苦しみを味わって欲しくない、だからあのような事をしたのだろう?」

 

 「なっ!?そ、そんなんじゃ…」

 

 そんなんじゃない、と口から出かけたものの、思わず杏子は口を閉じてしまう。そんな杏子にアルデバランはしたり顔で笑みを浮かべる。

 

 「お前もなんだかんだ言って悪人ではないからな。大方そのマミとか言う先輩の事も多少なりと心配していたんだろう。まあ流石に殺し合いはやり過ぎだがな」

 

 「…!?う、うるせえ!!あたしはワルだ!!ワルなんだ!!アイツはただ気に食わなかったからボコッてやっただけだっての!!」

 

 顔を真っ赤にして必死に弁論する杏子を、アルデバランはニヤニヤと面白そうに眺めている。

 

 「う~!!わ、笑うなー!!く、くそ!!さっさと帰るぞチクショウ!!いい加減腹減ってんだよ!!」

 

 杏子は怒鳴り声を上げると足音荒くその場から歩き去ってしまう。そんな杏子にアルデバランは困り果てた表情で頭を掻いた。

 

 「…やれやれ少々からかいすぎたか?」

 

 アルデバランは立ち上がると杏子の後を追って後ろから着いていく。杏子よりも歩幅が広かった為にアルデバランはあっという間に杏子に追いつく。杏子は隣で歩くアルデバランをジロリと睨みつけるが、結局何も言わずに足を進める。アルデバランも歩幅を杏子に合わせると、杏子と一緒に家への帰路を歩いていった。

 

 「…全くよ、おっちゃんも本当にしつこい奴だな…」

 

 「何だいきなり、そこまでしつこいか俺は?」

 

 「かなり」

 

 はっきりと杏子に言い放たれたアルデバランは、別に気を悪くする様子もなく苦笑いを浮かべた。

 

 「まあ昔からお節介焼きな性質でな。どうも困っている奴は放っておけん性質なのだ」

 

 「あたしは別に困ってねえっての!!…まあ飯と寝床をくれたのは感謝してっけどよ…」

 

 ボソボソと蚊の鳴くような声で呟く杏子の顔は、照れているのか少し赤みを帯びていた。

 何だかんだ言ってはいるものの、杏子自身は宿を貸してくれて毎日の食事を用意してくれるアルデバランに感謝をしている。

ただ、今一つ素直になれない性格のせいで、アルデバランの説教には思わず反発してしまうのであるが…。

アルデバランもそんな杏子の性格は重々承知しているため、そっぽを向いた杏子をまるで娘を見る父親のような優しい目つきで眺めている。

 

「そういやおっちゃん、今日の晩飯何だよ?」

 

「ん?今日はカレーだ。作ってから丸一日置いているから味も染み込んでいるだろうな」

 

 「へー、ゆまの奴食えるかな?あいつ辛いもの食えねえし」

 

 「安心しろ、辛さは控えめにしてある。ゆま程度の歳でも全部食えるはずだ」

 

 「ふーん…」

 

 杏子はアルデバランと雑談をしながら夜道をトボトボ歩く。何だかんだ言いながらもアルデバランの料理は楽しみなようで、アルデバランのカレーを頭に思い浮かべ、少しばかり杏子の心は浮き立っていた。

そんな他愛も無い会話をしながら歩く事20分、二人はようやく我が家の玄関前に到着した。

 

「あー、ったくようやく着いたぜ。おっちゃん!早く飯にしようぜ!!」

 

「ハッハッハ!そんな焦るな。カレーは逃げたりはせんよ」

 

ようやく夕食にありつけると玄関に飛び込む杏子に、アルデバランは可笑しそうに大笑いする。杏子はアルデバランの笑い声を無視し、ポケットから合鍵を取り出すとドアの鍵を開けようとする。

 

 「よお…会いたかったぜお嬢ちゃん?んでもって久しぶりだなアルデバランよ」

 

 …と、突然背後から声が聞こえ、杏子はギョッとして反射的に背後を振り向いた。振り向いた杏子の視線の先には、何時の間に居たのか群青色の刺々しい髪形をしたチンピラ風の服装をした男と、先程戦ったさやかとかいう魔法少女とその連れと同じ見滝原中学の制服を着た黒い長髪の少女が立っていた。

 

「なっ…!?てめえらナニモンだ!!」

 

「落ち着け杏子、敵ではない」

 

 杏子は目の前の二人組に警戒心を剥き出しにするが、アルデバランに押しとどめられる。

アルデバランに止められた杏子は、驚いた表情でアルデバランを見るが、アルデバランはそんな杏子に構わず、目の前の二人組に歩み寄る。その顔には、目の前の二人組に対する警戒心は欠片も窺えず、むしろ仲の良い友人と出会ったような嬉しそうな表情が浮かんでいた。

 

 「久しぶりだな、マニゴルド。その娘がお前が護衛している娘、か?」

 

 「ま、そんなところだな。おうほむら、こいつがアルデバラン。俺よりちょいと先輩の牡牛座の黄金聖闘士よ」

 

 「そう…。初めましてアルデバランさん。私の名前は暁美ほむら。…魔法少女よ」

 

 「ああ!?魔法少女だ!?」

 

 ほむらの言葉に杏子が反応して話に割り込んでくる。

 魔法少女という事は、自分の縄張りのグリーフシードを狙っているのではと杏子は敵意の籠った目つきでほむらを睨む。一方のほむらは何を考えているのか分からない無表情のまま、杏子の視線を受け止めている。

 

 「ああ待て待て嬢ちゃん。俺とコイツは別にお前ンとこの縄張り荒らしに来たわけじゃないのよ。そもそもコイツ、グリーフシード必要ねえし」

 

 「ああ…?グリーフシードが必要ねえだ?どういうことだよ?」

 

 「企業秘密って事にしてもらえるかしら?とにかく、私は貴女の縄張りを侵すつもりも、グリーフシードを横取りする気もないわ」

 

 ほむらの言葉を聞いてもまだ信用できない様子の杏子は、不審そうな目つきで彼女を観察するように睨む。

 

 「…ふん、なら何の用だよ?そっちの兄ちゃん、まあ多分おっちゃんの知り合いだろうけどおっちゃんに何か用でもあんのかよ?」

 

 「残念だがちげえよ。俺、というよりこいつが用あるのはアルデバランじゃねえ」

 

 「ああ?んじゃあ一体誰だよ?」

 

 マニゴルドの返答に杏子は眉を顰める。と、マニゴルドの隣に居たほむらが杏子に向かって歩み寄る。

 

 「私達が用があるのは貴女よ、佐倉杏子」

 

 「…!!テメエ…、何であたしの名前を…!…そうか、あんたがキュゥべえの言っていたイレギュラーかよ」

 

 「その答えには、イエスと言っておこうかしら」

 

 無表情で、声の抑揚も変える事無くほむらは返答を返す。杏子は胡散臭そうな表情でマニゴルド、そしてほむらを睨みつける。

 アルデバランはそんな杏子の様子にやれやれと肩を竦める。

 

 「全く…。マニゴルド、ほむら。今更だがまだこいつに自己紹介もしてないだろう?まずは名前を名乗るのが礼儀だろうが?」

 

 「んあ?そういやそうだったな。わりいわりい」

 

 マニゴルドはアルデバランに軽い口調で謝りながら杏子に笑顔を向ける。

 

 「初めましてだなお嬢ちゃん?俺の名前はマニゴルド。黄金聖闘士、蟹座のマニゴルドってんだ。よろしく頼むわ」

 

 「私の名前は暁美ほむら。見滝原の魔法少女の一人、と言っておきましょうか」

 

 「ほー…、黄金聖闘士に魔法少女が一人、ねえ…。つーか黄金聖闘士って一体何人いるんだよ?」

 

 「12人だ。まあ双子座は二人いるが一人別の星座になっているからな。12人で問題ない」

 

 アルデバランの解説を聞いた杏子はふーん、と一応理解はした様子であった。

 

 「さて、もう腹も減ってるだろうし手短に話すぜ?俺がお前さんに会いに来た理由って奴をな」

 

 自己紹介を終えたマニゴルドは、笑顔から一転して真面目な表情で杏子をジッと眺める。 

 突然真剣な表情を向けてくるマニゴルドに杏子は思わず身構える。が、マニゴルドはそんな杏子に構わず、口を開いた。

 

 「まず質問だけどよ…。お前、死んだテメエの家族に会いたいと思わねえか?」

 

 「………は?」

 

 マニゴルドの口から飛び出したあまりに突拍子の無い言葉に、杏子はポカンと口を開けて目の前の男を凝視してしまった。一方のマニゴルドは真剣な表情を崩さず、杏子を鋭い目つきで睨みつけている。

 

 「もう一度聞くぜ?お前、死んだ家族に会いたいか?会いたくねえか?」

 

 「な、何アホな事言ってんだよ!?死んだ奴に会えるわけねえだろうが!!大体、何であたしが死んだ奴なんかに会わなきゃなんねえんだよ!!」

 

 マニゴルドの問い掛けに杏子の口から否定の言葉が飛び出す。

 その表情は困惑と僅かな怯えで歪んでおり、口元は歪ながら笑みを浮かべているように見えた。そんな杏子の姿を、アルデバランとほむらは無表情で眺めている。

 マニゴルドは杏子の言葉に首を振る。

 

 「…いや?可能だぜ?俺は蟹座、生と死と魂を司る黄金聖闘士。流石に死者蘇生なんて大それたこたァできねえけどよ、生者を死者と会話させることなんざ、朝飯前よ」

 

 「な…、ま、マジ…、かよ…」

 

 「マジもマジ、大マジよ」

 

 マニゴルドの返事に杏子は眼を大きく見開き、口をポカンと開けたまま身体を僅かに震わせる。そんな杏子の様子をみて、マニゴルドは軽く肩を竦めた。

 

 「まあそう言うわけだ。もしも家族に会いたいってんなら明日テメエの住んでた教会まで来な。そこでコイツと一緒に待ってる。ま、会いたくねえってんなら無理に勧めはしねェけどよ。…おうほむら、帰るぜ」

 

 「…分かったわ。じゃあまた機会があれば会いましょう、アルデバラン、佐倉杏子」

 

 「なっ、ちょっ!!待ちやがれオイ!!」

 

 言うだけ言って背を向ける黄金聖闘士と魔法少女に杏子は声を荒げて掴みかかろうとする。が、杏子の手は何も掴むことなく空を切った。先程までマニゴルドとほむらがいた場所には、誰もいなかったのである。二人はまるで蜃気楼のように姿を消してしまったのだ。

 

 「…何だってんだよ…、一体…」

 

 杏子は何も掴めなかった手を、握り潰そうとするかのように握りしめる。

その姿にはいつものような強気な様子は感じられず、顔には苦痛と恐怖、そして悲しみが入り混じって今にも泣き出してしまいそうな表情が浮かんでいた。そんな彼女を、アルデバランは何を考えているのか読めない表情で、ジッと見つめていた。

 

 

 セージ、ハクレイSIDE

 

 アルデバランと佐倉杏子がマニゴルドと暁美ほむらと会っていた頃、あすなろ市の一角にある屋敷のベランダにて、セージ、ハクレイ兄弟が夜空の星と月を眺めながら共に一献交わしていた。

 今日も聖団のメンバーと共に魔法少女狩り、もとい魔法少女探索を行ったものの、見つかるのは魔女ばかりであり、結局魔法少女は発見することが出来なかった。

 無論姿を隠している、グリーフシード目的で他の場所に行っているという可能性も無いわけではないが、もうこの街にいる魔法少女はミチル達プレイアデス聖団だけだと思って間違いは無いだろう。

 

 「やれやれ今日も骨折り損のくたびれ儲け、か。結局今回も収穫なしじゃの」

 

 「グリーフシードが手に入ったのですから収穫はありましたぞ?まあ我等には必要のない代物ですがな」

 

 苦虫を噛み潰したような表情で酒を煽るハクレイに対し、セージは幾分か落ち着いた様子で盃を傾けている。

 今回倒した魔女は二体、運よく二体共グリーフシードを落としたため、収穫は無いわけではなかった。最も自分達も聖団のメンバーもグリーフシードを必要としない為、もはや宝の持ち腐れでしかないのだが。そういう意味では収穫ゼロと言えなくもない。

 一息に酒を飲み干したハクレイは、空になった盃に再び酒を注ぐ。

 

 「魔法少女がおらんということはすなわち契約した者がいないか、はたまた魔法少女全員がもう魔女になっているかのいずれかというわけじゃが…。ワシ個人としては前者であって欲しいものよ…」

 

 ハクレイは注いだばかりの酒を飲み干すと盃を机に叩きつけ、疲れたように息を吐いた。そんな兄の様子を眺めながらセージはハクレイの盃に酒を注ぐ。

 

 「…ですがいくら魔法少女の魂を肉体に戻したとしても、連中がまた別の少女と契約してしまえば意味はありませぬ。やはり根本であるインキュベーター共をなんとかしなくては…」

 

 「あれはそもそも人類の持っておる感情そのものが存在せぬから、元より少女を苦しめることへの罪の意識、罪悪感も存在しておらぬ。むしろ宇宙を救うための尊い犠牲とまで考えておるからのう、余計に性質が悪いわい」

 

 「自分の行いを善と信じ込んでいる、あるいは悪であると認識していない、か…。やれやれ、下手な悪よりも始末に負えませぬな。説得や話し合いでどうこう出来そうにもありませぬ」

 

 「感情エネルギーよりも強大なエネルギーがあれば連中の気も変わるのやもしれぬが…、そんなものワシらも知らぬしの。まあ心当たりが無いわけではないが、な」

 

 ハクレイは渋い表情で盃に満ちた酒をジッと眺める。そんな兄を眺めながら、セージも難しい表情で酒を啜る。その雰囲気は傍から見ればもはやお通夜としか言いようがない雰囲気である。

 

 「全くどうしたものか…」

 

 「ちょっとちょっとちょっとちょーと!!グランパ達暗すぎ!!幾らなんでも暗すぎだって!!折角の記念パーティーが台無しだよ!!」

 

 酒を酌み交わす老聖闘士兄弟の微妙な雰囲気を破るように、少女の元気のいい声がハクレイの言葉を掻き消した。

 ハクレイは両手を腰に当てていかにも怒っている雰囲気の少女、和紗ミチルに向かってジトッとした視線を送る。

 

 「何じゃミチル、ワシらは今大事な話をしておるんじゃ。騒ぐならもう少し静かにいたさんかい」

 

 「何言ってるのさ!!折角“私達がグランパ達に出会えた記念パーティー”を開いているのに、肝心の主役の二人がこーんな所でこーんな暗い顔でお酒飲んでてどうするのさ!!

 かずみちゃんなんかあんなに楽しそうにしているんだよ!!だからグランパ達も一緒に楽しまなきゃ!!」

 

 ミチルの言葉にハクレイは自分が私室として使っている部屋の内部に目を向ける。

 部屋の中央には何処から運んできたのか大きなテーブルが置かれ、その上には皿に盛られた料理やジュースの瓶が幾つも置かれている。そしてテーブルの周りにはハクレイの娘、昴かずみとミチルを除くプレイアデス聖団のメンバーが思い思いに飲み、食べながら談笑していた。確かに250を過ぎたジジイ二人で酒を飲んでいるこちらとは正反対の雰囲気である。

 

 「だから言っておろうが。ワシらはワシらで勝手にやっておるからお主らもお主らで勝手にやれと」

 

 「だーかーら!グランパ達はこのパーティーの主役なの!!折角グランパ達に感謝したくてみんなで料理とか用意したのに肝心のグランパ達が二人っきりでお酒飲んでるんじゃ意味ないじゃん!!」

 

 ミチル曰く、今日は自分達がハクレイ、セージ、かずみと初めて出会った記念日だとのことだ。確かに一年前のこの日、自分達は彼女達と初対面をした。

 そして、魔女化した和紗ミチルを元の人間に戻したのもこの日だった。

 恐らく彼女がパーティーを開いたのはこれを祝いたいのもあったのだろう。ハクレイとセージ自身は別に祝って貰うような事をしたつもりはないのだが、彼女達にとっては自分達にせめてもの感謝をしたいとの思いもあるのだろう。

 

 「ふむ…、どうするかのセージよ」

 

 「そうですな、かずみもああして楽しんでおりますし…、我等も混ざりましょうかのう」

 

 「おおっ!セージグランパ話分かる~!!じゃあ行こっ!!早くしないと料理無くなっちゃうよ!!」

 

 「ぬっ!?こらこら引っ張るでないミチル!急かさんでも自分で歩けるわい」

 

 ミチルに急かされながら二人はパーティー会場となった部屋に足を踏み入れた。

 ご飯を頬張りながら里美と話をしていたかずみは、ハクレイとセージが部屋に入ってきた事にいち早く気がつくと皿に残った料理を一気に飲み込むと自分の父親と叔父に駆け寄った。

 

 「おじいちゃんやっと出てきたー!もー!一体何やってたのー!ごはん無くなっちゃうよー!!」

 

 「いやいやかずみ、ワシらは今後の事を話していてだな…」

 

 「そう言うお話はいつでも出来るの!今は一緒にご飯食べよ!やっぱりご飯はみんなで一緒に食べなきゃ美味しくないよ!!」

 

 「うんうん!かずみちゃんはグランパ達とは違ってよく分かってる!!あんな辛気臭い顔でお酒飲むよりも一緒にご飯食べる方が良いに決まってる!!そんなわけで、はい!」

 

 ミチルはいつの間に持ってきたのか、特別な時にしか作らない料理、『イチゴリゾット』が盛られた皿を差し出される。ハクレイとセージは黙って皿とスプーンを受け取ると、皿の中身をすくって、口の中に運ぶ。

 

 「…ん、美味い。のうセージよ」

 

 「はい、ですが以前食べたものと少し味が違うような…。ミチル、普段とは違う材料でも使ったのかの?」

 

 セージの質問にミチルは意味ありげな笑顔を浮かべた。

 

 「んーNO、NO。材料はいつもと同じだよ。でも作ったのは私じゃないよ?私はレシピを教えただけ」

 

 「ぬ?お主で無いなら誰が作ったんじゃ?このリゾットは」

 

 ミチルは笑顔のまま、自分の背後に視線を向ける。視線の先にはかずみが料理をよそいながらこちらをチラチラとどこか不安そうに見ている。

 

「…もしや…かずみか?これを作ったのは…」

 

 「へへ~、せいか~い!グランパ達に作ってあげたいって土下座して頼まれちゃってさ。そこまで言われたら無碍にできないから手とり足とり教えてあげたの。まあ確かに若干私のとは違うけど、美味しいでしょ?」

 

 「うむ…、確かに、美味いのう」

 

 「…だってさ!良かったねかずみちゃん!!」

 

 「う、うんっ!!良かった~…」

 

 自分の作った料理を美味しいと評価された事にかずみの表情が明るくなる。ミチルは嬉しそうにはしゃぎまわるかずみに抱きつくと、髪の毛をグシャグシャと若干乱暴に撫でまわし、かずみはいきなり抱きつかれて頭を撫でまわされて悲鳴を上げる。

 そんなまるで本物の姉妹のような少女二人の姿に、ハクレイとセージは目を細める。

 

 「…まあ、たまにはこういうふうに小難しい事は忘れてはしゃぎまわるのも良いものじゃの、セージよ」

 

 「左様ですな。兄上」

 

 部屋の中ではしゃぎ回る娘達を眺めながら、ハクレイとセージは娘の手作りのリゾットを口に運んだ。

 

 




 約一カ月ぶりの更新となりました。遅れてしまい申し訳ありません。
 仕事やら何やらで中々時間が取れなくて…。
 今回はアニメにないシーンばかりだったもので中々に難産でした…。やはりオリジナルは難しい…。
 ちなみにシジフォスのコーヒー好きっていうのは…私の完全なオリジナルです。何となくイメージ合ってそうなので…。勝手なイメージ押し付けるなって言われそうですね、うん…。
 
 

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