それと、今回でエミヤさんに重大な異変が起こるわけなんですけど、これについては後々、ちゃんとした理由を語ろうと思っていますので、どうかお待ちのほどをよろしくお願いいたします。
ここで、クソテンプレだと思った方は、まあ、仕方がありません。
だって、正直ありガチじゃないと言えば嘘ですもの…
「くっ!?」
目覚めるとエミヤシロウはどこか知らない草原の上に横になっていた。手足を動かし、自らの状態を確認した後、重く感じる体をなんとか起こし、立ち上がる。
不自然な形での召喚には慣れているものの、今回は少々特異が過ぎる。何せ、座からではなく
(まったく…一体どのような馬鹿者だ。俺をこのような召喚方法で召喚してくるとは…)
癪ではあるが、己がマスターを捜すために辺りを見回す。だが、その見回す顔はある一点で凍りついたように硬直した。
「ちっ!?」
走る、というよりも飛び駆ける。7mまで一歩で短縮できる英霊の超人的な身体能力をフルに使いシロウは目的の地へと一分一秒でも早くに着くようにとひたすら駆けていった。
近づけば近づくほどありありと聞こえてくる悲鳴の数々、それらに舌打ちしながらも段々と近づいていき、そしてようやく到着した時にはほとんど全てが終わっていた。
「間に合わなかったか…」
否、最初から間に合うはずなどなかった。自分がここに来た時にはすでにこの教会は燃え、命の絶える声が、音がしていたのだから…
焼け焦げ、命がなくなっていく様はまるでかつて自分が経験したことがある
すると、ゴボ、という何かの液体が変化したような音が響いた。
すぐにそちらに視線を向けると、そこでは赤と白のチェック柄のスーツとネクタイという派手な格好をした男が目の前の白銀の髪をした乙女の命を食い潰さんと右腕を水銀で変形させた異様な刃物で襲いかかろうとしていた。
男は右腕を振りかぶり、その乙女の足へと刃を突き込もうとした……だが、瞬間、疾風と化したシロウがその乙女を抱き上げ、連れ去っていく。先ほど少女を傷つけようとした男を通り過ぎて10mほど離れたところで着地した。
男はその光景に絶句しながらも、すぐに思考を切り替え、自らの殺しを邪魔した何者かの背中へと憎々しげな瞳をぶつける。
「なんだい?君は?」
男が尋ねる。この娘を殺す、または動けなくするようにすることが男にとってはよほど大事なことだったらしい。明らかに不機嫌な調子でその男は、浅黒い肌と白い髪をしたシロウを睨みつける。
「なに、名乗るほどのものではないよ。俺としても、今一体何が起こっているのか分からないくらいなのでね」
「そうか、じゃあとっととその娘を置いてどこかに行ってくれないかな?僕はその娘を
「なるほど、生贄のためにこの少女を殺そうというわけか。いかにも、魔術師らしいな。」
銀髪の少女を地面にそっと寝かせるようにして置いた後、ゆっくりとシロウは男へと視線を向ける。その嫌悪感が混じった鋭い鷹のような双眸は、並みのものならば、その目に晒されただけで死を覚悟し、滝のように汗を流すだろう。
「っ!?」
だが、男はそれに対しわずかに汗を垂らす程度で動揺を隠すことができ、幾分か落ち着いた後に言葉を紡ぐ。
「子供のくせになんて目だ……だけど、僕もなりふり構っていられないんでね。子供だろうが容赦なく行かせてもらう。」
改めて右腕を刃物に変形させた男は、一歩踏み込もうとする。それに対し、シロウは一歩後退りをし、背後にいる少女を守らんがために中腰になって迎え撃とうとする。互いの間にわずかな火花が鳴るような音がした。それは幻聴だったのか、それとも自分たちの周りの焔達が鳴らしたものだったのかそれは定かではない。ただ、どちらともなく、その音を皮切りに動き出そうとした。
だが、その瞬間、どこからか警戒を呼びかけるためのサイレン音が鳴り響く。
「ちっ!」
音が鳴り響いているのを聞いた男は素早く、右手の水銀を元の手の形へと変える。その様子から察するにこの国の警備隊か何かが事態を察知して来たのだろうということはシロウにも予想できた。
「あとちょっとだったっていうのに……だが、まあいい。十分に生贄に捧げることができた。今度また、こちらに来れるようになった時にまた続ければいいだけのことだしね。じゃあね。」
男がそう言うと同時に一際大きな爆発が周りの空気を喰らい、その光で覆い尽くし、シロウの視界を容赦無く塞いだ。
「くっ!」
光が収まり、再び赤い焔と血の匂いが周囲を覆う地獄絵図へと場面が戻る。
「逃げたか。さて、どうするか……」
敵はそこまでの運動能力を持った敵ではない。今ならまだ自分の能力を使い、追うことも可能だ。追おうかとも思ったが、
「いや、やめておこう。」
背後にいる少女のことも気になる。このまま警備隊が来るのを待った方がいいだろうとシロウは考え、その場に留まることとした。
(しかし…子供だと?)
エミヤシロウは先ほどの男のセリフを思い返しながらその言葉に違和感を覚え、頭の中で反芻する。そして自分の姿を確認するために手頃な鏡を投影し、自分の今の姿を見る。そして、そこに映った姿にシロウは絶句する。
肌の色は変わらずに褐色ではあるし、その他諸々の色も別に変わりはなかった。だが、それら全てのパーツを構成する要素が幼すぎる。顔のラインはシュッと締まった表情をしていたものが子供の頃のような丸い童顔へと、首回りも筋肉が抜け落ち一回り小さくなっていることが伺えた。
そう。それらの情報は一つのある事実を物語っていた。そこには、褐色の肌と白い髪をした衛宮少年が立っていたのだという事実を……
「…なんでさ?」
そんな予想外の事態にシロウは堪らず昔と同じような口癖を言ってしまったのであった。