ストライク・ザ・ブラッド 錬鉄の英雄譚   作:ヘルム

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天使炎上 IX

解析 開始(トレース オン)。」

 

力屠る祝福の剣(アスカロン)を握り、構えたシロウはまずその性能を解析する。

 

「憑依経験 共感完了。」

 

己の内に別の誰かを憑依させるように体を動かし、構えを取る。

 

「魔力に制限があるからな…悪いが早急に終わらせてもらうぞ。」

 

とは言え、命を取るつもりなどさらさら無い。確かにそれの方がよっぽど安全策なのだが、彼にとってそれは自身を殺すことを同じことなので、そんなことは不可能なのだ。ならば、どうするか?先ほどの夏音と同じである。

 

「その羽根…進化の証なのだろうが、断たせてもらう。」

 

言った瞬間、彼は駆ける。天使たちもそれに際し、自分の周りに光の剣を展開する。裁きの剣たるそれらは同じ次元にいる者でなければ決して返すことのできない不可避の刃。それを彼は持っている剣で弾く、落とす、吹き飛ばす!

まるで、剣自体に意識があるかのように剣が相手の攻撃を返していく光景を目の当たりにし、天使たちは展開する剣の数を増やす。

 

「いくら数を増やしても無駄だ。」

 

力屠る祝福の剣(アスカロン)の能力。それは自分に近づいてくる害悪に対して、確実に補足し、それにより絶対防御能力を実現させていることこそ、この剣の真の力と言っても過言では無い。

故に、彼らの攻撃は絶対に届かない。それこそ、サーヴァントとこの剣の知覚能力を完璧に超えるほどのスピードと数がなければこの剣は無敵だ。

ただし、それは例えば、弾き返すだけの技術や力があればの話である。

技術はともかく力の方は問題だ。既に体の調子は先ほどの魔術でさらに弱っている。10発ほど弾き落としたシロウはその後の11発目を剣で防ぎながらも足止めさせられるように後退させられる。

 

「ちっ!」

 

わずかな真名解放を行ったところで、少しだけ彼の能力が上がっただけ、彼のその真の能力とはすべての宝具を完全とは言えないまでも扱いこなすことにこそある。元より一つの宝具を完璧に使いこなすことができるなどということができるとしたら、それは干将・莫耶の双剣と贋物を覆う黒者(フェイカー ブラック)の二つしかない。

よって、彼のこの後退はある意味では仕方が無いと言える。

 

「ふぅ、さて…どうするか?」

 

無視できない自分の体の強制的に霊体化するような感覚体の鈍り、それらから分かる。

彼の身体は既に現界を調整するだけでも精一杯。少しでも彼の構成する魔力の波長が乱れれば攻撃を弾いたとしても、彼の身体は文字どおり霧散する。

 

「なら、仕方あるまい。できるかどうか分からんが…そこはそれ

 

不可能を可能にしてこその英霊なわけだしな。」

 

走り出す。今度は先ほどの突進のようなスピードではなく、緩やかなものだった。天使たちもそれを確認し、いっそ神々しいと言っても過言ではないほどの輝きを伴った光剣が彼女たちの周りに展開されていく。

そして、それを一斉に射出する。

一方のシロウは片手にだけ(・・)魔力を込めて、もう片方の左手はダランと無造作に揺らすようにして立ち向かう。

 

(1発でも受ければ死。それは変わらん。だが、あの光剣は今の俺では10発叩きおとすのが精々だ。ならば…)

 

剣の側面を相手に向ける。そして、一つの光剣に照準を定める。そしてその剣を落とすのではなく、受ける。

 

「ぬぐっ!?」

 

後ずさりしそうになる足を留め、前進する。光の剣は形を留めたままだ。当然だ。元より、この剣の特性を知り尽くしているシロウはその特性を利用した。この剣は破壊されない限り、相手への裁きを止めない。文字どおりの裁きの剣。それを留めたまま、前進する。それは何を意味するか?

 

ズバリ、光剣はまるで他の光剣の盾になるように展開され続けていくのだ。光剣が他の光剣に当たれば、相殺し、光の粒となって消え失せる。だが、それならばそれでいい。また、盾を用意すれば自分の道くらい簡単に確保できる。せめて、自分の行く道一つくらいは…

 

狙いに気づいたのか天使たちは奇声を上げながらまたも剣の数を増やす。だが、遅い。せめてそれに気づくのが、あとちょっと早ければ、結末を変えられたかもしれないが、相手の剣を盾にし続けてシロウは既に天使たちの目の前にまで至っていた。

 

跳ぶ。そして、天使たちがシロウを知覚した次の瞬間、

ザン、と彼らの翼は文字どおり一刀両断された。

 

「KIII!!?」

「GUH!!」

 

サーヴァントでなければとても斬られたということにすら気付かないほどの高速の斬撃。今のシロウが放てる最高のスピードだ。それを受けて、天使たちは糸の切れた人形のように崩れ落ちていく。

戦闘終了後、憑依経験を行ってたからだろうか柄にもなく、シロウはこんなことを呟いていた。

 

「君たちのこれからに祝福があらんことを…」

 

言い終えると、彼は手に持つ簡素な剣を地面に突き刺し倒れるように座り込み、

 

「あとは頼む。」

 

そう言って彼はついに力なく倒れていった。

 

ーーーーーーー

 

「なっ!?あの役立たずどもが!結局、あのガキに負けやがった。ちっ!本っ当に使えないわね!!」

「余所見を…している場合ですか!!」

 

掛け声に近い声で雪菜はベアトリスに一閃する。ベアトリスはそれを後方にわずかに飛んで回避する。

ベアトリスと雪菜はお互いに槍を構えながら、膠着する。

そうしていながらも、雪菜は内心では驚いていた。もうほとんど力は残っていないだろうことは先ほど彼の様子を確認しながら、理解していた。だが、そんな状態でも彼は見事に自分の役目をなしとげた。

そのことを踏まえた上でチラリと倒れているシェロを視界に入れる。

 

(私も負けてはいられませんね。)

「おい、クソガキ!今度はてめえが余所見してるじゃないのよ!!無視してんじゃねえ!蛇紅羅(ジャグラ)!!」

 

金切り声のように声を上げて自らの眷獣である意思ある武器(インテリジェント・ウェポン)の槍の穂先が枝のように分かれる。

その攻撃を見た雪菜は自らの能力“霊視”により数秒先の未来を見ることでスルスルと躱し、ベアトリスの懐に潜り込む。そして…

 

(ゆらぎ)よ!!」

 

ベアトリスの腹に霊力を込めた掌底を叩き込む。

 

「ごふっ!!」

 

咳き込むようにうめき声を漏らしたベアトリスは軽く吹き飛ばされる。

 

「確かにあなたの眷獣は強力ですが、それだけです。召喚者であるあなた本人の能力はそこまで高くない以上、そこまでの脅威ではありません。」

「ぐっ!くそ!」

 

悪態をつきながら、相棒の獣人の方に目をやる。

 

「ロウ!!いつまでそこのお姫様に構ってるんだい!こっち来て手ェかしな!!」

 

呼びかけられたロウ・キリシマはしかし、呼びかけられても動かない。怪訝に思ったベアトリスだが、すぐそのあとに、振り返ってくるロウの姿を見て安堵したように目を細めた。だが…

 

「はは、なんだ?そりゃ、ちくしょう、すっかり騙されたぜ…」

「ロウ!!」

 

悔しそうに血反吐を吐き、倒れる相棒の姿にベアトリスは驚愕で顔が歪む。そして、君臨するように佇んでいたラ・フォリアを忌々しげに睨みつける。一方、その不満げ言を聞いたラ・フォリアは口を尖らせる。

 

「心外です。騙したような言われた方をされるなど…」

「ロウ!あんたお姫様も倒せないのかよ!」

 

声を荒げるが既に意識のないロウに彼女の言葉など届くはずなどない。そのことに舌打ちしたベアトリスは苛立たしげに雪菜とラ・フォリアの双方を睨みつけ、

 

「仕方ないわね!来なさい!小娘ども!たかだか、小娘二人風情に私は遅れはとらないわよ!ロウと違ってね。」

 

ベアトリスのそんな言葉に対し、ラ・フォリアは嘲笑するような笑みでベアトリスを見つめる。

 

「ほう、大きく出たものですね。ベアトリス・バスラー。ならば、受けてみなさい。」

 

そう言うと、ラ・フォリアは手に持っているナイフのついた呪式銃を天に向けるように構える。

 

「我が身に宿れ。神々の娘。軍勢の守り手。」

 

彼女がそのように呪文を唱えると、彼女の体の周りを淡い光が纏い始める。

 

「な、何?この気配?」

「剣の時代。勝利をもたらし、死を運ぶものよ。」

 

ベアトリスが事態の異様さに思わず声を上げてる間にも、ラ・フォリアの呪文は続いていく。やがて、彼女のまとう光は一つの巨大な光の剣の形になる。

 

「この感じ…アルディギア王国の疑似聖剣!?けど、ここにはヴェルンドシステムもないはず…まさか!自らの体を精霊炉にしているっていうのか!?」

「そう。今は私が精霊炉です。…メイガスクラフト秘書“ベアトリス・バスラー”!!我が国の兵に…民に手を挙げたこと…その身を持って償いなさい!」

 

呪式銃を振り抜く。すると、銃先に展開された巨大な光の剣はベアトリスに向かっていく。ベアトリスは己が眷獣で防御するが、無駄だ。その光剣は吸血鬼の眷獣すら斬り裂きベアトリスに断罪の剣をもたらす。

 

「ちく…しょう!こんな小娘どもに…」

 

ベアトリスはそう呟きながら、相棒のロウ同様に、凍った地面に背を預ける。

 

「ラ・フォリア!!無事ですか!?」

「ええ。今はそんなことより古城の元に行ってあげてください。雪菜。私はシェロの様子を見に行きます。」

「は、はい!」

 

そう言うと、雪菜とラ・フォリアはそれぞれ全く別方向に走っていった。

 

ーーーーーーー

 

「KIIIIIIRYYYYYY!!!」

 

血の涙を流しながら悲鳴にも聞こえる金切り声を上げる。夏音。もはや、感情は一つとしてないだろうに、だが、古城にはそれが悲痛なものにしか見えなかった。

 

「苦しいか?叶瀬?」

 

呟くように問いかける。答えが来ないのなど、初めからわかりきっている。けど、彼は言葉を止めようとしない。

 

「分かってる。お前はあの猫たちの新しい飼い主を捜すときも、一度も前の無責任な飼い主を責めなかった。」

 

ギュッと右拳を握ると前に突き出す。

 

「神様ってのが、もしも、暴虐で無慈悲で残酷だっていうんなら…待ってろ!叶瀬!今直ぐそこから引きずり落としてやる!」

 

手を掲げるように天に翳し、呪文を唱える。

 

焔光の夜伯(カレイド ブラッド)の血脈を継ぎし、暁古城が汝の枷を解き放つ。

 

疾く在れ(きやがれ)!3番目の眷獣 龍蛇の水銀(アルメイサ メルクーリ)!!」

 

呪文が終わると同時に魔力の渦が右腕を中心に展開される。渦が搔き消える。そこには銀色の鱗、牙を伴い、全長30メートルはあるだろう体躯の一対の首を持つ龍が召喚されていた。時折、見え隠れする口の中は、一体どこに繋がっているのか理解できないようなそんな底なしの不安感を煽らせた。

 

「双頭の龍!?そうか。だから、シェロさんは…」

 

だから、雪菜とラ・フォリアの二人の血液が必要だとシェロは言ったのだ。当然だ。二つも頭を持つというのならば、当然、二つの首を満足させなければ、認めてくれなどはしない。

 

「KIIIIIIRYYYYYY!!!」

 

その龍を脅威だと考えたのだろう。天使は急ぎ自分の周りに光剣を展開していき、射出する。だが、その同じ次元に存在しないはずの光剣を龍はまるで、飴細工のように食んで粉々にする。

そして、それだけでは終わらず、眷獣はその牙を天使の翼へと向けて、立て始めた。

そんな攻撃は効かないはずだった。だが、龍の牙は見事にその翼を噛み砕き、そして、どこにつながっているのか分からないその体の内部にそれを送り込んだのだ。

 

「馬鹿な!この世に存在しない天使の翼を喰っただと!?あの眷獣…まさか、“次元喰い(ディメンジョン イーター)”!?異なる次元に存在する天使の翼を次元ごと喰ったのか!?」

 

賢生はその唖然とする光景を目の前にして思わず叫ぶ。

一方の夏音の方はというと、その進化の証である翼を完全に断たれたことで力をわずかに失ったのだろう。スゥと上から垂らされたワイヤーが切れたように落ちていく。

これでこの件は終わったと安堵した直後、夏音の意識がまたも覚醒する。

 

「なっ!?」

 

古城が驚愕の声を出すと同時に夏音の体に変化が起こる。翼が体のすべてが赤く覆われて再生していったかと思うと、今度はその体を覆う翼…らしきものに異様の目の模様が無数に浮かび上がる。

 

「KIIIIIIRYYYYYY!!!」

 

これは一つの事実を表していた。

 

「そうだ!まだ同じ次元に落ちただけ!模造天使(エンジェル フォウ)による霊的進化が失われたわけではない!!」

 

賢生は安堵した調子で歓喜の声を上げる。

 

「くそ、これでもダメなのかよ!」

 

苦悶の声を上げ、眉を寄せる古城の横を一つの影が通り過ぎる。

 

「いいえ、先輩。私たちの勝ちですよ。」

 

その影とは雪菜だった。雪菜はその氷に覆われた砂浜を駆けながら、粛々と祝詞を唱える。

 

「獅子の巫女たる高神の剣巫が願い奉る。破魔の曙光、雪霞の神狼、鋼の神器を用いて我に悪神百鬼を討たせ給え!!」

 

祝詞を唱えた雪菜は槍を夏音の丁度横を通るように投げる。その槍が通過した後、夏音の周りに展開していた奇妙な目玉模様は消え失せる。

 

「そうか。同じ次元にいるっていうんなら…」

「はい!雪霞狼の破魔効果で術式そのものを破ることができます!先輩。」

 

後は古城の仕事だ。赤く展開された天使の力の残滓に向けて、自らの眷獣で照準を向ける。

 

「食い尽くせ!龍蛇の水銀(アルメイサ メルクーリ)!!」

 

古城の命令に従い、双頭の龍はその牙を異様な力の方へと向け、命令通りに跡形もなく食い尽くす。

すると、当然、夏音は力を失い、今度こそ、空中から落ちていく。

その落ちていく姿を見て、古城はなんとかキャッチしようとすると、またもや、今度は先ほどの雪菜以上のスピードで何かが通り過ぎていき、夏音をキャッチした。それは…

 

「シェロ…って、あいつ大丈夫なのか!?」

 

さっきまで、文字通りの死に体だった男が駆けてきたのに対し、驚き目を剥くが、その問いに対して後ろから答えが返ってくる。

 

「ええ。古城が天使の力の残滓をかき消した直後、彼と夏音のリンクが修復しているようで、彼の身体の状態が良くなったのです。もっとも、そんなに急に良くなるはずがないので、まだ安静にしておくべきなんですが…」

「叶瀬のために居ても立っても居られなくなったってわけか…」

 

仕方がないな、といった調子で苦笑する古城を見て、ラ・フォリアの方も微笑を浮かべる。

苦笑し終わった古城はある男がいる方向に真剣な眼差しを浮かべて、近寄る。

 

「終わったな。おっさん。」

「ああ、そのようだな…」

 

賢生は項垂れてはいるもののその姿にはどこか安心感も浮かんでいるような気が古城にはした。それを確認しだからだろうか?古城は握っていた握り拳をパッと解き、背を向ける。

 

「殴らないのか?」

 

つい意外だと思い、きき返す賢生。その言葉に古城はこう返した。

 

「殴るか、殴らないかはオレが決めることじゃない。」

 

そう言って、去っていく一人の少年の背中を見ながら、賢生はわずかに溜息を吐く。そして、まるで何かを尊く思うような表情をすると

 

「夏音…」

 

ただ、それだけ呟いた。

 

ーーーーーーー

 

「…ん?」

「気がついたか?夏音?」

 

気を取り戻した自分の妹分にシェロは声をかける。

 

「シェロ…さん?私は一体…」

「悪い夢からは覚めましたか?夏音?」

 

続けて、ラ・フォリアが質問する。

 

「悪い?…そう…でした…お父様が私を救うと言って…それで私は多くの人を…」

「ああ、そうだな。確かにそれは人の行いとして許されざることだが…大丈夫だ。心配するな。夏音。」

 

わずかに夏音の身体を抱く腕の力を強め、片方の手でワシャワシャと頭を撫でる。

 

「そうです。あなたは一人ではありません。夏音。」

「あの…そういえば、あなたは?」

「…ああ、そうでしたね。まだ、自己紹介もしていませんでしたね。私はそうですね。」

 

1拍間を置き、そして柔らかな笑みを浮かべたラ・フォリアは静かに宣言する。

 

「家族です。」




いつも感想本っ当に有難うございます。
面接の野郎とか研究の野郎とかがなかったら、普通に返すことができるんですが、何ですかね?
本当に時間削っていくんですよ。あの二つ。俺に何の恨みがあるの?
というわけで、何もできない上に何も返せないという大変不届き極まりない状態ですが、いつも皆様の感想には感謝しています。そのおかげで実際、書こうかなという思いが湧くところあるので…
ではすみません。今後も返せなくなってしまう確率大、というかほぼ確実なのですが、今後ともに感想を送ってくれると非常にありがたいです。
挿絵も描いてみたいなー思ってるのに全く描けない…

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