いや、正直、戦闘の方は今回短めにしたんですもの。
序盤ですから…
では、どうぞ!
(速攻!!)
相手が敵かどうかなど確認する間もなく、シロウは突進する。目の前の男がどれだけ争いを否定するような善人であろうが関係ない、相手がサーヴァントである以上、遠からず、彼らは戦い合う定めにあるからである。
即座に、夫婦剣干将、莫耶を投影し、相手の喉元へと突き込むために、突進を緩めずにそのまま進む。そして、あと数寸というところで…
「やれやれ、参りましたね。まさか、召喚されてからすぐに戦闘とは…」
「っ!?」
ギロリとこちらに目を合わせてきた男は片手剣程度の長さの剣で、干将、莫耶を弾く。予想できたことなので、弾かれた瞬間シロウはすぐに距離を取り、相手の持った剣を調べる。
(あれは…っ!?ばかな!?あの剣は…。いや、だとしたら、おかしい。なぜ?)
目の前にいる男のその真名を看破したシロウは看破したからこそ驚く。
なぜなら、彼は本来、特例でもない限り、
(…いや、ダメだな。)
即座に頭の中でその案は否定する。
確かに真名看破をした瞬間には、動揺を誘えるだろう。が、その瞬間自分の真名も看破される確率が高い。なにせ、自分の伝承の中には、『刀剣の性能、真名を見た瞬間完璧に理解し、それを完璧に模造してみせた』などという伝承がある。これがもし、かの
「やれやれ。まったく…本当にやりづらい…」
今まで味わったことのない窮屈な気分、これが本来の英霊たちにあるべきものなのだと考えれば、どうも、有名になってよかったのかどうかわからなくなってくる。まあ…もっとも真名がバレることをなんとも思わないものもいたことにはいたんだが…
とは言え、今は現状の調査だ。
現在、自分たちは一本道の未来的なカプセルを彷彿とさせる廊下にて対峙している。目の前の…恐らくはかの有名な聖人はライダーと名乗っていた。
「…だとすると、真っ当な一騎打ちをするタイプではない…か。ふっ、まあ、俺が言えたことではないか…」
幸か不幸かこの状況はアーチャーとライダー、お互いの本領を発揮できない状況である。つまり、ここで試されるのは単純な技能のみ…ということになる。
「先ほどから何をブツブツと言っているのですか?見たところ、あなたもサーヴァントのようだ。ということはあなたは我が主人ではないということでよろしいでしょうか?」
あちらも少々、しびれを切らしたらしい、一番最初に自分が確認しておきたかったことをシロウに尋ねる。
「ああ、ついでに言う必要もないことだろうが、俺は君の…
敵だ!」
瞬間、強烈な殺気を放つシロウ。相手であるライダーはそれをこともなげに流し、剣を構える。それを見たシロウは殺気を収める。沈黙が廊下を覆い、誰かがすでに破壊したあとのあるその廊下は、パラパラと瓦礫の砂らしきものが落ちる音がする。
パキッと一際大きな瓦礫が欠けたような音がした瞬間、それは起こった!
両者が虚空へと消え、そのちょうど中央で激突する。
ただそれだけの行動が地面を凹ませ、支柱を揺らす。この行動だけでも、彼らが先の殲教師などとは比べものにならないほどの力量を持っていることは明らかである。
お互いの剣に火花を散らさせながら、にらみ合う。
英雄同士の規格外の決闘の幕が今上がった。
「うおお!?何だ?さっきから、大丈夫かよ?この支柱は、っと!?」
喋りながらも、古城は殲教師の攻撃をなんとか避けていく。
戦闘の素人であり、吸血鬼としての性能も著しく劣る古城が、今現在、戦闘のプロたる殲教師と渡り合えてるのは偏に、長年やってきたバスケからの経験則によるものが大きい。相手がどういう場合、フェイントを狙ってるかなどを考えれば、自ずと相手の動きも読めてくる。
そうして、彼は避けざまに自らの眷獣の力の一端である雷球をパスの要領で投げつけることで渡り合っているわけである。
その現状を見たルードルフは、顔を険しくし、ついには致し方ないと言った調子で、羽織っていた外套を横へと投げつける。
「なるほど、動きは素人同然といえど、流石の魔力…ならば、こちらも相応の覚悟で臨みましょう!!」
彼が宣告すると同時に外套の下にあった鎧が光り出す。
その光に対して、吸血鬼である古城は言いようのない嫌悪感が湧く。肌が焼け焦げそうな熱が示す通り、この光は邪なるものを許さない聖なる光だ。
「ロタリンギアで作られし、対聖殲用武装『
宣言した瞬間、彼は今まで以上の速度で古城に襲いかかる。
「っ!?やべ!!」
一、二撃は避けた古城だが、このままではいずれ致命傷を負うことが明白なため、一旦距離をとる。
「そういうことなら、こっちも遠慮しねー。死ぬなよ!おっさん!!」
バッと右腕を掲げ、呪文を唱える。
「“
凄まじい光と共に、一頭の巨大な雷光の獅子が召喚される。彼が地に足を着けるのと、それが起こったのは正に同時だった。
突如、自らの眷獣とは違う要因により支柱がまたもや激しく揺れ始めたのだ。
「ぬおあ!!姫柊!!」
すぐさま、もう一方でアスタルテというホムンクルスを相手に激闘を繰り広げていた自分の相方である姫柊に声をかける。
どうやら無事のようだが、彼女も何が起きたのかわかっていないようだ。相手方であるホムンクルスの少女と同様に上の方を見上げながら、怪訝な表情をしていた。
「…何なんだ?さっきから一体?」
今日は随分と出鼻を挫かれることが多い古城は、わずかな苛立ちと共にまた上を見上げるが、すぐに切り替え、目の前の殲教師を睨みつける。
1分前
激突した二人の大英雄は弾かれるようにして互いに距離を置く。そして、すぐさま、また激突しようとすると、今度は互いの体を鞭にしたかのような音速を超えた超高速の切り返しが始まる。
そのどれもが基本に忠実な技ながら、彼らほどのレベルともなると、それは一個の芸術となり得る洗練された美しさがあった。
「っ!?」
結論から先に言わせてもらうと、シロウの方が段々と押され始めていた。今は彼の本来の能力が発揮されていないため、生前とは程遠いステータスになっていることもその要因となっているが、ライダーである彼が意外というと失礼かもしれないが、剣技において、自分に勝っていることが要因となっている。
しかも、攻めではなく守りにおいて自分を上回っている。
攻撃は最大の防御などというが、その逆も然りということを示されている、そんな気分だった。
攻めの剣を繰り出せば弾かれ、そこからカウンターを仕掛けるように突きや袈裟掛けが繰り出される。
これについては、シロウ自身少々プライドが傷ついた部分があった。なぜなら、シロウの剣技もまた守りに特化した剣術なため、それなりに守りについては自負していた部分があったからである。
(ここで、俺の宝具を使い、決着をつけられる確率もあるが…相手はライダーだ。本来、一騎打ちではなく、宝具の数で勝負をするクラス。それがまだ、宝具開帳も行っていないとなれば…それはあまりに危険すぎる)
そんなことを考えながら、さすがにきついと感じたシロウは上へと跳び、ライダーの上を宙返りする形で距離をとる。
すかさずライダーが追い込もうとするが、これを狭い廊下ながら持ち前の連射技術を用いて、矢を二本射放つ。驚いたライダーだが、すかさず、追い込もうとする足を止めて、その矢を弾き落とす。
音速を超えた矢は後ろに弾き落とされて、決して小さくない爆発を巻き起こす。その爆発がまたもグラグラと支柱を揺らす。
そして、今度こそシロウとライダーの距離が10メートル離れた時、先に口を開いたのは、ライダーの方であった。
「…先ほどの弓術、素晴らしいものでした。失礼ながら、あなたの剣術よりも弓の方が見入ってしまうものがありました。ということはあなたはセイバーではなく、アーチャーということでよろしいか?」
「…さてな。そういうことは言葉ではなく、戦いの中で示してこそのサーヴァントというものだろう?」
シロウはわざととぼけて返す。
だが、ライダーの方はすでに自分の中で、目の前の男をアーチャーだと断定したらしい、話を続ける。
「双剣使いの
『錬鉄の英雄』衛宮士郎。
貴殿に会えたこと、心から感謝いたします。我が名はゲオルギウス。此度は
すると、シロウは努めて冷静に振る舞い、はあ、とため息を一つした後、
「なるほど、どうやらもうとぼけても無駄なようだ。だが、こちらも驚いたものだ。まさか、かの有名な竜殺しである貴公が、
本当はそんなことで内心が驚愕に満たされたわけではなく、ただ双剣と弓を使っただけで真名が看破されたことに対しての驚きの方がはるかに強かったわけだが…流石にそれを今の話にくっつけるわけにはいかなかった。
戦いとは詰め将棋。この時点で弱みを見せれば、能力を全開にしているか否かは関係なく、遠からず敗れ去るのは必然だろう。
「しかし、些か無警戒が過ぎるのではないか?自分から真名を暴露するとは…まさか、自らから湧き上がる自信に身を委ねたなどという傲慢な思いがそれを可能にしたとは言うまいな?かの有名な聖人殿が?」
わざと、挑発的な言葉を投げかけるシロウ。それに対し、ライダーは特に億した様子もなく、敬虔な信徒に諭すように言葉を投げかける。
「なに。あなたは刀剣を扱うことよりも『刀剣の芯を理解し、それを模造することに長けたこと』で有名になった英雄です。となれば、私がこの“
予想していたことではあったが、やはり、衛宮士郎という名はその能力と共に深く知れ渡っているようである。そのことに対して、またも深くため息を放つ士郎。
(…やれやれ、だが、まだ聖杯戦争も序盤。やはりまだ、固有結界を出すわけにはいかん。弓を使おうにも、この支柱の途中では、支柱が折れんとも限らない。先ほどの一番破壊力のない矢であれだったのだ。とすると…この場は剣術だけで切り抜けるしかない。というわけか…)
黒弓を消し、双剣をまた投影し直すとダランと力を抜くと同時に、双眸を相手方のライダーへと向ける。
「そうか…だが、俺の方も弓だけと思われては心外なのでな。もう少し付き合ってもらうぞ。ライダー!!」
突進してくる猛獣を連想させるように、ダランとした自然体から一気に腰を落とす。
それを見たライダーはおもむろに自らの白いサーコートに手をかける。
「ええ。ですが、その前に一つあなたには、祝福を受けていただきましょう。…まあ、祝福とは名ばかりですが…」
「…?」
瞬間、サーコートが淡く光り始めたのを見て、まずいと思ったシロウだが、遅かった。
「
カッという光と共に、サーコートが目を覆わんばかりの輝きを放つ。
「ぐっ!!」
思わずと言った調子で、目を腕で隠すようにして覆い守ろうとしたが、
少しして、光が収まる。ようやく、目が効くようになったシロウは変わらない光景がそこにあったのを怪訝に思った。
(今、瞬時に解析した結果の能力を考えるならば…
瞬時に自分の体を解析する。そして、その変化を知り、今度こそ驚愕の表情をライダーへと向ける。
「…随分と特異な宝具だ。まさか、俺の体質を
「耳が痛いですね。私もそう思うのですが、それでも私の戦法上この宝具は実に使い勝手がいいのですよ。」
確かにな。心の中で思うシロウ。彼は竜殺しとして名を挙げた英雄。その男が目の前に竜種がいた場合どれほど戦いやすいのかなど、明白である。
だが、それがどうした。と頭を振りシロウは再び目の前の敵を見据える。
相手方もそれを合図だと受け取ったのだろう。正眼へと剣を構え直す。だが、今度は彼らが出鼻を挫かれる番だった。
ドンという強い衝撃音とともに支柱が三度目の揺れを引き起こす。
「ぬっ!?」
「ちっ!?」
足を怯ませはしないものの、思わず足元へと警戒を移す両者。
「どうやら…下の方は決着が着いたみたいだな…」
「下の方ですと?」
一方ライダーは、自分のリンクが下層へと向かっていることに気づき、シロウの言葉に敏感に反応した。
そんな事情など露知らないシロウは言葉を続ける。
「ああ、そうだな…なんというべきか。とりあえず、一つこの島での危機が去ったということになるな。」
ーーーーーーー
「終わりだ!オッサン!!」
古城の吸血鬼の筋力を存分に使った拳をルードルフは喰らい、吹っ飛ばされ、地べたへと頭を突き込ませる。だが、それでもなお、彼は彼ら信徒の右腕に対して手を掲げた。
「…たぶん、あんたがその右腕を取り返そうとしたことは間違っちゃいない。けど、選んだ方法は間違いだった。後は、ちゃんとしっかり罪を償うんだな!」
古城のそんな言葉が聞こえたのかどうか…だが、その言葉が終わると同時にルードルフは崩れるようにして、意識を失った。
ここに、確かに一つの争いが終結したのだ。
ーーーーーーー
場面は戻って、アーチャーとライダーが対峙している廊下へ。
「どうする?まだやるというのならやるが…正直こちらとしては戦う理由が見当たらなくなった。君が召喚されているところから、この聖杯戦争がまともじゃないと分かってしまってる以上、このまま戦闘を続けても、誰かの思惑に従っているような気分がして仕方ないからな。」
そう。目の前にいるゲオルギウスは『聖人』というカテゴリーにある英霊である。彼ら聖人は『現世に何も望むものがない』からこそ聖人なのであり、したがって望むものを手にする聖杯戦争などという俗物のような儀式に間違っても召喚される存在ではない。だからこそ、『この聖杯戦争がまともではない』とシロウは言い切ったのである。
シロウのそんな言葉に対して、聖ゲオルギウスことライダーは意外そうな表情でシロウの顔を見直す。
「…意外ですね。先に戦闘を仕掛けてきて、今もまた闘いを切り出そうとしたあなたがそのようなことを言うのですか?」
「あの時は、色々と切羽詰まってたからな。こちらとしても、まだ、聖杯戦争は序盤。いずれ、相見えるにせよ、この辺りで引いた方がお互いにとって利があると思っただけだ。」
本当は下の戦闘が終わっている以上、長々とここにいるのは逆に危険だと判断したこともあるが、そのことは伏せておく。
ライダーは訝しむような表情をして、思考を巡らせる。
(先程、彼は私の宝具を避けられなかったタイミングであったとはいえ、
わざと受けるように、途中で手を止めた。
目を覆うくらいはしてもいいはずなのに…いや、彼はそれがどんなものであれ武器であるならば理解する能力を持っているとされている。
ということは私の“
私にわざと
そんなことを瞬時に思いつくのは余程の戦上手くらいのものである。もし、偶然だとしても、そんなことを考えさせるために敢えて受けたというのならば、彼は十分に注意しなければならない相手であるということは確実だろう。
なぜなら、これは裏返せばゲオルギウスを倒し得る手段…いや、正確にはその戦法を彼は持っているが敢えてそうしないとも取れる訳である。
確かにそれは考えすぎなのだろうが、今は序盤。奥の手を隠すのに徹しているということも十二分にあり得る。
「…いいでしょう。分かりました。こちらとしても、マスターの所在を確かめなければならないという役割があります。
それに、戦ってみて分かりましたが、どうやらあなたは本来の能力を封印しているようだ。」
その言葉に対して、ピクッと過敏に反応してみせるシロウ。
「一体なぜ力をすべて出し切れないのか知りませんが、どうやら、私のことを過小評価したからという理由ではなさそうだ。次会う時は全力で相手をして欲しいものです。」
そう言ったライダーは体を霊体化させて、どこかへと消えて行った。
それを確認した後、シロウは肩の荷が下りたかのようにふー、と思い切り溜息をし、そのまま、キーストーンゲートの出口へと向かい、歩いていく。
傷はかすり傷程度で済んだもののやはり生前に近い身体能力を使えないというのは正直キツい。
特に今回の英霊は防御においてはおそらく無敵と言えるほどの鉄壁を誇るサーヴァントだった。
(さて、まだこれから…だというのに一体どうするかな…)
最初からこれではいずれ、我がマスターを巻き込むことになるだろう。遠からずそうなるにせよ、せめて、聖杯戦争が中盤に差し掛かってからでなくてはあまりにも、分が悪い。
だが、シロウはいずれ知ることになる。この聖杯戦争に
この聖者の右腕以降、そうそう、英霊は出てきません。
つまり、まあ、しばらく英霊すげえ状態になる訳です。
あ、でも大丈夫です。シロウもゲオルギウスも基本現世のことには関わらないように努めるので、そんな作風が崩れたりしませんから、次話はエピローグですが、
その後、弓を使い続けるアーチャーが見られる…かも!
乞うご期待!!