魔法聖闘士セイント☆マギカ   作:天秤座の暗黒聖闘士

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 以前投稿させて頂いた間章の内容を修正したものです。
 以前の作品から内容は大幅に変更してあります。


間章 乙女座の時間軸巡り(修正版)

 

 そこは黒に彩られた場所だった。

 

 辺り一面が黒、黒、黒。ただ一面が黒い。この場所は、ただ黒一色に染め上げられている。

 

 そして、その黒い世界の中、まるで砂粒のように小さく、それでいて眩いばかりの輝きを放つ星が、幾つも幾つも輝きを放っている。

 

 星々はただ輝くだけではなく、点滅し、より強く輝くものもあれば、そのまま闇の中へ消えていくものもある。

 

 そして、漆黒の虚空から新たに生まれる星もまた…。

 

 そんな黒と星々に彩られた宇宙の中、黄金の鎧を纏った人間が結跏趺坐を組み、ただ一人その空間を漂っている。

 

 「外史の狭間…。幾千幾万、否、幾億幾兆にも及ぶ外史が生まれ、消える場所…。初めてきてはみたが、ここがそうか」

 

 その人物の名は黄金聖闘士、乙女座のアスミタ。黄金聖闘士の中でも「神に近い男」と呼ばれる人物であり、今は依頼主の命で美国織莉子と呉キリカの護衛をしている。

 彼の漂うこの宇宙は、魔法少女の存在する外史、即ち今自分達の居る世界とは別の並行世界の狭間の世界である。

 彼の本体は未だあの世界に存在しており、此処に漂っているのはアスミタの精神体、彼の卓越した第7感、そして第8感によってこの空間に存在することが出来る。

 

 「さて、ではいつまでも此処に居るわけにはいかんしな。そろそろ向かうとしようか」

 

 アスミタは結跏趺坐を解いて立ち上がると、何も存在しない宇宙をまるで普通の床を歩くように歩き始める。

 ゆっくりと足を進めるアスミタの真横で、無数の星々が点滅している。が、アスミタは一瞥もせずにそのまま通り過ぎる。

 

 「随分とあるものだ。いやはや外史の数はまことに膨大。それほど人の思念、願いが多く込められているという事か…」

 

 だが、とアスミタはうそぶいて遥か彼方にある一つの星を、周囲に輝く星の中で一際輝く星に顔を向ける。

 

 「私が用があるのは全ての外史、並行世界、その原点。一人の少女の願いの果てに生まれた新世界、だ」

 

 アスミタはその星に向かって足を進める。傍目からはゆっくり歩いているようにしか見えないが、彼が一歩進むたびに星への距離は一気に縮んでいく。

 やがて、一定の距離まで近づいた時、光り輝いていた星の正体が明らかになった。

 それは無数の銀河系、星の集団が幾つも連なった一つの宇宙…。遠目からは星としか映らなかったそれは、まさにそれ自体が一つの宇宙を構成していた。

 

 「ここか…。かの少女の祈りにより、作り替えられた新世界、とは…」

 

 アスミタは感慨深げに呟くと、その宇宙に向かって歩を進める。豆粒のように見えた銀河群に近付いて行くうちに、目の前の銀河の一つ一つが段々と巨大に、そしてそのはっきりとした輪郭を露わにしていく。

 幾千幾万の銀河を進み、幾億幾兆の星々を通り過ぎ、やがてアスミタは巨大な光の渦、光り輝く星の集団が渦巻く場所で足を止めた 

 

 「ここが、この新世界の中枢、世界の理を流れださせる中枢か」

 

 アスミタは光の渦、すなわちその外史の中枢に顔を向けると、そこに向けて一歩踏み込んだ。

 瞬間、アスミタの目の前が真っ白に染まった。否、彼の前だけではない。

 上、下、左、右、そして背後、彼の居る空間そのものが全て穢れや濁り、何一つない真っ白な空間に変貌していた。

 アスミタは突如変質した空間に驚く様子もなく、何処か面白そうに純白の世界を眺めている。

 

 「ほう、他の色が全くない、曇りの一点も無き空間か…。なるほど、これこそが円環の理の中心、魔法少女を救済する『法』を流出している起点というわけ、か」

 

 そのあまりの白さ、邪念の一片の無さにアスミタが思わず感嘆の声を上げた瞬間…。

 

 「ふ、ふえ?あの、どちら様でしょうか?」

 

 突然彼の耳に、戸惑っている何者かの声が飛び込んでくる。

 そして彼の目の前には何時の間に現れたのか、一人の少女が困惑の表情を浮かべてこちらを見つめていた。

 盲目であるアスミタには、少女の姿を見る事は出来ない。しかし、少女から放たれる神々しく、それでいて優しく包み込むかのようなオーラから、声の主が何者であるか理解することが出来た。

 

 「鹿目、まどかか…」

 

 「は、はい、まどかですけど…、あっ!その金色の鎧って、もしかして聖闘士さんですか?」

 

 かつて呼ばれていた名前で呼ばれ、新世界の理を敷く女神、円環の理こと鹿目まどかは最初戸惑った表情を浮かべたが、アスミタの鎧を見て彼の正体に気がつくと一転して表情を輝かせた。

 

 「ほう?我々を知っているのか。記憶が確かなら私達は君と出会った事は無いのだが…」

 

 「あ、はい、私は貴方達にあった事はありませんけど、別の時間軸の『私』が貴方達の活躍を見ていたので…」

 

 まどかの言葉曰く、基本的に彼女自身はこの時間軸から動く事は出来ないが、別の時間軸に存在する『鹿目まどか』を通して別の時間軸で起きた出来事を視ることが出来るのだと言う。

 

 「だから貴方達聖闘士さん達の活躍も見せてもらってるんです。あの時間軸には、私何も出来ませんから」

 

 「そこまで悔やむ事もあるまい。君はこの『起点の新世界』という宇宙のみに理を流れ出す事は出来るだろうが、この世界を起点に生まれた外史は、この世界とは独立した世界だ。君でも干渉は不可能だろう」

 

 アスミタは笑いながら白一色の地面に結跏趺坐で座り込む。それにつられてまどかも地面に正座で座る。

 

 「えへへ、お茶も座布団も出せなくてすいません。此処に来る人ってほとんどいませんから」

 

 「いや、構わんよ。私も長居するつもりはない。ただ、君に一つ二つ聞きたい事があって来ただけだ」

 

 「え?聞きたい事、ですか…?」

 

 まどかはアスミタの言葉に意外そうな表情で首を傾げる。アスミタは表情を変える事無くコクリと頷いた。

 

 「そうだ、君が何を願い、何を想い、この理を展開したのか、それを君から聞きたい」

 

 「えっと、でもそれって聖闘士の皆さんはもう知ってるんじゃ…」

 

 「まあ知ってはいる。だがどうせなら、君自身の口から聞いてみたいと思ったのでね。無論嫌なら無理にとは言わないが…」

 

 「はあ…、別に嫌じゃありませんから良いですけど…」

 

 まどかは了承すると、かつての世界を思い出しながら、語り始めた。

 

 何故自分が魔法少女となり、この世界の事象たる、『円環の理』を作り出したのかを…。

 

 

 

 

 

 

 「…それで私は、願ったんです。過去現在未来全ての魔女を消し去りたいって。そして魔女は全部消え去って、魔法少女のシステムそのものも変えることが出来たんです。

 希望を抱く事は間違ってなんかいない。希望を信じて魔法少女になった人達を、絶望で終わらせたくない、それが私の願いなんです」

 

 まどかは両手で胸を抱き締めながら、まるで全てを慈しむような表情で、長かった話を締めくくる。

 魔法少女と言う存在を知り、その末路と絶望を知り、彼女達の悲しみを、苦しみを癒してあげたかった…、それこそがまどかの願いの原点、円環の理の起源なのである

 結果として自らの存在は消え去ってしまったけど、それでも自分のことを覚えてくれている友達がいる。だからこうして頑張っていけるのだ。

 鹿目まどかは、この理を生み出した慈愛の女神はそう言って微笑みを浮かべた。

 アスミタはそんなまどかの話を聞き終えると、閉じられた双眸をまどかに向ける。

 

 「なるほど、それが君の願い、君の望みか。全ての魔法少女の生を絶望で終わらせたくない…。だからこそ自らが彼女達を救う概念となり、彼女達を救済したい、と…。

 確かにその理念は真に尊い。かつての世界で幾千幾万もの少女の絶望の涙を知ったが故の君なりの答えならば、誰にも文句を言わせる事は出来まい。だが…」

 

 アスミタは一度言葉を切ると、まどかに少し憂いを含んだ表情を向ける。

 

 「…君は、寂しくは無いのかね?友にも、家族にも忘れ去られ、誰もその存在を認識出来ない。唯一暁美ほむらは過去の世界の記憶を引き継ぎ、君の存在を知っているが、いずれは彼女もいなくなる。いわば君はこの世界でただの一人きり。永遠の孤独の中絶望との戦いをする運命にある。

 あえて聞かせてもらうが、君は、自身の選択を、本当に後悔をしていないのか?」

 

 アスミタの心配そうな口調でまどかに問いかける。一方のまどかは一瞬ポカンとした表情を浮かべるが、やがておかしそうにクスクスと笑い始める。突然笑い始めたまどかに、アスミタは怪訝な表情を浮かべる。

 

 「む…?何かおかしなことでも言ったかね?私は」

 

 「フフッ、ご、ごめんなさいアスミタさん、突然笑ったりしちゃって」

 

 「いやそれは構わないのだがね?私は何か君に変な事でも言ったのかと思ってね」

 

 まどかはクスクスと笑いながら、アスミタに向かってニッコリと輝くような笑顔を向ける。

 

 「いえ、アスミタさんっていい人だなって思って」

 

 「ふむ、良い人か。私は自分自身つまらん人間だと思っているのだがね、これでも」

 

 「そんなことないです!だって私の事を心配してくれてるんですから、悪い人なんかじゃありませんよ!」

 

 まどかは慌てた様子でアスミタの言葉に反論する。そんな何処か一生懸命な少女神の姿に、アスミタも自然と笑みを浮かべた。

 アスミタの微かな笑みを見て、まどかも嬉しそうに笑みを深める。

 

 「大丈夫です。誰にも見られなくなっても、知られなくなったとしても、私はいつだってみんなの側にいることが出来ます。ほむらちゃんも、それにママもパパも達也だって私の事をほんの少しだけだけど覚えていてくれる。それだけでとっても嬉しいんです。

 それに、お話だって全くできないわけじゃないんですよ?」

 

 「む?…ああ、そういうことか」

 

 アスミタはまどかの言葉で納得したかのように頷いた。

 新世界で美樹さやかが魔力を使い果たし、消滅する寸前に、まどかとさやかは上条恭介の演奏を聴きながら会話をしていた。その事から察するに、まどかは円環の理に導かれる魂と会話をする事が、ある程度は可能なのだろう。

 アスミタの推測を肯定するように、まどかはクスッと笑う。

 

 「そうなんです。魂だけになった魔法少女を連れていくときには、彼女達と会話することが出来るんです。だからちょっとの間だけだけどさやかちゃんと話す事が出来たんです。

 だから私はそこまで淋しいって感じることは無いし、孤独だって思っていません」

 

 まどかは何処か誇らしげな表情でアスミタに笑顔を浮かべる。盲目のアスミタには彼女の笑顔は見れないものの、彼女の言葉、そして彼女の雰囲気からまどかが今どんな表情を浮かべているのかが理解できた。

 

 「そうか…、なら、君は自分の選択を後悔していないと言う事か…」

 

 「はい。魔法少女の祈りを呪いなんかで終わらせたりしない、それが私の願いなんです。もちろん魔法少女には良い人ばかりじゃありません、自分勝手な願いで契約した人だって、復讐の為に魔法少女になった人だっています。それでも、奇跡を信じて魔法少女になったみんなの人生を、絶望で終わらせていいはずが無い…、希望はちゃんとあるんだって、胸を張ってそう言ってみせるって、マミさん達と誓ったんですから。

…でも、もしも後悔があるとしたら、一つだけあります…」

 

 と、突然まどかは笑顔から一転して寂しげな表情を浮かべる。アスミタは沈黙したまままどかをジッと見ている。まどかは俯くと重々しく口を開いた。

 

 「…一人だけ、犠牲にしてしまった魔法少女がいたことです…」

 

 「…かずみ、か…」

 

 アスミタの言葉に、まどかは黙って頷いた。

 

 かずみ。あすなろ市で魔法少女集団プレイアデス聖団の一員として戦っていた魔法少女。

 その正体は聖団の創始者、和紗ミチルの変異した魔女から作り出されたミチルのクローン、『マレフィカファルス(魔女の肉詰め)』の13体目。

 その真実を知り、一度は絶望した彼女だったが、最終的には『人間になりたい』という願いで魔法少女として契約し、ミチルのクローンとしてではなく『昴かずみ』という一人の人間として、仲間達と新しい人生へと踏み出していった。

 かずみは魔女から創られた存在であり、端的に言うのならば『魔女が存在しなければ生まれることのない存在』である。故に、まどかの新世界では彼女は存在しない、否、産まれることすらない。なぜなら和紗ミチルは魔女になる前に消滅してしまうから…、他ならぬまどかの手によって…。

 まどかは悲しげな表情で話を続ける。

 

 「かずみちゃんは、和紗ミチルさんが変貌した魔女の一部から創られた魔法少女ですから、魔女が消滅してしまったこの世界じゃ、産まれることすらできないんです…。気がついたのは魔法少女になって願いを叶えた後ですけど、その時にはもう遅くて…」

 

 「彼女は例外中の例外だ。君の力でもどうしようもなかったよ」

 

 「…それでも、彼女には願いも、祈りもあった…。自分自身が人間になって、新しい一歩へと踏み出したいって願いが…。でも、でも私の願いが…、彼女の希望も、願いも、存在そのものまでなかった事にしてしまったから…!!」

 

 彼女の存在を知り、そしてその存在を消してしまったと言う事を思い出したまどかは、後悔からか悲しみに顔を歪め、黄金色の瞳から涙をこぼす。

 神と等しい存在になったと言っても精神的にはまだ幼い少女、自分の力で救えなかった魔法少女がいることが、悔しくて悲しくてたまらない…。そんな彼女の感情がアスミタには伝わってきていた。

そんな彼女の姿に、アスミタは自身の記憶にある聖域に連れてこられたばかりの幼い女神の姿を重ね合わせた。

まだ幼いうちに、故郷と、幼馴染と、兄と引き離された幼い少女…。

 アスミタはまどかの頭に向かって手を伸ばすと、まるであやすかのように優しくその柔らかい髪の毛を撫でた。

 

 「まどか、確かに君はこの新世界の神と呼べる存在だ。その力はもしかしたら我等の女神やハーデスを上回るかもしれん。だが、全能だからと言って必ずしも全てを救えるわけではないのだよ」

 

 「え…?」

 

 頭を撫でながら語りかけてくるアスミタの言葉に、まどかはキョトンとした表情を浮かべる。アスミタはまどかの瞳に残る涙を軽く拭うと、話を続ける。

 

 「人の思考とは多種多様だ。各々が異なる価値観、心を持ち、望むも欲するも人それぞれ違う。たとえ至高の善政を布いたとしても、それで全ての人間が満足し、歓喜するわけではない。中には不満を持つ者も、その善政を壊さんとする者もいる。それは人も神も変わりはしない。実際…」

 

 と、アスミタはまどかに向かってバツが悪そうに苦笑いを浮かべる。

 

 「我が聖域でも、聖闘士による反乱がおきた事もある」

 

 「え、ええッ!?ほ、本当ですか!?」

 

 「恥ずかしいながら本当だ。私達の数代後輩の連中なのだがね、双子座の黄金聖闘士のサガと言う男が当時教皇の座に就いていた牡羊座のシオンを暗殺し、挙句本来我等が守護すべきアテナまで手にかけようとした。

 幸いアテナは当時射手座の黄金聖闘士だったアイオロスによって救われたが、結果的に聖域はサガに乗っ取られ、十数年間支配される破目になった。

 当時は黄金聖闘士が射手座と双子座と天秤座を除いて全員幼かったものでな、お陰でサガに乗っ取られても気がつかれなかったというわけだ。挙句の果てには蟹座、山羊座、魚座のように教皇が偽物と知りながら協力する連中も出る始末だ。まあ、連中からすれば力のないアテナよりも力のあるサガの方が地上を平和に出来ると考えたのだろうから気持ちは分からんわけではないが。

 結局十数年後に成長したアテナと彼女を守る青銅聖闘士5人によってサガの支配は終わったが、結果的に主力の白銀聖闘士の大半、そして切り札の黄金聖闘士の内双子座、蟹座、山羊座、水瓶座、魚座の五人が死亡する羽目になってしまい、聖域は内乱で大幅に弱体化する羽目になってしまったというわけだ。

 全く冥王との一戦の前に一体何をやっているのやら…。教皇とハクレイ様はこの事実を知って怒り狂っておられたよ。今も昔もどうして双子座はどいつもこいつも…、とな」

 

 ついでに蟹座と魚座は逆上した挙句一刀を締め上げて聖域に殴りこみをかけようとしていたな。アスミタは笑いながら話していたがまどかはポカンとした表情でアスミタを眺めていた。

 確かに聖闘士にも色々な人がいるとは思っていたけれどまさか内乱まで起きていたなんて知らなかった。しかもそのせいで聖闘士同士殺し合う事になるなんて…。

 まどかはアスミタ達黄金聖闘士が聖戦をどのように戦い、そしてどのように散っていったかを知っている。彼等は未来を信じ、新たな世代の可能性を信じて、その命を散らしてまで、後の世代に全てを託していったのだ。その後を託した後輩がこの様ではそれは怒りたくなるかもしれない。

 

 「あ、あの…、ちなみにマニゴルドさんとアルバフィカさんは、その、殴りこみに行ったんですか…?」

 

 「む?彼等の名前を知っているのか…。まあいい。彼等なら天舞宝輪で五感を引き剥がした後デジェルのフリージングコフィンにしばらく閉じ込めておいたから、幸い未遂だ。   

まあ彼等には良い薬になっただろう」

 

 「あ、あははははは……」

 

 アスミタが平然と言い放った言葉に流石のまどかも引き攣った笑みを浮かべる。

 五感を引き剥がされた揚句に絶対零度の氷の棺に閉じ込められる…、常人どころか魔法少女であったとしても死んでいるレベルである。円環の理という概念となったまどかでもそんな目にあうのは絶対御免である。

 そんな目にあったのにもかかわらず今現在マニゴルドとアルバフィカはピンピンしているどころか、余裕で魔女や使い魔を蹴散らすほどの暴れっぷりを見せている。黄金聖闘士って本当に凄い人達だな~、とまどかは心の中で密かに感心していた。

 そんな彼女の心情を知ってか知らずかアスミタは軽く肩をすくめた。

 

 「まあ我等の間ですらこのような内輪揉めが起こる。君の作り出した新世界でも、君の理に馴染めない魔法少女が何人かいるだろう。中には欲望のままに碌でもない事に魔法を使う連中もいる。双樹姉妹のように、な」

 

 「…ああ…。あの人達ですか…」

 

 アスミタが出した名前にまどかは少し嫌そうな表情を浮かべる。

 

 双樹姉妹、双樹あやせと双樹ルカという二つの人格を持つ魔法少女。

 二つの人格を持ち二つの魔法少女としての姿をもつのも特徴的だが、最大の特徴はその異常な趣味趣向である。

 彼女達は魔法少女の魂であるソウルジェムを、『生命の輝き』『この世で一番美しい宝石』と呼んで魔法少女達から奪い取る『ジェム摘み(ピック・ジェムズ)』なる趣味を持っている。当然魂であるソウルジェムを奪われた魔法少女の肉体は機能停止、下手をすれば肉体は死亡してしまうのだが、そんな事は知った事ではないと言わんばかりに彼女、否、彼女達は魔法少女からソウルジェムを強奪し、自らのコレクションとしているのだ。

 さすがのまどかでもあの二人の考えや趣味趣向は擁護不能で許容できないようであり、その表情には先程までなかった嫌悪感がありありと浮かんでいる。

 

 「魔法少女の命そのものであるソウルジェムを奪い取り、コレクションする…。私から見れば全く持って悪趣味極まりないがな。やれやれ、これでは魔法少女と言うより通り魔か追い剥ぎだな」

 

 「そうですよ!!幾らなんでも彼女達のやってる事は魔法少女として許せません!!いっその事彼女達だけ救わないで魔女化させてしまいたいって思っちゃいました!!」

 

 「無理な事を言うのは止めたまえ。そもそも君の理である円環の理というのは魔法少女なら誰であろうと、ソウルジェムが濁りきった瞬間に自動的に起動するものだ。幾ら君に意思があったとしても誰かを救う、救わないを選ぶ事は出来ないのだよ」

 

 「うう~……」

 

 双樹姉妹だけは本気で魔女化させようと考えていたのか、まどかは立ち上がって悔しそうな表情で頬を膨らませていた。そんな年相応の可愛らしい仕草に、アスミタは可笑しそうに笑い声を上げた。

 

 「全くそんな選り好みをする所がある辺り、君は女神と呼ぶにはまだまだ子供と言ったところか。まあ、実際魔法少女になったのは14かそこらだったからな。当然と言えば当然だが…」

 

 「うう~…、は、反論できません…」

 

 「まあ彼女達も姉妹同士…、というより別人格同士で身体は一緒なのだが仲が良いようであるしそこだけは評価してやってもいいのではないのかな、女神殿」

 

 「む~…、まあ、それは、まあ、そうですけど…、あ、あと!私は女神様なんてものじゃありません!ただの魔法少女ですッ!」

 

 怒っているかのように反論するまどかを、アスミタは涼しげな表情で眺めている。まどかはむ~、と不満そうに唸り声を上げていたがやがて諦めたのか黙って真っ白な地面に座り込んだ。

 

 「さて、話が途切れたな。まあそう言うわけで、全ての魔法少女を等しく救う、と言うのはいかに神以上の存在になったとしても不可能と言ってもいい。が、君はたとえそうだとしても、魔女を消し去る願いを叶え、魔法少女となった事を後悔していないのだろう?」

 

 「は、はい…。でも、でも私は、全ての魔法少女を救いたいって思ったから魔法少女になったのに…」

 

 やはりかずみを助けられなかった事に未練がある様子のまどかの言葉を遮るように、アスミタは彼女の顔の前を掌を差し出す。

 

「君は君だ。神だの魔法少女だの以前に、君は『鹿目まどか』という一人の人間なのだよ。悩みもするし、悲しむ事もあるだろう。おもわぬ壁にぶつかり、どうしようもない理想と現実の差に苦しむ事もある。だが、それでいいのだよ。

 私達人間は各々が自分自身の宇宙を持ち、私達自身が宇宙の一部なのだ。それはまどか、君も同じだ。

 君は君のまま、君の思うがままに生きていけばいい。それは人間でも、魔法少女でも変わりはしない。孤独なら寂しいと感じるだろうし、誰かと話をしたいと思うのも当然だ。辛い時には泣けばいい、嬉しい時には笑えばいい。君は確かに神に等しい力を持つ魔法少女であるが、神ではない。人間で、いいのだよ」

 

 アスミタの言葉に、まどかは目から鱗が落ちたような顔でアスミタを呆然と眺めていた。 

 魔法少女でも神でもなく、君は人間だ、人間でいい…。そんな事を言われたのはまどかとしても初めてであり、とても新鮮な気持ちであった。

 まどかは頬を掻きながら恥ずかしそうな笑顔を浮かべた。

 

 「人間でもいい、ですか…。そんな事、初めて言われちゃいました…」

 

 「まあそれも仕方が無い。こんな所に来れる人間などそうそう居ないからね」

 

 「えへへ、そうですね。でも、ちょっとすっきりした気がします」

 

 まどかは憑き物が落ちたような晴れやかな笑顔を浮かべる。まどかの雰囲気が少し変わった事を感じ取ったアスミタは、結跏趺坐を解くと純白の床から立ちあがる。

 

 「…さて、そろそろ私も御暇させてもらおうかな?」

 

 「ふえ?もう帰っちゃうんですか?」

 

 立ち上がったアスミタにまどかは名残惜しそうな視線を向ける。そんなまどかの視線にアスミタは僅かに振り向いた。

 

 「ああ、そろそろ戻らないとキリカがうるさいだろうからね。安心したまえ、また会えるよ」

 

 「アスミタさん…」

 

 久しぶりに一緒に話が出来たせいか、まどかは何処か淋しそうにアスミタを眺めている。

 女神でも、魔法少女でもない普通の少女の表情を見せるまどかを、アスミタは微笑ましげに眺める。

 

 「近いうちにまた会えるだろう。その時には、シジフォス達も連れてこよう。鹿目まどか」

 

 その言葉を残して、神に近いと言われた黄金聖闘士は霞のように消え去っていった。まどかは消え去っていく彼の姿をただジッと眺めている事しか出来なかった。

 

 「…また会えます、よね。アスミタさん?」

 

まどか一人だけとなった空間の中で、彼女の声に答える人間は誰も居ない。だけど、またいつか会える、確信は無かったが何故かそう信じることが出来たまどかは晴れやかな笑顔で先程までアスミタが居た場所を見つめていた。

 

 「あ、それからアスミタさん。言ってませんでしたけど私、実はもう一つだけ後悔してる事があるんですよ?」

 

 唐突にそう呟いたまどかは、いつの間にか出現していたテレビの画面のような映像を眺める。

 そこに流れる映像には、自分の居る新世界とは別の世界の鹿目まどかと、別世界の魔法少女である美樹さやかと巴マミ、そしてアスミタと同じ黄金聖闘士、射手座のシジフォスの姿が映し出されている。

魔法少女二人と自分自身とは違う『鹿目まどか』を見守る黄金の射手座の姿を眺めながら、新世界の女神となったまどかは羨ましそうに溜息を吐いた。

 

 「一度初恋って、してみたかったな…」

 

 少女の呟きは、彼女以外誰も居ない空間に空しく響き渡った。

 

 





 どうもすみません!!間章大幅に変更して再投稿させていただきました。
 読者の皆さんの感想を読んで改めて読み返してみたらもうアスミタがまどかいじめているようにしか見えなくて…。もう少し推敲して書くべきでした…。
 そう言うわけですので今回大幅に内容を変えましたけど…、何だか以前の面影が残っていないような…。まあ私では精々これが限界なのでしょうけど…。
 

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