ストライク・ザ・ブラッド 錬鉄の英雄譚   作:ヘルム

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観測者たちの宴 III

「つまり何?総合して言うと、南宮那月はまだ生きてるけど一体どこにいるのかもわからない上に危篤状態。そこのあんたの幼馴染の仙都木優麻はさっきまで敵だったけど説得してなんとか立ち直らせたってところで母親に裏切られてこれまた危篤状態っていうこと?」

 

現在の古城一行は軍における小型ミリタリーカーを借用してそれに乗車している。この絃神島は離島ということもあり、島の防備を完璧にこなすために数々の軍事物が存在する。そのため、ミリタリーカーがそこらへんに点在していても問題はないのである。もっとも、それを強盗よろしく借用しているのは大問題であるが…

 

「ああ、煌坂。なんとかできないか?アスタルテのときみたいに」

「無茶言わないで、私は呪詛と暗殺の専門だから医療を齧ってたってだけで、守護者を切り離された魔女なんて専門の魔導医師か手練れの魔女でしか解決できない問題よ。」

「魔導医師…か。」

 

その言葉にわずかに戸惑い見せたもののやがて古城は決心したように顔を上げ、

 

「煌坂、そこを右だ。」

「え、あ、うん。」

 

突然のことだったが、煌坂はその指示通りにハンドルを回し右へとミリタリーカーを進める。

 

「何か心当たりでもあるのですか?古城。」

「ああ、腕がいいかは知らねえけど魔導医師っていうんなら、一人知り合いがいる。」

「知り合い?」

 

ライダーが問い返してくるのに対し、古城はまるで何かに呆れ返るかのように嘆息をした。

 

「…暁深森。俺の母親だ。」

 

ーーーーーーー

 

「はぁ…ったく、バカ古城…なんだって電話に出ないのよ。」

 

そうボヤくのは現在パレードの真っ最中で賑わっている通りを一人トボトボと歩いている浅葱である。せっかくの波朧院フェスタのパレード。どうせなら、あの朴念仁と一緒に回りたいと思っていたのだが、その問題の朴念仁が先ほどから何度電話しようと全く電話に出ないのだ。

 

「…はぁ〜あ、もう家に帰ろうかな?一人でこんなところ回ってても仕方ないし…」

 

 

言いながら、彼女はその手にあるホットドッグを頬張る。余談だが、今日彼女が食べたものはホットドッグだけではなく、他に焼きそば、お好み焼き、たこ焼き、りんご飴、綿菓子…とレパートリーだけでも結構なカロリー量だと予想できるにもかかわらず、彼女にとって、これは腹1分目にも満たないほどである。

よくまあ、それで仕方ないなどと言えたものだ。

ホットドッグを頬張った後、彼女はパンパンと手を払い踵を返す。先の宣言通り帰ろうとしているのだ。

だが、その時…

 

「もしもし、君。」

 

不意にパレードのための警備員に呼び止められた。怪訝に思ったが無視する理由もないので振り返る。

 

「何ですか?」

「いや、その…ね。さっきから君の裾を引っ張ってる子がいるんだけど、その保護者か、何かかな?」

「は?」

 

言われた意味が分からず、警備員に指をさされたその服の裾のほうを見やる。すると、そこには齢10ほどの幼い少女が立っていた。

 

「え、えーと、あなたは?」

(あれ?この子どこかで…)

 

言いながらその初めて見る少女に妙な既視感を覚え、顔を傾かせる。彼女はそう考えながらマジマジとその少女を見つめる。だが少女はそんな彼女の思いなど知らずに言葉を紡ぐ。

 

「ママ?」

「ま、ママーー!?」

 

その爆弾発言にわずか齢16ほどの浅葱は驚きの声を上げ、パレードの騒ぎすらもかき消すほどの絶叫をしたのだった。

 

ーーーーーーー

 

「どうだ?」

「んー……うん。これなら私でも何とかなりそうだよ。しっかし、驚いたわ〜。さっきは夜からいきなり真昼間に変わっちゃうし、今は今とて古城くんが女の子を連れてくるんだもの、それでどっちが本命なの?」

「だから、そんなんじゃねえって言ってんだろ!」

 

古城はしつこく人の色恋沙汰を聞いてくる自らの母親・暁深森にうんざりしながら返していく。現在、古城たちはMARという魔導専門の医師が使える施設・その個室の手術フロアに来ている。個室を与えられるのは魔導医師の中でも特に業績を重ねてきた者たちにしか使えないため、そこからも深森がどれほど優秀なのかが伺える。

 

幼馴染の無事を確認できたことから安心した古城は不意にズキリと胸が痛み、そこに手を添える。

 

「…まだ傷の調子は良くないみたいね〜。私があげた薬はちゃんと塗ったのかな?」

 

周りに誰もいないことを確認した深森は声を潜ませながら古城に尋ねる。いい加減な調子の女性だが、なんだかんだ言って自分の息子のことが心配なのだ。

 

「ああ、でも傷なんてすぐに良くなるわけでもないだろ。そんな心配しなくても大丈夫だって」

「まあ、それはそうなんだけどね〜。」

 

もっとも古城の場合、不死身の吸血鬼……さらにその頂点に立つ真祖などと呼ばれる者なわけだから、いい加減身体が修復してなければおかしいのだが、この傷は自分の体を取り返す時自ら進んで雪霞狼という異能を打ち消すのに特化した槍で傷つけたもののため、吸血鬼の能力を制限するのには十分なのかもしれない。

そう考えて古城は傷のことを納得した。

 

「あの、先輩。ちょっと…」

「ん、ああ。分かった。今行く。んじゃ、後のこと頼む。」

「まっかせなさーい!」

 

実に不安が残る返事ではあるがこの際、そのことについて言及するのは止め、優麻のことを託し雪菜についていく形で手術フロアを抜け出していった。

 

ーーーーーーー

 

「先輩。情報が入りましたので報告を…」

「ってか、姫柊さ」

「はい?なんですか?先輩?」

 

何かおかしいところでもあるかというふうに小首を傾げて問い返してくる雪菜に対して、もしかして自分の方がおかしいのか?と考えてしまう衝動を必死に抑え、勇気をもって古城は尋ねた。

 

「いや、その格好何?」

「え?あ…」

 

姫柊の今が来ている服装というのは一言で表すならナース服だ。どこにでもあるナース帽になぜだか妙にスカートの裾が短いナース服、そしてそのスカートの裾まで届きそうなほどのハイソックスと、なんだかこんなものが本当にナース服として受け入れられるのか?と本気で追求したくなるほどに際どい作りの服を雪菜は難なく着こなしていたのだ。

 

「あの…病院内はナース服じゃないとダメ!とお母様が」

「あのバカ母は…」

 

相変わらずの調子で頭を痛め、思わず頭を抱える。だが、今はそんなことを気にしている場合ではないと、即座に頭を切り替えて言葉を続けた。

 

「何か分かったのか?」

「はい。ライダーさんがテレビを見ていた時、先ほど偶然浅葱さんを見つけたんです。」

「浅葱を?」

 

現在は波朧院フェスタのカーニバルの真っ最中でその生中継をする番組も少なくない。そのため、別にテレビ内で浅葱が見つけたところで不思議はないし、わずかに驚くだけである。

 

「浅葱がどうかしたのか?」

「はい、実はその浅葱さんと一緒に写っていた子が問題でしてライダーさんが言うには那月さんに似た面影のある少女だったとのことです。」

「な!?」

 

現在においてそれが一体どれほど重要なのか理解できていた古城はその知らせを受け思わず身を乗り出す。それを制するようにいつの間にか現れたライダーが古城の前に手を出しながら言葉を続ける。

 

「ただですね。古城。正直な話、あの少女が南宮那月さん本人だというのは疑わしいところなんですよ。外見の幼さもそうなのですが、あのテレビというものからも分かるほどに彼女特有の覇気というものが感じられなかったのです。」

「けど、似てたことには似てたんだろ?それに、あの仙都木阿夜の『無事ではない』っていうのがもしかしたら那月ちゃんが幼くなっちまったことかもしれねえわけだし」

「はい、ですから私も行くだけ行ってみた方がいいと思いまして、何より現在、彼女が那月先生だというのなら浅葱さんが非常に危険な状態なので…」

「は?なんでだよ?」

 

南宮那月に復讐しようと監獄結界を脱獄した囚人たちはライダーによって全員仲良くまた監獄結界に送り返されていった。故に実質的な危険性はなくなったと考えていいのではないのだろうか?

 

「いえ、それがそうでもないんです。私も先ほどライダーさんに聞いたばかりなのですが、ライダーさんは苦しみだしたキャスターの危険性は承知していたが、拘束はしていないんだそうです。」

「え?でも、さっき言ってじゃねえか?那月ちゃんがそのキャスターのマスターだっていうのなら那月ちゃんの命令を……って、あ!」

 

そこで古城はあることに気がついた。

 

「はい。それはおそらくマスター(那月さん)サーヴァント(キャスター)が両者ともに正常に思考が可能な場合できることです。ですが、現在彼らは」

「どっちも正常じゃない……ってことは!」

「はい。那月先生はともかく、キャスターは意識が覚醒次第、那月先生を探しに行き、そして見つけた場合、那月先生の近くにいるもの全てを敵と認識する確率があるということになります。」

「ーーーー」

 

絶句するほかない。つまり、それは現在キャスターという暴風雨が自分の友達の身を引き裂こうと近づいて行っているということにほかならないのだから。

古城は焦った表情でライダーの顔を見る。ライダーは心底申し訳なさそうに…

 

「申し訳ありません。古城。こちらとしてもキャスター本体を捉えようと苦心していたのですが……どうも捉えどころがなく、あの怪物の方も傷つけても傷つけても回復するものですから、キャスターを叩くよりも先にマスターの元へと向かうべきだと思ってしまったのです。」

「マジかよ…すぐに探しに行こう!浅葱には俺が電話する!」

「じゃあ、乗り物の準備ね。急いでいくんなら何かなるべく速い物を…」

 

そこで割り込むようにして煌坂が話に入ってくる。

 

「煌坂、お前、凪沙はどうしたんだよ?」

「ああ、あの子はちょっとあんまりにも詰め寄ってくるもんだから、呪術でその…テイ!って寝かしつけてきちゃった。」

 

あはは、と曖昧に笑う紗矢華を見て、古城は半目になりながら『きちゃったじゃねえよ』と言おうと思ったがやめた。今はそんな時間すら惜しいと思えるほどに切羽詰まっているのだ。

 

「さて、そんじゃ、煌坂の言う通り、乗り物探さねえとな」

「それについては心配ありません。古城。リヤカーか何かがあれば、十分です。」

「は?いやいや、それじゃまずいだろ。一体どうやってそれでスピードを出すんだよ?」

 

古城は言っている意味がわからず言い返すが、ライダーはそれを見ても余裕ある表情で古城を見返して言った。

 

「私のクラスはなんなのかお忘れですか?騎乗兵(ライダー)ですよ?」

 

ーーーーーーー

 

「確か、ここらへんだったはずだが」

 

ランサーは自らの戦車に乗り上空を飛び、先ほど視線を感じた方角から大体の位置を予想し、そこに移動してきた。その場所は人工の半島にて作られた高級ホテルで、観光スポットとしても有名な魔族特区ということでホテルが乱立する絃神島の中でも指折りの宿泊施設だった。

特に形が特徴的で二棟の建物の頂上部分を橋のようにして横向きの建物を繋げているような作りとなっている。

 

ランサーがここに来たの単純な興味本位である。ランサーとアーチャーの両者が先ほど感じた視線、それは確実にサーヴァントのものだったとランサーは確信している。そして、その視線の主、それは確実にあの場にいた自分たちに匹敵する強敵だということも…だからこそ、その一瞬感じただけでも肌身が粟立つほどの力を有している男ならばアーチャーによって不完全燃焼にさせられたこの気持ちを抑えられるだろうと考え、何より今のうちに姿を確認することが後々の役に立つともランサーは思ったのだ。

 

そのような判断の元、ランサーは現在、ホテルが建てられている半島周辺の上空を徘徊していたのだが、やはりと言うべきか問題のサーヴァントの気配は完全に絶たれている。

 

「ちっ、こりゃ無駄足だったか?まぁ、あのホテルにいるってのはほぼ確実だと思うから見当もつけやすいだろうが…」

 

ここに来るまでに最短の道のり、そして下方に対し最大限の注意を払って戦車に騎乗してきた。

騒ぎでも起こしさえすればランサーの存在に対し、対処策を用意するためにサーヴァントをこちらに向かわせてくることもあるかもしれない。

だが、彼とて英雄としての誇りがある。無闇矢鱈と一般人を巻き込むことを好ましいとは思えない。故に、全ての部屋をしらみ潰しに捜索しにかかるなどという真似が彼にはできなかったのである。

 

「しょうがねえ。しばらくここでまっ」

 

その時だった。ランサーの背後から突如として強烈な殺気が放たれる。肌が粟立ち、近距離から発せられているからだろうか、若干手綱の向こう側の馬のマハやセングレンからも筋肉の強張りを感じられた。

勢いよくランサーが振り向く。

 

ガキーン

 

「っ!?」

 

風が斬られる音と共に上段からの武器による攻撃の気配を感じ取ったランサーは、手綱から手を離し、紅槍を両手で横に向けてその凶刃を防御する。ギリギリと刃物同士がぶつかり合う音が響き、その常軌を逸したと感じられるほどの膂力により身体が仰け反りそうとまではいかずともわずかに後退りを許してしまうランサー、だが即座にその膂力に慣れたランサーはふー、と息を吐き、緩急をつけるため一瞬だけ槍から力を抜かし……

 

「おらぁ!」

 

一気に弾き飛ばすようにして相手をぶっ飛ばす。その相手は弾き飛ばすと身を翻して体勢を整えるとそのまま戦車が飛んでいる上空よりも下に落ちていった。

 

「逃がすか!」

 

ここまで来た以上是が非でも戦ってもらう。そのサーヴァントを追ってランサーは戦車を下へと向けて走らせた。

 

ーーーーーーー

 

ランサーが落ちていった自分を攻撃した相手を追って付いた着地点・半島の端トラックなどの運輸システムやその他観光客のための300m×200mの何百という車が停まっている駐車場、そこには一歩も動かず彫像のように立ち尽くした2メートルは優に超える大男がいた。

いやあれは彫像のようにというよりも彫像そのものだ。全身を覆う黒い皮膚、獅子のように逆立った髪、遠目からでもわかるほどの筋肉の奔流その理想形ともいうべき肉体、それら全てが人々の理想の肉体だと憧れ、そして彫像という美に活かそうとすることは容易に想像できる。

だが決してそれが彫像ではないということは誰もが即座に理解するだろう。

彼の肉体から出るオーラが、そしてその紅と黄色のオッドアイはその眼光だけで何もかも射抜けるかのごとく険しく鋭かった。これを見て彫像だと言ったものがいたのなら、それはおそらく余程の馬鹿か、その余りにも強大なオーラで気をおかしくし現実を直視できないもののどちらかだろう。

 

「…てめえがさっきの闘いを見てたサーヴァントか?」

「如何にも、此度の現界に際しセイバーのクラスで召喚されたものだ。結果的にとはいえ、先ほどは貴公らの闘いに茶々を入れてしまい申し訳なく思う。」

「なに、ありゃ、あのアーチャーが気にしすぎた所為ってこともあるから、あんたの所為ってわけじゃねえよ。それで?こうして出てきたんだ。まさか、このまま帰るってわけじゃねえよな。」

「ああ、少々マスターの目的とは違ってくるが、貴公をこのまま放置しておくと後々厄介なことになるだろうとマスターが踏んでな。この場で脱落してもらおう。ランサー。」

 

その言葉は決定的な宣戦布告。その言葉を皮切りにセイバーは手元に刃渡が2メートルを行く大剣が出てくる。刃先は両側が逸れ、西洋風の面影のある柄と持ち手のあるその大剣は炎の塊そのものだった。だが、自分の戦車の持つ太陽の輝きとは似て非なる。あれはおそらく大地の輝きそのものだ。火山の持つマグマの熱を宿したようなその炎剣を横に振り、手を前に出してセイバーは構える。

この場でランサーを全力をもって蹴散らすとその男は宣言する。その挑戦に対し、ランサーは……

 

「はっ!上等だ!返り討ちにしてやるよセイバー!」

 

言い終わるとランサーは戦車から飛び降りる。

 

「…何だ?戦車は使わんのか?ランサー?」

「何、あんたはあのバカと違って火力勝負してくるわけじゃなさそうなんでな。まずはこの槍だけでその実力を味わいたくなったんだよ。」

 

セイバーはこの男が決して舐めてかかってるから戦車を降りたわけではないことを直感した。生粋の戦士であるセイバーとランサー、彼らはその人生こそ異なるが戦士として相手の実力を存分に味わいたいという思いには共感できる部分があったのだ。

 

「いいだろう。しっかりと味わうがいい。ランサー」

「応!かかってきな!セイバー!」

 

言葉を終え両者は数秒の間睨み合う。そして、どちらともなく何も合図をせずに二人は同時に突進する。余りに強力な両者の突進により彼らの後方に位置する車が何台かが横転しかける

 

「ぬん!!」

「うらぁ!!」

 

そのちょうど中央のところでランサーとセイバーが激突した瞬間、今度は車が横転するどころか完璧に2メートルほど吹き飛ぶ。

 

神話の再現が今始まる。

 

ーーーーーーー

 

時を同じくして一匹の怪物が目を凝らして建物の頂上から辺りを観察する。

 

「見ツけた?ジャ…ばウォック?」

 

明らかに正気ではない調子でキャスターは自らの下僕に確認を取るように声をかける。すると、怪物はそれに対し静かに首肯する。

 

「そう…じゃア…行く…ワよ。私のトモだチになってくれたあの子を守…るために」




挿し絵をアーチャー詳細設定に入れてみました。まあ、ちゃんと写ってるとも言えないので不安が残る出来ではあるんですができたら見てくると嬉しいです!

ちょっと馬鹿な想像をしてみた。
ドラゴンボールのミスターサタンって、英霊システムで言うのなら死後強くなったりするのかな?

宝具これつまらないものですが(ダイナマイト)!!

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