むかし、
そんな解説じみた綴りがあったその次にいよいよ物語は始まる。
初めは月がよく見える位置に座っている妙齢の男性と赤髪の少年が描かれていた。絵の具で小さく描かれているせいか顔は分からない。
ふたりのおやこはキレイなおつきさまをみていました。
そのつきはまんまるくきれいにここさいきんでいちばんひかっていました。
そんなとき、おとこのこのおとうさんはいいました。
こどものころ、ぼくは「せいぎのみかた」にあこがれていた。けどあきらめてしまったのだと…
おとこのこはそんなことばをうけて、こうおもいました。
ぼくが「せいぎのみかた」になってやる!と
ページをめくる。
今度はただ、ひたすら間違った修行をしていた頃に似ている絵が描かれていた。
すこしして、おとうさんがしにました。
おとこのこはかなしみましたが、ないているひまはありません。
じぶんが「せいぎのみかた」になるのだ。とかんがえ、おとこのこはくんれんしました。
でも、まったくじょうたつしません。
どうしてだろう?とおもいました。
でも、おとうさんがまちがっているはずはないとおもったおとこのこはあきらめずにおとうさんがおしえてくれたほうほうでくんれんしました。
「いや、まったく…絵本ということもあるからか、随分とおとなし目に描いてるな。何を訓練しているのか?までは書かれてない上に、少ししたら、じゃなくて直後に死んだんだがな…」
そんなことを言いながらもページをめくる手を休めずにそのまま次へと行く。
今度は自分の魔術の師匠に当たる人間に会っている描写が描かれていた。相変わらず顔は描かれていないが、このツインテールは間違いなく彼女だろう。
おとこのこはせいちょうして、こうこうにかようようにもなりました。そんなとき、どうきゅうせいのこにいわれました。
「あなたはまちがえている」と…
そのあと、おとこのこはメキメキとせいちょうし、どうきゅうせいのこに「ありがとう」といいました。
今度はイギリスでも描かれているのだろうこの時計塔は何年経っても、忘れられるものではない。
おとこのこはちょっぴりおとなになり、さらにつよくなるためにがいこくにいこうときめました。
そこでおとこのこだったせいねんは、ものすごくつよくなりました。
そして、いよいよというところだろう。今度はどこともしれない戦場を双剣と弓を手に駆けている姿が描かれていた。
つよくなったせいねんはたたかいにいきました。だれもないてほしくないとおもい、せいねんはたたかって、たたかって、たたかいぬきました。
たたかいつづけたせいねんのはだはいつしかこげついたようなちゃいろく、かみのけははいをかぶったようにしろくなりました。
次のページには無数の剣を突き立てながらわずかに雲の間から覗かせる日光を見上げている青年の姿が描写されていた。
せいねんはいつしか「えいゆう」とよばれるようになりました。
せいねんはそれをうれしくおもい、かなしむひとをたすけるためにもっと、もっとたたかいました。
わるいことをするひとがすくなくなり、わるいことをしているひともかれのことをこわがりました。
そして、次のページを開いた瞬間、シロウは思わず目を細める。
そこには、人が黒く描かれ疑惑の目を男の後ろ姿に向けている絵があった。
ですが、せいねんはわるいことをしないひとびとにもだんだんこわがられるようになってきました。
ひとびとはせいねんがなにをかんがえて、こうどうしているのかわからなかったのです。
だから、おそろしくおもい、ひとびとはかれのことをしだいにおそろしいものとかんがえました。
次のページはクライマックスと呼ぶべきなのか、青年が指を突きつけられそのまま、逮捕されている姿が描かれていた。
ついにひとびとはせいねんをわるいひとだときめつけるようになりました。
そして、またあらそいをとめたかれにひとびとはこういったのです。
「こいつがやったんだ」と…
せいねんはなにがおきているのかわからないまま、つれていかれました。
最後に絞首台の絵がわずかに描かれた絵とその絞首台を隠すように両手を挙げた人々の姿が描かれている。
せいねんはなにもわるいことはしていないはずでした。でも、ひとびとはかれにしんでほしいとおもいました。そして、かれはころされ、それをみたひとびとは、りょうてをあげてよろこんだり、あんしんしたりしました。
最後かと思われたがまだ、続いているらしい、どうやら自分の死後の物語も書かれているようだ。そこには悲嘆に明け暮れ、次のページで何かを見つけたような描写があった。
だけど、かなしむひともいました。かなしんだひとびとはいっしょになって、むじつのしょうこをさがそうとおもいました。
そして、ついにみつけました。
そして、今度こそ最後に何か記念碑のような物に大勢の人々が悲しんでいる描写が描かれていた。
せいねんがむじつだとわかったほかのひとびとは、また、かなしみました。かなしんだひとびとは、きねんひをたて、いまでもそこにはおおぜいのひとびとがあつまっています。
おしまい
話が終わった次のページには見慣れた詩文が書かれていた。
それはある男の人生をそのまま物語った詩文。恐らく子供たちでは理解はできないだろう。
「ふぅ…」
読み終わり、本を閉じたシロウはそこで深く息を吐く。
ここでは随分と自分という存在は大きくなっているみたいである。
今先ほど、自分が保有する宝具を解析したところ、今まで、使う機会がなかった
扱い方もわかるし、初めて扱う武具ではないにしても、奇妙な感覚ではある。
(信仰心が強化された恩恵というやつか…)
まったく、これはこれでやりづらいことこの上ない。
恐らく、この分だともっと詳細に描かれている物語もあるだろう。
(この世界で、衛宮士郎と名乗るのはあまり良くないか…)
マスターとの強いリンクがあり、また、マスター側もちゃんとマスターの自覚があるというのならば、別にこのまま、誰にも知られず行動するのも手ではある。だが、正直な話、自分のマスターだと思われるあの少女、どう考えても、事故的に自分を呼び出したに過ぎないとしか思えなかった。
それに白銀の髪の少女というのが、どうも自分の中でネックになり、巻き込みたいとも思えなかった。だから、彼女とのリンクを弱め、アーチャーとしての自分のスキル【単独行動】を併用することで現界を維持しようと考えた。
では、どういう名前がいいか。
そんなことを考えていると、思いついた。
ずっと昔、自分が執事のバイトをしていたとき、自分の主人は自分に向かってこう言っていた。
『シェロー』
「安直ではあるが、これでいいか…名前的に微妙ではあるが…」
こうして、衛宮士郎こと『シェロ=アーチャー』が誕生した。
どう見ても東洋人の顔立ちをしているのに対し、これは少々おかしいのかもしれないが、そんなものは別にどうでもいいかとも考え、図書館を後にした。
これが、彼の新たなる人生の始まりであった。
次回ようやく、古城出てきます。
いや、なんか本当に長かった。