『助けてくれてありがとう。鹿目まどか。それと美樹さやか』
無機質な赤い目、無表情な顔
『君達にはお願いがあって来たんだ』
直感が叫ぶ
『僕と契約して魔法少女になって欲しいんだ』
こいつにだけは心を許すな、と。
――――――――――――
あれから魔法少女と魔女のについてマミに説明してもらう為に家に連れて行ってもらった
そこで説明されたことを纏めると、
・希望から生まれる魔法少女と絶望を振り撒く魔女は対照的な存在
・契約は願い事を叶えることと引き換えにソウルジェムを生成すること
・ソウルジェムを持ったものは魔女と闘わなければならない
感想
一見すると悪魔の契約よりはまし……かな?
あっちは魂捧げて願い事叶えてもらうけどこっちはそんなことは無いようだし。
だけどキュゥべえ…こいつ紫並に胡散臭い。あっちもあっちだけど、こっちも大概。
契約というものは双方にメリットが絶対ある。キュゥべえの説明を聞いていて、一度もこいつの口から魔女を倒してほしいとは聞いていない。
キュゥべえのメリットが現時点で全くわからない。どんな願いを叶えても返ってくるこいつの見返りはなに?
マミは全幅の信頼をおいているようだけど……
思考に没頭していたら、魔法少女がどんなことをするのか知る為の体験ツアーをマミが提案してきた。
これは渡りに船かな?
まどかも行く気のようだし、転校生の目的もわかるかもしれない。
私達はOKを出して明日の放課後また落ち合うことにした。
「巴マミ、か……」
まどか、そして仁美の時もそうだった。記憶を刺激される、この感覚。
巴先輩、マミ先輩、巴さん、といろいろな呼称を考えて、
「マミ、さん……」
これが一番しっくりきた。
多分、マミさんは前前世で知り合いだったのだろう。先輩後輩の間柄で。
まどか達の前前世での記憶は、まだ戻ってないけど、近い未来、あたしは死んだのは確実。
その時のことが思い出せれば……
「ないものねだりしてもしょうがないか」
そうだ、今度からマミさんって呼んじゃお。面白そうだし。
家族が寝静まった頃を見計らって、外に繰り出す。
さて、今夜は徹夜かな……
その日の夜どこかの暴力団のアジトで刀剣類全部とハンドガン二丁とその弾薬が盗まれたとか盗まれてないとかそんな事があり、犯人は未だ捕まってないそうです。
いや~物騒だね~
「ねぇキュウべぇ、美樹さんのことなんだけど……」
『美樹さやかがどうかしたのかい?』
「実は……」
あの子達が帰ったあと、キュゥべえに今日のことを話した。
「美樹さんは……キュゥべえとは契約してないのよね?」
『そうだね。美樹さやかとは契約はまだしていない』
「あの子……闘い慣れしすぎてるのよ」
いくら武術に精通していて闘ったことがあるとしてもそれは対人に限っての話。異形との闘いは初めてのはずなのに……。それにあの殺気。あの時はさすがに死を覚悟した。
『幼少のころから特殊な訓練を受けて来た可能性もあるよ?』
「それじゃあ魔女以外に化け物がいるの?」
『僕が確認している限りでは空想上の存在しか確認してないね』
「それにあの瞬間移動、あの時は納得したけどまどかさんの周囲10メートルには人影は見えなかった」
つまり美樹さんは10メートル以上瞬間移動できることになるけど…
『それは人体の構造的に無理なはずだよ』
キュゥべえに否定された。
美樹さんの謎がさらに深まる
……だめ、情報が少なすぎる。とりあえずこのことは保留にしときましょう。
出したお皿を片付けようと立ち上がった。
『そうそう。彼女、暁美ほむらについては僕とは契約していない』
「え……」
手が止まる
「暁美ほむら、ってあなたを襲ってた……」
『うん。どうやってかはわからないけど彼女は僕と契約せずに魔法少女になった。これは確実だ』
「じゃあ美樹さんも何らかの方法で魔法を使えるようになったの?」
『彼女自身からソウルジェムの反応はなかった。でも身体強化なら他人にもかけられる。』
「……彼女はそのほむらって子と繋がっている?」
『その可能性は否定できないね』
でもそうだとしたら彼女になんの利益が?
あらゆる推測を立ててみる。
……駄目ね。どれもしっくり来ない。
「……ほんと、不思議ちゃんね」
いつの間にかキュゥべえは居なくなっていた。
まあいいわ。これからいくらでも見極められる。
『美樹さやか、か』
まどかの家に向かいながら思案する。
彼女は今まで契約を結んできた人間達とは明らかに違う。
願いを叶える
これだけで大抵の人間は僕の存在についてはああ、そういう存在なんだと納得し、何も考えずに契約する。
だけど説明している間彼女は終始僕に懐疑の目を向けてきた。
恐らく疑問に思っている。僕の目的が何かを……。
彼女は恐らく暁美ほむら同様まどかとの契約の最大の障害となるだろう 。
『できればこれでマミと対立してくれればいいんだけれど……さすがにないね』
少なくともこれでマミはさやかに懐疑心を持った。
『それにしても……』
彼女は僕のような生命体を見慣れている。そんな事はあり得ないのに。過去に僕以外の個体が彼女と接触したという報告はない。
『全く、わけがわからないよ』
くぁ……
あ~眠い。やっぱ貫徹はするもんじゃないわ
「どうしました? 寝不足ですの?」
「ん? まあそう」
誰かが後ろから走ってくる音がするので振り返るとまどかと肩に乗ったキュゥべえがいた。
「おはようございますまどかさん」
「おはようまどか。早速だけど今日の授業は任せた」
「え~いきなり何言ってるのさやかちゃん」
「今日はまともに起きてる自信がないからに決まってんじゃん」
さりげなくまどかの横に行く。
「(やっぱりキュウベエってあたし達にしか見えないみたいなの?」
「(うん、そうみたいだね)」
「何してるのですか?」
仁美が不思議そうな顔で聞いてくる。
「いや、何でもないよ」
そう言ってまどかから離れる。
(『頭で思うだけで会話することもできるよ』)
「!!」
びくりと思い切り動揺してしまったけど声は辛うじて出さなかった。
(「いきなり話しかけないでよ! びっくりしたじゃん!」)
批難の視線をまどかに向ける。
(『でもこれは秘密の話にはもってこいだよ?』)
(「いやそうだけども……」)
「あの……2人共どうしてそんなに目配せなさっているの?」
不審に思った仁美が尋ねてきた。
「ああいやこれは……」
何とか言い訳しようとしていたら
「はっ!? まさかお二方はきのうの今日で目と目で会話できる仲に急接近!?昨日あのあと何があったと言うのですの!?」
「はっ!? いや、それはないわ……」
「うんそうだよ。考えすぎだよ」
「でもそれは禁断の愛……いけないことですのーーー!!」
勝手に勘違いして走り去る仁美
人の話を聞け
「…………ねぇまどか……」
遠い目でまr……仁美を追う。
「何?」
「前から思ってたけど仁美って腐女子の気があるね。」
「それは多分……あるかも…………」
とりあえず仁美が置いていったカバンを拾ってあとを追った。
学校に着くなり机に突っ伏して寝る私。気が着いたらお昼だった。なんか頭が微妙に痛い。
「起こしてくれても良かったのに…それになんで皆拍手してきたの?」
「あはは…(先生が一限使っても起こせなくて頭垂れて帰った時はある意味尊敬したよ…)」
屋上で弁当を食べる。
「さやかちゃんは願いごとは決まったの?」
急に真剣な顔つきになってまどかが聞いてくる。
「いや。決まってないし、このまま決まらないなら決まらないでいいかなって」
「え?」
予想外の言葉だったのだろう。まどかはとても驚いている。
「今私達が立っているのは日常と非日常の境界線の上。まだ引き返せるギリギリの場所。そして願いを叶えてもらうともう日常(こっち)には戻れない」
まどかはいまいちピンときてないようだ。
「簡単に言うと普通に学校に行って、普通に勉強して、普通に恋をして、普通に普通に生活して、といったのが出来なくなるってこと」
「それは……」
「まあ……生半可な覚悟だといけないってこと。そうでしょ、転校生」
屋上の入り口に視線を向けると転校生がいた。
「……いつから気づいていたの?」
「あんたが階段を登ってくるぐらいかな」
(「マミさん、いまどこ?」)
(「え?…………えっと、大丈夫、あなた達が見えるところにいるわ」)
『さん』……だと……? って驚いているマミさん。うん、眼福眼福。
「鹿目まどか、あなたは私が言ったことを覚えてる?」
「え!? あっ、うん」
「そう、ならいいわ。」
言いたいことは言ったのか転校生は踵を返して戻ろうとした。
「ちょい待ち、転校生」
私は持っていたガムを投げる。
「何かしら? これは?」
「いらないからあげる。他意はあるかもしれない」
「いやそこはないって言おうよ」
まどかがツッコむ。こんな空気でもツッコミは容赦しないまどか
キャラのプロフィールにそろそろツッコミには定評があると書かれそう。
転校生は訝しげにガムを見ていたが、
「いいわ、もらっておいてあげる」
とポケットにしまった。
「重畳重量」
今度こそ転校生は教室に戻った。
おかしい
私の心情を表すとこれの一言に尽きる。
美樹さやかは極端に言うと思い込みの激しい半端な正義感を持った一般人だったはず。そしてあの場合では、私に気づいた時点でまどかのそばによるはずなのに、その素振りさえ見せなかった。
わざわざそばに行かなくても巴マミが守ってくれると思っていたのだろうか。それともそばに行かなくとも対応できたということ?
考えを巡らせているとあることが頭に浮かぶ。
ポケットにあるガムを取り出しくまなく調べてみる。
……銀紙に何か書いてある?
『090-****-****
一度腹割って話さない?』
「……どこのスパイ映画よ」
彼女は今までとわけが違う。恐ろしいとさえ思う程だ。彼女は恐らくいろいろと気づいている。これならばもしかしたら……
はっと出かかった期待を振り払う。
今までもそうだったではないか。淡い期待を持っては裏切られてきた。だから…今回も……
何にせよ私は全て利用する。そして今度こそ……
「まどかを助ける」
……でも、なぜか皆が笑いあっている、そんなハッピーエンドを彼女に期待してしまうのはどうしてなのだろう…………