Fate〜衛宮士郎の救済物語〜   作:葛城 大河

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はい。今回はお爺さんが登場‼︎ そしてとんでも理論が飛びます。


第四幕 九つの斬撃

それは過去の記憶。訓練場所となった、何時もの公園で、赤銅色の髪をした子供が胡座をついて座っていた。目の前には一人の老人だ。歳を取っているのにも関わらず、まだ元気が有り余っている老人。老人は自分の白い髭を触りながら、地面に座る子供に視線を向けて口を開いた。

 

 

「魔術関係はこれくらいにして、次は体術を教えるぞ」

 

「えぇ〜魔術が使えるのに、体術なんて覚えてもなんか意味があるのかよ?」

 

「バカヤローーーッ‼︎ 体術の素晴らしさが分からないとは、これだから少年は」

 

 

やれやれ、という風に両手を上げて首を振る老人に、子供は眉を寄せた。なにか言い返そうと口を開きかけるが、その前に老人が言う。

 

 

「良いか、体術はな戦いの基本だ。魔術だけを覚えてみろ、接近戦にどう対処するつもりだ? そうやって油断して、フルボッコにされたキャス……ゴホン‼︎ 女性が居るんだぞ。それに今どきの魔術師は体術も使う」

 

「でもさぁ、それなら俺の魔眼があればすむことじゃんか。これで解除すれば…………」

 

 

反論するように返す子供の言葉を最後まで聞かずに、老人は頭に拳骨を落とした。ゴンッ‼︎ と鳴り余りの痛さに蹲る子供だ。

 

 

「イッテェェェッ⁉︎ な、なにすんだよ爺さん‼︎」

 

「爺さんじゃねぇ、師匠と呼べ。それと無闇矢鱈に解除の力を使おうとするな」

 

「なんでだよ。めちゃ強いじゃん。これさえあれば、どんな奴にだって勝てるじゃん」

 

「…………はぁ、その考えがいけないんだ」

 

 

口を尖らせて魔眼の強さがあれば、負けないと答える子供。それにため息を吐く老人だ。確かに魔眼は強大だ。その力があれば、簡単に物事を終わらせるだろう。しかし、それでは駄目だ。魔眼に頼ってしまえば、必ず絶対に慢心する。自分には魔眼があるから大丈夫だと。それではもしもの時に、対処出来ない。何故ならこの世界には『魔眼殺し』というものがあるのだから。

 

 

まぁ、それで『全ての式を解く者』を抑えられるのかと聞かれれば、首を傾げてしまうが、警戒しといて損は無い筈だ。

 

 

「良いか。その解除の力は此処ぞという時に使え」

 

「なんでだよぉ」

 

「別に使用はするなと言ってるんじゃない。その解除の力を、戦いの手段の一つとして考えろと言っているんだ」

 

 

言葉をそこで切り、それにと続ける。

 

 

「体術を覚えれば戦いの幅が広がるだろ。あと、近中長と全てを(こな)せばカッコよくないか?」

 

「じい……師匠。それが理由なんじゃ」

 

「ま、まぁ、細かい事は気にすんな少年」

 

 

カッコいい目的で教えようとする老人にジト目を向ける。それに顔を逸らす老人である。

 

 

「少年には俺が与えた『進化の器』があるんだ。体術を教えないと損だろ」

 

「………分かったよ師匠。体術も覚えてみるよ。才能があるか分からないけど」

 

 

自分の師匠がそこまで勧めるなら、と子供は頷いた。この日まで魔術しか教えてもらわなかった子供に、はたして体術の才能があるのかと疑問を口にするが。だが、その子供の思いを老人は笑って吹き飛ばした。

 

 

「ははははっ‼︎ その事は気にするな少年。才能なんか関係ない。お前の中に『進化の器』がある。ならば、後は鍛えるだけさ」

 

「そういうもんなのか?」

 

「そういうもんなんだよ」

 

 

笑って子供の背中を叩く老人である。老人が子供の体に与えた『進化の器』。それはあらゆる技量、技術、技をその身に吸収させ、尚且つ自分でそれらを最適化させ究極に上り詰める力。この力は体術に対して凄まじく発揮するといってもいい。老人は本題に入る事にした。

 

 

「少年は体術、いや武術の事を如何思っている?」

 

「う〜ん。そう言われても、分かる訳ないじゃん」

 

「ま、だろうな」

 

 

子供が分からないと答えると、それに頷く老人に少しムカつく子供だ。

 

 

「武術というのは、強者を倒す為に弱者が編み出したものなんだよ」

 

「へぇ、そうなのか。知らなかった」

 

「そしてここが、本題だ。ようは、その武術もとい、体術さえ自分の物にしてしまえば、例え大英雄だろうと吸血鬼の真祖だろうと、ただの人間でも倒せるという事なんだっ‼︎」

 

「おぉ〜‼︎」

 

 

ーーーーいや、その理屈はおかしい。

 

 

もしも、ここに魔術関係者が居れば、そう答えるだろう。だが、悲しいかな。ここには老人と子供の二人しか居ない。そんな老人のとんでも理論に否定の言葉をかける者は何処にも居なかった。確かに一握りの者なら、完全に倒す事は不可能でも撃退くらいは出来るだろう。だが、それは魔術や礼装を使った時の話だ。それか特殊の魔眼を持つ者かである。

 

 

老人のように魔術を用いず、体術だけで、はたして大英雄や真祖と呼ばれる者達を打倒できるのだろうか。居たとしても、それは恐らく人間ではないだろう。

 

 

「だからこそ、少年に俺は体術を教える。それにな、武の力だけで、根源に至ろうとした奴も居るんだぞ」

 

「へぇ、そんな人も居たんだ。よし、俺も体術を真剣に覚える事にするよ」

 

「よぉし、ならば俺も全力で体術を教えるとしようかな‼︎」

 

 

そう言って老人は、地面を揺るがす程の鋭い踏み込みをし、右拳をなにもない空間に突き入れた。次の瞬間ーーー空間が爆ぜたのではないかという轟音が公園中に鳴り響いた。余りの音に、周りの住民が騒ぎ出し、子供と老人は気付かれないように公園を後にするのだった。

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

(体術を物にしちまえば、大英雄すら倒せる。そうだよな、師匠)

 

 

斧剣がぶつかる。弾かれ、いなし、押し返す。バーサーカーと激戦を繰り返す士郎は、昔の事を思い出してクスリと笑った。今思えば、あの理論は如何かと思う。だが、師匠は間違った事は口にしてはいない。何故ならこうして、師匠に教わった体術で大英雄を圧倒しているのだから。頭に振り下ろされた斧剣を、武器を持っていない手で、流れるように横に逸らす。と、同時にその場を蹴って、バーサーカーの頭に回し蹴りをお見舞いする。

 

 

岩を蹴ったと錯覚する程の質量が、足に込められるが、そんな事など気にせずに砕く勢いで振り抜いた。ドゴシャッッ‼︎ 士郎の蹴りの威力により、バーサーカーの体が後退する。反撃する暇など与えないように、懐に入り左拳を腹部に添えるように置いた。次の瞬間ーーーー

 

 

「…………ふっ‼︎」

 

 

地面を砕いた踏み込みと共に、魔術で強化された拳に力を込める。バーサーカーの肉体が、拳の威力により数メートル吹き飛んだ。流石のバーサーカーも、これには口から血を吐いた。とはいえ、殺すには至らない。吹き飛ばした自分の拳に視線をやってから、士郎は呆れたため息を付いた。まだまだ、今の一撃は師匠には及ばない。あの人は強化などせずに、素でこれの数倍の威力を出すのだから呆れるしかない。

 

 

改めて、本名を知らない自分の師匠が何者なのかと疑問に思ってしまう。あの時から十年も経ち、成長したのに追い付ける気がしないのだから。だが、それで良いと士郎は思う。まだまだあの人の足元にも及ばない。しかし、それ故に追い掛ける思いが高まるというものだ。何故なら、自分の目標は師匠を追い越す事なのだから。

 

 

『グォォォォォォォォォォーーーーッッッ‼︎』

 

 

バーサーカーの雄叫び。それと共に、疾走して斧剣を振るう狂戦士。だが、もうその一撃は覚えている。胴体めがけて迫る斧剣に、同じ斧剣で激突させ勢いを殺した後、士郎はパッと手に持つ斧剣を手放して、バーサーカーの左横に移動する。そして両手を開き、神経を集中させる。それは刹那にも満たない時間だが、士郎の体感には何倍も感じられた。強化魔術を両手に思いっきり込める。

 

 

そして、士郎は二つの掌底を放った。バーサーカーは今、士郎が放った一撃に、『十二の試練(ゴットハンド)』を貫ける威力がある事を察知する。そう思うや否や、体を無理やり捻じり、斧剣で士郎の頭に振り下ろした。だが、一歩分。たった一歩分の差で士郎の掌底が、先にバーサーカーの肉体に達する。左の掌底が腹にめり込み、右の掌底が脊髄辺りに打ち込まれる。

 

 

その衝撃は外に出る事はなく、バーサーカーの体内に浸透していき全ての臓器を破裂させた。

 

 

ーーーー『透波(とおなみ)』。

 

 

それが師匠に教えて貰った武の技。あの人はバンバンと容易く打っていたが、自分は神経の集中とコンディションが良くなければ成功しない技である。十回の内に五回しか成功していない。その確率が、今ここで出たに過ぎないのだ。心臓もろとも臓器を破裂させられたバーサーカーは、その場で動かなくなり止まる。だが、士郎は魔眼の解析により知っている。この程度では、目の前の狂戦士が蘇る事を。『十二の試練(ゴットハンド)』。

 

 

それはヘラクレスが生前に成し遂げた偉業が、『宝具』として昇華したもの。蘇生魔術を重ね掛けして代替生命を十一個保有する『宝具』だ。さらに一度殺された一撃に対して耐性が出来るのだ。そうしていると、蘇生したバーサーカーが動き始める。それに後退した士郎は、自分が手放した斧剣を再度掴むと向き合った。

 

 

「…………そろそろ終わりにしよう。ギリシャ神話の大英雄」

 

 

決着をつけようと言葉を告げて、士郎は地面を踏み砕いて近付くバーサーカーに向かい打った。

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

イリヤスフィール・フォン・アインツベルンは、目の前の光景が信じられなかった。セイバーの後をバーサーカーに追わせて、彼女はゆっくりと歩いて現場に向かって行った。それは自分のサーヴァントが最強であると信頼しているが故に。そんな歩いている時、バーサーカーに勝てないと判断した遠坂 凛が、マスターである自分を狙ってきた。これに予想はついていたイリヤは、焦る事はない。何故なら自分は最強のマスターなのだから。そして軽く遠坂を容易くあしらってやった。

 

 

その際、使い魔を剣に形状変化させて、早くもマスターを脱落だと思っていたら、遠くからか放たれた矢に邪魔をされて、遠坂を逃がす羽目になってしまった。だが、それでも少女は余裕の笑みを崩さない。例え遠坂 凛が合流したとしても、バーサーカーの『宝具』は突破出来ないのだから。もし、突破したとしてもたった一つ命を失うだけだ。だからこそ、イリヤにバーサーカーの心配はない。

 

 

考えるのは衛宮士郎の事だけ。あの自分達を裏切った男(・・・・・)が養子にした少年。血は繋がってはいないが、最後の家族である人物。彼の顔を思い浮かべて、クスッと幼い少女が妖艶に笑う。そして次の瞬間には、視線を鋭くさせた。あの裏切った男の後継者は、この手で殺すと、イリヤは胸中で呟いた。そうしていると、イリヤはバーサーカーの元に辿り着き、そちらに視線を向けて余裕に浮かべていた表情が崩れた。

 

 

そこは墓地だ。小さなクレーターが幾つも作られ、殆どの墓標が粉砕されている。そんな色濃く残る戦いの爪痕の中心に、自分のサーヴァントであるバーサーカーが居た。(くだん)の衛宮士郎と共に。なにが起きているのか、分からない。本来なら、そこに立っているのはセイバーの筈だ。だか、セイバーはそこから離れた場所で戦況を黙って見ている。

 

 

すると、イリヤの耳に轟音が聞こえて、すぐに二人の方へと視線を向けた。そして眼を見開き驚愕する。衛宮士郎がバーサーカーの横に立ち、両手の掌底をバーサーカーに打ってダメージを与えていたのだ。それに驚愕するしかない、しかも、その掌底によりバーサーカーの命が一つなくなったのだから、尚更だ。

 

 

「………嘘。なんで、お兄ちゃんが、バーサーカーを殺せるの?」

 

 

ポツリとあり得ないと呟くイリヤ。バーサーカーの『宝具』である『十二の試練(ゴットハンド)』は、Bランク以下の攻撃を受け付けない代物だ。そんな『宝具』を突破するという事は、あの一撃はAランク相当だという事だ。人間が、武器を使わず肉体だけで、それ程の攻撃が出来るようになるのだろうか? いや、世界中を探せば何人かは居るかも知れない。だか、イリヤはそういう存在を知らない。

 

 

「…………お兄ちゃん」

 

 

今も尚、バーサーカーを圧倒するように戦う少年を見て、彼女は呟いた。すると、少年が手に持つ斧剣を構えると、次の瞬間。イリヤの瞳に完全に視認出来ない程の速度で斬り刻まれる自身のサーヴァントを眼にしたのだった。

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

「なんなのよあれはッ⁉︎」

 

 

目の前で繰り広げられる人間とバーサーカーの戦い、いや、英雄と英雄の激突に遠坂 凛は大声を上げていた。その隣にはセイバーが居る。

 

 

「リン。落ち着いてください」

 

「落ち着ける訳ないでしょ‼︎ なんで衛宮君が、バーサーカーを圧倒してるのよっ‼︎」

 

 

ここに来てからの疑問がそれである。衛宮士郎。同級生であり、聖杯戦争に巻き込まれたと思っていた少年。それが蓋を開ければ、バーサーカーを圧倒していた。そう、バーサーカーを圧倒しているのだ。改めて視線を向けると、やはり驚くべき光景が映る。バーサーカーの斬撃を、あろう事か手に持つ斧剣ではなく、素手で逸らしているのだから。最早、馬鹿げているとしか思えない。大体、如何やってあの体で、自分よりも大きい斧剣を、バーサーカーと同じように振るえるのか。

 

 

チラリと隣に居るセイバーに聞いても、恐らく分からないだろう。そういえば、と遠坂はセイバーのステータスを見る事にした。そして彼女は後悔した。

 

 

(な……によ……これっ⁉︎)

 

 

ステータスのその殆どがAランク以上という異常。如何なっているのだ。これが士郎と契約した事によるステータスだというのなら、あの少年は一体どれ程の力を持っているというのか。嵐を思わせる剣戟をぶつけ合う少年に、驚くしかない。そんな余りにも圧倒的な武で戦う少年に、彼女は自分の先祖の事を思い出した。

 

 

(そう言えば、私の先祖には武で根源に至ろうとした人が居たっけ?)

 

 

だが、その先祖は至る事はなく生涯を閉じたが。そこまで考える彼女は一際(ひときわ)大きな音を耳にした。

 

 

「ッ、あれは」

 

 

隣に居るセイバーが、士郎の様子に眼を細める。気になった彼女は、そちらに視線を向けた。すると、そこにはーーーー

 

 

 

 

 

避ける。避ける。避ける。バーサーカーの一撃を全て、薄皮一枚分で躱す。最早、何度目かの自分の吸収した技術を修正させ最適化する。その時、ズキッと全身に痛みが走った。

 

 

(そろそろ、俺の体も限界にきたか)

 

 

ヘラクレスという大英雄の身体機能の完全模倣は、やはり、人間である士郎には負担がかかる。それもそうだ。あの筋肉隆々の大男だからこそ、万全に発揮する身体能力だ。それに対して、自分のは憑依経験は無理がある。あれ程の質量を、この体で受け止めるのだから、当たり前の事だ。それでもすぐに、体が壊れないのは、士郎の『進化の器』による。これはなにも吸収だけではない。名前の通り進化する器なのだ。今はこうして体に限界が来ているが、何回も続ければ、それも適応(・・)するだろう。

 

 

その証拠に、ランサーと戦った時よりも長い時間、バーサーカーと戦えているのだから。だが、その戦いも終わりにしなければならない。チラッとバーサーカーと斧剣をぶつけ合いながら、来たであろうイリヤを横眼で見る。あの神父は時間が経てば聖杯は、現れると言った。しかし、こうして目の前に聖杯がある。それは如何してだ? 士郎は思考を巡らせる。

 

 

それにこの魔眼によって、やはり、聖杯が汚染されている事が分かった。聖杯は倒されたサーヴァントの魂を飲み込むのなら。サーヴァントが倒されれば、あの少女の中に魂が入るという事。はたして、それにイリヤは耐えられるのか。いや、結果は魔眼の解析で出ている。自分のように『進化の器』を持つならいざ知らず、人の身で英霊という強大な魂を留めておくのは容易ではない筈だ。出来たとしても四人までだ。

 

 

それ以上の魂を詰め込むと、彼女の人としての機能が損傷して行く。ならば、一体でもサーヴァントを倒すのは悪手だ。英霊一体でも彼女の体に負担は大きいだろう。だが、如何する。如何やってイリヤとバーサーカーを引かせるか。そこまで考えて、士郎は思い付く。

 

 

「なんだ、簡単じゃないか」

 

 

口が笑みを作る。引かせる程の衝撃を与えれば良いのだ。例えば、目の前のバーサーカーの代替生命を一瞬で九回滅ぼせば? そうすれば、戦略的撤退をするのではないか。自分は貪欲だ。何故、イリヤが聖杯なのかは、まだ分からない。しかし、サーヴァントを倒した所為で、一人の少女が壊れる事を『正義の味方』を目指している自分にとって容認出来ない。なら、如何する?

 

 

そんな物は決まっている。サーヴァントを倒さずに、聖杯戦争という下らないモノを終わらせれば良いだけの事だ。こんなマスターがマスターを殺す戦争があるから、聖杯という願望機が存在するから、人は不幸になるのだ。なら、存在しなければ良い。自身の魔眼が疼くのを感じて、イリヤを見てから、改めてバーサーカーを見据える。そろそろ、戦いも終わりにしようか。士郎はバーサーカーの体を押し返して、斧剣を構えた。

 

 

集中する。今から放つであろう技は、生前のバーサーカーの秘剣。魔術回路を総動員させろ。脳裏にイメージするのは肉体に超速度を持って九つの斬撃を放つ光景。眼前で雄叫びを上げたバーサーカーは、ギロリと鋭い眼光を向けて音速の剣を士郎に向けて振るった。今からでは防御は間に合わない。だが、それで良い。防御する気などは最初からないのだから。斧剣を掴む手に力を込める。そしてーーーー

 

 

「ーーーー是・射殺す百頭(ナインライブズブレイドワークス)

 

 

次の瞬間。バーサーカーが振るった音速の斧剣を凌駕して、神速の斬撃が襲った。全ての斬撃が、一つに重なって見える程の圧倒的速度の九連撃。上腕、鎖骨、喉笛、脳天、鳩尾、肋骨、睾丸、太腿。この八つの急所と、心臓に放たれた斬撃は『十二の試練(ゴットハンド)』を容易に貫き、バーサーカーは九度殺された。後に静けさがその場に漂った。バーサーカーは膝を付く。その光景を見ていた者達の驚愕とした雰囲気を感じ取りながら、士郎はバーサーカーが蘇生する前にイリヤに声をかけた。

 

 

「………如何する? まだやるか」

 

「ッ⁉︎ ……………引きなさい、バーサーカー」

 

 

士郎の言葉に我に戻ったイリヤは、悔しそうに顔を歪ませると、そうバーサーカーに言った。その言葉に蘇生が完了したバーサーカーは、イリヤの元に戻る。そして顔を士郎に向けると言った。

 

 

「………お兄ちゃん。今度は、油断しないから」

 

「あぁ、次は油断せず全力で来い」

 

 

対して士郎は、全力で来いと告げる。それに余計に悔しそうにしながら、イリヤはバーサーカーを連れて消えて行った。

 

 

「ちょっと衛宮君⁉︎ 如何いうこと‼︎ なんで逃がした訳‼︎」

 

「あれで良いんだよ遠坂」

 

 

折角、もう少しで倒せたのに、と憤る遠坂に苦笑する士郎。そしてイリヤが居た場所を見て、彼は思う。桜の心臓に寄生していた蟲も、聖杯で作られたもの。イリヤの体は聖杯そのもの。十年前に起きた大火災も、汚染された聖杯によるもの。やはり、全ては聖杯が元凶か。イリヤとは次あった時、中にある聖杯をなんとかしようと決意する。だが、その前に桜の寄生した蟲をなんとかするか。

 

 

そのどちらも、自分の魔眼を使えば造作もない事なのだから。解除の力は手段の一つ。なら、女の子を助ける為に使っても良いですよね師匠。士郎は心の中で、自分の師匠に告げた。そして、空を見上げて彼は呟いた。

 

 

「………ただの(さかずき)如きが、人の運命を狂わせるんじゃねぇよ」

 

 

こうして、マスター同士の初戦は幕を終えた。

 

 

 

 

 

 

 

 




次回から士郎君の救済が始まる予定です。物語が一気に動く‼︎


次回、お楽しみに。初めての連続投稿、マジで疲れる。

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