ストライク・ザ・ブラッド 錬鉄の英雄譚   作:ヘルム

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聖者の右腕 VII

獅子の黄金(レグルス アウルム)…ようやく、お目覚めか…」

 

そう呟くのは、マンションの天蓋にて一人佇む暁凪沙だった。だが、その纏う空気は普段の彼女からは考えられないほど独特の威風を醸し出し、その瞳はまるで深い湖を凍らせたかのように、静かでありながらどこまでも深い眼だった。

その姿と先ほどの彼女の言葉遣いから、彼女は暁凪沙とは別の何かであることを物語っていた。

 

「あの坊やも少しはやる気を出したということか…」

 

フッと、誰かに語りかけるように呟いたあと、凪沙の体は糸が切れたマリオネットのように、バタと倒れる。

少しして、目をパチリと覚ました凪沙。

 

「ん…古城くん?」

 

その時には、すでに彼女はいつもの彼女だった(・・・・・・・・・)

 

ーーーーーーー

 

ここは彩海学園のとある一室。そこにはカラスにしては人工的な動きが目立つモノと、茶色の髪を後ろに流したひょうきんとした男が立っていた。

 

「かくして、血の伴侶を得た暁古城は、また一歩完全なる第四真祖に近づいた、と…これも全部あんたらの狙いかい?」

 

男・矢瀬基樹は、カラスに呟く。

 

「この国に真祖が生まれるなど、有史以来なかったことだからな。公社も慎重を期しているのさ。」

「やれやれ、まさか、あの監視役ちゃん自分を第四真祖の愛人にさせるために、この絃神島に送り込んだなんて夢にも思わないだろうに…まったく、可哀想に…」

「そう卑下することでもないさ。皇帝の妻ということは、つまり王妃になるということでもあるわけだしな。だが…その経過報告とは違い、もう一つ少々厄介なことが起こっていそうな事案が発見されてね。」

「あん?」

 

基樹は首を傾げる。元々、経過報告だけをするように頼んできたのはそっちなのに、まだ、何か厄介の種が出来ているという報告を今度はこのカラス側から聞くことになったからである。

 

「キーストーンゲートの最下層の途中でのことなんだが…そこで小規模ながら、激しい戦闘が行われたような痕があったのだ。それだけならば、良かったんだが…その小競り合い…そこの力の痕も解析してみると、強大な霊格同士がぶつかり合ったために出来上がったものだと、今し方、判明した」

「何?」

「…しかも、その霊格を測定すると、最低でも…真祖と同等かそれ以上の確率があるとのことだ。」

「何だと!?」

 

最初は静かに疑問を口にした矢瀬だが、真祖と同等かそれ以上という言葉を受けては、平静を保っていられなかった。当然だろう。

真祖とは、その一人で一国の軍隊と同等かそれ以上とされている存在である。その真祖とタメを張る程の霊格となれば、もはや、それは一つの奇跡(・・)に近い。

 

「いや、待てよ。今、小競り合いと言ったよな…ってことは!?」

「そうだ。少なくとも、真祖と同等以上の存在がこの絃神島に二人はいるということだ。」

 

ゴクリと生唾を呑む基樹。相手方は冷静に言っているが、これは一大事である。しかも、おそらく国家を挟むくらいは余裕でしてしまえるほどの…

 

「私の言いたいことは分かるな。矢瀬基樹。今後、更に第四真祖に対する警戒を強め、彼の一挙手一投足に注意せよ!」

「…了解。」

 

基樹がそう肯定したあと、カラスは静かに紙となって散っていく。

 

「やれやれ…苦労してるな。親友。」

 

嘆息しながら、夜空を見上げこれからのプランを着々と考えていくのだった。

 

ーーーーーーー

 

暁古城は現在、落ち着かない様子でオロオロと辺りを見渡し、歩き回っていた。そんな様子を周りの人間たちは怪訝そうに見つめていたのだが…古城は気づく様子がない。

 

「先輩!」

 

声をかけられた瞬間、ビクッと肩を震わせて、恐る恐る後ろを見つめるとそこには待ち人である姫柊雪菜がいた。

 

「姫柊!!どうだった!?」

 

思わずと言った調子で乗り出しながら、古城は尋ねる。

そんな様子に雪菜はわずかに引きながらも、言うべき言葉を続ける。

 

「陰性でした。」

 

その言葉を聞いた瞬間、古城は心底安心したと言った感じで、ホゥ、と安堵の溜息をこぼす。

 

「良かった。痛い思いさせちまったし…」

 

ふと、周りを見回した古城は、小声でそっと語りかけるように、ボソッと呟く。

 

「お前を俺の血の従者にしちまったんじゃないかと気が気じゃなくてさ。」

「血が出たのも微量でしたし、それにあの時は比較的安全だって分かっていましたから。」

 

そこからいつも通りの空気に戻るのかと思っていたが、違った。雪菜の背後にある苗木に見覚えのある…どころか、よく知るポニーテールの少女が立っていた。

 

「へー…古城くんが痛い思いをさせて、血が出て、陰性だったんだ〜…」

 

その顔は笑顔でありながら、口の端はヒクヒクと引き攣っている。怒りが頂点に達した時、彼女が見せる癖のようなもので、つまり、今、彼女は今までにないくらいの怒りを覚えているわけである。

 

「待て!凪沙!お前は今は重大な勘違いをしてる!絶対に!」

 

そんな抗議の言葉に対して、雪菜もブンブンと頭を上下に振る。

 

「何が勘違いだっていうのかな?古城くんが雪菜ちゃんにはじめて奪って、血を流させたっていうところのどこが?」

「だから、その思考に移行していることがすでに、勘違いなんだが…」

 

古城は思わず空を見上げたくなったが、ふと思いついたように凪沙に質問する。

 

「そうだ。浅葱は?一緒じゃねえのか!?」

 

凪沙は自分の妹ということも相まって、親友である浅葱と仲が良い。だから、一緒にいるのかと思い、いないなら、捜させてこの難局を打破しようとまで考えていたのだが…

 

「浅葱ちゃんなら、ほら、そこに…」

「え?」

 

ギギギと、まるで機械仕掛けの人形がさびつきながらも必死に動こうとしていることを連想させるような首の動きで後ろを振り返ると、そこにはクランベリージュースを片手にフルフルと肩を震わせている藍葉浅葱がいた。

 

「…あんた…最低。」

 

浅葱はそう言うと、クランベリージュースを思い切り古城に向かってぶちまけた。

のわっ、と古城が悲鳴を上げている隙に、スタスタと、前を通り過ぎ雪菜の目の前に出て行く。

 

「あなたが姫柊さんね?いい機会だから、聞いておきたいんだけど、このバカとどういう関係なの?」

「先輩の監視役です!」

「ストーカー…っていうこと?」

 

そんな浅葱の言葉に対して、慌てた調子で雪菜は訂正する。

 

「違います!ただ、先輩が悪いことをしないように見張ってるだけで…」

「…いったい何をやってるんだ?君たちは?」

 

新しい声がした方向を向くと、そこにはシェロがいた。その姿を見た瞬間、古城は救世主(メシア)を見るような輝かせた眼を向けてきた。

 

「頼む。シェロ。こいつらの誤解解いてくれ!」

「誤解?」

「何が誤解だっていうの!雪菜ちゃんのはじめてを奪って、血を流させて痛い思いをさせたっていう言葉のどこ…モガモゴ!!」

「大声で言うな!それに根本が違うって言ってんだろうが!それは!」

 

凪沙の言葉に対して、過敏に反応した周りの生徒たちはチッと舌打ちを打ちながら、古城に殺気を放っていた。

一方、シェロの方も誤解しそうになるが、古城と雪菜以外でこのメンバーで唯一古城の正体を看破しているシェロはすぐに事情を察した。のだが…

 

(さて…どうしたものか?)

 

理解はできたにしても、彼女らに説明するとなると、正直な話どうしたものかと考えたくなるものである。

吸血鬼ということを隠したまま、彼らに説明するとなると、かなりな難関となる。

そして、結果…

 

「まあ…程々にな…」

「え、あ、ちょっ、おい!!シェロ!?」

 

放置することにした。正直可哀想じゃないと言えば嘘になるが、仕方がない。口舌戦も得意としている衛宮士郎であるが、さすがにこれはお手上げだと考えてしまった。まあ…それ以上にうろたえる彼らの姿を見たくなったという嗜虐心に満ちた理由も、あったわけだが…

 

シェロの予想通り、シェロが離れた瞬間、抗議の声は白熱し、古城はうなだれ、雪菜は顔を赤らめ、浅葱と凪沙は大声を上げて怒鳴っていた。

 

シェロの方は近くに見た顔がいたのでそちらの方へと近づく。

 

「これが、第四真祖・暁古城のさらなる苦難の始まりだった。ってか?」

「第四真祖がなんだって?矢瀬。」

「いや、こっちの話だ。よ!シェロ!今日は聖女ちゃんと一緒じゃねえのか?」

「…別にいつも一緒というわけではない。何だ?そういう噂でも立っているのか?」

 

『聖女』というのは自分のマスターである叶瀬夏音のことである。人間離れした美貌を持ち合わせた彼女は焼け焦げた修道院によく通うこともあってか、そのように字名されている。

 

「そりゃ、もう…例えば、ウチのクラスの奴なんて、もっぱら、お前が聖女ちゃんの保護者だから、外濠を埋めるためにお前と仲良くした方がいいとか噂立ってるしな。」

「最近、やたらと声を掛けられると思ったら、そういうことか。まったく…」

「それだけじゃねーぞ。あとな…」

 

馬鹿らしくも、微笑ましい日常的な会話を続けていく矢瀬を見て、シェロは自然と顔が綻び、ただ、相槌を打つ中で懐かしみを帯びた幸せを噛み締めていた。

 

ーーーーーーー

 

そこは常夏の絃神島とは対照的に、ほとんどの場合雪が降っていることが多い。夏らしい夏はなく、日が差すのだって、ほんの数巡程度と言えるほどしかない。

もちろん、最初からこうだったというわけではない。

 

一面が雪に覆われている森の中に、一際威光を放ついで立ちを伴った城がある。

昔、ここの城主が外の世界に絶望し、外から隔絶したいという願いを込めて、ここ一帯には一面結界が貼ってある。その影響でここは一面閉じられた世界になっており、天候が一年を通して、一定になってしまっているのである。

一族の者たちは、これに対して特製の呪解具を身につけることで外の世界を行き来している。だが、特に、用がなければ外に出たりはしない。

 

なぜなら、彼らはその城主の子孫たちなのだから…

 

そんな城の一室に紅茶を口に含みながら、外の変わらぬ銀世界を安楽椅子に座りながら、眺め続ける一人の女性がいた。

 

「やっと、召喚されたの?まったく、これでようやく三人目ね。私たちより先にマスターになったのが誰なのか、未だに分からないのが癪だけど…」

 

幻想的な輝きを見せる白を基調にした銀髪をたなびかせながら、その女性は呟く。その美貌は百人が百人美人だと言える顔をしていながらも、どこか人工的な雰囲気を漂わせたなんとも不思議な感覚を抱かせる容姿をしていた。

豪奢なドレスというほどではないにせよ、動きやすくもあるがところどころに清潔感を漂わせるその服装は彼女の上品さを物語っていた。

 

「ええ。分かってるわ。セイバー。誰であろうと潰すだけ…私たちの目的を阻むものは…ぜーんぶね。」

 

クスリ、と見るものが見ればゾッとするような笑みを浮かべながら女は巌のような大男に告げる。

それから、わずかに目を細め、不満そうに口を歪めると。

 

「でも、不満があるとしたら、あなたをアーチャーのクラスで召喚できなかったことかしら。まさか、まったくの盲点だったわ。5年前、聖杯の願いで、無限に召喚できる(・・・・・・・・)ようにしたはずなのに、その唯一の欠点がまったく同時に(・・・・・・・)同じクラスの英霊が召喚できないことなんて…あれのおかげでずいぶんと調子が狂ったものだわ。

まあ…目当てであったあなたを召喚できたんだから今は良しとしてるし、最優のサーヴァントであるあなたなら、アーチャーの状態に勝るとも劣らない性能を持ってるでしょうしね。」

 

だが、少女はなおも、不満が収まっていないと言った調子で言葉を続ける。

 

「ま、それについては後々、落とし所をつけてもらうとして…はあ…本当に回りくどいにもほどがあるわ。聖杯の願いによって、根源に近づくための聖杯を作る(・・・・・)必要があるなんて…

 

でも、ようやく叶うのね。私たち『魔術師』の悲願…

 

根源への到達が…!!」

 

退廃的な笑みを浮かべながらも、そこに確かな喜びを含めて彼女は持っていたカップをテーブルに置き、座っていた安楽椅子から立ち上がり、高らかに告げる。

 

「さあ!始めましょう!!

 

時代を超えて英雄たちが今この時代に集い、殺しあう。

 

醜くも美しい、聖杯戦争を!!」




10連引いて、ドレイク船長とジャックが同時に当たるという奇跡!!
いや、もうね。うおおお!!って思わず雄叫びあげたくなっちゃいましたよ。はい!
みなさん、いい感じに訳が分からなくなってるんじゃないんでしょうか。なんで、聖杯が出来上がってるのに、聖杯を作り直さなきゃいけないの?とか色々と…

いいんですよ。それで…物語なんて途中で分かってても、何も意味がないですから。(自己解釈)
まあ…と言いつつ、自分ネタバレとか全然OKな人なんですけどね。

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