ストライク・ザ・ブラッド 錬鉄の英雄譚   作:ヘルム

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随分お待たせしました。
では、よろしくお願いします。最も、今回はオリジナル展開が多いのでその辺りは生暖かい視線で見たいいただけると助かります。


観測者たちの宴 V

舞台は過去に遡り、『後にアリスと呼ばれるモノ』の物語をしよう。

『後にアリスと呼ばれるモノ』は絵本を聖遺物として召喚されて以降、まるで未確認飛行物体のように絵本そのものを浮かしながら彷徨っていた。

その時はまだ彼女とも彼ともつかない物体であるソレ(・・)はどのような形であれサーヴァントである。である以上はマスターがいなければ現界は不可能となる。そのためソレはすぐに生命の危機に晒された。

 

本体である絵本そのものは時々透け、ソレは自分の存在がその場から動かすごとに軋み、歪み、削れて行き、苦しくなるのを感じる。ソレにとって文字通り消えそうになるほどの痛みだった。だが、ソレは決して自ら消えようとはしなかった。

 

そうして必死に動いているうちに気がつくとソレは村にいた。小さな村である。ヨーロッパの方によく見受けられるレンガ作りの屋根に白塗りの壁で覆われた家が建てられ、それらによって成り立っている集落。そこにいる彼らは宙に浮く絵本であるソレをそこまで不思議がらなかった。なぜなら、この地は一人のトンデモナイ存在(・・・・・・・・)に統治させられた領地なのだから。だからなのだろう、その後起きてしまった悲劇には誰も反応できなかった。

もう一度言うがソレは曲がりなりにもサーヴァントである。である以上は現界のための魔力が絶対必要である。聖杯などには全くもって興味がなかったが、それには意識があり意思があった。だから魔力を必要とした。だから……

 

突如として絵本が虹色に輝きだした。日光をプリズムによって色分けされたような綺麗な虹色の光は村全体を光で覆った後、しばらくしておさまる。すると、絵本の一番近くにいた村の住人がドサリと倒れた。まるで電池が切れたロボットのように倒れた住人。だが、その住人を皮切りにドサリ、またドサリと周りの人間が倒れていき、ついに村の住人老若男女問わず全てのものが倒れたのだった。

 

何が起こったのか、それは明白だった。

絵本はその村の住人全ての魂を魔力の代わりにギリギリまで食い尽くしたのだ。

 

そうして自分が現界するための魔力を溜め込んだ絵本はまた何かを求めるように何処かへと去っていく。

 

ーーーーーーー

 

走る。走る。走る。もうどこへと向かおうとしているのか分からないほどに走る。息が切れ、汗が迸り、身体中に熱が回る。限界がいずれ来ることはわかっている。それでも早く、あの場を一刻も早く去らなければならない。

 

「モグワイ!!あの化け物なんとかできるくらいの代物出せないの?」

『すまねえが、そいつは無理だ。オレは島全体の治安を司ってる分あの化け物がどれくらいヤバいのか分かる。弱ってるようだが、全開ならアリャ古き世代の吸血鬼でもどうにかできるか、どうか…いや、それでも歯が立たねえレベルかもしれねえ。』

「なっ!?」

 

相棒のAIの統計結果を聞いて、元々引いていた血の気がさらに引く。モグワイの言っていることはつまりこういうことだ。

あの怪物は真祖クラスの化け物でもない限りとても相手にできる代物ではない、ということ。

だが、それで諦めるほど浅葱はお行儀が良い方ではない。

 

(待って…今弱ってるって言ったわよね?モグワイのヤツ。だったら!)

「モグワイ。今から言う条件に該当する場所を割り出して!」

 

ーーーーーーー

 

キャスターはジャバウォックの肩に乗りながら人気のないビル群へと出た一角を歩き、そこでふと怪物の足を止めさせた。

 

「見失っ…タ?」

 

キャスターは途切れ途切れの意識で言葉を紡ぎながらなんとか現在の状態について推察する。そうして先ほどまで感じていたマスターのラインをもう一度確認する。だが、やはり何かに阻害でもされたかのようにきゃすたーとマスターのラインの繋がりは感じられなかった。だが、それも仕方ないことだとキャスターは勝手に納得した。

 

キャスターの体調は正直な話、かなり悪い。霊核が傷ついたわけではないが、今現在キャスターはマスターのダメージをダイレクトに受けているのだ。

キャスターには他のサーヴァントとは違う大きな特性がある。それはキャスターは他の英霊とは違い、自らの思いではなく自らのマスターの思いによって彼女は姿形、そして属性すらも入れ替わって現界を果たすということである。故にこのサーヴァントに限り、マスターがダメージを受ける、または何らかの理由で思想そのものが変わってしまった場合、キャスターの方にも強制的な属性変化という点でダメージがいってしまうのだ。

付け加えていうと、キャスターと南宮那月は正確には正式なマスターとサーヴァントとは言い難い。キャスターはマスターによって姿形が変わるサーヴァントだが、前述にも書いた通り、このサーヴァントにもちゃんとした意思がある。つまるところ、キャスターは自らの意思で勝手に南宮那月と契約をしてしまったのだ。曲がりなりにも魔術師(キャスター)のサーヴァント、その程度は赤子の手を捻るようなものである。

故に、彼女と南宮那月は契約のラインとしての繋がりが非常に薄い。キャスターが提供してもらった魔力も、現界といざ戦闘の時のために貯蔵する分の魔力をちょっとずつ提供してもらった程度でしかない。理由は違うが、さながら、どこぞの弓兵のごとくキャスターもまたマスターにそこまでの負担をかけないようにしてきたのだ。そのため、南宮那月本人も本体にかけられた契約に気づくことはできなかった。

 

その薄いラインに更にダメージを入れられたのだ。それがどれほどのことなのか、理解はできるだろう。よってキャスターはここでマスターとのラインに気づけなくなったとしても仕方のないことだと判断したのだ。

 

「そうだと…シテも、オカ…しい。」

 

運命そのものが自らの感覚を惑わしているような不快感。魔術師(キャスター)であるためか、そういったことに彼女は鋭い感性を持っている。まるで、運命全体が自らのマスターについていた少女を守ろうとしているようなそんな違和感。それを追求しようかとも考えたが、やめた。なぜなら、現在の彼女にはそれだけの余裕も存在しないのだから。

 

「とに…カク、見つケる。ジャバ…ウォック!!」

「◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎ー!!!」

 

雄叫びを上げる狂獣は自らの主人の呼びかけに応じ、目につく中で一番高いビルへと手をかける。そして…

 

ーーーーーーー

 

「どう?モグワイ!!」

『応。ちょいと賭けの要素が強かったが、成功したみてえだ。』

 

人気のないビル群を通りながら彼女は後方を確認する。絃神島には争いが多発する特性上、廃虚と化した箇所がいくつか存在する。その場所は大抵の場合アウトロー集団が占拠し、場所によっては登録魔族の腕輪すらも役に立たない場所も存在する。現在がどこなのか確認する時間はないが、浅葱たちがいるのはそんな治安の悪い一角である。そのため、ところどころ道路はハゲ、割れた窓ガラスが散在していたりする。肝は座っている方である浅葱でもあんまり長くはいたくない場所である。だが、この場所でなければできないことがあった。

どうやら本当に追ってきていないようだ。浅葱はそのことに安堵し一息つき、半ば片腕だけで引っ張りながら持ち上げ、連れていたサナを地につける。

サナは地面に足を付けると、不満そうに腕を見つめながら、

 

「…痛い。」

 

と呟いた。それはそうである。表現すると、幼い子供が人形を片手で引っ張って宙に浮かし連れていくようにして浅葱はサナを連れていたのである。それで痛くないはずがない。

 

「はぁ、はぁ、はぁ…あははは、ごめんね。」

 

力なく返しながら彼女はとりあえず息を整えるために壁に背中を預ける。

浅葱たちがキャスターに向かってやったことは次のようなことである。

例えば、携帯電話がある。それを遊園地などの人が集まる公共施設などで利用した場合どうなるか?多くの場合繋がるのに時間がかかったり反応が遅れたりする経験がなかろうか?浅葱たちは簡単にいって仕舞えば、その現象を利用したのだ。この島は知っての通り地脈から伝わる魔力などを還元して電力などに変えてそれを人々の生活の足しとしている。

ではその還元機関を抜かして魔力をそのまま電力の通路へと押し込めた場合、どうなるか?当然、その電子機器類からは普通は流れないはずの魔力が波となって周囲を覆う。そしてそれは弱っているキャスターの感覚すらもさながらミサイルの弾道をずらすチャフのように狂わせる。先ほどキャスターは自分が弱ったためにマスターとのラインを感じられなくなったと思ってしまったが、実はそうではない。

普段ならばともかく、弱ってしまったキャスター自身が異常なまでの龍脈の魔力の波に押されて全ての感覚を狂わされたのがその真相だった。

 

これらのことより彼女がモグワイに提示した条件というのは『人気がなく、なおかつ電子機器類がある程度まで生き残っているビル群のある場所を探してくれ』だったのだ。

ここで生活しているアウトロー集団には悪いが、彼らだってこのままあの怪物を放置されたら他人事ではないはずなのでそれでおあいこである。

もっとも、浅葱が実行したそれは、本来ならば絃神島の半分のメインコントローラを完璧に掌握でもしない限り不可能な芸当だ。だが、その神業のようなハッキングを見事彼女はやってみせた。当然のことながら浅葱はその自らの才能のことには気づいていない。

 

『だが、あんまり長くは持たねえ。これは要するに電力調節もせずに電子機器に強力な電力を浴びせ続けている感覚に近い。遠からず機器がオシャカになる。そうなったら終わりだぞ!』

「分かってるわよ!こっちだってこんな手が長く持たない相手だってこと…」

 

呼吸するのに喉が痛い。まるで、喉だけが干上がってるような感覚は更に彼女の回復を更に遅らせる。正直、もう一歩たりとも歩きたくないと考えている。だが、相棒のAIの言う通りそうはいかない。あの怪物だっていつかはこっちに気づくに決まっている。その前に何としてでもこの場を離れなければ……

 

『おいおい、嘘だろ!冗談じゃねえぞ!』

 

と、そこで余裕のないAIの口調を聞き、浅葱は怪訝そうに手にある自分の携帯を見る。

 

「…?どうしたの、モグワイ?」

『伏せろ!嬢ちゃんたち!!』

 

怒鳴り口調に驚き萎縮しながらも、その言葉に反応を示した浅葱はサナの頭を抱え込みながら道路へと思い切り覆い被さる形で倒れこむ。

次の瞬間、浅葱の頭上からブォンという何かが振りかぶられるような音が響き渡った。そして、その後凪にでもあったかのように音が消え、辺りが静まり返った。もう終わったのかと浅葱が頭を上げた。

 

「うそ…でしょ?」

 

そこには信じられない光景が広がっていた。ついさっきまで浅葱の周りには確かに廃虚と化したビルが陳列していたはずだった。だが、浅葱の目の前には既にそんなものは存在していなかった。

そう浅葱の目の前には先ほどまで見上げるほどの高さがあったビルが膝ほどの高さの瓦礫と化している光景しかなかった。それが何を意味しているのか理解が追いつかない。だが、恐る恐る自らの背後に目をやるとようやく頭に理解が追いついた。

浅葱から20mほど先の地点で先ほどまでビルだったものが瓦礫となり山積みになっている。そして、その破壊の中心を見る。そこにはビルを片手で持ち上げこちらを見つめている先ほどの怪物がいた。その光景は何を示しているのか?答えは簡単だ。あの怪物は自らの力で辺りのビルを全て弾き飛ばしたのだ。

 

『ボーッとしてんじゃねえ!早く逃げろ、嬢ちゃん!!』

 

いつの間にか力が抜け、へたり込んでいた。彼女は自らの無力さを完璧に思い知らされた。そして同時に自分が相手した怪物のデタラメさも…もう逃げる気力も存在しない。へたり込ませた足をそのままに浅葱は自らの運命を受け入れる。必死に元気づけてくるサナの声も今は遠く彼方から聞こえる叫び声にしか聞こえない。

破壊の中心にいた怪物が浅葱を確認すると手に持っていたビルを片手から悠々と投げ捨て、ゆっくりとこちらへと向かってくる。そして怪物が浅葱の元にたどり着くとまるで宣誓でもするかのように手を挙げる。そしてその手を振り下ろ……

 

「悪いけど、それ以上は看過できないな?怪物くん?」

 

実に楽しげな声の忠告に怪物が驚愕を露わに、辺りを見渡す。次に怪物が見た光景は目の前に迫る極彩色の牙と共に迫り来る蛇の口だった。

怪物はその口に対して腕をクロスすることでなんとかしのぎ、後方へと退がる。そして警戒するように攻撃が向かってきた方へと視線を向ける。

その視線の先、先ほど弾き飛ばした瓦礫の頂上には一人の男が立っていた。男は整った顔立ちにいかにも貴族足らんとしたスーツとズボンを着こなし、そして彼の体質上肌に合わない太陽すらも完璧に自らの背景として取り入れ、立っていた。

その男ディミトリエ・ヴァトラーは仮初めの太陽を背に獰猛に笑みを浮かべて、怪物の方へと目を向けて、告げる。

 

「さて、はじめまして…いや、この場合はなんと言った方が正しいかな?まあ、とにかく会えて嬉しいよ怪物くん。」

 

懐かしい友を見つめるような親しげな視線とは、対照的に肌を刺す殺気を併せ持ちヴァトラーはゆっくりと怪物の方へと向かっていく。

 

「……。」

 

怪物はその光景に対して何も言わずに、ただ、誰かの合図を待つようにして立っていた。すると、その肩の何もない空間が波紋を起こすように揺れた。その波紋は広がると同時に一人の少女の形をとった。その形に色がつき、服が浮かび上がる。だが、顔だけはなぜか翳るように黒いモヤに覆われ、目の部分が見えなかった。だが、それでも身体的特徴は十分に浮き出ていた。

 

「え?」

「……。」

 

その光景に浅葱は絶句し、ヴァトラーは興味深そうに笑みを深めた。

なんとその姿は、現在浅葱のそばにいるサナと、つまり究極的なところをつけば、南宮那月と瓜二つの容貌を成していたのだ。

 

ーーーーーーー

 

「くそ!浅葱のヤツ出やがらねえ!一体何してんだよ!?あいつは!」

「諦めないで、電話をかけ続けていきましょう!今の私たちにはそれしかできることがないんですから!」

「ええ、それにこのスピードなら案外、島中を見回るのも簡単にこなせるんじゃないかしら?」

 

現在、古城、雪菜、紗矢華はリヤカーにて街中を走り回っている。それはどこにもある普通のリヤカーである。工場でコンクリートやら工具やらを運ぶ本当に普通のリヤカーである。だが、現在、そこにありえない事象が追加されている。

 

そのリヤカーは現在、音速を超えて陳列するビルの上を跳び駆けているのだ。リヤカーを引いてるのは現在ライダーが騎乗しているベイヤードという名の白馬である。

普通は音速を超えるなどということをすればリヤカー自体が持たずにバラバラになるのがオチなのだがそこは守護の騎士であるライダーの腕の見せ所。彼は幼い頃、魔女に育てられたと言い伝えられている。そんな彼は魔術のスキルを持つほどではないがある程度魔術には理解がある。そのため、彼はリヤカー自体に音速になんとか耐えられる程度の強化の魔術をかけることも可能だったのである。

 

「いえ、島中というのは無理でしょう。私の魔術はそこまでのものではないですので、いずれリヤカーの方が持たなくなります。ですから、早く浅葱嬢の行方を聞き出した方がよろしいかと」

「そうか。分かった!とりあえず電話を…っと、なんだ?」

 

古城は突然なりだした携帯に注目するとそこにはよく知る友達の名前が浮かび上がっていた。

 

「シェロ?なんだよ、こんな時に?」

『やっと出たか!まったく…古城、君は今、ライダーの馬に引かれているな?』

「え?あ、ああ。って、お前見てんのかよ!?」

 

古城は信じられないと言った口調で叫ぶ。当然だ。先ほども言ったようにこのリヤカーは音速を超えている。より分かりやすく言うとジェット機なみのスピードで走っているのだ。そんなもの、ハイスピードカメラでなければ視認すら難しいはずだ。

 

『別に、大したことではない。そんなことで驚いていてはこれから先どの英霊にも驚愕する羽目になるぞ?っと、そんなことはどうでもいい。古城、浅葱が見つかったぞ!』

「なに!?」

 

その言葉に周りの雪菜と紗矢華が身を乗り出し、馬に騎乗中のライダーも反応したのか、手綱を強く握り締めた反動で馬が苦しそうに呻き、慌てて手綱の力を抜かす。

 

「それでどこなんだ!?」

『場所はお前たちが今走っている方向から向かって、6時の方向の人工島の端、無人ビルが占拠している廃墟街だ。』

「6時……って、それまったく真逆じゃねえか!ライダー!バック、バック!!」

「は、はい!」

『伝えたぞ。ではすまないが、もう切る。こちらも用があるのでな。』

「っ!ちょっと待て!シェロ!」

『何だ?』

 

わずかに鬱陶しそうに返してくるシェロの口調に圧倒されながらも、伝えたかった言葉を紡ぐ。

 

「その……ありがとな。」

『……そんなことは帰ってからにしろ。戯け』

 

呆れるような口調とともに今度こそ電話が切られる。そして、その後方向転換を終えたライダーのインスタント戦車がビルの上を走っていった。その道中……

 

(アレ、そういえばヤケにアイツの声大人びてたような……。)

 

電話先で聞こえた声に古城はわずかな違和感を覚えるもののすぐに意識を現状に戻し、問題解決のために奔走するのであった。

 

ーーーーーーー

 

「さて……」

 

キーストーンゲートの塔のてっぺんに立つシロウ。現在、この島で最も高い位置にあるこの塔からシロウは島の様子を逐一確認している。

 

「ふむ……生前の視力が完璧に戻ったことで島の異常にはすぐに反応できるだろうとも思ったのだがな、どうやらそううまくはいかない……か」

 

今の彼ならば島全体の状況をキーストーンゲートから見渡すだけで確認することができる。故に、セイバーとランサーの島の端の闘いも、浅葱が巻き込まれている騒動についても、そしてライダーたちの音速で走るリヤカーについても捉えることができた。

……正直、最後のはあまりにも不恰好だと思うが、ともかく今の彼ならば島の全てを確認することができるのだ。流石に透視はできないのでビルの陰を確認することはできないが、それでも彼がこのビルから得られる情報量は凄まじい。

 

(だが、その俺に所在を掴ませないとは……どうやら相当、用意周到に準備しているようだな。あちらは)

 

彼が今探しているのは、今回の騒動の大元となる仙都木阿夜である。しつこいようだが、彼は現在の人間に対する接触はなるべく避けるように考えている。だが、それにも例外がある。それは彼のマスターの身に危機が起こりそうだと感じた場合である。

なるべくならば、古城たちに任せた方がいいとも考えたが、あのキャスターの相手は生半ではないはず、その闘いの後にまた闘いを続けるのは彼らにとっても酷だろうと判断し、シロウは自らの力で仙都木阿夜を止めようと考えたのである。

そして現在、弓兵自慢の視力をもって島全体を見渡しているが仙都木阿夜は見つからない。魔力の系統がわずかに異なっている点もあり、魔力による探知も対して当てにならない。

 

「……仕方がない。八方ふさがりというやつか、下に降りてもう一度確認してみるか」

 

そう呟くと、シロウはそのまま霊体化し、その場を去って行った。

 

ーーーーーーー

 

「ふむ。これは少々予定が狂ったな。」

 

その目標の仙都木阿夜はある建物の屋上にて、太陽が昇る夜空を眺める。阿夜には一つの目的があった。そのためにはどうしても、必要だと考えたものが二つある。一つは闇誓書、元々は南宮那月の所有物だったものを彼女が南宮那月の記憶と共に奪い去った代物である。その特異性から仙都木阿夜の求めるものに近付けると信じ、今現在、実験という形で闇誓書から術式を展開している。もちろん、ギリギリまで術式展開の気配に気付かせないために自らの気配、そして術式の気配も彼女は消している。

そして、彼女にはもう一つ欲しかったものがある。だが、今現在、それは自分から見てもとんでもないと評するほどの嵐の中へと入ろうとしていることが感じて取れる。流石にあの嵐の中に入るなどという愚行をしようという考えは阿夜にはなかったのだ。

 

「……仕方があるまい。だが少なくともあの力の塊のような化け物どもの正体を見極めねばな。」

 

突如として監獄結界の中にに現れた赤褐色の鎧を着込んだ騎士、その他にも阿夜が感じたところによると、4つほどそれと同等かそれ以上の気配がこのしまには存在する。魔力の質はわずかに異なるが、アレは現状第四真祖以上の脅威だ。

ならば、その力を見極め、そして情報を収集することこそ計画成功への近道。

 

「そのためにも今しばらくこの場で力を溜めねばならぬ。」

 

彼女はそういうと、空に向けていた目を閉じ十二単を風にたなびかせながら、建物の奥へと消えていった。


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