ストライク・ザ・ブラッド 錬鉄の英雄譚   作:ヘルム

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聖者の右腕
聖者の右腕 I


「…かったりー。なあ、なんでオレ夏休みにこんな大量の追試受けなきゃならないんだろうなー?」

「いやいや、あんだけ授業サボっといて、おまけに試験にも欠席しといて、なんではないでしょう?古城。」

「全くだ。本来ならば留年してしかるべきであり、むしろ君は恵まれていると言っても過言ではないぞ。古城。」

 

色素が薄くなったような髪をした少年『暁古城』の目の前には現在、褐色の肌と白い髪に赤い縁の眼鏡が特徴的な少年『シェロ・アーチャー』と茶色く染められた髪を後ろに流した少年『矢瀬基樹』が座っていた。

 

「あれは不可抗力なんだよ!色々事情があって…

 

今の俺の体質じゃ、朝一のテスト辛いって分かってるのにあの担任は…(ボソッ)」

 

「あん?」

「……」

 

不思議そうに顔をしかめる矢瀬に対して、何か得心がいったように達観した表情で古城の方を見つめるシェロ。

持ち前の目の良さもあり結構な騒動が自分の眼には映る。だから、担当教諭の南宮那月に頼まれて彼が色々無茶しているところも…まあ、見ることがあるのである。

 

(まあ、彼女なりの優しさなのだろう。彼の力を考えれば、色々と厄介ごとに巻き込まれるのは必至。であるならば、今のうちに戦い慣れた方がいいと考えるのは必然だろうな。)

 

当然、英霊でもある彼は古城の体質が変化していることにも気づいている。それにしては、彼の日常が変化していないことに少々驚きを隠せないでいる。大きな力とは、存在するだけでこの上なく厄介なことであり、それだけで彼は注目の的となりうる。

 

(だが、彼の体質が変化してまだ一年も経っていないのだ。まだ、分からないな。)

 

そんなことを考えている内に、後ろの方から足音が聞こえてきた。

 

「朝起きれないのって、体質のせい?吸血鬼でもあるまいし…」

「…!?」

 

ギャル風の格好でありながら、決して化粧重ねがひどくなく爽やかな雰囲気の少女『藍羽浅葱』の言葉に対してピクッと古城の方が反応するのをシェロは見て反応しすぎだと呆れる。

 

「…だよな。はは…」

 

なんとも言えない表情で返す古城。

 

(まったく、これでは先が思いやられるな…)

 

シェロはそんな彼の様子を見てそんなことを考えていた。その間にも彼らの会話は続いていく。

 

「ま、そんなあんたを哀れに思ったからこそ、こっちは勉強見てあげてるんだから感謝なさい」

「人の金でそんだけ飲み食いして恩着せがましいこと言うか!?」

「その金、貸したのオレだからな。ちゃんと返せよな。」

「まあ、なんだ。頑張れ。古城。」

「ぐっ!わかってるよ。チクショウ…この冷血人間どもめ!」

「差別用語。」

「炎上するわよ。迂闊な呟きは。」

「同感だ。こちら二人はともかく、激励の言葉を言った俺に対してもそれでは確実にそうなるな。」

 

ここで話が終わった後少しして古城は、はあとため息をついた後、顎をテーブルの上に乗せて、

 

「面倒な世の中だよな。本人たちは別に気にしてねーってのに…」

「あれ?知り合いできたのD種に?」

「あ、いや一般論さ。」

 

ふーんと、シェロの目の前で特に興味がなさそうな返しをする浅葱を見てホッと一息をついてる古城の様子を見ていたシェロ。

 

(ため息をつきたくなるのはこちらだ。まったく、気づいていたことには気づいていたがこの男、自覚がまったく足りてないな。

 

自分が()()()()になったという自覚が…)

 

そんなことを思っていると、

 

「と、あたしそろそろバイトだから引き上げるねー」

 

そう言って、浅葱の方は去って行った。

 

「ったく、ひでえ女だよな。教えてくれたことには教えてくれたけど…友達よりバイト優先かよ…」

「教える…ねー」

 

そんな古城の呟きに対して、いたずらっぽく口に笑みを浮かべながら、

 

「なあ、古城、浅葱ってさ勉強かなりできるだろう?だからなのか、あいつ、自分が頭いいからとか理由づけられるのいやで普通はまったく他人に勉強教えたがろうとしないんだ。」

 

…助け舟のつもりなんだろう。実際、確かに助け舟になりうる言葉ではあるのだが…

 

「普通って、あいつ報酬ちゃんともらってんじゃねーか。ここのファミレスの料理。」

「ああ、まあ、そうだな……」

 

そんな感じの古城を少し見た後、シェロに視線を移し、

 

「なあ、シェロ、お前こういうのどう思う?」

 

こういうのとは、今の浅葱と古城の実に嘆かわしい状態のことを言っているのだろう。

正直な話。これについては答えづらい質問であった。色々な世界をまわっていたおかげで自分がどういう人物とどんな風に恋に落ちたのかということを、はっきりと見せられることが多々あったためである。

 

「…まあ、なるようになるんじゃないか。ここに何かしらの不安要素が盛り込まれたら、流石に不安だが…」

「不安要素って?」

「さてな……例えば、いきなり古城と近くで暮らし始めて、二人とも信頼し合える関係になり、なおかつ、一緒に何かしらのことをなそうとしているもの……とかな」

「んな、ばかな……」

 

矢瀬の方は、自分の話を本気にはしなかったが、案外自分は本気で言ったつもりである。なにせ、()()()()()()がすでにあるのだから。

 

「さて……んじゃ、俺も帰りますかね。」

「え?」

 

古城が捨てられた子犬のような表情になり、矢瀬の方を見返す。

 

「俺は宿題写し終えたし、浅葱がいなきゃこんなところで勉強しても意味ねえだろ?」

 

んじゃ、またなーと無情にも去っていく矢瀬。

すると、二人で向かい合うことになる。

 

『……』

 

しばらくして、シェロの方が観念したかのように深く息を吐いた後、

 

「分かった。俺も手伝おう。まあ、乗りかかった船だ。」

 

といった瞬間、ぱぁーと霧が晴れたような笑顔になった。

 

「流石!『彩海学園のオカン』!!」

「…やはり、帰ろうか?」

「すみません!!」

 

土下座しそうな勢いでこちらに頭を下げてきたので、とりあえず頭を上げさせてこれ以上ここにいても仕方ないという理由で外へと出た。

 

「…くそ。もう帰りのモノレールにも乗れやしねー。明日の昼飯どうすべ…」

「もう少し、金銭管理をちゃんとした方がいいんじゃないか?古城。」

「いや、それはあの暴食女に言ってくれよ!俺だってこんなところで無駄に金なんて使いたくねーよ!」

 

あれから5年、衛宮士郎ことシェロ=アーチャーはこの召喚された『絃神島』というカーボンファイバーと樹脂と金属と、魔術によって出来上がった島で何不自由なく生活している。

完成されている存在である英霊たちにとって、訓練というのはそこまで意味をなすものではないが、それでもここまで何もないと感覚の鈍りも僅かながら出るというもの。

少しだけこの島の荒事に首を突っ込もうかとも考えたが、そういうことに関してはシロウは消極的だった。彼は既に死人であり、英霊という過去の遺物である。そんな彼は確かに、ある程度の問題を即座に解決するだけの能力を持っている。だが、やはり現在を生きている人間同士の問題は現在生きている人間同士が片付けた方がいいと考えたためである。

そうしなければ、考えすぎなのかもしれないがバタフライ効果もあり、自分という過去の栄光に縛られる人間も出てくるかもしれない。

 

さて、何不自由なくと言ったが実際それは問題だ。もうあれからずいぶんと日が経っている。そろそろ、サーヴァントの一騎や二騎出てきても良さそうなものである。

 

(もしくは、本当に今回は俺一騎が召喚されたか…)

 

だが、シロウはそれはないと考えてる。この世界がルールが変わった世界だからといって、根本的にはその力の由来と姿は似通い、更には自分が生きていた時代の未来の世界だというのだ。どう考えても、そんな中に自分が何の影響もなく、ほとんど奇跡のような状態で召喚されることなど不可能である。これだけは断言できる。

であるならば、聖杯戦争と同じかそれと同等の似通った儀式をしようとしている愚か者がいると考えて、間違いないだろう。

 

「やれやれ、いつの時代も『魔術師』は『魔術師』、か…」

「あん、魔術師?」

「いや、何でもない。ところで古城。…気づいてるか?」

 

後ろを見つめずに古城に尋ねると、やはり古城も気づいていいたのだろう。僅かに視線を後ろにやってこちらに戻す。

 

「…やっぱり、つけられてる…のか?」

「十中八九そうだろう。俺も最初はなぜついてきているのか分からなかったが……」

 

否、本当は気づいている。どうしてつけられてるのかなど、この場において理由は一つしかないだろう。だが、正体を隠しているのはお互い様だし、正直彼の気持ちがわからないでもない。

 

ならば……

 

「…もしかしたらお前を追っているのかもしれん。俺に用がないというのなら、一旦、俺は離れさせてもらう。そうした方が誰を尾行しているのか、分かるからな。」

「え?あ、ちょ、おい!シェロ!!」

「大丈夫だ。後で、合流する。」

 

そう言って、シェロは古城の元を遠慮なく離れていく。

後ろで「勘弁してくれ……」と小さく聞こえた気がしないでもないが、まあ、無視した。

 

少し離れたところで彼らの様子を確認しようと考えたシロウはごく自然に彼らが鬼ごっこをしている場所とは逆のところで待機していた。

案の定、つけてきた女子中学生くらいの女の子は古城の方を追い、古城の方は撒くためにとでも考えたのだろう。まっすぐにゲームセンターへと移動した。だが、そこで彼女は立ち止まる。そして、少女はまるで何かを探すように辺りを見渡す。

その様子を不思議に思ったシロウ。

 

(まさか…ゲーセンに入ったことがないというんじゃないだろうな?)

 

 

そんな、どこぞの騎士王ではあるまいし……と考えながらもやっぱり彼女の方は変化する様子はない。どうやら本当にゲームセンターに入ったことがないみたいである。そんな姿を見て、古城の方も罪悪感が湧いてきたのだろう。

意を決して、古城と少女の両方は同時にゲームセンターの自動ドアへと向かった。

当然、そんなことをすれば二人ともぶつかる訳で……

 

ぶつかった瞬間、二人の反応は対照的だった。

古城の方は一瞬面喰らったような表情をして、表情を固め、少女の方は古城と同じような表情をした後、肩にかけてあったギグケースに手をかけ古城に攻撃的な視線を向ける。

 

その時、「第四真祖」という言葉が聞こえてきたのは自分の聞き間違いではないだろう。

 

古城はそれに対し、げっという表情になった後、必死だったのだろう……何ともバカなイタリア語でごまかそうと考え、焦り気味に言葉を紡いでいた。

当然、そんな怪しい様子を見て納得などするわけがない。彼女はすぐに意識を覚醒し、古城の服の袖を引っ張って止めた。古城はそれに対しても曖昧な笑いを浮かべながら、「人違いだから」と言って半ば強引に立ち去っていった。

すると、彼女は困惑しながらも自然と手を離していく。きっと根がものすご〜く純粋なのだろう。

 

(いや、何というか……痛ましい限りだな。)

 

だが、古城の方もやっと脱出できたのだ。

そろそろ、合流しようかとその場から動こうとしたが…

 

「…やれやれ、面倒ごとは無くならない…か」

 

見ると、少女の方にいかにも軽薄そうな男二人が近寄っていた。おそらく、ナンパなのだろう。古城の方もそれに気がついたようで、そちらを注視している。

見たところ、それなりに鍛えていることが伺える肉つきをしている男たちだったが、動きは素人同然であることが丸分かりであり、シロウが見たところだと少女の身体能力は確実にその二人は超えているだろうと見切りがついた。そのため、少女が負けることは予想できないが……いざということもある。

 

「仕方がない。もう少しここで監視しておくか…」

 

シロウは監視者というよりも保護者のような視線で二人の行き先を見つめることにした。




この章で英霊同士の戦い見れますよ!
ええ、どんな英霊かは楽しみにしていてください!

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