ストライク・ザ・ブラッド 錬鉄の英雄譚   作:ヘルム

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もう、随分前の話、ロードエルメロイコラボイベントの時に地味に困った出来事。
グレイが宝具を開放するとき、ラッドが『擬似人格停止』と言った瞬間、ソレが『hey.Siri』に聞こえるようでその度に何度も宝具を止めさせられた。
一度、このヘイシリは違うモノに変えようかと思った作者であった。
今からでも変えようかな?アレ?変えられたよね?


錬金術師の帰還X

「へぇ、なかなか趣があるじゃない。さすがは監獄結界、ということかしら?」

「いや、趣っていうか、これは…」

 

監獄結界。その名の通り、監獄の役割を果たし、魔導犯罪者を収監している闇色の収容施設。この監獄では今でも、囚人たちの怨嗟の声が響き渡り、周りには意味深に置かれている拷問用具が掛け並んでいる。

怨嗟と闇色だけで十分に鬱屈した空間となっているのに、そこに拷問具である。趣とかそういうのを意識せず、完全に趣味丸出しなことが、キャスターには伺えた。

 

「あら、そこがいいんじゃない。自分の趣味を臆面もなく出すなんて、人間中々できることじゃないわ。」

「…まあ、魔術道具よりもトレーニング器具を地下に大量に配備しているマスターなら、そういった視点で見られるかもね。女性らしさのじの字もないけ…ど!!」

 

最後の言葉だけは語調を強める。

マスターからガンドの魔術を受け、それを避けるために首を振ったのだ。

 

「危ないなぁ。いきなり撃ってこないでよ。」

「あんたが余計なことを言うからでしょ?それよりも、分かったの(・・・・・)?」

 

その問いに対して、言葉で答えることはせず、目を閉じて応じる。少しして、キャスターは、ゆっくり目を開ける。

 

「んー。ダメだね。やっぱり空間を操ってるだけはある。僕の能力でも、もの探しは困難らしい…だから、まあ、マスター。残念だけど…

 

後ろにいる古臭い絵本との戦いは避けられそうにないよ。」

 

キャスターが振り返る。すると、そこにはこんな陰鬱とした空間には相応しくない可憐な容貌をした少女が佇んでいた。

現れ方はまるでホラーの少女霊そのもので、ほんの少しの恐怖を感じるものだったが、それでもどこかしらで、それを見たことに対する安心感が心中に浸透する。

 

恐怖と安心という真逆の感情を浮かべさせられるその少女の口がゆっくりと開く。

 

「ねぇ…」

 

ゆっくりと紡がれる言の葉が毒のように、美酒のように、自分たちの心に染み渡ることが伝わってくる。

そして…

 

「あなたはだぁれ?」

 

彼女はそう言葉を締めくくった。

 

キャスターvsキャスター聖杯戦争でも特に異端な決戦が今始まる。

 

ーーーーーー

 

「やられたな。完全に…」

 

アーチャーが苦い顔をしながら、絃神島がある方向を見る。

 

「キャスターはこの時を待ってたんだ。俺か、ライダーがあの島から離れるこの瞬間を…」

「な、何?」

 

古城が聞き返すようにして問うと、アーチャーは答え出す。

 

「おそらく、最初からこれが狙いだったんだろう。俺たちは何回かこの天塚と会うことで一つのある刷り込みが行われた。

 

すなわち、『キャスターは天塚と行動を共にしている』という刷り込みだ。

 

これにより、俺たちは一つの目的にシフトチェンジされたと言っていい。」

「一つの目的?」

 

古城の疑問をライダーが言葉を引き継ぐ形で、答え出す。

 

「なるほど、私たちはキャスターを追うことも目的としていましたが、知らず知らずの内に、『キャスターを追うならば、天塚を追った方がまだやりやすい』と考えるようになり…」

「ああ、目的は『キャスターを追うこと』ではなく、『天塚を追うこと』となっていた。と言うわけだ。さて。どうしたものか?」

 

すでにアーチャーたちの頭の中では、目の前にいる天塚のことなど頭にはなかった。そして、そのことは、現在、自分を見失っている天塚を沸騰させるのに十分な要因となった。

 

「君たち、隙だらけだけどもいいのかい!?なんならその背中、今すぐに貫いてあげてもいいんだよ!?」

 

荒げられた声を聞き、つまらなそうに目を細め、アーチャー :衛宮士郎は言葉を返す。

 

「なんだ?まだ、気付いていないのか?もうすでに君との(・・・)…いや、君たちとの(・・・・・)勝負は着いているということに…」

「なに?」

 

疑問を頭に浮かべる天塚。そして、君たちと言ったことにより、誰を指されているかも理解した賢者(ワイズマン)の本体であるステッキがカタリと一人でに動いた。

 

「何を…言っている?」

「お前も気付いているんじゃないか?作られる以後の、自分で憶えている記憶に大きな誤差が生まれていることに…」

「そうだな。さきほどのそこの褐色男がいうことが間違い無いのであれば、今の貴様はおかしい。」

 

ニーナ・アデラードが言葉を引き継ぐようにして。天塚の方を向きながら話しかける。

元とはいえ、自分の師匠が放った言葉に無視を決め込めず、天塚はその言葉に対して、イラつきながらも返答する。

 

「何がおかしいというのかな?」

「貴様は、私の元で錬金術を学ぶ際、目的は明かしはしなかったが、一つ執着していたものがある。それが何か、もう忘れたか?」

「何を…」

「貴様はな、誰よりも人間としての形に拘っていたのだ。故に、体が変形する類の錬金術は便利であろうとも嫌悪していた、だろう?」

「……!?」

「だが、今の貴様は、違う。合理性を優先し、自分の形が何か違うものに変ろうともお構いなしだ。分かるか?貴様は今、貴様自身の手で自分の目的を潰しているのだ(・・・・・・・)。」

「……。」

 

その言葉により、完全に天塚の頭の中は真っ白になった。

先ほどとは違う。過去を否定されたのではなく、現在の目的までも自分の元師匠に否定されたのだ。それは計り知れないダメージとなって、襲いかかってくる。

その様子に堪えていた物が堰をきったのか、天塚の持つ杖、その柄に取り付けられている金の髑髏が震えだし、喋り始める。

 

『クク…カカカ。不完全ナルモノヨ。滑稽ナリ!我ガ作品トハ言エ、所詮ハ、不完全ナルモノタチノ紛イ物ソコガ限界…』

「ようやく、意味もない変装を解いたようだが、さっきの話を聞いていなかったのか?貴様もだぞ。賢者(ワイズマン)。」

 

だが、アーチャー はその先の言葉を封じるようにして、言葉を重ねる。

理解ができなかった賢者(ワイズマン)は不思議そうに尋ねる。

 

『…?ナニヲ…?』

「だから、貴様も操られていると言っているのだ。

 

まさか、貴様、目の前にいた天塚がこれだけ自分の計画に干渉しうる改造をされておいて、自分だけは無事だとでも思ってるのか?

 

それは都合が良すぎるという物だ。」

『ナ…ナナ』

「止めようと思ったことがあったはずだ。たとえ、便利であろうとも、自分の錬金術を改造するなどということをしでかされたら、たまったものではない。何せ、そんな勝手を許せば、認めることになる(・・・・・・・・)

 

自分よりもキャスターの方が錬金術師として上だということを…な。

 

だが、貴様は許した。いや、許すことを強要された(・・・・・)。」

 

その言葉を聞いた瞬間、古城達は呆気にとられるように目を丸くし、賢者(ワイズマン)は、発狂した。

 

『フザケルナ。私ガ不完全ナルモノに改造サレテイルダト!アリエナイ!ソンナコトハアッテハナラナイ!』

「ならば、聞こう。貴様はなぜ会って間もないその男を信用した。自分の計画に支障が出ない範囲で改造するなどとその男が言ったとしても、そんなモノは信用できないはずだ。」

『信用ダト!フザケルナ!アノ不完全ナルモノハ私ノ命令ヲ聞イタダケニ過ギン!ナゼナラ、アノ男ハ…』

 

その後に続く言葉はなかった。弱みがあると思った。理由があると思った。だが、なかった。幾ら探しても、そんな都合の良いモノ(・・・・・・・)はなかったのだ。その事実に気がつき、目に見えるほど賢者(ワイズマン)は狼狽出す。

 

『馬鹿ナ!アリエナイ!我ハ錬金術ノ最奥。賢者(ワイズマン)。我ヲ操ルコトナド、ダレニモ…』

「それこそ単純な話だ。貴様の言葉を借りて言うなら、単に

 

貴様がその男よりも不完全だった。

 

ただ、それだけの話だろう?」

『ア…アアア…』

 

それが最後だった。賢者(ワイズマン)は、自己を留めておく術を完全に失くし、そして、決壊した。

 

『アアアアアエアアア!!!』

 

悲鳴が響き渡る。その様子を見て、古城や姫柊は目を背け、夏音は目を瞑り、アーチャー は僅かに顔を顰める。

哀れだった。ただひたすらに、敵であることさえ忘れさせるほどに、自分の目的を叶える一歩手前まで行った錬金術の最奥たる賢者(ワイズマン)。その究極の人の悲鳴はどこまでも響き渡る。その様子はすでに賢者(ワイズマン)から離れ、ただいたずらに喚き立てる愚者のようであった。

そして、その賢者(ワイズマン)に縁深いニーナはもはや、長年溜め込んでいた怒気も失せ、言葉を締めくくる。

 

「哀れだな。これがあの賢者(ワイズマン)とは…呆気ない。」

『そうかな?僕にはそう思えないな。こんなモノ(・・・・・)を錬金術の最奥として置き、多くを犠牲にして、行き着いた畜生にはこれは似合いの結末だと思うな。』

 

突如として、ニーナには聞き覚えのない少年の声が響いた。

どこから響いたものか分からず、辺りを見回すが、少年らしき姿はどこにもなく、ニーナたちは、狼狽た。

そんな様子を気にもせず、少年の言葉は続けられる。

 

『ふむ。このプログラムが浮き出てきたってことは、もしかして、この人は、精神が崩壊でもしたかな?何かしら決定的なダメージがあった場合、僕の錬金術(プログラム)は発動する仕組みだったからね。』

 

だが、二度目の声でそれがどこから響いたものか感知した。賢者(ワイズマン)だ。先ほど賢者(ワイズマン)だった杖からその声は発せられている。

 

『だが、まあ、精神が崩壊したのはむしろ僥倖か。ほとんどの魔力と能力が失われずに済んでいる。これなら、十分に…

 

再現できる。』

「…なに?」

 

アーチャーは少年の言葉を不審に思うが、そんなアーチャーの態度をよそに、言葉がが終わると同時に、杖が一気に変形する。そこかしこに金が弾け、飛び散り、それらはある一つの物質に付着すると同時に一気に膨張し始める。

その一つの物質とは海。海の中から何かを吸い出すようにして膨張し、その金色の流動体は見る見るうちに、船体を超す巨体となり、人の胴と腕のようなものを型取り始める。いや、それだけではない。金色だった肉体が土気色を帯び始め、遂には完全な土となった。左肩には木が生え出し、右肩は赤、茶色、水色、緑、白の五色の鉱石が複雑に絡み合いながら、肩まで伸び、腕を形作っている。

大地が彫られて作り出されたその顔は剥き出しの歯が見え、角が象られていることから、鬼のように見える顔をしていた。

 

「…なんだ?こりゃぁ…」

 

その姿を見て、絶句する古城に同調するように目を見開く一同。もはや金などすでに足元にしかなく、それだけでもすでに賢者(ワイズマン)と呼ばれていたモノがそこにはどこにも残っていないことが伺えた。

 

『どうだい。僕のこの『万能の巨人・偽(ジャイアント・ヴェルメストII)』の威容。急ごしらえとはいえ、なかなか気に入っているんだよ。これには…』

万能の巨人・偽(ジャイアント・ヴェルメストII)…だと」

『ああ、これは本来僕がライダーになった時にしか扱えない宝具でね。キャスター時には絶対に持てない宝具だったんだ。作ろうにも、とてつもなくお金がかかる上に設備が足りないと来ていて、正直諦めていたんだけど…』

 

ライダーは後方にマスターたちを据えながら、言葉を続ける。

 

「なるほど、そんな時にちょうどいい素体を見つけた、と…」

『ああ、そうだ。ま、この愚者は今まで散々、何かしら、他の命を犠牲にして、錬金術の極地とやらに到達してるわけだし…最期に自分が利用されたとしても(・・・・・・・・・・・・・・・)文句は言えないだろうな。』

 

自分に都合のいい身勝手な発言だ。その発言を聞いた時、目を眇めるでもなく、歯を食いしばるのでもなく、ただ眉を潜めながら淡々と呟く者がいた。

 

「哀れだな。」

「…なに?」

 

憐みの目を向けながら、その男アーチャーは呟く。

 

「|If I have seen further it is by standing on the shoulders of Giants.《私がかなたを見渡せたのだとしたら、それはひとえに巨人の肩の上に乗っていたからです。 》

 

確か、これは、お前が源流ではないが、お前が最も有名にした言葉だったな。

どうだ?その巨人の肩…いや、巨人そのものになったその視線は、彼方を見渡せているのか?」

「……。」

「お前がなぜ、あの時怒りを口にしたのか。オレにはそれがいまだによく分からん。だが、少なくとも、アレは、嫉妬かなにかの類だということは分かった。

 

何に嫉妬していたのかは分からない。だが、嫉妬というのはえてして、自分が欲しがるもの(・・・・・・・・・)をその人物が持っているときにするものだ。」

「…っ!」

「今、オレが持っているモノを手に入れたいというのなら、少なくとも今のお前には永久に無理だ。

 

アイザック・ニュートン。」

「え?はぁ!?」

 

古城が驚きの声を上げる。勉強があまりできない自分だが、それでも、その名はよく知っている。何しろ、高校になれば、いやでも単位N(ニュートン)として、その名が耳に入ってくる。

 

「天塚汞を利用し、賢者(ワイズマン)をも自らの道具として改造して、己が計画に組み込む。その手腕は見事としか言いようがない。だがな、それは少なくとも、今の(・・)オレが最も持ちたくない思いだ。」

「…れ…」

「勝利のためなら、なんだって利用する。自分の立場も、他人も、何もかもを…ああ、実に合理的で、やり易い方法だ。

オレもそれは覚えがあるからな。」

「…まれ!」

だからこそ(・・・・・)、もう一度、言ってやる。今のお前では、絶対にお前の望む答えは見つからない(・・・・・・・・・・・)。これは決定事項だ。アイザック・ニュートン。」

「黙れーーー!!

 

巨人の怒号が津波を起こし、船体を揺らし、巻き込む。

その激しさが怒りのほどを良く知らせる。

 

「さっきから、聞いていれば、てめえ(・・・)、オレのことを分かったように!テメエにオレの何が分かる。利用したから悪いだと?合理的だから悪いだと?なら、それはオレがかつて見た『愛』を否定する言葉だ。

 

テメエだけは許さねえ!この場で八つ裂きにしてやる!」

 

「だそうだ。それでは、後は頼む。」

「おう…はい!?」

 

肩を叩かれながら、任せるようにアーチャーに言われた古城は驚きながらも、ツッコミを入れる。

 

「おい!待てぇシェロ!!散々、挑発しといて、自分だけ観戦する気か。テメエ!!」

「流石にそこまで人でなしではない。だが、状況が変わった。悪いが、こちらの戦線は離脱させてもらう。」

 

その言葉に対して、質問を返したのはライダーだ。

 

「まさか、今から絃神島に向かう気ですか?流石の貴方でも飛行系の宝具など持ってないと思うのですが…」

「いや、それも違う(・・・・・)。ことはもっと単純で複雑だ。」

「はっ?」

 

まるで、頓知のような解答にライダーが疑問符を浮かべているが、それを無視し、アーチャーは忌々しげに絃神島の方へと視線を向けながら、誰にも聞こえない肌の声で呟く。

 

「…あのバカめ。なんで、よりにもよってこのタイミングで召喚されるんだ(・・・・・・・)

 

ーーーーーー

 

絃神島。監獄結界。そこでは一つの戦闘が終演を迎えようとしていた。

 

「ぐっ…くぅ…」

「い…いた…い。」

 

横たわる少女たちの名は、南宮那月とそのサーヴァント:きゃすたー。その目の前には

 

二人のマスターと二人のサーヴァントが立っていた。




進んでなくてどうもすみません。ええ。本当に次はどうにか早くしたいと思います。少なくとも1、2ヶ月中に…

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