突如として人里の近くに現れた“妖怪村”。
そこには誰も住んでいないと聞く。
では、本当にそうだろうか?

1 / 1
息抜きがてら。




幻想の妖怪村

 

砂利道を踏みしめながら、慎重に歩む。

利き手に小刀、左に提灯。

 

ちょっぴりへっぴり腰で、それでもゆっくりと、探りながら歩いて行く。

周りは暗く、頼りになるのは提灯と月光のみぞ。

 

周りに立ち並ぶ家屋からは明かりなど以っての外、物音ひとつ聴こえなかった。

 

不気味で、もう今すぐ帰っちまいたいところだが、そういうわけにも行かない。俺にもプライドってもんがある。

 

野郎と呑んでいた勢いで、肝試しがてらここに来なきゃいけなくなっちまったのさ。

 

この村は、通称『妖怪村』。

数ヶ月前突如として人里からすぐ近くの所に現れ、以来気絶した奴がよく人里に運ばれている。

 

それでも人の好奇心は止まず、俺みてぇな輩が行っているそうな。

 

砂利、砂利と踏んではまた進む。だが、何も起こらない。

 

「なんだ、デマかよ」

 

呆気なく村の奥まで辿り着いた俺は、そのまま帰ることにした。

帰ろうとした。が、どこからともなく女性の悲鳴が、こだまして聞こえた。

 

───きゃあああああ。

 

何事だ、と思って音の源を振り向こうとしたが、如何せんこだました音だから方向が掴めなかった。

 

しばらく周囲を警戒するが、矢張り何も起こらなかったため、今度こそ人里への帰路につく。

 

生憎、この村での怪我人や、まして死者などただの一人も出ていないのだ。しいていえば驚いてすっ転んで擦り傷をつくったやつくらいだが。

とりあえず、悲鳴の女性を放置して置いても問題は無いだろう、という算段だ。

 

無視無視。とっとと帰っちまおう。

 

むしと言えば、ここらへんは妙に虫が多い気がする。先ほどから自分の周りを蚊がぶんぶんと飛び回ってて五月蝿い。

人里には、そこまで発生していなかったはずだが──。

 

 

瞬間、提灯が消える。

「!?」

 

提灯どころか、月明かりも見えなくなり、完全に闇の中だ。

見えなくとも村の出口の方向が分かっている。驚いた俺は、急いでその方向に向かう。駆ける。

 

だが、10メートルぐらい走ったあたりだろうか。突如として、提灯に火が灯り、地面が月光に照らされる。

 

不思議に思った俺は立ち止まってそのまま振り返る。

 

そこにあったのは、黒く混沌とした霧、いや闇であった。

 

未知の闇に包まれていたことを知った俺は、恐怖のあまりまたも走り出す。

 

寒気がする、あんなおぞましい物に囲まれてたかと思うと。

ぶるるっと身震いが起こり、鳥肌がたつ。

 

走りながら思う。なんだこれは、と。

いくら恐怖に怯えたからといって、未知のものに晒されたからといって、体の体温が下がるのはおかしい。

 

周りの異変に気が付いたのは、皮肉にもその異変により頭が冷やされたからであった。

外気が、どんどん下がっているのだ。建物の影などに霜ができている。

 

体温を上昇させるためにも、急いで村の出口へ、走る。走る。

 

するとどうだろう。どこからともなく女性の麗しい歌声が聞こえてくる。

 

最高だ、と口の中で皮肉る。

もうとっくにパニックに陥っても良いはずなのに、恐怖しながらも思考はいたって冷静だった。

 

最高に恐れを煽る効果ではないか。

 

女性の美声を聞きながらも、駆ける。

しかし、なぜか目の前の視界が狭まってゆく。

眠たいわけではない。現に俺の目はパッチリと見開かれている。

 

さらに精神を追い詰められながらも、必死に出口を目指す。

 

 

 

 

 

 

 

おかしい。先程から同じ所を何度も通ってるような気がするのだ。

それに、走り続けてこんなにかかるはずがない。

そんな、正体不明の恐さからも逃げようとしていた。

 

早くここから出してくれ。妖怪なんてもうこりごりだ。

 

ループしていると知りながらも、成す術の無い俺は走り続けるしかない。

 

そんな時であった。

 

数十メートル先に傘を持った少女がしゃがんでいるのが見えた。

 

もしかしたら、俺と同じように肝試しに来たはいいものの、怖くて動けなくなったのかもしれない。

 

そんな事を考えて、一緒に逃げよう、と話しかけようと近づいた時であった。

 

彼女は突如振り向き、元気いっぱいに叫ぶ。

 

 

 

「驚けーーー!!」

 

 

 

 

 

 

あ、かわいい。

 




小傘ちゃんはもうしばらく、お腹の空いた生活をしなければいけないようです。
仲間は満足しちゃってますけどね。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。