転生少女さやか(!?)☆マギカ    作:ナガン

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今年初投稿です。


38話 足掻いた結果

ワルプルギスによって崩壊した三滝原市の一角。

 

最早これ自然災害じゃねえだろJKというぐらい徹底的に破壊されていた。

 

さらにその一部はそろそろ更地と化そうとさているところにさやかと"まど

 

か"トはいた。

 

「はあ!!」

"まどか"が腕を振るう。

ビルの土台が無くなった。

 

「ふ!!」

 

 

さやかが剣を振るう。

クレーターが出来た。

 

 

「どこの世紀末よ……」

 

マミは目の前の神々の戦いのハチャメチャさにあきれていた。

 

他の4人も唖然としている。

魔法少女組はヤムチャ視点で戦いを見ているから、ビルが独りでに崩れて、大規模な地殻変動がこの極短期間で何度も発生しているとしか見えない。

 

 

紫でさえ、「これは凄いわね。目で追うのがやっとなんて。」と驚いている

 

 

「これがさやかの本気か……」

「いえ、違うわよ。”ちょっと”裏技を使っているだけ」

 

あれだけの力があれば最初から魔法少女になる必要すら無いわ、と紫が言う。

 

「裏技?」

「ドーピングみたいなものよ」

 

この時、四人は気づけるはずもないが、紫はかなり消費していた。

一つは、さやかを治癒するため。

そしてもう一つは……

 

 

 

 

 

「せい!」

 

さやかが触手を切り払い、まどか、いや、クリームヒルトに肉薄する。

 

「この!!」

 

それに対抗して、音速を超える拳を振るう。

さやかはそれを紙一重でかわす。

 

ヒルトは逆袈裟斬りの剣を空いている手で防御する。が、いつまで経ってもやってこない。

 

トンッと手のひらが胴体に接触する感覚。

 

 

っ!? フェイク!

 

 

さやかの足元が爆ぜると同時に、ヒルトの華奢な体が吹き飛ばされる。

 

 

「っ……」

 

しかし、ヒルトも負けてはいない。離れ際にさやかの腹に一撃いれていた。

 

 

おかしい。

どうして、ただの一個体がわたしとタメを張れる?

それに、この重しみたいな重圧は……

 

ヒルトはある確信に近い予想を持って、魔力の流れを見る。この重圧は駆度となく体験してきたものだからだ。案の定、ヒルトはさやかが膨大な"力"を大地から受け取っているのを見た。

 

「まさか……」

「流石に気付いたか」

 

大地には気の流れである、”龍脈”がある。それを取り込むことができれば、星の力の一部分を手に入れることができると言われている。さやかはその

 

龍脈から力を供給しているのだ。

 

「そんな、神でさえ、ある程度の準備が必要なのに…」

「八雲に手を貸してもらっただけよ。余と地球の境界を少しばかりあいまいにしてもらっているだけよ。世界が汝を敵とみなしてくれたのは僥倖だったがの」

 

さやかの言うとおり、この時地球の意思はさやかに味方していた。紫の助けが無くとも、地球はさやかに味方していただろう。

 

「どうやら、本気でいかないといけないみたいだね」

「別に手加減したままでいいぞ? むしろ大歓迎だ」

 

まどかの魔力が爆発的に増える。地球からの圧力をはねのけんばかりの勢いで。しかも、まどかは依然として涼しい顔をしている。

 

 おいおい、どんなけ魔力あるんだよ。

 

さやかは冷や汗をかきながらも、ヒルトの魔力上昇に対抗するように、地球も魔力供給を増やすが、ヒルトのはそれさえもしのいでいた。

 

 

直後、おもむろにヒルトがさやかに向かって手をかざす。

 

 

――リライト――

 

 

花びらが舞った

 

 

「「「!!」」」

 

その光景に誰もが言葉を失った。紫でさえも。

 

 

ヒルトが行ったのは、ディスインティグレイト(原子分解魔法)、但し、一行程(シングルアクション)。阻止する隙などありはしない。

 

 

 

 

「ふ~ん。決まったと思ったのになあ」

「っ、貴様……」

 

 

あり得ないだろ。後一瞬時を戻すのが遅かったら死んでた。

 

さやかは攻撃をくらいはしたものの、持ち前の能力で分解した粒子を時を戻すことで、再構成して難を逃れていた。

 

さやかは荒れた息を落ち着けながら、混乱する思考も落ち着ける。

 

 

「リライト」

 

ヒルトがさやかの方を振り返って、再び呪文を唱える。

言うより先にさやかは動いていたので、それは後ろの地面を抉るのみに終わる。

 

 

 とにかくヒルトに位置を知られたら不味い。せめてもの救いは対象ロックじゃないことか

 

 

「そこだね」

「っ!」

 

 

タンッと地面を蹴る。

 

コンマ数秒後、閃光が迸る。

 

 

まどかの攻撃は終わらない。手をさやかの方へと向ける。

 

 

――ディザスター――

 

極大の閃光がさやかを呑み込まんと迫る。

さやかは上に飛ぶことにより回避。

 

 

トン

 

 

背中に手があてられた。背筋にこれまでにない怖気が走るが、もうどうにもならなかった。

 

「なーんてね♪」

 

まどかの拳が、今度こそさやかに直撃した。

 

「がはっ!!!」

 

地面を抉りながら転がり、50メートル程でようやく止まったさやかはピクリとも動かない。

 

「これで終わりだね」

 

 

 

 

四人が悲鳴を上げる中、紫は静かに事の顛末を見つめ続ける。

 

 

 

――リライト――

 

 

花びらが再び舞った。

 

 

「あれ?」

 

 

消えたのは、時計。

 

「に、逃げちゃだめだ逃げちゃだめだ逃げちゃだめだ逃げちゃだめだ逃げち

 

ゃだめだ」

 

みきが、さやかを守るように前に立っていた。彼女の危機をいち早く察知して、戦場に舞い戻ったのだ。

 

結界を展開し、油断なく構えるみき。しかし、過呼吸するほど息は荒く、足はがくがくとお世辞にも悪く言うしかない程、震えていた。

 

「そ、その魔法、障害物を置けば簡単にかわせるね」

「なに? 殿(しんがり)でもする気?」

「まままさか、そそそんなことする必要なんかまままるでないよ」

 

 

無理やり作ったしてやったりといった表情で、みきは笑う。

 

「減らず口を!?」

 

何が彼女をそこまで駆り立てるのか、それがわからず、癪にさわったヒルトは気付いた。

 

彼女のかかとがさやかの手を踏みつけていることに。そして、さやかの服装が、あれほど地面を滑ったのに土まみれじゃないことを。

 

 

「っリライト!!」

 

 

放った魔法は、時計に防がれる。

 

 

「ここ交代ぃ!!」

「礼を言うぞ」

 

 

涙目なみきの手と伸ばされた手が重なり、みきは同化した。彼女はさやかだったもの。故に、同化も可能なのだ。

 

まどかから見たら、みきがさやかに早変わりしたように見えただろう。

 

腹からせりあがる血を逆らわずに吐き出すさやか。

 

 

「やってくれたな。効いたぞ、先程の攻撃は」

「とんだじゃまがあったもんだね」

「まあ、そう言うな。みきも余なのだ。口出しする権利はあるだろうて」

「ふん、いいよ。どうせなにも変わらない。何度でも消してあげる」

「余が言うのもなんだが、もうそれはない」

 

なにを、とまどかが言おうとした時、ズシンと異様な重圧がかかった。

 

~~時空操作、一乗停滞~~

 

体が……重い

 

 

「……っ」

「知っているか? 魔女の結界の空間は広大だが、実際侵している空間は微々たるもの。故にある程度の矛盾は受け入れられる。そう、たとえば、1秒が1分になった空間等でも」

 

――リライト!!――

 

 

その時、まどかは何が起こったかわからなかった。

 

 

"視認して"からでは避けられない筈なのに、

 

 

先読みされた気配なんて無かったのに

 

 

さやかは視認してから、魔法を完璧に見切って、かわした。

 

 

「っと。まあそう急くな。つまり、余は今までの60倍速く動ける、ということよ」

 

さやかが今やっていることは、自分を除く魔女の結界内全ての時間を1/60にしているのだ。

 

――斬魔剣・二の太刀――

 

まどかの反応が一瞬遅れた。だがその一瞬でさえ、この空間では六十瞬になる。

 

「っこんなもの!」

 

 

回避はできないと、まどかは障壁を展開する。

 

 

しかし、その斬撃は障壁を素通りし、まどかを切り裂いた。

 

「な! んで!?」

 

 

ある作品内では魔を祓う技としての奥義。斬るものを選択できる剣技に障壁は無意味。

 

 

――二太刀「八花刀廊」――

 

 

いつの間にか後ろに回ったさやかが八つの斬撃を飛ばす。

 

 

「くっ!」

「この世界で、空間、時間は余の手中」

 

 

なんだそれは、とまどかは悪態をつく。

 

さっきからの体の重さもそれか!

 

 

「しかも時間停止とは違って、一旦破られれば効果は終わり、と言うわけでもない」

 

 

即時的ではなく、恒久的。この空間を破壊するか、さやかの魔力が尽きるまで、抜け出す術はない。

 

 

「づうあ!!」

 

斬撃がまどかの腕を掠める。

 

「っの゛を!!」

 

反撃に砲撃を行う。

 

 

トンッと背中に手が置かれる。

 

 

「さっきの返礼ぞ」

 

 

――神砲「ディバイニングバスター」――

 

極大の砲撃がまどかを呑み込んだ。

 

 

もうもうと煙が上がる中、さやかは乱れた息を整えていた。

 

 こんなもんじゃダメ。もっとでかい隙がいる。そうするには、ヒルトからあれを引き出さないといけない。もっと追い詰めないと。

 

横に吹き飛ばされたのは、その時だった。

 

「っあ゛!!??」

 

幸い意識を持ってかれず、受け身は取れた。だけど、あの攻撃は今までと遜色ない、むしろそれ以上の威力だった。

 

「はは、やるね~。そろそろこっちも全力で行くよ」

 

あたしを吹き飛ばしてくれたヒルトは黒く渦巻く魔力を身にまといながら、そこに君臨していた。

やがて、魔力はヒルトになじんでいき、まさに第二形態というのがふさわしい恰好になった。

見滝原中の制服から一転、体のラインがわかる程の、魔力を纏ったというべきか、そんな黒の服で、時々赤い線が入っていた。背中からは、おぞましいほどの魔力の波動。

 

「ははは、チートめ」

 

~~時空操作、二乗停滞~~

 

さやかは、時間のさらに引き延ばす、1秒を1時間に

とはいえ、この戦法はいまだに有効なはずだ。さっきは一重停滞だったけど、しすぎるということはないだろう。

 

「っ……この……」

 

 

 

さっき開いた距離を詰めるべく、剣に魔力を込めつつ地面をける。

 

「ラアッ!!!」

 

ヒルトの翼が淡く光った。パリン、とガラスが割れるような音がして、空が割れた。

 

 違う、結界が破られた。

 

直後、経験したこともないような魔力の奔流があたしを襲い、思わず顔を覆う。

 

 そんな……ばかな!!力ずくで破ってくるなんて…

 

思えば、あたしはヒルトの力をまだまだ見誤っていた。

腕の隙間から見えるヒルトは濃密な魔力で蜃気楼が発生して、歪んで見えた。

 

「八花…とうろぉ!!」

 

全力で斬撃を放つ。大妖怪でも、全部食らえば、必死の攻撃。

 

ヒルトは腕を振るうだけでそのすべてを相殺した。 

 

 え?

 

呆ける。呆けるしかない。

だって、あれがあんなに簡単に相殺されるなんて。あり得るはずがない。

だけど、余波である強風が現実を押し付ける。

 

「あはは♪」

 

 

 

 

そこからの戦い一方的だった。

さやかの攻撃は全て、クリームヒルトに到達する前にかき消され、一方のヒルトの攻撃は面白いように当たっていく。

ヒルトは地球からの圧力も魔力の放出で全て相殺していた。

どれほど策を積み重ねても、力というなの奔流がすべてを飲み込んでいた。

 

「紫さん」

「だめよ。私では、牽制にすらならない」

 

何故、紫だけがここに出張ってきたのか。それはヒルトの出生故。ありとあらゆるものを救済するのがヒルトの目的、つまり、ヒルトはありとあらゆるものを取り込めるのだ。ヒルトがマミ達を取り込まなかったのは、ただの気まぐれである。有象無象が抵抗しようが、彼女の障害足りえない。

しかし、さやかだけは違う。さやかの因子は言わば、ヒルトという病気の特効薬なのだ。

逆を言えば、さやか以外はどんなに力になりたくても、さやか以外は指をくわえて見ているしかない。

 

円にとって、そんな経験は幾度もしてきた。

だが、己が主がここまで一方的にやられる光景は一度も見たことがなかった。

 

 

円、いや円達がここまで心折れずに頑張れたのは、ひとえにさやかがいたから。彼女さえ来てくれれば、なんとでもなる。なんだってできる。という半ば、妄信の域に入りつつある心の支えがあった。勿論、彼女たちだってさやかのお荷物にはなりたくはないとは思っているが。

そんな希望が、絶望に塗りつぶされていく。

 

ここから飛び出していきたい気持ちは、それを否定したい気持ちは彼女が一番強いのだろう。

 

「……そうじゃ、ありません」

 

そう紫は考えていた。しかし、まどかは違うことを考えていたようだ。

申し訳なさそうな目で、まどかはほむらを見る。そこで、何をするのか紫と

 

ほむらはすぐに察することができた。

 

「まどか、あなたまさか……」

「ごめんね、ほむらちゃん。わたし、魔法少女になる」

 

この世界でヒルトにダメージを与えられる存在は、さやかとみきの二人。その絶対のルールに、まどかは唯一殴り込みをかけられる存在でもあった。

 

「ダメ!そんなのだめよ!」

「わたしなら、ううん、わたししかもう“わたし”を殺せない。だから……」

「美樹さやかの気持ちは……考えないの?」

「わたしは、さやか様に仕える。その為ならこの命、惜しくない」

 

ほむらは限界まで歯を食いしばる。どうして。どうしてこうも融通が利かないのか。違うのだ。まどかが魔法少女になったらだめなのだ。

 

「わたしが魔法少女になれば、ああなるって。ほむらちゃん思ってるよね?」

 

まどかはほむらの心中を見透かしたように言葉を紡ぐ。

 

「紫さん。あなたならなんとかできますよね?」

「その程度なら、造作もないことよ」

 

紫の言葉には、確かな説得力があった。

 

 

~~美樹さやか、あなたはやり直したい、と思ったことはないの?

 

それは、興味本位から聞いたこと。

 

~~そりゃあ、いっぱいあるよ? それこそ、円が死んだ時とか。

~~でも、しなかったのよね?

~~まあね。

~~どうして?

 

同系統の能力を持つものとしては、さやかは初めての人だった。だから、逆行をしなかった理由が知りたかった、

 

~~ほむらはさ、"どこ"に住んでる?

~~?

~~初めの内は、あたしも逆行はいっぱいした。よりよい結果を求めて、ね。あ、ちなみに平行世界への逆行だから。でも、ふと気づいたんだ。あたしは“この世界”の人たちを救いたかったんじゃなかったって。あっちの世界の人たちだったって。

 

自分の為に魔法を使わない。そう公言していたのに、いつの間にか、手にした能力を自分の為に使っていた。他人の為、なんて綺麗ごとだった。

 

~~……

~~だからあたしは、その世界に“住む”ことにした。他の世界に行くことはあっても、帰ってくるのはそこにした。巻き戻したくなっても、あたしはそこに骨を埋めるって決めたんだ。世界が違えば、同じでも、赤の他人になっちゃうから。

~~………

~~ごめんごめん。ちょっと無神経だったね。

~~いいえ。そんなことはないわ。

 

「ほむらちゃん。だからね……」

 

どうして、とはほむらは尋ねられなかった。

彼女はこの世界に生きている。守るのは、当たり前の行為。ましてや、それを妨害する資格など、世界を当てもなく歩いていたほむらにあるはずもなかった。

 

「生きて帰ると、約束して……」

「うん」

 

ほむらの約束にまどかは頷き、紫によって外に出て行った。

ほむらの表情はよくわからないものになっていた。

悲しいのか悔しいのか。それとも……

 

 

 

 

「う、ぐ…」

そばに転がる蒼穹双刃を手繰り寄せ、震える足で立ち上がる。

 

「ねえどうして? もう勝敗は決まってるでしょ?」

 

わからない、といった風な顔をするクリームヒルト。しかしその暴力を弱めることはしない。

その拳をさやかの腹にめり込ませる。

 

血が吹き飛ばされた軌跡を作る。

瓦礫や破片で体が傷つく。しかし、それは損傷した内臓と共にすぐさま修復する。

星の意思がさやかの傷を治癒しているのだ。戦いを放棄することは許さないと言わんばかりに。

 

「ああそうか。それのせいか。なら……」

 

がくっ、とさやかは体が二倍近く重くなったのではないかと錯覚した。

 

「な、何をした?」

「さやかちゃんと地球とのつながりを断ち切ったの。これで超速回復はもうできない」

 

化け物め、とさやかは乾いた笑いを上げるしかなかった。

 

 どっかの誰かさんよ。さすがにこれは恨むわ~……

 

すっ、とヒルトの腕が動く。反射的にさやかも刀を交差させた。しかし、地べたに叩き付けられる結果を覆せるはずもない。

 

「がっ……!」

 

重力魔法によりさやかの周りは大きなくぼみが出来上がっていた。

 

「ねえ? これで諦めるよね? よね?」

 

軽い足取りでさやかの元に歩み寄るヒルト。その顔は笑顔を絶やさない。

 

「……」

 

さやかは無言で神力を解放。魔法を打消し、むくりと起き上がる。

 

「はっ、はっ、はっ、はっ」

「……」

 

もう立つのもやっとなのか、顔は俯いて、ヒルトの状態も確認していない。

 

「八花……t「無駄だって言ってるでしょ!!!!」」

 

ヒルトの怒声と共に、さやかの両腕が引き飛んだ。まるで最初からなかった

 

ようにごっそりと。

そしてヒルトの顔から笑顔が消えた。

 

 

さやかの首をつかみ、ギリギリと締め上げていくヒルトの表情は、懐疑だった。

 

「ねえさやかちゃん。もうわかってるよね? まだこの期に及んで勝てると思ってるとか、思ってないよね? もしかして、勇者気取ってる? 残念だけど、これが現実。さやかちゃんはわたしには絶対勝てないよ」

「……」

 

 あはは、耳が痛いわ。

 

 

 確かに、この戦力差をひっくり返すことなんて、もうあたしには無理だ。

 

でも…

 

「誰が、勝てると思ってる、って?」

 

あたしの後ろには、まどかがいる。杏子がいる。マミさんがいる。ゆまがいる。ほむらがいる。皆、誰一人としてかけてはいけない。

 

「勝たなきゃいけないから、戦ってんだ」

 

 ああそうか、これが巷でいう、“退けない”戦いってやつなんだ。わたしは“悪役”でさやかちゃんが“主人公”。

 

 

 とてもとっても、

 

 

 

 滑稽だね

 

 

「みき。あんたは、逃げて」

「な、何いってるのよ! できるわけないでしょ!」

 

 あれ? いつの間にか愛しの恋人がいる。注意しないとね♪

 

ヒルトがみきに微笑む。すると、みきは面白いように顔が青白くなり、言葉の一つも絞り出せなくなってしまう。それほどまで、みきの心に恐怖が刻まれていた。

 

「もういいや」

 

ヒルトは首からさやかの顔に持ち替え、そして幾多もの触手で胴を貫いた。

 

ヒルトの手から鮮血がこぼれ出る。

 

「あ……」

「死んじゃえ」

 

さやかの顔をつぶすため、ヒルトは万力の力を込めて指に力を込めた。

 

 

ドシュッ

 

 ドシュッ?

 わたしはさやかちゃんの顔を握りつぶした。だったら、もっとグシャッって音がするはずなのに。

 

ヒルトはもう一度指に力を入れる。しかし、握力が全く失われていたことに

 

新たに気づく。

そして、ようやくヒルトは気づく。自分の腕に桃色の矢が刺さっていることに。

 

「あ、あああああああああ!!!」

 

みっともなく、ヒルトは悲鳴を上げる。

 

 だ、誰が、一体誰が!?

 

ヒルトは最強であった。まともな怪我など、一度も経験したことがなかった。それ故に、痛みに慣れていなかったのだ。

 

「うるさい。喋るな」

 

続けて、怪我で動転しているヒルトに、三本の矢が飛来した。親の仇と言わんばかりに、すべて顔面ヘ。

パタン、とヒルトはあまりに小さい音を出して倒れた。

 

「さやか様!!」

 

矢を放ったまどかは優しくさやかを支える。さやかは薄れそうになる意識を繋ぎ止める。体がぐちゃぐちゃになろうとも、人外というのはやはり総じてなかなかしぶといものなのだ。強ければ例え、体がいくらやられようとも、完全に抹消されるぐらいまでやらなければ、復活できるほど。

 

「まどか……しちゃったんだ」

 

溢れんばかりの魔力の奔流を直に感じたさやか。混濁した瞳のなかに、確かに悔恨に色が宿っているのを、まどかは視認した。

 

「はい。ですから、今はゆっくり休んでください」

 

いまだに震えて何もできないみきを責めることはせず、静かにその腕にさやかを横たえた。

 

「大丈夫。大丈夫だから。後はわたしが何とかする。だからそれまで、さや

 

か様を安全な所、紫さんの元に」

 

ぶるぶるとみっともなく震えているみきはコクコクと頷き、大事そうにさやかを抱え、紫のスキマに消えていった。

 

 

「どういう、ことなのかなぁ?」

 

むくりと、顔を俯かせたままヒルトは立ち上がる。力任せに貫通した矢を抜き、放り捨てる。ぐちゃぐちゃになった顔だが、その表情は確かに、攻撃さ

 

れたことへの憤怒の色があった。

 

「選手交代だよ。ここからはわたしが相手」

 

右手に矢を作りながら、まどかは己の願いを口にした。

 

「あなた(魔女)を、救う」

 

 

 

 

「ぐはっ! げほっ!」

 

スキマに戻った途端、さやかは大量の血を吐きだした。

満身創痍のさやかに呆けていたマミとゆまは慌てて回復魔法をかけ始める。

 

「まだ、行けるかしら?」

「あったり、前でしょ」

 

ひとしきり血を出し切った後、さやかは顔を上げる。混濁した瞳の色はもうなく、あるのは燃えたぎる闘志のみ。

 

「勝算は?」

「ぐんと上がった」

 

青く燃え盛る双剣を広げながら、彼女は再び戦場へと歩を進める。

 

「やっぱり、まどかだけじゃだめなのか?」

「……うん。まどかがあいつに食い下がれるのは確かだけど、倒せる確証は

 

ない」

 

クリームヒルトとなったまどかにどれほどの因果が巻き付いているか、それはほむらがどれだけループしたかによる。

 

クリームヒルトの元となったまどかが10週以上の可能性も無きにしも非ずなのだ。

 

「そんな、じゃあ、どうやって」

「あたしなら、できる」

 

マミの弱音を、さやかは優しく遮った。

 

「見せてあげるよ。あたしのとっておきの、正真正銘最後の奥の手を」

 

 

 

 

さやかを完全に手玉に取っていたヒルト。しかし、驚くべきことに、戦局は

 

一変してまどかが押していた。

 

「おおおお!!」

 

魔力を収束させた右腕をヒルトは飛来する矢に”態々”叩き付ける。捻った体を戻すついでに左手で放たれた札を”態々”叩き落とす。否、そうしなければならない。

 

さやかの攻撃と違うところ。それは、ヒルトの魔力障壁を軽々と貫通してくるところである。

 

まどかの祈りは、「ヒルトの救済」。故に、彼女は魔女に対しては無類の強さを誇るのだ。たとえそれが、世界を滅ぼせる存在でも。

 

しかし、ヒルトも負けてはいない。まどかの攻撃はヒルトにとって一撃必殺の効果を持つが、それを持ち前の魔力で無理やり相殺しているのだ。

 

ヒルトは振った腕の勢いを殺さずに、そのまま地面を蹴る。

 

相対するまどかはそのまま、落ち着いて繰り出される拳をいなす。

 

 かかった!

 

拳がふれたその瞬間、腕に取り巻く魔力が自立してまどかに襲い掛かった。

 

まどかに、避ける術も時間もない。

 

バチチチチッ

 

腕は見えない何かと火花を散らし、軌道を反らされた。

 

「え?」

 

まどかは流れるように右足をヒルトの足元に叩き付け、その衝撃を余すことなく腕に凝縮。ヒルトの胸で爆発させた。

声も出せずに吹っ飛ぶヒルト。その胸で、ついでと言わんばかりにまどかが張り付けた札が爆散した。

 

「それは、もう見た」

 

食えない人だな、とまどかは心中で紫の評価をますます上げていた。

さやかの戦闘を私達に見せていたのもおそらく、これを見越してのこと。対抗できる駒を野放しにはしない。考えなしにヒルトが技をぶっぱなしていた

 

おかげで、さっきのように対策もいくつかは立てることができた。

 

行ける

 

当たらなければどうということはない。焦らなければ、勝機はきっと掴める。

 

「あはは~。こりゃすごいね。まどか」

 

突如現れた気配に振り返るなどという愚行はせず、声だけで語りかける。

 

「お怪我はもういいんですか、さやか様?」

「もち、それよりも……、奴さん。ついに本性あらわすよ」

 

 

 

――ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!――

 

 

ヒルトの背中から大量の触手が突き破り、まどかを覆いつくし、肥大化していく。

 

 

 

「あ、あ……」

「こんなことって……」

「これが……」

 

 

生存願望すら奪い去る、その姿。

漆黒の全てを呑み込む太陽。

地球の約半分はあろうかという、その大きさ。

 

正しく、最凶の魔女。

 

「そんな…」

 

まどかもその存在に圧倒されていた。そして、勝機もほぼなくなってしまったことも悟ってしまった。

いくらまどかの攻撃が効くと言っても、今のヒルトにとって、まどかの攻撃は針で刺されるかそれ以下のものでしかなくなっていた。この大きさになっ

 

てしまったならば、グリーフシードを壊すしかないのだが、それをさせるほどヒルトは甘くは無いだろう。

 

 

「アハハハハ!! モウコレデダレモジャマデキナイ!! コレデオワリダヨサヤカチャン!!」

「そうだな……確かに終わりだ」

 

 

 

 

皆が慄いているなか、その姿を目にしてもなお、さやかは自然体。

 

「大丈夫」

「え?」

 

 

「"これ"を全力で放てる機会など、もうこないであろう」

 

『さやか。結界の展開完了したよ!』

 

 

そこでようやく、まどかは気づいた。まるでエンジンが高速回転しているかのような音を出して、蒼穹双刃が一方は輝き、一方は見えなくなっているのを。そして、いつの間にか結界が張りなおされていることに。

 

 

「まどか!」

「っはい!」

 

言われなくとも、してほしいことはわかった。

まどかは、さやかの背に手を当て、魔力を送る。

 

 

さやかが"これ"を撃つ為には三つの条件があった。

 

一つは場所。

これは魔女の結界でクリア。

一つは力。

これも星からのバックアップてクリア。

最後に、時間。

こればかりは、ヒルトが自ら隙をつくらなければ無理であった。何しろ、これを出すときは、時間加速などのする余裕は全くなくなる。

しかし、ヒルトはさやかに時間を与えすぎたのだ。彼女はまどかが真の姿になる時に、多大な隙が出来ると読んでいた。

そして、僥倖なことにまどかはヒルトに対して有効な打撃を与えられる。つまり、まどかと一緒に“これ”を放てば、いかなる魔女でも大打撃は免れない。

 

「知っているか? 時間と空間とは元は一つ。それが137億年前分離し、宇宙を形作った。そして宇宙は今も広がり続けている」

 

 

あれは駄目だ。撃たせてはいけない。

 

 

ヒルトの腕が伸びる。

その腕も山のように巨大で、崩壊の力がさやかに迫るが彼女は避けない。

 

 

「汝が世界を滅ぼす力でもって、受けてみよ。これが世界を創った奇蹟だ!!!」

 

 

――原初「ビッグバン」――

 

 

 

 

世界が、はじまった。

 

 

 

 

 

 

「はっ、はっ、はっ、はっ」

 

パキイン

 

威力に耐えきれず、魔女の結界が破れる。

最凶の魔女は消えていた。

 

「さやか様!?」

「よい。汝が受ける傷ではない」

 

しかし、あれだけの威力にリスクが無いわけがない。そして彼女はまどかが受けるリスクも全て背負い込んだ。

現に、さやかの体は至るところから血が出て、マントも消し飛び、左腕は肩から先が無くなっていた。

 

 

そして

 

パキッ

 

軽い音をたてて蒼穹双刃は砕け散った。

 

今までありがとうと感謝の念を込めた後、爆心地に歩き出す。

 

中心には、ヒルトが横たわっていた。

 

 

「あはは、負けちゃった」

「そうじゃな。汝は這いつくばり、余はたっている」

「何あれ? わたしを消し飛ばすなんて、どんなチート?」

「上には上がいる。それだけよ」

 

例えばあいつとかこいつとかあいつとか。

 

 

「ねえ……どうして、"さやかちゃん"は人に絶望しなかったのかな?」

「さてな……。だが、これだけは言える。世の中には絶望しか無いわけではない。同じぐらい、希望に満ち溢れている」

 

 

――ねえさやかちゃん

――うん?

――さやかちゃんはどうして人を助けるの?

――また藪から棒に。どうしてって言われても……っと、はい。

――ありがとうおねえちゃん!!

――もう無くすなよ~。……ああいった笑顔が見れるから、かな。

――?

――だからさあ、……そういうことなの!!

 

 

ああ、そういうことか。

 

「ははは」

 

答えはわかった。

 

「仮初め、だったのかな」

 

急速に、ヒルトの存在が小さくなっている。

 

自分の願いの矛盾に気づく。それは自己否定に他ならなかった。

 

 

「仮初めではない。汝によって幸福になれた者も事実いるだろう。だが、全ての民が汝を必要としていたわけではない」

「……なに、それ」

「余は否定がえらく不得意でな。今回においても、ただ汝の思想を打ち破っただけ、としか思えん」

 

ヒルトはポカンとする。

 

「変なの……」

「次があれば、これを教訓にせよ。さすれば汝は……」

「こんなわたしに、次があればね」

 

 

こうして、最凶の魔女クリームヒルトグレートヒェンは終わりを迎えた。

 


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