魔法聖闘士セイント☆マギカ   作:天秤座の暗黒聖闘士

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ようやく第18話投稿できました。アニメで言うのなら第五話辺りになります。少々難産でございましたが無事投稿できて嬉しい限りです。
今回ようやくさやかと杏子が出会います。無論アニメ同様ひと悶着ありますが…。




第18話 魔法少女の邂逅と激突

 見滝原にあるとあるマンションの一室に、美樹さやかの住居はあった。

 今日は両親は共働きで遅い為、現在家にはさやかしかいない。

 さやかは自分の部屋にある鏡の前で一度気合を入れると、部屋から出て玄関に向かう。

 魔女から街を守る為のパトロール、さやかは今からそれに向かうのだ。

 さやかは緊張してゴクリと唾を飲み込んだ。

 魔女を倒すパトロール自体は初めてではない。マミとまどか、そしてシジフォスと一緒になって行った魔法少女研修、そして始めて魔法少女になった時に一人で街中をパトロールして廻った。

 が、魔女退治自体は全くやった事が無い。使い魔とも戦った事が無く、倉庫での魔女もシジフォスが先に殲滅してしまったため、討伐経験は全く無い。

 練習無しのぶっつけ本番、緊張するなと言うほうが無茶と言うものであろう。

 もうマミと一緒に居た時のような付き添いではない、シジフォスのような黄金聖闘士もいない、自分自身たった一人で命を懸けた戦いの舞台へと赴くと言う事実に、さやかは少なからず恐怖を覚えていたのだ。

 

 「緊張しているのかい?さやか」

 

 彼女の肩に乗っているキュゥべえは、そんなさやかの感情を察したのか、そのマネキンのような無表情でさやかの横顔を見つめる。さやかは照れ臭そうに頬を掻いた。

 

 「まあ、ね。なんたって一歩間違えたらお陀仏なわけだし」

 

 「そうだね。でも気を強く持ってほしいな。君はもうこの街を守る魔法少女なんだからね」

 

 「…うん、分かってる」

 

 さやかは弱弱しい笑みをキュゥべえに向けると、玄関のドアを開けて外に出ると、ドアの鍵を閉める。

 もしかしたらもうここに戻れないかもしれない、そう考えると全身に震えが走り、今にも地面に座り込んでしまいそうになる。

 緊張で震える身体に自分で気合を入れながらさやかはマンションの外に出る、と、まどかとマミ、そして不機嫌そうな表情のシジフォスが待っていた。

 

 「え!?ま、マミさんにまどか、シジフォスさんも!?」

 

 「初心者一人じゃ心配でしょ?もしもの為に私達も同行する事にさせてもらったの」

 

 驚いた表情のさやかにマミはニッコリと笑顔を見せる。予想もしていなかった事にさやかは呆然とする。と、マミの隣に居たまどかがおずおずとさやかに近寄った。

 

 「あ、あのねさやかちゃん…。私魔法少女じゃないから足手纏いになっちゃうかもしれないけど、それでも、邪魔にならない所までで良いから、一緒に行きたいなって…。

 だ、駄目かな?さやかちゃん」

 

 まどかはどこか不安そうな表情でさやかをじっと見つめる。さやかはまどかの言葉を聞いて驚いた表情を浮かべていたが、やがてクスッと笑みを浮かべるとまどかの手を両手で握りしめる。

 

 「何言ってんのさ!まどか達が居てくれたら、あたしとっても心強いよ!

本当はね、あたし一人で行くのって心細くってさ、少し、怖いとも思ってるんだ。はは…、魔法少女なのに、情けないよね」

 

 「さやかちゃん…」

 

 「邪魔なんかじゃないよ、まどか達が居てくれて、嬉しくてたまらないよ。すっごく心強くて、それこそ百人力って感じで!」

 

 「…本音では魔女退治になど行って欲しくないんだがな、俺自身は」

 

 と、まどかとさやかの会話にシジフォスが割って入ってくる。こちらはさやかが魔女退治に行くこと自体が不満らしく、不機嫌そうな表情でさやかを見ている。

 

 「…さやか、どうしても行くつもりか?言っては何だか君がいなくても我々黄金聖闘士にマミとほむらの二人も居るから魔女退治については心配はいらないぞ?グリーフシードも届けるから魔力の心配もいらない。だから君はいつも通りの生活を送っても何ら支障は無いんだが…」

 

 「そんな…!!シジフォスさん達やマミさんが戦っているのにあたしだけ見ているだけなんでできません!!あたしだってまどかや恭介達を守る為に戦いたいんです!!あたしが魔法少女になったのは、魔女から大切な人達を守る為でもあるんですから!!」

 

 「いや、気持ちは分かるけどね、魔女退治は命の危険が伴うんだ。それは病院で嫌というほど思い知っただろう?君はまだ若い。これから先の未来の為にもその命を無駄に使い捨てるべきじゃあない」

 

 「大丈夫です!!マミさんにまどかが居るんならあたしだって負ける気がしません!!マミさんの戦いを見て、魔女との戦いが命懸けだってことも覚悟の上です!!

 あたし馬鹿だから、一人だと下手をしたら無茶なでたらめやらかしかねないかもしれませんけど!でもまどかが居てくれるって肝に銘じておけば慎重になれて大丈夫だと思うんです!!絶対に足手纏いにはなりませんから!!」

 

 「言っても無駄か…。はあ…」

 

 シジフォスは頭が痛そうな表情で盛大に溜息を吐く。そんなシジフォスの苦々しげな表情を隣で見ていたマミは、少しばつが悪そうな表情で苦笑いする。

 ある意味自分が彼女を魔法少女の道に引き込む片棒を背負っているようなものなので、多少なりとも罪悪感があるのだろう。

 

 「んじゃ早速いきましょっかー!!」

 

 「え?あ、ま、まってよさやかちゃーん!!」

 

 そうこうしている内にさやかはまどかを連れてパトロールに行ってしまう。シジフォスは仕方が無いと言いたげに溜息を吐き、マミは何も言わずに彼女達の後に着いて行った。

 

 

 

 そして、さやかの住んでるマンションを出発し、魔女を探し歩く事20分…。

 

 

 

 「………」

 

 「………」

 

 (さ、さやかちゃーん、気まずすぎるよ~…)

 

 (う、うう~…、シジフォスさんもマミさんも何もしゃべらない…。どーすんのよこれ~…)

 

 未だに四人は魔女どころか使い魔一匹見つけられずに街をさまよい歩いていた。

 探索の間、シジフォスは不機嫌そうな表情のまま、マミもどこか暗い表情で何も話さずに歩いており、まどかとさやかが話しかけてもせいぜい「ああ…」だの「うん…」だのと曖昧な返事しか返さない。

 恐らくシジフォスは自分が魔女を探すパトロールをする事に不満なのだろうが、幾らなんでも心配性なんじゃないのか、とさやか自身は若干不満を覚えていた。

 確かに自分はまだ魔法少女になったばかりの新米だが、それでも魔女や使い魔と戦える力を持っているのだ。少しは信用してくれてもいいんじゃないかと考えてしまうが…。

 先日出会ったデジェルといいどうも黄金聖闘士達は自分達が魔女と戦う事を、というよりも魔法少女になること自体嫌っているようだ。そこまで自分達は頼りないのか…、まあ確かに魔女を一撃で倒しちゃうような黄金聖闘士達と自分には天と地ほどの力の差はあるだろうけど…。

 そこまで考えると、さやかは何気なく黙って歩いているシジフォスに視線を向ける。

 

 「そういえばシジフォスさん。シジフォスさん達黄金聖闘士に、水瓶座のデジェルって人居ますか?」

 

 さやかが何気なくシジフォスに質問すると、シジフォスはキョトンとした表情でさやかに顔を向ける。

 

 「確かに黄金聖闘士にデジェルという名前の聖闘士は居るが…、ああ、もしかして会った事があるのか?」

 

 「あ、はい。何か恭介…、あたしの幼馴染のバイオリンのファンの人で、偶にお見舞いの時に話とかしてたんです。黄金聖闘士の人って知ったのはつい昨日ですけど」

 

 さやかの返事にシジフォスは納得して頷いた。まどかとマミもさやかとシジフォスの会話に聴き耳を立てる。

 

 「なるほど…。…君の言うとおりデジェルは水瓶座の黄金聖闘士、12宮の11番目、宝瓶宮を守護している男だ。書物を読むのが趣味で、数多くの書物から膨大な知識を得ていることから『智の聖闘士』とも呼ばれる我等黄金聖闘士随一の頭脳派だ」

 

 さやか達はシジフォスの説明を食い入るように聴いている。あの重い雰囲気もいつの間にか消えていた。

 そんな彼女達を見てシジフォスは肩を竦める。

 

 「まあ頭脳派とは言っても決して彼は弱いわけではない。彼は凍気を操る闘法を用いる聖闘士でな、その気になれば海をも完全に氷結させることもやってのける実力者だ。まあ流石にこの街でそこまでの力を披露する事は無いだろうが、な」

 

 そんな事をしたらこの街一体が氷河期状態になる、と小声で呟くシジフォスを、さやか達はポカンとした表情で眺めている。毎度のことながら、あまりにもスケールが違い過ぎたのだろう。

 そして再び会話が途切れて魔女探索を再開する、が、出発から40分歩き続けたにもかかわらず、結局使い魔一体見つけることも出来なかった。

 

 「はー…、何にも居ないじゃん、ったく…。折角魔法少女デビューってことで張り切ってたのにさー…」

 

 「まあまあ、むしろいいことじゃない。それだけ魔女の被害に遭う人が少ないってことなんだし」

 

 魔女とさっぱり遭遇できない事に愚痴をこぼすさやかを、マミは苦笑しながら宥める。

 そんな二人の様子を眺めながら、シジフォスは軽く溜息を吐いた。

 

 「仕方が無い…。此処は分かれて行動しないか?」

 

 「へ?えっと、どういうことですか、シジフォスさん?」

 

 突然の提案にまどかはキョトンとした表情をシジフォスに向け、マミとさやかの視線もシジフォスに移る。少女達に注目されたシジフォスは、軽く肩を竦める。

 

 「これだけ探しても見つからないのなら、二手に分かれて行動したほうが良いと思ってな。その方が魔女や使い魔を見つける可能性は高いだろう?幸い魔法少女が二人と聖闘士が一人なら分かれても十分戦えるはずだ。まあ、流石に初心者のさやかにいきなり魔女退治は任せられないが、な」

 

 「…そうですね、二手に分かれれば行動範囲は広がりますし、それだけ魔女を見つける確率も高くなるはずです。私は賛成ですよ」

 

 シジフォスの案を聞いてマミは賛成の意を示す。さやかとまどかからも異論は出なかった。確かに二手に分かれれば行動範囲も広まり、魔女や使い魔も発見しやすくなるだろう。

 戦力の分散についても、魔女一体を余裕で倒せるシジフォスならば一般人であるまどかと一緒であったとしても魔女を倒すには十分すぎるだろう。

 

 「よし、なら俺はマミと行く。さやかはまどかについて居てくれ」

 

 「えッ!?」

 

 シジフォスの言葉にマミは驚いて思わず声を上げる。てっきりシジフォスがまどかとペアを組み、マミとさやかを一緒にすると考えていた為、この決定はマミからすれば少し予想外であったのだ。

 マミの驚いた声を聞いて、シジフォスはマミに笑顔を向ける。

 

 「なに、やっぱり親友同士で組んだ方がやりやすいと思ってね。心配しなくても何か危機があったら直ぐに助けに向かえば問題ないだろう?」

 

 確かにシジフォスは魔女や使い魔の気配を察知する力が魔法少女より優れている。特に魔法少女と戦闘中の魔女ならばどれほど距離が離れていても探知することが可能だろう。

 しかし、それでも新米魔法少女に一般人を任せるのは…、とマミは何処か不安そうであった。

 

 「君の考えている事は分かるが、此処は俺の言うとおりにしてくれないか?大丈夫だ。安心してくれ」

 

 シジフォスはマミに向かって軽くウィンクをするとまどかとさやかに視線を向ける。

 

 「…というわけだ。さやか、もし使い魔あたりならば君一人でも何とかなるだろうが、もし魔女が出てきたら直ぐにでもマミか俺を呼んでくれ。分かったかな?」

 

 「うっす!!お任せ下さいッス!!まどかちゃんはこのさやかちゃんがはりきって守っちゃいますよ~!!」

 

 「うう~…。シジフォスさんと一緒の方が…」

 

 張り切り過ぎてテンション高めのさやかに対し、まどかは何処か羨ましそうな目つきでマミとシジフォスを交互に見ている。どうやらシジフォスと一緒に行けない事が不満なようである。

 

 「なーにーまどかちゃん?君は親友よりも初恋の男と一緒の方が良いってか?それって薄情じゃないかな~?うん~?」

 

 「ふええ!?そ、そういうわけじゃ…」

 

 さやかにからかわれてまどかは顔を真っ赤にして俯いた。その様子を見てシジフォスは複雑そうな視線をまどかに向け、マミはそんなシジフォスをみて面白そうにクスクスと笑っている。

 

 「さて…、では行こうかマミ」

 

 「え?あ、はい!!」

 

 笑われた事に気がついたシジフォスは、表情を引き締めるとそのまま先に行ってしまい、マミはシジフォスの後を追っていく。その後ろ姿を、まどかとさやかはジッと眺めていた。

 

 「んじゃ、あたし達もいこっか」

 

 「あ…うん」

 

 まどかとさやかもシジフォスとマミとは別の道から魔女探索を開始した。

 

 マミとシジフォスの二人と分かれたまどか、さやか、そしてキュゥべえは魔女を探して街中を歩き続ける。

 依然としてソウルジェムに反応は無いが、さやかは諦めることなく根気よく探索する。

 

 「一生懸命だね、さやかちゃん」

 

 「実質始めての魔女退治だ、君が居るから張り切っているんだろうね」

 

 まどかはキュゥべえの無表情とは正反対の甲高い声を聞きながら、必死に魔女を探索するさやかを見つめる。

 さやかは自分の望みを見つけ、魔法少女となった。自分が命懸けの戦いをする羽目になったとしても構わないと思えるような願いを見つけ、それを叶えたのだ。

 

 (私も…、それが、あれば…)

 

 まどかはさやかに対して少し羨ましいという感情を抱いていた。自分も魔法少女となって、誰かの為に戦いたいと、まどかは再びそう思い始めていた。

 だけど、自分には叶えたい願いが無い。命を懸けても、戦いの日々を送る羽目になったとしても叶えたい願いが今のところ存在しないのだ。

 なるべきではない、なったらもう後戻りは出来ないとシジフォスから釘を刺されている、魔法少女が命懸けだということも理解してはいる…。だが、それでもまどかには魔法少女となって誰かの為に役立ちたいと言う願いがあるのだった。

 まどかは羨望の篭った視線でさやかの背中を眺める。さやかはその視線に気が突いた様子も無く、魔女を探して辺りを見回している。

 まどかとさやかは街を歩きながら魔女を探す。途中でクラスメイトに会って談笑したりしながらも、さやかはソウルジェムの反応に気を配っている。

 そして、とある建物の裏路地を通りかかった瞬間、さやかのソウルジェムが反応を示す。

 

 「!きた!!こっちだ!!」

 

 「え!?さ、さやかちゃん!?」

 

 建物の隙間の路地に駆けこんださやかを、まどかは追いかける。

 建物の路地裏に入り込んだ瞬間、いつもの路地裏から別の空間に変異を始める。しかし、魔女の結界のような完全に閉鎖された異空間というわけではなく、所々が元の空間のままであり、相当不安定な状態である。

 

 「この結界は魔女じゃないね、どうやら使い魔のようだ」

 

 魔女の手下である使い魔も、放置しておけば大量の人間を喰らった末に魔女となり、人々に害を及ぼす可能性がある。とはいっても当然魔女よりも弱い為、新米であるさやかでも十分対処できるレベルである。

 

 「よっしゃ!んじゃとっとと片付けますか!!」

 

 さやかは瞬時に魔法少女の姿に変身しすると、落書きのような姿の使い魔に向かって斬りかかる。使い魔は斬りかかってくるさやかに気がつき、とっさに身をかわした。

 剣をかわされたさやかは、それでも焦らずに使い魔目がけて蹴りを叩きこむ。思わぬ衝撃に使い魔も反応できず、路地の壁に叩きつけられた。

 

 「っしゃあ!これでも喰らえ!!」

 

 さやかはサーベルの切っ先を使い魔に向けると、柄に取り付けられたレバーを握る。

 瞬間、サーベルの刀身が発射され、まるで弾丸のように使い魔目がけて疾走する。

 …が、狙いは僅かにそれ、刀身は使い魔の真横に命中してしまった。

 

 「…あ、ミスった」

 

 「…さやかちゃん、コントロール悪いよ…」

 

 「ご、ゴメンゴメン!!ま、まあこんな時もあるって!!」

 

 ジト目でこちらを眺めるまどかにさやかは少し引き攣った愛想笑いを浮かべながら、魔力を消費して新しい剣を作り出す。

 魔法少女の武器は、大抵の場合魔力によって作り出される。その為たとえ壊されたとしても、魔力が残っていれば幾らでも作り出すことが可能であり、さやかの剣も、たとえ刀身が無くなったとしても魔力で再び作り直すことが可能だ。

 

 「あっ!!つ、使い魔が逃げちゃう!!」

 

 「なあ!?く、くそ逃げるな!!」

 

 …が、さやかが急いで剣を生成していると、その隙をついて使い魔は逃亡を開始した。

 剣の生成を終えたさやかは、逃亡する使い魔を追いかける。幸いこの使い魔は逃げ足の速いものではなかった為に、直ぐにさやかは使い魔に追いつき、止めを刺す為に握られた剣の切っ先を振り上げる。

 

 「これで………、なあ!?」

 

 が、振り下ろされた切っ先は使い魔に届かなかった。いきなり空から槍が飛んできて、さやかの持っている剣を弾き飛ばしたのだ。

 

 「おいおい、何やってんのさアンタ達」

 

 突然飛んできた槍にさやかとまどかが驚いていると、何者かの影が、二人の目の前に降ってきた。

 降ってきたのは少女であった。だが、その服装はどう見ても普通の少女ではない。

 赤を基調とした軽装な服装をしており、胸元には赤い宝石が輝いている。ポニーテールに纏めた髪の毛は服装と同じ赤で、目はつり上がり、口元には鋭い八重歯が覗いている。

 間違いなく彼女は自分と同じ魔法少女、キュゥべえと契約した存在だ。

 

 「あっ!使い魔が!!」

 

 まどかの叫び声にさやかはハッとする。見ると使い魔は既に逃走を始めている。このまま逃がして行方をくらませたら、また人が襲われるかもしれない。

 

 「くっ!逃がすかっ!!」

 

 「だーかーら、ちょっと待てっての」

 

使い魔を追跡しようとさやかはサーベルを手に駆け出そうとするが、赤い魔法少女はさやかの進路の前に立ちふさがり、さやかに向かって槍を突き付ける。

 またしても邪魔をされたさやかは目の前の少女を睨みつける。

 

 「どいてよ!!あたしはあいつを追わなくちゃいけないの!!」

 

 「見てわかんないかなぁ、あれは魔女じゃなくて使い魔だっての。グリーフシード持ってねえんだぜ?シメるのなんて4、5人食って魔女になるまで待ったほうが効率的だろうが?」

 

 「なっ!?それじゃあ何の罪もない人達が襲われるじゃない!!あんた、あの使い魔に襲われる人達を見殺しにするつもり!?」

 

 赤い魔法少女の言葉に、さやかは驚愕の表情を浮かべる。信じられないと言いたげなさやかに、赤い魔法少女は呆れたような表情を浮かべる。

 

 「はあ…あんた食物連鎖っての知らねえか?弱い奴を強い奴が食うってアレ。学校で習ったろ?アレと同じだよ。弱い人間を魔女が食って、その魔女をあたし達が食う…、単純な自然の摂理だ。

こんなの魔法少女どころか生き物にとっちゃあ普通、当然のルールだろうが。それとも…」

 

言葉を途中で区切ると、赤い魔法少女は今度はさやかを侮蔑するような、そして若干怒りのこもった視線で睨みつける。

 

「まさかあれか?あんたやれ正義の為だの人助けの為だのなんつうおちゃらけた冗談かます為にあいつと契約したのかよ?んで、願いも自分の為じゃなくて人の為、か?」

 

 「…だったら、だったらどうだっていうのよ!?」

 

 さやかはこちらに侮蔑の視線を投げつけてくる赤い魔法少女を思いっきり睨みつける。

自分は恭介の腕を治す事を対価に魔法少女になった、そして、手に入れた魔法の力で恭介達を守る、それが自分の魔法少女としての願いであり、誓いなのだ。

 そんなさやかの誓いを、赤い魔法少女は…、

 

 「そういうの、やめてくんねえか?」

 

 忌々しげな表情で吐き捨てる。

 

 「そういう遊び半分な理由でこの業界に首突っ込まれちゃあ、こっちとしてもムカつくし迷惑極まりねえんだよ。とっとと家に帰って飯食って寝てな」

 

 「…!!」

 

 瞬間、さやかは目の前の少女に向かって斬りかかった。赤い魔法少女は自分を斬り裂こうとするサーベルを余裕で受け止めると、意地悪そうな笑みを浮かべる。

 

 「おいおいあたしは一応魔法少女としちゃあアンタの先輩なんだぜ?ちったあ熟練者を敬ったらどうだい?それとも、何か気に障る事でも言っちまったかな?」

 

 「うるさい!!あんたみたいな奴を、誰が敬うかっ!!」

 

 さやかは激昂して目の前の少女目がけてサーベルを振るう。冷たく光る刃が少女を斬り裂こうと襲ってくるものの、少女は余裕な表情で次々と襲いかかる刃を回避する。

 激昂しているさやかは、少女に一撃も与えることが出来ない事に苛立ちを覚える。

 

 「っ!!くそ!!当たれ!!あた…」

 

 「ったく、トウシローが。ちったあ頭冷やしやがれ」

 

 「!?あぐっ!!」

 

 滅茶苦茶に振るわれるサーベルを、少女の槍が弾き飛ばす。その衝撃に怯んださやかの胸を、槍の穂先が一閃した。

 赤い鮮血が飛び散り、さやかは背後に吹き飛ばされる。その胸は切り裂かれ、服は流れた血で真っ赤に染まっている。

 

 「!さやかちゃん!!」

 

 「死んじゃあいないから安心しな。ま、その怪我じゃしばらく魔法少女はやれねえだろうけど。そこのアンタ、そいつ連れてとっとと此処から失せな」

 

 赤い魔法少女は肩を竦めると、そのまま立ち去ろうとする。残っているのは魔法少女ではない一般人とキュゥべえ一匹、放っておいても問題ないと判断したのだ。

 …が、

 

 「なめんじゃないわよっ!!」

 

 「…ああ!?」

 

 重傷を負って動けないはずのさやかが、背後から少女に向かってサーベルを振るってきた。あまりに予想外の事で少女は驚愕するが、それでも何とか刃を受け止める。

 よくよく見ると先程切り裂いた傷は完全に癒え、服も元に戻っている。

 

 「オイオイどうなってやがる。確か全治三カ月の傷は負わせたはずだってのに」

 

 背後にバックジャンプして距離を離し、少女はさやかをジッと観察する。さやかは少し息が上がっていたが、身体上の傷は無い様子であった。

 

 「さ、さやかちゃん!大丈夫なの!?」

 

 「さやかの願いは回復の祈りで契約したから、魔法少女としての固有能力は『癒し』、回復能力は魔法少女随一だ。あれ位の傷なら問題ないよ」

 

 キュゥべえの解説を聞きながら、まどかはさやかを心配そうに見つめる。さやかは怒りの籠った視線で目の前の魔法少女を睨みつける。一方赤い魔法少女は面倒くさそうな表情でさやかを眺めながら舌打ちをする。

 

 「チッ、ったく長居するつもりはねえってのに面倒くせえ…。まあいい、マミ来る前にとっととここからおさらばさせてもらうかね!!」

 

 「誰が逃がすか!!アンタみたいな魔法少女の風上にも置けない奴、絶対に許さない!!」

 

 まるで青い疾風のようにさやかは駆け、その手に握る刃が赤い魔法少女を切り裂こうと襲いかかる。

 赤い魔法少女は、迫ってくる彼女をじっと見据える。そこから逃げる様子も、攻撃を回避しようとする様子もない。

 やがてさやかのサーベルが少女の首に食らいつこうとする、が…。

 

 「ウゼえ」

 

 瞬間、少女の槍がバラバラに分割され、

 

 「超ウゼえ」

 

 剣を弾きとばし、さやかに鞭のように叩きつけられた。

 

 「があっ!!」

 

 腹部を襲う鈍痛に、さやかは絶叫を上げる。

 思わずサーベルを取り落としてしまいそうになったが、何とか力を振り絞って柄を握り締め、武器を落とす事は避けた。

 そんなさやかを少女はまるで虫けらでも見るような視線で見下していた。

 

 「ハッ、ド素人が粋がってんじゃねえぞ?ていうか本当に口の利き方がなってねえな?先輩に対する、よぉ」

 

 「ぐっ…!!黙れええええええ!!!」

 

 腹部を殴打された痛みをこらえながら、さやかは絶叫してサーベルを振るう、が、力任せに振られた刃は、少女に当ることなく空を切る。

 

 「ぐっ!!」

 

 「言って聞かせてもダメ、殴っても分からねえ馬鹿は、…もう死ぬしかねえよな?」

 

 いつの間にか背後に回っていた少女の槍が、さやかの両足を斬りつける。いそいで飛びのいたお陰で足を切断する事は免れた、が、結果的に両足に傷を負い、地面に倒れ込んでしまう。

 

 「あ…ぐ、ぐう…」

 

 「そういやアンタ確かどんな怪我でも治せるんだっけ?その足も直ぐ治っちまうんだろうな。…でも…」

 

 地面でうめき声を上げるさやかに、少女は殺気の籠った笑みを浮かべ、槍をふりあげる。

 

 「その首吹っ飛ばされたら、どうなっちまうんだろうな!!」

 

 まるで断頭台の刃のように槍の穂先が振り下ろされる。

 さやかは必死に足に回復魔法を施すが、足の傷が癒えるよりも槍が振り下ろされる速度の方が速い…。

 

死ぬ、このまま首を落とされる…。

 

 さやかは反射的に目を閉じる、が、その瞬間何かが弾き飛ばされる金属音と、あの魔法少女の呻き声が聞こえた。

 

 「ちっ!!もう来やがったか!!」

 

 少女の悪態にさやかは恐る恐る眼を開き、少女が睨み付けている方向に視線を向ける。

 さやかの視線の先には、キュゥべえを抱えて怯えた表情をしているまどか、そして、銃口から煙が出ているマスケット銃を構えた魔法少女、巴マミが立っていた。額に汗を浮かべ、少し息を乱しているところをみると、急いでここに駆けつけて、今手に持っている銃で、さやかの首を刎ねようとしていた槍を弾き飛ばしたのだろう。

 

 「マミさん!!」

 

 「まどかさんから連絡を受けてきたんだけど、無事かしらさやかさっ…!!」

 

 さやかの名前を言おうとした瞬間、マミはさやかと戦っていた魔法少女を見て絶句した。

 その表情はまるで死んだ知人に出会ったかのような驚きに満ちている。

 

 「…ったく、もうその面見たくなかったんだがな、ま、いいか。…久しぶりだな、マミさんよお!!」

 

 「…佐倉、さん…」

 

 驚愕の表情を浮かべるマミに、佐倉と呼ばれた魔法少女はまるで獲物を見つけた猛獣のような、獰猛な笑みを浮かべる。が、その目はまるで親の仇でも見るかのように殺気だっている。

 

 「相変わらず下らねえ慈善事業に励んでるのかよ?ま、そうでなきゃこんな正義の味方気どりが育つわきゃねえか」

 

 「……っ!!」

 

 「…っ!黙れ!!マミさんを、マミさんをバカにするなアアアアア!!!」

 

 佐倉と呼ばれた魔法少女の言葉にマミの顔は強張り、さやかは激昂して杏子目がけて斬りかかる。

 再び斬りかかってきたさやかの切っ先を、少女は余裕の笑みを浮かべて受け止め、腹部にお返しとばかりに蹴りを叩き込む。

 

 「ガッ…!!」

 

 「ぬるいんだよアマちゃんが。こちとら魔女どころか同業者とも何度かやりあってるんだ。マミはともかくテメエのようなド素人に後れは取らねえよ」

 

 少女は嫌悪感の滲んだ視線で倒れ込んださやかを見据える。さやかは腹部の鈍痛に耐えつつ、なんとか地面から立ち上がろうとする、が、たび重なるダメージと回復の繰り返しで疲労が蓄積しているせいで、足はガタガタ震えて今にも倒れてしまいそうであった。剣を杖代わりに立ちあがりはしたものの、息一つ乱していない少女に対してこちらは疲労で今にも倒れそうな雰囲気だ。

 どう見てもさやかには勝ち目が無い

 

 「さやかさんッ!!まずいわ!!まだ魔法少女になったばかりのさやかさんじゃあ…!!」

 

 「そ、そんなに強いんですかあの人って!?」

 

 まどかは慌てた様子でマミに質問する。マミはまどかに視線を向けると、コクリと頷いた。

 

 「彼女の名前は佐倉杏子さん。昔、私とチームを組んで魔女と戦っていた事がある魔法少女よ」

 

 「えっ!?」

 

 マミの言葉にまどかは驚いて少女、佐倉杏子を凝視する。さやかもマミの言葉が聞こえていたのか、息を整えながら杏子を睨みつける。

 佐倉杏子はまどかとさやかの視線に顔を背ける。その表情はまるで思い出したくないと言いたげであった。

 マミはそんな杏子を悲しげに眺めながら、言葉を続ける。

 

 「以前、私と佐倉さんは、一緒に魔法少女として戦っていたことがあったの…。あの頃の彼女はぶっきらぼうな性格だけど困った人は放っておけない優しい子だった…。でも…」

 

 「考え方の違いって奴で、な。ま、あの頃はあたしも若かったってこった。あの時はなーんにも知らなかったからな。願いかなえた代償も、希望を得た代価ってのも。…何も、な…」

 

 杏子は苦々しい表情で、マミの言葉を遮るかのように口を開く。だが、その表情には何処か悲しそうな感情が見え隠れしていた。

 

 「な、何よ!?願いかなえた代償って!?それってマミさんと離れなきゃならない程の物なの!?」

 

 「…てめえにゃ関係ねぇよ。ただ、言えることは…」

 

 杏子は再び槍をさやかに向けると…、

 

 「他人のために奇跡願うと…碌な事にならねぇんだよ!!」

 

 弾丸の如きスピードでさやかに突進する。

 さやかはすぐさま真横に回避しようとするが、あまりにも早すぎる。まだ体の疲労は回復しきっておらず、完全に避けられない。

 槍の穂先が彼女の頬を掠り、さやかの頬から血が滲む。

 

 「…!!さやかさん!!」

 

 マミは新しいマスケット銃を生成し、さやかを援護しようとする。このままではさやかは嬲り殺しにされる…、マミは銃口を動き回る杏子に向け、引き金に指を掛ける。

が、さやかはその銃口に気がつくとまるでマミの邪魔をするかのように彼女の前に立ちふさがる。

 

「!?さ、さやかさん!貴女一体何を…」

 

突然邪魔をしてきたさやかに動揺するマミを、さやかは鋭い視線で睨みつける。

 

 「マミさんは下がってて!!こいつはあたしがぶちのめす!!」

 

 「なっ!?無茶よさやかさん!!彼女は実力も経験も貴女より上なのよ!?勝ち目は無いわ!!」

 

 「それでも!!マミさんを馬鹿にしたこいつを!!叩きのめさないと気が済まない!!」

 

 「随分と威勢が良いけど、魔法少女歴じゃああたしの方が上だ。テメエじゃ食後の運動にもなりゃしねえよ!!」

 

 闘志をむき出しにしたさやかに対して、杏子は獲物を見つけた猛獣のような獰猛な笑みを見せる。

 そして、さやかはサーベルを握り締めて杏子目掛けて飛び掛り、一方の杏子も、さやかを今度こそ串刺しにしようとさやか目掛けて疾走する。

 両者の距離が一瞬で詰められ、互いの獲物が敵を切り裂く距離まで後一歩にまで迫った。が、次の瞬間…、

 

 「なあ!?」

 

 「う、うお!?」

 

 両者は反発するかのように背後に弾き飛ばされた。杏子は何とかその場で受身を取るが、一方のさやかは受身も取れずに身体を地面に思いっきり打ちつけた。

 

 「さ、さやかちゃん!!」

 

 「大丈夫さやかさん!!」

 

 「あ、えへへ…、大丈夫だ、けど、一体何が…」

 

さやかは体中に走る痛みを堪えて、自分の側に駆け寄ってきてくれたマミとまどかに笑顔を見せた。そして、何気なく自分の握っている剣に視線を下ろした時、驚きのあまり目を思いっきり見開いた。

 

「えっ!?あ、あたしの剣が…!」

 

自分の握っていた剣の刃の部分が、丸々消失していた。何が何だか分からない表情で杏子のほうに視線を向けると、杏子の槍も穂先が無くなってただの棒切れと化しており、杏子も何が何だか分からない表情をしていた。

そして、先程さやかと杏子が激突しそうになっていた所には、何か光り輝くものが刺さっていた。

 

「…あ、あれって…!」

 

それは、二本の黄金に輝く矢であった。矢尻から羽まで全て黄金色であり、まるで純金で出来ているかのような質感を感じさせた。

 

 「やれやれ、何やら魔力のぶつかり合いが起きているようだから気になったんだが…、まさか魔法少女同士で喧嘩とはな、驚いた」

 

 と、突然背後から何者かの声が響いてきた。さやかとまどか、マミは弾かれるように後ろを振り向いた。そこにいたのは…。

 

 「!?し、シジフォスさん!?」

 

 「何をそんなに驚いているんだ。直に追いかけると言っただろう?マミ」

 

 三人の護衛である黄金聖闘士、シジフォスであった。

 驚いた表情でこちらを見ている少女達に、シジフォスは軽く手を上げて返事をする。

 

 「あ、あのシジフォスさん!もしかしてあの矢って…」

 

 「俺が小宇宙で作り出したものだ。あのまま戦っていても君は彼女に負けていただろうからね。全く、無謀と勇気とは違うぞ、さやか」

 

 シジフォスにたしなめられたさやかは、一瞬何か言いたそうな表情を浮かべるが、彼の有無を言わさない鋭い視線に、結局悔しそうに俯くしかなかった。

 シジフォスはさやかから視線を外すと、先程の厳しい表情から一転して温和な表情を杏子に向けた。

 

 「始めまして、だね。俺の名前はシジフォス。黄金聖闘士、射手座のシジフォスだ。一応、彼女達の保護者と言うことになるかな?」

 

 「へー、あんたがこいつらの保護者の黄金聖闘士って奴か。何だよ、中々イケメンな兄ちゃんじゃん?」

 

 杏子は軽口を叩きながらも視線だけは油断なくシジフォスを睨みつける。何しろ相手は黄金聖闘士、自分とゆまの保護者と同じ魔法少女を遥かに凌ぐ超人なのだ。まともに戦っては彼女に勝ち目は無い。今は自分に敵意を向けていないようだが、油断する事は出来ない。

 こちらを警戒してくる杏子に、シジフォスはやれやれと言わんばかりに肩を竦める。

 

 「あいにくもう兄ちゃんと呼ばれる歳ではないんだが…、まあいい。君は確か…、佐倉杏子でよかったかな?」

 

 「!!何であたしの名を…、ってそうか。おっちゃんと知り合いか…。なら知っててもおかしくねえな…」

 

 「ああ、君の事はアルデバランから聞いている。大層なじゃじゃ馬だそうだな?」

 

 「あのおっちゃん…一体何を教えてやがんだよ…」

 

 杏子は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべ、そっぽを向く。そんな彼女の様子にシジフォスはクックッと笑い声を上げた。

 

 「ところで、先程も言ったと思うが俺は彼女達の保護者…というより護衛のようなモノなんだ。だから君がこれ以上彼女達に危害を加えるのなら、こちらもそれ相応に対処しなくてはならない、が、俺としては君と戦う気は欠片も無い。どうする?」

 

 シジフォスは笑顔のまま、それでも背後のさやか達を守るように背中に隠して杏子をジッと見つめる。そんなシジフォスに杏子は軽く肩を竦める。

 

 「悪いけど、あたしは別にあんたら黄金聖闘士とやり合う気はねえんだ。此処に来たのだって縄張りの魔女が少なくなってきたからだしよ。グリーフシード狩ったらさっさと出て行く」

 

 杏子は後ろに下がりながら変身を解除して両手を挙げ、戦う気が無いことをアピールする。そもそも杏子がさやかを攻撃したのは、さやか考え方が気に入らなかったから少々痛めつけてやろうと言う考えであり、わざわざ黄金聖闘士を敵に回してまでやるような事ではない。

 それを知ってか知らずか、シジフォスも杏子が変身解除をしても特に態度も変えずにジッと彼女を見ている。

 

 「そうか、それは良かった。もしも君が魔女を狩りに来ただけなのなら、俺達黄金聖闘士は君を攻撃する気は無い。ただ…」

 

 シジフォスはふと膝を着いて肩を上下に動かしているさやかを見る。すっかり傷を治して杏子を睨みつける目は、手負いの猛獣のようであり、隙を見せれば直ぐにでも杏子目がけて襲いかかりかねない雰囲気だ。

 

 「…何故彼女を、さやかを攻撃したのかは詳しく聞きたいところだが…」

 

「ま、何も知らないド素人に対する、先輩からの洗礼ってところさ。見逃してくれよ?」

 

杏子はニッと愛想笑いを浮かべて両手を擦り合わせる。その表情は表面上は笑みを浮かべているものの、視線だけは油断なくシジフォスを見ている。

シジフォスはそんな彼女の視線に対して軽く肩を竦めた。

 

「随分荒っぽい洗礼だな…。まあ一応それで納得するとしよう。まあそれはともかくとして…」

 

 「…まず、その娘に謝れ杏子」

 

 と、突然シジフォスの言葉を遮るように何者かの声が路地裏に響き渡った。

 突然聞こえた声に、さやか達魔法少女は驚いて周囲を見渡す。

 が、そんな中、声に名指しされた杏子の顔は先程までの自信のある表情から一転してギョッとした表情で周囲を見回している。まるでこの路地裏に隠れている誰かを探しているかのようであった。

 が、路地裏には自分と目の前の魔法少女達以外に人影一つ無い。気のせいだったかと杏子は安堵の息を吐き出す、が…。

 

 「見つけたぞこのバカ者が」

 

 「ヒイ!?」

 

 突然杏子の肩が何者かの手で叩かれた。杏子は素っ頓狂な声を上げて飛び上がると弾かれたように後ろを振り向いた。

 そこにはいつの間にか二メートル以上の筋骨隆々な大男が怒った表情で仁王立ちしていた。

 

 「全く何処に居るかと探してみたが、こんな所で油を売っていたとはな。このバカ娘が」

 

 大男はまるで岩を削って造られたかのような顔を顰め、杏子を睨みつけている。

 男は茶色いジャケットを羽織り、青のジーンズを着用していたものの、服は彼の鍛え上げられた筋肉で、今にもはち切れそうであった。

 その男の姿を目にした瞬間、杏子はゲッといやそうな表情を浮かべる。

 

 「うええええ!?おっちゃん!!何でこんな所に!!」

 

 「お前が遅いから探しに来たんだろうが。全く、ゆまも腹をすかせてるぞ。…まあそれについての説教は後だ。久しぶりだなシジフォス!!」

 

 おっちゃんと呼ばれた大男はシジフォスに向かって片腕を上げて挨拶をする。シジフォスは大男を見て、まるで自分の古い友人に出会ったかのように嬉しそうな表情を浮かべる。

 

 「ああ、久しぶりだなアルデバラン!この世界でこうして直接会うのは初めてだな。積もる話もありそうだが…、どうやらお前の用事は茶飲み話をする為ではなさそうだな」

 

 「まあな、うちの馬鹿娘の帰りがあまりにも遅いので、探しに来たんだがようやく見つけたら御覧の有様と言うわけだ。…おい杏子!!」

 

 「…!!な、なんだよ…」

 

 アルデバランの鋭い眼光に、杏子はビクッと怯んで後退りする。その表情はさやかと戦っていた時やマミと対峙していた時と違って若干怯えている。アルデバランは厳しい表情で杏子を睨み、ゆっくりと口を開く。

 

 「…まず、その二人に謝れ」

 

 「なあ!?ん、ンな事出来るか!!」

 

 アルデバランの口から飛び出した言葉に杏子は顔を赤くして素っ頓狂な声を上げる。が、アルデバランの表情は変わる様子は無い。いかにも有無を言わさないと言いたげな雰囲気であった。

 

 「謝れ、さもないと今日は夕飯抜きだ!他人に迷惑をかけたのなら謝るのは常識だ!!」

 

 「…!!」

 

 飯抜きというアルデバランの言葉に一瞬ギョッとした表情になった杏子は、ぐぬぬ…、とアルデバランを睨みつけるがアルデバランの態度は全く変わる様子は無い。

 杏子は一度さやか達を睨みつけると顔を背け、

 

 「…ごめんなさい」

 

 ボソボソと蚊が泣くような声で呟いた。

 

 「声が小さい!!もう一度!!」

 

 「~!!ごめんなさいっ!!」

 

 アルデバランのダメ出しに杏子はヤケになり大声で怒鳴る。顔はまるでトマトのように真っ赤に染まっており、あまりの恥ずかしさに涙目になっていた。その戦っていた時とのあまりのギャップから、さやか達は唖然として杏子を見ていた。

 

 「…よし、さっさと帰るぞ!家でゆまの奴が腹をすかせてまっているからな」

 

 杏子が謝罪したのを確認したアルデバランは、一度頷くと杏子の肩を軽く叩いて帰ろうと促す、が、杏子は顔を俯かせ、ブルブルと全身を震わせたまま動こうとはしない。

 

 「…おい、杏子?」

 

 「…あ、あたしは、あたしはなぁ!!」

 

 杏子は真っ赤な顔のまま、潤んだ眼付でさやかとまみを睨みつける。本人からすれば思いっきり睨んでいるのだろうが、目が潤んでいるのもあって全然恐ろしさなど感じない。

 むしろ逆に可愛らしさすらも感じてしまう。

 

 「てめえらみてェな甘ちゃんが大嫌いなんだよ!!覚えてやがれ!!」

 

 「おい!杏子!!」

 

 杏子は一度絶叫すると、アルデバランの怒鳴り声を無視してまるで逃げ出すかのように、そのまま路地裏から走り去ってしまった。その後ろ姿を見送りながら、アルデバランは呆れた表情で頭を掻いた。

 

 「あの馬鹿娘めが…。仕方のない奴だ、全く…」

 

 アルデバランは仕方が無いと溜息を吐きながら、さやか達の方に向き直る。いきなりこちらに視線を向けてきた巨漢に、まどか達は警戒して少し後ろに下がる。アルデバランはそんな彼女達に向かって、すまなさそうな表情で深々と頭を下げた。

 

 「すまなかった。うちの馬鹿が迷惑をかけたな。この通りだ」

 

 「ふえ…!?」

 

 「あ、あの…」

 

 自分達に頭を下げて詫びてきた巨漢に、さやか達は困惑する。おどおどしている三人娘の姿を眺めながら、シジフォスは面白そうに笑みを浮かべていた。

 

 「アルデバラン、まずは彼女達に自己紹介したほうがいい。三人とも何が何だか分からないと言う顔をしているだろう?」

 

 「む?それもそうだな。気がつかなかった」

 

 シジフォスの忠告にアルデバランも気がついた様子で手を叩く。そして、一度咳払いをすると再び三人に視線を向ける。

 

 「では改めて…、俺の名前はアルデバラン。そこのシジフォスと同じ、牡牛座の黄金聖闘士であの馬鹿娘の保護者だ」

 

 大男、牡牛座のアルデバランは三人の少女に改めて自己紹介をする、と、三人、特にさやかとまどかはアルデバランの言葉に驚いたのか唖然とした表情になる。そんな彼女達の反応にアルデバランも顔を顰める。

 

 「…いや、何を呆然としているんだ?俺は何かおかしいことでも言ったか?」

 

 「あの佐倉杏子の保護者が黄金聖闘士だと言う事に驚いたんだろう。使い魔平気で逃がす魔法少女の風上にも置けない奴の保護者、だと言う事にな」

 

 「…随分な言われようだな、あいつも。全く、どうしたものやら…」

 

 アルデバランは弱った表情でどうしたものかと顔を顰める。

 どうも杏子の初見のイメージはあまり芳しいものではない様子だ。魔法少女=正義の味方と考えている美樹さやかと鹿目まどかなら仕方が無いと言えなくもないが…。

 眉をひそめてウームと唸り声を上げるアルデバランを、シジフォスは面白そうに笑いながら軽く肩を叩く。

 

 「そんな事よりアルデバラン、そろそろ杏子を追いかけた方が良いんじゃないのか?彼女達への説明は俺がしておくからお前は早く彼女を追いかけるといい」

 

 「…むっ。そうだな。なら悪いがここで失礼させてもらう。ではな!」

 

 「あっ…」

 

 「ま、まってください!!佐倉さんは一体…」

 

 杏子を追う為にさっさとその場を立ち去ろうとするアルデバランに、マミが慌てて声を上げる。アルデバランは一度足を止めると、マミに振り返ってニッと笑みを浮かべる。

 

 「安心しろ、あのじゃじゃ馬ならいつも元気にやっている。性根を叩きなおすのは…、まだ時間がかかりそうだがな」

 

 その言葉を残すと、アルデバランはその場からさっさと歩き去って行った。

 魔法少女三人は呆然と、黄金聖闘士一人は少し名残惜しそうな表情でその後姿を見送った。

 

 




 魔法少女まどか☆マギカ劇場版最新情報きましたね。
 どうやらさやかは出てくる様子…、だけど本編よろしく悲哀で消滅なんてことになりそうな…。あの虚淵ならやりかねん。そう思えてしまう自分が居る…。
 結局主人公はほむらになるみたいで、世界観はあの改変後の世界のようですけど、エンディングとは違う展開になるのでしょうか?うーむ…。

 まあともかくようやくさやかと杏子の出会いとバトルを書くことが出来ました。本当は17話に纏めたかったんですけどね。バトルシーンは正直あまり自信が無かったのですけど何とか書くことは出来ました。…読者の皆様が満足していただけるほどの出来かは保証できませんが…。

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