ストライク・ザ・ブラッド 錬鉄の英雄譚   作:ヘルム

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まだ進まない。いや、序章を重視しなきゃいけないだろうな〜と思っていたらすごく長くなってやがる…どうしよう。ちょっと急ぎ足になるかもしれませんが、ここからは飛び飛びになるかもしれません。すみません。


蒼き魔女の迷宮 III

翌日、古城は雪菜たちを連れてある1人の幼馴染を迎えに行くために絃神島唯一の空港にて待機していた。その際、浅葱、矢瀬、シェロは特に興味がなく、この日は来ないと言っていたのだが…

 

「……。」

 

現在、古城は隠そうともしない3つの気配を感じていた。言うまでもなく、さきほど説明した三人だ。1人はやはり興味半分、1人は何かしらの警戒の念を、そして、最後の1人はいっそ清々しいと言っても過言ではないほどの殺気をぶつける視線を古城に対して浴びせていた。

これも説明しておくと、先から順に矢瀬、浅葱、シェロの順番である。

さて、先の2人は理解できるにしても、最後の1人は理解できないという方々が多いことだろう。それにはこんな理由がある。

 

ーーーーーーー

 

退院パーティーが終わり、その後に古城たちのアルバムを見て、彼らはひと段落つき、他の者は帰ったが、明日自分たちと一緒に出かけるのなら夏音は今日泊まっていくといいという凪沙の要望があり、夏音は今日はこちらで一夜を過ごすことになったのだ。古城は疲れのせいでバッタリとベッドの上に横になった。

すると、コンコンと部屋のドアを叩く音が聞こえてきた。

 

「ん?誰だ?」

(すみません。お兄さん。私です。入ってもいい、でしたか?)

「叶瀬?ああ、いいぞ。」

 

そうして、夏音はおずおずと部屋に入ってきた。男の部屋にパジャマ姿で!…ほぼ、無防備と言っても過言ではないだろう。しかも、夏音の容貌はいっそ整いすぎていると言ってもいい。当然、そんな状態でこの男が意識しないはずなどなく…懸命に理性を手放さないように努力した。

 

「あの…お兄さん?」

「え?あ、ああ。どうしたんだ?いきなり俺の部屋になんで入ってきて。」

 

その質問に対して、夏音はわずかに躊躇するような視線を下に向ける。だが、やがて数分後、決心したように古城の方へと視線を向け、

 

「あの、お兄さん。この前はどうもありがとうございました!」

 

と言った。少しの間、古城はその後の言葉も期待して黙っていたのだが、長いこと黙っているため…

 

「え?もしかして、それだけか?」

「はい。やっぱり、場を改めてお兄さんにはお礼を述べたほうがいいかと思いまして…あの、迷惑、でした?」

「い、いや、別にそんなことはないんだが…」

 

だが、正直な話反応に困る。なんともできた女の子である。最早、絶滅危惧種と言っても相違ないだろう。彼女は本当に古城の方はもう既に終わったことと処理していたあの事件についてお礼を言いに来ただけのようだ。

 

「わざわざ、そんなことしなくても良いのに…アレは俺が勝手にやったことだし」

「いいえ、それでも私は本当に助かりました。」

 

健気に頭を下げ続ける夏音の姿に古城はやがて苦笑し、頭を優しく撫で

 

「そうだな。そんじゃ、その礼きっちり取っておくよ。ありがとうな。叶瀬」

「はい!」

 

ここまでは良かった。夏音の方もこの後は部屋に戻って寝ようと思っていたのだが…

 

(古城くん。カノちゃん知らない?さっき、部屋を出ちゃってからしばらく戻って来ないんだけど…)

「な、凪沙!?」

 

扉の向こう側から自分の妹である凪沙が扉を開けようとする。まずい!思った。何の事情も知らない凪沙がこのパジャマ姿で男子の部屋に入ってきた女の子の姿を見たら、自分がどんな誤解を受けるのか容易に想像できた。だから、古城は思わずといった調子で布団のシーツの中に夏音の頭を押し込めたのだ。

 

(お、お兄さん!?)

「悪い、叶瀬。しばらくそん中にいてくれ。」

 

だが、そこで古城は考えた。仮にこの後、凪沙に「いや、見てないが?」みたいな報告をするとする。だが、そんな時、万が一にも布団がモッコリと膨らんでいるところを凪沙が不審に思ったらどうなるか?

 

「っ!ええい!!」

 

というわけで、古城も布団のシーツをかぶる結果となってしまった。

そして、凪沙が入ってくる。

 

「あれ?ここにもいないか。古城くん。カノちゃん見てないよね?」

「あ、ああ。多分、トイレかなんかじゃないか?うん。」

「うーん。そうなのかなー?」

 

そう言って、凪沙はすぐに部屋を出て行った。ホッとして、シーツの中に首を突っ込み、もう良いぞと夏音に言おうとした瞬間、そこで災難が降ってくる。

 

「っ!?」

 

夏音のことを慌てて押し込めた所為なのだろう。そこには胸元がわずかにはだけ、不思議そうに上目遣いで見てくる夏音の姿があった。その破壊力たるや、それを認識し、直視してしまった古城は思わず鼻を抑える。こんなところで鼻血を流したら、本当にそれこそ大問題だ。だが、ここはシーツの中否が応でも、女の子特有の甘い香りが脳を貫く。

そして、ついに我慢の限界を通り越し、鼻からポタポタと鉄臭い赤黒い液体が滴り出したのだった。

 

「っ!お兄さん、血が!?」

「ああ、いや、大丈夫。心配しなくて良いからこれは…」

「何がですか?」

 

その声を聞いた瞬間全身の血が凍っていくのを古城は感じた。そして、ゆっくりと首をそちらの方へと向けると、そこには、

 

布団を剥いでこちらをどこまでもどこまでも冷たく見透す雪菜と凪沙の姿があった。どうやら、もう一度確認しに来たらしい…

その後のことは説明せずとも大体の方は分かるだろう。いつものように冷たい瞳で夏音を回収した後、バタンと何かを隔絶するような勢いで雪菜は扉を閉めていった。そして、古城はただ1人『誤解だー!』と叫ぶのだった。

そして、そんな様子を4キロほど先のビルから観察していものがいた。そう。シロウである。一応、シロウはサーヴァントの中でもかなり理性的な部類だと自負している。それはまあ、負けず嫌いなところもあり、子供っぽいことをしないでもないが、ただそれでも、ある程度のことを許容できる程度に狭量ではなかったとしても…あれは、頂けない。

 

「まったく…あの馬鹿は、もう少し自分の力というものを自覚しろというのだ。」

 

流石に、剣を構えて古城の元に行こうとはしなかったが、それでも…

 

ーーーーーーー

 

(やはり殺気くらいは出して警告すべきだろう)

 

それがシロウの考えた結論である。まあ、なんというか、理性的というよりも過保護と言ったほうが正しいようなサーヴァントの在り方である。

 

「で、なんでお前らがいるんだよ。」

 

そしてついに古城はこちらに声をかけてきた。

 

「いやー、やっぱり古城の昔からの親友って言うと気になるなーって思ってよ。」

「そうそう。私たちは通りすがりの通行人ってことで良いから。ね、シェロ」

「…俺はまったく別の理由だ。どこぞの色魔が我が主人を傷物にしてくれようものならどうしてくれようと思ったまで…」

「は?色魔?」

 

矢瀬たちは首を傾げていたが、古城には自覚があったのだろう。わずかに顔を赤らめて咳き込み…

 

「ふ、ふーん…そうか。」

 

そう言って背を向ける。正直な話、これ以上シェロの方を向いていたら視線だけで殺されるような予感があったために…

だが、そんな時だ。

 

「古城!!」

 

不意を突くように上から声がし、そちらを振り向く。すると、そこにはこちらを向きながら、エスカレーター途中から古城の方へと落ちてくる1人の美少女がいた。古城は驚いたが、慌てた調子でその体を支える。

周りのものたちもその光景にしばし唖然としたが、やがて一番最初に衝撃から蘇った古城が口を開く。

 

「久しぶりだね。古城。」

「ゆ、優麻!?ったく、相変わらず無茶しやがって…」

「えー、古城ほどじゃないよ〜。」

「ユウちゃん、久しぶり!」

 

古城と凪沙は久しぶりに会った幼馴染の姿にわいわいと興奮していたが、他のものたちは別のところで衝撃を受けていた。

 

「お、女の子」

「しかも、美人!?」

 

中性的な顔立ちながらその整っている容貌に思わず見とれる、というか唖然とした雪菜と浅葱の二人。昨日、パーティが終わった後、写真を見せられた時、幼馴染の子についても説明はなされていたが、まさか女の子だったなんて…

ただ、まあ、シロウの方は

 

「ふむ。」

 

生前、数多くの美女にあったことがある彼にはそこまでの驚きはなかったのだった。

 

ある程度のところを回り、最後にキーストーンゲートの頂上にやってきた古城たち。

 

「うわー、凄い景色だね。」

「えへへ、気に入ってくれてよかったよユウちゃん。」

 

凪沙と優麻は生来の相性の良さがあるからだろう。次々に話の話題が出てくる様にシェロもわずかに驚いたものだ。

すると、そこで不意に古城たちの方に目がいく。前に飛行機で大騒ぎしていた雪菜のことだ。おそらく、高い場所が苦手なんだろう。キーストーンゲートの中に時折ある地面までみえるガラスの上を古城の手をとってやっと飛び越えられた様子を見て、懐かしい何かを見る感覚に襲われる。

 

『先輩…』

 

(ああ、そうか。)

 

一人の少女がいた。その少女は最初、自分や他人、そういったものにとにかく無関心だった。そう。それだけはよく覚えてる。そして、自分がそんな彼女をどうにかしてあげたくて、色々手を尽くした結果、彼女は心を取り戻した。ということも記憶に焼き付いている。

 

「おそらく、伝記には載ってないのだろうな。桜のことは…」

 

だが、それでも彼女を救えたあの時のことを彼は正確に記憶している。あれが源泉というわけではないが、おそらく自分は、あの時も人からは決して理解されない偽善で動いていたに違いない。

まったく…思い返しても自分の人生には吐き気がする。だが、その過去に対し、今のエミヤシロウは何の恨みも憎悪も抱いていない。それは嬉しいことでもあり、だが、自分を支えてくれた人々のことを思い浮かべるとどうしようもなく切ない気持ちになる。

 

「…まったく、感慨にふけるなど俺らしくもないとわかっているのだがな…」

「シェロさん?」

 

ブツブツと隣で呟いていたシェロの様子を奇妙に思い、こちらの方へと首を向ける夏音。それに対し、シェロは大丈夫だ。と言って夏音の頭を優しく撫でる。

 

「何でもない。少し、席を外す。皆のところに行っていろ、夏音。」

「え、あ、はい。」

 

戸惑い、何が起こっているのか理解できていない夏音は何となく、その言葉に頷いた。そして、シェロはその頷きを確認した後、今のどうしようもなく切ない気分を鎮めるためにトイレに行こうとした。

そう。二人とも今日と明日を含めて、それが最後の挨拶になるとも知らずに…

 

ところ変わって、暁古城は自分の携帯を手に取る。名前は煌坂紗矢華と表示されている。

 

「ん?何だ?煌坂のヤツ、こんな日に…」

 

その電話に出る。

 

「何だ?煌坂?」

『ふふ、(わたくし)です。』

 

その涼やかながら、透き通るような声に聞き覚えがあり、そして、さらに驚きの声を発する。

 

「ラ・フォリア!?」

『はい。紗矢華のお気に入りの中にあなたの番号が入っていたので、かけてみま…きゃ!』

『も、もしもし!暁古城!?このお気に入りっていうのは入れた番号に呪いをかける仕掛けなんだからね!勘違いしないでよね!』

「地味に嫌な仕掛けだな…それで、何で、ラ・フォリアがいるんだよ?そっちの話じゃとっくに帰ってるはずだろ?」

『それが…』

 

そこで口ごもりながら説明する紗矢華の説明内容に古城は思わず驚きの声を上げる。

 

「はぁ!?空港から人工基島(ギガフロート)まで一気に移動した!?ほぼ、反対側だぞ!?」

『そんなこと言われたって、事実なんだからしょうがないでしょう!』

 

古城の大声に対して、負けじと叫ぶように返す紗矢華。その様子に周りの客はこちらに注目しまくっているが今はそんなことを気にしていられない。それ以上のトラブルが起きかけている予感がする言葉を紗矢華きら聞かされたのだから…

 

『それでとりあえず状況だけでも報告したほうがいいと思って、報告したんだけど、そっちは大丈夫なわけ?』

「あ、ああ。一応な…って、ん?叶瀬?どうした?」

 

トラブルというのは常に連続するものだ。古城が紗矢華たちと電話をしていると夏音がひどく心配そうな表情でこちらに近づいてきた。

そして、夏音が次にしゃべる内容は正しくトラブルと認識されるべきものへと変わる。

 

「あの、お兄さん。シェロさんを知りません、でした?」

「シェロ?いや、見てないけど、どうかしたのか?」

「はい、さっき、席を外すと言ってからもう20分以上経っているというのに全然帰ってくる気配がありません、でした。もしかして、もう帰っちゃったのかなと…」

「は?シェロが!?」

 

正直、それはないと言いたい。確かに最近不審感が募るような事態が何度も起きたが、それでもシェロの夏音に対する想いは確かなものであり、アレを嘘だったなどと古城は断定したくなかったためである。

だが、そんな思考の時間は、思わぬ方向から来た聞き覚えのある声によって打ち消された。

 

『すまない。古城。そこにいる夏音に心配はいらないと伝えておいてくれ。』

「へっ、って、この声!?」

 

ーーーーーーー

 

ところ変わって、ここは絃神島のどこかのビルの頂上

ヘリポートなどが存在しているその場に現在、二人の女性と一人の男が立っていた。二人の女性とはラ・フォリアと紗矢華のことであり、そして一人の男とは…

 

『シェロか!?お前、何でそんなところにいるんだよ!?』

 

突如として聞こえてきた声に驚愕して、ラ・フォリアと紗矢華も自分の後方を見る。すると、やはり、そこにはやはり、白髪と褐色の肌が特徴的な少年シェロ=アーチャーがいた。

数分前、シェロはトイレの中に入ろうとした瞬間、いきなり不快な浮遊感に襲われたのである。そのことに対して、眉を潜めたが、それどころではないことがすぐに理解できた。何と、どことも知れぬ公園の入り口にシェロは立っていたのだ。

 

『なっ!?』

 

驚いたシェロは急いで戻ろうと思ったが、ここは、公園の入り口だ。元より境界となるようなものが存在するとは思えない。故に、どうやって戻ればいいのか流石のシェロにとっても理解の外だったのだ。もしも、彼が霊体化していたというのならば、こんなことは起こらなかっただろう。霊体化はそもそも、現世のあらゆる事象から外れた存在となることができるのだから…だが、である。今現在、この場にて何が起こっているのか分かっていない彼にとってそれは、あまりいい手とは言えないと思った。

このような場合、戦場では如何にその場に慣れるかが戦闘において重要だとシェロは考えたのである。もしかしたら、このまま、夏音の元に戻った方がいいのかもしれないがそこは同盟相手であるライダーか、夏音の保護を担当している南宮那月に任せていいかもしれない。

他のサーヴァントに信用を置き過ぎるのはかなりまずいことではあるのだが、彼に関しては別だ。アーチャー自身かなり世話になっている上に、今、夏音に手を出そうとすれば、どうなるかなど彼自身よく理解しているだろうと考えたためである。

というわけで、シェロはサーヴァント・アーチャーとして色々な扉を開け閉めしていくうちに…

 

「いや、何というかな、前も言った通り俺の霊格は天使とほぼ同格ということもあったせいか…どうやら俺のほうもラ・フォリアたちと同じような騒動に巻き込まれたと考えた方がいいだろうな。」

『ま、マジかよ…』

 

と、そこでまた、あちらで騒ぎが起きる。どうやら、また、トラブルが起こったようだ。さらに、こちらでもある意味でトラブルが起きてしまった…どうやら、かなり、ギリギリのラインで電話をしたために携帯の電源が切れてしまったようだ。

ブツッと突如として切れてしまった電源に対し、紗矢華は苛立ちを隠そうともせず…

 

「ああ!もう!!」

 

そう声を上げた。対照的にラ・フォリアは落ち着きを取り戻すようにふぅと一息吐き…

 

「さて…」

 

それを節目とラ・フォリアは捉え、シェロの方へと向きなおる。

そして、底知れない笑みを浮かべながら…

 

「私たちはこれからどうしましょうか?シェロ?」

 

彼女はそう尋ねてきた。

 


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