ストライク・ザ・ブラッド 錬鉄の英雄譚   作:ヘルム

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アニメ分を一話にまとめるのってすごく疲れるんだねマル


聖者の右腕IV

「やはり…影響していたか。」

 

混雑している通学路を見つめながら、シロウは呟く。

昨日の古城の恐らくは眷獣の暴走はシロウが予想した通り、絃神島の警備システムをズタズタにしたのだろう。

テレビでやっているニュースなどは、昨日古城がしでかした事故のことで持ちきりである。

 

「被害総額約500億円…か。やれやれ、ずいぶん派手にやらかしたものだな。古城も」

 

独りごちながら、シロウは学校へ行くためにモノレールに乗り込む。

すると、

 

「お早うございます。シェロさん。」

 

声をかけられ、そちらを振り向くと自分のマスターである夏音がそこにはいた。

 

「おはよう。夏音。」

「今日は大変、でした。港のコンテナ群が焼き払われて焦げ焦げになっちゃったとか…」

「ああ。オレもそう聞いてる。あれだけのことが起きても人々は通常通り出勤している……まったく、魔族特区というのはつくづく、争い事に縁があるせいか。人々はそれに慣れ切ってると見える。慣れとは怖いな…」

 

嘆かわしいと言いたげなシェロの口調はある一点を見た瞬間、さらに目を細めた。

 

「そのペンダント…まだ、持っているんだな。」

「え?あ、はい。これはお父様がお母様の形見だと言って、くれた大切な物、でした。」

 

彼女の首には、チェーンの先に三角状のルビーが取り付けられたペンダントが取り付けられていた。

そのペンダントは彼自身見間違えるはずがないものだった。どこからどうやって回ったのかは知らないが、これは間違いなく英雄エミヤに最も所縁のある代物である。

自分の伝承の中にはいつもルビーを離さなかったなどという伝承が残されているせいか、彼の記念碑のすぐ側のお守り売り場にはルビーを少し埋めたストラップ式のお守りがちょっと高い値段で売られていると言う。

まあ、確かにルビーを最後まで離さなかったというのはその通りではあるのだが、随分と体のいい商売文句とされているのは確実であり、正直不愉快じゃなかったか、といえば嘘になる。

…まあ、そんなことは置いておくとして、今はこのペンダントの話である。

このようにルビーについて自分のことを話すと、様々な伝承があり、中には夏音の持つペンダントと全く同様な形のペンダントなども売られていたとのことだ。ちなみにこのペンダントは日本よりも中東の方でよく売れ、一週間で完売したそうだ。だが、夏音が持つものはそんなまがい物とは違う。わずかに傷がついてはいるものの、正真正銘、自分が生涯最期まで持ち続けたルビーのペンダントである。これは他ならぬ自分の眼が証明してくれた。

 

「まったく…運命とは奇異な物だな。相変わらず…」

「はい?」

 

言われた意味が分からない様子の夏音に対して、何でもないと返してシェロはそのまま学校に向かうのだった。

 

ーーーーーーー

 

学校に着き、古城の方を確認すると眠そうな浅葱が渋々ながら、世界史のレポートのコピーを渡している姿があった。結局、あの騒動の後では古城は宿題をする気が起こらなかったようだ。

 

(やれやれ…仕方がない。)

 

自分も手伝ってやるかと考えたシェロは古城の机へと歩み寄る。

すると、突然教室の出入り口付近で男子たちの歓声が聞こえてきた。

何事かとそちらに目を向けると、その一団は古城の方に近づき、

 

「おい、暁!お前の妹って確か、3年C組だったよな?この子紹介してくれないか?」

 

3年と聞いた時、シェロ自身自分でも分からないほど反応したが、転校生だと聞いて、すぐに違うと思い直す。

携帯を見せられた古城の方はというと、ああ、という半ば嘆息じみた反応でその携帯の写真の中身に納得していた。

 

(となると、やはりアレの中身は姫柊雪菜か…)

 

そんなことを考えていると、まるで見計らったかのように声が上がる。

 

「暁古城はいるか?」

「はい?」

 

間抜けな声を上げながら、その声に対応する古城。声の元を見るとそこにはゴスロリドレスに身を包み、人形のような人間離れした美貌を放つ少女が立っていた。少女の名は『南宮那月』。見た目はどう見ても古城たちより年下にしか見えないが、歴とした教師であり、古城たちの担任でもある。

 

「昼休み、職員室に来い。例の転校生と一緒にな。」

「え?どうして姫柊も一緒に?」

 

転校生というワードに一気に教室内がザワザワと騒ぎ始める。

すると、那月はそれをさも面白げに見つめた後、

 

「昨日、夜遅く私から逃げおおせた後、一体どこで何をしていたのか?キッチリ説明してもらうからな。」

(意地が悪い。絶対わざとだな。昨日、古城たちに逃げられたことがそんなに腹立たしかったのか…)

 

正確には逃げたかどうかは分からないが、港の戦闘が終わった後、会ったとは考えにくいのでその可能性の方が高いとシロウは考えた。

那月のその言葉と共に、ザワザワとした声も明確な懐疑の声となり、古城の身に襲い掛かる。一瞬にして、野次馬の中へと押し込められていく古城の姿とは対照的に、そこからスタスタと教室の前にあるゴミ箱へと移動していく人影があった。浅葱である。

 

(南無…)

 

最早オチが読めたので、古城に向かって、心の中で合唱して礼をする。

数秒後、世界史のレポートのコピーを無惨にも破かれた古城の虚しい悲鳴が教室内に響いたのだった。

 

ーーーーーーー

 

昼休み、古城と雪菜の二人が職員室に入ったのを確認し、シロウは向かいの屋上で、彼ら三人の口を読むことに徹した。

すると、内容は以下のようなものだった。

 

ここ最近、無差別な魔族狩りが発生している。そして、その犯人はまだ捕まっていないのだと…そのために第四真祖である暁古城も十分に狙われる確率があるとのこと。

 

(まあ、大方そうだろうとは思っていたが、やはり、警告か。第四真祖とはいえ、子供は子供。無闇にマズイ事件に首を突っ込ませないようにしてるわけか…案外、甘いものだな。南宮那月。いや、だが、教師としてアレが普通か。)

 

かつて、魔術の『ま』の字も知らなかった自分の姉貴分であり教師である彼女も自分が危ない道に行こうとしていた時は、止めようとしてくれた。性格はまったく似通っていないが、教師とは得てして生徒の心配をするものなのだろう。

そんなことを考えながら、シロウは口を読むのを続けていく。

 

だが、特にこれといった内容の変化はなく、会話は終わる。

シロウはわずかに奇妙だと思った。昨日の自分の力を見れば、真っ先に彼女に質問しそうなものであろうと思ったが故に、彼はここで彼らを監視していたわけであるが、どういう訳かその手の話題はなかった。否、意識的に遠ざけられたとさえ感じられた。

 

(…そうか。古城の方があんな派手なことをやらかしたから、自分たちが先んじて、奴らを捕らえ、古城の事実上の無実証明に使おうとしてるんだな?)

 

あれだけ派手なことをやらかして、しかも賠償金として500億が請求されている状況で一介の高校生である古城がそれらを帳消しにするためには今回の騒動の大元である彼らの証言は必要不可欠である。

そのために、南宮那月に昨日の一件については何も伝えなかった。

自分の力のことを言えば、どうあれ彼らと戦闘していたことを裏付ける証拠になってしまう。

 

(確かに、その手しかないにしろ、随分と無茶をする。何事もなければいいが…仕方ない。)

 

昨日の時点で相手の力量は測れた。少なくとも、第四真祖である古城の方が()()()()心配はないにしろ、雪菜の方はただの人間なのだ。正体がバレることになろうとも彼女が危機に晒されるようなことになれば、助太刀に入るべきである。

英霊が出てき始めているならばまだしも、彼の前には依然として、彼以外のサーヴァントの姿が見えない。この状況で、自分の情報を外にさらすことはこちらに争いの種を蒔きかねない危険な賭けである。

その時の覚悟も引っくるめて彼らを監視する必要が出てきたことに対して、少し嫌な気分になっていることは否定できない。

そう考えた後、シロウは教室に帰って行った。

 

ーーーーーーー

 

5限目に入ろうとしている時、シロウは辺りを見回した。

 

(古城がいない。まさか…もう出たのか!まだ、敵がどれくらいの規模なのかも分かっていないのに!)

 

無謀にもほどがある。雪菜の方はそれなりに訓練された身のこなしをしていたが、古城の方はいくら第四真祖の魔力があるとは言え、戦闘に対してはズブの素人である。

 

(これだけ早く出たということは、情報源はかなり身近に限られてくる。古城の身近で、南宮那月以外にこういう情報で詳しい人間…!浅葱か!)

 

彼女は人工島管理公社のシステムの全てを牛耳れるほどの怪物ハッカーでもある。そんな彼女ならば、この絃神島の全ての情報を見られるだけの能力があるに違いない。

浅葱を捜していると、やたらと不機嫌そうな表情で食堂からでてくる彼女の姿があった。だが、気にしてはいられない。

 

「浅葱!!」

「何!?って、シェロか…いったい何よ?そんなに声を張り上げて。」

 

相変わらず、不機嫌な調子で聞いてくるが、とりあえず、本題に移る。

 

「すまない。()()がどこに行ったのか知らないか?」

 

その名前を聞いた瞬間、分かりやすいくらいにさらに顔を険しくして、シェロを睨みつける浅葱。女の情念のようなものを感じ取ったシェロは一歩引きそうになるが、そこは歴戦の英雄。少し怯んだだけで済んだ。

まあ、それでも、ただの女子高生の睨みにこの世界では大英雄とされている男が怯んだというのは、非常にまずいことなのだが…

 

「…あんたもあのバカと同じ口?姫柊って子に場所がどこか聞いてくれとか言われたような…」

 

…なんとなく、浅葱がこんなに不機嫌な理由が分かってきた。なるほど、恐らくは古城に場所を聞かれ、とりあえず教えてあげたら、午後の授業のことをそのまま浅葱に押し付けて、古城はスタコラサッサとどこかに行ってしまったのだろう。で、その時に浅葱は雪菜が一緒に駆けていくのを見かけた…と

 

(無意識ではあるのだろうが…古城のヤツ、トンデモない機雷を設置して行ったな。)

 

まあ、この場合、自分が近付いて行ったのだが…

そんなことは後回しである。とりあえず、彼女から何とか情報を引き出さねばならない。

 

「いや、違う。ただ、古城のヤツに伝えたいことがあってな。急ぎの用だったので、とりあえず、今からでも、伝えに行ければ幸いだと思ってな。」

 

そんなシェロの言葉に対して疑わしげな眼差しを向ける浅葱だったが、少しして嘆息すると、シェロにまっすぐに視線を向け、

 

「報酬は?」

「…そうだな。これから一週間、君の要望通りのケーキを作るというのはどうだろう?」

 

一人暮らしをしている身として、一般的なレベルの家事をこなせると自負しているシェロは以前、ケーキをクラスの皆に振る舞ったところ、随分と人気だったことを覚えている。

あそこまで、喜んでもらえるのだ。自分のケーキ作りは結構なものなのだろう。と本人的には家事全般は嗜む程度だと思っているシェロは自分のことなのに、他人事のようである。…まあ、絶対に嗜む程度のレベルなどではないのだが…

 

「ふーん…イイわ。教えてあげる。」

 

浅葱の方もそれで納得したみたいで、情報を快く提供してくれた。

 

ーーーーーーー

 

(随分と遅くなった。まだ、間に合うといいが…)

 

シロウは現在の肉体を維持しながらも、全速力で駆けていく。それでも英霊である彼の走行速度は乗用車を軽く凌駕する。

目指すはホムンクルス調整も行えるロタリンギアに本社を構える封鎖された製薬会社、スヘルデ製薬。

ホムンクルスを伴っていたあの殲教師にとっては、正に打って付けの場所というわけである。だが、シロウ自身気になるのはあのホムンクルスの方である。この世界の吸血鬼が眷獣を従えられる理由。それは眷獣は召喚すると共に宿主の寿命を著しく縮めるからである。だから、眷獣は吸血鬼にしか扱えない。

 

(だが、あのホムンクルスは眷獣を従え、古城に攻撃を仕掛けていた。あそこまで正確に攻撃できるということは、彼女は間違いなくあの眷獣を扱いきれているのだろう。)

 

だが、そうなると問題は寿命である。いくらホムンクルスとは言えあれほど眷獣を酷使すれば、すぐに寿命が尽きる。

 

(ということは…なる程、先日からの魔族狩りはそのためか…)

 

おそらく、ホムンクルスの寿命を少しでも伸ばすために、魔族の膨大な魔力を当てにしていたのだろう。間違いなく、ホムンクルスに慈悲を持ったわけではなく、道具(・・)として彼女を使役するために…そう考えると頭の中が沸騰しそうになった。

当然だろう。シロウにとって、ホムンクルスを道具扱いするということは義姉を侮辱されたに等しい。だが、そんな中でもやはりシロウは冷静だった。

 

(いや、やめておこう。最終的に古城たちが何とかできるならば、見送っても特に問題はないはずだ。)

 

自分の軽はずみな行動が夏音を危険にさらすことに繋がる。かと言って、リンクを切ってしまい、彼女から目を離すというのもまた好ましくない。文字通りの板挟み状態の彼にはこの時代で正体を隠しながら動くというのはとてつもない制限をかけられることなのである。

 

そんなことを考えている間にシロウは、スヘルデ製薬会社にたどり着いた。だが、瞬間、歴戦の戦士であるシロウに嫌な予感が全身に走る。

全速力で駆ける。どこに行ったのかなどと考えることはせず、ただ、命じられるように、吸い込まれるようにシロウはその場へと駆けて行った。

そして、たどり着いた先にはやはり、というべきだろう。そこには真っ二つの古城の胴体を抱きながら、嘆き叫ぶ雪菜の後ろ姿が映った。

 

(ちっ!遅かったか…全く、鈍りすぎにも程がある。生前の俺ならばもう少し早く気付けたはずだ。)

 

自らの失態を嘆き、自分に喝を入れ、あの2人組を探すためにその場を後にしようとした。

古城が真っ二つにはなっているが、彼は曲がりなりにも真祖。自分が知っている真祖という怪物も少なくともあの程度で死ぬようなものではなかった。

 

だが…とここで、シロウは足を止める。

そして軽く舌打ちをすると、自らに黒いローブと無地の仮面のようなものを投影し被せ、再び雪菜の方へと向き直る。彼女は未だに肩に抱いている少年のために泣き叫んでいる。

そんな背中に対して、シロウは声を低くし、

 

『落ち着け。少女よ』

 

語りかける。雪菜たち以外誰もいないということが相まって、声はよく響き、すぐに雪菜はそちらに向き直る。

 

「誰ですか!?あなたは!!」

『俺が何者かなどというのはこの場合、どうでもイイことだ。それより少女よ。君のその傍らにいる少年。まだ、死んではいないぞ。』

「え?」

 

戸惑いに似た困惑を浮かべながら、雪菜は黒いローブに身を包んだ恐らくは男に目を向ける。

 

『その男は第四真祖、曲がりなりにも真祖だというのならば、この程度で死にはしない。分かったら、そのひどい顔をいい加減、治すことだ。その男が起きた時、情けない表情を晒したくはあるまい?』

 

半ば挑発的とも取れるシロウの言葉に雪菜は呆然としているだけであった。言いたいことは言い終えたシロウはすぐにその場を後にしようと、背を向ける。すると、ようやく意識が戻ってきた雪菜はその背中を目で追いかけ

 

「ま、待ってください!」

 

呼び止める。その言葉に対して、別に反応する必要もなかったシロウだが、わずかに動きを止める。

 

「あなたは一体何者ですか!?先輩が第四真祖だということは一部のものにしかこの島では知られていないはず!だというのに、なぜ…」

『そのことについては、いずれ語る時が来るだろうが、今はその時ではない。分かったら、そこの男の療養に専念していろ。俺はもう行く。』

「ちょ、待ってください!!」

 

だが、今度は待たずにそのままシロウはその姿を虚空へと消した。

いくら干渉は極力しないにしても、彼らは追わない理由にはならない。そう考えたシロウは製薬会社をすぐに出て、情報を集めるために街を移動するのであった。


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