魔法聖闘士セイント☆マギカ   作:天秤座の暗黒聖闘士

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大分お待たせいたしました。ようやく第14話書き上がりました。

 最近lightの神様シリーズにハマっておりまして…、現在dies iraeのPSP版を絶賛プレイ中(ようやく三つ巴ルートです)。
 KKKもプレイしたいんですが…、あいにくVITAが高くって…。

 まあそう言うわけで大分遅めの更新となってしまいました。読者の皆様には深くお詫びを申し上げます。




第14話 魔法少女達のお茶会

 

 「へー、この街で魔法少女のチームを、ねえ…」

 

 「そっ、魔法少女のチームを組んで、魔女と戦ってグリーフシードを確保しているの」

 

 その頃杏子とゆまは、魔法少女達、通称プレイアデス聖団のメンバー達に、お茶とお菓子をご馳走になっていた。杏子はお菓子を食べながら、聖団のリーダーであるミチルに色々と質問をしていた。

 ミチルの話によると、このプレイアデス聖団は和紗ミチルが魔女から助けた少女達を中心として組まれたメンバーで構成されており、後にセージ、ハクレイとその娘であるかずみも加わって現在に至る、ということである。

 

 「あの爺さん達って聖闘士とかいう連中のお偉いさん達だろうが、何でそんなのと知り合いになったんだ?」

 

 「ん?まあグランパ達にちょっと助けられちゃって。それでね」

 

 「助けられたって、魔女との戦いで、か?」

 

 「…まあ、そんなところかな」

 

 杏子の質問にミチルは曖昧な笑みを浮かべた。周囲の聖団のメンバーも、一瞬何処となく表情が暗くなった。杏子は、若干不審に思ったものの、直ぐに元の雰囲気に戻ったため、特に気にする事は無かった。

 

 「まあそれはそれとして、だ。お前らグリーフシードはどうしてんだよ?こんな大人数じゃグリーフシード一個じゃ足りねえだろ?この街にゃ魔女多いのかよ?」

 

 杏子はクッキーを頬張りながらミチル達へ再び質問をする。

 確かにグリーフシードはソウルジェムの穢れを移して溜めこむ事が出来る。

 だが、その許容量には限度と言うものがあり、複数人使うとしても精々二、三人が限度、聖団はかずみを除けば魔法少女は七人だからとてもではないが一個では足りないだろう。

 魔法少女の中には、穢れを溜めこんだグリーフシードを適当にばら撒いてわざと魔女を生み出すような輩も居るらしいが、まさか彼女達も…?

 

 「んー、何考えているか大体分かるけど、私達は魔女の養殖とかしてないからね?」

 

 「…あたしの考えてることよく分かったな、じゃあどうやってやってんだよ?」

 

 杏子は憮然とした表情でミチルに質問する。と、ミチルはまた何処か曖昧な笑みを浮かべて

 

 「まあ、グランパ達の力を借りてるってところかな?」

 

 曖昧な返事を返した。そのはぐらかされるかのような返事に杏子は機嫌が悪そうにムスッとした表情をする。

 

「…あの爺さん達の力を借りるって、一体どうしてんだよ?」

 

「セージさん達は小宇宙をソウルジェムに流す事でソウルジェムの穢れを除去することが出来る。それで私達はそこまでグリーフシードに頼らなくてすんでいるわけだ」

 

 「ま、それでも万が一ってこともあるからグリーフシードは確保しているけど、ね」

 

 ミチルの代わりにサキとみらいが杏子の質問に答える。確かにあんなとんでもない能力を持つ聖闘士なら、ソウルジェムの浄化程度はやってのけてしまいそうだが、本当にそんな事ができるのだろうか?杏子は疑問に思った。

 

 「浄化っつても具体的にどうすんだよ?」

 

 「んー、なんでも魂を一度引き抜いてどうのこうのって話なんだけどー…、正直私達もよくわかんないんだよね~、あははは…」

 

 「あははははって…。つうかさっき魂引き抜くなんつー事言ってなかったか?」

 

 「don’t mind! don’t mind!それよりこのケーキかずみちゃんが作ったんだよ?食べて食べて!」

 

 「話逸らすな!まあ食うけどよ」

 

 文句を言いつつも杏子は皿に盛られたパウンドケーキを齧る。

 ミカンの果実とハチミツが練り込まれた生地で作られたそれは、確かに美味い。ミチルが作ったクッキーも中々に美味かったが、こちらも中々イケる。

 こいつら顔だけじゃなくて料理が上手い所まで似ているのか、と杏子は考えた。

 

 「そりゃそうとお前ら一体どういう願いで魔法少女になったんだ?生きるか死ぬかの修羅場に入ってんだ、それ相応の願いがあるんだろ?」

 

 杏子は何気なく聖団のメンバーに質問する。

 魔法少女は文字通り生きるか死ぬか、奇跡の代償に魔女との殺し合いを義務付けられる。

 そんな危険極まりない道を選んだのだからそれ相応に叶えたい願いがあったのだろう。それが何か単純に気になり、本当に何気なく聞いてみたのだ。

 と、さっきまで明るい表情をしていたミチルが、どこか悲しげな表情に変わる。聖団のメンバーも複雑な表情を浮かべており、魔法少女でないかずみも、どこか辛そうな表情をしている。

 

 「願い、か…、まあ、別に話してもいいけど聞いてて面白い話じゃないよ?」

 

 「あ、いや、話したくねえなら話さなくてもいいけど…」

 

 ミチル達の雰囲気から、聞くべきではなかったかと考えた杏子はあわててそう付け足すが、ミチルは少し弱々しく首を振った。

 

 「いいよ、別に、秘密にすることでもないし…」

 

 そして、ミチルはポツリポツリと自分の願いについて話し始めた。

 

 外国に留学していたミチルは、祖母が危篤と言う知らせを聞き、留学先から急いで帰国した。が、その帰路で彼女は魔女に襲われ、たまたま通りすがりの魔法少女によって命を救われた。

 家に戻った時には祖母の意識は無く、医者からも意識を取り戻す事はもう無いと宣告された。

 延命治療でしばらく生かすことも出来ると言われたが、そんな事をすれば祖母の意思を穢す事になるという理由で断った。

 ミチルはもはや自分に語りかけることも、見てくれることも無く眠り続ける祖母の枕元で、祖母をじっと見ていることしか出来なかった。

 

何も出来ない、何もしてあげることが出来ない。

 

 もっと、もっと教えて欲しいことが有ったのに、話したいことが有ったのに…!!

 

 そんな時、ミチルの目の前にキュゥべえが現れ、願いと引き換えに魔法少女になる契約をするよう促してきた。

 ミチルはそれに同意し、キュゥべえに願いを告げた。

 

 祖母の意識を、死の直前まで取り戻して欲しい、と。

 

 キュゥべえは病そのものを治すことも出来ると言っていたが、祖母の意思を尊重し、ミチルはあくまでキュゥべえに祖母の意識を取り戻させることを願った。

 願いを叶えたミチルは、祖母が天に召されるまでの短い間、祖母と共に過ごし、まだ教えてもらっていなかった料理等を教えてもらった。

 祖母の死の後、彼女は魔法少女として魔女との戦いに明け暮れる事となった。

 そんな時、彼女は魔女の影響で自殺を図ろうとしていた六人の少女と出会った。それがサキ達であり、ミチルに救われた六人は、彼女と同じ魔法少女となってミチルと一緒に戦うためにチームを結成した、それがプレイアデス聖団であった。

 

 

 「なるほどねえ…、ま、お前ら全員波瀾万丈な人世送ってんだな」

 

 杏子はミチルの話を聞き終えると、手元のカップの紅茶を一口飲んだ。

 ニコの願いについては本人が言いたがらなかったため分からなかったものの、残りのメンバーの願いは本人達の口から聞くことができた。

 

 サキの願いは「妹の大好きなスズランが永遠に咲き続けること」

 

 海香の願いは「自分の作品を認めてくれる編集者との出会い」

 

 カオルの願いは「試合で傷ついた全ての人を救うこと」

 

 みらいの願いは「自分の友達だったテディベアのための博物館」

 

 里美の願いは「動物と会話できる力が欲しい」

 

 異なる絶望を味わい、ミチルによってその絶望の淵から救われた彼女達はこれらの願いを対価に、命を懸けて魔女と戦い続ける運命を背負う事になったのだ。

 

 「ま、波瀾万丈といえばそうだね。でも、そんな過去があったから今の私達が、プレイアデス聖団があるって訳。まあ確かに魔法少女はキツイけど、大切な友達もできたし、グランパ達にも会えたから、後悔はしてないよ?」

 

 「ふーん、ま、グリーフシード無しで穢れ浄化する手段があるんだし、今の生き方満足してんのならあたしは何も言わないけど、な」

 

 杏子は心底どうでもいいといいたげにクッキーを口に放り込む。

 自分の邪魔をしたりしないのなら、わざわざ彼女達を敵に回す必要は無い。

 もっとも今の所はあすなろ市にまで遠出しなければならないほどグリーフシードには困っていないため、彼女達と敵対する気は元々無いのだが。ただ、自分に突っかかってくるのならば正当防衛はさせてもらうが…。

 ミチルは、そしてプレイアデス聖団のメンバーはそんな杏子をじっと見ている。その表情は、何処か複雑そうであった。

 

 「?おねーちゃん達何でキョーコ見てるの?」

 

 「んあ?何見てんだよお前ら?」

 

 お菓子を頬張っていたゆまが、いつの間にか杏子を見ているプレイアデスの少女達に気がついて不思議そうな声を上げる。それで気がついた杏子も周囲の視線に顔を顰めながらミチル達を睨みつける。

 

 「へ?い、いやいや何でもない何でもない!!そういえば杏子ってグランパ達と知り合いなの?かずみは杏子と会った事、あるっけ?」

 

 「ううん、無いよ一度も」

 

 ミチルの慌てる姿に不審そうな表情を浮かべながらも、杏子はとりあえず納得したかのように引き下がった。

 

 「あたしとゆまはあの爺さん達とは初対面だぜ。アルデバランのおっちゃんとは聖闘士の上司ってことで知り合いらしいけどな」

 

 「へー、そうなんだ…」

 

 杏子の言葉に納得したように頷くミチルとかずみだが、内心では本心がばれなかった事にホッとして息を吐いていた。他の聖団のメンバーも同様である。

 彼女達は魔法少女の秘密については全て知っている。無論、ソウルジェムが濁りきれば魔女化してしまうことも、かつて目の前でミチルが魔女化したのを見ているため当然知っている。

 目の前で暢気にクッキーとパウンドケーキに舌鼓を打っている杏子も、ソウルジェムを持っている以上いずれ魔女化してしまう。

 いくら赤の他人だったとしても、一度知り合った知人が魔女となってしまうのはミチル達にとっても居心地が悪すぎる。

 その為出来れば彼女の魂を元に戻して魔女化を事前に防いであげたいと考えていた。

 が、ハクレイ達は『まだ時ではない』と言って杏子にソウルジェムの秘密については一切伝えないよう聖団のメンバー全員に口止めした。通常なら有りえない判断を下したセージとハクレイにさすがに聖団のメンバーも訳が分からなかったものの、その表情が何時に無く真剣であったため、やむを得ず彼女には黙っていることにしたのだ。

 

 「…ねえ、ゆまちゃん」

 

 「ん?なに?里美おねーちゃん」

 

 キョトンとした表情で此方を向くゆまを、里美は可愛いと思いながらも少し真剣な表情で彼女に質問する。

 

 「ゆまちゃんは魔法少女のことについて知っているみたいだけど、もしかしてゆまちゃんも魔法少女なの?」

 

 「んーん、ゆまは魔法少女じゃないよ?なっちゃだめだっておじちゃんとキョーコがおこるから」

 

 「ケッ、なんも知らねーガキが火遊びなんざするもんじゃねえよ」

 

 杏子は照れ隠しなのか顔を背けてカップに注がれていた紅茶を一気飲みする、が、淹れたてで熱々の紅茶を飲んだせいで口の中を火傷したのか顔を真っ赤にして苦しそうにしている。

 それでも紅茶を噴き出さない辺り、流石というべきだろうか…。

 

 「全く、あんな熱いものを一気飲みするからだよ。ほらっ、水!」

 

 「う~…ワリィ…」

 

 「もー、キョーコったらあわてんぼーなんだからー」

 

 「う、うっせえ!!」

 

 杏子はみらいから差し出された氷水を飲んで口の中を冷やす。そんな杏子をからかうゆまを、里美はホッとした表情で見ていた。

 考えてみれば彼女はキュゥべえと契約するには若干幼いのだが、それでも魔法少女と一緒に居る以上、どうしても心配になってしまうのだ。

 

 「にしてもこの菓子旨いな~。お前ら料理得意なのか?」

 

 と、杏子がクッキーを齧りながら思い出したように聞いてきた。ゆまも美味しそうに頬を緩ませながらケーキを食べている。

 

 「あー、まあ、ね。グランマから教わったしご飯は私とかずみちゃんの担当だから、ね」

 

 「うんうん、時々皆でご飯作る時あるけど、基本的に食事当番は私とミチルだよね~」

 

 「へー、ああそういやお前ばあちゃんに料理やら教えてもらったんだよな?」

 

 杏子の言葉に、ミチルは懐かしそうな表情を浮かべてコクリと頷いた。

 

 「料理だけじゃないよ。グランマは私に色んなことを教えてくれた。“食べ物を粗末にする奴は悪人だ”とか“パンを捨てた娘は地獄におちる”とか…」

 

 「…ほとんど食い物関連の奴じゃねえかよ…。でも結構良いこと言うばあちゃんじゃねえか」

 

 杏子は少し呆れ気味に、しかし面白そうな表情を浮かべている。彼女自身も食べ物は粗末にしない主義であるため、ミチルの、そしてミチルの祖母の言うことが良く分かるし、彼女達に好感も抱き始めている。

 

 「でもキョーコもごはんで『くいものをそまつにするなー!』っていつもゆまに言ってるよね~。それにゆまがごはんたべてるときいつもどなってくるし~」

 

 「ったりめえだろうが!食い物粗末にすんな勿体ねえ!それにメシ食ってる時のマナー位できねえでどうすんだよ!!」

 

 「ふーん!そーいうキョーコだってゆまかおじちゃんが起こさないととあさ起きれないくせに~」

 

 「なっ!?ゆ、ゆまテメエ!!」

 

  自分の寝坊癖を暴露され、杏子は顔を真っ赤にしてゆまを怒鳴りつける、が、ゆまはどこ吹く風でみらい、里美の二人と話をしていた。そんな二人の様子にミチルとかずみは笑っていた。

 

 「まあまあ落ち着いてって杏子。でも杏子って食べ物粗末にしないんだね~。ちょっと意外かも…」

 

 「さり気なく失礼な事言うなオイ…。そんなの普通だろうが。食い物無きゃ人間生きてけねぇんだからよ、大事にすんの当然だろうが」

 

 杏子はブスッとした表情でかずみに返答を返す。かずみはゴメンゴメンと謝罪するが、そんな杏子に、ミチルは嬉しそうな表情で見ていた。

 ミチルの視線に気がついた杏子は、不機嫌そうな表情で此方を向いてニコニコ笑っているミチルを睨みつける。

 

 「んあ?何だよミチル」

 

 「ん?いやね、やっぱり私の勘は正しかったなー、って思ってさ」

 

 「はあ?お前の勘って何…ってうお!?」

 

 突然肩を組んできたミチルに杏子はびっくりして素っ頓狂な声を上げる。そんな杏子に構わずミチルはニコニコと笑みを浮かべている。

 

 「グランマは言ってたよ。食べ物を粗末にしない人に悪い人は居ないって!キミは食べ物を無駄にしたり粗末にしたりしない、だからキミは良い人に間違いない!

 うん、これも何かの縁だから私と友達にならない?杏子」

 

 「はあ!?何でいきなり友達に発展すんだよ!?」

 

 「いいじゃんいいじゃん!!魔法少女同士、そして食べ物を大事にする同士って事で仲良くしようよ杏子!!これからよろしくMy new friend!!」

 

「勝手に決めんじゃねえ!!ったく…」

 

 杏子は肩を組んで嬉しそうに笑っているミチルから顔を背け、「クソッ」と悪態をつきながら少し顔を赤らめた。

 

 「ねーねーキョーコなんで顔赤くなってるのー?」

 

 「んー…あれは照れてるだけでござそうろう」

 

 そんな杏子の姿を不思議に思ったゆまが、ニコとそんな話をしていたのはまた別の話。

 

 

 アルデバランSIDE

 

 「ほお…、魔法少女のチームを、ですか…」

 

 「そうだ。我等はこの街で魔女の討伐及び他の魔法少女の捕縛の為に活動しておる」

 

 「捕縛した魔法少女はソウルジェムを体内に戻して記憶を消した上で解き放っておる。今頃は魔女や魔法少女とは縁の無い生活を送っておる事であろうな」

 

 その頃アルデバランは教皇であるセージ、その補佐役である祭壇座のハクレイから今現在の状況、そしてこれからについて話し合っていた。

 セージ、ハクレイ兄弟は聖団メンバーと協力して『魔女狩り』及び『魔法少女狩り』を行っていた。魔法少女狩りと言っても別の時間軸で行っていたような魔法少女とソウルジェムを切り離してレイトウコに放り込む、等と言うようなことはしていない。

 彼らの行っている魔女狩りは、まず魔法少女を捕らえ、積尸気冥界波でソウルジェムを身体に戻す、その後海香の記憶操作で魔法少女であった記憶を消した後、そのまま解放すると言った形だ。

 ジュゥべえの情報では、一度魔法少女契約を行った魔法少女は、たとえ契約を解除したとしても二度と契約は出来ないとの事だ。彼曰く、『奇跡は一度っきり』だそうだ。

 ハクレイ達の力では魔法少女契約は解除できないものの、少なくともソウルジェムを身体に戻して魔女化を防ぐ事だけは可能だ。ならばせめてソウルジェムを体内に戻し、魔法少女になった記憶、そして魔法に関する記憶を海香の力で操作して、魔法少女達をただの少女に戻して元の日常に戻れるようにしよう、と計画したのだ。

もっともこの街にはそこそこ魔女が居るものの、既にプレイアデス聖団という魔法少女集団が居る為か、わざわざ遠くから魔法少女が来るなどと言う事はあまり無い。この街で聖団と活動し始めた頃には相当いた魔法少女も今では粗方狩りつくしてしまい、キュゥべえが出てきたという話も今のところは全く聞かない上、サキ達の魔法で人間がキュゥべえを認識出来ない結界も張ってあるため、この街で新しい魔法少女が生まれる可能性も低い。    

その為セージ達は最近ではわざわざ別の街まで出向いて魔法少女狩りをおこなう事もあった。もっとも大抵は空振りに終わって聖団のメンバーとの観光ツアーになってしまうのだが。

 

 「最近はあまり魔女も魔法少女も出てこぬからのんびりできておるがな。先日京都に行ったときは完全な観光旅行になってしまっておった」

 

 「まあたまにの骨休めには丁度良かったがの。しかしまあ、これだけ暇なのは良いことなのか悪いことなのか…」

 

 「はは、まあまあ良いではありませぬか。私など一人やかましいじゃじゃ馬の世話があって暇などございませんからな」

 

 退屈そうな表情を浮かべる老人二人にアルデバランは苦笑いを浮かべる。

 生前は聖戦に明け暮れ、暇な時間等彼らには殆ど無かった。無論、自分達黄金聖闘士も同様だ。だが、新しい生を受けてからは、時には強大な敵と戦うようなこともあったものの、基本的には平穏な日々を送る事が出来るようになっていた。確かに、かつて生きてた頃に比べれば相当暇だろう。

 

 「まあ、生き返ったばかりの頃はかなり忙しかったがの。やれ日本語の特訓だの現代機器の使い方だの…」

 

 「あの時代に慣れるまで我等は軽く2カ月はかかりましたな。レグルスとカルディアなどは半年近くかかりましたが…。全く、その間にどれだけの家具やら携帯電話やらが犠牲になった事やら…。一刀も泣いておりましたし、朱里嬢など泡を吹いて卒倒しておりましたわ…」

 

 「は、ははははは…、まあ、今となっては良い思い出、なのでしょうかなあ…」

 

 セージとハクレイが、何かを思い出すかのように溜息を吐き、アルデバランは少し引き攣った笑みを浮かべる。

 生き返った彼等聖闘士達は、新しい世界で暮らしていくために依頼主と彼に仕える少女達によって日本語、電化製品の使い方等を教わったのだがいかんせん自分達の生きていた時代とは隔たりが大きすぎ、日本語はともかくとして電化製品の使用には相当四苦八苦していた。

 デジェルのような頭脳派、マニゴルドのような要領の良い性格の人物はせいぜい2、3日程度で大抵の電化製品を使いこなせるようになったものの、それ以外の聖闘士、特にレグルス、カルディアのような細かい事が苦手な性格の聖闘士は2ヶ月以上、最悪半年以上の時間をかけてもまだ使いこなせないという有様だった。そして、時にはついうっかり電化製品を破壊してしまい、依頼主に土下座する羽目になったこともあった。

 

 「もっともそのお蔭で今では携帯電話で電話とメール程度は出来るようになったがの」

 

 「それまで長かったですな…。マニゴルドの奴は精々一週間程度で使いこなしておりましたが、な。やれやれ、修行の時もあれだけ熱心にやってくれれば私も苦労せずに済んだのですが…」

 

 「私も幾つ携帯電話を握り潰した事か…。いやはや一刀達には申し訳ないことをしましたなぁ」

 

 碌に電化製品の一つも使いこなせなかった頃を思い出して、セージ、ハクレイは懐かしそうに、アルデバランはどこかすまなさそうな表情を浮かべた。

 

 「まあこの話はこれまでとして、じゃ。アルデバラン、どうじゃ久しぶりの子育ては」

 

 「ははははは、別に子育てというほどのことはしておりませぬよ、ハクレイ様。ハクレイ様こそご息女を赤子の頃からお育てになるのは苦労なされたでしょうに」

 

 豪快に笑うアルデバランに、ハクレイもククッと笑い声を上げる。

 

 「まあのう。シオンやアヴィドは幼いというても3、4の頃から育てた故に手はあまりかからなんだが、かずみは赤子の頃から育てたからのう、苦労したわい」

 

 「毎晩毎晩泣き喚くかずみによく起こされたものですなあ。毎日毎日子育ての本やらを読んだり、紫苑殿に赤子の育て方を教わっていた事もありましたな」

 

 赤ん坊を育てていた時の事を思い出して苦笑いをするハクレイに、セージはニヤニヤ笑いながら茶々を入れる。そんなセージをハクレイは苦々しそうに見る。

 

 「…まあ、たしかに漢升殿には幾分世話になったのう。やはり子を持つ親は違うわい」

 

 ハクレイは頭を掻きながら大きく溜息を吐いた。

 かずみがまだ赤ん坊だった頃、ハクレイは赤ん坊の子育てに毎日毎日奔走していた。

 おむつを替えたりミルクを作ったり夜中に泣きだすかずみに起こされたり…。

 子育ての際には子育てに関する本を何十冊も読みふけり、依頼主の臣下で唯一の子持ちの黄忠に色々と教えてもらったりとある意味聖戦並に忙しい毎日を送る羽目になった。

 …もっともかずみが成長して手がかからなくなると、しばしばあの忙しい日々が懐かしく感じてしまうのであるが…。自分も意外と親馬鹿なのか、とハクレイは少し苦笑いを浮かべた。

 

 「…失礼ですがハクレイ様、何故紫苑殿の事をいつも漢升殿と呼ぶのでしょうか?他の者らは真名でお呼びになられると言うのに」

 

 と、今まで黙っていたアルデバランがふと気になったのかそんな事を口にした。そんなアルデバランの疑問を聞いたハクレイは、先ほどとは一転してどこか複雑そうな表情を浮かべてチラリとセージを見ると、再びアルデバランに視線を向ける。

 

 「……シオンの奴を思い出すであろうが」

 

 「ああ…なるほど…」

 

 「確かに、そのものな名前ですからな…」

 

 ハクレイの返事にセージとアルデバランは納得して頷いた 

 黄忠は字である漢升以外に真なる名、真名として紫苑と言う名を持っている。

 そしてハクレイの弟子である牡羊座の黄金聖闘士の名前もシオン、彼女と同じ名前である。

 一応真名で呼ぶ事は許されてはいるものの、ハクレイにとっては自らの弟子と名前がかぶって紛らわしい為、黄忠の事は漢升殿と字で呼んで区別しているのだ。

 

 「まあ…、シオンは童虎と共に蘇っておらぬゆえに気にする必要は無いのかもしれぬが、な」

 

 「兄上…」

 

 「ハクレイ様…」

 

 ハクレイの何処か寂しげな表情にセージとアルデバランは思わず口を閉じる。

 牡羊座のシオンと天秤座の童虎は、他の黄金聖闘士とは違い蘇っていない。

 依頼主曰く、「魂と肉体の回収が出来なかったから」との事らしい。

 彼等はあの聖戦の後も生き残り、246年後の新たな聖戦の折りに再び戦場に出る事になる為、それも仕方が無いと言える。

 それでも再び生きて愛弟子に会えなかったのはハクレイとしても心残りであろうが…。

 

 「…心配するでない。あの弟子がどう生き、何を成し遂げたかはもう知っておる。あ奴の生き様はちゃんと見届けた。ワシにとってはそれだけで満足じゃよ」

 

 心配そうにこちらを見てくる二人に、ハクレイは何でもないかのように笑みを浮かべる。

 あの聖戦で生き残ったシオンと童虎が、そして後の世代の黄金聖闘士がどう生き、どう戦い、どのように逝ったかは依頼主の話、そしてその外史を見たことで知っている。

 命を懸けて若き聖闘士達を導き、後を託していったシオンと童虎の姿に、セージとハクレイ兄弟は悲しさを感じつつも、誇らしさも感じていた。

 そしてハクレイにとって、自分の全てを託した愛弟子のその姿を見れた事、それだけで満足であった。

 

 「…まあそれは取りあえず置いておくぞ。それはそれとして、そろそろ『物語』も始まる頃じゃのう」

 

 ハクレイは雰囲気を切り替え、セージとアルデバランの二人に視線を向ける。両者ともに表情を変えて、コクリと頷く。

 

 「我等はあすなろ市から動く事はしばらく無いであろう。故に、後は見滝原にいる黄金聖闘士達とアルデバラン、そなたが頼りになるのだが…」

 

 「杏子達の件は私にお任せ下さい。万が一の時にはシジフォス達の援軍に行けるように準備を整えておく所存にございます」

 

 「うむ、ワルプルギスの夜はいかに強大といってもただ打ち倒すのみなら黄金聖闘士一人で充分だ。が、出来うる限り見滝原への被害は最小限に留めたい。故に、そなたはシジフォス、マニゴルド、そして後から来るデジェルとアルバフィカと協力し短期決戦で決着をつけるのが上策であろう」

 

 既にワルプルギスの夜、そしてそれよりも遥かに強大な魔女との戦いは此処とは別の時間軸で経験済みである。無論、どの戦いも勝利で終わっている。

 被害を度外視した上での戦闘ならば黄金聖闘士一人、たとえ被害を抑える為に短期決戦を挑むとしても、黄金聖闘士が精々二人、多くても三、四人も居れば十分である。当然魔法少女が居なくても問題は無い。

 

 「まあ万が一という事もあるからワシらはミチル達を鍛えておるがな。ワルプルギスが消えたとしてもまだ魔女はそこらにおるからの。…ついでにインキュベーター共も何とかせねばならぬが…」

 

 ハクレイの言葉にセージとアルデバランも黙り込む。

 確かに、ワルプルギスの夜を倒したとしても根本的な解決にはならない。魔法少女を、そして間接的に魔女を生み出し続けているキュゥべえを何とかしない限り再び第二、第三のワルプルギスの夜が出現しないとも限らないのだ。

 ジュゥべえの情報では、たとえインキュベーターを一体一体殺したとしても、すぐさま新たな個体がこの地球に送られてくる上、インキュベーターは幾らでも増殖できるため、一体一体殺したとしてもほとんど意味が無いという。そのためたとえ聖闘士の力を使ったとしても奴らを殺しきれるかどうかは分からない。

 

 「カール・クラフト殿の素粒子間時間跳躍・因果律崩壊をもって存在そのものを無かった事にするのならばまだ奴らを絶滅できる可能性は有るのですが、な…」

 

 「あの男が我等の頼みを聞いて動くとは到底思えんし、動いてもついでに色々厄介な事がおきそうだしの。止めとけ止めとけ」

 

 部屋に居る三人は同時に深い溜息を吐いた。

 依頼主の家に居るあの同居人の力ならば、その気になればインキュベーター程度を絶滅させる事も容易いだろう。が、あの男が自分達の頼みを聞くかといえば…ノーと言わざるを得ない。色々な意味で自分の世界に引き篭もっているあの男に頼んでもまず無駄だろう。  

その引き篭もりっぷりには彼の親友である『黄金の獣』も盛大な溜息を吐いて呆れていた。

 それにたとえ動いたとしてもまた他人の人生を色々と弄くって下手をすれば魔法少女達がその被害に遭いかねず、ある意味キュゥべえ以上に性質の悪い事態になりかねない。やめておいた方が無難であろう。

 

 「まあ、キュゥべえについての対策は追々考えるしかありますまい。今はまだ魔法少女となっていない者達、特に鹿目まどかの魔法少女化の阻止、ですな」

 

 「うむ、あの娘が魔法少女になるかならぬか…、それが世界の分かれ目とも言っても良いからの。いずれそなたが養っておる娘が会うことになるやも知れぬが、その時は頼むぞ、アルデバランよ」

 

 「…御意に」

 

 セージとハクレイの指示に、アルデバランは頭を下げて了解の意を示す。

 そこまで話し終えたときには、何時の間にやら太陽は地平に沈み始めていた。

 

 

 杏子SIDE

 

 勝手にミチルから友達認定されてしまった杏子は、何だかんだ言いながらも聖団とのお茶会を楽しんでいた。

 あまり他人とは関わり合いたくないとは思っていたものの、別に人見知りが激しいわけでも無いため、そこそこ場の雰囲気に馴染んでいる。ゆまも里美達と楽しそうに話していることであるし、杏子自身勝手に友達にされたのはどうかと思うものの、ミチルは悪い人間ではなさそうであるし、食べ物を大事にすると言う性格は杏子自身気に入っている。

 住んでいる場所も離れているためグリーフシードの争奪戦も今のところは起こらないであろうから、杏子自身も彼女達と友達になってもいいかな、と考え始めていた。

 そんな風に結構楽しい時間を過ごしていたら、話が終わったのであろうアルデバランとセージ、ハクレイ兄弟が部屋に入ってきた。

 アルデバランがそろそろ帰る時間だと告げてきたので時計を見てみると、もう既に4時をまわっている。此処に着いたのが正午頃であったから相当長い時間を過ごしていた事になる。

 ミチルとかずみは杏子と別れるが名残惜しそうであり、また来てねと何度も催促してきて、結局杏子もそのうち来ると約束する事になったのであった。

 

 「また来てね杏子!今度はグランマ直伝のイチゴリゾット作って待ってるからさ!」

 

 「ん、おうよ。何時来れっか分かんねーけど期待させてもらうぜ」

 

 「ゆまちゃん!またお姉ちゃんと一緒に遊びにおいでね!」

 

 「うん!かずみおねーちゃん!」

 

 「はっはっはっは!!何だ何だ、お前達すっかり仲良くなっているな!いやいや良かった良かった!」

 

 「んがっ!?べ、別に仲良くなんて…」

 

 アルデバランの豪快な声に杏子は顔を真っ赤にして俯いた。ゆまは反対に嬉しそうな表情ではしゃいでいたが…。

 

 「ああそうだ、杏子。君にこれを渡しておく」

 

 と、サキが杏子に向かってブリキ製の箱を渡してきた。いきなり渡されたその箱に、杏子は不審な表情を浮かべる。

 

 「なんだこりゃ?」

 

 「グリーフシードだ。もしソウルジェムが濁ったら使うといい。七個あるから大事に使ってくれよ」

 

 「なっ!?ぐ、グリーフシード!?ま、マジかよ!?」

 

 サキの言葉に仰天して箱を開けると、確かにその中にはグリーフシードが七個入っていた。杏子は半信半疑の表情でサキとグリーフシードを交互にチラチラ見る。

 そんな杏子の様子にサキはやれやれと言った表情で首を振る。

 

 「…話したと思うが私達はグリーフシードは必要とする事は無い。だからそれ位君にあげても問題は無い。せめてもの土産代りに持っていくといい」

 

 「ま、ほんの気持ちってところだよ。でも、ボク達が魔女七体倒して手に入れたものなんだから、無駄遣いは厳禁だよ!」

 

 サキの言葉に続けるようにみらいが杏子の鼻先に指を突き付け、まるで子供に言い聞かせるように釘をさす。そんなみらいの態度にちょっとだけムッとした杏子であったが、黙って箱の蓋を閉めると、軽く聖団のメンバーに頭を下げた。

 

 「…ん、ま、サンキューな。この借りはまた返す」

 

 「気にしなくていいよー。私達もう友達なんだしさー」

 

 恥ずかしそうに礼を言う杏子を、ミチル達はニコニコ笑いながら見ていた。

 そんな少女達を微笑ましげにセージとハクレイは眺めていた。

 

 「では、これにてお暇させていただきます、教皇、ハクレイ様」

 

 「うむ、後は頼むぞアルデバラン」

 

 「見滝原でシジフォス達に出会ったら奴等の手助けをしてやってくれ。まああ奴らなら心配いらぬじゃろうがな」

 

 「御意に…、さて、それじゃあそろそろ帰るぞ、杏子、ゆま」

 

 「ん、あいよ。んじゃミチル、かずみ、また会おうぜ」

 

 「はーい、また会おうね!おねーちゃん!おじーちゃん!」

 

 「See you again!杏子―!ゆまちゃーん!!」

 

 「次はもっと美味しい物用意して待ってるからまた来てねー!

 

 アルデバランはセージ、ハクレイに一度礼をすると、杏子とゆまを促して出入り口の門に向かって歩いていく。杏子はミチル達に一度振り向いて軽く挨拶をし、ゆまは手を思いっきり振りながら元気な声で挨拶をする。

 

 夕日に照らされながら三人はのんびりと帰り道を歩く。

 

 

 「ねーねーおじちゃん!おねーちゃん達が作ってくれたおかしすごく美味しかったよ!おじちゃんも食べにくればよかったのに~!」

 

 「ははっ!それは残念だったな。まあおじちゃんは大事な用事があったからな。だが仲良くなっていて結構だ。なあ、杏子」

 

 「あたしはあいつらに巻き込まれたようなもんだけどな。…ったく」

 

 杏子はグリーフシード入りの箱を放り上げてキャッチしながら恥ずかしそうに顔を背ける。そんな杏子を笑いながら、アルデバランは空を見上げる。

 

 「今日はいい天気だ。夜には牡牛座も見えるだろう。どうだ、帰ったら一緒に星でも見ながら飯でも食わんか?」

 

 「はあ?なんで星を見ながら?なんで今日?」

 

 不思議そうな表情でこちらを見てくる杏子に、アルデバランはニッと笑みを見せる。

 

 「なに、折角の記念だ。牡牛座の肩に輝く七つ星とお前達が出会えた、な」

 

 

 

 

 




 あとがき

 大分遅くなってしまいましたが、ようやく第十四話を書き上げました。

 今回はプレイアデスと杏子達の交流となっております。いやはや、オリジナル部分を書くのは難儀でした…。
 ミチルと杏子って食べ物大事にするって所から結構気が合いそうなんですよね。あくまで私の予想ですが…。まあ他の聖団のメンバーは…、どうか知りませんが…。
 ちなみに話に出てきた同居人は…、まあ名前出てるから分かると思いますけれど、某伝奇エロゲーに出てくる某コズミック変態ニートな人です。今では本物のニートになってしまい一刀の家の部屋に住みついているという有様です。
 何をしているかは…、それはおまけとかで後々…。

 次回からはようやく本編に戻る予定です。ようやく魔法少女になったさやかが活躍できるよ…。多分、ね…。

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