観測者たちの宴I
物語は先の終盤から数分ほど前から始まる。
暁古城は何とか幼馴染である仙都木優麻の説得に成功し、その後、計ったようなタイミングでずっと閉じていた目を開き、古城と優麻の方へと南宮那月は近づき、よくやったと古城のことを褒め称えた。
だが、その近づくというのがまずかった。突如として魔女たる優麻の守護者が不審な動きをし始めたのだ。
『
優麻はおかしく思い、その蒼の騎士の装いをした守護者の方を見る。と、次の瞬間!
『え?』
グサリ、とあまりに生々しい音がした。それが優麻を通して南宮那月へと守護者が通した剣から奏でられた肉音だと気付いた時はもう遅かった。
『っ!?自分の娘を囮に使うとは…この外道が…!!』
その実に憎々しげに吐かれた憎まれ口に対し、その蒼の騎士はただただ己が役割を果たしたことを明かすように…
『この時を待っていたぞ。守護者を通して貴様が油断したことを確認できる、この時を…』
そう告げたのだった。
ーーーーーーー
「おい!那月ちゃん、優麻!しっかりしろよ!」
「優麻さん!!」
古城と雪菜の二人が声をかけるが、那月と優麻は一向に目覚める気配がない。むしろだんだんと顔色が青くなっていくのを古城は確認し、ますます焦る。そして、次の瞬間!
「っ!?那月ちゃん!?」
那月の体がだんだんと透けていく。その様子に何かとてつもなく嫌な予感を覚えた古城は必死に体を揺さぶる。だが、那月はそれに応じる様子はなく、体の透化はますます進んでいき、遂に、その姿は完璧に消え去るまでに至った。
「那月ちゃーーーん!!??」
絶叫する。南宮那月が消えた。それが意味するところ…それはすなわち死。あの小さくも威厳のある背中はもう二度と見ることは敵わないということ…それを知って自分とこんな状況を作り出した者たちにその怒りの矛先が向き、またも絶叫する。だが、そんな時…
「ふむ…さて、久々の外の空気だな。」
「っ!?」
この陰鬱とした空気には実に似合わないつまらなそうな呟きを聞いた古城は、牙を剥きながらその血を宿したかのように紅い瞳をそちらへと向ける。
同時に側にいた雪菜もそちらに目を向ける。
そこには平安時代の女性が着る十二単を着こなすし、黒髪を地に着くほど伸ばした日本の麗人が立っていた。状況からしてそれが一体誰なのかは明白だった。
「てめえが…仙都木阿夜か…」
「貴様は…ああ、第四真祖、だったな。」
荒々しく怒りをむき出しにしながらの古城の問いに対して、仙都木阿よるは興味がなさげに古城の様子を確認する。だが、すぐにそこから目を離し辺りを確認し出す。すると…
「おい。仙都木よ!」
突然、仙都木の背後の方から違う声が聞こえてくる。見ると、そこにはどこから現れたのか知れない者たちが6人立っていた。こちらも状況からして、一体そのものたちが何者なのかすぐに理解できた。
(監獄結界の…脱獄者どもか…)
(はい…南宮先生の力が弱くなった影響で、監獄結界の縛りが弱くなったのでしょう…)
「ふむ、出てきたか…だが、いささか少ないな。確か
「ちっ!こいつを見ろよ!!」
ドレッド頭の囚人は突如として、腕に風を纏わせ、背後にいるシルクハットの紳士らしき魔術師を横殴りに攻撃した。
「ぐあっ!?貴様、シュトラ・D!!」
思わず悪態を吐いたその紳士は胸を裂かれ、血を流した。だが、それだけでは終わらなかった。なんと、その後、そのシルクハットの紳士は突如として背に現れた魔法陣の光に包まれた。その光の意味するところを紳士は正確に理解し、今度こそ顔を青ざめさせた。
「待て!私はまだ何も…ぐわー!!!」
魔法陣から出た戒めの鎖はその紳士をまるで獲物を見つけた蛇のように絡みつき、引きずり込んでいった。
その様子を見た古城は驚愕した。
「なっ、なんだ!?今の!?」
それに対し、仙都木亜夜はあくまで冷静にその状況を分析し、その現象に対する問いを導き出す。
「…なるほどな。まだ監獄結界の効果は継続中。傷を受ければ即座に監獄戻りというわけか…となると、元々監獄結界にいたころから瀕死だった連中はそもそもとして抜け出すことすら不可能だったわけだ。」
「おうよ。まったく、忌々しいぜ。この野郎が!」
「だが、これも好機ね。あの女には煮湯を飲まされてばかりだったもの!」
「その通りよ。今こそ、あの女に復讐する絶好の機会。」
「…おい、待てよ。てめえら。」
その声に脱獄者5人と仙都木亜夜は振り向く。見ると、そこには怒りと共に凄まじい魔力を秘め、威圧を込めた瞳で睨みつけてくる第四真祖が立っていた。
その魔力の強力さたるや並みの魔族や魔術師がその魔力帯びた風を受けた日には発狂しかねないものであったのだが…
「あ?
「そうだ。それに第四真祖よ。貴様の眷獣…今この場で果たして使っていい物かな?」
「なんだと?」
不可解な十二単の魔女の言葉に眉をしかめる古城。
「この監獄結界は空隙の魔女・南宮那月の心象そのものだ。いわば、奴の心そのものと言っても過言ではない。奴はまだ生きている…辛うじての状態だがな…だが、そんなところに貴様の眷獣を叩き込みでもしたらどうなるのか…分からんほどバカではあるまい?」
「っ!?何だと!?」
古城は驚いた。この監獄結界にそこまで繋がりがあることに対してもだが、何よりも、自分の恩師である南宮那月が生きていることに対して…
その驚愕を正確に捉えた亜夜は意外そうに
「何だ?気づいていなかったのか?現にこの監獄結界が未だに存在し続けているのがいい証拠だろう?まあ、もっとも無事ではないという点では危機的状況に変わりはないだろうが…だが、これで状況は分かったろう?」
「っ!?」
「そういうこった!?馬鹿野郎!」
亜夜の言葉が終わると同時にシュトラ・Dは先ほど同様に風を腕に纏わせて今度は古城に襲いかかってくる。
『なるほど、先ほどの話とキャスターの様子から察するに、やはりマスターは南宮那月という理解で良さそうですね。』
と、不意にどこからか声が聞こえてくる。
その声は聞き慣れたものにとっては慈母にも似た口調に聞こえ、そして初めて来た悪逆をなす者たちには…断罪にも似た口調にも聞こえた。
ギィン
と思わず耳を覆いたくなるような金属音が辺りに響き渡る。脱獄者と古城たちの中央に君臨した男がシュトラ・Dの風をいとも容易く弾き飛ばし、体勢を崩させた音だと理解できたときには既に遅かった。
「ふん!!」
「ぐぶ!!」
シュトラ・Dは崩された体勢のままに鳩尾を抉るようなボディーブローをかまされ、体がくの字に折れ曲がる。その光景を周りの者たちは妙にスローに捉えた。だが、それも一瞬。次の瞬間、シュトラ・Dはその体をとてつもない勢いで吹っ飛ばされ、彼らが認識したときには彼の体はそこには存在せず、ただ少し遠くの方でジャボンという海に落ちる音が聞こえるのみだった。
しばらく両者は共に沈黙し合ったままだった。そのあまりの光景に圧倒されたということもそうだが、何よりもその男の後ろ姿に目を引いて仕方ない者があると本能的にその場にいる人間は理解したのだ。
「さて、ご無事ですか?マスター。ようやく合流できました。」
「ラ、ライダー!」
ーーーーーーー
アーチャー…シロウはもはや、コンテナ一つも存在しないコンテナ港にポツリと瓦礫に腰掛けながら空を見上げていた。傷だらけではあるものの、それはかすり傷に近く彼からしてみれば泥を被った程度にしか感じないものだった。それに対しても彼は鞘を使わずに自らの保有するできの悪い治癒魔術でなんとかした。
「さて、ランサーが突然戦線離脱したところを見るに、ラ・フォリアの方はうまくいったということか…」
ただ、それはおかしい。令呪とは本来、間接的であろうとも聖杯戦争の関係者でなければその譲渡は不可能なはずだ。ランサーの令呪が譲渡されたということは、それはつまりラ・フォリアが聖杯戦争の関係者とされたか、それとももっと別の理由があるかのどちらか一つである。
「となると、いよいよもって先ほどのランサーの言が無視できなくなってきたな。」
この世界の異常性について深く知らなければならない。何せ、今回の聖杯戦争は文字通りルール無用の殺し合いになる。薄々ながらシロウにはそんな予感がしてならなかったのだ。それはまずい。自分にとっても我がマスターにとっても…
「…はあ、とりあえず大局を見るためにも少し戦場から身を引いたほうがいいな。先ほど感じた
つぶやいた後、シロウは瓦礫から腰をあげると体を霊体化してそのままどこかへと消え去った。
ーーーーーーー
「どうやら、随分と大勢が動いたようね。」
「そのようだな…」
高級ホテルの中でも特に天井が高いスイートルームにてその二人は話していた。一人は膝まで届きそうなほどの白銀の髪をはためかせ、紅い瞳にて夜の闇を見つめながら、もう一人は巌のような体と黒髪、そして赤と黄色のオッドアイを絃神島の街並みの方へと向けていた。
「…機嫌が悪いわね。セイバー。もしかして未だに動かない私に対する怒りから来てるのかしら?」
「いや、戦とはときに待つべきときもあるものだ。自らの利を考えるのならば、その待ち時を正確に図るのも必要な技能。その点に関して私はあなたに異論はない。」
自分とて自らの目的のためならば、略奪や騙し討ちも厭わなかった。故に彼にそれを責める気など毛頭起きなかった。
「ただ、これ以上待つようだとこちらとしても、我慢の限界というものがあるというものだ。マスターの命令には背かないが、私は根っからの戦士なのでな。闘いを見せられれば血が沸き立つという感覚は抑えられん。
そうだな。特にあのアーチャーとランサーの戦いは歴代の聖杯戦争の中でも凄まじいの一言だろう。彼らは霊格で言うのならば、私の方が上かもしれないが、英霊としての格を実力で指標するのならば私と互角かそれ以上の力を持つだろう。できることならば、あの両者とはアーチャーとして現界した我が身で闘いたかったものだ。」
「へぇ…それほどのものなの。」
自らの英霊の思いもよらないほどの高評価にマスターは舌を捲く。
さらにそのサーヴァントは言葉を続ける。
「ああ、それにあの者たち、最初の衝突でもそうだが、最後まで本気を出さなかった。宝具の真名解放もわずかにしかやっていないところからそれが理解できる。
ランサーの方はそこまで気にしてはいなかったのだろうが、アーチャーの方は気にして、ランサーが本気を出さないように立ち回っていたと言ったところだ。先の会話もその一部だと解釈していいだろう。」
ここで口には出さなかったが、本当はセイバーはうっすらと相手に
だから、彼はわずかに闘志を燃やし、その視線に熱を上げたのだ。ただ、それがいけなかった。超一流の英霊同士のぶつかり合い、それはどのような窮地も生き残れた者たち同士の闘いということでもある。
さて、そんな彼らにそのような視線をわずかにでも向けてしまえば、どうなるのか?当然、気づかれてしまう。こればかりはセイバーの失態だった。あのまま何もしなければ、全力を出し尽くした闘いを見ることも可能だったかもしれない。そう感じずにはいられない。普段ならばしないミスをやらかしたセイバーはその時、自分を激しく責め立てたものだ。
ただ、他者から言わせてもらえば、彼の反応は実に当たり前と言っていいだろう。何せ、生粋の戦士たるこの男が実に5年…そう5年間もマスターのために闘わずにただジッと待っていたのだ。逆によくここまで我慢したと褒め称えてもいいくらいである。
マスターもそのことには気づいていたために最初の質問が様子を伺うような質問だったのである。
「ふふ、確かにそのようね。そうね。あなたは私の目的のために5年間もずっと我慢してくれたものね。私にはそういう感覚は分からないけれど、血が奮いたつんでしょう?大丈夫よ。今回ばかりは戦ってもらう。いえ、
「…了解した。我がマスター。ローリエスフィール・フォン・アインツベルン。」
これより起こるは世界の真実を観測し、その正体を見切るものたちの闘い。観測者たちが踊り、その世界の真実を暴き出すために…闘いは激化していく。
ここで抽選ターイム、薄々感づいている方もいるかもしれませんが今回の聖杯戦争実は7騎以上出ます。そこで、ちょっと皆さんにお聞きしたい。一体、どんな英霊をこれから出して欲しいでしょうか?
あ、ついでに言っておくと、今回実はもう出すことを決めてる奴もいます。まあ、ちょっとネタバレが過ぎるとアレなんで伏せておきますが、重なってたら重なってたで、ちょっとお詫びを申し上げます。
アンケートとしてだそうと思うので、ヘルムをクリックしていただくとそこから英霊抽選という欄に移れると思うのでよろしくお願いいたします。
後、無限の剣製についてなんですが、さすがに剣以外も魔力の消費を抑えられるというのは生前とはかけ離れすぎていると思うので訂正して今まで通りにしようと思います。
なんやかんやあっても、一応シロウも生前は超人だった類の英霊ですしね。生前の方が強かったという方が受けがいいのではと思ったので…