ストライク・ザ・ブラッド 錬鉄の英雄譚   作:ヘルム

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ご感想ありがとうございます。今後ともよろしくお願いいたします。あと、随分遅れてしまい申し訳ありません。では、どうぞ。


観測者たちの宴 XI

『私が恐怖だと!?』

「ああ…、ずいぶんと…分かりやすい恐怖だ。ここまで明確な感情はそうないというほどにな。」

 

どこにいるとも知れぬ敵に対して、淡々と宣言するように敵に語りかけるアーチャー。

 

「もっとも、それも仕方ないか?即興でこのような(・・・・・)結界を作り出しているところからも、焦りがよく見られるよ。」

このような(・・・・・)…だと?」

「あぁ。君の魔術の腕は確かなものだ。それこそ、神代クラスの天才と言っても過言ではないだろう。だが、先ほどの闇誓書の力、アレは君が南宮那月から奪った魔道書だ。いくら、君に魔術の才があったとしても、このような短時間に扱いきれるわけがない。」

 

アーチャーとしては正直な話。扱いきれるかもしれないとも考えている。弱体化していようと、自分を閉じ込めるほどの結界を作り上げたという事実には変わりはないからである。要するに今のは口から出た単なるハッタリに過ぎないのだ。

 

『っ!?』

 

だが、最初の『恐怖』という言葉が余程堪えたのだろう。阿夜は実に分かりやすく反応してみせてしまった。これを好機と見たアーチャーは一気に言葉を畳み掛ける。

 

「この能力を使って君が何をしようとしていたのか?残念ながらそこまではわからない。だが、ここまで見せつけられれば、何に対する恐怖であるかなどというのは理解はできる。仙都木阿夜。

 

君は世界の有り様に恐怖しているのだろう?」

 

そう。自分も世界を作り変える魔術…否、現在では宝具にまで昇華した切り札を使うからこそアーチャーにはそこに封じめ込められた想いを予測できた。だが、それを言うには余りに早計すぎた。

 

『っ!?黙れ。貴様の言葉など耳を貸したくもない!!』

 

彼女がそう言うと同時にアーチャーの背後から何かが這い出てくるような水音が聞こえてくる。先ほどと同じく、腕が召喚されたのかと考えたアーチャーだが、闇の中にわずかにできた影を目にし、驚愕した瞬間にすぐさまそちらに目を向けた。

 

見ると、そこには今までと同様に腕があった。だが、大きさが違う。その腕は優に回廊の幅を埋め、開いた掌の指は監獄の檻を想起させた。その檻とも言える掌が迫ってくる。その突撃により、まわりの柱は折れ砕け、水面は三メートルの波となって襲いかかってくる。アーチャーはそれを避けない。否、避けようがないのだ。すでに一面を覆うその鎧の掌は目の前、二メートルの地点にまで迫ってきている。これでは避けようがない。手を一瞬で閉じられでもしたら、一貫の終わりだ。

だが、アーチャーは取り乱さない。それどころか余裕綽々と前を見据えて双剣を前で交差させる。

 

(さて、『扱いきれていない』ということは俺の予想も当たってくれると嬉しいのだが…)

 

腕があと僅か50センチのところまで迫ってきた。だが、アーチャーは動かない。そして、十分に近づいた瞬間、グシャリという何かが潰れるような圧縮音が辺りに鳴り響く。回廊がシンと静まり返る。

阿夜はその様子を眺めながら、一時も気を緩めることなく、その塞がれた腕をじっと凝視する。

 

『トレース…オーバーエッジ…』

 

静寂の中で響く声。それを聞いた瞬間、阿夜は警戒を最大にした。そして、声が響いたその場に向けて腕ごと貫こうと、闇色の剣が何百本と囲むように宙に召喚し、一斉にその剣により腕を貫いた。

貫かれていく腕はやがて形を無くしていき、ただの肉片へと変わっていく。その様子を見て中にいるモノなど無事ではすままいと考え、わずかに口元を歪める。剣の一斉掃射が終わり、辺りに舞う破壊の煙。

歪めた口元を更に大きく歪め、愉快そうにわずかに口を開けて嗤おうとしたそのとき……

 

「残念ながら、この程度では俺は倒せない。」

 

だが、またも静寂の中から、重いプレッシャーと共に放たれる言葉。その言葉を聞いた瞬間、阿夜は即座にまた腕と剣を召喚しようとした。だが、遅い。ザンという斬撃の音ともに破壊の煙が一瞬にして文字通り切り開かれる。

 

破壊の煙が舞い上がっていた場所の中心には褐色の肌と白い髪を持った青年が当然のように無傷で佇んでいた。先ほどと違う点があるとすれば、それは剣か。先ほどその青年が持っていたはずの双剣はまるで羽が生えたかのような外見を持ち、刃の長さは足の膝の部分にまでしか伸びていなかったものが一気に地面に刃先がつくまでに伸びていた。

 

(やはりな。わずかだが、魔力を扱う部分に隙ができている。)

 

仙都木阿夜の結界の起点は未だ不明だが、彼女はこの結界を未だ扱いきれていないということは先ほどの反応で分かった。先程から感じていた異能無効化の効力はあくまでも闇誓書を介してのみ行われる術式である。わずかな時間、幻を見せる程度の世界構築はともかく、本調子ではないとはいえサーヴァントである自分を閉じ込めることほどの大魔術だ。闇誓書の能力の何割何分かは分からないが、この結界の方へと能力を回さざるを得ないことは十分に予測できた。

 

「さて、では、話を続けよう…」

 

か、と言おうとしたところでアーチャーが気づく。その無限回廊にいまだ見えずとも、先ほどまであった阿夜の気配が存在しないことに…

 

「…逃げたな。」

 

大方、冷静にはなりきれていないもののアーチャーの言葉を聞くぐらいならばラジコンよろしくオートで敵を追い詰めた方がより効果的だろう、とでも考えたのかもしれない。つまり、ここからは敵の攻撃は全てフルオートで襲いかかってくるのだと考えた方がいいということだ。

 

考え終えると同時に、足元の闇色の水がボコボコと盛り上がってきた。また腕や剣が襲いかかってくるのだろうと予想をつけていたアーチャーだが、今回は違った。なんと、召喚されたのは阿夜が背後に立たせて自分を攻撃してきたあの顔のない騎士だったのだ。オリジナルのよりもおそらくはスペックは大きく劣る。だが、その数が異常だ。

気付いた時には既にアーチャーの周りを30体以上の騎士が囲んだ後だった。

 

「やれやれ…厄介なことだ。」

 

大きく伸びた双剣を構える。するとジリッと騎士達が同時に歩み寄る。

その1人の騎士の刃先に水から召喚された影響か水が溜まっていく。

 

水は刃先でどんどん大きくなる。

そして、その刃先の水が十分に大きくなり、自重に耐えられなくなってくる。

 

ついに耐えられなくなった水が水滴となって下の水たまりへとぽちゃんと落ちる。

 

瞬間、一斉に騎士達が攻撃……

 

「遅い。」

 

否、一斉に騎士全ての首が飛んでいった。

ボタボタと兜を被った首が落ち、そのまま闇へと溶けていく。

だが、その首が落ちたことが皮切りとなったのか次々に騎士達が水たまりの中から召喚されてきた。

 

「さて…」

 

水を払うように、干将を大きく斜めに降り、肩に置く。その後次々と召喚されてくる騎士達を鋭い双眸で睨む。

 

「では、謎解き再開といくか!!」

 

吼えると同時にアーチャーは駆けていく。この結界の謎を解くために、そしてこの先に待ち受ける敵を見据えて…

 

ーーーーーーー

 

「◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️!!!」

 

狂獣が拳を振り上げる。それをライダーは確認すると剣を上に横にしながら防御しようとする。だが、ライダーはその攻撃に怖気が走り、即座に剣を青眼に構え直す。

そして、拳と剣が衝突しようとした時、衝撃音は聞こえず、代わりに金属同士が擦り傷つけあうような俗に言う嫌な音が鳴り響いた。

 

「ぬぅうぅううあああ!!」

 

ブレードで金属を切りつけたような音とともに拳は剣の側面を滑り地面へと突き刺さる。突き刺さると同時に地面にクレーターが出来上がり、コンクリートと破片が辺りに飛び散る。

 

「くっ!?」

 

ライダーはそれを避けるように後方へと飛び、四メートルほどの高さにあるパイプの上に跳躍して着地する。

 

「ふぅ……。」

 

自らを落ち着けるように息を吐くとライダーは狂獣の方へと視線を向ける。狂獣『ジャバウォック』はその獣のように荒い息を吐きながら、ライダーの一挙手一投足に注意を払い、視認している。その狂獣の主人キャスターはと言うと、やはりと言うべきか、先程から、狂獣の肩に乗りながらこちらもライダーの様子を伺っている。

 

(やれやれ、ただの使い魔よりもバーサーカーと言った方がしっくりきます。ここまで膂力に差がある者というのも初めてですね。さて…)

 

ライダーは今度は跳躍してホムンクルス研究所の天井へと向かう。このホムンクルス研究所は縦にも横にも結構な広さがある。サーヴァントとしての跳躍力を使っても一足飛びでは天井には届かない。それは本来、相手側にとっても互角の条件のはずだった(・・・)

 

瞬間、ジャバウォックの姿が虚空へと消えた。そして、その狂獣が次に現れたのは……

 

ライダーの頭上すぐそこだった。

 

「なっ!?」

 

再び迫る狂獣の拳。その速度は音速を遥かに超え、並のサーヴァントでは反応すら難しい域に達していた。最強格と言っていいライダーもこの拳には反応できなかった。だが、彼の持つ宝具『力屠る祝福の剣(アスカロン)』はその攻撃による悪意を察知し、拳の前に自然と躍り出る。

 

ガキイィンという衝突音が辺りに響き渡る。

だが、その拮抗も一瞬。聖剣の守護の力を狂獣の拳はやすやすと貫き、ライダーの腕へと響いていく。そしてある程度殺されてもなお収まらぬ衝撃。その衝撃によりライダーは一気に吹っ飛ばされる。

 

そして、地面へと衝突する直前、ライダーはくるくると4回ほど体を反転し、地面に片膝をつきながら着地する。だが、それでも狂獣の膂力は殺されておらずライダーを中心に小さなクレーターが出来上がる。

 

「ぐぬっ!?」

 

苦悶の表情を浮かべるライダー。それに対し一切の手加減を無しに、さながら隕石のように降りかかるジャバウォックの圧倒的な暴力。

それを後方へと5メートルほど離れるようにジャンプすることで躱すライダー。ジャバウォックの拳は地面に突き刺さるとライダーのいる場所をも巻き込んでクレーターを作り出す。

 

「くっ!」

「◼️◼️◼️◼️◼️◼️!!!」

 

好機と見たか、あるいはそんな感情などなく、ただ本能が攻撃すべきだと捉えたのか吠える狂獣は怯んだライダーに対し拳の乱打を食らわせる。

ライダーは先の経験もあってかなんとか宝具の能力を併用することでその攻撃を受け流していく。

 

(っ!?予想以上ですね。これでは聖剣の能力を反転させるわけにもいかない。)

 

ライダーの聖剣『力屠る祝福の剣(アスカロン)』は守護の力を反転させることによりあらゆる鎧を貫く剣となすこともできる。この能力、一見、煌坂紗矢華の煌華麟と似たものを漂わせる能力だが、あちらは空間断絶能力を併用することで絶対的な防御能力と攻撃能力を誇っている。それに対し、『力屠る祝福の剣(アスカロン)』は守護の力と攻撃の力を別々に置く。相手のあらゆる攻撃を察知し、剣そのものが持つ守護の力で攻撃を無効化、防御し、その能力を反転させることであらゆる防御を無へと帰す。そのため、煌華麟とは似通っているようで別物の宝具なのである。

 

このライダーの聖剣の力を反転させることによりジャバウォックの体を切り刻むことは確かに可能だ。だが、ただでさえ反応の難しいジャバウォックの拳だ。一瞬でもこの守護の力を解いてしまえばどうなるかわかったものではない。

 

仮に目が慣れたとして、その守護の力を解けばいいのかと言えばそうではない。『力屠る祝福の剣(アスカロン)』の能力の真価は相手の攻撃を察知し、遠ざけ、守護の力で攻撃を無効化することにある。そのため、ステータスの面で大きくジャバウォックに劣ってしまっているライダーには『力屠る祝福の剣(アスカロン)』の守護は欠かせないものとなっているのである。

 

「…できることならマスターを巻き込みたくありませんでしたが、仕方ありません。」

 

そう言うと、ライダーはまたも後ろを向きながら今度は小刻みにパイプからパイプへとジャンプしていく。

 

そんな時にライダーは一瞬誰かに懺悔でもするかのような哀しい表情になり…

 

(ええ、本当に仕方がありませんね…私は(・・)《ボソッ》)

 

そう小声で呟くのだった。

 

ーーーーーーー

 

そんなライダーの激しい戦闘を古城たちは工場の壁から観察していた。今、ライダーは防戦で手一杯であろうと作戦の手順(・・・・・)を進めようと奮戦している。それを古城は理解している。ただ、その戦いを見て、古城は歯がゆく思った。

 

自分では未だ手が出せる領域でないことはわかっている。だが、それでもこの少年は何かやれることはないかと模索し続ける。そんな古城の思いを敏感に感じ取った雪菜は古城の手を取り、強く瞳を開きながら言った。

 

「あともう少し辛抱を…先輩。私たちの役目はライダーさんが作戦を無事に成功へと導く一手を成功させた時に始まります。ですから…」

「分かってる!!分かってるよ。んなことは…」

 

口汚く雪菜の忠告を遮る古城。言い終えた古城はハッとなり、雪菜の方を見つめ直す。

 

「わ、悪い。姫柊。どうもイラついちまった。」

「いえ…」

「…まあ、気持ちは分かるわよ。こんな時に私たちは無力だっていうんだからね。」

 

言葉を続けたのは雪菜と古城の後に控えていた紗矢華だった。紗矢華は現在進行形で闇誓書の能力下にあるため、未だ呪力が戻っていない状態だった。そのため、彼女は一緒に連れていたサナと仙都木優麻。その護衛という形で身を隠している。

 

「あ、ははは…ごめんね。古城。足手まといになっちゃって…」

「気にすんなよ。っていうかもう十分だ。優麻、お前、もう限界だろ?そんなこと、俺でも分かるぞ?」

 

本当なら、すぐにでも自分の母の元に戻ってもらい、治療を再開して欲しかった。だが、優麻がどうしてもと言って聞かなかったのだ。

 

「はは、自分でも分からないんだけどね。なんで、こっちに来ちゃったのか…(なーんて、本当はわかってるんだけどね…)」

 

優麻は母である仙都木阿夜を止めるために先ほどまで行動していた。そんな彼女がなぜ、阿夜の方ではなく、古城の方に来たのか?答えは単純。仙都木阿夜はこの危なっかしい幼馴染の力になりたいと彼女は考えたのだ。

たとえ、こんな体でも自分にも何かできるかもしれない…と。我ながら一途なのだろう。長年、因縁渦巻いていた母よりもこの幼馴染を優先するなど…

 

「大丈夫。危なくなったら、ここを離れるから」

「それならいいけどよ…」

 

納得はいってないがとりあえず了解した古城はライダーの方へと視線を移す。ライダーとキャスターの戦闘は膠着状態が続き、ライダーは防戦を続けている。そのため、古城たちは待ち続ける。自分たちが出る。その時まで…

 

ーーーーーーー

 

「ちっ!」

 

ああ、これで何体目だろう。双剣を振るいながらアーチャーは考える。アーチャーの倒している騎士達は決して雑魚ではない。個体差はあれど、その平均戦闘能力。絃神島のアイランドガード一人一人を優に超える。だが、そんな騎士たちをかれこれアーチャーはすでに数百を超えるほど倒してまわっている。この程度で疲労はないし飽きもこないが、ただしかし、いい加減、この手品のタネがわからないことにはこちらからは何も手出しできない。

 

(倒しても倒しても出てくるな。全くアレ(・・)のように上手くいかないものか?)

 

バカなことを考えているときに、アーチャーはピクリ、と止まる。アレ、とはこの無限回廊を見ている間に思い出した子供の頃の遊びだ。だが、その答えがアーチャーに思いもよらない閃きをもたらす。

 

(逐一解析はしているが、不自然な魔力の揺れは見られない。となると、まさか、本当にそうなのか(・・・・・)?…だとしたら、随分と単純な手だな。まあ、ある意味、かなり有効な手かもしれないが…)

 

アーチャーは少しの間考え込んだが、やがて、それらを考えることを放棄する。この状況ならば考えるよりも実際に試して見たほうが早いと考えたのだ。

 

「まあ、少し脳筋寄りかもしれんが、仕方があるまい。やってみるか」

 

アーチャーはそう呟くと準備を始めるのだった。




なんだかんだで、2017年。
そういや、エミヤさんってこの頃推定で30歳行こうとしてるんだよね。確か、全盛期が20代後半から30代前半って話だから…おお、全盛期やん。アレだね。全盛期の頃のエミヤさんに会えることにでもなるんだろうか?武蔵さんやプロトセイバーのことを考えると…まあ、ただの妄想交えた予測に過ぎないんだけど…

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