言いたかった。
あの時、声を大にしてキュウべえに騙されていることを叫びたかった。
でも、寸前に出て来た、信じてもらえない、という予測が二の足を踏ませる。
いや、事実巴マミが信じることはまずないだろう。確かに、マミは魔法少女の中では上位に位置するが、心は弱い。だから真実を受けとめられない。あれはマミの心
を充分に破壊できる爆弾だ。
巴マミの心を壊して戦えなくするのも考えたが、私の目的を達成するのには得策ではない。マミと私の2人でならワルプルギスの夜を倒せなくもないからだ。それに何
回もお世話になった先輩を傷つけることも気が引けた。
だから巴マミに敵対心を向けられた時、悲しかった。誰にも頼らないと決めたのにこの様だ。
笑えてくる。
「あ、そうだ。昼間のガム食べた?」
…………ああそうだったわね、つい今までとほぼ一緒だと思い込んですっかり忘れていたわ。
いる。先入観に左右されず、情報を客観的に整理して考える、今までとは全く正反対な人が、すぐそこに。
「……えぇ、とてもおいしかったわ」
話そう。彼女に真実を。
二日後
「ふぅ、こんなもんかな」
あたしは強化札を貼った刀を収納札に入れる。
「……はあ」
思わずため息がでた。
率直に言うとなまくらすぎる。いや、刀はそこそこな業物だよ。でもあたしが前世で使っていた半身とも言える刀と比べると明らかに見劣りするんだよね。まあこのご時世にそんなものが見つかったら逆にアレなんだけど。
因みに札の中に入れれる量は、巻物にしまうやつに比べて少ないけど貼ることが出来るから服とかに貼っといて、武器をすぐに取り出すことができる。あたしのは透明になる特別製。
何で作れるかって? それは来る巫女の為に作っていた頃があったからですがなにか?
「って何説明してんだか……」
ピロピロピロ……
携帯が鳴る。
番号は非通知
さて、真実でも聞きに行きましょうかね。
「はい、さやかですけど……」
ナガン
「夜、今日もキュウべえはさながら悪徳商法の営業マンのようにまどかに執拗に契約を……(ドカッ!!)」
ナガンがログアウトしました。
人聞きの悪いことを言わないでくれるかな。僕はただ魔法少女の良さについて話しているだけだよ。
『まどか程の才能を持った人間は僕も今まで見たことがない』
「え? そんなことないよ」
『本当だよ。君が契約すれば確実に最強の魔法少女になれる』
「さやかちゃんの方がすごいよ。私が魔法少女になってもさやかちゃんに勝てる気がしないよ」
『確かに彼女の魔法少女の才能はすごいわけではないけど、戦いのセンスはすごいからね』
「すごいよね。目の前に現れた使い魔に私なんか足がすくんだのに、さやかちゃんは眉一つ動かさずに切り捨てたんだもん」
こうスバッ!!と斬ってたよね、とまどかは美樹さやかの真似をする。
『大抵のひとはそういうものだよ。彼女が物怖じしなさすぎるだけだ』
「そう言えばさやかちゃんがまともにびっくりするところを見るのは今日が初めてかも……」
彼女は全くと言っていいほど怖がらない。むしろこの程度は日常茶飯事であるような振る舞いだ。
――……妖怪なんてもんじゃないわね――
妖怪
情報によると人間を食らい恐怖を与える存在である、物語に出て来る空想の存在であり、魔女と本質的に似ているが、どうやら彼女にとっては違うらしい
『まどかはさやかとはいつ知り合ったんだい?』
「中学生になってすぐかな……なんか成り行きでなっちゃったっていう感じで……」
まどかが続きを語ろうとしたら父親に呼ばれてしまい話が流れてしまった。
小学生かそれ以前にさやかに何かが起きたのは確実だ。
それが何かわからないけど、
『とても興味深いね』
夜1時
見滝原中央公園
電話で呼び出されたあたしは誰もいない公園で1人寂しくベンチに座って転校生を待っている。
「…………ふぁ~」
眠い……虫の鳴き声が子守唄に聞こえる……
「待たせたわね」
とそこへ転校生がやってきた。まわりを確認しているのかしきりに目を動かしている。
「まどか達、特にキュウべえならその気配は今のところないよ」
もうなれたようで転校生は特に動揺せずに続ける
「そう、なら心おぎなく話せるわ」
「さて、話してくれるよね?あんたの目的、そして出来ればキュウべえの秘密も」
転校生は話す内容を少し思案した後、語りだした。
「まずキュウべえだけれども、正式名称はインキュベーター、地球外生命体よ」
「へぇ、イレギュラーな存在だと思っていたけどそうなんだ」
初めてみるのはもっと純粋なものがよかったな……
「そしてその目的は……世界の延命だそうよ」
「世界の……延命?」
いまいち意味がわからない。
「世界のエネルギーは限りがありそのエネルギーは使われる度にロスが生じる。そしてそれが尽きると世界は滅ぶ。その対策として彼らは感情をエネルギーに変える技術を発明した。それを使えば100%以上のエネルギー効率をもたらすことができるけれど、その感情そのものを彼らは持ち合わせていなかった……」
「そこであたし達人類に白羽の矢がたった、と……」
思い出すのは前世の最後。あの紫でさえ崩壊を食い止めらる手段を講じることができず、その力は幻想郷の猛者がどんなに力を合わせてもまともに拮抗しなかった。
確かにああなればどうにもならないか……紫達は…………やめよう、寂しくなる。
「魔法少女はそれとどのように関係してくるの?」
「奴ら言っていたわ。第二次成長期の女性の希望と絶望の相転移が最もエネルギーを回収できるって」
ああ、なるほど……。つまり魔法少女は魔女を滅ぼす為にあるのではなくて、
「……魔女は魔法少女の成れの果て。そしてあたし達はエネルギーの燃料としてしか見られてない」
辛うじて出て来た言葉は震えていた。
本来なら妖怪や神を作り出す感情はキュゥべえ達によってすいとられていた。
つまり、この世界の妖怪や神はキュゥべえ達に殺されたようなものだった。
もう、ふつふつと殺意が沸いてくるのを止められそうにない。
キュウべえ――いやもう淫Qβでいいや――見たら殺そう、絶対
「察しが早くで助かるわ。グリーフシードはソウルジェムが濁りきった時に発生するもの」
「そしてまどかは……」
「最強の魔法少女にして最悪の魔女になりうる存在」
「……ふざけてる」
「そうね。でもこれが真実よ」
「マミさんはこのことは……知っているはずないよね」
ベンチから立ち上がる。
ここまでくれば、あとは簡単に答えはでる。
「あんたの目的はまどかを魔法少女にさせないことだよね?」
「その上でこの地に現れる魔女、ワルプルギスの夜を倒すこと」
「それは、あんた1人で倒せるの?」
転校生は首を横に振る。
「私ではあれは倒すのは難しい」
転校生の実力がどれほどのものかわからない以上、そのワルプルギスの夜という魔女については何とも言えない。相性が悪いだけなら、あたしになら何とかなるかもしれないけど、そうでないならば……。
さしあたって、この場合あたしがするべき役割は……
「とりあえずあたしはまどかが契約しそうになったら意地でも止めればいいってわけ?」
「ええ、あと出来れば巴マミの協力も取り付けて欲しいのだけど」
「うん無理」
爽やかに即答する。
返し方がお気に召さなかったようでちょっとムッとした顔になる転校生。
でも、淫Qβ殺そうとした人の話なんてマミは信じないし、それぐらいマミは淫Qβを信頼している。逆にマミの目の前で淫Qβがそれを肯定すれば、最悪自殺しかねない勢いでショックを受けるだろう。
「そう、じゃああなたはまどかの契約阻止に集中して」
「りょーかい」
さて、今夜はもう遅いし早く帰って寝よう……
転校生に背を向けて歩き出す。
「待って。今度は私が質問する番だわ」
がしっと肩を掴まれる。
どうやら、そうは問屋が卸してくれないらしい。
「あなたは以前に魔女と戦ったことがあるの?」
「…いや、3日前まで知ってさえいなかったよ」
疑うような視線が返ってくるがこれが真実であるからあしからず。妖怪なら腐る程見たけどね。
実際問題、本能的にそういうのは避けてきたと思っている。前世よりも圧倒的に非力なこの体で戦闘を行わせたくなかったと、あたしは考えている。
「もうひとつ、あなたのそのその武術。どこで習ったの」
また答えづらい質問を……
「独学」
「独学、ね」
ちょっと間をおいて簡潔に答えたのを怪しんだのか、瞬間眼前に突き出されたのはサープレッサー付きの拳銃。
反射的に顔を右に反らし、右手で拳銃を左に。
放たれた銃弾はあたしの髪の毛を数本さらう。
そのまま手首を掴み捻って手首の関節を固定、左手を絡ませつつ、そこを支点として右手を左に持っていく。追い討ちに転校生の右足をヒザカックン
倒れたところに隠し持っていた拳銃を突き付けた。
「あっぶないなあ。いきなり打たないでよ」
「拳銃を向けられた時の対処の仕方、そしてCQC、あなたどこの軍人さん?少なくとも一人でできる訓練ではないわよ。さあ、誰に指南して貰ったの?」
こころなしか転校生が少し笑っているような気がする。
あ~くそ。こっちはもう寝たいのに。人間に戻ってから三大欲に悩まされっぱなしなのよ。
……もういいや。どうせ遅かれ早かればれると思うし。
「分かった分かりました!。話します!!嘘だと思うようなでたらめな本当のことを!!あたしは前世の記憶を持っていて、前世のあたしは武術の達人だったの!!」
空気が止まった
ヒュー……
冷たい風が吹いた。
若干帰りたくてやけになってた部分もあるけどここまでとは……とほほ
「…………あなたふざけてるの?」
転校生の第一声がこれだったよ
明らかに私怒ってます的な顔してるし……
「ふざけてないもん。大体マスコットポジかと思いきや黒幕だったキュウべえよりは信じられるでしょ」
必死の弁解(?)が効をそうしたのか
「……一応信じてあげるわ、一応」
ほむらもこれ以上は無駄と判断したのか、ため息をつきつつも一応信じてくれた。
なんかこのままだとグダグタのうちに終わりそう。最後に真剣な話ぐらいはしとこう。
「え~、あんたがまどかを大切に思っているのはよく分かった……その上で最後に一つ聞きたいんだけど、なんでまどかにそこまでするの?まどかにそこまでの恩があるの?」
転校生とまどかの接点は考えられる限りない。まどかは入院したことがないし、たとえどこかで出会ったとしても転校生もそこまでする理由もみつからない。家族とかを守りたいのならまどかを殺せばいい。でもそうしないのはまどかを傷つけたくないからと推測できる。
淫Qβの真の目的と魔法少女の真実を知った経緯も関係ありそう。
すると転校生はさも当然のように。
「ええ、返しきれない程の恩があるわ」
清々しい程の即答で返した。
「……まああんたがまどかを守りたい気持ちは充分伝わったわ」
転校生はなにも言わない。
「けどあんたが守りたいのはそれだけ?」
「…………私はまどかが無事ならそれでいい」
確かに全員を救えるわけではないけどさ、
「……それはまどかの為ではなくてあんたの為だ。本当にまどかの為を思うなら……」
全てを救う気概で行かないとね。
そう笑いかけて、転校生が何か言う前に背を向けて全速力で帰った。
だって、ねえ……?
まどか1人残しても寂しいだけじゃん。