ストライク・ザ・ブラッド 錬鉄の英雄譚   作:ヘルム

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天使炎上 VII

砂浜に着いた古城たちが見たものは棺のような大きさの箱型の何かと革ジャンとチノパンを履いた筋肉質でありながら細身の男『ロウ・キリシマ』、ライダースーツに身を包み、胸元を大きくはだけさせている『ベアトリス=バスラー』、そして、シェロにとって非常に見覚えがあるくたびれた白衣と眼鏡を身に付けた男『叶瀬賢生』がそこにはいた。

 

「…久しいですね。叶瀬賢生」

「殿下に置かれましてはご機嫌麗しく。7年ぶりでございましょうか。お美しく成長なされた。」

「私の血族を己が儀式の供物としたというのによくもぬけぬけとそのような言葉が吐けますね。」

 

ラ・フォリアはどこまでも冷たい視線で賢生を射抜くが、賢正はそれに対しまるで意に介していないように表情を別の場所へと移す。

 

「こんにちは。賢生さん。」

「ああ、こんにちは。シェロくん。報告を聞いた時、まさかと思ったが本当に君だったとは…」

「こちらとしても、驚きだ。俺はそれなりに人を見る目があったつもりなんだが…まさか、こんなことをしでかすとはな。一応、聞いておこう。

 

貴方は本当にこんなこと(・・・・・)が夏音のためになると思っているのか?」

 

確実性がないと言ってはいたが、シェロはこの可能性しかないと踏んで思い切って聞いてみる。

 

「…その通りだ。シェロくん。私はこれこそが娘の幸せだと思って行動をしている。」

 

とぼけたところで意味がないと分かっている賢生は正直に答える。

それが(・・・)引き金となる。

 

「てめえ…!?」

 

怒号を飛ばそうとする古城の口をそれ以上の怒りの気迫が押し留める。

 

「まさか…とは思ったがな。全く、人間というのはなんであんなもの(・・・・・)を幸せだと思うのか理解に苦しむな。

 

ああ、いや、人のことを言えたものでもないか。俺も生前(むかし)その手の誘いに乗ってあんな場所に行ってしまった本人な訳だしな…」

 

怒気を発した数瞬で周りを黙らせ、そして、その後、何か哀れむように賢正を見て、

 

「哀れだな。俺はあの輪廻からなんとか抜け出せた一人だけに、そのことがよく分かるものだ。だから、断言してやろう。

 

天使だろうが、なんだろうが行き着く場所は似通っている。あんな物に幸せなどない!」

「「「「っ!?」」」」

 

向き合っている賢正は愚か、側にいる古城たちですらその気迫に呑まれ、絶句した。齢は自分たちと同じくらいのはずだというのに、この気迫は人間でありながら、人間ではない別の何かを感じざるを得ない。

 

(なんという気迫。もし、世に英雄という存在がいるとしたら、このようなものなのでしょうか?)

 

この時、この瞬間でラ・フォリアは最もその答えに近づいたと言っていい。

だが、そんな気迫も、そもそもそんな言葉をどうでもいいと思っている輩にはそれほど効かないのは当然だ。

 

「話は終わったかしら?んじゃ、もう、こっちとしては説明とかそういうのどうでもいいのよ。賢生!」

「…ああ。」

 

そう応答すると、賢生は棺型の箱の方へと向かう。途中、ベアトリスの首元やロウの手元に遠目でも分かるほどの冷や汗を流していたのに気づいたが、無視して箱にあるシステムを解除し、封印を解く。

ドライアイスのように箱は白い息を吐き出し、その白いガスとともに一対の大きな翼を持つ少女が現れる。

 

「…夏音…」

 

憂い顔でシェロが見つめる先にいる夏音の格好は、ぴっちりと肌についた患者服をさらに簡素にしたようなボディスーツに所々光を帯びた回路が張り巡らされているかのような格好だった。その近代的な格好は神秘とは程遠い格好のはずなのに、体から発せられる神気は正に本物。

 

「第四真祖とそこの獅子王機関の剣巫!実はうちの会社結構、ヤバくてね。あたしらの目的はまあ、なに?こいつらを兵器みたいに売りさばくことなのよ。悪いけど、宣伝のためにもこいつと戦ってくれないかしら?『ウチの天使もどきが世界最強の吸血鬼・第四真祖に勝ちました』っていうブランドをつけるためにさ。」

「なっ!?ふざけんな!誰がそんなこと!?」

「別に戦いたくなければそれでもいいわよ。ただ、あっちのはもうやる気満々みたいだけどね。」

 

ベアトリスが見つめる先で夏音が目を開け始める。戦闘を始めようとしているのだ。

 

「ちくしょうが!!」

「先輩、やるしかありません!その過程でどうにかして叶瀬さんを取り巻いている術式を破壊しなければ!」

 

古城と雪菜が揃って戦闘態勢を取るように腰を低くする。

一方、ラ・フォリアとシェロの方は何か言いたげに賢生の方を見つめる。

 

「あなたは…それでいいのですか?賢生?」

「……」

 

その言葉に賢生は答えない。ただ、粛々と自分の役割を果たすためにと言わんばかりに隣にいる自分の娘に命令を告げる。

 

「XDA・7やれ!最後の儀式だ。」

 

ーーーーーーー

 

最初に動き出したのは雪菜だった。雪菜の持つ雪霞狼ならば、叶瀬を覆う術式を諸共粉砕できると予想した故の行動だった。槍の穂先を叶瀬の胸に突き立てるように突進する。槍が衝突し、術式を破壊しようとしている…かに見えた。

 

「え!?」

 

なんと、その槍の穂先は何か見えない障壁により阻まれるようにして止められた。いや、これは障壁などという生ぬるいものではない。まるで、次元を超えたような…

 

「無駄だ。獅子王機関の剣巫。夏音はすでに人とは別次元の進化を遂げようとしている。人の手で作り出した神格振動波が、本物の神性に敵うものか。」

「そんな…!?」

 

信じられないものを見た顔をした雪菜は諦めずにその穂先を彼女に向かって突きたてようとする。だが、

 

「おっと、そいつが効かないって、証明できたんなら、あんたは用済みよ。おとなしく私の相手してもらいましょうか!」

「っ!?」

 

横から割り込んできたベアトリスが雪菜の突進を邪魔する。

それを見かねたラ・フォリアとシェロが前に出ようとする。だがここにも…

 

「そう釣れなくすんなよ。こっちには俺もいるんだぜ?」

 

獣人種であるロウ・キリシマが前に立ちふさがる。

 

「…ラ・フォリア。こいつは君に任せていいかな?あちらが気になる。」

 

王女相手にすまないという念が絶えないが、仕方がない。あの分だと古城の攻撃も効かないということも十分にあり得る。その言葉に対して、一瞬驚きを示すような態度を示したラ・フォリアだが、すぐにフッと口元を綻ばせ、

 

「ええ、どうぞ。お先に。こちらは私に任せていただいて構いません。」

「では…」

「おいおい!てめえら、俺を舐めすぎちゃいねえか!」

 

若干の怒りを交えながら、シェロに向けて拳を思い切り振る。ロウの拳は拳圧だけで砂浜を舞い上げるほどに鋭いもので、並のものが受ければまず命は助からないだろう。だが…

 

「遅い。」

「なっ!?」

 

いつの間にかロウの後ろに移動したシェロはそれだけ言い残して古城の元へと走っていく。

 

「ヤロウ!待ちやがれ!」

 

ロウも慌てた調子でシェロの跡を追おうとする。当然だ。獣人種とは身体能力においてトップに位置するほどの性能を有する種族である。その獣人種がよりにもよって、単純な身体能力そのもので人間に負けたのである。

ロウの反応は当然と言えるだろう。

 

「っ!おっと!」

 

そんな彼の突撃を1発の鉛玉が阻止する。

 

「あなたの相手は私ですよ。ロウ・キリシマ」

「はっ。お姫様が!やんちゃが過ぎると怪我するぜ!」

 

ーーーーーーー

 

疾く在れ(きやがれ)双角の深緋(アルナスル ミニウム)!」

 

古城の怒号とともに緋色の二角馬(ヴァイコーン)が夏音の方へと突進する。

 

「無駄だと言ったはずだ。第四真祖。夏音は霊的進化すると共に別次元へと移行する準備を始めている。一体、誰がこの世に存在しないものに攻撃を当てることができるというのだ?」

『KIIIIIRYYYYYYYYYY!!!』

 

夏音は賢生のそんな残酷ととも取れる忠告が終えられた瞬間、人間では不可能な声量の叫び声を出し、古城の眷獣による攻撃を雲散霧消させる。そして、翼の周りに剣とも槍とも取れる姿をした光の塊が複数展開される。

その光の剣群を一斉に

 

放つ!!

 

 

「っ!?叶瀬えぇえぇえ!!!」

 

絶叫とも取れる古城の叫びはしかし夏音の心を捉えるには至らず、真っ直ぐに真っ直ぐに古城の胸元へと向かっていく。

 

「せー!?」

 

雪菜がその光景に絶句し、ベアトリスの攻撃を防御しながらも思わず声を上げようとした。だが、その声を出されることはなかった。

なぜなら、光の剣は古城の胸に突き立つことなく、パキーンとまるでガラスが割れたかのような音ともに、砕け散ったからである。

 

「なにっ?」

 

賢生はわずかに顔を曇らせ、その光景を見る。そこには彼もよく知る男が一つの金色の剣を握りながら、顔を伏せて立ち尽くし、古城を守るようにして立っていた。

そう。シェロ=アーチャーが…

 

ーーーーーーー

 

「…見てられんな。古城、一旦退いていろ。夏音の相手は俺がしよう。」

 

シェロはわずかに顔を古城の方に向けて、言い放つ。

 

「はぁっ!?ちょっ、何なんだよ!?シェロ!さっきから戦えつったり、戦うなって言ったり…」

「物事には流れというものがある。それぐらい分かれ!戯け!では聞くがな?お前はあの天使を現状打破する手段でも持っているのか?」

「そ、それは…」

 

古城が言葉を言い淀ませるのを確認したシェロは、そこに畳み掛けるように言葉の波を放つ。

 

「だったら、そこで見ていろ。残念ながら、本調子とは行かないが、少しばかり俺の戦いを見せてやる。」

 

そう言うと、今度こそシェロは夏音の方へと顔を向ける。

夏音はシェロの行為を敵対行為と見なしたのだろうが、別に攻撃を無効化したところについてはおかしく思っていないのだろう。当然だ。元より、あれはそういう性質(・・・・・・)でしか動けない。

そのことをシロウ(・・・)はよく知っている。だというのにその癖、記憶だけはありありと残るというのだから、タチが悪いことこの上ない。

 

「さて、すまないな。夏音。待たせてしまって…先に言っておくと、少しばかり手荒になるだろう。だから、

 

ちょっと我慢してくれ。」

 

言った瞬間、シロウが虚空へと消える。それだけで砂浜は何か巨大な物が落ちたかのように抉れる。

 

「消え…!!」

 

古城が絶句している間に、上空でガキーンと衝突音が響き渡る。

見上げると、夏音の翼とシェロの持つ剣が拮抗し、互いを弾き合おうとしている。その光景に全てのものが絶句し、動きを止め、見入っていた。

 

「まさか…当てているというのか?天使に攻撃を?」

 

賢生が呟くと同時に、夏音はわずかに苦悶の表情を浮かべながら羽を広げるようにしてシェロの剣を押し返す。それを甘んじて受けたシェロは宙返りをしながら、砂浜に足をつける。

 

『KIIIIIRYYYYYYYYYYY!!!』

 

それは怒りなのか、それとも嘆きなのかどちらとも取れる夏音の表情の変わりようと共にまたも、周りに光の剣が展開される。

 

「なるほど、天使の裁きの剣と言ったところか?この方角は危ないな。周りの者にも被害が出かねん。」

 

後ろにいる雪菜とラ・フォリアの方を見つめる。相変わらず、マジマジとシェロの方を見つめているが、今はそんなことを考えている場合でない。

 

「ならば…」

 

剣を持たない左手を宙に掲げる。

 

投影 開始(トレース オン)!!」

 

すると、シェロを中心に似たような輝きを帯びて、いや違うあれは全くの同一の輝きだ。その輝きは次第に増し、夏音が用意した裁きの剣と同数程度になる。

 

「憑依経験、共感完了!」

 

呪文を告げる。自分の中にはない新しい剣の閃きを見たシェロはその内容も理解し、本物の神気であることを理解する。

 

工程 完了(ロール アウト)全投影待機(バレット クリア)!」

 

だが、関係ない。神気を帯びていようが、いまいが、彼にとってこの剣は容易に真似できる程度のものでしかない。

感情が今現在存在しない夏音ですらその光景に絶句する。だが、動きは止めず、剣をシェロに向ける。

 

停止解凍(フリーズアウト)全投影連続層写(ソードバレルフルオープン)!!」

 

呪文を終えた瞬間、シェロの剣も夏音が狙うであろう先を読んで飛ばしていく。両者のちょうど中央で剣と剣とぶつかる。

 

瞬間、まるで星々の衝突のように金色の粉末を撒き散らしながら光剣は相殺し合っていく。

 

「す、すげえ。」

 

漏れ出す古城の感嘆の声。そんなことをしている間にシェロは次の行動に移る。光の粉末を目眩しにされたおかげで一瞬、夏音の反応が遅れる。

歴戦の戦士であるシェロはその一瞬を見逃さない。特に、現在のようにチカラを全く出せないと言っても過言ではない状態ではその一瞬こそが命取りとなる。

彼が次に現れた場所。それは、夏音の翼の上だった。

 

『KII!?』

 

驚愕の声と共に振り向く夏音。それに対し、シェロは影が差した瞳を翼へと射抜かせ、手に持っている剣を翼に向けて振り下ろす。

すると、まるで紙細工のように翼は斬れる。

 

「「「「「なっ!?」」」」」

 

シェロ以外の5人は今日何度目か分からない絶句を覗かせる。一方、夏音は…いや天使はそれどころではない。自分の霊格の象徴たる翼が容易く斬られたのだ。

 

『KIIRYYYYYYYY!?』

たまらず、翼の上にいるシェロを投げ飛ばそうとする。シェロはそれに対し、させるかと思い、もう一方の翼も叩き切ろうとする。

 

「がっ!?」

 

だが、急な魔力不足がシェロにその行為を許さず、何事もなせず投げ飛ばされ、砂浜には軽いクレーターが出来上がる。

 

「シェロ!!!」

「ぐ!ごほっ、ごほっ!?ああ、大丈夫だ。くそ!今ので終わらせるつもりだったんだが、翼の方に魔力回して再生を優先してくれた所為で魔力不足だ。元から魔力不足だった所為もあるからかロクな剣が作れん。全く…踏んだり蹴ったりだな。一応、対神宝具なんだがな。」

 

彼は手元の黄金の神殺しの原典をである剣を見つめる。すると、剣はまるで夢幻のように消えていく。魔力不足が予想以上のペースで進んできている証拠だ。

 

「だが…あと、ちょっとだ。あともう少しで…!?まずい!これは…!?」

 

事態の急変を察知したシェロは古城たちの方へと振り向く。

 

「古城、姫柊、ラ・フォリア!近寄れ!!デカイのが来るぞ!」

「「えっ!?」」

「っ!?アレは!?」

 

やはり、親族だからというべきなのかラ・フォリアは夏音の異変にすぐ気付き、こちらへと駆け寄って来る。

見ると、夏音は蹲るような体勢をして、頭を抱え、苦しそうに悶絶している。そして

 

『KIIIIIRYYYYYYYYYYY!!!』

 

辺りを包む絶叫と共に周りが吹雪に覆われる。その豪雪は夏音を中心に氷柱を作り上げていき、声と共に島全体も覆っていく。

 

「ぬぐ、おおおお!」

「きゃああああ!」

「くぅっ!?」

 

吹き飛ばされそうなほどの吹雪の中古城たちはその場を立ち尽くすことしかできなかった。一瞬、古城は眷獣を使おうとも考えたが、止めた。今の不安定な状態の夏音にダメージを与えてしまうかどうかもわからないし、何より、この目が使えない吹雪のなかで周りの仲間を巻き込まないとも限らない。

あのメイガスクラフトの連中は早々に海に消えていき、残りは自分たちという状況。絶望的としか言いようがないが、ここをなんとかしなければ…しかし、どうすべきか分からない。とそんなことを考えている時、ふと体が軽くなった。

まるで、宙に浮いているような浮遊感を感じて、悪い視界ながらうっすらと目を開けてみる。すると、自分の横にラ・フォリアと雪菜の体を抱えながら懸命に天使との距離を離そうとしているシェロの姿が写った。

 

「シ、シェロ!?」

「黙ってろ!舌噛むぞ!」

 

人3人を抱えながらとはとても思えないスピードで辺りを散策するシェロ。だが、避難地となりそうな場所はどこにもなかった。

 

「くそ!魔力があるなら、なんとかなるんだが…はぁはぁ…」

 

見ると大分辛そうだ。それは自分たちを抱えてのものではないのだろうが、なぜだか罪悪感が湧く。だが、そこでようやく抱えられた雪菜が声を上げる。

 

「離してください!シェロさん!」

「はあ?何を言ってるんだ君は!?」

 

この状況でそんな言葉が出てくると思っていなかったシェロは呆れと怒りを交えた声を叫ぶように出した。だが、そんな声にも怯まず、吹雪の轟音に負けない大声で、雪菜は言葉を続けていく。

 

「私の雪霞狼なら、この吹雪を防ぐ障壁を作ることができるかもしれません!ですから、離してください!」

「…何?」




なんか最近、妙に時間に追われる毎日が続く今日この頃…

ちきしょううううううう!!

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